PandoraPartyProject

特設イベント

Phantom Night


●パンプキンパレイドⅣ
「属性チェンジ! 凍て付く氷の巨人! である!」
 焔の如き盛る心を抱きながらもガーグムドは氷の鎧に身を包み、迷宮を踏破せんとやる気を見せる。
 どのような抜け方をしても構わないと事前のルール説明では告げられていた。「ゆめその言葉を忘れるでないぞ」と口角が釣りあがったのは――嗚呼、巨人ならではの抜け方があるからだ。
「ぬおおおおっ!」
 茨さえも気に留めず。彼は前へ前へと進んでゆく。
「皆よ! ついてくるがいい! 我が道を開こうぞ!」
 狼の耳をぴょこりと揺らし、三日月は「どうだ?」と新月を振り返る。獣種のように見えるだろうと自信満々な相棒に狼男に扮した新月は小さく頷いた。
「しかしこの迷路すごいな、肉がこっちに向かってくるぞ?」
「……生きた得物を追ったことは数あれど、調理済みの肉とは……」
 走り回ったローストチキン達が悪戯のように迫りくる。その様子に心躍らせ早速食べようと三日月は新月を手招いた。
 素っ頓狂な出来事に柔軟に対処できるのは相棒の良い所だが、ああも走り回られるとあの『珍妙な肉』が本当に食事をして大丈夫な物かも気になってしまう。
「大丈夫だ! 肉が走る位、ファンタジーなら有り得ることだ」
「……味は保障されないがな?」
 くん、と鼻を鳴らして冴弓はドレスコードを確かめる。吸血鬼っぽい恰好でもと選んだ黒いマントを翻し、「ブラッドオアトリートっす」と口端から牙を覗かせた。
「いっそトリックオアブラッドでもいいっすかね?」
 冗談のように呟いて入り組んだ迷路の中を行く。茨の迷路は進めば進むほどに姿を変えていくようで。悪戯だって楽しんで見せると冴弓は意気込んでびくりと肩を震わせた。
「ちょ、ニンニクだけはガチで勘弁っす!」
 目うろには参加したけれど、疲れたから一休みと潮はのんびりと息を吐いた。そうはいってもその外見はお地蔵様だ。
 地蔵が動くなど東方の国の童話ではよくある事だが幻想の民には余りに見慣れないものだ。
「傘をかぶせてくれんかのう」
 いっそのこと、助けるついでに地蔵の体を背負ってゴールまで向かってくれないものか。石の体を重たげに赤い前掛けを垂らした潮地蔵は宵色の空をゆっくりと見上げた。
「ひゃー、なんかすごいね、これー」
 迷路ならば上から出口わかるかな? ユーリは飛び上がる。下半身は山羊の物に変化し髪は腰に届く程に伸び上がっている。
 いたずらっ子たるローストチキンを踏みつけてユーリは体が軽いと飛び上がる。茨の生垣なんて気にもならない、血色の薔薇何かも気にならないけれど――
「ぎゃー!?」
 悪戯はまだまだ続く。足を引っ張る何者かに真っ逆さまに落ちてゆく。その叫声は宵色の空に木霊して嘘吐き蝙蝠たちは楽し気にキキキと笑っていた。
 いつもと変わらぬ綺麗な神父、ムドニスカは妨害もすべて愉しむべき前回なのだと唇を吊り上げる。
「嗚呼、ああ……此処は、夢裡の中? 素晴らしい! ワタクシは誘われたのデスか!!」
 普段であればハロウィンに打ってつけの外見の彼は今日ばかりはそれとは真逆の風貌に身を包んで。
「甘美たる飴玉の君、死してなお走る鶏の丸焼きの諸君、いざ参りまショウ。――彷徨の其の先、暗夜の果てへ!」
 ムドニスカは朗々と語り続ける。死しても尚走り続けるローストチキンに目配せて宵色の中を行く。
 暗澹に塗り潰された迷路の中をぐるりと見回してクレイスは「魔法でス!」と手を打ち合わせた。魔法と言えばクレイスの脳裏に過るのは魔法少女の姿、カラフルな衣装に身を包み心は憧憬に満たされていく。
「普段は魔法少女とは程遠イ、ポンコツ筋肉なワタシ……それデもハロウィンの魔法があレば、金髪色白ゆるふわないすばでぃナ魔法少女に変身できたリするんじャないですカね」
 そう、今日はなりたい自分に変われる日。魔法少女の姿に代えてクレイスは触手と戯れるのだって魔法少女の生業なのだと楽し気にゆるりと笑う。
 体力と呼ぶものは生憎持ち合わせていないが巡礼の旅で培ってきた勘を用いて迷路を抜けて見せると意気込んでいた樹里は迷宮の中でずるずると座り込む。
「ばたんきゅー……そういえば鞄の中の非常食は子供達に配ってしまいました」
 単純なエネルギー不足だと樹里の表情に暗雲が立ち込める。不安げに息を飲んだ彼女はうううと小さく呻き声を漏らし「誰か」と小さく呼んだ。
「とりっくおあとりーと……誰か、お菓子を恵んでくださいませ……」
 ゆるキャラの様な着ぐるみに身を包みシルヴィアは折角の『ハレの日』なのだからと走り回るローストチキンをちらりと見やってから通路に蹲る樹里を見つける。
「トリックオアトリート!」
 銃器を額につきつければ樹里はぱちりと瞬いた。食材からノコノコとやってきてくれるなんてね、と嘯いて見せたシルヴィアに返されたのはちょっとした悪戯心。
 ハロウィンドレス。スカートにリボンにフリル。頭にはプチハットを乗せてフェスタは心も軽くなる感覚で迷路の中を歩みゆく。
「ぴゃっ!?」
 首筋にぴたりとついたこんにゃくに思わず肩を竦めたフェスタはきょろりと振り返るが背後にあるのは茨と宵の彩。嘘吐きの蝙蝠たちがオペラを謳って楽し気に舞って居る。
 あっちへふらふら、こっちへふらふら。さあ、次はどんな悪戯が待って居るだろうか?
「おにーさん、おねーさん、こっちに近道があるよ!」
 にんまりと笑った小さなこども――その実、魔女の衣服に身を包んだバクルドであるのだが魔法の夜ではわからないだろう。
 フェスタを誘うその声はどこか楽し気だ。迷路は抜けるためにあるが面白い事に罠もあるのだ。だからこそバクルドはBloodと共に罠を作成した。
「こっちこっち」
 誘うBloodは猫耳のフードの裾をきゅ、と握る。仕掛けが終わればトリックの時間、さあ、この悪戯にどんな反応をするだろう?
 くるりと振り向きかけたフェストの背を杖でこつりと小突いて、マシュマロたっぷりの穴の中へ落としてしまえ!


●アリスのお茶会Ⅳ
 いつものメイド服にネコミミヘアバンドとしっぽアクセを身につけたら――まさにこれは『めいどかふぇ』そのものだ。
「ドレスコードはバッチリにゃん」
 決めポーズを取るSuviaは、成る程、様になっている。
「あらあら、かわいいじゃないっ」
「にゃあああ!?」
 もふもふでおっきいキツネが酔うと、ただのどうしようもないお姉さんになるのでしたとさ。
「なるほど、これがハロウィンパーティーというものなんだねえ……!」
 御伽噺の王子様の格好に身を包み津々流は緊張したように息を飲む。こうしたイベントは初めての事で――この喧騒は案外嫌いではないと彼は口元に笑み乗せた。
 格好はおかしくないだろうか、と食器たちへと問い掛ければうっとりとしたようにスープボウルが『大丈夫よぉ』と声をかけてくる。
 奇妙な友人たちに勧められ、いまだに逃げ出さんとするローストチキンに一気に齧り付いた。
「トリックオアトリート!」
 謳う食器にトランプ兵。踊りだすワイングラスを捕まえて白紅は「不思議の国そのものね」とからりと笑う。だらりと垂れた袖を捲りあげ、チキンに被りつければ「わたしも」と誘う様にティーポットが声かける。
「こんばんは、えーっとあなたはティーポット?」
「そう。私はティーポット。紅茶よりもお話が得意なのよ」
 なんて、そんな言葉に笑み乗せて。それじゃあ、彼女が出してくれる紅茶を飲みながらケーキでも頂こうか。
 活気のある場所は凄いねとステファンは瞳をきらりと輝かした。魔法の夜は普段は見る事が出来ないものがたくさん並んでいる。この場所を絵にできるならどれ程嬉しい事だろうか。
「トリックオアトリート!」とトランプ兵がステファンへと手を伸ばす。
「トリックオアトリート……? 合言葉だと言っていたね」
 何の事だろうとぱちりと瞬けば客人へとトランプ兵達は丁寧に教えてくれる。お菓子か悪戯されるか、そのどちらかを差し出して、と乞う声音にステファンはむ、と唇を尖らせた。
「ふぅん。代わりの物は絵じゃダメ?」
 仮装はどこかで聞いた『くのいち』姿。伝承で見たニンジャは『ござる』という語尾を使っていたのだと密使は今日はニンニンと両手を組み合わせて楽し気に。
 何時もは青色を身に纏うが今日は南瓜に似た橙色もドレスコードにぴったりだろうかと己を包む布地を持ち上げる。
 何が仮装で何が仮装にならないか。きっと、このくのいちが居た時代には仮装と呼ぶことができなかったのだろうと密使は想像しては楽しんだ。
「色々な世界の仮装事情を聴くのも楽しみでござるよ。……ござるござる」
 そんな中で美しき裸体を惜し気もなく晒すヴィーナス――桜小路公麿が誕生していた。公序良俗は勿論守るのが貴公子らしいところだ。
「僕はアイドル、女性を笑顔にするのも仕事の一つ」
 ゆっくりと赤の女王に近づけば、トランプ兵たちの近くでゴルフを楽しんでいた女王は公麿を値踏みするようにじろりと見つめた。
「故に貴女をとびっきりの笑顔にして見せようじゃないかッ! 退屈屋の魔女も思わず喜んで仕舞うようにねッ!」
 手を差し伸べて、公麿は赤の女王相手でも物怖じしない。相手が女性であるのなら守備範囲には違いないのだ――「さぁ、僕の手を取り給えクイーン!」
「ふむ、ゴッドワールドにかような祭りは無かったがフェスティバルとあらばゴッドは一番に楽しまねばならぬもの!」
 ゴッドフェスティバスが起こるのだから豪斗は魔の者の仮装に身を包み、今は善き子であるがゴッドの子の中でも特にヒューマンたちを惑わせたゴッド的な過去を思い返す。
 ゴッド的には全力で楽しまなくてはならない。これがゴッドとしての必要なことだ。魔の者の姿のままでさあ、今日はゴッド的に大盛り上がりを見せようではないか。
「アタシからのサービス! アンタたちも引き籠ってないで楽しまなくっちゃね!」
 蝶子が用意したのは子供用のポンチョであった。可愛らしい仮装用のポンチョにはくりくりとした黒い瞳が描かれている。
「……あ、ありがとう、蝶子……」
 慣れないお礼を告げてスイが告げれば蝶子は大きく頷く。一方で黒いフードとタトゥー風の化粧を施されているベテルジューズは日頃の恩があるからとこのPartyを楽しんでいる。
 ミニドレスに尖がり帽子。惜し気もなく胸を晒したその姿の蝶子は笑い声を上げるカクテルグラスを求めて「踊ってくるわ!」と手を振った。
「ふむ。趣向は前衛的だがハロウィンパーティーだな。トリックオアトリート」
「ト、トリックオアトリート……」
 七面鳥が欲しいけれど少し怖い気がすると肩を竦めたスイを見下ろしてベテルジューズは小さく咽喉で笑った。
 メイド服に小悪魔の翼は悪魔の召使。ヨルムンガルドが使えるのは漆黒のドレスに身を包んだルーミニス。
「人? ……も料理も沢山だ……! 皆楽しそうだね」
「そうね。ヨル、活きのいいチキンを狙うわよ」
 柔らかに微笑んだヨルムンガルドにルーミニスは先ずはと走り回るローストチキンを追い掛けた。スカートのフリルが大きく揺れ、走り出したルーミニスにヨルムンガルドは「仰せの儘に」と頭を下げる。
 手に入れたローストチキンを満足げに見下ろすルーミニスは「早速」と笑みを浮かべ――ハッと息を飲む。
「ヨル! コイツはアタシのよ!」
 勝手に食べないで、と慌てて食べ始めるルーミニス。チキンを両端から食べ合う奇妙な様子になりつつも、最後は譲ってあげるのがやはり優しさなのだ。
 ローストチキンを追いかけまわしルーティエは猫の尾をゆるりと揺らす。元が良いなら何でも似合う、そういうルーティエは何度目だか忘れたタダ飯を存分に楽しんでいた。
「みんな羽振りもいいし収穫祭さまさまだな! ハハハ。
 ……しかし、凄い道具だな。悪い発想さえあれば悪い事ができそうだぁ……」
「悪い事をお望みで? アリス」
 何と無しに呟いた言葉にDr.マッドハッターはふざけた調子で囃し立てた。びく、と肩を揺らすルーティエに意地悪く子供のように笑った帽子屋は「悪い事ならご相談いただきたいものだね!」と手を打ち合わせた。
「こんな姿じゃ踊れないわ」
 リノは硝子をつんと指先で突き、楽しげに笑ったマッドハッターへ「ねぇ、ドクター」と柔らかに笑み乗せる。
「哀れな人魚姫にそこで走ってるローストチキンの足を一本もいでくださる? ああ、けれど、悪戯はいやよ、優しくして頂戴」
「それをお望みならね、憐れなマーメイドプリンセス。私は案外優しいのさ、求められればその通りに行うし、イヤ、偏屈屋だから反対の言葉を君に与えるかもしれない!」
 嘯く帽子屋に「お菓子はないけれど頬にキスならして差し上げるわ、なぁんてね」とリノは小さく笑って見せた。整ったかんばせに僅かに喜色を滲ませて「それは嬉しいお誘いだ」とマッドハッターが杖で地面を叩いた音に人魚姫は悪戯少女のように笑った。
「冗談よ」
 ベレーを被り画家の仮装に身を包み、端で絵でも描いて居ようかと喧噪の様子を眺めていたアレックスは折角だから完成した絵をマッドハッターへと『トリート』として渡そうと考えていた。
 帽子屋はアリスからのプレゼントならば全力で喜ぶことだろう。365日何時だってお誕生日様の気持ちなのだから、アレックスの絵が邪魔になるはずもない。
「良かったら貰ってくれると嬉しいんやけど」
「ああ、アリスが私に! それはとてもうれしいではないか。特異運命座標(アリス)、有難う。アリス、有難う!」
 手を打ち合わせ大喜びの帽子屋にアレックスは何処か照れが混じってへへ、と頬を掻いた。
 天冠を添えて零は「いやあ」とグラスを煽る。眼前に居るのはその名も練達ではよく聞く叡知のセフィロトの住人たる男だ。旅人には馴染みないかもしれないが一度は聞くことが有る奇妙奇天烈な男の名前。
「まさかのまさか。驚きッスなぁ、まさかマッドハッターに会えるとは思わなかったっスよ」
「それは嬉しい。私も君(アリス)達と出会えたことを心の底から喜んでいるよ。無論、どれくらいだと聞かれれば心が躍り出して今にも弾けだしそうだと答えるがね!」
 饒舌な帽子屋に零はそれは嬉しいと肩を竦める。いやはや、彼の興味はDr.マッドハッターでなく彼が用意したこの道具に注がれている。
 どのような仕組みで――練達の叡知を寄せ集めた技術力の結晶だと言われてしまえば、企業秘密なのかと納得せざるを得ないのだが――動いているのかは興味深い。
 赤毛の兎は走り回るローストチキンを捕まえては食べ損ねている他の客人へと振る舞った。晴明は手間賃代わりに菓子を貰いバスケットの中にたくさん詰め込んだ。
「皆、時計兎みたいに時間に追われたくないだろ?」
 冗談めかして告げながらも彼の視線は恋人の許へ――リチャードはマッドハッターの姿を確認し、練達の技術力に感嘆した旨を伝えた。
「俺は記憶喪失なんだが、練達の技術で記憶を思い出す事は可能かい?」
「君がそう望むのならば練達の技術は何時か君に応えるだろう。嗚呼、しかし、思い出すよりも尚、輝く今を求めたほうがより美しいとは思わないかい? アリス、ほら、赤い兎が君を待って居るさ」
 やや饒舌に。それでいても恋人とのことを揶揄するようにマッドハッターはおちゃらけた。その言葉にリチャードはぱちりと瞬き僅かに肩竦める。
 時計兎はやや急ぎ足。なぜって恋人と叡知の人の会話が気になっては仕方がないからだ。
「トリックオアトリート、です♪ お菓子くださーい」
 親指姫の扮装が可愛らしいラヴの無邪気な一言に、マッドハッターは悪戯気な顔をした。
「では、トリックで。小さなアリスのトリックには、心底から興味がある――」
「あ、あわわ……」
 そう来られれば、逆に手段のないラヴは慌ててしまう。
 そんな彼女にマッドハッターは帽子から取り出したキャンディをじゃらじゃらと渡してみせた――笑って。
「御機嫌よう。ドクター。タンゴはご存知? もしご存知ないなら教えたいわ」
 黒豹のコスチュームに身を包みリアは柔らかに笑み溢す。へらへら笑いパーティー会場を闊歩するマッドハッターに手を差し出せばその掌には喜んでと指先が返される。
「君が好きな踊りならば私も今日から好きになろう。アリス、君の好みの踊りを教えてくれるかい?」
「あら、喜んで。貴方と踊るのは楽しそうだわ、ドクター」
 慣れたリズムを踏みながら。楽器たちは楽し気に声合わす。アコーディオンで奏でておくれと求めればトランプ兵たちは両手を打って喜ぶだろう。

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