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シナリオ詳細

<晶惑のアル・イスラー>タンニムは食い散らかす

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 グラオ・クローネ。恋人達が愛を囁きあう夜のさなか、空を覆う紅い影があった。
 紅色の外観を湛えるそれは、ぱっと見竜種のようにも見えたであろう――だがおかしい。
 つぎはぎの生物を思わせるそれらは明らかに生物としての完成度が低く、唸り声になんら知性が感じられない。亜竜と呼ぶにもおぞましいそれは、亜竜種達から見ても覇竜の生物種ではないことが明らかだった。
 だが、この日に向けて紅血晶がばら撒かれたネフェルストであれば、それがどのようなものかを理解するに難くない。
 それは、紅血晶が生み出したといわれる生物の成れの果て。噂の俎上にあがった、『竜となったもの』。名付けるなら『晶竜(キレスアッライル)』が適切だろうか?
 不出来なそれでも、体躯とおぞましさ、そして吐き出される唸り声のおどろおどろしさは人々を恐怖させるに余りあり。
 それに呼応して、ネフェルストに流通していた紅血晶は人々を化け物へと変えていく。
 混乱の只中にあるネフェルストは、その陰で進行する目論見はゆっくりと、確実に進行していた……。

●晶竜タンニムに血肉を捧げん
 ネフェルストに侵攻する晶竜の数は一体や二体ではなかった。それぞれが別々のデザインであり、そのどれもがおおよそ意味のある造形を目指したものではないのは明らかだ。
 ゆえに水際、ネフェルスト外縁で止められる数には限りがあり、ネフェルスト内部に入り込んだ晶竜の撃退が最優先事項となるのは必然といえた。
 その中でも、北部に現れた晶竜はもはや竜という名すらかなぐり捨てた、悲惨極まりない外見をしていたといえる。
 長く伸びた首の先には、肉食獣然とした眼光を湛えた顔、そしてあまりに多くの口を備えていた。犬の顔に、取って付けたような多数のマズル(鼻口部)が備わっているといえば理解が及ぶだろうか?
 それだけではなく、腹部にはハイエナのような顔が複数。
 背中の翼は申し訳程度の竜としての要素であり、飛ぶというよりホバリングするための機構であるようにとれた。
 ただただ、子供が「たくさん食べられる化け物」を考えた時の選択肢の一つに上がるようなデザイン。もうひとつあるとすれば、巨大な口と消化器官の発達ぐらいだろう。
 飛び回る晶竜に呼応して周囲の建物から現れた晶獣達は、それぞれ人間を……死者を携えていた。
 彼等は恭しくそれを晶竜に向けて掲げた。貢物のように。
「いやっ……嫌ァ! あなた、どうしたの? やめて!」
「違う、チガウ……手が、勝手ニ……!」
 そして、紅血晶によって腕のみが変質した『中途半端な』晶獣は、今まさに妻と思しき女を生きたままに晶竜に捧げようとしていた。
 自らの意思とは別に。
 制御できぬ腕のままに。
 イレギュラーズにできることは3つ。
 晶竜・識別名『タンニム』の撃破。
 自我を喪った晶獣の殲滅。
 そして、未だ無事な住民と、晶獣化なかばの者から紅血晶を奪い取り破壊することだ。

GMコメント

●成功条件
・晶竜タンニムの撃破or撃退
・晶獣の殲滅
・(努力目標)市民の避難
・(努力目標)ヌヴェル・リュンヌの患部切除
 └殺害してもよい

●失敗条件
・条件達成までに過半数が戦闘不能に陥る
・タンニムが晶獣を5体以上捕食する(アマ・デトワールを除く)

●晶竜タンニム
 『晶竜(キレスアッライル)』のうちの一体で、OPの通り非常にいびつな形状をしている。
 総合して能力値が高く、特にEXAが非常に高い。攻撃のすべてに【攻勢BS回復(大)】を持ち、飛行によるペナルティを被らない(が、最大高度10m)。
・紅血晶の叫び(自分中心にレンジ2:晶獣の能力上昇、ヌヴェル・リュンヌの症状進行)
・ランディングアタック(物超単:【移】【HA回復(小)】【ブレイク】)
・暴食性行動(物至単:【必殺】【出血系列】×2)
 ほか、連続行動により本能的に行動を最適化することがあります。
 大柄のため、2名でのブロックor複数ブロックに対応するスキルが必要です。

●サン・ルブトー×5
 オオカミが紅血晶に侵された姿です。
 そこそこの強敵で、数による集中攻撃をしかけてきます。
 【連携行動】が出来、その数に応じて【必殺】が付与されたりもします。また、一部個体は【ブレイク】を有します(エネミースキャン等で判別可能。残すと後々面倒です)。
 タンニムが窮地に陥ると、自らを捧げようとします。

●アマ・デトワール×10
 晶獣が発生した際の副産物で、バスケットボール大の金属製のダニのような姿をしています。
 上記2種に比べれば雑魚の部類ですが、ダメージは少ないながら【防無】の攻撃を繰り出してくるので油断はできません。
 HPも即座に一掃出来るほど低くは無いため、甘く見ているとあっという間に窮地に陥ります。

●ヌヴェル・リュンヌ×3
 人間が晶獣に変化する初期段階で、この個体は腕の一部に紅血晶が埋まっています。
 腕に体が引っ張られる形で家族を捧げようとしてきます。腕を切断する、あるいは紅血晶を強引に剥がすことでしか助けられません。
 余談ですが、それぞれ鍛冶師のハンザ、盲目の鍼医者ベッツ、傭兵クロスが近親者を己の意図によらぬ形で襲っている模様。
 まあ、要するに腕を落とさないといけませんが腕がなくなると今後の人生お先真っ暗な人達です。殺すべきか、生かすべきか。

●避難民×10
 ヌヴェル・リュンヌに襲われていない人達。
 何もしなければ2ターン目冒頭にサン・ルブトーに囲んで喉を潰され絶命ルートです。
 生死は成功条件外である為、これに注力しすぎるのは悪手であることを申し伝えておきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <晶惑のアル・イスラー>タンニムは食い散らかすLv:40以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

リプレイ


 この事態に、一刻の猶予もあろうはずがなく。
 この戦いの勝利に於いて、一般人は一人たりとも価値がない――勝つという目的のみならば。
「AAARRRGHHHH」
「それでいい。俺の方を向いてくれれば、役目はまず成功だ」
「ヴェルグリーズ、此方へ!」
 然るに、『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が晶竜タンニムの意識を己に誘導したのと『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)がヴェルグリーズへ向けて駆け出したのはほぼ同時だった。一も二もなくヴェルグリーズを抱え上げた百合子は、そのまま迷いなく全速で転身する。仲間達から、晶獣達から、そして助けるべき人々から。それを弱者の逃走と見るだろうか? 否、敢えて晶竜の意識を引いてまで戦場を駆け抜ける理由が、あろうはずもない。
 竜種とは似ても似つかぬ、知性なき姿。本能のみで襲いかかってくるそれを引き付けるには、時に知恵を捨てねばならぬ。紅血晶がああも影響を大きくした理由を考える前に、最大多数の最大幸福のために、二人は囮となったのだ。
「私達はローレットの者です。何も言わず此方へ!」
「…………!!」
 亜竜が牽く馬車を操って現れた若者の姿に、人々は一瞬の躊躇を見せた。だが、晶竜を引き付けた二人はたしかにローレットの……ラサでも並以上に名の知れた者だった。ならば信じる価値があると、命と理性を天秤にかけ、命を取った。恐怖で震える足を必死に動かして荷台に乗り込もうとする彼等を、当然ながら晶獣達は見逃そうとしない。が、彼等はおそらく目の前に聳える巨大な壁を幻視した。
「もう大丈夫だよ。この場は私達が抑えるから隙を見て避難してね」
「ガアッ……!?」
 広げられた腕、守るという意思、そして『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の若々しくも堂々たる立ち姿と声が避難民達の背を叩いた……荷台の方へと、力強く。彼女の声はそれ自体が恩寵に等しく、避難民達の心の焦りを溶かし、恐怖を和らげた。
 対してサン・ルブトー達はスティアの肉体に多小なり傷をつけることはかなったものの、その肉体を鈍らせるほどの不利も、深い傷も与えること能わず。御者は人々が乗ったのを確認し、しかし一瞬、手を止めた。此方に駆けて来る人々が見えたからだ。
「私を信じて、あと少し我慢して! 貴方達の家族は、恋人は死なせない!」
 駆けてくる三人の背を、そして対峙するヌヴェル・リュンヌの面を正面から叩いた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の声は、ほんの僅かに垂れ下がった『全員生存』への蜘蛛の糸をたしかに垂らした。
 この状況に一縷の幸運があったとすれば、今まさに駆けてくる人々が荷台に辿り着くまでの間にスティアを出し抜くことができないこと。
 そしてもう一つは、逃げる者たちに指向した晶獣達の肉体から、それぞれ一匹の蝶が飛び立っていったことにある。
「その醜さ、まさに今のネフェルストの縮図のようですね。ならば此処で先ず、払って差し上げます」
 飛び立った蝶は『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)の手に収まり、そして消える。それを契機にして、晶獣達は唐突に彼女へと向かっていく。
「余りは私の獲物だ。構わないだろ?」
「狙うなら確実に倒せ、あと十秒は稼ぎきれ! スティアさんの努力は無駄にしないで、全員救うぞ!」
 地上を這うように空を賭け、狼につっかけた『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)にあわせ、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は敵集団へと矢弾を叩き込む。避難民を誘導する御者は、誰あろう彼の式神。彼は避難民を最速最短でこの場から逃がす必要があり、安全圏に至るまで式神をその意識でもって維持せねばならぬのだ。
 ――そういう意味では、アリシスに敵意を誘引された面々を狙ったのは上首尾だ。なにしろそれらは、イーリンによって己の運命を歪まされていると気付いていない。
「ぶははははっ! 司書ちゃん司書ちゃん。グラクロは終わっちゃったけど、ここのグラクロまだやってるってことでいいかな!逃げ遅れた十人とできるといいなぁ……」
「甘いわね、秋奈。十三……否、十六人ね。私は強欲だから全部欲しいわ」
「そっかそっか、欲しがりな司書ちゃんの為に私ちゃんもひと働きしますかね!」
 『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はイーリンといつも通りの会話を交わし、いつも通りに前進する。目的は司書の希望を形にすること。要するに敵を全部ちらしてしまえばいい。
 手始めに狼の素首を叩き落とす。そのために振るった手管は少なくとも、手近な一体を深々と傷つけることに成功した。死なないとは大したものだが、生きているのもつらかろう。
「私ちゃんのかわいさを堪能しな! いとエモし!」
「ヴゥ……!!」
 秋奈の挑発と低い唸り声を背景に、御者は迷いなく手綱を繰って亜竜を走らせる。仮にウェールが御者を努めていれば、僅かな躊躇や仲間への思いやりが判断を鈍らせたかもしれない……そういう意味でも、正しい判断だった。
「貴殿の襲撃はここで行き止まりだ、タンニムとやら。吾と戯れてもらおうか」
「皆に多くを任せたんだ、この一つどころ、一つ事は最後までやり通すよ。……キミを倒してもいいんだからね」
 通常では考えられぬ百合子の走りに、しかしタンニムは単純な機動力の差で追いつきにかかった。だが、彼等の目論見に気づいた頃にはもう遅い。
 そもそも、気付く知性などないのだからこの場の二人を倒すしか、タンニムには出来はすまい。
 あとは二人が、如何に生き残るか、それだけだ。


「……貴方達、意識は残ってるわね?」
「ア……」
「分からナイ、持っテいかれル……!」
 イーリンは残されたヌヴェル・リュンヌ達に語りかけたが、彼等は一様に紅血晶に意識を乗っ取られつつある。それでも肉体の侵食が片腕で済んでいるのは不幸中の幸いといっていいのだろうか? 弾かれたようにして紅血晶の嵌った手で殴りかかってきた彼等の目は、一様にイレギュラーズへの畏怖と、恐れを知らぬその手への恐怖に彩られていた。彼女にとって強力とは程遠い攻勢が戦局を動かすことはないが、少なくとも彼等は腕を失わなければこの地獄から抜け出せないのは確かで、タンニムが空を舞う限りは地獄の続きが目に見えている。イーリンは彼等を無視し、アマ・デトワールへと呪いを叩き込むべく身構えた。そして、一手の狂いに瞠目する。
(私の耐久で囲まれるのは避けたい、連携をされれば勝つ見込みは薄い。ならば距離を取って確実に、一発ずつ――)
「ルクトさんっ、後ろ……!」
「え、?」
 ルクトは目の前の状況にせわしなく思考を続けていた。耐久面で決して自信はなく、攻勢に出ても一気呵成と状況をひっくり返す技巧は仲間と比して薄いと自覚がある。そんな彼女にできるのはヒットアンドアウェイだったが、それも繊細な思考と周辺視が求められる。戦場に来てから『何が出来るか』に思考を全て割り振ったのが、彼女にとって一つの不幸だったといえる。
 スティアの声に弾かれたように振り返ったルクトは、自らの撤退位置に回り込むように晶獣が集まっていたことに愕然とした。十体のアマ・デトワールに囲まれた程度で彼女は倒れはすまい。だが、自らのテンポを最悪に近い形で崩された事実、囲まれ身動きが取れなくなった一瞬という事実はこの戦闘の間、思考に澱としてへばりつく。
「悲しいけど、これって戦場だからね。私ちゃんは助けられない分、先に殺し切ってやるからまっとれ!」
「置いて逝くのはつらい。置いて逝かれるのもきっと同じ以上に。だから、力を貸してくれ梨尾!!」
 秋奈は仲間の危機に動じない。自分の刃が曇れば眼前の敵を倒せず、畢竟、仲間を助ける時間が遅れるからだ。だから弱った狼を一体ずつ、確実に引き裂く。幸いにして彼等はイーリンに叩き込まれた魔術、そしてアリシスに撒き散らされた感情の乱れでまともに反撃する能力を失っている。つまりは、続くウェールの攻勢を己を守る余裕なく受け止めてしまうという状況にあった。
「大丈夫……傷ついても私が癒やす、私が皆を守るからね! でも、今は先に倒しちゃうから……!」
 スティアは、ルクトの負傷を視認し直近の危機にないことを認識した。ならば、狼を燃やし尽くすのが最善と判断、先んじて炎で薙ぎ払いにかかる。なぜ彼女が、敵に囲まれた仲間から一瞬でも視線を切ったか。それは、彼女だけに仲間を救う手札がある、とは限らないからだ。
「一回くらい裏をかいた程度で、ダニ風情が調子に乗るべきじゃないわね。もう、勝手はさせないわよ」
 スティアが判断を下す前に、イーリンの魔術がアマ・デトワールを包み込む。ルクトが狙われた事実は、同時に散り散りになり得る個体群がまとまってくれたということ。範囲術式で以て一手にて相手の有利を不利に転ずる準備ができたと、まあそういう話だ。
「あと二十秒か、三十秒ってところかな……百合子殿、首尾はどうかな?」
「呵呵、悪いのう皆! 吾とヴェルグリーズばかりこのデカブツと立ち会う機会に恵まれてしまうとは!」
「……問題ないみたいだね」
 ヴェルグリーズと百合子は、次々と迫ってくるタンニムの攻撃をいなしながら次々と打撃を叩き込んだ。一発受ければヴェルグリーズの誘引が解ける危険性がありながら、しかし二人の身軽さはその攻撃精度を上回っている。二人の命中精度はイレギュラーズに於いて高い水準にあるが、それでも痛打に至る精度まで上がらないのは、タンニムの本能での回避力ゆえか。
 だが、それも百合子の手数の多さにヴェルグリーズがテンポを合わせることを覚えるまでの暇、その二十秒程度の話である。
 雑魚では避けえない精度を何度も何度も受けたあとに、狙い過たぬ精度の斬撃が神々廻剱、その写しから振るわれればどうなるか。
 本能では理解している役割を、しかし感情が許さない、この状況。
 タンニムは今、自縄自縛のなか。垂れ流す涎が地面を濡らし、穴を空けてその時を待つ。


「腕が無くなって生きるのと、親しい人の前で死んで心に傷を残す。どちらか選ぶなら……俺は前者だ! 好きなだけ恨んでいいから絶対に死ぬな!!」
「殺すのはウチら次第だが、生き残れるかはキミら次第だぜ?」
「もう少し、信じていて」
 タンニムを二人が抑え込んで、四十秒――晶獣は五体を切った。最悪のラインを抜けたのを確認するなり、ウェール、秋奈、そしてイーリンは晶獣と化した三人の腕を切り落とした。動脈を含め両断された彼等に残された数十秒は、彼女らが駆けつけるよりも早く飛来する。
「来いよ、哀れな獣。空を穢す者として、私が落とす」
「今年も秋奈ちゃんが、竜狩りにきてしまったぞうー!」
「二人が持たせた時間、削った分、それに見合う働きをしましょう」
「――皆救うよ。だから皆の命は、私が預かるね」
 敵が迫ってきたなら、倒せばいい。
 襲ってくるなら、叩き潰せばいい。
 傷つくなら守るしかない。
 一同は迫りくる晶竜の姿に物怖じせず、構えた。
 暴風が吹き荒れ、爪が振り下ろされ、数多の牙が突き込まれた場を支点として複数名を捕らえ。
 叩きつけ、暴れ、猛威を振るう……なるほど、ヴェルグリーズと百合子が抑えて四十秒が限界なわけだ。
 魔力を見る間に失う焦燥、まがい物のくせに膨大な命を持つ晶竜の脅威は、一手毎に最善手を求めてくる。
 だが、地獄のような時間もほんの数十秒の後に嵐のように終わりを告げる。
「――G,r」
 タンニムが、唐突に身を翻したのだ。
 ホバリングできる最大高度まで飛び上がったタンニムは、あろうことか逃げに転じた。全身を傷に塗れ、死地にあると理解した途端に遁走したのだ。
「逃げ、た?」
「足止めできないわけじゃないけど……俺達と、その人達の命を考えればここで止めるのが賢明かもしれないね」
 呆然と膝をついたまま事実を反芻したルクトに、ヴェルグリーズは頷いた。彼なら、足止めもできたろう。だが、殺すまでのわずか数十秒すらも、腕を斬られた人々の命とを秤にかければ重すぎる。
「この……パッチ竜! 今度会ったら容赦しないわよ! でもその前に、この三人を助けて『全部無駄だった』って思い知らせてやるわ!」
「私も治療を手伝うよ、ここまできたなら生き残らせなきゃ……!」
 イーリンとスティアは、感情を秘して素早く治療に意識を注ぐ。彼女らの手にかかれば、生き残れる公算は高いだろう。
「……口惜しいが、まあ致し方あるまい。だが底は見えた。まがい物などそんなものよな」
 飛び去った方を見た百合子は、どこか不満げで、しかし僅かな満足感を胸にしていた。
 試合は引き分け、しかし……家族を失わなかったものが、十六人もいる。最上ではないか、と。

成否

成功

MVP

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

状態異常

ルクト・ナード(p3p007354)[重傷]
蒼空の眼

あとがき

 お疲れ様でした。
 お姫様抱っこで稼いだ値千金の時間を無駄にしなかった勝利です。

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