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文化保存ギルド

【アフターコンタクト】ある夜の出来事2

●イントロダクション

 その夜、貴方がその店を訪れたのは、ある女に招待されたからだった。ある女、というのは語弊がある言い方かもしれない。なぜなら、少なくとも死線を一度は一緒に潜った仲なのだから。
 死線というにはあまりに圧勝だったのではないだろうか。
 銃身が焼き付くことさえ無い圧倒的な補給と破壊、先陣を切る人間さえ重傷を負わない圧勝。
 それが死線?
 そんな疑問も持つかも知れない。貴方がそんな疑問を抱いたのは、もしかしたら――王都の中心街付近にある、三階の、少し見晴らしのいい――おまけに店のドアを開ける前に、向こうから開けてくるような――一見さんお断りではないのか、と思うほどに、小洒落たバーに案内されたからかもしれない。
 その中の窓際、しかも個室に案内されたところで。存外、質素なローブに身を包んだ紫髪の女が、へらへらと手を振った。


【状況】
・ヴィーグリーズ会戦にて「騎戦の勇者率」率いる「騎兵隊」は記録的大勝利を収めました
・貴方は「伝説の大軍勢」である「騎兵隊」に参戦しました
・今夜のバーは「バイト代」です
・バーは眺めが良いですし、綺麗ですし、頼めばだいたい何でも出てきます。王都で個室で窓際ということで、にぎやかな大通りが見られます。

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「うーい、なぁにこんな小洒落た所に呼び出してぇ」
 修道服に身を包んだ女が扉を開け、笑う貴女に釣られて口端を上げる。昨日の会戦絡みで何かあって呼び出されたのかと思ったのだが。想定より煌びやかな場所に呼び出されたものだと部屋の中へ入るだろう。
「いらっしゃい。なに、貴方が皿洗いを頑張ってくれたから、そのバイト代をって思ってね。好きに飲み食いしていいわよ。」
 ほら、と向かいの席をすすめてから。煙草を一本咥える。吸うでしょ、と少女そのものの姿のままで、子供が伺いを立てるような上目遣いで確認してくる。
「あん? 対価は金で受け取った筈だが……まぁここまで来たんだしお言葉に甘えときましょうか」
 椅子を引き、席に着いて前を向けば彼女が煙草を咥えている。相も変わらず少女の見た目から想像しにくい光景だと思う。口にはしないが。
「おう、悪いわね」
 同じくケースから取り出し、咥えて火を灯す。紫煙たゆたう空間の中、改めて彼女の顔に視線を移し。
「お疲れさん、大将」
 悪戯めいた笑顔で言葉を投げかけるだろう。
「まぁそれとは別よ、初陣にしては上出来だったからね。その大将からのねぎらいだと思って頂戴?」
 一緒に煙草を吸い、遠慮なく、普段は魔力に乗せて人にぶつからないように換気扇に流す煙を大きく吐く。煙越し、少しムーディーな暗さの店の中でも彼女の瞳は宝石のように輝いている。

「あらためて、お疲れ様、皿洗い担当さん?」
 冗談めかしてそう返すと。少しだけ真面目なトーンで
「どうだったかしら、初めての騎兵隊は」
 と少し身を乗り出す。
「あんだけの人数を捌いて乗り越えたんだ、満点じゃねぇの?」
 椅子の背もたれに腕と体重をかけて足を組む。格調高い店でもお構い無しに粗野なのは最早変わることは無いのだろう。

「あいよ、随分と派手な皿洗いだったわ」
 吐き出した煙の先、薄れて尚輝く眼をしている貴女お視線を交じわせて。
「戦いやすいかどうかで言いやぁ思ったよりやりやすかったわね」
 チームで他人と組むことはあれど、即席故の連携の解れ等が見れなかった。人数が増えればそれだけリスクを負うにも関わらずにだ。
 短い相談の中で自ら動き、鼓舞で高めた士気をそのまま陣頭まで持ってこれた事はとても大きい。だから投げかける言葉は……
「敵にゃ回したくねぇな。回したくねぇ」
 お客様として、傭兵として最大限の賛辞としよう。
「満点ほしければあの状況でMVPにでも選ばれることね。私的には60点ってところかしら」
 割と厳し目な採点なのは、ある意味公平なのかそれとも意地悪なのか。多分前者なのだろう、ここで胡麻を擂ったところで意味はないのだから。

「あら、嬉しい。やりやすいと思ってもらえるのが本当に一番うれしいわ」
 最初に出た感想がそれだと、テーブルに胸が乗るほど前のめりになって食いつく。
「なにせねぇ、元々がちょっとした仲間の集まりで、少しでも自分たちを強く運用するために編み出したものだから。右も左も分からない状態から、こうしてやりやすかったっていうのは本当に嬉しい」
 そう言って煙草を灰皿に一旦置くとベルを鳴らし。

「そして、貴方が敵に回したくないと思ってくれているなら。それは何よりも頼もしいわね」
 最大の賛辞をあっさりと受け止めると。来たボーイに「何かお祝いに使える一杯目を最初にお願い」と雑な注文をして、あとは肉類とか、ガッツリしたやつと更に雑な注文が続く。粗野なのはどっちもどっちなのかもしれない。
「ハァン、自分に厳しいこって。ま、下を見て満足するような奴でも無いわね」
 そんな者ならば、ここまで規模は大きくなっては無いだろうとどこかで考え。

「それをよくこんなデケェ規模にまでしたもんねぇ」
 8〜10人でチームを組むことはあれど、騎兵隊として一個のチームとなるのはイレギュラーズという存在の中では珍しいのでは無いかと仕事がし。

「ま、そりゃこんなガチガチで固めた集団の相手なんざ誰も相手取りたくねぇわな」
 注文の仕方に思わず笑みを隠せずに。
「なぁに、他に食べたい物でもあった?」
 注文の仕方で笑ったのをみて、ボーイに気にせずに適当にと言って見送り。

「自分にも厳しいけど、貴方にも厳しいわよ? 下を見ていたら、いろんなものに掬われるしね……貴方にも経験あるんじゃない? ちょっとした情とかをわかせた結果、手痛いしっぺ返しを食らうとか……あとはそうねぇ、こんなにでかくなるっていうのは本当に思わなかった」
 懐かしむように言いながら吸いかけだったタバコをまた手にとって。

「ここまでガチガチになるほうが珍しいのだけどね。そう、ガチガチに【なった】と形容すべきだわ。けれど、貴方も【やりやすかった】と言ってくれるように、ガチガチなのはあくまで、作戦の中枢とその連携を望む者だけなのよ。火力支援、回復支援がしたい、とりあえず暴れていればいい。こういう仕事がしたい。そういうったことに対して、騎兵隊はあまり否定したりしない。敷居は低く、同時に安心感のある土台を。初心者から熟練者まで、満足頂けるのが騎兵隊というわけ――そして、それを可能にしてきたのが、まぁ、良縁とそして実績ってところかしら。ローレットの【騎兵隊】貴方だって『やる気のある新人が大規模戦に迷ったら進めたくなる』んじゃない?」
 饒舌に、煙の間に、酒も入っていないのに自画自賛――のように見えるが、違うとすぐにわかるか、あるいは察してくれるだろう。彼女が述べているのは事実と、それから僅かばかりのジョークだと。
「んにゃ、随分と頼み方が大雑把だなと思っただけよ」
 ボーイの背を何となしに見送りながら。

「オイオイ、アタシゃくれるもんさえくれれば忠実な駒だぜぇ? 少しは甘く見てほしいもんだ」
 口元だけで微笑みを作りうそぶけば。
「まぁ、情がなんちゃらっつーのはわからねぇでもねぇけどな」
 イレギュラーズ以前の事なのか今の事なのか、匂わせるだけ匂わせて語りはしない。

「その方針でガチってんだからやべーつってんのよ。良縁はともかく、普通ならそんな集団なら空中分解するもんだろ。今回のように大目標が定まってたり、心根……は何考えてるかわからねぇが同じほうを向いている奴等が多かったとはいえな」
 最後の一言に対してはニヤリと笑みを浮かべ。
「さぁどうだかな。きっつい皿洗いだし新人には辛いぞなんて言っちまうかもしんねぇわ」
(くっくっくと、匂わせたり、大雑把だと言われたりというのに楽しそうに笑って)

「まあねぇ、空中分解前提でいるからこそ、案外飛んでいられるのかも知れないわよ。飛ぼう飛ぼうと補強していたら、羽は重くなっちゃう。翼を軽くするために、私達はいつでも出ていけるし、いつでも戻ってこれる。そうありたいのが私の願い。だからたまたま……今回は羽が多かったのかもね?」

「えー、やだきびしいー」
冗談めかして、皿洗いは辛いの発言に笑って。
そういった頃に祝杯のシャンパンと、エビとオイルサーディンのカナッペが運ばれてくる。

「それじゃ、いっとく?」
「変わった女だ。ま、そういう集団もおもしれぇ」
「来たな」と運ばれてくる料理とグラスを眺める。今日も生き残れた。明日はわからないが死なない為に全力を尽くすのはいつの日も変わらない。

「ハンッ! これでも甘く言ったつもりだよ」
 シャンパンの注がれたグラスを持って貴女を見る。

「あぁ、乾杯」
 差し出すグラスはシュワシュワと炭酸が抜ける音がする。皿洗いしただけの身にとっては些か恐縮する褒美だが。
たまには悪くない
「そりゃまぁ、見ての通り皿洗いをバーに誘うくらいには変わった女ですし?」
 今を楽しむ。今を生きる。そのためにコルネリアをこの場に誘ったのは間違いがなくて。シャンパンの匂いをすんすんと少し嗅いで、面白そうに眺めた後。

「ええ、乾杯。素敵なシスターさんの出会いと、今回の勝利に」
 茶目っ気たっぷりにウィンクして、軽くコルネリアに向けてグラスを掲げた
「テメェで言ってりゃ世話ねぇや。嫌いじゃねぇがな」
 この場に合うか合わないかはもうどうでもいい。今が楽しいならそれで良いのだ。

「んじゃ、アタシは素敵な上司さんとの出会いってとこかね」
 ククク……とイタズラめいた笑みを浮かべつつグラスに口をつける

「……ほぉん、やっぱ良い酒なんかねこりゃ」
 安酒を煽ってばかりいるコルネリアからすればこの酒の……否、この席に出てくる料理の価値等測りかねる物。ゆらゆらと揺らすワイングラスを眺めながらなんとなしに。
ぐっとグラスのシャンパンを一口煽る。それからううん、と目を細めて

「シスターの上司は神様でしょ。まぁ私は元々司祭だから、あなたが司祭より階位が低いなら上司ということになるかもね?」

冗談めかしてから味は……と小さくぼやく。
目を細めて、鼻から抜ける香りを楽しむような素振りを見せて

「……ちょっと辛口。香りはちょっとだけバニラを感じるわね。フルーツの主張が強いけど、後味は調和が取れてまろやかな感じ……。あー、うん、これ割と高いやつだわ」
 そのままグラスをおかずにカナッペを1つ掴んでもしゃっと一口。そうしたらはっと顔を上げて。
「あ、うん! やっぱりこっちとセットで食べるようになってるわね。エビの甘みと混ざると丁度いい感じに私は感じる。やっぱりちゃんと考えられてるのねぇ……」
と、そこまで言ってから、頬を赤くする。
解説のつもりが、どう見ても初めて食べた、ド素人丸出しであることに。
「神さんが上司ねぇ……なんもしてくれねぇ上司なんざ居てもなぁ」
 ユラユラとグラスを揺らしながら口をすぼめて子供のわがままを言うかのように。

「司祭様、ならアタシより上だ上、ちゃんとした教会に配属されたわけでもねぇからいっちゃん下の立場なんだろうけど」
 コルネリアはシスターでありその役割も理解はしているが、同時に傭兵でもある。修道女としての仕事は数えるぐらいにしか経験がないのだ。

「…………初めて食べた?」
 ニヤニヤとイーリンの顔を覗き込みながら
覗き込まれると、困ったように少し頬を赤くしたまま。
戦場や仕事の最中では見られない、子供のような仕草で見つめ返し。

「……だって、ここで一番いいの頼むのは初めてだもの」
そう言ってからカナッペを一つ手に取り。ずいずいっとお返しのようにコルネリアに突き出す

「ほら、それじゃあ貴方も食べてみなさいよ。上司命令で私より上手い感想が出てこないと許さないわよ?」
そうして二人がやあやあと言ってる間に、次の料理も運ばれてくるだろう。
「随分と可愛いとこあるじゃないの。戦場で立ってる時とは別人みたい」
照れている彼女を見ていると、真剣な時とのギャップがわかりやすく見えて微笑ましくなる。

「……どれどれ。へぇ、こういうんでも違いが出るもんなのねぇ。確かに美味い」
舌に自信があるわけでも鋭い味覚を持っているわけでもない。
単に味に対しての興味が薄いだけなのだが、それでも美味しいと感じられるのならば、出されている料理の味は確かなのだろう。

「おーっと、次が来たようね? それじゃイーリン、また味の品評たのむぜぇ?」
逃げるようにわざとらしくテーブルに運ばれてくる料理に目を向けながら
「ちょっとぉ、ゲストは貴方なんだから。貴方が先に食べて感想を述べなさいよぉ」
そう言って目の前にスッと出されたのは……旬の野菜に肉を巻いたわかりやすい代物。
凝視、しばし沈黙

「……品評、いる?」
どう見ても美味しいでしょ、と笑って。そのまま一口。そうしてる間に酒も一口、ここからどんどんと加速していくだろう。
「アタシにこんな上等な物の味とか分かるわけないじゃなの……」
言いながら肉をフォークで刺して口元に持っていく。香ばしい匂いはソースだろうか。含めば広がる肉汁に焼いた野菜からでてくるじんわりとした水分が口の中で混ざり合う。

「……いらないわね」
美味しい、値段を気にしても仕方ないが上等な素材を十全な腕で調理すればここまで味が変わるのかと驚くものだ。理論と経験を合わせた計算の上での味。

「酒も合うように選ばれてんだろうなぁ……おい、イーリンここ大丈夫なの?お勘定」
つい心配になって
くっくっくとコルネリアの品評と心配に笑って、自分も旬野菜の肉巻きを食べて笑ってしまう
「そんな難しい顔して金の心配してて楽しめる料理があるものですか。大丈夫よ、これでも勇者様なんだし、何なら領主代行もやってるのよ? そういう意味では羽振りは悪くないんだから、楽しんで頂戴よ」

それに、と楽しげに目を細めてから一度うなずく、グラスをくるくる回しながら、炭酸一つとってもきれいよねぇ、と眺めてから。
「いい店で腹いっぱい食べたら次もここで仕事しようって気になってくれるでしょ?」
一度ウィンクすると、ウェイターにもっと早く持ってきていいわよと言った。
「上等なメシには慣れてないのよ……もぅ……」
ただでさえ自分の金では無いのだから落ち着いたものでは無い。最もこれを表に出すことはないのだが。

「……まぁ払うもん払ってくれるなら手が空いてりゃ手伝うわよ。そういう仕事なんだし。そういやアンタ領主としての仕事もしてんのね?」
その笑顔に目を逸らしながら口をすぼめて言えば、言葉の端に聞いた領主という言葉に反応を示して
遠慮なくもしゃもしゃ食べながら、コルネリアの表情を見て良いもの見たなぁ、とか思っているけれど、其れはこちらも口に出さなくて。

「ありがと。で、ああ領主? いやまぁ、もともと私の書庫の持ち主が放棄というか売っぱらった領地でね? それを私の名声で買い戻して、それで発展させてるわけ。ああ、貴方が好きそうな施設もあるわよ。地下に金融街をちょっと作ってて――」

その後に酒も入りながら話したのは、領地がいかに苦労するか。自分の名声につられて騎士団設立の話がアホみたいに舞い込んできた話。っていうか月に数回は梅泉が来て暴れまわって困っている。そもそもうちの元の持ち主がとんでもない武闘派で、あいつが梅泉とぶつかればいいのにとか、色々――。
~それからしばらく後~

「はぁあーー……」
デザートの前くらいまでたらふく食べ進めて、大きく息をつく。
途中からコースと関係ない料理、フィッシュアンドチップスやタンシチュー、オムライスやナチョス、サイコロステーキ、パスタなんかも食べたりして。見た目より、ずっと食う。そして遠慮がない。

「でまぁ、その時言ってやったわけよ。貴方の命に私達の命も賭ける。ってね?」
両手でカルアミルクの入ったカップを持ちながら昔の話をわりかし饒舌に喋っている。酔いも回ってきているようだ。
「ア、アンタ大丈夫なのぉ? そんな飲んで……あんな食ってたのに……」
 気づいたのは食事もある程度終わった頃。ふと彼女の顔を見てみれば目の前の皿の中身は消えてカップを持つ貴女が居る。
 自分もそれなりに飲み、アルコールも回っていたが、あれだけの量を食べてなお飲み続けるのかと戦いているとそれも気にならなくなる。

「……命ねぇ。よくもまぁそこまで戦い続けられること。逃げても誰も責めなさそうだけれど」
「んー?」
 残ってた手羽を手にとって口にしながら、はてと首を傾げて。困惑したり、心配したり、表情をコロコロ変えるのを見て楽しそうに。

「んふふ、貴方って案外心配性なのね。大丈夫よ、食べる量くらいは自分で調節できるし。それに、旅人の資質の一つよ? 食べられる時にたっぷり食べておくっていうのはね」
 そのままぐいっとカルアミルクで流し込んで。

「何ていうかねぇ……」
逃げても責められない、という言葉にはちょっと苦笑気味になって。
「そりゃ、私以外にもっとうまくやれる奴も、逃げても責めるやつも居ないでしょうけど。でもさ、ほら……手を汚すやつは少ないに越したことはないじゃない?」
酔っていてもはっきりと、そう言い切った。
「心配っつーか、そのちいせぇ身体でよくもまぁ入るなって驚いてるだけよ」
 目を逸らして咄嗟に嘘をつく。否、嘘では無いのだろうが、心配はしていた。

「ほぉん……」
 手を汚すやつは少ないに越したことはない。その言葉を心中で反芻させれば思い当たるのは子供の自分。
「随分と良い子じゃないの。他の為に自分が抱えれば良いってやつか」
 自覚する。これは意地悪なのだ。少女の姿をした歳下の女に自分は今、心をざわつかせ
 そこまで言われると流石に一旦手を止めて、肉の脂をカルアミルクで流し込み。ぷは、と一息ついて。

「いやぁ、エゴよ。むしろ快楽殺人犯と大差ないかも。だって、私が手を汚してる理由って。結局、もう汚れちゃったから、あとは何人殺そうがどうしようが一緒ってことよ?」
 くすっと笑って、グラスをくるくると回して。酔っていても、その言葉はやはり、少なからず手を汚したことに苛まれた人間のもので。酒の匂いにつられてだろうか、コルネリアの心のざわつきも感じた、ような気もする。勘違いのような気もする。
「私は結局地獄に落ちる。けど地獄に落ちる人間は少ないほうが良い。大きな視点で見れば利益のあることをやってると思わなきゃ……自分の末期ばっかり見えてイヤになるわ。そう、例えば……シスターさんを戦場で銃火器をぶっぱなさせた罪とか?」
くすっと、冗談めかした。
「どあほ、アタシが戦地に立って得物ぶっぱなしてんのはアタシの意思であり罪だわ。勝手に奪うんじゃねぇよ」
 傲慢め、と嘆息しながら吐いた息で自らの心の調整を図る。
「汚れちゃったから、か。汚れた道の先に大義はあるのかい? 人を動かし、欺いて、血の上にある正義は正しいと言えるのかしら」
 なんとも醜い、意地が汚い問なのか。イレギュラーズとなり前線に立つ以上全員が問われるものだ。だが、だからこそ聞いてみたかったのだ。
「自分が犠牲になって地獄に堕ちる、アンタは本当にそれで良いのかしら。栄光は讃えられようと、その逝く先は誰も見てくれないのよ?」
(あら、案外と優しいことを言ってくれるのね、と自分の罪を自覚する宣言にいいそうになるのを飲み込んでから)

「そんなもの正しいわけはないでしょう。現に勇者王でさえ死に、その遺志が形骸化していった結果がこの国(幻想)よ。だから勇者王も地獄に落ちてるでしょう。しかし、歴史という広い観点から見れば、肥沃な土地に広大な領地を持ち、形の上では転覆しない巨大国家を作り上げて、それが形はどうあれ今も続いている。それは彼の遺志が、大義が、どうあれ人を活かすのに繋がっていたという偉業よ」
 でも、聴きたいのはそこじゃないわよね、と笑って。

「私は自分の行く道を正義だなんて一度も思ったことはない。私は大義など一度も抱えたこともない。騎兵隊は私のエゴによって動かされ、それがたまたま世界の願望と合致していたに過ぎない。だから私は犠牲になるんじゃないわ。ただ、私の望んだ結末の代償を支払うだけ。だから、その先を見てくれる人間が居ようが居まいが、それは誤差よ。……こんなこと、私を心配してくれる人に聞かれたらまぁ怒られるでしょうけどね」
くすくすと、少し嬉しそうに笑った。
「なるほどねぇ……大義無き軍団、か……」
 椅子の背もたれにゆっくりと体重を加えて息を吐く。今目の前の女は自らのエゴと言った。自分の為に命を預けた者達に聞かせたらどう思うだろうか……なんて思考も、直ぐに霧散する。
「この縛れないぐらいの頑固さが魅力ってやつなのかね」
 脈絡ない呟きは自問自答の答え。
「そんでまぁ勇者の称号を得るまで来たというわけだ。エゴはエゴでもそこまで行きゃ大したもんだ。周囲に認められたものならば、そのエゴも立派な大義になるんじゃねぇの」
 最後はからかうように、グラスを揺らしながら。
「大義なんて必要ない、自分たちはあいつがやると決めたからついていく。他に面白いこともないから。そんな理由で騎兵隊に居着いてくれてる奴も少なくないわ。勇者の称号どころか、一方的な蹂躙劇から一部では【伝説】扱いよ。」
だから、とため息交じりにつぶやいて。

「私に大義は必要ない。私は私のエゴで動いているという自覚が必要。名もなき一般意志の代弁者のような存在ではあってはならないのよ。それは、騎兵隊という枠が私個人ではなく、より多くの希薄な存在に依り代を移してしまう。そうなれば……どこかが腐り落ちても気づかない。腐敗しない組織、個人はなくても。それを防ぐことはできる。……まぁ、それでも私が居なくなったときの備えはいくらかしてあるけどね」

 くすっと、グラスを自分も手にとって一口飲んで。
「肴になった?」
「アンタが確固たる自分を持ってんのはよくわかったよ。伝説とか勇者ってのは……まぁそういう象徴が必要なんだろ。それほどまでにこの世界は残酷で慈悲が無いもの」

「根本的な考え方がちげーと面白いもんねぇ。組織の上に立つ者の思考か……たまに喰うと美味い肴だな、確かに」
 口端を上げて肯定すれば、饒舌なイーリンも面白いと心中で笑いながら
 コルネリアの返事を聴きながら新しい煙草に火をつけて、ミントの香りの煙を吐く。
「そりゃね……『自分が自分でなくなる』人間がどういう末路をたどるか……イレギュラーズになってからもイヤってほど見せつけられたから」

「ふふ、気に入ってくれてよかった。さてっと、大分話し込んだし、そろそろデザート食べて帰る? 甘いのくらいはまだ入るでしょ?」
「ま、なんであれ今生きて立ってるんだ。死ななきゃ勝ちよ」

「そうねぇ、そろそろ〆といきますか」
 言いながら背もたれに体重をかけて
「死ぬのだけは、死んでもゴメンだからね」
くすっと笑ってメニューを開いて

「……私はマリトッツォと、それからカタラータと、あとショートケーキもほしいわね」
ううん、とコルネリアの前で唸り
(くふふ、と少し笑いをこらえてメニューで顔を隠しながら。酔いが回って笑いを堪えるのに少し苦労する。ぷるぷる)
「ええ、それじゃあ私もモンブラン追加で、以上で頼むわ」
「なによぉ……! 何笑ってんのよ!!」
 つい勢いのままに好物を頼んでしまった事に羞恥を感じながら、それを隠すかのように怒ってみせる。もっとも紅潮し慌てた様子では台無しではあるのだが。

「……最近はまた、オンネリネンが動き出してるらしいわね。行くの?」
 ため息をつきイーリンへ視線を送る
「くっくっく、なんでもないわよ。なんでも……!」
コルネリアの言葉と仕草に、とうとう耐えきれなくなって顔を覆って笑い。
それから大きく一息ついて

「ええ、行くわ。子供相手にするのはシスターのときから慣れてるからね」
 と皮肉交じりに、けど断言するように言って

「だからま、たらふく食べてから出かけないとね?」
「……たくよぉ」
 ジト目で羞恥を誤魔化しながら睨めば彼女は改まってこちらを見て。

「そう、ま、精々ガキのお守りがんばるこった」
 新しいタバコに火を灯せば

「そうだな、のたれ死なねぇように今のうちから脂肪貯めとけ」
「そっちもね、体には気をつけなさいよ? 次に皿洗い頼みたい時にもう動けませんなんて言われたら私、貴方になんて言うかわからないから」
 楽しげに笑って、デザートが来たら多分お互いの分をそれぞれ食べたりもするかもしれない。
 くだらない話が増えていくのは、きっとこの時間が少なからず幸せな証、なのかもしれない。
 その結論が出るのは、少なくとも今ではないだろうけれど。
「へいへい、払うもん払ってくれんなら参上するわよ。皿洗いに」
冗談交じりに返しながら、モンブランをフォークでつつくだろう。
 そうして夜は更けていく。
 領収書を切ったときの彼女の表情を知っているのは、今夜は貴方だけだ。

―了―

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