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シナリオ詳細

<黄昏の園>翠月の凱風

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「森を抜けたら、そこは楽園なのよ」
 碧色の髪を揺らして翠璃は柔らかな笑顔を見せる。
「なんて、ふふ、以前におじ様に見せて頂いた本に似たようなことは書いてあったのよ」
 見上げた空は青く澄み渡り、下を見ればこの地にしか群生しないような美しい花々や草木が見えるだろうか。
 翠璃は笑う。くるくる、くるくると、決して花々を踏まぬように踊りながら。
「お姉さんたちはまだなのよ? 直ぐに追いつくって言ってたのよ。
 楽しみなのよ、愉しみなのよ。また会えたら、沢山お話したいのよ!
 色々、遊びたいこともあるのよ!」
 そのまま足を滑らせて転びかけれても、少女はふわりと浮き上がる。
 地平にまで伸びる美しい景色は、彼が作り上げ、そして失う場所だ。
「こんなにも綺麗な場所を作れるあの人が苦しむ所なんて、見たくはないのよ」
 ころりと表情を変えて悲しそうに翠璃は目を伏せる。
 それは情緒の育ち切らない子供特有のもの。
 今にも泣きそうな表情を浮かべたかと思えば、今度はむくれ面を浮かべたままに空へ舞い上がる。
「むぅ……」
 そのまま、きょろきょろと辺りを見回す少女へと、飛び掛かる影があった。
 8mはあろうかというワイヴァーンが翠璃へと大口を開けて飛び掛かり――ガチンッと、歯を合わせた。
「私、今ちょっと機嫌が悪いのよ、どっか行っちゃえ」
 ワイヴァーンの尻尾側に移動し、翠璃は苛立つままに、亜竜をどこかへと吹き飛ばす。
「――――あっ!」
 かと思えば、少女は目を輝かせ、飛翔する。


「ここがヘスペリデス……冠位暴食の気まぐれで作られた場所か」
 恋屍・愛無(p3p007296)は広がる光景を見やる。
 顔を上げれば澄み渡った青空が広がっている。
 視線を下げればこの地にしか群生してないであろう花々や、草木が見えるだろうか。
 美しき黄昏の楽園、しかし開けた空は言い換えれば頭上を遮ってくれる物がないということでもある。
 そういう意味では、警戒すべき方向が増えたともいえるか。
 何せ、この地は『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスの気まぐれによって作り出された場所。
 亜竜達の憩いの場であり、竜種達の住まう地でもあるのだから。
「ここのどこかに、あの子もいるのかな?」
 シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が小さく言う。
 それはラドンの罪域の手前にてあった魔種の少女の事だ。
「そうだね……あの子と分かり合えたらいいんだけど」
 それに頷いたアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は彼女と分かり合うことを諦めてない。
「もう一度会えるのなら、お茶会の1つでも楽しめればいいのだが」
 愛無がそう頷いた時だ。
 イレギュラーズの周囲に、優しい風が吹きつけたかと思えば、目の前に少女が浮かんでいた。
 翠色の瞳を輝かせて笑う様は、間違いなく嬉しそうに見える。
「こんにちは、お姉さん達。幽霊さんじゃないのよね? 大丈夫なのよ?」
 喜色を見せたかと思えば、ころりと表情を変えて少女が不思議そうに首を傾げた。
「もちろん、言ったでしょ、アナタとまた会う時まで、死んだりしないって」
 炎堂 焔(p3p004727)が言えば、少女はぱぁと華やぐように表情を綻ばせた。
「あっ、初めましての方もいるのよね? ふふ、初めまして、私の名前は翠璃。
 ――いつかは、貴女達と殺し合うことになる魔種? なのよ」
 思いついたように目を瞠り、柔らかく笑って、少しばかり不思議そうに首をかしげる。
 外見相応、年頃の子供らしくころころと表情が移り変わる。
「折角だから、お話しするのよ! 貴女達は拠点? が欲しいのよ?
 なら、一緒に探してあげるのよ。この辺りには亜竜だって、竜種だっているのよ。
 だから、一緒に探してあげるのよ!」
 そう、翠璃はどこまでも嬉しそうに、楽しそうに笑うのだ。
「私はね、色々な事が知りたいの。
 ねえ、教えてほしいの。貴女達はどこから来たの?
 普段はどんなことをしてるの? 色々な事を教えてほしいのよ。
 その代わり、私もこの辺りの事を教えてあげるのよ」
 随分と早口に語り掛けてくるのは、この少女が負う罪が『底なしの知識欲』にあるが故。
 学ぶということは、新しい情報を手に入れ自らの糧にする行為。
 それが尽きることのないが故の『暴食』の魔種である。
「ここには竜が人を真似て作った遺跡もあるし、綺麗な景色がたくさんあるのよ。
 だから、貴女達が気になるものとかもあると思うのよ」
「竜種が建物を作るのかい?」
 シキの問いかけに、翠璃は微笑み、そっとどこかの方角を見やる。
「ええ、ここは里おじ様が竜と人が分かり合えるようになっていくための架け橋にしようとしてたって聞いてるのよ。
 だから、その一環で竜が貴女達の作る物を真似てみせた物もあるのよ。
 もちろん、竜がそんなところで住めるはずはないのよ。だから、作ってはこわれるだけだなのよ」
 そうして「悲しい事ね」と俯き、ふるふると頭を振れば。
「それじゃあ、『女神の欠片』の場所とかも分かるのかな」
 アレクシアの問いかけに、翠璃は不思議そうに首を傾げた。
『女神の欠片』――それを集めれば『お守り』になるのだと、『花護竜』テロニュクスと『魔種・白堊』は言っていたという。
「――あっ、それなら幾つか知ってるのよ。
 でもどれもこれも、面倒くさいのがいるのよ。1つを選んだ方が良いのよ?」
 ぽん、と手を叩いて、魔種は不思議そうに首を傾げた。

GMコメント


 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 優先者はアフターアクションと前段シナリオにて再会を望んでおられた方々から。

●オーダー
【1】拠点の確保
【2】『女神の欠片』の確保

●フィールドデータ
 覇竜領域ピュニシオンの森の先『ヘスペリデス』
『ラドンの罪域』を越えた先に存在している風光明媚な場所です。
 穏やかな青空、柔らかな日差し、独創的な他ではあまりに見られない様々な草花、穏やかな風が吹いています。
 皆さんで相談の上、以下【A】~【C】のいずれか1ヶ所に向けて進みましょう。

 また、友軍の翠璃は魔種です。
 その辺の亜竜程度ならさほど危険はありませんが、
 『本物の竜種』となるとそれでもHARD相応の危険が伴います。
 くれぐれも警戒は怠らないようにしましょう。

●行先及びエネミーデータ
 拠点確保後には翠璃とのお茶会が始まります。

【A】大竜樹
 小さな小島の中心に大きな1本の樹の生えた場所です。
 日差し避けやある程度の空からの攻撃を守れる場所になるでしょう。
 樹の上の方に実る木の実が不思議な雰囲気を纏っています。

 以下の亜竜がエネミーとして登場します。

・ウィーヴル ×8
 飛行している八メートルほどの細身の亜竜です。
 鋭い爪牙による連続攻撃の他、遠距離まで貫通する雷のブレスを吐きます。

 戦闘時、翠璃による支援として風が吹き下ろされます。
 エネミーが低空飛行以上の高みへ逃亡しません。

【B】龍泉
 大竜樹へいたる水辺の源泉です。
 非常に広大かつ清らかな水が滾々と溢れています。
 給水地としては良さそうです。
 水底に綺麗な何かが光っているようです。

・ハイドリオン×1
 首が長く翼を持たない二十五メートルほどの亜竜です。
 牙による攻撃のほか、範への踏み潰しを行います。
 また遠域に窒息系BSを帯びた水の攻撃魔術を行使します。

 また、強靭な再生力を持ちますが、この能力は翠璃の支援により封じられています。

【C】古竜の痕跡
 遥か昔に死んだ竜種が人間の文明を真似て作った遺跡です。
 竜種サイズが入れる家、のようにも見えます。
 テーブル風の石組の上に綺麗な宝珠が埋まっています。

・スケイルデミドラゴン×10
 骨だけでできたアンデッド亜竜です。
 ドレイク型が8、リトルワーム型が2。

 共通してアンデッドとしての特徴を持ちます。
 強い呪力を纏っており、呪殺効果をもつ魔術を行使します。
 本来は呪縛のBSを付与する効果もありますが、翠璃の支援により、封じられています。

 ドレイク型は鋭い爪と強靱な顎をもち、堅い鱗に覆われています。
 出血系BSの可能性が伴います。

 リトルワーム型は硬い鱗と鋭い牙を持つ、三メートルほどの、翼のない小型亜竜です。
 強力な牙や尾による連続攻撃を仕掛けてきます。
 出血系BS、毒系BSの可能性が伴います。

●友軍データ
・『翠月の暴風』翠璃
 非常に強力な魔種です。属性は暴食です。
 10代前半と思しき緑髪碧眼、緑の鱗を持つ女の子の亜竜種風。
 暴食の魔種ではありますが、その方向性が『無尽蔵な知識欲』であることもあり、優しく穏やかな性格です。
 イレギュラーズの事を自分と戦ったり一緒にいても死なない遊び相手、話し相手と思っています。
 非常に友好的であり、当シナリオでは戦闘でもある程度の支援をしてくれます。

 亜竜を自分で倒さない理由は『でもお姉さん達の拠点なのに、私が全部やるのもおかしな話なのよ?』とのこと。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏の園>翠月の凱風完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月21日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン

リプレイ


「やぁ、翠璃。また会えてよかった!
 こちらこそ、色々教えてくれたら嬉しいよ! 私もいろんなこと話すからさ!
 せっかくだからあの家みたいなところにいってみたいな、竜と人との架け橋になるはずの場所……気になるじゃん!」
 そう笑いかけたのは『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)だ。
「あぁ、竜達が造った遺跡、考古学者の端くれとして実に興味深い」
 続けて『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が好奇心に目を輝かせている。
 視線の先には不格好な石組みの遺跡が1つ。
「そう、それなら出発するのよ!」
 嬉しそうに笑う翠璃がふわりと宙をくるりと一回転する。
「冠位が本気で亜竜種達の未来を憂えば、此度の案内人も温和な魔種。
 ……まったく、当地の因果はどうなっているのです」
 その様子を少しばかり遠目に見ながら『雨宿りのこげねこメイド』クーア・M・サキュバス(p3p003529)は思わず呟くものだ。
 過去にも数度、イレギュラーズとある程度の関わりを持った魔種というのはいたが、あまりにも敵意が無い。
(翠璃ちゃんは魔種で、倒さなくちゃいけない存在。
 だけど、今はこうして一緒に戦ったり、笑いあったり出来るなら……いつか来るその時までは……)
 いつか来る別れを思いながら『炎の御子』炎堂焔(p3p004727)は思う。
(無垢な少女であるからこその狂気というモノは、まぁ、存在するのだろが。
 お互いを知るという事は大切だ。相手をよく知った方が食事も捗るというモノゆえに)
 その柔らかな表情と楽しそうな動きを見ながら『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)もまたやがて来るその日を想う。
 3人の様子に気付いたらしい翠璃が首を傾げている。
「魔種でありながらこれ程の落ち着いて更にこちらを手伝って貰えるとは、流石は超常の竜種というべきであるか。
 しかし、吾輩には分かるである。彼の竜種、翠璃殿の瞳に溢れるインテリジェンスは多く積み重ねた知識を感じるであるな」
 そういうのは『ノットプリズン』炎練倒(p3p010353)だ。
「知識。成程、それは大事だ。
 知的好奇心は歩き出す切掛となり、運命の糸を紡ぐ原動力ともなる」
 同じく『黄泉路の蛇』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)もまた、肯定するものだ。
「私は竜じゃないのよ? 元は貴方と同じ亜竜種なのよ? 同族なのよ!
 えへへっ、同族に会うのは久しぶりなのよ」
 その声が聞こえたのか、くるりと一回転して2人を見た翠璃が首をかしげ、かと思えば嬉しそうに笑った。
 暫く草花の彩られた道なき草原を歩き、やがてそれは姿を見せる。
 扉を似せて作ったのだろうか、不格好に開いた空間から少しばかり顔を出した『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は中の様子を確かめる。
「なるほど……のんびりお話をする前にちょっと厄介なのがいるみたいだね。頑張って片付けちゃおう!」
「ね、言ったとおりなのよ」
 遺跡の奥を見やり首を傾げた翠璃が穏やかに笑って言えば、ふわりとイレギュラーズを柔らかな風が包み込む。
「なるべく遺跡を傷つけぬようにしておこう」
 そう告げながらもアーマデルは既に愛剣を振り抜いていた。
 蛇鞭剣が蛇の尾のように揺らめきながら、蛇の牙が如く鋭利な一閃となって数多にスケイルデミドラゴンを切り刻んでいく。
 一匹の大蛇があらゆる獲物をその身体の内側に囲い、締め上げ食らいつくすが如き斬撃はまさに恐怖劇の如く。
「死肉と骨は灰に還るべし。こげねこメイドの名にかけて、まとめてこんがり焼き尽くすのです!」
 大蛇の襲来に踊る亜竜めがけ、クーアは追撃を叩き込んだ。
 恐怖劇は終わらず、ただ演目を変えて続く。
 骨で出来た亜竜の痕跡を焼き払うべく放たれた炎は更なる演劇を作り上げる。
 クーアの眼前に随分と規模の小さな、けれど激しい紅蓮の光景が生み出された。
「これでひとまずは壊れないはず!」
 遺跡全体を包み込むように穏やかな炎が上がり、損傷の保護を為したのを確かめた焔はリトルワームに向かって駆け抜けた。
 振り抜かれた炎の槍がリトルワームを撃ち抜けば、痛みのない情熱の炎が精神を削り視野を奪い取る。
「それなら、私はあっちだね!」
 鮮やかな黄色の輝きを纏い、アレクシアはもう片方のリトルワームへ。
「――アトロファ・ヴェラ!」
 飽和した黄色の花弁がやがて濃い紫色に移り変わり炸裂する。
 花弁の触れた箇所から生み出された魔法陣が齎すは魔女の毒。
 ようやく動き出した亜竜へむけ、シキは一気に肉薄する。
「焔、アレクシア、無理はしないでね!」
 始まったばかりの戦い、そう声をかけながらもシキとてそこまで心配もしていなかった。
 翻って亜竜どもを見やれば、カチカチと音を鳴らしている姿がある。
 骨だけ故に声帯もないのだろう、何となくそんなことを感じながら愛剣を振り抜いた。
「色々と気になるところであるが、先に害虫駆除からであるな」
 練倒はカチカチ音を鳴らしながらシキへと攻めかかったドレイクを射線に、グッと体を起こす。
 口腔内部に構築した魔法陣は声をあげると共に壮絶たる火力を持つ炎の息吹となって戦場を奔る。
 練倒独自の観点からダイナッミクにしてエキサイティングに解釈して織りなす魔術は竜種が放つ竜言語魔術を思わせる。
 無理矢理に再現した炎は練倒自身にも浅からぬ傷を与えるところが欠点と言えよう。
「まずはお茶会の準備といくか」
 そこへ続け愛無は一応とばかりに保護結界を重ね掛けてから本性を曝け出す。
 擬態を解いた愛無は、そのままドレイクへと咆哮を上げた。
 とはいえ、それは本来の咆哮には非ず。
 衝撃波を伴わぬただの雄叫びはドレイクたちの骨を激しく震わせ、愛無を脅威と思わせるだろう。
 一方で愛無はちらりと翠璃の方にも注意を向けたままだ。
(翠璃君の手札も、まだまだ底が知れない様だ。
 聞けば応えてくれそうではあるが。それも漬け込むようでフェアでは無い気もする)
 戦闘に巻き込まれない程度に下がっている気配のある魔種の少女はどんな表情だろうか。
(幸か不幸か、亜竜達が悲鳴を上げる様子もなさそうだが警戒はしておこう)
 ゼフィラは視野を広く取り落ち着いて状況に対処している。
 乱雑な石組みとはいえ竜が人を真似て『家』として作っただけあり、外の様子を完璧に把握するのは難しい。
 それでも窓や扉らしき箇所から外の様子をある程度は把握しつつ、術式を展開していく。
 愛銃に籠めて打ち出した術式は仲間達を癒す鐘の音を戦場へと響かせた。


 戦いの流れはイレギュラーズ優位のままに続いていた。
 先制攻撃から始まる圧倒的なアドバンテージにより、イレギュラーズは攻撃を続けている。
 ドレイクの数は順調に減っていっている。
 噛みつかんと攻めかかってくるリトルワームの攻撃を持ち前の身体能力で鮮やかに躱しながら、焔は反撃の一手を打つべく肉薄する。
 ローブの下、水晶と化した瞳が日差しに反射して輝きを放ち、グンと伸びて一撃。
 強靭かつ鋭利な牙をちらつかせる口腔、肉の無いそこへと槍を撃ち込み、そのまま脊椎を粉砕すれば、リトルワームが驚いたように大きくのけぞった。
「焔、お待たせ!」
 そんな言葉と同時、シキは瑞刀を振り抜いた。
 鮮やかな軌跡を描く宵闇の刀は瑞獣の美しき毛並みの如き闘気を帯びて一閃を払う。
「君達が押されるはずもないか」
 愛無は焔とアレクシアを見やり、より傷の多い焔が担当する亜竜へ粘液で出来た触腕を振るう。
 鞭のようにしなった腕がリトルワームを弾くように横なぎに叩きこまれた。
 そこへ迫るはアーマデルによる追撃。
「呪殺は多少遺体が、仕方がない。その分、迅速に処理しよう」
 肉薄から振り抜いた蛇銃剣が亜竜を打ち上げ、内蔵された弾丸が骨を砕く。
「これぞ我が紅蓮の攻勢、その神髄であると知るのです!」
 そこへと続くはやはりクーアによる紅蓮の放火。
 たった1匹へと注がれる恐怖の炎はリトルワームの骨を焼くには申し分ない。


 戦いを終わらせたイレギュラーズは拠点づくりに取り掛かっていた。
「家具……のように思える石組みも、見様見真似と言うか伝え聞いた物をそのまま自分のサイズに合わせた様な感じであるな」
 練倒の言葉もさもあろう。
「多分、ここを作った竜は家具が何なのかもわかってなかったのよ」
「うぅむ、そのような気がするであるな」
 こくりと頷いた翠璃の答えに練倒が納得できる程度にはあまりにも歪だった。
(……あの綺麗な宝珠がやはり分かりやすく気になるが
 一応、他の危険物等が無いかも含め、ざっと見回して見えない隅っこや物陰などを中心に調べておこう。
 毒や病を媒介するような小さきものが住み着いていたりすると厄介だ)
 アーマデルは日差しに反射するそれを見上げた後、周囲を見渡していく。
(そのような危険など無さそうにも見えるが、彼らと俺たちの『危険』の認識範囲が同じだとも限らない。
 確認は大事だろう……酒蔵の聖女も手伝ってくれるな?)
 何せ竜種が作り、亜竜が棲み処にしていた場所だ人間の尺度で考えるのも危ういだろう。
 呼び出した酒蔵の聖女こと生前に酒で身を持ち崩した巫女の霊魂に手伝ってもらいながら、アーマデルは辺りの調査を続けていく。
 ついでに試みた辺りの霊魂との意思疎通はあまり意味が無かった。
 少なくとも、『人』と呼べるような霊魂は感じられなかった。
 前人未踏のヘスペリデス、当然というべきか。
「歴史や文化を調べるのが好きでね。もしよければ、教えてくれないかな?」
 ゼフィラの問いかけに対して、翠璃は少しばかり考えた様子を見せる。
「うぅん……この辺りの事で新しく教えられることがあるとは思えないのよ。
 ここは里おじ様が竜種に人の営みを理解するために用意した場所、人と竜の架け橋になるように用意した場所。
 それ以上は良く知らないのよ」
「それなら……この遺跡については?」
 翠璃がしょんぼりした様子を見せたところにゼフィラは重ねて問いかければ。
「ここ? ここなら、とある竜種が見よう見まねで作ったお家なのよ。
 作ってみたはいいけれど、結局それで飽きて捨てられたのよ」
 くるりと辺りを見渡してからそう魔種は首をかしげる。
「……ということはこの辺りの生活の痕跡は」
「多分、亜竜のものなのよ」
「ふむ……それはそれで興味深い」
 ゼフィラは学者の顔を浮かべ、再び周囲の様子をメモに取っていく。
「本当に遺跡っていうより大きなお家って感じだね……」
 焔は改めて周囲を見渡して感嘆の息を漏らす。
「このまま使うのは難しいけど、壁や天井はあるんだからこの遺跡を拠点として使えそうかな」
「良いと思うのよ?」
 ふわふわ浮かびながら答えた翠璃は焔のやろうとすることが気になっているのだろうか。
「それならちょっとした獣くらいなら入って来ない程度のバリケードみたいなのは作っておこうか。
 翠璃ちゃんも手伝って貰っていいかな?」
「意味があるのか分からないけれど、楽しそうだから参加するのよ!」
 楽しそうに笑う魔種を連れて、焔は扉……らしき場所へと歩いていくと、そのまま2人で作業を始めた。
 シキは外で作業をしていた。
 気付けばふわふわと飛びながら翠璃が着いてきている。
「お姉さんは何をしてるの?」
 不思議そうに首をかしげる翠璃の視線は作成途中の仕掛けにくぎ付けだ。
「また襲われても大変だしね、糸を張って引っかかったら音が鳴るみたいな敵察知の仕掛けも作っておこう……」
「面白そうなのよ! ……でもあまり意味がないかもしれないのよ?」
「え、拠点てそういうのじゃない?」
「うぅん。というより竜を相手だと、糸に引っかかって音が鳴った頃には手遅れだと思うのよ」
「あー……たしかにそれはそうかも……」
「でも、面白そうだから作るのよ! どうやって作るか教えてほしいのよ!」
 目を輝かせる少女が隣に座りこんでくれば、シキは丁寧に教えていく。
「……もうそろそろ終わりそうですね」
 クーアは拠点づくりの様子を見渡してから、そそくさと準備を開始する。
 その様子に顔を上げて興味津々で近づいてきた翠璃へと、クーアは声をかける。
「私、これでもメイドなのです。
 お客様が至福の時間をお望みとあらば、お手伝いしない訳にもいきません。
 とっておきの紅茶が手元にあるのですが、いかがでしょうか?」
 クーアがティーセットと共に用意すれば、翠璃が嬉しそうに目を輝かせている。
「その様子でしたら、用意しましょうか」
「お姉さん、ありがとうなのよ! 紅茶なんて、ものすごく久しぶりなのよ!
 前に飲んだのがどれくらい前か覚えてないのよ」
 クーアが用意する様子すらも少女が目を輝かせてみている。


 拠点づくりも終わるとイレギュラーズは一息入れることになった。
「私の故郷にはファルカウという大きな樹があって……」
「この家よりも大きいの?」
 始まったお茶会でアレクシアは故郷の事を語り聞かせれば翠璃は目を輝かせる。
「そうだね、ここより全然大きいよ。深緑の人々は――」
 微笑ましく思い、アレクシアが続けると翠璃が不意に呟いた。
「深緑、おじ様が壊そうとした森なのよね? ごめんなさいなのよ。
 私が謝っても意味はないのかもしれないけど……」
「……逆に翠璃君は普段どんなことをしているのかな?
 あまり遠出はして無さそうな気はするけれど、ベルゼーさんとはよくお話したりするのかな?」
「うぅん、竜に会わないように気を付けながら本を読んだり、後はピュニシオンで迷子がいないか探してるのよ。おじ様とは全然会えてないのよ」
「あぁ、そうだ。翠璃君、君にお土産を渡しておこう」
 思い出したように愛無が言えば、翠璃が目をぱちくりさせながら首をかしげる。
「ラサのマーケットでお茶菓子と一緒に見つけてね」
 そう言って愛無が取り出したのは1冊の本だ。
「わぁ! えっ、本当に貰って良いのよ?」
「百科事典だ、色々な事が乗っているし、絵もたくさん載っている。暇な時に読んでも良いし、枕にもなる」
「ありがとうなのよ! 嬉しいのよ! すごい! すごいのよ!」
 ぎゅっと大切なものを抱くようにして両手で抱えた翠璃がゆらりゆらりと飛び回る。
「故郷において、俺の守神の兄弟には知識と妄想を司る五翼の蛇がいてな……知識は記憶、妄想は知恵であるとされる」
 アーマデルが言うと、翠璃はきょとんとした表情で首をかしげる。
「分かりづらかったか、そうだな……」
 知的好奇心の塊であると同時に、無邪気な少女と呼べる魔種には難しかったか、とかみ砕いてから伝えれば、翠璃は照れたように笑った。
「それなら、私も今度は本を持ってきてあげるよ」
 締めくくるようにアレクシアが言うと、翠璃は嬉しそうに笑う。
「まだ……時間はあるでしょう?」
「そうね……もう少しだけ、あると思うのよ。里おじ様が頑張っている間は、私も頑張るのよ」
 どこか違和感を感じたアレクシアの問いかけに、翠璃が微笑みを浮かべる。
 それは本当にほんの少しだけなのだろうと予感させる、細やかな微笑みだった。
「また逢えたら……その時、まだ時間があるのなら、遊んでほしいのよ?」
 一足先に空の向こうに消えた翠璃を見送り、イレギュラーズは案の定というべきか女神の欠片であった宝珠を手に、一度その場を後にする。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
さて、あとどれだけ時が残っているのでしょうか……

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