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シナリオ詳細

<ラドンの罪域>命の時間

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――人間なんか嫌いだ。

 脆くて弱くて直ぐに死んでしまう。
 下等な生物のくせに、まるで対等だと言わんばかりに煩く喚く。

「おーい! フェザークレス! 今日も遊ぶだろ!?」
 遠い日。自分を気安く呼ぶ声に顔を上げた『白翼竜』フェザークレス。
 まだ、今よりずっと幼いフェザークレスをベルゼーが亜竜集落ウェスタの近くにある『名も無き村』につれて来たのだ。人間に慣れさせ、亜竜種に愛着を持たせる為だったのだろう。

 少年の名前は灰蓮(カイレン)と言った。
 馴れ馴れしいことこの上ない。
「フェザークレス! おい! 聞いてんのか!?」
「煩いなあ! 聞こえてるよ!」
 仕方ないから、一日中遊んでやった。
 崖の上から落ちそうになった時は、仕方ないから助けてやった。

 ――人間なんか嫌いだ。

「よお、久し振りだなフェザークレス!」
 見た目が随分と変わっている。カイレンはもう青年になったらしい。
 少し居眠りをしすぎただろうか。
 其れにしても、カイレンは弱いくせにすぐ危ない場所へ行きたがる。
 亜竜なんかの爪にやられて……仕方ないから村まで運んでやった。
 それぐらいすぐ治るだろうに、大袈裟なことだと思った。

 ――人間なんか嫌いだ。

「フェザークレス、この人は俺の嫁さんだ。そして、子供達だ。可愛いだろう?」
 すぐ番って、同じような顔の子供を産み落とす。
 子供の名前を沢山言われたが、どれも同じように見えて分からなかった。
 カイレンも目を離すとすぐに姿を変える。
 亜竜にやられた傷は治ったのだろうか。

 ――人間なんか嫌いだ。

「ああ……、来てくれたんだな、フェザークレス……」
 最近、カイレンは動きが鈍くなっている。
 しわくちゃの顔と手で、しきりに触ろうとしてくるのだ。
 もう、目が殆ど見えないとカイレンの番が言っていた。
 仕方が無いから、少しだけ触らせてやる。
 ガサガサの手が頬に触れた。あたたかかった。

 ――人間なんか嫌いだ。

 雨が降っている。
 カイレンの墓の前で、じっと座っていた。
 もう、人の姿を取らなくてもいいから本来の姿で。
 カイレンの番は来ない。薄情者だ。
 しとしとと、雨が降っている。

 ――人間なんか嫌いだ。

 カイレンの番が隣の墓に埋められた。
 ずっと、病に伏せていたらしい。
 また、冷たい雨が降っている。

 ――――人間なんか、脆い人間なんか、大嫌いだ!!


「フェザークレスは灰蓮(カイレン)の生涯を見守ったあと、空へと飛び立った。
 以降、我々の集落では白翼竜様を崇めるようになったのだ」

 静かな声が部屋の中に響く。
 イレギュラーズの目の前に居るのは、灰耀(カイヤ)という男である。
 ここ、亜竜集落ウェスタの近くにある『クレステア』に住んでいる村長の息子だ。
 白翼竜フェザークレスが『名も無き村』と呼んだ集落は、彼が寄り添った地として『クレステア』と名付けられた。カイレンの子孫がカイヤということになる。
 カイヤは村に伝わる伝承によると、フェザークレスと親交のあったカイレンに瓜二つらしい。

「このクレステアへ来て貰ったのは他でもない。ラドンの罪域という場所にフェザークレス様の姿があるか共に調べに行ってほしいからなのだ」
 カイヤは竜種を「迷子になった子供を探して欲しい」ぐらいのノリで見つけに行こうと宣った。
 話しを聞く限り彼の祖先である伝承の中のカイレンに見た目だけでなく中身も似ているように思う。
 覇竜領域内に棲まう亜竜種たちにとっても恐ろしき隣人のはずなのだが。

 イレギュラーズはこれまで幾度となく覇竜領域での戦いを続け、一つの真実に辿り着く。
『冠位暴食』と呼ばれた男の正体だ。ベルゼーは『フリアノン』の相談役として出入りしていた。
 里おじさまと呼ばれていた彼が冠位魔種であったことは亜竜集落に大きな衝撃をもたらしたのである。
 ベルゼーは覇竜領域を拠点とする冠位魔種だ。良き隣人であった亜竜種を害さぬ為に練達、深緑を襲ったのであろうが、その二つが潰えた今、覇竜領域がターゲットになるであろうと里長代行達は考えた。
 大いなる影が亜竜集落を飲み込む前に対策を立てねばならない。
 その先駆けとして『フリアノン里長』である珱・琉珂を中心に行なわれた『ピュニシオンの森』の調査で分かったことがある。
 ピュニシオンの森の先にベルゼーは退避している。
 彼の周囲には竜種達が存在し、人の文明を真似て作られた竜種の里が存在している、と。
 その地の名を『ヘスペリデス』と言うのだという。

「ヘスペリデスに到達するために、まずはその『ラドンの罪域』って所へ行くってことっすね!?」
 レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は金緑の瞳でカイヤを見上げる。
「その通りだ。そして、そこにフェザークレス様が居るのなら……」
「フェザークレスは誰かが見たの?」
 床でぽよぽよと弾んでいたロロン・ラプス(p3p007992)がアーマデル・アル・アマル(p3p008599)の頭に飛び乗ってカイヤの目線に合わせた。若干足りない。亜竜種であるカイヤは少し大柄だ。ヴェルグリーズ(p3p008566)に乗った方が良かっただろうかとロロンは思いながらカイヤを見遣る。
「ああ、白く輝く翼の竜といえば、あの方の可能性が高い……まあ全く違う可能性もあるが。それでも一目見てみたいのだ。心優しき白翼竜様に」
 カイヤ達の伝承によれば、フェザークレスは祖先のカイレンに寄り添い幾度も助けてくれた竜で、彼が居なければ自分達は居なかったと今も崇めているらしい。
 ニル(p3p009185)はカイヤの言葉に戸惑う。何度も聞いているがやはり信じられないのだ。
 フェザークレスが心優しい竜だなんて。
「テアドールを傷つけたのに……」
 小さく呟かれたニルの言葉は誰にも聞こえなかっただろう。

「私も共に行きます」
 ヴェルグリーズとそっくりな男がイレギュラーズの前に歩み出る。
「君は……」
「私はウィール・グレス。なるほど、貴方が『オリジナル』という訳ですね。噂は聞いていますよ。私は伝承や人々の思いが具現化したものですから貴方の逸話も多く耳にしています」
 名工ウルカンが打ったとされるヴェルグリーズの話しや、旅人が持ち込んだ日本刀の切れ味など様々な憶測や伝承が折り重なり、ウィール・グレスという精霊が生まれたのだという。
「元はこの集落の鍛冶師が作った刀です。精霊としての属性は風ですが……フェザークレスが居るのだとしたら私もその姿を見てみたい。私は美しく強く気高き白翼竜を讃える為に打たれた剣ですから」
 もし、ウィールの前でフェザークレスを貶そうものなら血を見るかもしれない。優しそうな笑顔からそんな圧が感じられる。

「とにかく、ラドンの罪域に向かおう。よろしく頼むよイレギュラーズ」
 手を差し出したカイヤの手をニルは握った。



 ――人間なんか嫌いだ。
 こっち来るな。向こう行け。入って来るなってば。
 脆い人間なんか、生きられやしないんだから。
 すぐ、死んでしまうんだから……

GMコメント

 もみじです。ラドンの罪域へ行ってみましょう!

●目的
・魔獣『エアル』の撃退
・全員の帰還

●ロケーション
 ラドンの罪域と呼ばれる場所。
 ピュニシオンの森、出口付近です。
 黒き靄、霧、風が吹き荒れ先を見通すことが出来ません。

 森の出口付近から少し内側へ入った場所です。
 イレギュラーズが進むと薄く光る翼を持った魔獣が現れました。
『白翼竜』フェザークレスの眷属、魔獣エアルと亜竜シルクワイバーンです。

●敵
○魔獣『エアル』
 フェザークレスの眷属の魔獣です。
 白馬の様な見た目に白い翼の生えたペガサスです。
 人の言葉を有しませんが、彼を通して、フェザークレスはイレギュラーズを見ています。
 六竜の眷属だけあってエアルはとても強力です。
 吹き飛ばし飛ばしや、羽根を飛ばしてくる他、戦場を一気に駆け抜けます。

○亜竜『シルクワイバーン』×10
 フェザークレスの眷属の亜竜です。
 六竜の眷属だけあってその辺の亜竜とは訳が違います。
 体当たりや爪での攻撃の他、糸を吐いて相手を拘束してきます。

○『白翼竜』フェザークレス
 戦場にはいませんが、霧の向こうに気配がします。
 魔獣エアルを通してイレギュラーズを見ています。
 声は届くかもしれません。

 フェザークレスはラドンの罪域へ入ってきたイレギュラーズを追い払いたいようです。
 また、灰蓮(カイレン)に瓜二つの灰耀(カイヤ)を見て驚いているようです。

●味方
○灰耀(カイヤ)
 灰家の耀。亜竜集落『クレステア』に住んでいる。村長の息子。
 フェザークレスと交流のあった祖先灰蓮(カイレン)に瓜二つ。
 面倒見が良く冷静沈着な兄貴分だが、時折やんちゃな所がある。
 自分の身は自分で守れる程度には戦えます。

○ウィール・グレス
 刀や剣の逸話が交ざり具現化した伝承の精霊。属性は風。
 元はクレステアの鍛冶師が打った剣でした。
 フェザークレスの美しさと強さを讃える為に作られた剣なので、彼を貶すと刃が飛んでくるらしい。
 最近は温厚になったとか。
 自分の身は自分で守れる程度には戦えます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <ラドンの罪域>命の時間完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月25日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

リプレイ


 薄暗い森の中を用心深く歩く。目の前に広がるのは黒い瘴気に似た霧だ。
 枯れ木を『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の靴裏が踏む。
 パキリと小さな音が響き、遠くで何かが蠢く気配がした。
 一寸先も見えない視界不良、汰磨羈は用心深く周囲を見渡す。
 フェザークレスはこの先に居るのだろう。
 練達を襲撃した六竜の一角であり、あの惨劇で潰えた命を、その無念を思うなら戸惑う事なく敵対すべきなのだろう。されど――
「心優しき白翼竜様、か」
 彼を一目みたいと同行している灰耀(カイヤ)を横目で見遣る汰磨羈。
「あの練達で暴れたとされる白翼竜が……?」
「心優しい……?」
 汰磨羈の隣で『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)と『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が首を傾げる。
「彼にも何かしらの事情というのがあったのでござろうか。確かめてみなければ解らぬな」
「まあ、視点が違えば見える形はまるで違うものだ」
 アーマデルの言葉に汰磨羈はこくりと頷いた。
「私達は、彼の者に関して何も知らなさ過ぎる。ならば、まずは知るべきだ。無知のまま振るう刃ほど、恐ろしいモノは無いからな」
「そうだな。……それに、優しさは信念と決意が伴わねば保てないもの、抱えられねば折れもする、精神的に若ければ尚」
 アーマデルは壊された練達の町並みを思い出す。
「あの件で大勢亡くなり、生き延びはしたが運命が大きく歪んだ者も少なくはない」
 フェザークレスの白き光に焼かれた人々がいた。それは現実であり、消えない過去だろう。
「そう、時の流れの中では過去であり、社会的にもいずれは過去にしなくてはいけない事だ」
 前に進むために、乗り越えなければいけない記憶なのだとアーマデルは黒霧の先を見つめた。

「驚いたな、本当に俺にそっくりだね。こんな感覚はROOの時以来かな」
「ええ、私も何だか胸がそわそわします」
 くすりと微笑んだウィール・グレスに『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は目を細める。
「よろしくウィール・グレス殿、ただ……俺はフェザークレス殿には……」
「御方がどうかされましたか?」
 ウィールは白翼竜を讃える為に打たれた剣だ。彼の前でフェザークレスを貶すことはその在り方を否定する事に繋がる。ヴェルグリーズは口を噤み首を横に振った。
「いや、なんでもないよ。とにかく行こうか、フェザークレス殿のところへ」
 こくりと頷いたウィールの傍ですんすんと匂いを嗅いでいるのは『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)だ。
「フェザークレスのおかげでこうした出会いもあるんっすね」
 カイヤとウィールから白翼竜について何か聞ければとレッドは考える。
「美しく優しい白き竜。人間の生涯に寄り添った守り神が、他国で暴れたのは訳があるのでしょう」
「ああ、きっと何か事情があったに違いない……」
 ウィールとカイヤはフェザークレスの善性を疑っていない。
 自分達との温度差を感じると『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は彼らを交互に見つめる。
 練達への襲撃。それをユーフォニーは直接知っているわけではない。
 深緑の時もフェザークレスは居なかったと聞いている。戦う理由がまだ明確ではなく、流れに乗せて貰ったように思うから。
「だから今日は、ちゃんと見ましょう」
 この目で、何が正しいかを見極めるために。

「心優しき白翼竜……かぁ。フェザークレスはどんな竜なんだろう?」
『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は隣の『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)へと視線を向ける。
「人間に寄り添っていたこともあるって聞くと興味が湧いちゃうよね」
 アウラスカルトのように仲良くなることができるだろうか。
 そう問いかけるスティアに「そうなれるといいわね」と答えるアンナ。
 きっとフェザークレスは自分達人間を脆い生き物だと認識しているのだろう。
「竜と比べて脆いのは否定できないけれどね」
 アンナは寂しげにぽつりと零した。
「そんな理由で諦めていたら、そもそもこんな所まで来れていないわ。……まずは眷属をけしかけた位では諦めないと知ってもらいましょう」
「そうだね! ってことでラドンの罪域にレッツゴー!」
 元気よく拳を上げるスティアにアンナは目を細める。
 アンナとスティアの後ろに見えるのは『あたたかな声』ニル(p3p009185)の憂い顔だ。
「フェザークレス様はニルのだいすきな練達をめちゃめちゃにしにきた竜のひとり。テアドールを……ニルのだいすきなともだちを、傷つけたもの」
 胸元のコアの上をぎゅっと握ったニルはそっとカイヤへと視線を上げる。
「でも、カイヤ様のご先祖様を助けた……カイヤ様のご先祖様の、ともだち?」
「ああ……俺の先祖、カイレンを助けてその生涯に寄り添った優しい竜だよ」
 悲しげな表情を浮かべるニルへと優しい微笑みを向けるカイヤ。
「ニルはテアドールのことがだいすきです。カイヤ様のこともすきです」
 だからこそ、心がもやもやするのだとニルは訴えかけた。
「そうだな。俺も君達の話を聞いても、未だに信じられない」
 カイヤ達にとっては優しい竜が、ニル達にとっては暴虐の竜なのだ。
「ニルは……しりたいのです。フェザークレス様がどんなひとか……そうしたら、このもやもやは、晴れるでしょうか?」
 ぎゅっと杖を握り締めたニルは小さく「力を貸してね、ココア」と呟いた。

 フェザークレスは他者の命との向き合い方を考えている所なのかもしれない。
『頂点捕食者』ロロン・ラプス(p3p007992)は『人』ではない。
 無辜なる混沌の『人間』という枠ではあるが、その思考は『人外』的な要素を多分に含む。
 召喚される前の世界で、ロロンはその星の全ての生命を飲み込んだのだ。
 だからこそ、フェザークレスという竜の気持ちが分からなくもない。
「繋がる命、血族を見守るのが長命な生き物のスケールかなーとは思うけれど」
 押し付けがましいのもよくないとロロンはポヨポヨ跳ねる。向き合い方は其れ其れなのだ。
 それはそれとして。練達でのことを許せる筈も無い。命が悪戯に失われたのだから。
「お尻を穿たれたくらいで精算できるものじゃないよねー」
 フェザークレスの罪は無くなったわけではない。

 レッドは嗅覚を研ぎ澄ませる。
(……ああ、ぱんつと同じニオイ……)
「この先にフェザークレスが居るみたいっす!」
 前方の黒霧を自信ありげに指差すレッド。
 黒い霧の間に白く光る翼が見えた。されど、それが白翼竜ではない。
「眷属のお出ましか。まぁ、そう来るよな」
 汰磨羈は視界不良を物ともせず、目の前に現れたフェザークレスの眷属を視界に捉える。
「油断するなよ。この天馬だけじゃない。他にも居る」
 汰磨羈の耳には魔獣エアル以外にも複数の足音を捉えた。
「早速、敵のお出ましみたいだけど……ここで逃げ帰る訳にはいかないよね。全力で迎え撃つよ!」
 スティアの言葉に、仲間が「応」と声を上げる。
 レッドは赤旗の石突を地に突き立てた。
「フェザークレスー! また『遊び』に来たっすよー!」
 この声はエアルを通してフェザークレスに届いているだろう。

「……それと預り物もあるっす」
 くるりと振り返ったレッドはカイヤを見上げる。
「灰耀さんは見るだけでいいんっすか? フェザークレスに何か伝えたい事とかは無いっすか?」
「……そうだな。話しを聞いてみたいな。彼がどんな考えを持っているのか。ニルや汰磨羈が言った様に俺達は白翼竜様を知らなければならない」
「そうっすね! じゃあ、いくっすよ」
 念のためカイヤとはぐれないように、気をくばろうとレッドは考えを巡らせた。


 黒い霧の向こうから姿を現したワイバーンが、アーマデルへと糸を吐き出す。
 それを後ろへ跳躍し除けたアーマデルは敵影へと顔を上げた。
「あれは、シルクワイバーン、六翼竜の眷属……もしかしてこれ蜘蛛なのでは」
 糸を吐いて相手を捕まえる能力は蜘蛛を彷彿とさせるとアーマデルは剣を構える。
 アーマデルは先んじて地を蹴り魔獣エアルの前に飛び出した。
 同時にエアルもアーマデルの速度に追いつくように蹄を鳴らす。
 蛇腹剣が黒霧を切り裂き、エアルの羽根に巻き付いた。
 その巻き付いた剣ごと、アーマデルの身体は空中へと舞う。
 霧の中に消えるアーマデルの落下地点を読んだ汰磨羈がその下へ滑り込んだ。
「っと、大丈夫か!」
「ああ……すまない」
 汰磨羈に受け止められたアーマデルは直ぐさま立ち上がりエアルに眉を寄せる。
「流石は白翼竜の眷属か……」
「一筋縄ではいかないようだな」
 アーマデルと汰磨羈に向かって嘶いたエアルの横面を水晶の輝きが照らす。
「貴方の相手はこっち」
 ひらりと煌めいたアンナの剣尖が舞うように黒霧の中に浮かび上がった。
 エアルの瞳が青く光り、その場で方向転換しアンナへと走り出す。
 戦場に響く蹄の音は身震いする程に大きく威圧感があった。
 そのエアルの前足をアンナは水晶剣で受け止める。ミシミシと剣身が鳴った。
「……っ」
 アンナにのし掛る重圧は凄まじいものである。
「綺麗な見た目に反して相当なじゃじゃ馬のようね。骨が折れそうだわ」
 それでも、自由にさせないとアンナは強い眼差しでエアルを睨み付けた。

「カイヤさんウィールさんはエアルさんの方お願いします」
「分かった」
 ユーフォニーの声にカイヤとウィールはエアルへと走り出す。
「全員一緒に帰ること、約束です!」
「ええ、白翼竜の名に掛けて皆さんを守りますよ」
 ユーフォニーは振り返り、スティアとレッドを見つめた。
「私達はシルクワイバーンを引きつけましょう!」
「うん! 竜種と比べたら脆いかもしれないけど、これくらいなら全然平気だよ! だから、皆はエアルをお願いするね!」
 ユーフォニーとスティア、レッドはシルクワイバーンの前に飛び出す。
「堪えることならボクの出番っす。カモンベイベー♪」
 レッドは手を前に出してシルクワイバーンにウィンクして見せた。
 リズミカルに動くレッドの身体にシルクワイバーンは引き寄せられるように食らい付く。
 ワイバーンの爪と吐き出される糸に塗れてレッドの首が絞まった。
「ぐ、う」
「大丈夫!?」
 スティアの声に「これぐらい、平気っす」と手を上げるレッド。
 レッドの負担を軽減するためユーフォニーが横合いからワイバーンを引きつける。
 スティアはレッドに回復を施し、ワイバーンへと顔を上げた。
「まだまだ、こんなんじゃ私達は倒れないよ!」
 だから、人間を脆いと遠ざけないでほしいとスティアは声を張り上げる。

「……森を、傷つけるために来たわけではないのです」
 ニルの守りの力が戦場となる森を包み込む。自分達は誰かを傷つける為に此処へ来たのではない。
 それを示す為のものでもあった。
 杖を掲げたニルはシルクワイバーンからエアルへと視線を流す。
 心の中で渦巻く靄を振り払うように強き光を解き放つのだ。
「お願い、力を……」
 前に進むために。歩むべき道を違えぬように。
 ニルは願いを込めて煌めく魔力を溢れさせた。
 汰磨羈はこの場に立籠める黒い霧の中において最も正確に仲間の位置を把握出来ているだろう。
 ならば、戦闘の早い段階であれば多くの敵を巻き込むように動くのが最適解だと汰磨羈は判断する。
 己の身に取り込んだ大いなる力を陰陽の理の狭間から放つその技。
 戦場の黒い霧に光が乱反射し、白き光に満ち満ちる。
 汰磨羈の背後からエアルへと駆け抜けるのは咲耶だ。白き天馬の匂いを嗅ぎ分け一直線に進路を取った。
 エアルの大きな羽ばたきが聞こえた瞬間、咲耶の身は空中へと投げ出される。
 腹部への猛烈な衝撃に歯を食いしばる咲耶。
 されど、その体躯はしなやかな猫のように空で体勢を立て直した。
「なん、の!」
 続けざまに咲耶はエアルへと刀を走らせる。
「まぁ、拙者達も鍛えてるからそう簡単には倒れぬでござるよ! 少しの間、拙者達と遊んで頂こう!」
 咲耶の声は戦場に響き渡った。それは、霧の向こうにいるフェザークレスにも聞こえただろう。
 本当にフェザークレスが心優しい竜であるならば、眷属の攻撃で傷付き倒れる姿を見せられないと咲耶は歯を食いしばる。苦戦しているようには見せられない。これは意地だ。
「この程度のかすり傷、何のこれしき! 少々楽しくなってきたでござるな!」
 エアルの攻撃を刀で弾いた咲耶は口角を上げて笑みを零す。
 こんな攻撃ものともしないと、フェザークレスに見せつけてやるのだ。

「あの機動力は厄介だね……」
 ヴェルグリーズは咲耶を突き飛ばしたエアルを見上げ眉を寄せる。
「ええ。私が先に往きましょう。ヴェルグリーズさんへ繋ぎます」
「ありがとう、ウィール殿」
 剣を構えたヴェルグリーズに先んじてウィールが先陣を切った。
 初めてウィールの太刀筋を見るというのに、ヴェルグリーズは既視感を覚える。
 何故なら、自分も「そう」動くだろうから……やはり似ているとヴェルグリーズは息を呑んだ。
 閃光と共にエアルの右太ももへウィールの剣が突き刺さる。
「ヴェルグリーズさん!」
「ああ!」
 反対側の左太ももへヴェルグリーズの剣が走った。
 エアルのうめき声が戦場に木霊し、怒りに満ちた呼気がヴェルグリーズの耳に届いた。

 ロロンは戦場を見渡し仲間と敵の位置を把握する。
 大きさも違えば体表温度も違う。この黒い霧の中では温度視覚は有効なスキルであろう。
 地面を跳ねた水色ボディがエアルの前に放射線状にバッと広がる。
 スライムであるロロンに触れたエアルの翼先が解けて焦げた匂いが立籠めた。
 痛みに嘶いたエアルはロロンから距離を取るように身を翻す。
「出来るならばくっと行ってしまいたいんだけど……まあ、しかたないかぁ」
 仲間の方針は不殺である。捕食したりぷるるーんぶらすたーしたりはお預けなのだ。

 ――――
 ――

 黒い霧の戦場はイレギュラーズにとって苦戦を強いられることとなった。
 フェザークレスへの力を示す為に不殺を貫いたのも、仲間の負傷を増やす一因となる。
 しかし、それは結果として悪いものでは無かったといえるだろう。
 魔獣エアルやシルクワイバーン相手に不殺を貫けるだけの「強さ」がある。
 フェザークレスの気配が濃くなった。近くまで来ているのだ。
 咲耶は近くまで来ている白翼竜に聞こえるように声を張り上げる。
「フェザークレス殿よ、お主に会いたい者達がいるのでござる! そこに御座すはお主の知己の仲だったカイレン殿の子孫のカイヤ殿! 少し出てきてどうか話を聞いては貰えぬか!」
 咲耶の上げた声にフェザークレスが動く気配がした。

「……カイレン?」

 小さな声だった。けれど、それは人ならざる者の大いなる声だった。
 戦場の近くへとやってきたフェザークレスが、カイヤの姿を見つけたのだ。
 死んだはずのカイレンが眷属たちと戦っている。
「何で?」
 不安と動揺。会った事もないスティアや咲耶でさえ、それを感じ取ることが出来るほどの。
 否、カイヤがカイレンでは無いことは分かっているのだろう。それでも、動揺は見える。
 ユーフォニーはフェザークレスの動揺に首を傾げた。
 おそらく、白翼竜にとってカイレンは特別だったのだろう。
 その思い出を知りたいとユーフォニーは思い馳せる。守る為に攻撃するしかない状況があることも知っている。けれど、姿を現さず眷属に攻撃させているのは、自分達に関わること自体を避けているように思えてならないのだ。逆鱗を刺された以外にも何か躊躇いがあるのではないか。ユーフォニーはそう感じるのだ。
 なぜなら、この戦い自体が心からの拒絶ではないように思うのだ。
 本気で追い払いたいだけならもっと亜竜を連れてくればいい。多少人間に被害が出るぐらいの方が抑止力としては機能するだろう。
 強さを測っているのか、それとも遊びたいだけなのか。
 否、きっと躊躇っているのだ。ユーフォニーはフェザークレスの躊躇いや動揺を感じとる。
 ためらいには勇気が必要だ。そこで立ち止まって居ても何処にも行けやしないのだから。

「貴方は大切な人を失って悲しさの方が勝ってしまったのかな」
 スティアは直ぐそばまで来ているフェザークレスの気配に声を張る。
「……」
「灰蓮さんと一緒に過ごした日々のことを後悔しているの?」
「……」
 スティアの言葉にフェザークレスはカイレンと過ごした記憶を思い出いだした。
 脳裏に浮かんでは消えて行く、カイレンとの楽しい日々。
 眩い思い出の向こうに揺蕩う度に、その喪失が胸を締め付ける。
 人間にとっては遠い過去の話なのだろう。
 されど、長命の竜にとっては昨日の出来事のように生々しい痛みが棘となって抜けないのだ。
「出会わなければ良かったってそう思っているの?」
「……だって、こんなにも悲しいんだよ」
 知らなければよかったと嘆くのは、愚かなことなのだろうか。
 スティアにはフェザークレスが迷っているように見えた。まるで子供のように藻掻き苦しんでいる。
「それに人間がすぐに死んでしまうのを恐れているみたいだけど、貴方が思ってるよりはずっと強いんだよ! それを今から証明してみせる! 嘘だと思うなら力試しでもしてみればいいと思うよ!」
「嘘だ……人間は脆いんだ。すぐ死ぬんだ。だって、眷属たちを殺せてないじゃないか!」
 もうすぐ眷属たちに殺されてしまう。やっぱり人間は脆いと証明されて、「安心」する。関わらない方がいいと自分に言い聞かせられる。そんな風にフェザークレスは首を振った。
「――私達は絶対に負けないから! だって見てごらんよ、誰も死んでないよね!」
 スティアのそんな声が、カイレンの強引さに重なって、懐かしさが白翼竜の胸の中に一気に広がる。
 遠い日のカイレンもスティアのように、はっとさせられる言葉を放ったのだ。

 スティアの言葉をきっかけに、イレギュラーズは次々とフェザークレスへ言葉を投げかける。
「気高き竜、フェザークレス」
 アンナはエアルを通してその瞳の向こうに居る白翼竜へ言葉を紡ぐ。
「私達は確かに寿命も短く儚い存在なのでしょう。けれど、その儚い命を賭して為すべきことがあるの」
 仲間、友人、故郷、思い出の場所。アンナの心の中に広がる大切なものたち。
 立ちはだかるものが冠位魔種であろうと竜であろうと、終焉なんかに消させて良いものは一つもない。
 その為に自分達は戦って来たのだ。
 進むべき道を、今更引き返せるはずもない。強い意思の煌めきがアンナの瞳に宿る。
「あなたが人間をどう思うのも遠ざけるのもあなたの自由。けれどどうか、その前に一度話をする機会をくれないかしら」
 アンナの言葉にフェザークレスが霧の向こうから出てくる。
 神々しい六対の白き翼、仄かに煌めきを帯びた表皮はホワイトオパールを纏っているようにも見える。
「エアル」
 フェザークレスの発した声に魔獣エアルとシルクワイバーンが戦意を失った。
 攻撃の意志を感じられない彼らにイレギュラーズも剣を降ろす。

 両者が出方を伺う中で一歩前に出たのは汰磨羈だ。
 千の武と道を修め、数多の妖異を狩り続けてきた女傑故の度胸。肝が据わっている。
「なあ、フェザークレス。練達を襲撃した、恐るべき者よ」
「……」
 首を汰磨羈へと向けたフェザークレスは真正面から彼女を見つめた。
「本来ならば、私達は御主に刃を向けるべきなのだろう。あの戦いは、そうするに足る程の理由を……犠牲者達を生み出したのだからな」
 練達での惨劇は酷いものだった。為す術も無く、死んで行った人々がいた。
「だが。ここにいる灰耀(カイヤ)は、御主の事を『心優しき白翼竜様』と呼ぶ。灰耀の祖先は、御主に救われてきたのだと。それが本当ならば。御主が心優しき存在であるならば、何故、あの襲撃に加担した?」
「…………」
 真正面に見据えた瞳を僅かに逸らしたフェザークレス。
 汰磨羈の言葉はフェザークレスにとって突き刺さるものなのだろう。
「答えてくれ、フェザークレス。私達は、御主の事を知りたい」
「あれは、ベルゼーが来いって行ったから……」
『金嶺竜』アウラスカルトがベルゼーを父と慕っていたように。
 フェザークレスもまた、冠位暴食である彼を見て育ったのだ。
 言う事を聞かない子供であったフェザークレスを、それでもベルゼーは見放さなかった。
 竜の中でも臆病で、儘ならない自分を持て余しているフェザークレスは、ベルゼーの言う事だけはそれなりに聞いていたのだ。アウラスカルトとは別の方向性で、癇癪持ちの子供であるのだろう。

「……俺はフェザークレス殿に伝えたいことがある」
 ヴェルグリーズはフェザークレスの前に立ち、深呼吸をして顔を上げる。
「あの日練達では多くの人の命と平穏が失われた、それを俺は許さない」
「……ヴェルグリーズ」
 彼の言葉に、ウィールが視線を寄越した。
「そして俺の弱さが招いた事とは言えキミは俺の友を傷つけた。ウィール・グレス殿を怒らせるかもしれないけれどこれだけは伝えておきたい。俺はキミの行いを許さない」
 顔に見合わず激情型のウィールだが、この時ばかりはヴェルグリーズの言葉を遮らなかった。
 その言葉を向ける相手は白翼竜自身なのだ。
 フェザークレスの意志を聞かぬうちに自らが刃を向ける道理は無いとウィールは考える。
「……」
 白翼竜はヴェルグリーズの話しを静かに聞いていた。
「けれど、クレステアでのキミの話を聞いた。そして思ったんだ、キミは人を知らなすぎる」
「知ってるし……」
 不貞腐れるように視線を落したフェザークレスは「弱くて脆いし」と呟く。
「キミ達竜種にとって人は取るに足らない存在なんだろう。人の命は確かに短い、けれど時間の違いが生み出す別れと出会いの素晴らしさを俺は知ってる」
「……」
 それは悲しいだけのものではないのか。フェザークレスは「分からない」と首を振る。
「キミが人を知ることにはきっと意味があると思う。人を知った上で練達で行ったことを省みてほしい。クレステアでのキミの行いの意味をもう一度思い返してほしい」
 上手く言葉にできないけれど、とヴェルグリーズはフェザークレスに目を細めた。

「白き光の竜、長く生きる生物は個体として強く、だが数は少ない」
 アーマデルはフェザークレスへ別の方向からアプローチをかける。
「ヒトのように短い時を生きるものは個体は弱いが、己を曲げて適応する強かさを持ち、種として強い。その中でも道を自ら選び、歩んでいく個体は、神や長命のものにとっては興味深く映るらしいが……」
 フェザークレスにはどう映ったのだろうかとアーマデルは問いかける。
「難しい、わからない」
 竜は聡明で知識もある。人間よりも気高い生き物であるのだろう。
 しかし、人の情緒を理解するのは種族の違う者にとって難しいものであるのだろう。
「お前達は、僕に何をさせたいの。謝罪を求めているの?」
「フェザークレス殿がそうしたいなら……」
「……?」
「……」
 アーマデルに首を傾げるフェザークレス。
 そんな二人のやり取りをロロンとレッドは静かに見守る。
 白翼竜に届けたい言葉はまだロロンの中にはない。
 練達で怪我を負わせた自分達と再会したフェザークレスがどんな風に考えて、言葉を出すのか。
 道を示されることを嫌うのだろうか、諭されることを厭うのだろうか。
 仲間が投げかけた言葉に対して何を思考するのか、それを知りたいとロロンは思うのだ。
 だから、自分からはその道を示すことはしない。
 フェザークレス自身が導き出した答えをロロンは欲するのだから。
 どう感じて何を望むか。それを見届けたいのだ。

 話しを聞く限りフェザークレスは竜の中では若いのだろうと咲耶は考える。
 練達での襲撃は余り戦いに乗り気では無かったのだろう。現に先程フェザークレス自身がベルゼーに着いて行ったと言ったのだ。どうにも小さな子供のようで余り嫌いにはなれない。
「フェザークレス殿よ。お主にも立場があろうから協力は求めぬ。しかし拙者等も出来ればお主達竜族と戦いたくないし仲良くしたい。もし良ければ拙者達とお主と友になるという事は出来ぬでござろうか」
 ――友達になりたい。
 そんな咲耶の言葉にフェザークレスは爪を地面に食い込ませる。
 怖いと思ってしまうのだ。脆くて弱い人間はすぐ死んでしまう。
 彼らを愛したところで、悲しみが増えていくばかりだと。
「僕は……」
「カイヤさん達はあなたを大切に思ってます」
 フェザークレスにユーフォニーの声が届く。彼女の隣にはカイレンとそっくりなカイヤが立っている。
「私は覇竜の地と、この地の皆さんがだいすきで大切だから竜種のフェザークレスさんとはきっと動ける時間が全然違うけど、持てる時間の全てで、大切の「大切」も大切にしたいんです」
 白翼竜の思い出をしりたい。知って分かち合い、これからを歩んで行きたいとユーフォニーは告げる。

「カイヤ様たちはフェザークレス様に会いに来たのでしょう」
「ああ……」
 ニルはカイヤの隣に立ち、友にフェザークレスへと歩み寄る。
「フェザークレス様……ニルがフェザークレス様なら、ともだちによく似たひとが傷付くのは悲しいです」
「そう、かも」
 カイレンの子供達。大切な友達の大切。ユーフォニーが言っていた言葉が反芻する。
「ニルはかなしいのはいやです。カイヤ様がかなしいのはいやです……
 フェザークレス様がかなしいのだって、きっと、ニルはいやです……
 テアドールを傷つけたのは、とってもとっても、いやですけど」

 大切な人を傷つけられた痛み。
 脆くて弱い人間たちと強い自分と。その痛みに差はあるのだろうか。
 フェザークレスは竜の姿から人間へと姿を変える。
 大切な友達のカイレンの子孫。カイヤの頭をそっと撫でてた。
 この子たちが育ってくれたことが嬉しい。
 誰かの大切な人を傷つけたことが悲しい。
 押し寄せるたくさんの感情が溢れて、白翼の竜は一雫の涙を流した。
「ごめんなさい……」
 練達でのこと、大切な命を奪ってしまったこと。
 無為に儚き命を消してしまったことを悔いているから。

「でも、この先は危ないから。本当に近づいちゃだめだから」
 心配なのだ。彼らが強くとも、この先に待ち受けるのは強き竜が棲まう場所。
 人間では立ち入ることさえ出来ない領域なのだ。
 簡単に失われてしまうのが怖い。儚き命が散ってしまうのが悲しい。
「大丈夫っす!」
「そうだよ、私達は強いんだよ!」
 レッドとスティアの言葉に、他の仲間も頷く。
「どんなに道が険しくても、私達は進むしか無いの」
 アンナはしっかりとフェザークレスを見つめ強い笑みを浮かべた。
「だから、安心してください。私達は死にませんから!」
「うん、俺達は死なない。だから君が罪を償うというならそれを見届けるよ」
 ユーフォニーとヴェルグリーズはフェザークレスの手を握る。
 その手に咲耶とニルの手が重なった。
 アーマデルと汰磨羈は優しい眼差しでそれを見つめる。
(そうか、それがきみの答えなんだね)
 ロロンはフェザークレスが選び取ったものを確りと受け止めた。

 白翼竜はこの時はじめてイレギュラーズの顔をしっかりと見た。
 青い瞳、銀の瞳、様々な色の瞳が自分を見つめている。
 ――ああ、なんて。なんて強い眼差しなんだろう。
   儚い者なんかじゃない。きっと、かれらは誰よりも強いものたちなのだ。
 フェザークレスは握られた手をぎゅっと握り返したのだ。


成否

成功

MVP

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

状態異常

レッド(p3p000395)[重傷]
赤々靴
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)[重傷]
夜砕き
ユーフォニー(p3p010323)[重傷]
竜域の娘

あとがき

 お疲れ様でした。
 フェザークレスは皆さんのお陰で、自分の心と向き合うこととなりました。
 人間を知る為に一歩前進しましたね。
 MVPはフェザークレスの行いに真正面から向き合った方へ。
 ご参加ありがとうございました。

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