PandoraPartyProject

特設イベント

Phantom Night


●パンプキンパレイドⅡ
「そうつまりこの俺は服を着ずとも仮装をする力を持つという事! 欲を言えば全身白くしたかったが致し方なし!」
 ディエゴ曰く悪魔は半裸が基本である。下は履いているから問題ない――要するにデスメタルな格好を楽しむ彼は、マイペースに迷路を進んでいた。
「迷路か……このカボチャとも短い付き合い。楽しむのも一興だね」
 メルトが腰掛けたのは大振りの南瓜。ジャック・オー・ランタンを模したそれと同じ仮面を付けて悠々と彼女は歩み出す。
 嗚呼、然しレディの足を止めるのは――ぶらりと落ちたお菓子たち。
「これは拾うのに忙しい……すごい罠だ、もぐもぐ……」
 迷路とは面白そうだとアガルは長耳を揺らす。ピアスを飾った耳と遊び盛りに見える風貌で彼はが踏み出したのは――
「おおおお!?」
 ――落とし穴だ。
 驚く事ばかりだという落とし穴。不思議の国へのご招待という様にごとん、と鈍い音立て落ちた彼が宙を見上げればゆらりゆらりと火の玉が飛んでいた。
「おい! この通路は狭すぎないか!? 余の腹が引っ掛かって……後ろから押したのは誰だ?もしや悪戯であるか?」
 ハンプティダンプティおどろいた。エンヤスの背を押した者が誰であるかは分からない。
 ハンプティダンプティおどろいた。慌てて、振り向こうとしたエンヤスをどんどん、と誰かが推し続ける。
「やめろ! 無暗に叩くな! 余は卵ではない!」
 ハンプティダンプティの様に割れる事はないけれど――嗚呼、ずんずんその体は通路に埋まっていってしまった。
「ぐむぅ……」
 シルエットが映し出されなければ世界樹が其処に居ることを『認識』するのも叶わなかっただろう。認識というのは重要な材料だ。その為に――これは彼女のためにあった悪戯と呼ぶに相応しい――粉塗れになってしまったとしても。
「行き成り白い粉のつまった落とし穴に嵌ってしまうなんて……」
 腰を抑えた彼女は透明人間を謳歌している。そのシルエットがぼんやりと映し出され何時もの世界樹である事を理解できるのだが。
 ざばあ。音立てて落ちた水を被り粉がきらりと星屑めいて瞬いた。透明人間に降る不幸はまだまだ止まらない。
 赤い血潮に身を包みランドウェラはゆらりと歩き続ける。入り組んだ迷路を歩みながらふと考えたのは神託の少女の話。
 この場所に訪れるまでに様々な人を目にしたがそう言えば――神託の少女は、ざんげは、この夢のような場所には顔を出していなかっただろう。
「ざんげ……ざんげ様? は来ていないのか。まさかずっと空中庭園に? ……後で顔を出すか、どうやって行くのだったかな……」
 あの幻想的な景色を持った空中庭園。茫とした瞳の神託の少女を思い浮かべてランドウェラは悩まし気に呟いた。
 嗚呼、けれど君は知っているかい? この場所は悪戯だらけなんだ。犬も歩けば棒に当たるし、考え事をするランドウェラは穴にも嵌るんだ。
「あっ」
 ――ぴんぽんぱんぽーん♪ 迷子のお知らせを致します。幻想に在住の御幣島 戦神 奏さんが迷路で迷子に……――
「YES栄光! NOリタイア!」
 迷子に何ぞなるものかと奏は胸を張る。嗚呼、しかし彼女は気付いてしまったのだ。
「あれ……? ざんげちゃん……いないの……?」
 空中庭園に住まう神託の少女は神殿からは滅多な事では出てこない。残念だ。夢の世界でもそれ以上は表現できなかったようで。
「ぎゃー!?」
 思考を別の部分に向ければ悪戯は湧く様に降ってくる。奏の叫声はたちまち迷路の中へと響き渡ったのだった。
「!?」
 びく、と肩を揺らしたマナは叫声を聴き周囲を振り返る。こんな悪戯の夜なのだ『効果音』に聞こえて来たって可笑しくはないと縁がからからと笑えばマナの頬はかぁと赤らんだ。
「も、申し訳ありません……、勇気を出して迷路に挑んでみましたが……や、やはり怖いです……」
 Halloweenの文字を手にして、角を生やした小さな小悪魔は不安げに瞬いた。折角の催しものだ。ドレスコードに従って仮装を行いパーティー会場へと続く迷路を抜けるオーダーに挑んだが、不安心が大きくなるのも仕方がない。
 赤いシルクハットを被り帽子屋の装いに身を包んだ縁は「そう怯えなさんな」とマナへと柔らかに笑みを浮かべた。紫煙ではなく紅茶の香を纏った男をゆっくりと見上げてマナは「あの」と小さく呟く。
「……出口まで、手を……」
「おっさんの手で良けりゃ引いてやるからよ。ほら、飴が飛んでるぜ? 捕まえてみろ、おっさんに味を教えてくれよ」
 羽でも生えているかのように宙を自由に泳いだキャンディを視線で追いかけて「苺です」と瞳を輝かせる。ほら、楽しければ出口はもう直ぐだ。
 こてんと首を傾げたアイナは雪女の仮装に身を包み悪戯めいたなぞなぞに頭を悩ませていた。
(――難しいですわ……)
 不思議の国に落ちて来た少女(アリス)の格好に身を包みイリシアは何となくDr.マッドハッターを探し続ける。練達の研究者たちもこの魔法の夜には興味津々なのだろう。研究の一環と言われれば参加するのも道理だ。
(別にDr.マッドハッターをイケメンだなんて思ってないっす)
 何となく心の中で呟いたイリシアが追いかけるべきは道化の帽子屋ではなくて時計を持った白兎。
 それを示唆するように何処からともなく降り注いだ兎の雨に「びゃ」と声を漏らして潰された。
「此処は兎が落ちてくる……と」
 冒険者を思わせる衣服に身を包みラァトは手にしていたメモ帳に書き示す。癖のように地図を作成してしまうが、今宵は仕事を忘れて無礼講で構わない。
 マッピングの必要がないとファンに事前に言われていたことを思い出し。折角の良く分からない魔法の夜なのだから、奥深くまで辿り着いてお茶にしようかな、とラァトはうん、と伸びをした。
 角と八重歯の小悪魔ファッションのミカエラは衝撃を覚えていた。先ずは、彼女のスペックから紹介しよう。外見の特徴欄をしっかり確認して欲しい――はいてない。それは今にも適応される。
 無論、『はいてない』ことが問題なのではない。普段から『はいてない』のだから、それを殊更に言う必要はない。が。
「あ……ありのまま今起こった事を話すぞ! ワシは迷路の中を走っていたと思ったら、いつの間にか蔦に絡まれていた」
 何を言っているのかは本人にもわからないが、とにかく蔦に絡まれていたのだ。これはまずい状況だ。
「何が起こってるのか分かんない!」
 それはヒィロも同じだった。パーティー会場についたら何か食べようねと真奈子と二人で微笑み合って楽しいウォーキング中だったはずだ。
「ッッ――助け」
 黒のワンピースのスカートがぺらりと捲りあがっている。確りと握りしめていた鎌の鎖とも蔦が絡み合ってしまっているではないか。このままでは色々と見られて困ってしまうお色気シーンが出てしまう。
「ひぃろ様……!」
 真奈子の言葉にヒィロが顔を上げふるふると首を振る。真奈子の魔女っ子コスチュームにもしっかりと蔦が絡んでしまっている。
「こ、これはどうすれば……!?」
 折角のお祭りなのだから、こんな風に悪戯に引っかかるのも悪くないかもしれないと真奈子は幾分か楽しい気持ちが湧きあがってきた事を感じていた。
 その一方でフルールは花の妖精を思わせる格好をしているが毒々しい花をその身に巻き付けてることもあり、幾許か『可愛い』イメージから離れている部分もある。
「ヒィロおねーさんたち……」
 うぐうぐと揺れ動く蔦がいやらしく白磁の肌を這い、きゅと締め付ける。頬に触れたそれがぺちりと叩くその感覚から徐々に下肢に下がっていく緑の刺激――それを世界の与えた『贈り物』にて投影するフルールは懸命に逃れるべく声をかけ続けている。
「はっ! な、なに、ラ、ラーシアさん!」
 は、と顔を上げたヒィロ。迷路をゆっくりと進む幻想種のラーシアにヘルプを頼み、蔦に絡まれるという難を逃れる事となるが……蔦の難に在っているのは彼女たちだけではなかった。
 チェックのチョッキにキャスケット。スチームパンク姿のギークは茨と蔦が蠢ていいる様子に「げ」と声を漏らした。
「触手プレイはお断りだぜ。生憎逃げ足は達者でね」
 ヒィロと真奈子が難を逃れ、大変なことになっているミカエラの下をスタコラとダッシュするギークはこれを好機と見做し一気に走り出す。蔦に絡まれる事無く此の儘逃げ果せればその先にはゴールが待つはずだ。
 彼のように『逃げる』事を考える者ばかりではない。珠輝は恍惚の笑みを浮かべて、唇に笑みを浮かべている。
「……お助け、致しませんね?」
 ラーシアの言葉にこくりと頷く『あけちばに子』はすう、と息を吸い込んだ。
「あたしの名前はあけちばに子。いつもと違う自分……あぁ、トキメキますね、ふふ……!」
 絡みつく蔦に恍惚とした笑みの珠輝は男性の姿での責め苦とは違った刺激に「はぁ」と息を漏らした。
「パーティー会場にに行くために早く抜けたいところだね」
 物珍し気にきょろりと周囲を見回す海賊姿のルドルワは「わーー!」と両の掌を上げる。周囲から蠢いた蔓にその身を掴みあげられて慌てた様に顔を上げる。
「リューちゃん助けてー!」
「囚われの姿も悪くないですね、と現実逃避しかけましたよ!」
 蔦を引きちぎりながらリュグナートはルドルフへと手を伸ばす。ぶらりとぶら下がっていたルドルフは「わああ」と何度も声を上げているが、リュグナートは如何したものかとしっかりと手を伸ばした。
「……さ、ルド様、これから時計兎のように駆け抜けますよ! はぐれないよう、手を繋ぎながらでも良いでしょう、か?」
「助かった…ありがと。はいはい、握ってるから、アリスをしっかり案内してよね?」
 その一方――
「やっ、何これ!?」
 ずるりと伸びて来た蔦に全身が絡み取られ、アリアの衣服は開けていってしまう。ばたばたと手足を動かせば動かすほどに蔦はその身に絡む一方なのだから、嗚呼、これはなんてことだ。羞恥心に頬がかあと赤くなっていく。
「だ、誰か……助けて……」
 こんな姿、だれにも見られたくないけれど……。
 けれど、これから助かる為には他人の力が必要だから、この場に誰か来てくれるのを願いながらアリアはどうか、助けてくれるのが善人であればと目を伏せて懸命に祈った。
 迷路の罠は千差万別だ。悪戯と呼ぶにしては余りにも強力なそれをひらりひらりと交わしながらも晴人は散策し続ける。
 柔らかな毛並みに蔦がべしりと叩く感覚に僅かに目を細めながらも、その足はゆっくりと進んでゆく。何倍にも膨れてゆく事故(いたずら)を甘受しながらも、嗚呼、目指すはゴールだ。
「おおー! 迷路? っていうの?? すごいすごーい! ごはんからくるりの方に来てくれるなんてっ☆ とっても素敵な場所だねっ。それじゃあ、いただきまーすっ!」
 何か間違えている気もするが――クルリにとってはそれは問題でもないのかもしれない。迷路の攻略なんて考えずに、蔦だってなんだって食べてしまう。
 ああ、楽しみだ。踊り狂った食器たちの上でミートパイが震えて待って居る。叫び声を上げ続けるケーキの隣でミルクをくるりくるりと混ぜるティースプーンが紅茶を飲んでとせがんでくるのだ。
 今宵の姿じゃティーカップを持つことは叶わない。飛べない翼じゃ何もできないなんて――なんて、戯言だろうか。
 Dr.マッドハッターの紅茶を楽しみにしてたのにとシーヴァは口許をゆったりと緩めた。
 橙色の薔薇咲く道を、導かれるように彼は「そうね、こっちがいいわ」と誰ともなしに呟いた。墓場烏は悪戯めいたお茶会の席につきローズの香を立てたティーソーサーを器用に掴む。
 ――迷路からはまだ、抜けられない。

●アリスのお茶会Ⅱ
 貴方はきっと――パン・♂・ケーキがローストチキンを捕らえ、捌く光景を見た事は無いだろう。
 何処からどう見てもおかしな空間。何処からどう見てもいかれたパーティ。
「さあ、特製のパンプキンディップ付つきだ」
 貴方はきっと――余り見た事は無いだろう。
「聞いた聞いた? 今の人、『ごちそうさまでした』だって!
 やっぱり私のセクシーな骨格は万国共通だったのよ。ちょっと露出度上げすぎてはしたないかなーとも思ったけど、せっかくのお祭りだし、ね!」
(わたしには気遣いの心があった。
「ごちそうさま」の意味が「食べられた後の骨に見える」という意味であると伝えないだけの分別があったのだ)
 ……綺麗に食べられたお魚さんの(おいしそうな)骨格を誇る少女(イリス)と、絶妙な気遣いを見せる少女(シルフォイデア)のやり取りを。

 ――――♪、♪

 朗々と歌う食器達がここでの過ごし方を謳い続ける。ドレスコードは仮装だと案内人に告げられてサイズは本体が鎌であるから『死神』になるしかなかったと頬を掻く。
 とりあえずはローストチキンでも食べるかとサイズは走り続けるローストチキンを視線で追った。
 パーティーは何処までも賑やかに。何処からともなく聴こえる叫声に合わせて食器たちの踊りも激しくなって行く。捕まえたばかりだというローストチキンが躍る食器の上に並べられ、それでも走り出さんとバタバタと暴れる様子にサイズは肩を竦めた。
(……すごいな……)
 鎌でつん、と突きながら食べ続ける。トリックオアトリート、トリックオアトリートと何処からともなく聴こえてくる合言葉に目を伏せて、飴玉をころりと口の中で転がした。
 喧噪は心地よい。ワイングラスはオペラを謳い、そのグラスに血色の如く濁ったそれを満たしてゆく。フランケンシュタインを模した仮装に身を包んだスレイルは特異運命座標としてのこれからを思い浮かべ、グラスをゆっくりと回した。
『ふふ、ふふ、楽しいわね、楽しいわ』
 ワイングラスの言葉に僅かに頷いて、今は只、閑かに過ごしていようとスレイルは深く息をついた。
「凄い賑やか……こういうのも良い」
 奈那子はぱちりと瞬く。彼女の知っている故郷のハロウィンはあまり活気のあるイベントではなかったこともありこのギャップは彼女にとっても楽しいものだった。
 どうせだったら楽しもうと彼女は鮮やかな花をその身に纏い、バスケットに詰め込んだミニブーケをお菓子の代わりに配り歩く。その姿は花売りのようにも見える。
「ハッピーハロウィン」
「ふふ、トリックオアトリート」
 白いドレスの裾をひらりと揺らしブランシュは柔らかに口元に笑みを浮かべる。白い翼に白いヴェール。楽器は奏でる事なくとも歌い続ける様で。
 幾重にも重なったフリルを持ち上げたブランシュへとブーケを手渡す奈那子は悪戯めいて「トリックオアトリート」と唇で形造る。
 お菓子はわざと忘れたといえばどんな悪戯が待って居るのだろう。今宵は一夜の夢、きっと明日目が醒めれば『知らない誰か』になってしまう夢幻の如き世界の泡沫。
 だから、少し大胆に素敵な出来事求める様に、爪先が躍り出す。
 褐色膚にアラビアンな踊り子の衣装をしゃんと鳴らしティシェは『魔法道具』の世界の泡沫の如き空間に息を飲む。不思議な一夜によって得られるのは明らかに魔法の如き世界。
 嗚呼、だって混沌は魔法に満ち溢れているのだから――そうね、これは幻想(ファンタジー)。有り得るかもしれない私になれるのよ、と食器たちが歌っている。
「帽子屋の様なナリをした彼は今日の日の為にこの道具を用意したの?」
「そうですね……彼は有態に言えば天才ですから、それに特異運命座標に期待をしているからこういう用意をしたのですよ」
 ファンの言葉にティシェはぱちりと瞬いた。不思議な一夜の為に用意された情報。この空間では体ごとここにあるというそれさえもティシェにとっては信じられない事なのに。
(叡知のセフィロト……侮れない。『練達』は……)
 この世界は不思議な事で満ち溢れている。まだまだ知らない事は多いのだ。
 特異運命座標をアリスと呼んだのは何故だろうか。この世界に訪れたばかりの何も知らない無垢な少女(アリス)と特異運命座標を愛おし気に呼ぶそれを思い浮かべながらアルプスは水色のエプロンドレスに身を包みDr.マッドハッターに頭を下げた。
 練達とのコネが欲しいのだ。今後の事もある。栄養分として必要なものは『何となく』でも混沌で手にすることは出来るが元の世界に在ったものを得るためには旅人が多い練達が確実だ。
「私はね、打算的な少女(おんな)というのも中々好ましいものだ。勿論、目的をしっかり持った少年(おとこ)というのも好ましいものだけれどもね。
 さあ、けれど君はこの茶会で私と楽しく話す選択肢を選んだわけだ。最も、君が求める者はこの場にあるとは限らないがね」
「はい。だから、狂ったお茶会で狂った少女(アリス)は冗談めかしてこういうのですよ――『楽しいお話をしましょう』」
 アルプスの言葉にマッドハッターは違いないなと両手を叩いて喜んだ。
 背にあるはずの翼も尻尾も、あるはずの角だって今のリリィにはない。混沌の人間種の如き姿に変化している己に僅かに心は高揚しだす。
「おいしいものがいっぱい食べられるって聞いて、リリィはぱーてぃにやってきたの!
 あわわ! ご飯も動いててたのしそーなの! そーいえば、はろうぃんってゆーのはいっぱいおかしがもらえるって聞いたの!」
 踊り続ける食器たちの上でオムレツがぴよぴよと鳴き声を上げている。楽し気なそれを聞きながらリリィはこてりと首を傾いだ。
 トリックオアトリートと告げれば食器たちの上にはチョコレイトタルトが現れる。栗鼠たちが運んできては美味しいよと語り掛けてくのだ。
 吸血鬼の仮装に身を包むファレナは何処かゾンビめいた化粧を施している。黒いマントを揺らしながら「お菓子をくれないと血を吸っちゃうぞ?」と祭りを楽しむユリーカの許へと詰め寄った。
「わあ、じゃあお菓子をプレゼントなのです! クッキーは如何ですか?」
「わーい!」
 じゃあ、とユリーカは冗談のように笑って見せる。「今度はボクですよ」と楽しげに笑った少女の口にする言葉は勿論――トリックオアトリート、だ。
 猫の仮装です、と胸張ったティラミスに食器たちは「いつだってそうじゃない」と冗談のように歌い続ける。
「ハッハッハ、その通り! 常日頃仮装しているようなものでございます。宴会芸などは如何かな?」
 一寸したマジックならば全て用意して見せようと赤いシルクハットに振れたティラミスは杖でとんとんと地面を叩いた。
 謳い踊った食器たちと共にジャグリングをとアートは道化師の化粧を施した表情を僅かに緩める。宙を舞うお菓子たちを吸い込む様に皿へと飾ってアートは「トリックオアトリート」と声をかけ続ける特異運命座標達に笑みを浮かべた。
 独りぼっちも元気なしも、今日は皆無理やりにでも笑えばいい。ボールの上で器用に踊ったアートが道化の如く滑り落ちる。
 食器たちが手を叩いてけらけらと笑い始めれば薔薇がパンッとどこかで弾ける。嗚呼、ほら、今日は楽しいではないか!
 披露するマジックは魔法の夜のトリックとはまた少し趣が違っていて。パーティー会場の喧騒の中で春鳴湖はほっそりとした指先でトランプを引き抜いた。
 周囲を歩くトランプ兵達はマジックの賑やかしもになっているのだろう。春鳴湖のトリックに化かされた様に食器たちがきゃあきゃあと騒ぎ立てた。
 その傍らではシグは空飛ぶ大剣としてふわりと浮かび上がる。パーティー会場を覆った天幕にぶらりとひかっかる大剣は視覚的に何とも面白い。
 その様子を眺めていた狼男、ロアンは魔法道具の住人全てに不思議な力が働いているのか意思がある事を感じ取り「こりゃ面白いね」と迷路で捕まえたキャンディを悪い顔してトランプ兵へと手渡した。
「紅茶よりも言葉を注ぐティーポットの口は面白ェしな」
『あらあら、うれしい、うれしい! とっても素敵ね、素敵ね!』
 けたたましく話し続けるティーポットにロアンは「見てみろよ、ローストチキンがレースしてるぜ」と小さく笑った。
「誰の口にも収まらんだろうな。小さな口したアンタには関係ないか」
 魔法の夜では性別なんて関係ないのかもしれない。けれど、世界からの贈り物の効果だって試したいではないか。メイド姿で走り回る忍は「わぁ、ローストチキンが走ってるぅ」とどこか舌足らずの子供のような口調で話し続ける。
 捕まえられないけれど――ほら、戦闘に関係なければ彼は彼女で、彼女は彼になってしまうのだから。
「ふええ……」
 誰か、と求める様に周囲を見回す忍。その声に応じて助ける手を伸ばす者たちも大勢いる事だろう。
「道具の中にもこんな世界を作れるんですねー。これも『練達』の技術なんですかね?」
 カラフルな生地を組み合わせて作られたパッチワークのオバケは肩掛け鞄に目いっぱいのお菓子を詰め込んで。パーティー会場で何時だってイタズラを待って居る。
 葵はパチワチョコはパッケージ裏に見せの場所もばっちりと記載されている。
「宣伝効果アップで収入アップ! のはず」
 そんな打算的な思惑が蔓延るのもハロウィンの不思議な夜だと『普通』の事になるのだから。葵は楽し気にトリックオアトリートの声を求めてふらりふらりと歩き出す。
「『わたしたち』で、いただきましょう」
 インクの手に赤ワインを滴らせ――鷹墨は少しだけ表情を綻ばせた。
 ほんのり変わったその色は、今宵の酔いか――
 多種多様なる狂乱のパーティを壁の花ならぬ――壁の南瓜を気取るLumiliaは眺めている。
「参加したことのない祭り、こうして見ているだけでも、楽しいものですね」
 微かな呟きは、誰に届く程の音量も持ち合わせていなかったが、彼女の本音そのものだった。

<続く>

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