シナリオ詳細
<月眩ターリク>白き悪魔
オープニング
●
夜の帳が下りて群青のビロードに宝石を散りばめたような色彩が窓の向こうに見える。
揺らめくランプの明りをより震わせるのは男の怒号。
獣のようなうなり声と共に、金の杯を机に打ち付ける音が聞こえる。
「ふざけんじゃねえぞ! 紅血晶が全部奪われただと!?」
怒りを露わにしているのは『漆黒の戦望(ダークアンビジョン)』ルルフ・マルスだ。
黒い毛並みが逆立ち、目が血走っている。
歯を剥き出しにしたルルフは『蒼き誓約(ブラオアイト)』ヨハネ=ベルンハルトを睨み付けた。
「ヨハネ、どう責任取るんだよ! クソッタレが!」
「私の責任ではありませんよ。イレギュラーズが強かった。ただそれだけの事でしょう? 強さを正義だとする貴方が一番分かっているではありませんか?」
「はぁ? テメエが用意したアイツらが使えねえからだろうがよ!」
机を蹴り倒したルルフはヨハネの胸ぐらを掴む。金の杯が転がって中の葡萄酒が床にこぼれた。
ルルフの手をそっと押しやってヨハネは不敵に微笑む。
「ええそうですね。あの子が弱かったからこのような事態になってしまった。私も悲しいと思っています。それに飽きてきたんですよね。あの子で実験するの……もう死にかけですし。貴方にあげますよ。曲がりなりにも魔種ですし。存分に抵抗してくれると思いますよ。憂さ晴らしには丁度良いんじゃ無いですか?」
「それは除籍ってことか?」
「ええ、ファータビアンカの序列九位を剥奪します。だから貴方の思うがままに」
苛立ちのまま「チッ」と舌打ちをしたルルフは部屋の中から出ていく。
強く閉められたドアを見ながら、ヨハネはほくそ笑んだ。
イレギュラーズとルルフはどんな風に踊ってくれるのだろうかと。
「次は貴女が蹴る番ですよ、春泥……」
かつての学友はどう打ち返してくれるのだろうかと。ヨハネは楽しみで仕方ないのだ。
部屋を出たルルフは苛立ちを募らせていた。
ヨハネの言う事を正直に聞くのは癪に障るが、『白い妖精(ファータビアンカ)』ネイト・アルウィンが弱く無ければ、紅血晶は奪われなかった。
失敗したヤツは、相応の報復を受けなければならない。
弱いから失敗するのだ。
ヨハネが見捨てたということは、もうロウ・テイラーズにとっても価値が無いのだろう。
「だったら、俺が殺っちまっても構わねえよなぁ!?」
自分より弱いヤツは全員殺してしまえ。序列も関係無い。弱い方が悪いのだ。
そう、前から歩いて来る白くて弱い妖精など。ひねり潰してしまえばいい。
ルルフは黒い戦槍を振りかぶり、ネイトへと刃を走らせる。飛び散る赤い花弁。
「う、ぐ!?」
「貴様何を!!」
赤い花を零すネイトを庇うように前へ出たのは『焔朱騎士』ディーン・ルーカス・ハートフィールドだ。
剣を抜きルルフへと対峙する。
「ハハハ! どうしてって顔だなぁ!? テメェはもう用済みだってよォ、ファータビアンカ。序列二位のブラオアイトがそう言ってんだから。てめえはもうロウ・テイラーズじゃねえ! ただの負け犬だ」
ネイトは顔を上げる。ブラオアイト――ヨハネには確かめなければならない事があった。
まだ魔種になる前の唯の幼い少年だったネイトを悪魔に仕立てあげたのが彼だと聞いたから。
悪魔にされてしまったせいで、ネイトは村中から口に出すのも憚られる迫害を受け、復讐の為にその村をディーンを使って滅ぼした。
全ての元凶はヨハネなのかと。問わねばならなかった。
「どいて、ぼくは確かめないと……いけない」
「アア? テメェ俺に殺されそうになってンのに余裕あんじゃねえか! アア?」
怒りで毛を逆立てたルルフはネイトを睨み付け、悪辣な笑みを浮かべる。
「気が変わった。テメェは死にたくなるまで痛めつけて、嬲り殺してやる。徹底的になぁ!」
ルルフの戦槍が庇っていたディーン諸共ネイトを吹き飛ばした。
ネイトの影から現れた晶獣がルルフに襲いかかり、視界を一瞬奪う。
「チッ、邪魔くせぇ!」
その隙にネイトを抱えたディーンは窓を破り、宵闇の中へ姿を消した。
――――
――
「……マザークレマチス、助けてくれ」
「おやおや」
ラサの古い研究施設にやってきたディーンは手負いのネイトを背負っていた。
二人を迎え入れたのは『紫花の聖母(マザークレマチス)』こと深道の相談役、葛城春泥だ。
「まあ、入りなよ。とりあえず彼を治療しよう」
簡素なベッドにネイトを寝かせたディーンは、心配そうに頬を撫でる。
赤い花弁がこぼれる傷口の様子を見つめる春泥は普段の飄々とした表情ではなく真剣だった。
戸棚から薬液を取り出した春泥はそれをネイトの傷口に掛ける。
「う……ぅ」
「痛いだろうけど我慢しなよ。それにしても誰にやられたんだい?」
春泥の問いに「ダークアンビジョン」だと応えるディーン。
大きな手で口元を隠すように一瞬考え込んだ春泥は、理解したように悪戯な笑みを浮かべる。
「なるほどね。じゃあ、ファータビアンカはダークアンビジョンに狙われてるんだ。でも、どうしてかな序列同士は戦いは御法度じゃないか」
「……ブラオアイトが除名したとダークアンビジョンは言っていた」
もう、ネイトはロウ・テイラーズでは無いということだ。
「つまり、ダークアンビジョンは『ネイト』を殺そうとしている。あの性格だからネチネチとネイトを嬲り殺しだろうね。まあ、僕も少しだけ責任を感じてしまうよ」
そもそも春泥がイレギュラーズ側にいたことがディーン達にとって予想外だった。
「じゃあ……僕の所へ来たということは『決心がついた』んだね」
「ああ、ブラオアイト……ヨハネが私の心臓に掛けたという呪いを解いてくれ」
「分かったよ。まあ、対価は……『うちの子』が払うって言ったからね。そっちは心配しないでおくれ。これで心おきなく戦えるね。でも、もうネイトは長くないよ」
春泥の言葉にディーンは眉を寄せ辛そうな表情を浮かべる。
「……分かってる」
「じゃあ、僕からはもう何もいうことは無い。君の決意を祝福しようじゃないか」
ディーンはネイトの命がもう長くない事を知っている。
どう嘆いたところで、魔種であるネイトは殺されるだろう。
何れにせよ、ヨハネに実験動物のように扱われたネイトの命は半年もすれば消える。
だったら、最期まで傍に居てやりたいとディーンは思うのだ。
ゆっくりと二人で過ごせればそれでいい。
「その前に、火の粉は振り払わねばならない」
ルルフを倒さなければネイト達の安寧は無い。ヨハネの動向も気になるが去って行く者を追うような男ではないだろう。
ディーンが覚悟を決めた隣で、ネイトもまた拳を握る。
今の身体で戦えば死んでしまうかもしれない。
けれど、ディーンを護らなければならない。
これまで自分を守って来てくれたのはディーンだ。
命が尽きるならディーンの為に使いたい。彼の未来の為に。
其処に自分が居なくとも。
――――
――
「というわけで、君達に良い話しがあるんだ。月の王国って知ってるよね? そうそう、其処へ行って君達は魔法陣を壊さなければならない。僕は仲間を護らなければならない。利害の一致だねぇ!」
「は?」
酒場に響く陽気なパンダフードの春泥の声に恋屍・愛無(p3p007296)は怪訝な顔を向ける。
「あはは! 我が子はいつもつれないねぇ! まあ、いいや。今回はなんと、味方にネイト君とディーン君が来てくれるよ! さあ、喜んで!」
大きな獣の手でパチパチと自ら拍手する春泥。
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)とチック・シュテル(p3p000932)は顔を見合わせて首を横に振った。春泥の考えていることは理解しがたい。
「ここに魔種が来るってのか?」
レイチェルの問いに春泥は「ううん」と答える。
「……此処には来ないよ。現地集合。ほら、ネイトは魔種だからねぇ。人前に出て来たら不倶戴天の敵だって殺されちゃう」
というわけでと春泥が続けるのを蓮杖 綾姫(p3p008658)は見つめた。
「はい。君達は今から月の王国に行きます! 何をするかっていうと月の城門に張られた結界を壊すのが目的だよ。でも、そこにはこわーい魔種であるルルフ・マルスがいるよ」
「それは罠ではないのか……?」
目の前の春泥がルルフやネイト達と繋がっていて、イレギュラーズをおびき寄せる罠なのではないか。春泥のこれまでの経歴を鑑みれば十分に考え得ると愛無は彼女を睨み付ける。
「どうかなー? 罠かもしれないねぇ? 罠って事にした方が楽しいかい、愛無?」
「貴様……」
殺気だった愛無に「どうどう」と春泥が手を広げる。
「冗談だよ。でも、実際烙印を押されて困ってる子がこの中にも居るだろう? 城門開放作戦は重要な突破口に繋がる。ここを攻略しないと月の王宮にも近づけないしね。その烙印放っておいたら大変な事になるよ。ねえ、ほらレイチェルとかチックはさ、もう太陽が不快なんじゃない?」
身体の何処かが水晶に変化しているのではないか。強い吸血衝動を有しているのはないか。そんな風に春泥は問いかける。
「……そのうち狂気に侵されるよ。だから、君達は僕に協力した方が賢明なんだよ。早く状況を打破したいならね。大丈夫大丈夫。僕は皆のママ! 安心していいよ!」
最も信用できない言葉ではあるが、状況を打破するには協力が不可欠だろう。
「ああ、でも気を付けて。ネイトは魔種であり『吸血鬼(ヴァンピーア)』だからね。衝動的に吸血したり烙印を押したりしてくるかもしれない……まあ、もう長くないんだけどね」
もっと研究したかったと春泥は小さく零した。
- <月眩ターリク>白き悪魔完了
- GM名もみじ
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月03日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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ラピスラズリの空に浮かぶ満月は美しい輝きを放つ。
遠くに見える月の城と白い砂丘を見つめ『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はこてりと首を傾げた。
「いやはや、いまいち状況はわかりかねますが……どうにも、また大変な状況みたいですねぇ」
この常夜の空間はいったい何なのだろうかとベークは眉を寄せる。
「ま、やることは変わらないんですけど。命の危険は今に始まったことじゃありませんしね」
今までも、きっと此からもイレギュラーズの回りには試練が降りかかるに違いないとベークは頷いた。
「しかし、いろんな敵が出て来るもんですねえ。イレギュラーズがいなかったら大変なことになってたんじゃないです?」
魔種は勿論のこと晶獣に吸血鬼がこの地には出現していた。
(色々と思うことはあるけれど……例え魔種でも、傷ついている子が一方的に嬲り殺されるのなんて見たくないわ。……残された時間が少ないのなら、尚更ね)
『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は僅かに溜息を吐いてから白髪の少年を見遣る。
魔種であり吸血鬼にされてしまった『白き悪魔』ネイト・アルウィンの傍に歩み寄ったジルーシャは、少年の手の平に小さな香水瓶をのせた。
「これは?」
不思議そうに首を傾げるネイトは幼い少年そのもので。ジルーシャはぐっと感情が滲むのを堪える。
魔種は強い力を持っている。けれど、ネイトの心は決して強くは無い。
自分を殺しにくるであろう『漆黒の戦望』ルルフ・マルスに向けられる強い殺気への本能的な恐怖、『焔朱騎士』ディーン・ルーカス・ハートフィールドが傷付くことへの不安で押しつぶされそうなのだろう。
それを少しでも和らげられるように、自分を見失わずいられるようにジルーシャは『御守り』を渡す。
「……大丈夫よ。アタシたちは信じるわ――アンタは、悪魔なんかじゃないって」
「ありがとう……」
過酷な人生において他人から優しくされたことが殆ど無いネイトにとってジルーシャの心遣いは、夢心地のようだった。大切そうに御守りを握り締めたネイトはジルーシャに拙い笑顔を向ける。
「よかったねぇ。プレゼント貰ったんだ。それは何の見返りも要求されない純粋な優しさだ。大切にするんだよネイト」
パンダフードを被った『紫花の聖母』葛城春泥がネイトの頭を優しく撫でる。
その春泥の『らしからぬ』行動に『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)は視線を投げた。
廻の『器化』は春泥にとって所詮は予定調和なのだろう。他の要因があっても無くても浄化は進む。
それをあえてディーンの解呪の『対価』と言葉にするのは、愛無へのちょっかい以上に『言い訳』なのだろう。ほんの少しだけ己の母親の事が分かって来たと愛無は溜息を吐いた。
それでも、それを殊更に指摘すると絡まれて面倒だから黙っておこう。
「僕は空気の読める怪生物」
「ん? 何か言ったかい? 愛無」
「何でも無い」
くるりと振り返った春泥の肩を掴んで元の方向へ戻す愛無。
その隣では『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が拳を握りしめる。
レイチェルの首にはネイトに付けられた烙印が滲んでいた。
確かに自分の烙印の症状は進んでいるのだろう。けれど、そんなこと関係ないとレイチェルは首を振る。
「ネイト達を救いたいから俺は此処に来た。今だけは信用してやるよ、春泥」
「おやおや、今だけかい? ずっと信用してくれてもいいんだよ? ほら、僕ってこんなにも優しいし!」
「調子に乗るな。お前には前科があり過ぎるンだよ」
希望ヶ浜で春泥がやってきた事をレイチェルも『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)も忘れてなんかいやしない。けれど、この場では貴重な戦力なのだ。利用できるものは利用する。不測の事態が起きたときには自分が食い止めるとリュコスは決意を新たにする。
リュコスは春泥の隣に居るネイトへと視線を向けた。
自分と背丈の変わらない少年。服の隙間から見える肌には無数の傷跡がある。
ネイトは魔種だ。魔種は倒さなければならない敵。けれど、戦えばもう先が無い儚い命。
「だからって……」
ルルフに嬲り殺されるような、苦しくて痛くてつらい終わりを迎えて良い理由にはならない!
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はネイトとディーンをじっと見つめる。
二人のことは縁を紡いできた人達に任せれば良い。
「縺れた糸を切り開くのはそこに絡まる者の方がやり易かろう」
「ん?」
アーマデルの声に振り向いたネイトの背をポンと叩く。共に戦う者として挨拶は肝心だろうとアーマデルは考えたのだ。
「……願いを抱き、やり遂げられることを祈っている」
願いは胸に抱くものであり、祈りは遠く誰かの為に為すものだから。
此までの経緯はどうあれ、今は戦場の同じ側に立つ『味方』として信頼するべきだとアーマデルは頷く。
「イシュミル、回復と、動けない者が出た時は保護してやって欲しい」
傍に居たイシュミルへとアーマデルは告げる。
「激戦となるだろう、無茶せずやれる範囲で構わない。俺も戦いながらにはなるが、注意するから」
「分かったよ、存分に戦っておいで」
イシュミルはアーマデルとネイトの背を優しく撫でた。
「再びこうして貴方と肩を並べる時が来るなんて、ね」
ディーンの隣に並んだ『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)は『戦友』の顔を見上げる。
「一夜限りの夢となるかもしれませんが
今再び、かつての戦友『竜王』と共に剣を振るえる事を喜びましょう」
「『剣の巫女(とも)』よ、背中は任せたぞ」
元の世界で幾度も聞いたその言葉に綾姫は目を瞠る。
侵略者との戦いにおいて共に戦い抜いた仲間、その最前を往く竜王の背に何度勇気づけられただろう。
「ええ……相変わらずお人好しですね」
自分は世界を滅ぼした『悪』であるというのに、この男は未だ『友』だと言ってくれるのだ。
「任せてください。共にルルフへ向かいます」
「了解した」
ルルフを自由にさせないことはネイトを守る事に繋がる。
ディーンの技量と綾姫の連携が必要だと『お互い』が認識していた。そう感じ取れる。
「――おうおう、ロウ・テイラーズの面々がお揃いで。
メンバー同士の争いは御法度なんじゃねーのかよ、『焔朱騎士』に『紫花の聖母』よお」
戦槍を抱えルルフ・マルスが卑下た笑いを見せる。
「正当防衛だ。貴様が先にネイトへ手を出したのだからな」
「はぁ? そいつはもうメンバーじゃねえんだよ。お払い箱のゴミ屑だ。だから、俺がどうしようと勝手だろうがよ」
ルルフの言葉に『白き灯り』チック・シュテル(p3p000932)は眉を寄せる。
「彼……ルルフも、ロウ・テイラーズに所属している人……なんだね」
自分の欲を満たす為にネイトやディーンを傷つけようとする邪悪。
「……そんなこと、絶対に駄目。魔法陣ごと……君を止めてみせる、よ」
「アア? テメエらも邪魔すんなら……まあ容赦は要らねよなぁ? 特にオマエだよ、愛無!」
ルルフは戦槍を勢い良く愛無へと向ける。
「負けドッグ先輩。今度は誰に尻尾を振ってるんです? あ、紅血晶ゴチです」
ギリっとルルフが歯ぎしりをした。怒りに黒い毛並みが逆立っている。
「お前なんぞ喰う価値はないが。『貸してた物』は全て取り立てさせてもらう」
――先ずは僕の戦術で、お前の戦術を完膚なきまで叩き潰す。
「えー、愛無は黒ワンと知り合いなの? 早くママに言ってよぉ」
「……煩い黙れ」
どうにも春泥が間に挟まると調子が狂うと愛無は苛立ちを覚えた。
その様子を『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は驚いた表情で見つめる。
「愛無さんがここまで荒れ気味なのは珍しいですね!?」
いつも冷静な愛無が『他者』に翻弄されているのがドラマの目には新鮮に見えた。
ルルフとネイトを見遣りドラマは眉を寄せる。
最近は魔種がこちらの味方の立ち位置という状況が増えて来たような気がする。
魔種はその行動如何に関わらず、滅びのアークを溜め得る存在である。不倶戴天の敵なのだ。
今回は魔法陣の破壊が目的である、その作戦上邪魔になる魔種ルルフの撃退を遂行する。
だから、ネイトの生存は含まれていない。
昔のドラマなら頑なにネイトの排斥を望んだのだろう。疑いようもなく魔種は倒すべき存在なのだから。
今回も共倒れが一番都合が良いと思っているほどだ。
それでも、戦略的に順序は考慮すべきだと理解している。その方が上手く行くこともあるのだと。
「……まぁ多く口出しをするコトでもないですね。今は味方、なのですから精々役に立って貰いましょう」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は柔らかな笑みと共にルルフに視線を向ける。
「己が欲望を隠しもしない。ふふ、魔種っていうのはそうよね。ルルフおにーさん、私はあなたみたいな魔種は好きですよ」
蠱惑的なフルールの声にルルフは鼻を鳴らした。
「ハッ、何を言うかと思えば」
「反転というのは心を一つの方向に定め、人より狂ってその分力を増すということでしょう?
私は、魔種の在り方を否定しません。魔種だからと、倒さなければならないとは思いません。
勿論、敵対するならその限りではないですし、魔種同士も同じでしょう。
だから私は、どちらの魔種も等しく愛しますよ」
フルールの在り方はある意味で懐の深いものだ。されど危うい気配を纏う。それを人は魅惑的だと表現することもあるだろう。
「今は、ルルフおにーさんに構って欲しい人がたくさんいるみたいだから。またあとで」
柔らかく微笑んだフルールは戦場に満ちる多くの精霊の気配に瞳を揺らす。
●
まずは晶獣を相手取ると、アーマデルの蛇腹剣がジャグランとその周囲の精霊たちを切り裂く。
瞬間的な火力は少ないアーマデルだが、自己強化に優れている点において長期戦に向いていた。
戦場を駆け抜ける蛇のようなしなやかな四肢は、戦いに慣れた者の動きだ。
アーマデルの視線が後方からの紅き炎に向けられる。
「ルルフの野郎を自由に立ち回らせる訳にはいかねぇ……」
レイチェルは強き眼差しで戦場に点在する敵を見据えた。
特にルルフへの攻撃は欠かしてはならないだろう。
己の術で縛り、抑え役であるドラマの消耗を抑えたいとレイチェルは視線を走らせる。
「……痛めつけたいという、歪んだ願い。そんな簡単に叶える、させない……よ
チックもまたドラマを助ける為、昏き旋律を奏でた。
「アア? 俺の相手はこんなちっこいガキか?」
ルルフはドラマを見下すように睨み付ける。
「そういう弱そうな方がお好みではないのですか?」
ディーンではなくネイトを狙ってくるあたり、か弱い者を甚振るのが好きそうだと、ドラマはルルフを挑発した。
「巫山戯やがって、調子にのんなよガキが!」
ルルフの戦槍がドラマの頭上に振り下ろされる。
それを舞うように避けたドラマにルルフは「何だと?」と目を見開いた。
小手調べとして放ったとはいえ、ドラマに軽々と攻撃を避けられた屈辱はルルフの神経を逆撫でする。
「見るからに好戦的な方のよう、ですからまさかまさか眼の前の相手から逃げ出すだなんてコトは……ありませんね?」
「こんの、やってやろうじゃねえか!」
激昂したルルフが再びドラマに向けて戦槍を振り回す。
「私は負けない剣の信奉者、ですから保たせてみせましょう!」
自分が此処に立っている限り、仲間が必ず来てくれる。そう信じて居るからドラマは全力を出せるのだ。
「こっちのは渾身持ちか……」
ジャグランの厄介な性質に舌打ちをしたレイチェルは走りながら、愛無とベークへと頷いた。
ベークからは美味しそうな甘い香りが漂う。
「……どの程度通用するのか、効果があるのかは未知数ですが。まぁ、お腹すくのかよくわからないような相手にもよく襲われますからね。多分大丈夫でしょう」
ゴーレムであるジャグランは分からないが、元々精霊であるサン・エクラはその性質として甘いものに引き寄せられ易いのだろう。ベークの回りにサン・エクラが集まる。
「あなたたちの相手は僕ですよ」
少年の姿を取ることもあるベークだが、今は鯛焼きにしかみえない彼にサン・エクラの紅い水晶が突き刺さった。甘くて美味しそうなベークを食べ物だと認識しているのかもしれない。
「……餌とかじゃないですよ?」
遺憾ではあるのだがと、ベークは口をギュっと引き絞る。
「ギフトとの付き合い方もなんとなくわかってきたというものです」
鯛焼きの姿はサン・エクラにとっても美味しそうに見えるのだろう。
引きつけ役としてはそれを利用しない手は無い。思う存分囓って……
「あ、ちょ……痛い、痛い!」
思いっきり毟られた所、人間の姿に戻ったら禿げてないかと心配になってしまうベーク。
ベークとサン・エクラの抑えを分担する愛無は白い砂丘を自由に飛び回る。
愛無にとってラサは故郷と言っても過言では無い場所だ。
普通の人間では足を取られてしまうような砂の上でも、慣れた足運びで駆け抜ける事ができる。
「サン・エクラ……可哀想に。ゴーレムはともかく、あなた達は生きているでしょうに。すぐに解放してあげますからね?」
フルールは自身の友である精霊と融合し悠炎と清炎を纏う。
「魔方陣はどうやって破壊しましょうかね? そこにある空間ごと壊してしまえば良いですか?」
壊れなければ何度だって。
「あぁ、ここにあるすべてを壊してしまえば失くなるかしら?」
蠱惑的に笑むフルールの声が戦場に響いた。
リュコスは晶獣の攻撃をあえて避けずに体力を減らす。
そうすることにより己の真価が発揮されるからだ。
同時にリュコスは戦場を俯瞰した視点で把握する。
ネイトは味方ではあるが、いつ吸血鬼の衝動に支配されてしまうかもしれない。
彼の知らないうちに味方を傷つける為に仕掛けをされているかもしれない。
だからリュコスは戦場に散らばる一つ一つの情報を逃さぬよう感覚をを研ぎ澄ませる。
「ネイト、一緒に戦ってくれて。ありがと
「うん……」
「でもどうか、無茶は……しないで、ね。それはきっと、ディーンも悲しい……思う事、だから」
魔術を使う度、苦しげに息を吐くネイトにチックは声を掛けた。
「でも、やらないと」
もう少し抗っていたい。せめて、自分が死んでも良いと思えるまで。
ネイトはボロボロの身体で必死に戦っていた。
「お願いね、ガンダルヴァ。アンタの音楽で、血の香りも、汚い罵声も、すべてかき消して頂戴な!」
ジルーシャの声と共に戦場に清らかなる旋律が駆け巡る。
それは、レイチェルやチック、ネイトに安らぎを与えるものだ。
ふわりと心が軽くなったような気がしてネイトはジルーシャを見つめる。
「大丈夫。アンタには皆がついてる」
ジルーシャの言うとおりチックやレイチェルが心配している気持ちはネイトにも伝わっているだろう。
ディーンは綾姫の攻撃を最大限引き立てる形で連携をする。
視野が広く、指揮経験も豊富なディーンだからこそ出来るのだろう。
否、綾姫と共に戦場を駆けているから、というのも大きいのかもしれない。
ネイトを守る事に終始していた今までの戦いではない。
大切な少年を安心して預けられる『仲間』が居るからこそ、ディーンの真価が発揮される。
ディーンの眼前で綾姫の周囲に剣が浮かび上がった。
「わがみはつるぎ。ふるべゆらゆらとふるべ」
美しき剣舞は、以前に見た時よりも数段、洗練されている。
ディーンは綾姫に負けじと赤き焔を纏わせた。
「ふっ。結局弱いものしか嬲れないのですか。私達が強いから怖くて背を向けるのですね!」
綾姫はルルフへと挑発を重ねる。ネイトへの意識を此方へ向かせる為だ。
●
「ぁ……だ、や、だッ!」
戦場に小さく響いたネイトの声にリュコスとチックが振り向く。
『ネイト、大丈夫』
リュコスはネイトへとハイテレパスを送り大丈夫だと声を掛けた。
衝動に抗っているのだろう。その場に蹲るネイトへチックは駆け寄る。
『もしガマンできずにみんなをこうげきしそうになったら、ぼくを狙っていいよ』
『でも……』
リュコスの言葉に首を振って衝動を抑えるネイト。
『ぼくはこうげきされればされるほど強くなれるし、ちょっとやそっとじゃたおれないから!』
大切な人たちの為に戦いたい気持ちはリュコスにも分かるから。
どうか、悔いの無いように戦ってほしい。
何があっても大丈夫なように、皆でネイトを見守っているからとリュコスは語りかける。
『くるしいっていっていいよ。ぼくにこうげきもしていい。だから、負けないで』
ネイトとディーンにとって最善を掴み取るのがレイチェルの願いだ。
だから、まだルルフが残っているこの状況でネイトが暴走してしまうのは宜しくない。
「ネイト大丈夫だ! お前ならまだ頑張れる」
レイチェルの言葉はネイトの耳にも届く。
命を削るような魔力の使い方をしたせいで、吸血鬼としての衝動が強く出ているのだろう。
「ネイト、死ぬの? 本当に?」
フルールは感情の無い声でそう問いかける。
「私にはあなたへの感傷はありません。だって、今日初めて出会ったから」
だから慰めを言うことはしない。ネイトが死を受入れて納得しているのなら。外野の自分が何かを言う視覚は無いとフルールは考える。
「でも、今はまだ違うでしょう? その時ではないでしょう?」
吸血鬼としての衝動に負けてしまうような覚悟では無いはずなのだ。
だから、旅路の幸福を願うのはもう少しあとだとフルールは首を振る。
「その時になったなら、私に気持ち良く願わせてください」
――その死の道行きを、笑顔で迎えてほしいから。
「ネイト、だめだよ」
チックは蹲るネイトの小さな身体を抱きしめる。
細くて今にも折れてしまいそうなほど薄い胴。
服の隙間から見える無数の傷跡は彼が今まで受けてきた迫害の証だ。
「……前よりも深刻な状態になる、してるのは。おれも、一緒。……けど。抗う……するの、諦めたくない。……ネイトも負けちゃ、駄目だ!!」
「ううううう」
衝動に抗う様にチックの首へと牙を立てるネイト。
血の代わりにはらはらと零れる赤い花弁が地面に落ちる。
「ごめ、なさ……」
「……君が戦っているのは、本当に女王の為……?」
「ちがうっ、うう……やだっ、やだ」
「違うよね、ディーンを護りたいから……だよね。これまでも、ネイトが抱いていた想い……教えてくれたでしょう? その想いを、此処に来るまでの覚悟を。どうか消させないで」
強く抱きしめたチックに縋るようにネイトは彼の背をぎゅっと掴んだ。
「僕は、悪魔の子じゃない……吸血鬼でもない……僕は、僕だ」
水晶の涙を流したネイトは衝動から逃れるように、強い意志で言葉にする。
――――
――
戦場にはゴーレムや精霊たちの残骸が散らばっていた。
イレギュラーズは巧みな連携により、晶獣たちを圧倒する。
ルルフと対峙していたドラマ達の戦闘能力の高さも相まって、イレギュラーズの優位に戦況は進んだ。
多少の被害はあるが順当な戦いといえるだろう。
「さぁ、ルルフおにーさん。来ましたよ。意外と元気でしょう、私」
フルールはルルフの元へとやってきて笑みを浮かべた。
「あなたはそこで何を望むの? 最強? それとも地位? 強欲らしく『すべて』? そうでしょう?」
「お前に言われなくても、全部に決まってんだろ!? この世の全ては俺のもんだ!」
ルルフはフルールに戦槍を振り回す。
「ルルフおにーさん、配下を作らないの? 欲しいものがあるなら、きっと手足がある方が便利でしょう? それとも、お友達がいないのかしら?」
精霊のように惑わす者としてフルールはルルフを挑発する。
「えらそうにして、やってることは弱いものイジメ! 大したことないひとほど弱い相手につよくあたるんだよね」
フルールの言葉にリュコスも重ねて相手を煽った。
気が短いルルフにはフルールやリュコスの言葉は友好的だっただろう。
いくら強くてもその力をきちんと振るえなければ、実力を発揮出来ないのと同じこと。
「クソやろうどもめ!」
「あっかんべー」
空を切ったルルフの戦槍の真横からリュコスは魔力の奔流を叩きつけた。
「一気に畳みかけます!」
ルルフを抑えきったドラマは手にした魔導書から陣を組み上げる。
展開した魔法陣は光のパーティクルを散らし、一瞬の内に集束したあと戦場に煌めいた。
余韻と共に紫電が走り、ルルフの左腕から血が吹き上がる。
「無様だなァ、ルルフ。お前に誰一人として仲間は居ねぇ」
レイチェルは口の端を上げてルルフを見遣った。
舌打ちをしたルルフはレイチェルに何処かヨハネ=ベルンハルトの面影を感じる。
「何だてめぇ、あいつらの血縁か? 特にあの赤い――序列一位の『紅き恩寵(グレイスローズ)』に瓜二つじゃねえか。髪色はちげえが」
ヨハネによく似た瓜二つの顔。レイチェルは背筋が総毛立つのを感じる。
可能性を考えれば、ヨハネの傍に居ることは予測出来た。
けれど、本能が否定したのも事実だ。
この無辜なる混沌に『妹』が喚ばれているなんて――
「しっかりしなさい、まだ戦いは終わっていないわ!」
ジルーシャの言葉にレイチェルはハッと我に返る。ルルフの攻撃を寸前の所で避けたレイチェルはジルーシャに「すまねえ」と謝る。
「大丈夫、一緒に頑張りましょ! 仲間なんですから!」
ジルーシャは前に晶獣達の攻撃に耐えているベークへと回復を施す。
ベークが晶獣達を引き受けてくれているからこそ、他の仲間はルルフへと攻撃を集中できる。
彼が倒れる事は許されないと、ジルーシャは念入りに回復を届けた。
「ネイト殿やディーン殿については、なるべく彼らの意に沿い、良きように」
アーマデルは蛇腹剣を横へと振って、ルルフへと対峙する。
「捩れ縺れた糸を断ち、溶き解すのは、縁を撚り合わせた者の方がやり易いだろう。
俺には運命の糸を直接断ち、結ぶ事は出来ないが」
見届け、僅かでも手を貸すことなら出来るとアーマデルは剣柄を強く握った。
「チっ!」
アーマデルの攻撃を受け、蹌踉めいたルルフ。
「虫のいい申し出なのはわかっています。ですが、ここはネイトの為……いえ、飾らずにお互いの目的の為ですね……再び共に剣を振るう事を許していただけますか」
「綾姫……」
ディーンは「もちろんだ」と綾姫へ強い眼差しを向ける。
「貴方がネイトの為に戦うように。彼も貴方の為に戦おうとしています。
そんな彼に、『君の騎士は誰よりも強い』と見せてあげなさい。
そして、女王とやらへの偽りの忠心を断ち斬ってやるのです」
「ああ……!」
翻る剣が美しい弧線を描く。彼が居るだけで安心して戦う事が出来る。
ディーンの強さは相変わらずだと綾姫は口の端を上げた。
「少々癪ですが、戦いやすい!」
綾姫の剣がルルフへと走り、続けざまにディーンの剣尖が振り下ろされる。
されど、魔種はそれを弾き返しディーンへと痛打を放った。
弾かれた剣を一瞥したディーンに綾姫は叫ぶ。
「使いなさい!」
咄嗟に創った剣を投げて寄越す綾姫。ディーンは懐かしい感触に目を細めた。
チックとネイトはルルフへの足がかりを開く。
後に続く仲間達へ。彼の元へ伸ばされる牙達を手折らせぬ様、導く為に。
「今だよ!」
チックとネイトの魔術に導かれ、ディーンの剣がルルフに突き刺さる。
獰猛な獣は狙い澄ましたかのようにルルフの眼前へと現れた。
「はっ! 負けドッグ先輩。尻尾振り過ぎて千切れそうじゃ無いすか。魔種になってもそんなモンすか?」
「てめぇ!」
ルルフの戦槍を受け止めた愛無は仕返しとばかりに爪を立てる。
「所詮は『個』を謳いながら群れの中でしか生きられない哀れな負け犬だ」
「んだと!?」
歯を剥きだして激昂するルルフを愛無は嘲う。
団長はそれも楽しんでいたようだけれど、と愛無は彼女の笑顔を脳裏に浮かべた。
「団が壊滅したのは僕らが弱かったからだ。団長だけなら、少なくとも負けはしなかった。
お前とは逆だ。『個』でしか生きられぬのに群れを守ろうとしたんだ」
実際の所、愛無はルルフを怨んではいない。
己の弱さを棚に上げて復讐だ何だと騒ぐのは趣味ではない。
ドライであると自分でも思う。されど、己が大切だと思うものへの執着は誰よりも強い。
「だが、傭兵は『舐められたら終わり』だ。僕は団長の教えに殉ずるのみ」
黒き獣同士、爪と牙を突き立て、血を啜る。
誰も止める事の出来ない、ヒリつくほどの激闘。
それを終わらせたのは、魔法陣の崩壊だった。
盛大な舌打ちをしたルルフは「興が冷めた」と翻り、砂塵の中へ消える。
愛無は力尽きた様にその場へバタリと倒れ込んだ。
その頭を「よく頑張ったね」と撫でたのは春泥だった。
●
「騎士君達は、矢張り僕の処に来るかね? ラサから出るのは難しいだろう。君達を守る事は、僕にとっても有益だからな」
春泥に膝枕をされながらディーンへと問いかける愛無。
「何なに? 愛無の家に? 僕も行っちゃおうかな」
「お前は来るな」
応急処置の包帯を巻かれながら、愛無は春泥の顔を押しのけた。
「まあまあ、僕はこう見えてお医者さんでもあるからね。大丈夫大丈夫」
意識を失ったネイトの顔をチックは覗き込む。
魔力を使い果たしたネイトの命は消えかかっているのだろう。
悪魔と呼ばれて迫害された子供の末路が、これでいいなんて思えなかった。
「大丈夫。君は『白き悪魔』なんかじゃ、ない。ネイトという、一人の子なのだから」
ほんの少しだけでもいい。奇跡なんて叶わないことは分かっている。
けれど、もう少しだけ彼らに時間が在れば。
チックの思いが溢れた瞬間、レイチェルの背に翼が顕現する。
「……!」
レイチェルの瞳が映し出したものは、再びルルフと対峙するディーン達の姿だ。
その隣にはネイトの姿もある。それだけではない。
「……ヨハネに、レイチェル?」
ルルフの隣にはヨハネと妹の姿もあった。
胃の奥がひっくり返るような感覚に襲われるレイチェル。
「大丈夫だチック。まだ……」
その戦いが訪れるまでネイトはまだ生きているということだ。
オラクルが強く出ているのはヨハネの気配がネイトからするからかもしれない。
戦ったことで寿命はさらに縮まっただろう。けれど、僅かな安息は勝ち得た。
ネイトの命が尽きるまで、ただ安らかにあってほしいとレイチェルもチックも願うのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
無事に魔法陣を壊す事が出来ました。
MVPは心情面でとても良かった方へ
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
もみじです。話しは難しいですが、要は『殴れば大丈夫』です。
分かりやすく説明すると。
・獣の魔種ルルフが美少年の魔種ネイト(弱ってる)を嬲り殺そうとしてる。
・ネイトは戦うと死ぬかもしれない。でも、ディーンを守る為に立ち向かう。
・ディーンはネイトの死を苦渋の決断で受入れている。最後まで傍にいてやりたい。
・ヨハネと春泥は面白がっているようだ。
・魔法陣壊す!
●目的
・魔種ルルフ・マルスの撃退
・魔法陣の撃破
●ロケーション
月の王国、月の城門です。
広大な砂漠の向こうに王宮が見えます。夜空には満月が浮かんでいます。
月明かりがあるので、光源等は問題ありません。
砂漠が広がっていますが、十分に戦えます。
戦場の奥に魔法陣が浮かんでいます。
●敵
○『漆黒の戦望』ルルフ・マルス
強欲の魔種。傭兵団『宵の狼』幹部であり、謎の組織ロウ・テイラーズ序列三位『漆黒の戦望(ダークアンビジョン)』でもあります。
かつて、恋屍・愛無が所属していた傭兵団『幻戯』に所属していた経歴を持つ『裏切者』。
幻戯を壊滅させる切欠となったモンスターをルルフが招き入れたとされます。
己の目的のためにルルフは動いています。それは己が最強になりラサを手にいれること。
その手にラサを収めた暁には不必要となった『月の女王』や『博士』、ロウ・テイラーズ、傭兵団の団員さえも殺し尽くせば自分が最強になれると信じて疑わないのです。
今は建前上『月の女王』に従っているようです。
しかし、元々誰かの下につくことを好みません。
苛立ちを募らせ破壊衝動が強く出ています。
手始めに紅血晶をイレギュラーズに奪われた屑野郎であるネイトを見せしめに殺そうとしています。
生きたまま、じわじわと痛めつけて殺そうとしています。
殺意の高い攻撃的な戦闘スタイルです。
邪魔する者は全員殺そうとします。
○『晶獣』シャグラン・プーペ×4
紅血晶が、ラサの遺跡に眠っていたゴーレムに反応し、変質して生まれた晶獣です。
元は遺跡を守るガーディアンだったそれは、今は無差別に暴れる破壊の使徒と化しています。
強力な物理近距離攻撃を行ってきます。マッチョタイプなアタッカーです。
『渾身』を持つ攻撃を多用してくるため、万全の状態ではかなり強力ですが、徐々に息切れを起こしそうです。
○『晶獣』サン・エクラ×20
小精霊が、紅血晶に影響されて変貌してしまった小型の晶獣です。
キラキラと光る、赤い水晶で構成された姿をしています。
鋭い水晶部分による物理至~近距離戦闘を行います。
○魔法陣
仄かに魔力を帯びた魔法陣が空中に浮いています。
陣を護るようにサン・エクラ数体が前にいます。
●味方
○『白き悪魔』ネイト・アルウィン
色欲の魔種。謎の組織『ロウ・テイラーズ』に所属する序列九位白い妖精(ファータビアンカ)でしたが除名されています。
ラサの村マールーシアで悪魔の子として迫害されていた少年。
傷だらけの身体、焼印の痕。口に出すのも悍ましい行為の数々を受けていました。
その為、情緒が幼く泣き虫で癇癪を起こしやすいです。ひな鳥のようにディーンへ依存しています。
現在は『吸血鬼(ヴァンピーア)』にされています。
序列二位の『蒼き誓約(ブラオアイト)』ヨハネ=ベルンハルトによる実験のようです。
ヨハネから実験を繰り返し施され弱体化しています。
遠距離魔法で攻撃します。
紅血晶をイレギュラーズに奪われた責任をルルフに責め立てられ、殺されようとしています。
本来であれば魔種同士の殺し合いは好都合です。
しかし、ネイトをいつでも殺せる状態で味方にすることはディーンという戦力を得ることになります。
実験を繰り返しされているため、今すぐに殺さずとも、余命は半年と無いでしょう。
戦闘を行えば死ぬと分かっていますがディーンを守る為戦います。
ただ、注意があります。
ネイトは現在『吸血鬼(ヴァンピーア)』にされています。
ふとした瞬間に、女王のために動かねばならないと衝動的に思ってしまいます。
ネイトから烙印を押される可能性があります。
○『焔朱騎士』ディーン・ルーカス・ハートフィールド
旅人です。
謎の組織『ロウ・テイラーズ』に所属する序列十一位焔朱騎士(ヴァーミリオンナイト)。
以前の戦いではネイトに洗脳されていました。
現在は正気のままネイトの傍に居ます。
ネイトの命が尽きる事を受入れています。それは簡単に出した答えではありません。
慟哭と悲しみを乗り越え、それでも最後までネイトの傍にいてやりたいという願いです。
鋭い剣技に加え、炎の魔法を操ります。
オールラウンダーです。頼りになる戦力です。
○葛城春泥
練達の研究員で、深道の相談役です。
謎の組織『ロウ・テイラーズ』に所属する序列四位紫花の聖母(マザークレマチス)でもあります。
数十年前にはヨハネ=ベルンハルトと共に『ピオニー先生』の技術を教えてもらっていたようです。
積極的な戦闘参加はしませんが自分の身は自分で守れます。
一応医療の心得があるので、イレギュラーズの回復も出来ます。
この戦場では味方です。安心してください。後から刺したり呪ったりはしないでしょう。
死が目前に迫っているにも関わらず、精神的に乗り越えるネイトの一種の『強さ』に興味を持ちました。
ディーンの解呪の対価は、春泥曰く「お前が対価を払うって言ったからね。愛無の大事なもの。お人形の左腕って事にしといてあげる」とのことです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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