シナリオ詳細
<カマルへの道程>咫角驂駒のファルスムス
オープニング
●進むべきは血道の果て
紅血晶が市場に出回り、ネフェルストを多数の晶獣や晶竜、そして吸血鬼が襲撃した。
ラサの実質的指導者である『赤犬』ディルクは失踪し、一連の事件の糸を引くと目される『女王』、または『月の女王』や『紅の女王』などと呼ばれる女と姿を消したという。
そんな混乱の中、しかし元凶となった吸血鬼達の足取りはすでに割れている。『古宮カーマルーマ』なる遺跡に広がる幾つかの転移陣を通じて、彼らは『月の王国』からラサを蚕食すべく迫っているのだ。
彼らの襲撃を食い止める為、そしていまだ拉致されつつある幻想種の被害を減らすためにも、目下イレギュラーズの目的は転移陣の確保と『月の王国』への進軍だ。
敢えて懸念があるとするなら――吸血鬼によって刻まれた『烙印』の影響が、イレギュラーズのみならず多方面で広がりつつあること。旅人であろうとも関係なく発現するそれは、『無差別な反転』にも似た危険なものであることは明らかだ。
或いはそれを求める異常者が話を聞きつけ彼らの――否、『彼女』らの傘下にくだることは避けねばならない。
限定的な情報、尽きぬ敵、救わねばならぬ相手には制限時間つきときた。今この状況を打開するには、攻撃あるのみ。
●大人になれない君たちのために
「……分かってはいたけど、したり顔でウチの同輩を連れて行くのは筋が通んねえゆ。おまえはここで泣き見せて二度と舐めた真似できねえようにしてやゆ」
「困ったなあ、ボクは友達がほしいだけなんだよ? ボクと同じ、大人に“なれない”友達が」
「なら、とんだ勘違いゆ。幻想種はゆるやかに歳をとるんだから、おまえとは一生相容れねえゆ。下らねえ夢見る前に王国に引きこもって滅びを待てばいいゆ」
カーマルーマ、西側の転移陣のひとつ。
『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)とイレギュラーズ達は吸血鬼達の幻想種に対する拉致が活発化したという情報を受け、同地において実行犯をあわよくば撃破し、以て幻想種の救出を行おうと目論んだ。そして、遠くに見える拉致グループに先行して現れたのがこの少年――口ぶりとその身から溢れる不気味な雰囲気から、あからさまに吸血鬼だとわかる。
「キミも幻想種なんだね。その割に、老いが早い様に見えるけど……」
「言葉に気をつけゆ。おまえ、わたちをキレさせたらどうなるか分かってゆか?」
「へぇ、怖いね。どうなるの?」
「わたち……の仲間達がおまえを二度と泣いたり笑ったり出来なくすゆ。そしてそこの幻想種は全員おうちに帰宅するだけゆ」
「困るなあ、それは困る。それじゃあボク一人じゃ手が足りない。せいぜい時間稼ぎをしてもらおうかな、『そうじゃなかった方』に!」
そう告げた吸血鬼の声にあわせ、転移陣から現れたのは晶獣や偽命体達。吸血鬼もまた、自ら戦う意思を固めている。
「ああ、ごめんね。ボクの名前はファルシュ、旅人だった者だよ……まあ、もう会わない人に教えても仕方ないんだけどね!」
- <カマルへの道程>咫角驂駒のファルスムス完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年04月03日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
尋常ならざる長い腕を持つ者、身長の八割を占める脚で頼りなく立つ者、或いはひと目で重量比がおかしいとわかる四肢のサイズ感を持つ者……どのように命を繋ぎ、どう動くのかが分からぬような異形の生物達。それらは一様に激しい加齢を伴っているように見えた。
偽命体(ムーンチャイルド)として現れたそれらは、長い耳を備え、己の顔の皺にもはや戸惑う素振りすら見えない……そうなってしまった事実を、もはや疑いなく受け入れているような。
「あれは……ホムンクルス? 幻想種を拉致していたのは、つまり『長命種という素材』の為ですか」
「ラサから深緑(ウチ)は手頃な狩り場だったんだろうゆ。アンガラカとかいうクソみてーな粉がなきゃ猫一匹捕まえられない雑魚と取引して欲しがるなんてどうしようもねえゆ」
「……私は、受け入れることは、できません」
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が訝しげに目をすがめた先にいるのは、間違いなくすべて『幻想種をベースに作られた偽命体達」だ。人を素材にした事実に嫌悪感を露わにした一同の反応は尤もといえる。パパスの呆れたような反応は、最早語る言葉も無いという意思表示か。『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)は既に幾度か偽命体と対峙したことで驚きはないものの、その分確固とした結論を導き出した。
吸血鬼と、それに与する『博士』の所業は受け容れられない。相手にとっての譲れないものや大事な目的は、しかし生み出される多くの悲劇を「失敗作」の一言の下に切って捨てていいものではないのだ。
「キミの身勝手な行動に幻想種の人達を巻き込ませはしないよ。ただでさえ吸血鬼の起こした事件で不幸になった人達がたくさんいるんだ」
「……ふざけるな。無理矢理攫って吸血鬼にするか、それより惨めな姿にするのが友達作りなんて話が許せるわけがない。ぶちのめしてやる」
「うわぁ、怖いね。君達とはあまり戦いたくはないものだね。面倒だし。友達にはなりたくないタイプだ」
『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)も『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も、吸血鬼ファルシュの言葉に強い忌避感を覚えていた。友達作りという言葉を用いながら、さらい、奪い、自分と異なる出来損ないになろうとかまわない傲慢さは、友達というトロフィーが欲しい児戯にも等しい心のありようを露わにしているといっていい。それら全てが演技なら、成程おぞましい怪物にも見えようか。
「大人にならない友達が欲しいとか頭湧いた事抜かしてるんじゃねぇぞ、この糞餓鬼が。ダチってもんは少なくとも無理矢理拉致って作るもんじゃねぇんだわ!」
「うーん……じゃあ……一度死なせてあげてからのほうが老化がない分綺麗かな? あはっ、ちょっと名案かも!」
「…………狂ってやがるぜ……という訳で先輩方! あの糞餓鬼吸血鬼やっちまってくだせぇ!」
高橋 龍(p3p010970)はファルシュ当人に強い言葉を浴びせ、その行いの無謀さを糾弾した。仲間達との違いといえば、内側に湧き上がった怒りを醸成するのではなく、ストレートに相手に悪罵を叩きつけることぐらいか。だからだろうか、ファルシュは龍を見据えながらより残酷なプランを思いついた様子であった。龍は即座に先輩たる仲間にその打倒を申し出るが、彼なりに役割と実力を正しく把握しているというあらわれだろう。
「時間共に滲み、蝕み、人の心を失わせる。それが孤独だ。『ご老人』、子供を気取るなら子供にもよりそってやらねばいけないよ」
「……なんて?」
『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)の言葉は、そんな「一方的な強者の快楽」を真正面から打ち砕くのに非常に効果的だった。所作、体躯、声音にいたるまで子供らしくを貫き、演技じみた身振りを繰り返していたファルシュの姿を偽りだと断じた。間違いようのない事実だが、だからこそファルシュの笑顔が一瞬で抜け落ちた。あからさますぎるといえばその通りだが、ここまで顕著になろうものか。
「図星を指摘されて腹が立ったのか。そういう感性だけは子供っぽいんだな」
「そうだね、ちょっとだけイラッとしちゃったかなぁ……でもそうだね、君達は一度、徹底的にわからせておいた方がいいのかもしれないね」
激しい敵意を吐き出したファルシュの姿を、『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)は呆れたように睨みつける。幻想種を攫った理由もその心根もどこまでも子供じみた彼の姿は、その一点だけは真実なのだろう。だからこそ、鼻っ柱を折っておきたいというのはある。
状況を見守り、飛びかかるのを堪えていたヴォーヴェリンが膝を弛めた。偽命体達はうつろな眼をした顔を持ち上げ、うらめしげに一同を見据えた。希望の抜け落ちた視線は一同の心胆を寒からしめたが、だからこそ倒さねばならぬ、と理解させた。
「ヴォーヴェリン、僕が許す。徹底的に食い散らかせ。出来損ない達は全力で足止めをしろ。……あとは僕が勝手にやる。命を賭けろ」
「やれやれ、明らかに苛立っているというのに無思慮に突っ込んで来ることはない、か。一番面倒なタイプじゃないか」
愛無は先程までの子供らしさをかなぐり捨てたファルシュの姿に、目論見が外れたことを認識した。想定内であるが、だからこそ面倒な事態になった……と首を振る。直後、若々しい姿に似つかわしくない尾を振るって偽命体を吹き飛ばした。吸血鬼も、その他の敵も甘く見れない。だからこそ、「いつも通りに」戦うことを決心した。
●
「拉致集団はまだ遠いな。今はまず、偽命体か」
「晶獣もなかなかに厄介そうだ。クロバさんが簡単にやられるとは思ってないけど、気をつけて」
クロバの眼は、はるか遠くから駆けてくる砂煙を見た。まずは手近な敵を殲滅し、然る後にあれを殺る。激しい敵意をマルクの言葉とともに収めると、視界の隅にはすでにヴォーヴェリンが爪を振り上げ、迫っていた。
思いの外に速く、そして的確。クロバは身を翻すが、運は軽々には彼に味方しないらしい。少し深い傷だが、許容範囲だ。
「ヒャッハー! テメェらのような雑魚なんて俺ごときで充分! 悔しかったらこのドラゴン様をぶっ殺してみろや、オラァァン!!!」
「ここから先は通しません。仲間の邪魔もさせません。……ですから高橋さんも、無理のない程度にお願いしますね」
「先輩に頼られちゃあ頑張るしかねえな! いくらでも受け止めてやるぜェ!」
次々と襲いかかってくるヴォーヴェリンに一手遅れはしたものの、龍とグリーフの声は確実に偽命体の群れを自らに惹きつけた。振り上げられる戯画的な肉体、歪んだ悲鳴。感情は悲惨な色合いを持ち、本心らしい本心を見抜くことができないほどだ。体力を見る間に削ってくる暴威にほんのりと危機感を覚えた龍だが、表情は余裕の笑みを崩さない。ビビったら負けだ。死なないために築き上げた肉体は、今この時のために。
「グリーフ殿も龍殿も、簡単には倒れないし、俺が倒させないよ。その首、貰った」
「お前達にまともな成功なんて許さない……絶対に!」
ぼこりと泡を立てて、混沌の泥がヴォーヴェリンの足元から湧き上がる。ヨゾラの放った術式が晶獣に食らいつくと、僅かばかりあった幸福の権利も食いつぶしていく。
すかさず振るわれたヴェルグリーズの刃は、首を落とすには至らぬまでも明確に深手を負わせたことは明らかだ。ヴォーヴェリンの身を襲った不幸は、ヨゾラの感情の昂りを表しているようにも見えた。
「いいねえ、感情的だねぇ、僕はそういうのは嫌いじゃない。いくら年齢を重ねても、若い感性だったら……うんうん、興味深いね」
「大人になれない、心が幼稚なままのは貴様だけだ!」
ヨゾラの耳元に、ころころと鳴るような声が響く。ファルシュのものだと気付くや、ヨゾラは渾身の勢いを拳に籠めて殴りつけた。恐るべき量の魔力を伴った爆発を、しかしファルシュは一歩も退かずに受け止めた。胴で、だ。瞬間、ヨゾラは拳に返ってきた感触で膨大な、あまりに膨大な密度の情報を受け止める。
それらの情報は何れも、子供の姿を留めておくことで圧縮された汎ゆる『強度』を理解させうるものだ。反撃とばかりに振るわれた戯れ混じりの一撃は、しかしそれだけでヨゾラの顎を打ち上げ、意識を激しく揺さぶりにかかる。
「程よい強さと軽さ……いいね、もう一発――」
「ご老人、なんとかに冷水というが無理はしていないか? 少しだけお相手願おうか」
勢いに乗ったファルシュが二発目、より強固な一撃を振るおうとした刹那、その身は大きく吹き飛ばされていた。愛無による尾の一撃。周囲の敵も纏めて薙ぎ払ったその威力はそこそこながら、続けざまに放たれた魔眼の引力が彼を縛り付けた。
「旅人だった、と言いましたね。『烙印』で吸血種になったのは、自ら望んでと言う事ですか?」
「うん? ……まあそんなとこだね」
「……解りませんね。有り体に言えば、それは所詮『完全生命の失敗作』でしょう。そんなものに頼ってまで、元々の在り方を辞めたかったのですか?」
アリシスは近場の偽命体を蹴散らしつつ、ファルシュに問う。児戯の如くに暴れる彼は、いつ消えるか分からない。今聞けるなら、その理不尽を知りたいと感じたのだ。返ってきた笑みは、彼女への嘲りにも自嘲にも取れる曖昧さだった。
「長く生きると、色々あるんだよ」
「身体は子供の姿のままだとしても、心はいつまでも子供ではいられない……真の意味で老いを克服出来ないから、自分から完全性を捨てたと?」
続くマルクの問いに対する表情の変化を見る限り、図星半分といったところか。ヨゾラの治癒に全力を注いでさえいなければ、彼はファルシュに一撃与えていたことだろう。それでもあの反応を見るに、十分な打撃は厳しいが……。
「余り長居されたら困る性質だな。君には悪いが、ご退場願おうか」
「嫌だなぁ、もう少し長く――」
愛無はこの存在を受け止める自信と自負がある。烙印とやらも受けてやろう。だが、それと仲間が危険に晒されるのとは別問題だ。ファルシュが駆けてくる勢いそのままに振るった拳を正面から受け止め、もう一度魔眼を叩き込み、相手を抑える。
背後から飛びかかったヴェルグリーズの斬撃が、ファルシュの身に僅かな隙を生む。そこに、ヨゾラの破撃が続き――ぴしりと、何かが割れる音がした。それはファルシュの少年じみた顔の皮が剥がれ落ち、内側から覗く『何か』との対面。魔力と正気を奪うかのようなそれは、目を背けたくなる悪意に満ちていた。
「嫌ダナぁ、嫌イだなぁ……その顔、その眼、覚えタよ。君達三人は、何れ僕が殺そう」
ファルシュの肉体に、死へと繋がる傷が入った気配はない。だが、表面上の余裕は確実に潰した。呪詛を吐きながら飛び退った彼は、転移陣の光とともに姿を消した。
●
「砂嵐が来る」
「おっと有り難え! 有り難えけど風の勢いが、ど、どいひー?!」
「落ち着いて対処すれば、十分戦えるよ。敵の数も減って連携が崩れているから、各個撃破を重点的に! 立て直すチャンスを与えちゃだめだ!」
愛無の短い指示をうけ、龍は咄嗟に顔に手をやる。が、それでも顔を叩く勢いと視界の狭さに思わず文句の一つも漏れようというものだ。そんな状況下で不平ひとつ漏らさず指示を飛ばすマルクの姿は、仲間達の心理的支柱としての役割を十全に果たしているといえた。
「相手が多様性で攻めてくるなら、対抗策を揃えればいい。手段ひとつで倒れるような準備で、あなた達を受け止めようなんて思っていません」
ヴォーヴェリンが思い切り爪を振りかぶり、グリーフへと襲い掛かる。真正面から受け止めた魔力の防壁は、しかし異形の杖と融合した偽命体の一振りにより消滅。続く攻勢が間断なくグリーフを痛めつけるが……攻撃の勢いに比して、その傷は驚くほど小さい。彼らが死力を尽くして攻め立てていることも、それが強迫観念によるものであることもグリーフは理解している。その根源は尻尾を巻いて逃げ出したというのだから、これは忠誠心ではない。
「グリーフ先輩! 俺も手伝うぜ!」
「心強いですね」
偽命体の何体かを受け持つかたちで龍が割って入り、彼らを引き付ける。ヴォーヴェリンの爪は龍にとって脅威であるが、さりとて一発喰らったきりで倒れる鍛え方もしていない。先輩を頼るなら、自分も頼られるようにならねば。そんな決意が見て取れた。
そして、彼等が油断なく立ちはだかり、倒れることなく戦線を維持できたのは誰あろうヨゾラやマルクの治癒によるところが大きい。パパスも治癒に専念しているが、不調の回復で手一杯だ。
一連の流れにおいてファルシュの猛攻を凌ぎ、かなり早い段階での撤退に追い込んだことは消費リソースの激減を意味する。有体に言うなら「余裕がある」のだ。
「誰も攫われずに済んだんだ、幻想種を攫ったままの連中を逃がすわけにはいかない!」
「……奴らがケツ捲って逃げるのは目に見えている。幻想種は返してもらうが、『利息』は取り立てちゃいけないなんてルールは無かったよな?」
「彼方側が『やる気』なら推奨されませんが、逃げ腰の相手を追い立てる分には問題ないでしょう」
ヨゾラの怒気を孕んだ視線の先には、戦闘区域に近づきつつある馬車の姿。このままいけば逃げる算段に入るだろう。だが、幻想種を解放するだけではクロバの苛立ちは収まらない。ともすれば無謀な彼の提案は、アリシス含め仲間達が即座に肯定した。『やってしまえ』と。その証拠とばかりに、アリシスは近場のヴォーヴェリンの首を一瞬で叩き落して見せた。
「なら、さっさとこちらを仕留めなきゃね」
「吸血鬼に比べれば、命を顧みない出来損ないなど数でもないか。哀れだが、生き永らえるよりはマシだろう」
ヴェルグリーズと愛無は龍の左右から偽命体を蹴散らしにかかり、血の雨を降らせる。顔を濡らすそれは、吸血衝動があれば目を剥いてしまいそうなほど激しく、妖しい美しさを伴っていた。
「ヨゾラさん、攻めに回ろう。多分、今全滅させて向かっても馬車を捕捉できる」
「……そういうことなら!」
マルクとヨゾラは攻めに転じ、残り僅かとなった偽命体の殲滅へと魔力を振った。首と頭がずれ、胴に穴空き、喉が断末魔を叫ぶ惨状にあってしかし、グリーフが目の当たりにした感情は確かに『歓喜』であった。余りに哀れで哀しい喜び。
「畜生、道を空けておくからまっすぐ来いとか言った奴が真っ先に逃げてるじゃねえか!」
「知るかよ、金蔓を捨てて逃げるにしたって遅すぎるだろ!」
拉致した幻想種を乗せた馬車は、混乱しつつも転移陣へと直進していた。御者は転身して逃げるか、幻想種を捨てて馬車で逃げようとも考えた。だが仲間はそれをよしとしない。
ローレットに目をつけられたと知っていれば、否、知っていても仕事を受けた。一度得た儲けの味は忘れられない毒ゆえに。身を固めた装備の安心感は、危機感を麻痺させていたのだ。
突如、馬が頭をもたげ、嘶きと共に足を止める。何事かと手綱を引いた御者は、その感触があまりに軽いことに気付く。引く力が返ってこない……手綱を握った腕ごと。
「人間を売り買いして、さぞ儲けたんだろう? 税収の時間だ、裁定は俺がする。お前らが払うのはその命だ」
「ひっ」
クロバの死刑宣告に対し、御者の悲鳴よりも早く連装銃の弾丸が彼に襲い掛かる。確実に当たる軌道だったのに、彼はそれが運命の思し召しかのような当然さで避けて見せた。
「貴方達の所業を私は受け容れられません。その上で、罪には罰が伴うものと思っています……殺すまでかは、図りかねますが」
「でも殺しちゃ駄目ってことじゃないよね?」
「捕まった連中を金の詰まった袋としか見てない連中ゆ。糞袋にしたところで誰も悲しまねえゆ」
グリーフは強く相手を断罪しようとは思わない。だが、仲間の言葉も、幻想種への害意への苛立ちも、十分二理解できた。今や遅しと襲いかかるべく構えたヨゾラに、パパスは肯定を返した。
無論、そのやり取りの間に数名の首が飛んで愛無に食い散らかされていたのだが……ともあれ、幻想種達も助かり、直近の危機も消え去った。転移陣のひとつが、確実に占拠された格好なのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
大変お待たせして申し訳ありません。
それはそれとして。
……みたな?
●運営による追記
※恋屍・愛無(p3p007296)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています
GMコメント
咫角驂駒:しかくさんく。幼少の馬。転じて、少年。
●成功条件
・吸血鬼ファルシュの撃破【or撤退】
・敵勢力の全滅【or8割以上の撃滅】
・(推奨目標)12ターン以内の上記【】部分すべての達成
●失敗条件
・15ターン経過時点での成功条件【】部分の未達、または10ターン経過時点で戦闘不能者が過半数となること
●吸血鬼ファルシュ
もと旅人(加齢ストップする部類)の吸血鬼。
自分と同じような、加齢が極めて緩やかだったり加齢が起きない人種を仲間に引き入れたいと思っている。幻想種をさらうこともそれに繋がるという希望的観測があるが、まあそんな訳がないのである。
うっすらと自分の希望と乖離していることは理解しつつも、幻想種と多く触れ合う事自体喜びを感じているので割とどうでもいいと思っている。
外見年齢、体躯、その他諸要素が本来の実力と大きくかけ離れている(幼年に見えるが高齢、矮躯なので後衛とみせかけてバリバリの前衛タイプ、など)。
傷ついたときに溢れる花は沈丁花。
フィジカル面が魔種と比しても高い方だが、精神性が幼いフリをするあまりその辺りに甘さや隙があると考えられよう。
攻撃レンジは中距離までで様々。彼の撤退を目指す分には、本格的な苦労はしないでしょう。撃破まで考えると推定難易度はHARDのちょっと厄介なレベルまで跳ね上がります。
●晶獣「ヴォーヴェリン」×5
クズリの晶獣。
元の性質同様極めて凶暴で、しかも体格が増大している。
近接攻撃には「出血系列」が伴い、一部攻撃はCT補正が高めになっているし【必殺】もついてくる。
また、爪を伸ばす突き攻撃が行えるため、そこそこ長射程の攻撃も可能。
HP、反応、回避高め。
●偽命体(ムーンチャイルド)×14
人造生命体の失敗作たち。どうやら、幻想種をベースに作られている模様。
実験の副作用か、いずれも激しい加齢を伴っているように見えるが、全体的に異形であるため関係ないのかもしれない。
肉体的特徴が誇張されており、肉体の長短のバランスがおかしいだとか、重量比がおかしいだとか、兎に角何もかもおかしい連中です。
一体あたりの体力面は平均的ではありますが、個々の性能が割とバラつきがありますし、回復を使う奴もいます。
少なくとも、単一戦略でメタを張れる設計ではないと思われます(まあ怒りも封殺もその他なんやかんやも一定レベルまでは通ると思いますが)。
●幻想種拉致集団×??
メンバー数、拉致された数などは不明。成功条件を達成したのが12ターン経過前であれば、幻想種を拉致した馬車をおいて逃げ出します。
達成されてない場合、有利とみなして突っ切ろうとしてきます。
数が不明ですし、一連の拉致で私腹を肥やしている連中の武装が弱いわけがありません。消耗状態で戦い、あまつさえ数的不利の状況で打開できるかというと疑問符が残ります。
なので、彼らが戦闘態勢に入る=かなり不味いとか、ここからの打開難度が跳ね上がる、と認識していいでしょう。
●『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)
友軍です。
物理攻撃も行えますが、主にヒーラーとして立ち回ります。
●戦場
遺跡周囲。砂漠地帯のため、砂嵐などが発生して敵味方双方に命中減補正が入ることがあります。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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