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シナリオ詳細

<黄昏の園>月の輝き

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――どうだ、クワルバルツ。この地は美しいだろう。
 ――ベルゼーの作りし宝だ。そして私もこの地は愛おしい。
 ――何物にも代えられぬ唯一無二の世界だと思わんか。
 ――お前もそう思うだろう? なっ? そうだと言え。何? なんて?
 ――ちょっと教育が必要そうだな。逃げるな、オラッ! くたばれえええ!

 それは。『薄明竜』クワルバルツにとって懐かしき記憶であった。
 己がまだ幼少と言える程の彼方の記憶――
 クワルバルツの傍には、ある竜種が常に在った。
 それが――月宮竜。
 其の名は天帝種の一角として、かつて輝いた者の異名であった。天帝種とは『特別な血脈』に当たる竜達がそう呼ばれており、今現在の六竜と呼ばれる者達だけがソレに当たる訳ではない。そもそも彼らとて無限に時を生きてきた訳でもないのだ。
 場合によっては代替わりをした者も存在する。
 そして月宮竜とは『薄明竜』クワルバルツの先代たる竜。
 美しく、気高く、暴力的で、すぐ竜マウント取って来て、非常に大人げなくて。
 だがクワルバルツにとって絶対的であった存在――
「だが、あの方はいなくなられた」
「つまり死んだって事――んぎゃー! 姉御、痛いッ!! マジ痛い――!!」
 されど月宮竜は消えた、と。語るのは当のクワルバルツだ。
 まだクワルバルツが幼かった頃の話である……月宮竜はある日突然に姿を消したのだ。
 理由は一切分からない。あの方は、何も告げずに消えられた。
 痕跡は欠片も掴めず未だ行方は不明である――
 長年の時を生き天帝種に仕える竜エチェディも『私も存じ上げません。時にふらりといなくなられる御方ではありましたが……此度は永ぅ御座いますな』と知らぬとか。
 死んだのか? 竜とて死ぬ時は死ぬ。病か、寿命か。
 故にクワルバルツを慕う『金剛竜』アユアが気軽に『その場合』を口にするのだが……額にぶち込まれたデコピンがアユアを悶えさせる。分かっている。もしかしたらあの方は、何がしかの理由で死んだかもしれない。或いは死期を悟って誰にも見られぬ地へと移ったのかもしれない。
 だが、だが。
「死んだとは限らん。あの方はどこかにいると――私は信ずる」
 クワルバルツは月を見据えながら、吐露するものだ。
 偉大なるあの方が死ぬ筈はないと。
 故に――私はあの方の愛したこの地を護る。
 あの方がいつかお戻りになるまで。
「うう。と言っても姉御……この前人間共が通ったばっかりで」
「やむを得まい。我らだけの失策ではない――
 この地を荒らすなら殺す。だがそうでないなら好きにさせてやれ」
「えっ!!? 姉御がそんな事を言うなんて珍しい!!
 これはさては明日は隕石でも降って……んぎゃー!!」
 再びデコピン。アユアを強制的に黙らせる――
 クワルバルツがラドンの罪域の攻防戦で出てきたのは、先代が愛したこのヘスペリデスを人間共の土足に荒らさせぬ為だ。だが、人間共の歩みの方が上回ったのか……連中は遂にこの地へと到達してしまった。最早その流れを止める事は出来まい――
 ならば、もうよい。
 好きにするがいい。ベルゼーを探したいのなら探せ。
 私が許さぬのは――この地を踏み荒らす事だ。

 『――クワルバルツ。人間にも時折、面白い者はいるものだぞ』

「…………」
 と、その時。
 クワルバルツは先代のかつての言葉を思い出していた。
 先代は……竜として気高い御方だった。しかし、一人だけ。友――という立場かは分からぬが――比較的近しい『人間』がいたような素振りを見せた事がある。故、か。あの方は人間をあまり舐めるものでもないと、微笑む事が何度かあったか。
 人間。お前達の魂に、竜の瞳を眩ませる何かがあるというのか。
 ……だが関係のない話だ、私には。
 そうだ、関係ない。確かに幾人か『名』を覚えた者はいる、が。
 至上を忘れた事はない。私は、ただ護るだけだ。
 あの方の愛したこの地を。
 あの方がいつかお戻りになるまで。

 もう一度あの方の手の平の暖かさを、知りたいから。


 前人未到とされるピュニシオンの森……を超えた先。
 其処にはヘスペリデスなる地が広がっていた。
 此処が――覇竜領域の深奥なのか?
「少なくとも、只なる地ではなさそうだな……見ろ、向こうには遺跡、か?」
「何か建造物っぽいのも見えるね――あくまで『ぽい』ものだけど」
 見据えるはブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)にスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だ。空には美しい月が浮かんでおり、夜であるにも関わらず遠くまで見通す事も叶おうか――
 暴風暴雨であったラドンの罪域と比べ此処は穏やかだ。
 遠目にはブレンダが言った様に、遺跡の様なモノも幾つか見えている……此処に住まう竜が作ったのだろうか。それとも天然に作られたモノか。
 まぁいずれにせよイレギュラーズ達が此処に訪れたのは、あらゆる意味で『調査』を行う為である。
 この地の情報はない。風光明媚なる地であるというのが分かっているだけで……地理の情報は一切ないのだ。ベルゼーを将来的に探すのだとしても、まずは己らの目で見てヘスペリデスを理解せねばならぬ。と、同時に。
「『女神の欠片』を探すのだったか。さて、分かりやすくあればいいのだが」
「不思議なものだね、たしか……お守りになるんだっけ?」
「さて。齎された、情報なだけ、だからな。どこまで信じて、よい事やら」
 ラダ・ジグリ(p3p000271)は想起する。珱・琉珂(p3n000246)の下に舞い込んだ情報――『女神の欠片』なるモノがヘスペリデス各地にあるという情報を、だ。ソレは話によればベルゼーの暴食たる根源を抑えるに役立つもの、らしい。お守り代わりにもなるとハリエット(p3p009025)は小耳に挟んだが……しかし、それは魔種たる人物から齎されたモノだ。
 純粋に信じてよいかは分からないとエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は思考しようか。ただ、もし滅びのアークに属し不吉を齎すものであるならば後からでも破壊は可能でもあろう。
 ならばヘスペリデスの調査がてら探してみてもよいと――琉珂からローレットへと依頼が舞い込んだのだ。
「ま。そういう事なら探してみましょうかね~? もーしかしたらクワちゃんもこの辺りにいるかもしれないし。うんうん僕センサーがビンビンに反応してるよ」
 そしてコラバポス 夏子(p3p000808)は空に浮かぶ月を見据えながら呟くものだ。
 なんだか『彼女がいる』気がすると。
 幾度も遭遇しえたクワルバルツ――あの気配が。
「クワルバルツ……ボクは、生きてますよ……! 約束、果たしてもらいますからね……!」
 然らばアイラ・ディアグレイス(p3p006523)も心の臓の鼓動が早まる。
 アイラも感じえているのか。あの竜の存在を。
 ならば果たすべき『約束』があると、彼女は思考を一つ。
 ……周囲、今の所は穏やかな地に見えるが此処は竜の住まう地。
 ならばクワルバルツがいても不思議ではない。
 同時にクワルバルツに懐いて傍にいたアユアも――だ。
 あぁ十分な注意は必要だろう。未だ竜は、強大な存在であればこそ。
 だが今日と言う日は、まるで静寂に包まれし水面が如く。
 もしかすれば

 空には月が浮かんでいた。
 輝かんばかりの――美しい月であった。

GMコメント

●依頼達成条件
・ヘスペリデス周辺の調査
・『女神の欠片』の確保

●フィールド『ヘスペリデス』
 広大にして、風光明媚な光景が広がっている地です。
 この地はかつてベルゼー・グラトニオスによって作り上げられたのだとか――
 時刻は夜。ただ今日は美しい月が出ていますので、左程視界に問題はないでしょう。
 林の中に一本だけ大きな樹があり、その根元に後述する『女神の欠片』が存在しています。周囲は眠っていたり起きていたりするワイバーンがいますので、彼らを退ければ手に入れるのは容易でしょう。

●『女神の欠片』
 ラドンの罪域を攻略した末に齎された情報で、ヘスペリデス各地に散らばって存在しているモノです。話によると『持っていれば何時か良き未来に辿り着きましょう』との事らしいですが、現時点で効果などの詳細は不明です。
 此処にあるのは手に収まる程度のサイズの結晶体です。
 手に触れるとなんとなく温かさを感じるかもしれません。

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●敵戦力
●亜竜『ワイバーン・デューン』×8体~
 ヘスペリデスに住まう亜竜の一種です。目的である『女神の欠片』を護っているのでしょうか、周辺で姿が見受けられます。しかし皆さんの存在に気付いている訳ではない様です。時刻が夜だからか、眠っていたり起きていたりする個体とまちまちです。
 奇襲すれば先手を取って打撃を与える事が出来るでしょう。
 なお、初期で確認されているのは8体ですが、戦いが長引くと騒ぎを聞きつけて数が増える可能性があります。

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●NPC情報
●『薄明竜』クワルバルツ
 天帝種の一角。薄明竜と謳われる竜種です。
 今回舞台となる場の近くにいる様です。戦闘の気配を感じ取れば様子を見にくることでしょう――ただ、今回は戦意がないのか、クワルバルツは戦闘を行う意思はないようです。もしかしたら対話ぐらいは出来るかもしれません。
(ただし絶対ではありません。行動次第では分かりませんのでご注意を)

●『金剛竜』アユア
 将星種の一角。金剛竜と謳われる竜種です。
 クワルバルツに懐いており、ちょこちょこ周囲にいます。比較的年若い竜種でありクワルバルツの『先代』の事に関してはあまり知らない様です。また、今回はあまり戦闘する意思はないようです。多分。

●『月宮竜』ゲルダシビラ
 クワルバルツの『先代』と言われる天帝種でした。
 非常に美しい女性型の竜で、月の輝きが強い時ほど比例して強大な力を行使できる存在……だったそうですが、ある日行方不明になったそうです。理由や原因は今でも分かっていません。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏の園>月の輝き完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月03日 23時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
シラス(p3p004421)
超える者
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

リプレイ


 穏やかに見える周囲の景色。
 されど『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はどこか――落ち着かぬ。
 胸の奥底で何やら疼く感覚があるのだ……これは。
「竜の気配の性でござろうか――ヘスペリデスは彼らが住まう地。油断は出来ぬでござるな」
「月が美しいだけの日、では終わらなさそうだね……さて、何が起こる事やら」
 近くに強大なる存在がいる為かもしれぬ、と。『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)もまた警戒しながら歩を進める事としよう。夜を見通す力を宿す目薬を瞳に点し、ウィリアムは周囲へと視線を巡らせる。
 同時に咲耶はファミリアーの力で召喚せし使い魔を用いて索敵警戒。
 如何なる方向から干渉があっても対応できるようにと――さすれば。
「竜の、里か」
 天に浮かぶ月を眺めながら『竜剣』シラス(p3p004421)は呟くものだ。
 ――ヘスペリデスは人の建造物のようなものまである。あくまで建造物『のような』ものであり、近くで見れば歪というか真似をした様なものというか……竜基準の建造物、というべきものであるが。しかしこれまでの覇竜領域と比べるとかなり異質だ。
 どこまでも只人を跳ね除けるか岩肌の山脈。どこまでも広がる大森林。
 それらとは一線を画す領域――それがヘスペリデス。
「慎重に進まないとな。竜種の住処……荒らしたら怒り狂う奴もいそうだ」
「――クワルバルツ。ラドンの罪域でもいましたし、ね」
 故にシラスは余計な闘争を避ける為、自らの存在を闇に蕩けさせる。気配を殺し、自らの位置を敵に悟らせぬようにするのだ――同時に『生命の蝶』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)は目的地と思わしき近くにまで至れば、周囲の地形を保護する結界を巡らせんとしておこうか。
 以前の戦いで激しくぶつかり合ったクワルバルツ――
 彼女からはこの地を護らんとする硬き意志が感じられた。この美しい大地があったが故にだろう……ならばクワルバルツが大事にしてる地を傷付ける訳にはいかぬと――アイラは思考を重ねる。
(ボク達が迂闊に壊す訳にはいきません。だって、ね。きっと近くにもいるでしょうし)
 姿が見えている訳ではない。だけれども、アイラは確信していた。
 どこかに――クワルバルツの魂の鼓動を感じ得ると。
 幾度も交えた命のやり取りがアイラに直感的なモノを感じさせているのだろうか。ああ、うん。でも思うものだ――全く、彼女は逃げ足が速いというかお帰りが早いというか! 重要な所で最後までしてくれない!
 別にそんなところも嫌いじゃありませんけどね。ほら、女の子ってちょっとお茶目なくらいが良いって言うじゃないですか? え、言いますよね? 違う? …………ま、まぁともかく!
「間違いなくこの辺りにクワルバルツはいます! 多分!」
 何回も戦って嫌がられてきたボク達が言うんですもの。絶対、きっと、多分、もしかしたら、いる!
「でも、こんなに綺麗な月が出てる日だし……もし出会えても今日は戦いたくはないかな」
「守りたくなる気持ちもよく分かる風光明媚な地だしな。
 あぁ、もしも互いに全力を出し合えば……この地も無事ではすむまい」
 そして『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)や『猛る麗風』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)もクワルバルツの存在をなんとなく察しうるものだ。
 であれば誰かが大事にしているモノは尊重すべきであろう、とブレンダは想い馳せる。
 かつて死合った事がある存在であろうとも、踏みにじるべきでないモノはあるのだ。それこそが誠意と……そしてスティアは近場に住まう精霊に女神の欠片の位置の調査を託す。恐らくこの先にあるだろう、が。なんらか敵性存在がいるだろうと予見して調査の手は怠らないのだ。
 ――進んでいく。一歩一歩、少しずつ。
 さすればすぐにでも見えてきた……女神の欠片の力が、木々の狭間に確認出来て。
「あれが……女神の欠片、なんだね。良き未来に辿り着ける欠片。
 ……持ち主だけじゃなく、皆が良き未来に辿り着けるならいいのに」
 ソレを遠目に見据えるは『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)か。話に聞いたところによれば、アレを集める事こそが良い未来への導に――との事だが。しかし誰かが思う『良き未来』は……必ずしも他の誰かにとって同じモノとは限らない。
 ……平和なんてのは目指せば手に入る簡単なものじゃないんだろうなぁ。
 軽く思考を深めながらも、頭を振ってハリエットは眼前に集中を取り戻そうか。
 何はともあれ欠片を確保しなければ始まらないのだから。
「――さて、行くか。上手い事向こうも気付いてないみたいだしな」
「起きている個体も、いるようだ。先手を取れる内に、優位な流れは、掴んでおきたい」
 故に『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は足音を忍ばせながら戦闘の準備を整えようか。イレギュラーズ達の複数の調査と、気配を殺す手段によって亜竜達は接近に気付いていない様だ――この機を逃す理由は無い。『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)も配置について皆と動きを合わせんとする。彼女に宿る優れた三感が女神の欠片の位置のみならず、敵の所在も教えてくれようか――
 亜竜らの意識を突くべく。一拍、二拍……そして。
「僕等は文化的にヤれるからねぇ。蛮族じゃないって所、見せてあげましょっか」
 『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)が保護なる結界を展開。
 周囲を包んだと同時――亜竜達の注意を引き付けるべく、跳躍した。
 さぁさ始めようか。ド本命が来るまで……暫く共に興じよう!


「ここを守ってるんだね。突然押しかけて悪いけど……退いてくれないかな」
 あまり傷つけたくないんだよね――と、紡ぐのはハリエットだ。
 あくまで目的は欠片の確保。彼らが退いてくれるなら殺す必要はない――けれど。
 亜竜らは一切聞く様子を見せない。撃を仕掛けてきた人間達を追い払わんと動きを見せるばかりだ……まぁ平和的に接触を試みようとしても、彼らはどうせ同じような動きを見せていただろうが。
 吐息一つ。零してハリエットは引き金を絞り上げよう。
 天より降り注がせる銃撃が彼らを覆う――そして。
「連中が全員目覚める前に、叩き込んで、おくぞ」
「寝ているところ悪いが少し大人しくしてもらおうか! 我々は其処に用があるのでな!」
 エクスマリアが更に天より隕石の波を降り注がせ、ブレンダは先の夏子とは別軸より亜竜らの敵意を引き付けんと立ち回る。連中に無秩序な反撃を許せば、それだけ周辺の被害が増えるかもしれないのだ……故に可能な限り反撃の方向性を限定させる。
 であれば、突然の強襲にまだ事態を掴めていない亜竜も多数。
 浮足立っている所へと――更に。
「結界を張ってくれてる所に縫い付けないとね……! 抑え込んでいくよ!」
「就寝中の所悪いね。何、取って食ったりはしねえよ。少なくとも俺達はな」
「見えない所から新しいのが出てこないとも限らない。気を付けて」
 亜竜らの耳に響く旋律が響き渡った――スティアの福音たる証だ。
 直後には彼らを掃う光をも用いて畳みかけて行こうか。眩き光に目が眩んでいる隙を突いてアルヴァの一撃も飛来する。それは魂より放たれし孤高の咆哮――亜竜らの意識をかき乱し、己を狙わせんと縦横無尽に立ち回る。
 そしてウィリアムの支援も齎されようか。彼は咲耶やアイラに戦いの加護を齎しつつ、同時に治癒術をも降り注がせる。竜を引っ張り出す事も目的であれば、わざと長引かせる必要もあるのだからと――
「おら、何体でもいい。じゃれたい奴から掛かってこい! 遊んでやるよ!
 ――ただし噛んでくるつもりなら、噛まれる事も覚悟しろよな?」
 直後。アルヴァは追いかけてきた亜竜の喉へと光纏う一撃をぶち込んでやる。
 自らに纏いし戦の加護もあらば彼の力は万全な状態だ。
 寝ぼけ眼な所を起こされた亜竜の撃などなんぞやの脅威であろうか――
「そーそー。寝ててくれたら手出ししないし。
 無理め? 睡魔に負けといてほしいんだけどなぁ」
「元より言の葉が通じぬであれば、厳しい所でござるか……然らば御免ッ!」
 夏子はそのまま横薙ぎの一閃。亜竜の顔面に振りかざしてやれば――直撃と同時に鋭い音と光が瞬こうか。怯む刹那を見逃さず、咲耶もその意識を刈り取る一閃にて亜竜を沈黙させる事を試みていこうか。
「ワイバーン共の足並みは乱れたままだ。行けるぞ、押し込むッ」
 更に夜闇に紛れていたシラスも一気に接近。
 鉄塊すら打ち砕かんばかりの蹴撃を亜竜の頭蓋へと打ち込めば、そのまま跳躍。体を捻りながら空を舞う彼は眼前に見えた三体の亜竜らを瞳に捉え――魔力の軌跡を紡ごうか。三つの閃光が宙に光り輝きながら、高速に飛来。
 着弾と同時にその身を大きく揺らがせる。
 ――が。それらはあくまでも殺さずの意思と共にある。
 それもこれも『竜の住処』を荒らさぬ為、だ。竜の価値観は分からぬが……
(人間だって領内の動物を勝手に殺し回られたら――気分が良いもんじゃねぇよな。
 竜だって、その辺りは同じなんじゃねぇか?
 全く……今回は『お行儀よく』しておかないとな……)
 縄張りや住処を持つのであれば、その辺りの感覚に似通る所はあろう、と。
 故に不必要な殺害や地形の破壊はせぬ様に心得るものだ。それはシラスだけ、ではなくイレギュラーズ達の基本方針……いずれもこの地の近くにいると思われる『竜』を意識しての事。
 暴れ続けていれば、いつか勘付こう。その時こそが――本番だ。
 と、女神の欠片の事を探っておくのも忘れない。大樹の下にある、感じ得る力……
 アレがベルゼーに関わるモノだというのか。
 確かになんぞやの神秘は感じるが――さて。ゆっくり探るのは後になるだろうか、と。
 そして戦いの勢いは完全にイレギュラーズ側にあった。
 亜竜らも牙と爪をもってして反撃を行うも、奇襲された事もあって態勢を崩す程の勢いはない。あらゆる角度から攻め立てられ一体、また一体とその動きを淀めていく――
 ある程度の傷などウィリアムやスティアの治癒術が即座に回復してしまい。
 亜竜の鱗などアイラやブレンダの剣撃が貫こう。
 夏子が引き付けた個体へとシラスや咲耶が強襲すれば、意識の薄い箇所から痛打を浴びせる事も叶う。駄目押しにハリエットの狙撃やエクスマリアの光撃、アルヴァの嵐の如き攻勢が畳みかけられれば――
「てめぇらじゃ相手にならねえよ、どきな」
「よし。このまま行けそうだね。後は……」
 終わりを迎えんとするものだ。更にアルヴァは竜の鱗の欠片を亜竜らに見せつけようか。流れを掴んだ今であれば、連中を気圧す材料の一つになるのではと。そしてウィリアムは弱ったワイバーンへと一撃叩き込むものだ。
 魔力の奔流が襲い掛かれば体力の削れた個体などなにするものぞ――
 打ち倒し、即座に仲間への援護の為に活力を満たす号令をかけんとすれ、ば。

 ――刹那。感じえた気配は亜竜などとは比べものにならぬ存在。

 来た、と本能が警告を鳴らした。
 何が、とは問うまでもない。
「来ましたね――クワルバルツ!」
 亜竜を一体、氷の魔力より形成した剣で一閃したアイラの瞳が、天へと向いた。
 彼方に浮かぶ月が微かに影で隠れた。
 天に浮かぶ存在がいたから。それは竜種。それは彼女の心がざわつく存在――

「見た顔が幾つかあるな。こんな所まで来るとは、好奇心で死ぬつもりか?」

 天帝種が一角『薄明竜』クワルバルツであった。


 亜竜は最早戦意を喪失していた。それは数が半分以上に削れた事もある、が。
 圧倒的に『違う』存在である――竜が飛来した事が大きい。
 怯え竦み、どこぞへ逃げんとする個体が出始めようか。しかも。
「姉御ー! 姉御ー! 人間がいますよ、殺しますか!!」
 一体だけに非ず。二体目も現れる始末だ。
 『金剛竜』アユア。クワルバルツに懐いている比較的若い竜種――
 しかしそれであっても亜竜など歯牙にも掛けぬ力を宿している。
 彼女らが全力で暴れればこの辺りは更地になるだろう――しかし。

 ――此処で暴れたら殺すぞ。

 無言の殺意がアユアを留める。此処はクワルバルツにとっても縁深き地……であるが故に、無為なる破壊行動を許さない。そういう意味では人間達の乱闘も同じ、だが――
「夜分にこの地を騒がせてしまい誠に申し訳ござらぬ。拙者は如月と申す者、ベルゼー殿の暴走を抑える手がかりとして女神の欠片を探しに参ったのだ。此方に交戦の意思は無し――どうか此処では互いの争いは不要であると考えるが、如何か?」
「ああそうだ。俺達はヘスペリデスを荒らしに来たんじゃないってことは分かってくれないか? 耳を貸してさえくれるならばいくらでも説明する。もしも刃を交えるとしても……誤解されて、ってのは勘弁な所でな」
 咲耶にシラスがまず言葉を重ねた。それは不戦の言である。
 此処で六竜の一角と戦うつもりはない。それはまごう事無き本心である。
 念のため『最悪の場合』を想定しつつ両名はクワルバルツへ語り掛けて。
「クワルバルツ、今回はこちらに君と戦う意思はないよ。ここを荒らすつもりもない。
 ――其方も気付くだろう? 我々の動きには、闘争は宿っていないと」
「……フン。確かに、お前達の目的は戦いではないようだな。
 女神の欠片が欲しいのならばくれてやる――それをもって早々に去るがいい」
 そしてブレンダも同様にクワルバルツへと意志を繋ごう。
 然らばクワルバルツも気付くものだ。人間達が周辺環境に配慮しながら戦っていた事に。
 人間らの目的は別にある事に。
 アイラや夏子の張っていた保護結界は大きな役目を果たしていた事だろう。クワルバルツも斯様な力が張られている事に気付いたのか――であれば此処で一戦交える理由はない――クワルバルツにとって女神の欠片にそこまで執着はないのだ。
 連中が此処で暴れない方が最重要。故に威圧こそすれど、人間が何もせぬのであれば見逃していい、というのが彼女の心境だろうか。
「……成程な。これがクワルバルツ、か」
 その時、言を零れる様に紡いだのはアルヴァだ。
 ――ザビアボロスと同じ天帝種の一人、クワルバルツ。
 聞く処によれば『アイツ』より好戦的で痛みを好む、まるで真逆の存在。
 だが、同様に強大な存在である事には違いない。
 そう。練達の戦いで、アルヴァに深き傷を与えた……『地竜』の一撃は未だ記憶に深く刻み込まれているのだから。アレと同等だと思えば――アルヴァの身に震えが宿る。
(――あぁ、ったく。武者震いがしてくるもんだな)
 それは恐れか。それとも畏れが故か。
 だがアルヴァは目を逸らさない。決して、決して――だ。
 例え相手が竜であろうと……『認めさせたい』想いがあるのだから。
 人の力を。人の、強さを。
「クワルバルツ! また会えましたね――
 いつも沢山戦ってくれてありがとうございます、クワルバルツ。
 ボクは本当に、感謝しているんですよ。いつも楽しくて、充実しているんです。
 ほら、あんなに遠くのお月様も綺麗で……今日はお話日和、ですね」
「お前は――あぁ、アイラか。やれやれ、こんな所にまで来るとはな。
 まぁ。ラドンの罪域まで入って来たのであれば今更ではある、か」
「――あっ! 名前、呼んでくれましたね。ふふ、約束覚えててくれたんですね」
「――馬鹿を言うな。今のは偶々だ」
「何が偶々なんですか? ほら、折角だからもう一度お願いします!
 ふふふ。ボクは誰でしょうか! ほら! さん、はい!」
 次いで口を開いたのはアイラである。
 練達の戦いから深緑、そして覇竜へと――幾度も闘争を果たした一人が、彼女。
 未だクワルバルツの中で『人類』など地を這う短命種に過ぎない、が。近頃はごく一部に対し認識が変わり始めている。人間の中にも大層な者がいると……名と顔を覚えている者がおり正にアイラはその一人であった。
 そもそも竜と戦って生きている者など多くはないのだ。
 只人であれば絶対なる死が降り注ぐのみ。
 故に名と顔を覚える価値もなければ意味もなかった――だというのに。
「こんばんは、今日は月が綺麗だね。
 こうしてゆっくり話をするのは初めてかな?」
「……これまた記憶の片隅にある者だな、スティアだな。お前は。
 月か――あぁ確かに今日は綺麗な日だ。戦うには相応しくない」
 話しかけてくるスティアもそうだ。クワルバルツの一撃を受け止め生き残った存在。
 自らを竜種として、人類など歯牙にも掛けぬ存在であると思っているからこそ――そんな者はあり得べからざる存在。クワルバルツの記憶に強く焼き付いている――
「ねぇ――貴女はこの地を大切に想ってるの?」
 そんな彼女が、何かを語り始めた。
 この地を大切に、だと? そんなこと――
「当然だ。此処こそ我が先代の愛した地。私が永劫守るべき地だ」
「そう。やっぱりね。なんとなく、今までと何か違う気がしたから。
 安心して。私達はこの地を荒らす気はないよ。いやむしろ――」
 どちらかと言うと守りたいと思っているかな?
「ベルゼーさんがいつか暴走するかもしれないって話があるんだ。
 だから止めたいんだよ、私達は。その為に女神の欠片も探してるんだ。
 ベルゼーさんが暴走すると……友達が悲しむって分かってるからね!」
「……誰に伝え聞いたか知らんが、人間如きに本気のベルゼーが止められるものか」
「では竜であれば止められると――?
 例え可能であったとしても大層な苦労が必要であろう。
 ……あぁ、ここは月がよく見える美しい場所でござるな。此処が無事とも限らぬのでは?  ベルゼー殿やお主の先代も愛するこの地を暴食の暴走で失うのは忍びない。欠片の捜索に協力してくれぬでござろうか」
「たわけた事を抜かすな。お前らがお前らで探すのは自由だ――
 私がお前達に協力してやる理由などない。
 百歩譲って探すにしても、その時は私が私自身の意思をもって動くのみだ」
 であればこそクワルバルツとも『協力』出来ぬかとスティアに続いて咲耶も告げよう。
 ベルゼーは七罪冠位。例にもれず尋常ではない存在であろう――
 アレがもしも暴走すれば竜とてどうなるか。
 クワルバルツが、そしてその先代とやらが愛しているこの地も――呑まれるのでは?
 ……尤も彼女にも竜としての誇りが故か、人間と協力的になる気はないようだ。
 この場では争わぬだけ。他であれば知った事ではないと。
「はっ。成程な、クワルバルツ。そっちは未だ人を見くびってる訳だ」
 であればアルヴァは紡ごう。武者震いを抑えつつ。
「人は、強いぜ」
「ぬかせ。それは実際に竜に勝ってから言ってみろ」
「――あぁそうだな」
 ならいつか必ず見せてやるよ、と。アルヴァは瞳に強い決意を抱こうか。
 サビアボロスか、クワルバルツか。どちらかは知らねども。
 人の強さに限界などないと――必ず。
「それにしても先代、か。興味があるね。一体どういう竜だったのかな……」
「――月宮竜ゲルダシビラ様を知らんとはな。竜の里に文献も無いのか?
 いや人であれば当然の事か……あの方はもういなくなられて久しい。
 だが私にとっては偉大なる御方だ。あの方がいなければ私はいない」
「月宮……月に纏わる竜……?」
 直後。女神の欠片の確保を、精霊を通じて行わんとしていたのはウィリアムだ。
 後は周囲に変わったものが存在していないかも調べてもらおうか――此処は全く未開の地。少しでも情報が欲しいと……しかし周囲は実に穏やかにして整った地であった。まるで他の誰ぞの介入も許さぬとばかりに。これはクワルバルツが守護をしていたからであろうか。
 ともあれウィリアムはクワルバルツの言の節々からも思考を巡らせる。
 月宮竜ゲルダシビラ。月が、力に関わっているのだろうかと……
「先代、ね。随分思い入れがあるみたいだが……思い入れがあるからこそ単独で守ろうとするのは危険なんじゃないか? ベルゼーの事情抜きにしてもホドみたいな奴がまた出てきて横槍してきたらヤバいんじゃないか?」
「フン。奴が現れたら、今度こそ消し飛ばしてくれるわ。奴とも決着を付けてやる。
 その戦いに、人の力など不要だ」
 然らばシラスも――以前のラドンで見据えた竜であるホドを思い起こしながらクワルバルツへと語ろうか。ベルゼーの権能に対峙するには竜たちとの協力が望ましいのだ。だから何か協力出来る道筋はないかと……彼女にとって邪魔であろう存在の名を挙げる、が。
 当の彼女はホドなど眼中にもないとばかりだ……先代にまつわる地へと至るならば、全力全霊をもって消し飛ばさんとする殺意を秘めている――
「ほ~クワちゃんはいつだって強気だよねぇ。それも守るべきモノがあるから、かな? でもさ。ココの月は綺麗だけど、練達の月もきれいなんだ。今度一緒に見に行かない? 君達にやられまくった所も大分復興進んでるし」
「練達だと? あのよく分からん建造物が並んでいる地か」
「そだよそうそう。思い出した? めっちゃぶっ壊してたよね。
 ――ホントに綺麗なんだよ練達も、ね。
 君が護りたいと思った場所は、が踏み躙って来た場所と。つまる所は同じだよ」
 直後に言を繋いだのは夏子だ。思い起こさせるのはかつての激闘と被害の数々。
 夏子にしてみれば仮に竜が友好的だったとしても諸手を挙げて受け入れられる存在ではない。そもそも練達に一方的に襲い掛かって来たのが竜ではないか。好き放題荒らされたのを忘れてなどいない。力が無いとか報復がどうじゃなく、文化的な――

 ……まぁいいや。

 夏子は吐息を一つだけ零そう。そうして彼はいつもの様な表情に戻りて。
「ま、我々はどこだろうが無茶苦茶にしたりとか、そんな事しないけどね~
 ていうかクワちゃんも色んなもの、見て回ってみようよ。
 見て、聞いて、知っても良いと思うんよ。自分の目で人間も世界もさ」
「フン……人の理など、我々(竜)が知った事か。
 かの一件、文句があるならベルゼーに言うがいい。
 我らがわざわざ出でたのは奴の一声があってこそなのだからな」
「でもクワちゃんも自分の意思で従ったんでしょ? ていうかさ~何時も強気で色々言うケド、結局僕等も黙らないし。仲良くしてくれてんじゃん。友達っしょこれもう。噂のツンデレじゃん。ツン10デレ0じゃん!
 じゃあ偶にはデレちょーだいよ~ぉ、1ぃ~。1回だけでもいいからさ~」
「――やはりコイツら此処で消し飛ばしておくか」
「あああ姉御落ちついて! 暴れるなっていったの姉御ですって!!」
 夏子に重力の力を堕とさんとするクワルバルツ――を押し留めるアユア。
 さっきと立場が逆転している。そんなアユアだが、彼女は彼女で人類にやや苦い思い出がある。なぜならば以前の戦いで逆鱗を狙われた事があったから……
「久しぶりだ、な。逆鱗は無事、か?」
「ん? ぬぁー! この前の金髪野郎だな!!」
「野郎ではないが……まぁ元気そうで何よりだ。女神の欠片を、守っているのか?」
「あぁん? 俺はあんなチンケなモノ興味ないね。俺は姉御に従うだけだ!」
 然らばその『狙った者』であるエクスマリアがアユアへ言を。
 アユアは比較的若い竜種でもある。故にか、女神の欠片に対する認識は朧げなようだ……ただ彼女も彼女で『重要そうな代物』とは分かっているのか勝手に手を出したりはしない。クワルバルツの言いつけを護ってそのままにしている、と言った所か。
「こないだは仕方なかったとはいえずーっと狙い撃ちしてたからね。ごめんね。
 今日は戦う気はないから、安心してね? 大丈夫だよ。ね?」
 続け様ハリエットもラドンでの戦いを思い起こそうか。アユアの逆鱗、影に潜みながら狙ったものだ……であればアユアは『うーがるる!』と警戒心をハリエットにも見せようか。まぁ、謝ってどうにかなるとは思っていなかったが……しかし。
「ええと……あ、そうだ。私はハリエットっていうんだけど、名前教えてくれる?」
「人間に教える訳ねーだろ! 舐めんな! ぜってーアユアなんて名前は教えねー!!」
「そ、そうなんだ……うん。分かったよ。うん」
「ふむふむ……ところで、これでも、食べる、か?
 竜の好みは知らないが、不味くはないと思う、ぞ」
「おっ? なんだこれ、あー飴ってやつか。知ってるぞ。でも竜には物足りねーな~
 俺達が人間と同じ量で満足するかよ~!」
「ふむ、なるほど、な」
 ……逆鱗を狙ったのを気にしてるのか気にしてないのか、よく分からないが――ハリエットとは真逆のタイプだ。陽気にして元気一杯。思った事をそのままに喋り、自由気ままに世界を謳歌する。
 彼女は自由だ。どこまでも、どこまでも。
 同時、エクスマリアはそんなアユアへと瓶詰の飴玉を差し出そうか。味は……どうやら不満はない様だが量に不満があるようだ。人間の姿をしていれど彼女の本質は巨大なる竜。竜が喰らうものは相応な大きさか量も無ければいけないか――? 尤も、食べ物が与えられたからと流石に釣られるアユアでもないだろうが。
「……ね。もう少し話せる? 出来れば一杯知りたいな、アユアの事」
「ハッ!? なんで俺の名前を……気安く話しかけんな人間!」
 話そう。互いの事を知ろう。
 きっとその果てに、分かり合える間柄になれると信じて。
 竜と人だって、きっと手を取り合えると――信じて。

「アユア、その辺りにしておけ。人間共との語り合いもこれまでだ」

 が、その時だ。クワルバルツがこれ以上の語らいは不要とばかりに切り上げんとする。
「少し、口を軽くしすぎたな。
 人間よ。私が名と顔を覚えたからと調子に乗るなよ――
 私は人と馴れ合うつもりはない。お前達を見逃すのは、今宵の事情限りだと思え。
 次は殺すかもしれんぞ。命が惜しくば、ヘスペリデスにはこれ以上踏み込まぬ事だ」
「そうだぞ。今日は姉御が暴れるなってホント怖いから大人しくしてただけだからな! 姉御はマジでこえーからな! 噂に伝え聞く鬼神竜みてーだからな! ホント怖……ぎゃ――!!」
 一言多いアユアにデコピンぶちこむクワルバルツ。
 ――だが彼女らの言っている事に間違いはない。今日と言う日は戦わなかったが、次もそうとは限らぬのだ。いやむしろ場が此処でなければクワルバルツらはイレギュラーズと一戦交えていておかしくなかった。
 竜と人は、容易く交わらぬ。
 存在が異なるのだから――
「それでも構わない。クワルバルツ……また、剣を交えよう」
「物好きだな『ブレンダ』。精々剣の腕を磨いておくことだ。腑抜けていれば死ね」
「――あぁ必ず。必ず、だぞ」
 だが。ブレンダもまた諦めぬ。
 名は覚えてもらえたのなら欲が出る。次は敵として、友として認めてもらおうじゃないか。
 ――私は君の視界に入り、ちゃんと私を見てほしいのだよ。
 それこそがブレンダの望み。ブレンダの望みの果て。
 ここは美しい。だからこそ私たちの決着をつけるのはここではない。
 いつかきっと。互いにとって相応しき場所で相まみえよう。
 至高の果てで、共に。
「あ、クワルバルツ。ここの植物を少しだけ採取しても構いませんか? とっても綺麗な草花が多くて……もしダメだったら、この辺りでおすすめの場所とかあったら、教えてくれると嬉しいなあ……なんて!」
「好きにしろ。この地は全て至高だ。だが刈りすぎるなよ。
 根切りにしたら、アイラ。お前の首を根切りにしてやるからな――」
 そんな事しませんよ、えへへ!
 最後の最後、アイラはクワルバルツより許可を取り得るものだ。
 この地に自らの手を入れていいかと。
 きっとクワルバルツは、全く知らない者の手が入るなど嫌がる筈だ。
 だけど彼女は許してくれた。その意味は――きっと――アイラに対する特別、だ。
 クワルバルツはきっと、声に出しては認めたりなんてしないだろうけど。
「待ってくれクワルバルツ。最後に一つ……先代がいなくなった日、月は――」
「月? あぁ月は出ていたさ。とてもとても綺麗な月が出ていた日だ。
 あの日。あの方は誰にも負けぬ程の頂に達していただろう」
 と、その時。ウィリアムは聞きたい事があって呼び止める。
 やはり月に纏わる者か、と。そして月の満ち欠けで力が変わる……
 そんな彼女がどうなったか。気になる所ではあるが、もうクワルバルツは止まらぬようだ。
 尤も、クワルバルツの様子を見るに……先代の失踪は彼女も知らぬ、か。
「ねぇクワルバルツ。本当に協力出来ないのかな?」
「くどいぞ。竜が人と手を取るなどあり得ん」
「本当に? 今まで一度も、本当になかったのかな――?」
 刹那。スティアの言にクワルバルツの動きが一瞬だけ止まった。
 クワルバルツの脳裏に過ったのは先代の言葉か――

 『――クワルバルツ。人間にも時折、面白い者はいるものだぞ』

 だがクワルバルツは頭を振る。アレはきっと戯言だったのだ、と。
「少なくとも――お前が『そう』である訳はない」
「んん? やっぱり何か心当たりがあるっぽいね。いたのかな、誰か。
 私はさ、強いよ。貴女の技を何度も受け止めたの、覚えてるよね!」
「……次は本当に魂ごと消し飛ばしてやるから安心しろ」
「すぐに答えは出さなくてもいいけど――覚えてて。私は」
 貴女と手を取り合えたら良いなって思ってるよ。
 ――クワルバルツは答えない。何も答えず、竜の姿となりて飛び去って行く。
 続けてアユアもまた飛び去ろうか……あぁ。
「まだ、強さを見せたりないってか? ならいつか見せてやるぜ」
 ――人は竜すら超えうるって事を。
 クワルバルツにもザビアボロスにも、いつか必ず――
 アルヴァは誓う。天にか、それとも美しき月にか。
 竜種の住まう美しき地――このヘスペリデスそのものにか。
「いつか竜とも決着を付けるんだろうな。ベルゼーに近付けば……否応なしに」
「さりとてそれは今日ではない、と。女神の欠片を持ち帰りましょうぞ」
 そしてクワルバルツが飛び去る様をシラスと咲耶は見据えようか。
 その手には回収しえた欠片が存在している。あぁなんとなし暖かだ……
 ……幾分かクワルバルツと語ってみたが、その反応は基本としてにべもなかった。
 彼女自体の竜としての高慢振りがやはり大きな面を占めているか――
 されど月が美しい今日と言う日に、語り合った一時は確かに存在したのだ。
 それが何を成すかは――まだ分からない、が。

 今日は穏やかな日であった。

 竜が暴れない。それだけであぁ――実に穏やかな日であったのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 女神の欠片は亜竜を排除できた事により、無事に手に入りました。
 クワルバルツとアユアとは今回は戦闘になりませんでしたが、やはり竜は竜なのか――いつかまた戦う相手として出会う事になるかもしれませんね。ですが今日紡いだ縁は、確かに存在するのもまた事実です。はたしてどうなるか。

 ともあれ、ありがとうございました。

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