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シナリオ詳細

<鉄と血と>獣王の軍勢<貪る蛇とフォークロア>

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●地平へ続く獣道
「はっ、汚ねぇガキだな。そんな細腕で俺を殺せるか?」
 そう言って俺を嗤った男は、後に鉄帝に喧嘩を売った。
 沢山の人間を巻き込んで、沢山の奴らと一緒に、戦場を楽しそうに笑っていた。
「どうした、俺を殺すんだろ? 超えるんだろ?
 やってみせるつったからにはこんなもんで潰れるんじゃねえ」
 そうだ、俺は、一度だってあの人に敵わなかった。
 腕っぷしも、度量も、気迫も、経験値も。
 全てすべて、何もかもが敵わなかった。
「……くそっ」
 あぁ、ちくしょう――どうして今更アンタを思い出す。
 アンタはとっくに死んだじゃねえか、アンタはとっくに勝ち逃げしやがった!
 俺や、アンタに着いてった連中全部を置き去りにして、てめえの好き勝手やって逝きやがった。
 後悔は無かったろうよ、あってたまるか。
 あぁ、ちくしょう――分かってる。
 分かってるんだ、どうしてこうにもアンタを思い出すのか。

「――結局、俺は一度だってアンタに敵わなかった」
 敵わなかった。
 今までの人生で、勝ち星がなかったわけじゃない。
 けど俺は――俺は、一度だって勝ちてぇと思った奴にばっか負けやがる。
「なぁ、ヴァルデマールの旦那。分かってんだ、無謀だってよ。
 不可能だってこたぁ、連中に言われるまでもなく分かってら……」
 テオドシウスは、いつだって敗者だった。
 勝ちたいと思った相手には絶対に勝てない敗者だった。
 その勝ちたかった奴を打ち負かした連中に、挑もうってんだから無茶だっつう話だ。
 どれだけ強気に見せようと、ローレットに舐められるわけにはいかない。
「あぁ、うざってぇ、腹が立つ。
 なぁ、どうしてだ。どうして俺は――勝ちたい奴にだけ勝てねぇんだ?」
 独り言ちた言の葉に、今の今まで忌々しくも聞こえていた男の声は答えなかった。
「あぁ、そうだよな。アンタがそんなことを教えてくれるわけがねえ……でもよ。
 いつもアンタに勝てなかった俺が、敗者でしかねえ俺が――」
 ――たった一度ぐらい、勝った奴の目にもの見せてやりてぇってのは、そんなに悪い事かね。
 そのためになら、死んでも、一度でもいい。連中に、俺たちという敗者の存在を忘れなくさせてやる。
 全身を駆け巡る狂気を、襲い掛かる『怨』を振り払って、テオドシウスは身体を起こした。

●敗者たちの獣王
 扉を開いて、外に出る。
 もうとっくに、連中はそこにいた。
 死にぞこない――死にたくても死に場所を選べなかった弱者ども。
 それでも、死んじまったみてえな俺達だ――それでも生きていくしかねえ俺達だ。
 壇上に立つ景色は、何故か綺麗だった。
 春先を待っているはずの空気は未だ寒々しく――けれどテオドシウスにはそれが心地よかった。
「もうすぐ、鉄帝って国は変わるらしい。
 ――それが可能性ってのが勝つのか、新皇帝の暴威こそが勝つのかなんざ興味もねえが」
 目の前に立つ連中に、声をあげる。
「――ただ、俺達にやるこたぁ残ってる。そうだよな、てめえら」
 此処にいる全員は、敗北者だ。
 負けた連中だ――死んだも同然の連中だ。
「――けどよ、俺達が負けたのは『今の鉄帝国だ』。『この国で生きる弱者の為に戦った連中だ』。
 だからよ、俺は、俺達が敗者として喧嘩を売る相手は『今の鉄帝国じゃなきゃいけねえ』!
 どっちが勝つとか知るかよ、どうでもいい。俺達が負けた奴らに、目にもの見せてやる。
 たったそれだけだ! たったそれだけで、いいだろう、なぁ! 死にぞこないの『亡霊』共!!」
 その日、テオドシウスは初めて『亡霊』達が本気で応じるような声を聞いた。
 ――あぁ、それからこれだけは言わねえと。
 これは決して、全然、あいつらに感化されたわけじゃねえ。
 ただ――そうただ、一泡吹かせてやるってんだからこれぐらいじゃねえとって話だ。
「それから、もう『亡霊』なんて辛気臭せぇ名前は止めだ。
 俺達は獣だ。死んでも死にきれなかった、敗北の味をかみしめた獣だ。
 ――俺はてめえらと一緒に死んでやる、俺は『獣の王』になって勝者に食らいついてやる!
 死んでもついてこい、てめえらの屍は、俺が食ってでも一緒に連れて行く!」
 そうして――天を割らんばかりの歓声が轟いた。


 『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く――
 各地の混乱はいよいよ制され、分かたれた六大派閥は各々の鍵を手にしていた。
 物流の復帰さえも敵い、鉄帝の明日は大詰めに至りつつある。
 かくして、混乱の帝国は『帝都決戦』に至る道筋に光を差した。
 北辰連合の殆どの軍勢は既に町を出て東より帝都を望まんと進んでいる。
 そんな折、北辰連合に属すクラスノグラードには複数のイレギュラーズの姿がある。
「なるほどねえ……ということは貴方も私達の子供、あるいは弟みたいなものってことね?」
 目の前でお菓子をもぐもぐする蛇の雰囲気を持つ青年へイーリン・ジョーンズ(p3p000854)はそんな感想を抱く。
 顔を上げた青年――ニーズ=ニッドは不思議そうに首を傾げた。
 ちょうど今、ニーズ=ニッドの正体が推察された依頼に参加していなかった3人に彼の正体が共有されたところだった。
「お師匠様? どういうことです?」
 そう首をかしげるのはココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)もである。
「リリー達がニーズヘッグと戦ったお話の御伽噺だから、リリー達がいなかったら生まれなかったってこと……?」
 リリー・シャルラハ(p3p000955)が言えばなるほどとひとまずは同意がある。
 自分達の活躍の結果生まれたのなら、ある意味ではそうとも取れる――ぐらいの意味合いだったようだ。
「……なるほど」
 ラダ・ジグリ(p3p000271)は頷きつつニーズ=ニッドをみやる。
 当の本人はよく分からないといった様子で新しいお菓子に手を付けようとしている。
「ニーズ殿、少し食べすぎよ!」
 そんなニーズにレイリー=シュタイン(p3p007270)が制止する。
 彼らは子供ではないにしろ、弟のようにニーズ=ニッドに対する気持ちがあった。
「これでひとまずはこの子の事は終わりでしてー! あとは……」
 ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はそう言って周りを見渡した。
「……テオドシウスの事でして」
 ルシアはぽつりと言って、先の依頼を思い出す。
『――あんたらが勝つんでもいい。あの馬鹿なガキに、精いっぱいをみせてやってくれ』
 自らがトドメを刺した女は、そうたしかに言っていた。
「奴は止めねば……霊魂を怨念だけにするなどあってはならぬ」
 リースヒース(p3p009207)は支配だけでは飽き足らず、霊を尊ばぬテオドシウスへを許すつもりなどなかった。
「霊たちの事も心配だが、魔種である以上野放しにも出来ないな」
 そう頷くアーマデル・アル・アマル(p3p008599)もいる。
「そうだよ……今度こそ殺す……」
 リリーは改めてそう内心に熱を抱いている。
 各々が次に奴がどう動くのか推察する――その時だった。
「――ローレットの皆さん、手を貸してください! 今すぐ!」
 慌てて入ってきたのは、ベロゴルスクからやってきている町の防衛部隊の一員だった。
「どうした、何か問題でも起きたのか?」
「怪我人がいるなら任せてください」
 ラダの問いに重ねるようにココロが言うと。
「町の外に、軍勢が! どこから来たのか分かりませんが、町が包囲されそうです!」
「……相手は」
「亡霊――そう名乗っていた連中だと思われます。
 今は『獣王の軍勢』などと名乗っています!」
 イーリンの問いかけに、その人物はそう告げた。
「今すぐ出るべきよ!」
 レイリーの言もさもあろう。
 全く、主力の軍勢が既に帝都を目指すのその最中に、狙ったかのような襲撃ではないか。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 総決算と参りましょう。

●オーダー
【1】『霊喰の獣王』テオドシウスの撃破
【2】獣王の軍勢の撃破

●フィールドデータ
 城塞都市クラスノグラードの眼前、未だ寒々しい雪の降り積もる雪原です。
 立地はほぼ平地が連なっています。

●エネミーデータ
・『霊喰の獣王』テオドシウス
 非常に強力な憤怒の魔種、元獣種。
 冷気を持つ曲刀と炎熱を持つ曲刀の二刀流。

 いよいよ亡霊であることを諦めたテオドシウス。
 その狙いは『敗者から勝者へと挑むクーデター』です。

 この状況で反乱を起こしたのも
『これ以上先の鉄帝国はどうあれ自分達が負けた鉄帝国ではなくなる』からという物の様子。

 本人は皆さんの影響を受けたわけじゃないとは言いますが、
 どう考えてもこの発想に至ったのは皆さんの影響です。

 最初の頃の彼であればきっとニーズ=ニッドを第二のニーズヘッグに仕立て上げ、
 あるいはフローズヴィニトルの力を強奪して絶望的な、あるいは陰険な状況を作ろうとしていたでしょう。

 あらゆるステータスが高く整えられています。
 中でも物攻、防技、命中、機動力、反応、回避、EXAは高め。

 戦闘では【火炎】系列、【凍結】系列のBSの他、
 【飛】、【移】などの効果を持つスキルを持ちます。

 パッシヴとして【BS緩和】【ダメージ】を持ちます。

 なお、ヴァルデマールの力を欠片でも吸収したのか、あるいはパクったのか、
 自分に向かってくる敵の数が多ければ多いほどにスペックが上昇します。


その他、1ターンに1度、主行動を消費して以下の特殊能力を発動します。

凍てつく左:そのターン、冷気を持つ刀で攻撃を受けた際、HPを回復する。

燃える右:そのターン、炎の刀で振るった攻撃は【邪道】効果を持つ。

姿なき亡霊:自身がブロックまたはマークされてない場合、完全な気配遮断を行ない行動できる。その間、一切の戦闘行動、受動行動は行えない。

怨の怒り:そのターン、パッシブで【反】を持つ。

霊魂捕食:戦場にある霊魂を捕食します。捕食した霊魂の量に応じて自身のパッシブ【ダメージ】量が増加する。

獣王の責務:1ターンの間、自身のパッシブ【ダメージ】量に応じたパッシブ【復讐】を持つ。

・獣王の軍勢〔共通項〕
 イレギュラーズにより首魁ヴァルデマールを討たれた傭兵連盟の残党であり、
 これまで『亡霊』と名乗っていた連中、その中でも特にラサの傭兵達。
 かつての自称は『首魁を討たれて残党となった時点で死んだようなもの』だからでした。

 首魁を討たれてそう名乗っていた彼らが『獣王の軍勢』と名乗ることはつまり、
 テオドシウスを『首魁』と認めたことに他ならないともいえます。

 彼らはこの地こそを死地と定めています。
 その戦いぶりは文字通りの死に物狂いです。

・獣王の軍勢〔傭兵〕×20
 獣王の軍勢の中でもラサの傭兵達。軽装の剣士タイプが多くを占めます。

 ラサの傭兵らしく退き際を誤らず、いざ戦うとなれば苛烈に攻め立ててきます。
 1人1人も油断なりませんが歴戦の傭兵らしくチームワークに長けています。
 自由にさせると厄介な手合いです。

・獣王の軍勢〔ハイエスタ〕×15
 獣王の軍勢の中でもハイエスタ系の戦士とドルイドたち。

 戦士はクレイモアや斧などの白兵戦を主体としています。
 誇り高きハイエスタの戦士らしく、果敢で威風堂々とした攻撃をしてきます。
 主に近接戦闘が主体です。
 非常にタフで攻撃力も高く、前線で暴れてきます。

 ドルイドたちは杖を装備しています。
 魔術を用いた中~遠距離の範囲攻撃を行います。
 後方から弾幕のように魔術をぶっ放されるとBSも含め脅威でしょう。

・獣王の軍勢〔シルヴァンス〕×15
 獣王の軍勢の中でもシルヴァンス系の戦士たち。
 パワードスーツに身を包み、ライフルやマシンガン、レーザー銃などを装備した者達。
 反応速度と機動力が高く、【貫通】攻撃や【扇】攻撃で撹乱してくるでしょう。

●友軍データ
・クラスノグラード防衛軍×50
 戦場たるクラスノグラードの防衛軍です。
 士気と練度が非常に高く、イレギュラーズの言う事も十分に聞いてくれます。
 指揮をすればより効果的かつ効率的に運用も出来ます。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <鉄と血と>獣王の軍勢<貪る蛇とフォークロア>完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月21日 23時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
医術士
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ

●英雄譚の一頁を
 冷たい風が流れている。
 春の訪れを感じさせぬ空模様のままにその戦場にイレギュラーズは姿を見せた。
「少し見ない間に男ぶりが上がったじゃないか?
 ベアトリクスからお前の事を頼まれてたが心配いらなかったかな」
 闘志に溢れるテオドシウスの表情をスコープ越しに見て『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は小さく笑む。
「――さぁ、お互いやるべきことをやろう。
 その後に残るものがあるなら、その時決めればいい」
 それは果たしてテオドシウスに届いただろうか。
(……なぜ)
 テオドシウスの方を見据え、『オンネリネンの子と共に』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は思う。
 誰であっても、望むままに生きられる権利はある。だから、彼らが『亡霊』を捨てたのは喜ばしいことだった。
 けれど――いや、だからこそ、『なぜ』だと思う。
「……いえ、それよりも今は。彼らの心根にあるものに応えること」
 ココロは小さく呟くように声にした。
(それは心を知る事。わたしにとって責務)
 少しだけ深呼吸を繰り返して、ココロは視線をあげた。
「やりましょう。春が来てしまう前に」
 真っすぐに敵陣を見据え、静かな声が響く。
「へぇ……本当に正々堂々と来るんだ。ならその分、こっちも全力で迎え撃ってあげるしかないねっ!
 こっちとしては願ったり叶ったり、三度目の正直、だからねっ!」
 愛銃に魔弾を籠めながら言うのは『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)である。
 その様子は普段のリリーらしくはないのかもしれないが――
(今だけは……リリーらしさなんて、なくたっていいよね!)
 真っすぐに敵を見据えた。
「この土地も大変なことばかり起こりますね!」
 思わず声をあげたのは『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)である。
(人が住んでいる場所を勝手に死地に定めないで欲しいケレド。
 ……自分達の新しい王様ともう一度立ち上がるって、ちょっと良いね。そういうの。
 でも……それとこれとは別の話)
 鉄拳を握り締めて、リュカシスはそれを空へ掲げた。
「獣王の軍勢何するものぞ! この土地の仲間達は決して負けませんし何も奪わせません!」
 応じるように防衛軍から雄叫びが轟いた。
「これが最後の戦いなれば、全力でつぶすのみ」
 短く戦意を見せるのは『無鋒剣を掲げて』リースヒース(p3p009207)である。
(元よりテオドシウスの術は、あまりに気に喰わぬ)
 それはかつて死霊術を操っていた身としても、霊を弔う今の立場としても、看過などできなかった。
「とはいえ、生ある身でありながら亡霊と名乗ることを止めたのは――好い」
 静かにそう言って視線をあげる頃、ギフトでその身は黒騎士の姿を取っている。
「我が馬車は『嵐の前触れ』、戦の始まりを告げるものなれば――勝利まで連れていくと約束しよう!」
 宣言と共に黒騎士は剣を空へと掲げた。
「この地域の為に旗を掲げるのも何度目かしら」
 掲げた旗を見上げ、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は小さく笑って、その視線を下ろせば真剣に敵陣を見据える。
「新たな御伽噺の再現というのなら、
 私の尽きぬ冒険譚にも付き合って貰うわよ。
 之は、一つの旅の終わり。
 神がそれを望まれる!」
 緩やかに旗を翻して、イーリンは開戦を告げ、ラムレイを走らせた。
「一応は敵だから元気すぎるのもどうかと思ったのですよ? でも……いい顔をするようになったのでして」
 敵の様子を眺めみた『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はその表情を見て小さく呟く。
「ずるずると未練を引きずるよりはやっぱりそっちの方がいいのです!
 今を精いっぱい生きる力というものを! 文字通り叩き込んでやるのでして!!」
 いうや、ルシアは一気に最前線めがけて走り出した。
(ニーズ君も気になるけど……彼は大丈夫だと信じる。獣王の軍勢、戦って……撃破しないとね)
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は戦場を振り返りクラスノグラードの城壁を見上げた。
 そこには1人の青年の影が見える。
 テオドシウスの目的の為に利用され、自分を探してイレギュラーズと共にいる方を選んだ青年――ニーズ=ニッド。
 自らの望む願いを叶えたい不完全な願望器は利用された果てに自らの目的を得ようとする青年から視線を戻して戦場を見る。
 なんであれ、ここで負けてしまえば、ニーズ=ニッドにもまた碌な未来はないと分かり切っている。

●獣王の叛乱Ⅰ
「初撃は私達が受ける。怯むな! 突撃用意!」
 声をあげイーリンが駆けるのは何度目か。
 応じるように前に出てきたのは見覚えのある男。
「そっちが邪魔者なしで全てをぶつけてくるなら、私達も全てをぶつけるまで!」
 真っすぐにテオドシウスへと駆けた『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)が言い放つ。
「イーリン、貴女と私で今回も止めるわよ!」
「当然、二人で止めるわ」
 愛馬に跨り隣に進む彼女へと言えば僅かに動いた旗がこちらに向いた。
 レイリーも槍をそちらにやれば、小さな音を立て触れ合う。
(……ロージーも着いてきてるわね)
 駆けるリットのやや後ろに続くように走る小さな狼はフローズヴィトニルの欠片より召喚された力の一片。
 走り出した仲間達に続くようにヨゾラも駆けだしていた。
 「緩和されたって構うものか……飲み込め、泥よ!」
 刹那、ヨゾラは魔力を魔術紋から魔力を引き出すと同時、魔導書に魔力を通していく。
 紡がれた術式は空に陣を描く。
 開いた穴から零れだすように降り注ぐ混沌の泥が戦場を満たしていく。
 接敵の刹那、先陣を切ったイーリンはテオドシウスの背後へ回り込む。
「――あんたら、あの時の2人か!」
「――二人で止めると言った!」
 吹き荒れ、形作られる氷の結界はニエンテの加護。
 続くように突っ込んでくる敵兵の多くを受け止めながら、イーリンの視線はテオドシウスにある。
「……なんだそりゃ」
 驚愕に目を瞠る男が氷の結界を見て何かに納得したように小さな笑みを刻む。
「――それがフローズヴィトニルの欠片の力か。おいおい、俺に見せつけてくれるたぁ、やってくれる!」
 獰猛に笑った獣の王が一つ呼吸をする。
 熱を帯びた炎の曲刀が閃を引く。
 だがそれを受けたのは彼女ではない。
「私もいるわ! 前回の続きをやりましょう!」
 大盾で曲刀を受け止めてみせたレイリーが言えば、テオドシウスがにやりと笑う。
「私の名はレイリー=シュタインよ。さぁ、覚悟はできてる? この戦いを楽しむ覚悟を!」
「はっ――言いやがる! あんたのそのちっこい狼もフローズヴィトニルの欠片ってとこか?」
 そう言ったテオドシウスの視線が少しばかり下を見ている。
「えぇ、そうよ。でもその子はフローズヴィトニルじゃない。ロージーって名前があるわ!」
「へぇ、おもしれぇ。いいじゃねえか」
 言いつつ笑うテオドシウスに対して、レイリーは腰を落とす。
「ここまでやって来たんだもん! 全力でいくよ!」
 防衛軍の影に隠れるような位置でリリーは引き金を弾いた。
 戦場を跳ねるように飛翔するのは堕天の黒光、降り注ぐ魔弾の行く先は当然――テオドシウス。
 炸裂した魔弾は呪いを帯びて堕天の輝きを放っている。
 クラスノグラード防衛軍、その主力を率いるのはリュカシスだ。
「何度でも倒し切る! 全力でかかってこい!」
 名乗り口上をあげれば、当然のように敵の主力がこちらに向かって突っ込んでくるものだ。
 最速で肉薄していきた傭兵目掛けて、握りしめた拳で思いっきり殴り飛ばす。
 対物秘奥たる拳打は苛烈に傭兵を打ち、けれど些か浅かったのか入れ替わるような別の1人による攻撃が繰り出されていた。
 それに続くように防衛軍が攻め寄せ、応じるように獣王の軍勢も動く。
「敵の注意を惹きつけて、可能な限り1人で当たらずに戦って!
 そして何より死なない事! 怪我をしたら一旦下がって回復するんだ!」
「傷を負った者がいれば私が支えよう!」
 黒現のアバンロラージュを駆り戦場を駆けるリースヒースはそんな主力部隊にあってリュカシスの言う怪我人たちを癒す役目を担っていた。
 駆け行く馬車に連れられる黒き蝶の羽音が戦場に染みわたる。
 それは生命の賛歌のようだった。
 一方でその猛攻を真正面から敢えて受け止める者もいた。
「さぁ来るがいいのですよ! 今日のルシアは最初から全力全開ですよ!」
 振り上げられた複数の斬撃や銃弾がルシアの身体を大いに傷つけていく。
 猛攻は激しく、その身体には痛々しい傷が複数浮かび上がり。
「突っ込んできた隊を串刺しに出来る! この瞬間を待ってたのですよ!!」
 刹那、ルシアは愛銃を構えた。
「一気に貫くのでして!!」
 戦場を劈くは殲光砲魔神。
 さながら氷の魔神が振り下ろす斬撃の如く、美しき魔弾が戦場を駆け抜け貫いていく。
 壮絶なる立ち位置で放たれた弾丸は戦場を貫き、大いなる傷を刻む。
「ではそろそろこちらも行こうか。側面を衝くぞ」
 戦場が動き出した少しして『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は指揮下の防衛軍に声をかける。
 小型のハイペリオンらしき騎乗生物に乗って駆けだせば、それに防衛部隊が続く。
「例の御伽噺にもう1ページ加えようじゃないか、行こう!」
 続くように10人の兵を連れて駆けだしたのはラダである。
 主力がぶつかり合い始めた頃合いに分離し、追って来ようとした敵兵を振り切り駆け抜ける先は後方。
「お師匠様を、レイリーさんを支えるのはいつだってわたしの役目――」
 ココロは鼓動に応じて熱を帯びる魔力を術式を通して2人へと注ぎ込んでいく。
 テオドシウスの攻撃を受けた2人の傷は深く。
 それを癒して、2人を倒させないのは自分の役割だ。
 胸に秘めた熱意のままに視線をテオドシウスに向けた。
「羨ましいねえ……」
 ぽつりとテオドシウスが呟いた。
 その理由はココロには分からなかったが。

●獣王の叛乱Ⅱ
 側面部隊を割いた分、正面部隊の攻撃が激しくなりつつあった。
 だがそれもほんの少しの間だけだ。
「死者を出せば奴が食らう可能性がある……不殺で仕留められるのなら可能な限りそうしろ!」
 そう指示を飛ばしたアーマデルの愛剣が躍り、敵陣に肉薄する。
 蛇巫女の後悔、死神の系譜に添わぬ者の喉を苦く焼く猛毒の朱にして呪が横から薙ぎ払うように戦場を撫でた。
「なるべくドルイドが狙えるようにいくぞ!」
 それに続いたラダの側面部隊が一斉に駆けだした。
 側面部隊の兵士達が前衛の壁となって側面から敵陣を食い破らんと攻め立てて行く。
「さぁ、死ぬほど痛いから覚悟しろ」
 ラダは静かにその時を待っていた。
 側面補助の為に動き出したドルイドたちへ向けた銃口から放たれたのは無数の弾丸。
 ファニングショットの要領で打ち出された無数の弾丸は弾幕を構成して戦場に降り注ぐ。
 さながら砂漠の砂嵐が如く戦場を駆け巡る銃撃はそれでいて味方への誤射などない。
 ラダの狙撃センスの賜物だった。
(この隙に下がるのでして!)
 ルシアは攻め寄せる敵陣に紛れ込むようにして離れると、側面部隊に紛れ込みながら戦場の後方へと移動していく。
「足が速いのはそっちだけの特権じゃないのですよ!」
 反応したシルヴァンスを見据え、再び放った魔砲が戦場に冷たき一条の光を貫いていく。
 激しく動き出した戦場、リュカシスは拳を握りなおす。
「このまま押し返しましょう! いきます!」
 リュカシスは防衛軍へと声をかけると同時に思いっきり拳を敵めがけて叩きつけた。
 炸裂する拳打が衝撃波と共に一帯の次元を吹き飛ばし、強烈な破壊をもたらした。
 到底守ることなどできぬ超常じみた拳打を受けた敵軍の数人が倒れて行く。
「霊魂を増やすわけにはいかぬので、眠ってもらおう」
 リースヒースは戦場を駆け抜け、敵陣めがけて愛剣を掲げた。
 鮮やかに輝いた漆黒の光が瞬き、邪気を払うように敵兵を混乱させていく。
「テオドシウス。貴方が何をしようと無駄です。
 炎も氷も、どちらが2人を苦しめようと無駄になる」
 ココロは太陽の輝きを以って吹き荒れる斬撃を受けた2人の紫炎を齎し、真っすぐにテオドシウスを見据えた。
「テオドシウス、あなたの『クーデター』もこれと同じ。行動が遅すぎて無駄になってしまってます。
 わたし達を倒すことも抜くこともできない。わたし達も魔種と戦うため時を重ねて強くなってきたからです」
「かもなぁ、かもしれねえ。だけどよ、夢ってのは、諦めきれねえでやがるから、夢なんじゃねえか?」
 テオドシウスが真っすぐにこちらを見た。
「……なぜ、早く自らを革められなかったのですか。
 なぜあなた達は心も体も死んでない『生者』と自覚できなかったのですか」
「なぜ、か。なんでだろうなぁ……それが分かってるんだったら、『亡霊』なんてなってねぇかもしれねえな!」
 重ねて問うココロに対して、いっそ穏やかに笑って見せたテオドシウスの雰囲気が微かに変質する。
「あんたがどうだか知らねえが、少なくとも俺は一片死んでみたのも悪かねえと思っててね」
 テオドシウスが握る曲刀が熱を帯びた。
 壮絶な熱量を帯びた斬撃がレイリーへと注がれる。
 高い防御技術の上からでも鎧が、盾が軋み、鎧に傷が増えていく。
 ――けれど。
「今回も私は倒されないわ。不倒、それが私の矜持だもの」
 レイリーは真っすぐにテオドシウスを見据えて言い放った。
「――は、やってみせろよ、嬢ちゃん!」
 小さく笑って、テオドシウスが最後の一太刀を振り下ろした。
 その様子をヨゾラは少し後ろから見据えていた。
(僕等の誰か一人でも倒れたら崩れる、誰も倒れさせない…!)
 ヨゾラはすぐさま魔術紋の魔力を励起させた。
 星空の如き魔術紋の輝きと共に歌う星の祝福が戦場を包み込み、温かな光を以って仲間達の疲労を癒していく。
(例え、焼け石に水なんだとしても、少しでも長く皆を……!)
「次は――これでどうだ!」
 飛翔するリョク――と対角線を結んだ地上から、リリーは銃撃を見舞う。
 止まること無き突撃戦術理論を採用して放った魔弾は滅茶苦茶な軌跡を描いて戦場を飛翔する。
 計算しつくされた魔弾はレイリーとの競り合いを続けていたテオドシウスの腹部を強かに撃ち抜いた。
 ぐぅと低く唸りながらテオドシウスが痺れていく。

●猛る獣王Ⅰ
 戦いが続く中、リュカシスの視点は空から戦場を見ろしていた。
 リュカシスの主力部隊の戦線維持は上手くいっていた。
 ふと見つけたのは押し込まれつつある自軍の一部、それと相対する敵軍の後方めがけてリュカシスは拳を叩きつけた。
「大丈夫ですか! 今のうちに体勢を立て直してください!」
 次元を穿つ拳打が呼び寄せた同様の隙に声をかければ、兵士達が奮い立って再び攻めかかっていく。
「俺はヒトの抱え切れぬ程の未練に寄り添う者。
 それが我が守神『一翼の蛇』の在り方で、使徒の使命。
 残された強すぎる未練を英霊残響という技として振るい、捩れ絡まった縁を解かんとするもの」
 アーマデルはテオドシウス目掛けて愛剣を振り払う。
 掻き鳴らす未練の音色が戦場を駆け抜ける。
 掻き鳴らされるは志半ばに斃れた英霊が残した妄執。
 諦念と絶望、愛憎の狭間にて身を焦がし、ひとり堕ちゆく暗殺者が最期に零した呪いの音色が激しく責め立て駆り立てるように牙を剥く。
 重く冷たい斬撃はテオドシウスを切り刻み、その後方にある『怨』へと一太刀が入っていく。
「なるほどな、俺じゃなくて、呪いの方を攻撃するわけか!」
 それを受けたテオドシウスも理解したのかぎらついた瞳でアーマデルを見てきた。
「だったら、その前に切り刻むだけだ!」
 そう言ったテオドシウスの全身から覇気が溢れ出す。
 きん、と双刀を合わせて一つ呼吸を入れたテオドシウスの斬撃はその切れ味を大いに増していた。
「言ったでしょう! 例えどれだけ高火力であろうと、わたしがいる限り、誰も死なせない!」
 鳴り響くコーパス・C・キャロル。
 折れることなく、朽ちることなきココロの歌は数多のお仲間達の傷を癒し、状態異常を取り除いていく。
「1人で支え切れずとも、2人なら、支えられる!」
 続けるようにヨゾラが星の祝歌を紡ぐ。
 優しき星の歌は残っていた傷を更に優しく癒していく。
 背後、イーリンは小瓶を呷る。
 全身が焼けるような感覚は、酒による物ではなく、暴れ狂う膨大な魔力。
「わた、しを、見ろ――!」
 それは飲み干した己の血か、全身にある傷の血か。
 奮い立たせるように撃ち込んだ活人拳が背後からテオドシウスの身体を壮絶に打ち据える。
「――くっ」
 僅かにテオドシウスが身体を崩す。
(3つ併せて30秒にも満たない稼ぎ。
 けど、それに命を賭けるだけの価値はある!)
 紫苑の瞳を見開き、全霊で打ち込んだだけの価値はある大きな隙。
「最後まで相手してよ、私が死ぬか貴方が死ぬまで」
 レイリーは改めてテオドシウスへと声をかけた。
「……ったく、あんたも中々、とんでもねえ女だね……嫌いじゃねえけどよ」
「誉め言葉と受け取っておくわ。こんな楽しいのに逃げて終わりなんてお互い面白くないでしょ」
「は、どうせ逃げる場所なんざねえんだ。逃げも隠れもするかよ!」
 そう言って笑うテオドシウスに槍を突きつけながら、レイリーは意識を一瞬だけ背後に送った。
 それは自分の背後に感じる小柄な気配。
(今よ、リリー殿)
「今なら!!」
 同時、リリーもまた動いた。
 思考の一部を自動演算化して導き出された刹那の隙を縫うようにリリーは引き金を弾いた。
 放たれた魔弾は呪いを帯びる。ただそれだけの小さな魔弾。
 完成された狙いから打ち出された魔弾は身動きを取れぬテオドシウスの身体に炸裂する。
 内包された狂気と呪いがテオドシウスを更に縛り付け、大きすぎる隙を生んだ。
(これで準備は出来た……でも、これだけじゃ足りない。
 あいつの不意をうまくつかないと、良い一撃にはならないよね!)
 その瞬間を狙い澄ますべく、リリーは周囲を見渡した。
(あの角度、あそこなら……)
 人々の背後を回るようにしてリリーはそこに向かって動き出す。
「こっちにルシアもいるのでして!」
 合わせ、ルシアが引き金を弾いた。
 戦場に幾度も風穴を開けた魔神の一振りが再び戦場を凍り付かせていく。
 受けたばかりの傷口へと痛烈なる一撃を見舞った魔砲にテオドシウスの身体が片膝をついた。


●猛る獣王Ⅱ
 テオドシウスとの戦いは続き、彼の魔種の火力は増しつつある。
 追い詰めている――追い詰めている分だけ、イレギュラーズの傷は増えている。
 それでもその傷はかなり軽微な方であると言えた。
 それはひとえに不殺攻撃を用いた可能な限りの死者の軽減によるものだ。
 とはいえ、流石に敵味方100人を数える戦場で互いに死者を出さないというのは難しい。
 気を付けていても零れ落ちる命はある。
「あと少しです! このまま攻め切りましょう!」
 改めて俯瞰して戦場を見渡したリュカシスはそう判断するや確実に数の減りつつある敵軍を見定め、気合を入れなおす。
 それに合わせて兵士達が雄叫びをあげ、応じるようにもう一つ雄叫びがあがる。
『ドスコイ』
 そう鳴いたドスコイマンモスが棹立ちになって大地を揺らす。
 激しく揺れた大地の震動は大気を穿ち、再び空間を割る一撃となる。
「お前の纏うそれも霊自体ではなく未練のようなものなのだろう?
 ならば、俺の剣で切り離せる可能性もあるはずだ」
 アーマデルの英霊残響が戦場に響き渡る。
 命を削る程の努力を踏み躙られ、偽りの聖女と誹られし者の怨嗟が戦場を軋ませた。
 物悲しく、狂気的な音色が響き渡るままにテオドシウス目掛けて駆け抜ける。
 男の身体を強かに切り刻んで、未練を断ち切らんばかりに切り開いていく。
 ――けれど、その一方で斬り剥がそうとするたびに『より一層の執着を以って縋るもの』もあれば。
「……お前から切り離せば未練は晴らせるが、同時に『繋がっていることで現世の未練を保っているわけ』か」
「何のことかよく分からねえが、アンタが俺を攻撃するたびに、なんだか気分が楽になるな。あまりうれしかねえが」
 猛攻を受けたテオドシウスが笑う。それはきっと事実だろう。
 怨が成仏するという事は言い換えればテオドシウスの力が弱体化することを意味するのだから。
「王になる、いい夢だわ。
 私も勇者になるまでがむしゃらだった。
 けどね――あんたの夢の『先』は何?」
 魔力を重ねながら問うたイーリンの視線とテオドシウスの目がかち合い、訝しむように皺を作る。
「『先』だって?」
「見果てぬ夢の先へ、私は今駆けている。
 吼えてみなさいよ獣王『貴方の夢の先』を!」
「見果てぬ夢の先、俺の夢の先――」
「『勝ち』に拘りすぎてて『なんで勝ちたいか』がまるで見えてこないのですよ!」
 ルシアはテオドシウス目掛けて銃口を向け続けている。
 放たれた魔弾が痛烈なる一撃となってテオドシウスの身体を撃ち抜いた。
「『何で勝ちたいか』……だと? あんたらに、何で勝ちたいかだと?
 そんなもの、俺が……俺が、勝ちたい相手だからだ」
「さっぱり分からないのでして! ルシアは『明日も新しいお友達とお茶会がしたい』のでして!
 そのために、今日を勝って生き残るのでして!
 そういう勝って何をしたいかが不明瞭な内は本当の意味での勝利はやって来ないのですよ!!
「は、ははは……ははっ、まさか子供に教えられるたぁな……いや。
 そういうもんか、俺にガキがいたことねぇから知らねえが」
 乾いた笑みを浮かべたテオドシウスが深呼吸と共に曲刀を振るう。
「王というのならその生きざまをお前の民に、あの子に示してみせろ!」
 続けざまに肉薄したラダは銃床で思いっきりテオドシウスを殴りつけながらそう叫ぶ。
「ぐぅ、はっ。ったく。あんたらってのは――あぁ、今ならわかる気がするな。
 腹が立つが、あんたらの事をあの人が、ニーズだと名付けられたらしいアイツが気に入った理由」
 そう言って笑い、テオドシウスは目を伏せた。
 集中するような仕草の後に、獣の王は雄叫びをあげた。
 いや、それは咆哮と呼ぶ方が正しいのかもしれなかった。
「俺は――俺はあんたらを越えて行く。その先なんざ分かんねえ……けどな。
 それでも、そんな俺の為に死んでみせるっつぅ馬鹿がいた。
 そんな俺を支えてきた奴らがいた。
 そんなことをしなくとも、連中に行く道はあっただろうによ。
 俺に託した奴らは、俺を信じた奴らは、馬鹿じゃねえって、そう言うためにも、俺は立ち続けてやる!!」
 纏う覇気はそれまで以上の代物だった。
 傷だらけの獣の王は背負ったものに突き動かされるように刀を振り上げた。
「良く吼えた! ならば、私はその覚悟ごと果てを行く!!」
 合わせ、イーリンは魔力剣を振り払う。
 溢るる星の燐光を抱いた一閃が黎明の輝きを照らす。
「ぉぉぉぉおおおおお!!!!」
 猛るテオドシウスが猛攻を開始する。
 壮絶な双刀の乱舞は瞬く間にイレギュラーズの傷を増やしていく。
「くっ――」
 壮絶なる連撃の多くを受けるレイリーは小さく息を呑んだ。
「――こんなもので終わりかしら?
 私達を倒して立ち続けたいのなら、もっと攻めてきなさい!」
 パンドラの輝きを抱きながら、レイリーは声をあげた。
(最後まで、死の舞踏を楽しみましょ……!)
 軋みをあげる鎧がレイリーの肉体を露出させる頃、連撃は終わりを迎えた。
(くっ……もう本格的に回復しても焼け石に水だね……)
 ヨゾラは拳を握り締めた。
「……僕も、精一杯を見せたい。……みせなきゃいけない」
 魔術紋を輝かせ、拳へと星の輝きを集束させていく。
 魔術紋は星の光が瞬くかのように輝いていく。
 集束を繰り返す星の魔力と共に、ヨゾラもテオドシウスの懐へ飛び込んだ。
「これが僕の最大火力……僕の精一杯だ!」
「次はてめえか! いいぜ、きやがれ!!」
 振り抜かれた双刀による一撃を受けながら、ヨゾラはパンドラの輝きを開く。
 文字通りの今ある全ての魔力を込めた一撃は爆発的なエネルギーを生み、テオドシウスの身体に壮絶な一撃を見舞う。
 攻め立てる獣の王は激しく、その一撃一撃が恐れるほどだ。
 だが、攻めに集中し切っているその瞬間をリリーは待ち望んでいた。
 魔術書に秘められた呪いを愛銃に籠めて行く。
「――ここだ!」
 完全な死角、倒れた敵兵の間に寝転んだまま、リリーは引き金を弾いた。
 炎の魔力を秘めた魔弾は呪いを帯びて静かに打ち出された。
 静かに放たれた一撃にテオドシウスがこちらを見やり――その右目を魔弾が撃ち抜いた。
「がぁぁあぁ!?」
 紅蓮の焔が燃え上がり、内包された呪いが刹那の内に暴れ狂う。
「よしっ! 見たか!」
 待ちに待った完全な狙撃が着弾した瞬間、リリーは思わずガッツポーズしていた。
 微かな後退と共に唸るテオドシウスに居寤清水を飲み干したラダは近づいていく。
「……お前がヴァルデマールから受け継いだように、この先を生きる者へ何を残す?」
 愛銃を構えて問いかける。
「は、は、はっ……俺が遺すもの、か……なんだろうな。
 あぁ、けど俺の馬鹿みたいな夢に着いてきた変人どもだ。
 例え残さなくても勝手にやるだろうが――」
 零距離で弾いた弾丸は傷だらけの獣の王へと真っすぐに吸い込まれていく。
 真っすぐに撃ち込まれていく銃弾を受けて、テオドシウスが倒れて行く。
 その脳裏、ラダは開戦前の事を思い出していた。

●貪蛇になるはずだったモノ
「ニーズ。何らかの形で、私はお前にもこの場に同席して欲しいと思ってる。
 連れてはいけないが、城壁の上からなら比較的安全に戦場も見えるだろう」
 戦場を見下ろしラダは隣にいる青年へと声をかける。
「いいの?」
 少しだけ思いつめように、不思議そうにニーズ=ニッドは言った。
「あの日、最初から離反するつもりで私達の所へ来たのではないだろう?
 テオドシウス達に話したい事や聞きたい事があるなら、これが最後の機会になる。
 決着がついた後なら来てもいい」
「うん……そうだ。僕は最初、君達に話を聞きに来るだけのつもりだった」
 こくりとニーズ=ニッドは頷いて見せる。
「どうするかはお前に任せる。ただ悔いのないよう考え、選び、行動しな」
「――ありがとう。悔いのないように、だね」
 こくりと青年は頷いて戦場を見渡した。
 獣の軍勢は既にそこにいる。
「では私は行ってくるよ」
 ラダは最後に声をかけて駆けだした。

「――必ず勝つ」
 ラダが走り去ったのと入れ替わるように姿を見せたリースヒースはニーズ=ニッドへと声をかけた。
「テオドシウスが完全に死ねば、御身も心から自由に生きられよう。
 故に、御身は我らを信じ、無茶な気を起こすな」
「……分かった。貴方達を信じているよ」
 そう言ってぼんやりと敵陣の方を見据えるニーズ=ニッドに最後の声をかけてリースヒースも走り出す。


 ――俺は、獣王になってやる。
 俺は、俺は、その先で……あぁ、畜生。
 英雄ってのは腹が立つぐれぇに気分がいい。
 腹が立つくらいに気分が悪い。
 今更になって、こんなところで止まりたくねえと思わせやがる。

 あぁ、そうだ、俺があの人に『憧れた』のは。あんたらに負けたくなかったのは、きっと。

 死の寸前に抱いた『何で勝ちたいのか』の理由は――
 あぁ、それは『未練』と呼ぶのではないか。


 獣の王が沈んでいく。
 誰も彼も身動きを止めた。
「勝った……ようだ」
 リースヒースが一つ息を吐いた。
「……だが、これは」
「随分と、拙いような気がするな」
 リースヒースに続けアーマデルは言う。
 2人が見るのはテオドシウス――ではない。
 その視線は彼のやや上。
(奴が死んだことで未練が解き放たれたか)
 ――だが、『それ』は。未練(そんなもの)では説明できぬ。
 テオドシウスの身体から溢れだした強烈な『怨』
 冠位憤怒の影響もあり大地に満ちた『怒り』がそれらへと集まっていく。
 それらはその中心にある真新しい小さな『未練』を喰らい、瞬く間に獣の姿を取った『それ』が生誕の雄叫びをあげた。
 産声がてらに伸びでもするかのような気軽さで『それ』が戦場を浚うように薙ぎ払う。
 最悪の連戦――生き残った傭兵達さえも『それ』への反撃に動き出そうとする中。
 ふと何かが土を踏む音がした。
「テオドシウス。獣王、俺はあんた自体が嫌いだったわけじゃないんだ」
「ニーズ! 待て、まだ近づくな!」
 ラダの制止の声にニーズ=ニッドは小さく笑みを刻んで否定するように首を振る。
「そうだ。御身も危ない! 直ぐに戻れ! 無茶な気を起こすなと、言っただろう!」
 リースヒースが言う。開戦の前に告げた誓いを、その真意に誓って、彼を死なせるわけにはいかなかった。
「だとしても、あれを放置してたら多分、酷いことになるんだと思う。
 今この場で、あれをどうこうできるのは、多分、僕だけだ」
 薄く笑ったニーズ=ニッドは巨大な獣の形を取りつつある『それ』に手を翳す。
 敵意に気付いたらしいそれが彼へと襲い掛かる寸前、氷が張り巡らされた。
「やりたいことがあるのなら――やってみなさい」
 ゴラぐるみからニエンテの加護を発動させたイーリンが言う。
 襲い掛かる『それ』の猛攻を掠り傷にも至らぬ軽傷まで落として。
 同じようにレイリーが前に立てば、ロージーが遠吠えを発する。
 フローズヴィトニルの欠片たる狼の遠吠えに『それ』の身体が微かに凍てついていく。
「お互い、死んでも死なないで帰るわよ」
「もちろん、死ぬなんて死んでもごめんよ」
 イーリンへとそう言えば、当然のようにそう返ってきた。
 ――大事な戦友、そして親友。
「貴女の傍で私は絶対に倒れないわ。貴女を護るために」
 力を振り絞ためにレイリーは改めて一つ息を入れた。
「僕が、怒りを喰らう怪物の要素も持っているのなら――あれを喰らいつくすぐらい、わけないはずなんだ」
 蛇が獲物を喰らいつくすが如く、何かが『それ』の身体に巻き付いて貪り喰らっていく。
 それはきっと、可能性に満ちた戦場であったからできたことであった。
 一つでも誰かの想いが違えば、別の結果になっただろう――けれど。
 アーマデルが事前に幾つか切り放してなければ、あるいは、もっと酷いことになっていたのやもしれないが。
 その戦場では、そう終わる。
 顔を歪めながらも『それ』を喰らいつくして、ニーズ=ニッドはそのままふらりと倒れた。
「……大丈夫です、生きています。多分、無理をしたからでしょう」
 急いで走り寄ったココロが簡単な検診をして顔を上げる。
「……なぁ、あんたら」
 イレギュラーズが安堵する中、傭兵の1人が声をかけてくる。
「俺達の王様を弔うのを許してくれや。それを許してくれるってんなら――俺達は降伏してもいい。……仕事もあるんだろ?」
 憐れむように言う男はテオドシウスだったものを見た後そう言って、君達を見る。
 彼らの言う『仕事』は何なのか――何となく察しも着くがそちらは間に合うか微妙なところだが。
「……そうだな、この戦で死んだ者の霊を弔おう。
 あのテオドシウスも、彼が使役していた嘗て霊だったものも含めてな」
 リースヒースはそう言ってテオドシウスの亡骸を見つめた。
 その周囲に霊の気配は――そしてそうだったものの気配もない。
「なにせ、あのような御仁だ。怨霊になられたら困る故な?」
 そう言って、リースヒースは静かに鎮魂の歌を捧げる。
「それから、この戦があったことを語り継ごう。
 私は詩人ではないが、弔い人は歴史を伝えるものだ。
 一人の人の後ろには、沢山の死者が存在する故に」
(――何より、歴史を語り続けることが、一番の弔いとなろう。
 これからのこれからの新皇帝との戦いへの活力にもなるであろうしな)
 酷く寒々しい冬の気配はどこか落ち着きつつある――ように思えた。

成否

成功

MVP

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

状態異常

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)[重傷]
医術士
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
天才になれなかった女
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
この終わり方は今回のプレイングから発生した物です。誰か一人でも彼や彼らと正面から向き合っていなければ、この終わり方ではなかったと思われます。

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