私の部屋、ゲストと二人で喋る場所。

正確には、貴族がこの書庫という屋敷に来た際に執務を執り行うために用意された部屋。

それも今はイーリンの自室となっている。
といっても内装は殆どいじっておらず、書斎机と来客用のソファとローテーブル。本棚と唯一追加されただろうベッド。効率を重視する彼女にとって、ワンルームマンションのようになっているのだ。

おそらく、彼女自身が掃除しているのではない。そう思える小綺麗な部屋。貴方を迎えたのはそういう部屋だ。

（とんとんと、ドアを叩いて）司書殿いるー。私レイリー。時間合ったから遊びにきちゃったー（ドア越しに声をかける）

はーあーい、どうぞ、好きに入りなさいな（声だけ出すと、果ての迷宮とシュペルタワーの資料を脇にどける）

おじゃまします。ケーキ持ってきたから一緒に食べましょうよ（と、バームクーヘンを持ってきて勝手に広げようとして……どけた資料が軽く見える）
あら、これは、迷宮のやつ？

あら嬉しい。おやつの時間には丁度いいし、暑いし、甘いものはいくらあってもいいわ
（ティーポットから冷めた紅茶を二人分注ぎながら）

そ、とりあえず第一階層を突破した連中に関してと、あとは傾向と対策というか。主に果ての迷宮に類似物が存在したから、それが何を意味するかとか、色々？

じゃあ、私はケーキの方を分けるわね。（そうして、お皿を取り出し、ケーキをナイフで分けて切り分ける）

そうねー。と、いってもシュペル殿って多分階層ごとに傾向とか気分で分けてもおかしくなさそうなのよねー。

ありがと。

当然ルール設定は向こうがするでしょう。けれど、それはあくまで迷宮という設定の範囲内での出来事よ。
アレは神に等しい造物主的存在であったとしても。人格のある個人でもある。
だから、絶対に「クセ」が出るはずなのよ。それを見抜けたとしても、それを潰すだけの能力が合ったとしても。一度ならどうにかなるかもしれないからね
（そう言ってティーカップをレイリーに差し出す）

（紅茶を一口飲んで）
確かに癖はありえるのかなぁ。そして、それが果ての迷宮にもかかわっているなら調べても……意味のある者だと思うけど（といいながら、1枚資料を取って眺めるが、やっぱりぴんと来ない）

（レイリーが飲んでから自分も紅茶を一口）
クセのない人間なんて居ないからね。もっとも、与えられた情報から心理状態を分析するには、あまりにも余白が足りない状況だけど。シュペルのタワーは。
まぁだから、今はひらめきがあることを信じて、脳髄に流し込んでるわけ。

（その話を聞いて、ひらめきと知識って関係あるのかなぁと考えて、一つきいた話を思い出して）
司書殿のあの閃きって、いわゆる「勘」みたいなものなの？ギフトって聞いてたから脈略のないものだと思ってたけど。

んー？
ああ、あれは本来私の世界の神が信者に与える加護の一つなのよ
「己の未知の存在と遭遇した時、それを既知にし、正しい情報を得る」
っていうね？
だから本来、その事象と遭遇しただけで正しい見解を得ることができるのよ。よって、私の「ギフト」はその著しい劣化版。強いて言うなら「正しい勘が発動した」ってわかるに等しいわ。

なにそれー！元々はやっぱり脈略のないものだったのね。そんなのだったら、未知のものなんてなくなるしはるかに強いわよね。

……つまり、ちゃんと前提知識や経験がどこかにあればそれを結論まで持って行けるってやつなのねー！私も欲しいわよ、ほんと（と言って紅茶を飲んで少し落ち着ける）

制限もあるのよ、一日一回っていうね？
だから、自分の知らないものを毎日一つ探す、という感覚だから。それはとても楽しかった。知識の探究心を常に刺激するための加護だったのよ。

（ケーキに手を付けながら）
そ、でも前提知識や経験があれば、あるべき結論を導き出せるのって至極当然のことでしょう？
あんまりうらやましがるようなものではないわ。どちらかというと、役に立たないに類するギフトよ。

だから、今でも何があるか分からない場所を好んで、代表的なものが果ての迷宮なのねー。確かにあそこって何が起きるか分からないけど。

私はそうとは思わないけどね。
知識や経験があってもそれをその場の正解に持って行けなければ意味がないもの。それも一瞬でそれを判断するなんて普通の人は出来ない……それが出来る人は達人っていうのよ！

それに私とアトが迷宮に飢えていたという期間が長かったからね。
どうしてもあそこは夢を見てしまうわ。未知という夢をね。

そう言ってくれると嬉しいけど、なぁに。やたら褒めるじゃない今日は（ケーキおいしい、と言ってから手を組んで）

司書殿はもう少し褒められるべきなのよ、そのぐらいのことはやっているわけだし

ねぇ、なんでそこまでやるの？

（はて、と首をかしげる）

なんでそこまでやるのって。
「みんなそのくらいやってる」と思うのだけど、違う？

だったら、騎兵隊みたいな組織は他にも出来てるし、勇者だってまぁ、シラス殿は同じかもっとやってるけど、もっとハイレベルの争いになってるわよ。

そのあたり、貴女はどうみてもイレギュラーズでも普通じゃないのよ。

そう言われても、騎兵隊のようなチームで進出する団体は他にも居るし。
勇者はシラスやベネディクトという私の上位互換が居る。
各国には私より上の連中はゴロゴロいるし、因縁（メインストリーム）深い連中も多い。

私がイレギュラーズの中でイレギュラーな要因があるのか、といわれれば、なかなか難しい問いになるわね。
いや、だからこそか。凡人の私がなんで頑張る必要があるの？って感じ？

うーん、どうみても凡人と言える行動力じゃないんだよなぁ。
特に騎兵隊に並ぶ、戦争ごとに結成される隊は現状見当たらないし、それを、しっかり意見を抽出して、作戦を立てて、各個人の行動を管理してって……司書殿、明らかに貴女イレギュラーよ。そこまでやる人はいないわ！

そこまで褒められるとくすぐったいわよ。

でも、まぁ。そうね。騎兵隊が伝説と呼ばれてしまった以上、それを並と答えるのは隊員にも失礼でしょう。
そうね……なぜ私がここまでやるのかと言われれば、モチベーションがいくつかある……のだけど。それも、言ってしまえば何もしなくても手に入るとわかっているのだから、わざわざ動く必要がないのよね。
「元の世界に戻りたいから」
頑張っているとも言えるし
「私がやりたいと望んでいる」
とも言えるのよ。
……それだけかと言われれば、そうねと言ってしまうくらい確かに弱いモチベーションだわ。

褒めているのも半分ぐらいなんだけど、自覚しなさいってのがもう半分だし。

やりたい、戻りたいってのは十分なモチベーションだと思うよ。
でも、個人的に元の世界に戻るだけならそれこそ身軽な立場の方がいいと思うんだけど。
勇者とか騎兵隊隊長とかの肩書、この場合は期待か……重くならない？

（んー、と首を傾げて）

言われてみれば、その通りかもね。
私は、捨てる前提で勇者の立場や期待、あるいはこの世界の友人知人を受け止めているから。それにはこの世界にいる私という存在も、もしかしたら捨てても大丈夫と思っているのかもしれないわねぇ。
（他人事のように、少しぼけっと宙を見てそう述べてから）

……ウィズィはね、私に希望を持たせてはくれた。けど私には多分、それは眩しすぎるのよねぇ。元の世界に帰って、死にかけてた私の仲間を救うなんて。

（いなくなることは決めてるのねー、って思いながら）
ある意味責任は最後まで持てないから、やれるってことねー。

元の世界に帰ってやることって、そのあなたの仲間を助ける事なの？それが司書殿に出来ないなんて、凄い難関なんだろうけど

（紅茶をまた一口）
それもわからない、今まで言ってしまえば私、責任なんてとったことがないから。
いつだってそうよ、私は責任や結論を出さないで過ごしてきたわ。
その罰なのかしらね、私の元の世界では……リソースをほぼ全て失って、敵地のど真ん中で孤立して、自分たちを保護する味方は誰も居ない。
唯一の方法は、敵地のど真ん中の更に奥にある、目標の神器の奪還。
誰も口には出さないけれど、絶望的なあの状況……あの時に世界をまたいで戻ってきたら。
私は一体どうなるのか。

それって、かなり絶望的ねー……あなた、それでも戻るつもり？多分、この世界に来たのは偶発的なものなんでしょ。
（そんなことを言うと、ケーキを一口食べる）
そんなところに戻らないわよ、死にたくないもの

そりゃあ、だって。
その状況に持ち込んだのは、私のせいだもの。

責任、取らなきゃね……（ふっと、鼻で笑ってから）

だから、この世界に最初偶然飛ばされてきたときは、一度何もかも忘れようと思ったわ。
この世界なら、手を血に汚さず、只人として生きていけるんじゃないかって。
そんな期待も、最初の依頼で潰されたわけだけどね。トマトみたいに、真っ赤に。

つまり、貴女の取る責任はその元の世界にあるってことね。だから、この世界で責任を取るわけには行かないかぁ。

最初の依頼で何があったのよ。普通の護衛以来や討伐依頼じゃないんでしょ、その口ぶりだと

それこそ、今頑張ってる私という存在がある意味夢みたいに感じられるわよ。
終わるはずのものが終わらず、変な世界に飛ばされて、そこでまた生きてるんだから。
だから、夢だったら……私の好きに生きようと思うでしょう。
……にしては働きすぎかしら。

ああ、最初の依頼はね……殺しだったわ。
その後もね、子供殺したり、あれやこれや、ほんとに……殺しまくったわ（くすくすと、疲れたように笑って）

働きすぎというか、それを好きにやっているならいいけどねー。
力尽きる前に休みなさい、そして、誰かに甘えなさい。貴女疲れてるでしょ。

わからない、私は私の意思で動いてると思う。
けど、最近そうでない何かを感じることもある。
それは死んだ人間の言葉だったり。あるいは懐古や慙愧の念。悔恨。
そうね……自分が無条件でで愛されているという確信のない子供。あるいは、不用意に積み上げてしまった実績。
必要なものは捨てるという覚悟が足りなくなっているのかもしれない。

……もしかしたら、私じゃない誰かの声に従っていたりするのかもね。時々。

それは……（その声を自分は知っている。そこから目を背けて逃げて来たから）
私もそれは聞こえるわ。私を殺す呪い、助けられなかった呪い
私達はそんな声を聞いて行動しているのかもしれないね。

でもさ、それを捨てて逃げるのは……いけないと思うよ

どうして？　どんな形であれ、目の前の障害を突破するために、必要なら捨てられるものがあるというのなら。捨てるべきじゃない？
私が前に進むために、努力を続けるために、捨てれば良いものがあるっていうのなら。それを捨てるのは悪いことではないと思うわ？

実際、捨てなくちゃいけないことはあるよ！

でも、それでも、捨てることがいいと思えないよ、司書殿。
捨てなくちゃいけないならねー

誰かに任せられそうなら、任せるって選択肢ももしかしたらあるかもよ

って、私はいつも大体そういうの司書殿とかに投げてるけど

わからないわね……。
私は止まらないために捨てられるものは捨てるべきだと思うけど。
……私が他人に公平なのは本当に、そういうところで捨てるという選択肢が常にあるから。私が心配されるのは、捨てるものの中に自分の命さえ含まれているからと思われているかもしれない。
ああ、そうね。自分の命くらいは、自由にできると思っているのかもね。

そうねー、見ていて不安になるよ。司書殿が自分なら犠牲になるのが楽って思ってるようには私も見えるからね。

捨てられるものを司書殿は捨てて自分を傷つけてない？

そりゃ傷つくでしょ。この場合の捨てるっていうのは、経験や思い出。自分に癒着するようななにかだからね。
それってつまり、自分の一部を捨てていくことじゃない？
痛いし、血も出るわよ。

でしょー！なら、それはできるだけやめなさいよ！
それを捨てる前に誰が頼りなさい、任せなさい。
貴女の周りには貴女を助けてくれるものが沢山いるって、前の戦争で分かったでしょ

そうしなきゃ貴女は殉死するわ。見てられないし、悲しむ人も沢山出るわ

（うーん、と唸る。納得はしているようだが、同時に自分のことを他人事のように考えているのが見て取れる。多分、この女は、自分を一つのリソースとしか見ていないフシがある。オンになっているときは、きっとそうなのだろう）

その通りではある。
死ねば楽になれると思う節はある。
でも、死ぬのだけは死んでもゴメンなのよね。
どうしてかしら……。

それは元の世界で戻ると決めてるからでしょ。それが自分の責任だと思ってるから

だから、この世界では責任を持てないし好きにやってるって言ってたじゃない。

――そうね。そういえば、そうだった（お茶を飲んで、ため息をつく）

……名前を覚えているうちに、ちゃんと帰りたいわね。

（それを聞いてため息をつく）
以前の私だったら、そうなったら、貴女を護るために私もついていくわって言ったかもねー。自分を誰も知らない所なんて死地に最適だもの。

でも、私も貴女も捨てられないものあるし、悲しませたくない人もいるでしょ
出来るだけ自分を捨てないようにしましょうよ

わからない。
自分がその時になったら、何をするかなんてさっぱりね。
私は貴方を裏切らないとか、私は貴方を見捨てないとか、私は貴方を置いていかないとか。
……私には無責任すぎるもの

そんなものでしょ。もしかしたら、私が魔種になったり、魔種の味方になる未来はあるかもよ
この世界どんなことが起るか分からないわ
（紅茶を飲んで一息つく）

結局、私はいつでも捨てられる準備をしておかないと落ち着かないし、それに対する罪悪感も覚えているし、捨てたくないという意思もあって。
困ったものだわ、ワガママがすぎる。

……もうすぐ日が暮れるわね。どこか食べに行く？

いいじゃない、わがままで。私はそんなわがままに友人？親友でいい？付き合ってあげるから。
困ったことあったら言いなさい、出来る事なら助けるわよ。

えぇ、行きましょう。美味しいお酒が出るところあるのよ。

（紅茶を飲み干してから）
親友ってなると私の相手はなかなか大変よ？
よく考えたほうが良いわ。

ふふ、じゃあ今日は酒メインでいきましょうか、よろしく頼むわ
（そう言って立ち上がる）

大丈夫大丈夫、すくなくとも2年間付き合って色々あって楽しかったから、
もっと面白いことがあるってことでしょ、望む事よ。

えぇ、じゃあ案内するわねー
（そう言って、残ったケーキを食べると立ち上がる）

人が色々言ったのに、やっぱり鉄帝人は気楽ねぇそういうところ。
ま、いいけど。
案内よろしく（そう言って一緒に部屋を出ていく）