PandoraPartyProject

特設イベント

Phantom Night


●パンプキンパレイドⅢ
 不思議の国、国、城、城は守ららナイト――!
 迷路の壁も天井も、どんな場所だってミミにとっては確りとした足場に変わる。トリックオアトリートと声を出した来訪者たちを待ち構えるガーゴイルとして彼女は楽し気に翼を広げた。
「キキキ、オカしくない ヨ ガーゴイル ダヨ キ・キ・キ!」
 さあ、素知らぬ顔で引き返さないでどうぞ見ていって。此処で叫んだ声はばっちりと再生してあげるのだから!
 練達の技術力を結集し作成したというお遊び道具――勿論、これが専門と言う訳でもないだろうがバッチリの出来栄えだ――は好奇心を盛大に刺激してくれる。
「……おっといけない」
 考え事をしていれば迷い込んでしまう様な深い迷路の中。出口は何処かと見回す猫の魔女、ヨゾラの前へ飛び出して来たのは翼を得て自由に飛び回るキャンディ。
「あれ、あら、キャンディ……」
 トリート自身がトリックするなんて、何だか面白いじゃないか。
「あらあら、さっそく迷子になってしまいましたわ」
 アストライア、と首を傾げたウィーラはぬいぐるみの如くふんわりとした衣装に身を包み早速迷宮をさ迷い歩く事となる。
 アストライアも一緒だから寂しくはありませんわねと生温く吹いている秋風に目を細め、一つ手拍子、たんたんと。ぬいぐるみたちは彼女に従い楽し気に歩き出す。
「……む、むむ。困ったねこれは」
 イシュトカは我儘さんに困らされる。彼にとって尻尾の我儘をそれ程許容してきたつもりはないが、今日ばかりはその我儘も激しくなるばかり。
 鵺としての本体は此方なのだという矜持を胸に尻尾を宥める様に「まあまあ」と語り掛けても尻尾はふるふると首を振る。
 譲れないのだ。何を? ――そりゃあ、この先に続く分かれ道の行く先を。
 聞こえる叫声を耳にして襤褸を羽織ったプロミネンスは「悲鳴……?」と首を傾げる。此処は迷宮だ、どのような罠があるかは解らないが備えあれば患いなし。気持ちはしっかり持つに限る。
「悲鳴はどこから……?」
 ミミが響かせ続ける叫びに誘われるように歩き出せば迷路の端にぽっつりと宝箱が置いてある。罠だ、と直感的にプロミネンスが感じたのは間違いではないのかもしれない。
 サンゴや硝子石が入った宝箱は可愛らしいものだ。よくよく見れば一つではなく幾つか並べられている。これが『お宝』なのだとすれば迷宮の覇者にもなった気持ちを味わえるが実際は瑠璃篭。
(ふふ……誰かこの悪戯に引っかかってくれるかしら?)
 瑠璃篭の扮する宝箱。息を潜めて鮮やかな宝箱の中、真珠と共に息を潜める彼女を襲うのは――
「きゃーー!?」
 勢いよく飛び込んでくるリチャード。
「ひゃっはー!」
 障害物は何もないという勢いでリチャードは迷路を踏破せんという。迷路がなんだ、迷路というものは道が曲がりくねるから迷うのだとリチャードは声高に告げ続ける。
 勿論、瑠璃篭の眼前をぐんぐんと大剣振り回して進む物だから驚きも一入だ。あけた穴が墓穴でも男は一直線だと彼は豪快に笑って見せた。
「俺の歩みは止められねえぜ!」
 風の様に過ぎ去ってゆくのはリチャードだけではない。パンプキンドレスに身を包み笑った魔女帽子を押さえたクロジンデは入口から前進していくリチャードを追い掛けている。
「ふふふー、こういう時は脚ではなくて頭を使うものなのだよー」
 迷路を迷うでもいいが、迷わずゴールに辿り着くのなら強欲的にゴールを目指すものの後をついていけばいい。クロジンデは唇に笑みを浮かべて、誇らしげに胸を張る。
「さあ、ゴールをめざすよー」
「やっぱ狙うはイチヌケ、だよね。全力でぶっ壊して駆け抜ける!」
 イグナートは壁を壊さんと両手に力を籠め――そして、背後から迫りくる気配に気づくのだった。何時か聞いたフランケンシュタインの仮装に身を包んでいたイグナートにとって、背後から訪れるのが己以上の怪物である訳がないと……訳が無いはずだった。
「――……え?」
 見遣ればそこに立っていたのは何時の日か幻想譚で夢に見た様な竜種。竜種は山深くに生息し幻想には存在しない筈ではなかったか、いや、そもそもこの愉快で奇妙な祭りに存在するはずが。
 じりじりと後退するイグナートの裾をずむ、と掴んだ竜種がへらりと笑った気がして、彼は一目散に逃げだした。
 喧騒の中、落ちた塵芥を拾上げて烏天狗は宵の空を見上げる。サヤはビックリ系ならばそこまで怯える事もないが、おどろおどろしいものは少し苦手なのだ。
 迷ったときはどうするか――?
 さあ、それは情報交換が必要だ。「例え生身でもそうでなくても、」と付け加え、サヤは周囲を見回した。
 こてりと首を傾げていたミスチェは「迷ったにゃあ……」と肉球をぷにぷにとしている。何時もならば招待状を送る側のミスチェにとって、こういう場に招待されるのは何だかむず痒い。
「ちょうどよかった。少し迷っているんだ。キミはそっちから来たのかな?」
「ふにゃあ、びっくりした! そうにゃ、あっちから来て――……」
 茨を抜ければきっとゴールがあるはずだと歩んできたミスチェにサヤは成程ね、とこの先、三股に分かれた道をどう往くかの情報交換をしようと持ち掛けた。
 同居人のぶち猫を抱えてぼんやりとしていたシフトは、ぱちりと何度も瞬いた。長い白髪が迷路の床にだらりと垂れているが気にする素振りもない。
 普段のシフトとは違った――機械の身体ではなく生身の体だ!――様子で迷路の行く先に迷う様に首を傾げている。腕の中で猫はにゃあんと鳴き声を上げてサヤとミスチェが訪れたことを告げていた。
「ヒャッ!?」
 背筋に冷たいものが走ったとびくりと肩を揺らした積希は黒猫耳を押さえてゆっくりと振り仰ぐ。……どうやら自分の手にしていた寒天が自分の背に当たっただけだったようだ。
 シックな黒いワンピースを纏い、黒い尻尾を揺らした彼女は3分で迷ったからには他人を驚かせる側に回って見せるぜ、という事らしい。
「ふふ……暗い所では本気で怖いですよ?」
 何せ、自分で実証しておいたのだから。
「ガオー!」
 狼男と呼べばいいのだろうか、とアルクスは首を傾げた。普段はない尾が少しに気になると振り仰ぎ、羽が無い事にも違和感を感じて、何となく奇妙な感覚がその胸に過る。
 何にせよ『トリックオアトリート』の言葉に応じて飛び出して驚かせばいいのだ。
「ガオー!!」
 これであっているのだろうか。いやいや、こういうものに正解はないのだろうが――気のせいだろうか。体自体も仮装じゃなく狼男に……?
 ジョセフは今、困っていた。あらすじからご説明しよう――「迷路だとッ!!」と驚愕に眉を寄せたジョセフは瞬時にその顔に喜色を浮かべた。なぜか、簡単な話だ。
「ふふふふ……そんなものでこの私を止められると思っているのか」
 品行方正清廉潔白ジャスティスなジョセフだ。寧ろ迷える子羊を導くのが聖職者的なジャスティスな行いだ。そう思っていたのだが――彼は今、茨に絡みつかれていた。
 彼のように茨に絡まれる者も多くいる。茨の冠に血潮をあしらったドレスに身を包んでいたLilyもその一人だ。出口を目指して頑張っているが茨の悪戯には為すすべなく、と言った調子だ。
「あれ? ここは何処……だろ……?」
「迷える子羊よ。ふふふ、大丈夫だ。安心し賜え!」
「え、ええ……」
 Lilyの表情に困惑が浮かんだのも仕方がないのかもしれない。茨は自由に絡みついてくるのだから、二人そろって今は自由を奪われているのだから。
「いったーい!」
 何処から聞こえた声には涙が混じる。魔女帽をぎゅっと握りしめたリリーは目の前に突如として現れた壁――実際は仕掛けを踏んで床が飛び上がったのだ!――にぶち当たっていた。
 結局ここが何所なのかは分からない。助けを呼ぶその声にジャスティスな聖職者と茨の姫君は「誰かが呼んでる!」と反応するが、助けに向かうことは出来ない。
「誰か助けてー!」
「こ、ここは!?」
 芋虫の着ぐるみに身を包んでいた一悟も危機に瀕していた。変化していく道に迷っていたのはリリーと同じだ。彼の場合は強引に茨の垣根を突っ切ろうとして、キャンディたちが山ほどに噴き出してきたのだ。
「いててっ、いてって!」
 囁く太陽の影に助けを求めるが――今の所は面白がって宵も様子見。一悟とリリーの助けを呼ぶ声が迷路の中に響き渡る。
「大丈夫?」
 狼男の耳と尻尾、そして爪を生やしたリョウブは肩を竦める。一悟を押しのけんと飛び出してくるキャンディたちを払いのけ、座り込んだリリーの手を取って立たせたリョウブは「大変だね」と苦笑を浮かべる。
「練達の技術の一端を体験できるのは面白いけど、罠に掛りっぱなしも中々に骨が折れるね」
 迷いすぎては折角のパーティーもお預けだ。それは少し残念な気がするとリョウブはゴールを目指さんと二人へと提案した。
 もしも、これ以上迷うなら、ここで一曲踊るのも一興だろうか?
(恥ずかしい……いや、溟君……年齢考えようよ。君、僕達もうオッサンだから……)
 狼男のコスプレに身を包んでいた冥利は前を行く兄の背に肩を竦める。コスチュームは兄の指定。可愛らしいうさ耳ゴシックロリータドレスに身を包んだ溟曰く『SNS映え』を狙ったのだそうだ。
 強欲は強欲。どうせ記念撮影をするならゴール付近が良い。
「ねえ、冥利。植物燃やせるだろ? それでさっさと道作って」
「そんなことしたら薔薇が可哀想だよ」
 肩を竦めた弟に溟は使えないやつ、と小さく毒吐いた。二人の奇妙な迷路の旅はまだまだ続く。
「どっちが先に迷路抜けるか競争しよ?」
 ヴァンパイアを模したロリータドレスに身を包んだルアナはにこりと笑みを浮かべる。
「競争は良いが、吾輩は一度通った道は覚えられるのだが……」
 グレイシアの言葉にルアナがはっとした様に顔を上げる。「うう……。じゃあおじさまルアナの前歩くの禁止……」だなんて、そんなことを言えば競争にならないのだけど。
 そう知りながらもグレイシアはルアナを振り返る。迷ったときは彼女を助けて、彷徨い歩くのもまた一興――疲れたら美味しいお菓子を差し出してやろうではないか。

●アリスのお茶会Ⅲ

 ――僕は王さま、ハートの王さま
 しっぽのジャックと星の女王の手を引き乍ら、高らかに
 僕らはいたずら王さまパレード
 さあ、笑って! 僕らは笑顔が大好物なんだ!

 ――オイラはジャック、いたずらジャック
 合言葉を言われたら、お菓子と一緒に悪戯を!
 おもちゃのクモやトカゲたち
 笑えや叫べ! 王さまパレードのお通りだ!

 サンティールと、ジェルソミアに両手を引かれ。
 アイヴィの花冠にお人形さんみたいなピンクのドレス赤いハートのブローチをつけた女王様――エステルが華やいだ笑顔を見せていた。

 ――そこのけそこのけパレードが通る
 しあわせ笑顔をふりまいて、お星様の形の薄荷糖で皆を祝福してあげる!
 さぁ受け取って?『星の妃』の祝福を
 皆に佳い夢が訪れますように!

「あらあら。元気な方が沢山居るみたいね。食器も何もかも……ふふふ。
 ……いっそ、私も、参加してみようかしら」
 即興のパレードにトランプ兵達が踊り出し、食器がガタガタと飛び跳ねる。
 乗りかかった船、と小さく――しかし通る声で歌い出した舞姫に、トランプ兵達が愛嬌たっぷりのコーラスをした。
「うーん、盛り上げるなあ」
 呆れとも、感心ともつかない調子でリンネが呟く。
「悪いおばけが出る日だもの、本来は私の本業の日だよね?」
 そんな少女の口元には悪戯気な笑みが張り付いていた。
 和装に狐の姿に変わった彼女は――そんな表情が良く似合う。
 この世界に、おかしな世界に広がる風景の全てが――彼女の獲物なのだ。
「おー、悪い顔してるな?」
「してるかな?」
 突然かけられた声に視線を向けるリンネはあくまで勝ち気な雰囲気である。
 悪いものは祓うし、転がる南瓜のクッキーは頂こう。
 怪しさで言えば負けていない――仮面姿のクロバは何時もと少しキャラを変えて恭しく「失敬、大変魅力的の間違いで」と冗句めいた。
「……何か、遊んでばっかりな気がするけどね!」
 本来の任務は何処へ行ったのやら――でもまぁ、今日はそういう日だから。
 真白のふんわりとした白兎の着ぐるみを身に纏いリゲルはポテトの片手をとり恭しくお辞儀した。
 空色のワンピースに白のエプロンドレス――白兎のエスコートに答えたアリス、ポテトは柔らかに笑みを浮かべる。
 そっと手を引けば跳ねる様に踊りだす。ここは不思議なダンスフロア、パーティー会場の喧騒でリゲルは「アリス」と冗談めかして呼んだ。
「不思議な夜は楽しい?」
「勿論」
 白兎のエスコートは何処までも面白おかしく。手を引かれ、もふもふとしたその体に収まればポテトは小さく息を飲む。
「ハロウィンの魔法は今宵限りだけど、これからもずっと一緒だよ!」
 嗚呼、そんなの――当たり前だろう?
「アリスの茶会ですね」
 ナイフを投げればローストチキンの腹へと刺さる。叫び声を上げるそれに驚くなずなにノインは「さあ、どうぞ?」と柔らかに微笑んだ。
「ええ、アリスは好きなお話です。けれどもこれは帽子屋さんが開いたティーパーティーでしょうか?」
 そんな冗談にノインは確かに、と彼女を席へと誘った。踊るポットが紅茶が欲しいかしらと問い掛ければ二人はそれに応じて見せる。
「腹ごしらえができたら、一曲踊って――」
 言いかけたなずなの唇にノインの指先が添えられる。は、と息飲む声を聴きノインは「手が滑りました」と意地悪く笑って見せた。
「そういうのは男の方が――ね? 俺と踊って下さいますか?」
 手の甲へと落ちた口づけに。ああ、そんなのってずるい。
 蝶々のアイマスクに人形姫のマーメイドドレス。幻は壁へととん、と肩を吐き息をつく。
「お姫様」
 黒のタキシードにシルクハック。プレイグマスクを身に着けたジェイクに幻はゆっくりと瞬いた。その姿は、嗚呼、誰か分かれど魔法にかかって別人のようで。
「一緒に踊ってください、お姫様」
 手を取って、甲に降った口づけ。花を手折る様に腰を折り落とされたそれに幻の頬に熱が登っていく。心の中のありかたはどうにも違っていて。
 ――嗚呼、まるで、まるで彼の全ては甘い毒のようではないか。毒がじんわりと侵食していくのだ、触れた指先から、頭の中まで。
「はい」
 確かめる様に告げればゆっくりと手を引かれる。音楽に合わせて今日は暫しこの毒に溺れて居よう。
 愛しい音色を奏でながらコルマはハロウィンを愛しむ。恋人たちにはどの様な音楽がお似合いだろうか、甘い甘いチョコレイトのようにどろどろ溶ける情愛か、はたまたキャンディのように口内弾ける刺激であろうか。
 幻とジェイク。二人に視線をやってコルマは云う。今夜はハロウィンだ。魔法にかかって踊りあかそう、目を伏せて、歌を歌えばそこにあるのは只の二人だけのダンスホールに変わるはずだから。
 黒い翼は今日の為。黒い髪だって今日の為。グラス越しの景色だって眩く見えるのだから。要は聞こえる音色に合わせて踊りだす。
 彼女は今日は『彼』のような外見なのだから、誹りも詰りも受け付けない。だって、楽しい夜だもの――ああ、けれど。
「よしっ、音楽隊のみんな、これ持ってあいつらに攻撃だ!」
 仮面をつけたオペラ座の怪人は水鉄砲を取り出して踊る要を狙うのだ。レミナスのその一声に「Nにい」と要が声上げる。
「反撃だー!」
 踊るリズムは崩さない。ほら、お皿もコップも面白がって彼を狙って狙って。まだまだ音楽は終わらないのだから!
「思い出に残る夜にしようぜ、ララ」
「う、うん……が、がんばる……」
 今日はローブで身を隠すのではなくドレス姿。ララはリオンの言葉に頬を赤くし小さく頷いた。近づく食器たちが『かわいいかわいい』とララへと騒ぎ立てればリオンはにい、と口角を上げる。
「だろ? 自慢の彼女だ」
 その言葉にかあ、とララの白い頬には熱が上がってゆく。思わず後ろで小さく小突いたのは彼女なりの照れ隠し。
 喧騒から隠れる様に食器たちに手を振って、リオンが口にした合言葉――甘いお菓子も良いけれど、欲しいのはもっと別の物。
「トリックオアトリート」
 リカナへと楽し気に告げた亮はお菓子を求める様に手をさっと差し出した。特徴的な十字の瞳孔が悪戯に細められ、漆黒の魔女は「あら」と小さく笑う。
 宵の色のローブを引き摺って、その端から差し出したパウンドケーキの包みは過激な悪戯の気配を帯びている。
「どうぞ。『トリート』よ」
「おっ、いっただきま―――!?」
 パウンドケーキから感じた風味に亮が思わず、うう、と声を漏らす。嗚呼、だってそれは魔女の悪戯なのだもの! トリートだけだと思った? 勿論、トリックもあるわ!
 学生帽の鍔に指先触れてグレイルは静かに息を飲む。マントは何処からか吹く生温い秋風に揺らされ、学徒の衣装を際立たせた。
 学生鞄から取り出した甘味を配りながらも慣れない祭りは彼の白い肌を僅かに赤くさせる。顔を隠す様に帽子を深く被りなおした彼の前にめかしこんだラーシアが立っていた。
「こんばんは」
「こんばんは。以前はありがとうございました」
 盛夏の残照は冴え冴えと、生者の息吹きさえ感じさせた緑の野山への歓迎を告げるグレイルにラーシアは又参りましょうねと柔らかに笑みを溢して。
 フランケンシュタインの格好をしたリドツキは「アルエットちゃん」とひらりと手を振る。
「トリックオアトリートなのよ。素敵なお答えを待ってるのっ」
 元気いっぱいに告げるアルエットにリドツキは待って居ましたと口角を上げる。科学者たるリドツキの準備するお菓子はサイケデリックな風貌をしどこかおどろおどろしい。
「味には期待しておくれ」
 冗談めかして告げるリドツキはさあ、次は誰に手渡そうかなとゆっくりと周囲を見回した。
「トリックオアトリートなのです~。お菓子、イッパイ食べたいのです~」
 お菓子をくれなきゃ悪戯するのです、とフルルは頬を膨らませる。美味しいケーキにクッキーたちが食べたい? と問い掛ける声を聴きながらフルルは柔らかな頬に手を添えた。
「お菓子くれなきゃお顔をマシュマロみたいにむぎゅーっとしちゃうのです~」
 合言葉を耳にしてマッドは「うむ?」と首を傾げる。フルルの『マシュマロ攻撃』を最初に受ける事となったマッドは「おっと」と小さく笑った。
 トリックオアトリート――そんな言葉は生憎聞いたことがない!
 トランプ兵たちが楽し気に告げるそれを聞きながらマッドは見た事ない食べ物を喋り続ける皿へと取り分けていく。
「俺が居た世界では食べた事がないものばかりだな」
「ああ、こんなにも走るローストチキンも、こんなにも叫ぶケーキなんて食べた事がない! 奇妙で、そして愉快だ!」
 百花は両手を打ち合わせからりと笑う。ハロウィンパーティーは奇妙で愉快で、何処までも面白いに限る。
 トランプ兵のトリックオアトリートに百花は「生憎持ち合わせがないのだよ。誰か助けてくれないかい?」とくるりと周囲を振り返る。
「トリックオア、トリー……ト?」
 こて、と首を傾げたチックは死神の仮装に身を包み、「お手伝い……したいけど……」とぱちりと幾度も瞬いた。
「沢山のお菓子がある……よ?」
「ああ、確かに。合言葉に返すには面白みはないかもしれないが、ここにたくさんのお菓子が溢れ出るじゃないか!」
 百花にチックはこくり、と頷いた。くすくすと笑うティーカップに瞬いて。踊るティーソーサーに手を伸ばす。
「歌と踊り、とっても上手。良ければもっと、聞かせて欲しい、な」
 修道女のコスプレ――はたまたそれは神託の少女か。特異運命座標たちならば彼女を知るが故にそうなのだと感じる事だろうが街の人々ならば普通のシスターだと判断するのか。
 Oneは『修道女』の衣装に身を包み、黙々とテーブルの上に並んだ料理を食べ続ける。
「おいしい」
 幾重にもぽこぽこと音立てるソーダ水の中でフルーツたちが溺れないと跳ね続けるフルーツポンチにたっぷりのクリームを絞り続ける生クリームタルト。
 鮮やかな色味を誇る様に私を見てと謳い続ける苺のゼリーを手に取って楽し気に歌うスプーンを握りしめるOneの端的なグルメリポートは続いていく。
 銀のスティッキを地面について黒のハットを抑えたレイヴンは口元から尖る牙を漏らす。指先で突けば湧きあがる赤い血色のワインを楽しめば、何処からともなく人の気配がやってくる。
「トリックオアトリート」
 ジャックオーランタンのコスチュームに身を包んでいたシュクルは折角だとレイヴンに笑みを溢した。料理も菓子も悪戯も存分に楽しむというシュクルの声に応じて「トリックオアトリート」とレイヴンは柔らかに返す。
「お菓子も用意したぜ!」
「甘そうな匂いがするな?」
 胸を張るシュクルが俺は食べられないぞ、と吸血鬼に慌てた様に声上げる。血色のキャンディはないかと乞うたその声に、勿論だと一つ飴玉を差し出して。
「火を燃やせない、深い海の中では食べられないものばかりで面白いですの」
 ぱちくりと瞬いてノリアは全て味見したいなと伸ばしかけた手をぴたりと止める。普段であれば気にしなかったかもしれないが、彼女は今日魔法にかかっているのだ。
 なぜかわからないけれど妖精譚は彼女の姿を大人にしてしまっていて。ちょこりと乗せた魔女帽がずれないようにと鰭で直して彼女は首を振る。
「いけないですの。淑女……淑女ですの」
 全てを味見するなんてはしたない、と鼻先を僅かに揺らして。そんな彼女をお皿たちはいいのよいいのよと楽し気に促した。

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