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シナリオ詳細

<Scheinen Nacht2022>氷華天燈

完了

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●わしと遊んどくれーーーー!
 ローレットの扉を開くと、そんな叫び声が聞こえてきた。
「え、いやだけど」
 即座に冷静な一刀両断。
 扉を開けて入ってきたばかりのあなたと言えど、その相手が非常に面倒臭がっていることが解った。
「何でじゃ!? わしが遥々遊びに来たというのに。は~、つれないのう。最近の若者は本当につれないのう。年寄りに冷たい。鉄帝の寒波よりも冷たいのう」
「そこまで言う?」
「わしはのう、うぃんたぁすぽぉつがしたいんじゃ~~~」
 人目を気にせず瑛・天籟(p3n000247)が騒がしい。
 今年はローレットの仕事で鉄帝に行くことが多かったため、争いの起きないシャイネンナハトくらいは寒くない場所で過ごそうと思っていた劉・雨泽(p3n000218)はずっと渋り続け――時折耳目を集めてしまっていることを気にしている。
「ひどいのーう。わしと主との仲ではないか。のぅ?」
「……どんな仲なのか聞いてもいいかな」
「じじ孫じゃ」
「僕、君のような祖父を持った覚えはないなぁ」
 天籟が雨泽の祖父になるともれなく『刑部卿』の祖父にもなってしまう。
「そこをなんとか! 頼む~! わしは豊穣に遊びに行きたいんじゃ!」
 笑顔を貼り付けていた雨泽からスッと表情が抜け落ちた。相手をする面倒臭さと案内をする面倒臭さを秤に掛けているのだろう。
「わしは三日でも四日でも主にまとわりつくぞ」
「最悪」
 ため息を大きく吐いた雨泽が「ほんと最悪」と零し――折れた。

●天燈の氷滑り
 ぽつり、ぽつり。灯りが『昇る』。
 穏やかな橙色をした灯火が、天へとぷかぷか昇っていく。
 夜空は灯りの背となりより暗く。
 灯りは夜空を背にしてより明るく。
 ぷかり、ぽつり、ゆらり。
 穏やかな灯火が空へと消えていく。

 天灯を見送り、人々は祈る。
 御国が平らかであることを。
 御誕生日であらせられる帝の健康と長寿を。
 そして各々の願いの成就を。

 とある街では毎年帝の誕生祝いに行われている天灯は、湖の畔から打ち上げられる。
 夜空に浮かぶ明かりと、夜の暗さに黒黒としていた水面に浮かぶ明かり。どちらもゆっくりと消えていき、ほんの少ししんみりとする時間。そうして来年もと願い、翌年も行うのだ。伝統はそうして受け継がれていく。
 しかし、今年。変化が生じた。
 ひどい寒波により、湖が凍ってしまったのだそうだ。
 だがこれは、悪いことではない。広く凍った場所でしか出来ない冬遊びが出来るし、何よりこのまま凍っていれば『御神渡り』が元旦に生じるかもしれない。そうなれば神がお渡りになったと人々は吉事に喜ぶことだろう。
 氷を使った冬遊びと言えば、豊穣には『氷滑り』と呼ばれる遊びがある。大陸の外つ国ではスケートと呼ばれるものだ。下駄の底に割った竹を結んで穿き、氷の上を滑って遊ぶのだが――豊穣は啓かれた。外つ国では洋靴(ブーツ)に刃を付けて滑るのだと言う。扱いは難しいが、足をしっかりと包んでくれるため下駄よりも足が冷えることはない。
 街の者等は此れを仕入れ、今年は天灯とともに氷滑りも楽しむことにしたのだった。

 天灯の明かりの下、シャアシャアと氷を滑る音がする。
 細かに刻まれた氷が宙を舞い、それを照らす天からの灯り。
 滑る人々の周囲には綺羅びやかな氷の破片がキラキラと煌めいて。
 そうして楽しむ人々の顔には、寒さも忘れるくらいの晴れやかな笑顔。
 白い息を弾ませて、この日だけの冬遊びに興じていた。


「と言うわけで、良かったら豊穣に遊びに行かない?」
 場所は去年紹介したところなんだけれどと口にした雨泽の背後では天籟が尾を振り振り楽しげに支度をしており、「里の者に声を掛けてもいいのう」と実にウキウキルンルンだ。
「願いを籠めて天灯をあげるのも、氷滑りに興じるのも、きっと楽しいよ」
 寒い日の夜の催しだ。風邪を引かないように、身体を温めるのに適した屋台もある。
 争いが起きないこの日だけは、瞳に映るのは全てが『平和』。
 君たちが守るために日々努力し、そうして齎されているものである。
 温かなものを口にしながら、のんびりと天灯や氷滑りに興じる人々――穏やかな平和を眺めるのも良いかもしれない。
「冷え込むから暖かな格好で来てね」
 そう口にしてから、雨泽がくしゅんとくしゃみをした。

GMコメント

 輝かんばかりのこの夜に。壱花です。
 元気な声からOPが始まりましたが、カムイグラから幻想的な夜をお届けします。

●迷子防止のおまじない
 一行目:行き先【1】~【3】いずれかひとつを選択
 二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)

 同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

「相談掲示板で同行者募集が不得手……でも誰かと過ごしたい」な方は、お気軽に弊NPCにお声がけください。お相手いたします。

【1】氷滑りをする
 スケート靴を借りて、凍った湖でスケートが出来ます。
 ひとりでスイスイと、もしくは生まれた子鹿のような足で。
 ふたりで支え合って、もしくは手を繋いで。
 楽しい氷上遊びは如何でしょうか?
 ふたり以上でお相手・もしくは双方が滑ることが不安な場合、手押し椅子型のソリ(一人乗り)のご用意もありますので、お連れ様に押してもらうことも可能です。

 ダンス等をする場ではありません。
 他の人にぶつからないためにも、決まった方向に流れていきましょう。

【2】天灯を上げる
 会場内で決められた打ち上げスペースにて天灯を上げることが可能です。湖の畔です。
 一定数の人数が揃うと「せーの」と皆で空へ放ちます。
 一斉に放たれる灯りが黒い夜空に浮かんでいくさまは、とても美しいことでしょう。

【3】屋台を楽しむ
 焼き鳥、焼きそば、焼きもろこし、りんご飴……と言った、縁日で食べられそうな食べ物の屋台があります。もつ煮や豚汁といった温かなものの売れ行きが良いです。
 今年はもろこし汁(コーンポタージュ)や二枚貝の乳煮(クラムチャウダー)を扱っているお店もあります。大陸の料理も美味しいね!と気に入られているようです。
 日本酒や甘酒、生姜湯、葛湯、各種お茶等、温かいものが売られています。
 買った飲食物を手に、空に浮かんだ天灯を見上げて楽しむことも出来ます。

●天灯
 竹で枠を作り、そこへ大型の紙袋を被せた構造で、竹枠の中央に油を浸した紙を固定して火を点けることによって上昇するランタンです。

●NPC
 御用がございましたらお気軽にお声がけください。
 両名とも【1~3】に居ます。

・『綵雲児』瑛・天籟(p3n000247)
 覇竜から豊穣へ遊びに来ています。亜竜集落ペイトで里長を始めとした民等の武術師範、そして里長の護衛をしているちびっこ亜竜種です。亜竜種さんは全員既知として接してくださって大丈夫です。どんと来い!
 普段浮いているのとスケート靴に不慣れで「おおお……」となりますが、教えてもらえたりすれば(教えられなくても一人で滑っていても)すぐに慣れます。スピードを求めたくなる派。
 食べ物は豊穣の食べ物に興味津々。何でも食べる酒呑みです。

・『浮草』劉・雨泽(p3n000218) 
 バランス感覚が良いのでスイスイ滑れます。のんびり楽しみたい派。
 お酒と甘いものが好きです。

 ※『刑部卿』鹿紫雲・白水は自宅で家族サービスがメインイベントなので居ません。
 ※弊シナリオに出てきた豊穣住まいの友好NPC(顔無)を誘って頂くことも可能です。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害となりうる行為、未成年の飲酒は厳禁です。
 年齢不明の方は自己申告でお願いします。
 イベシナなので描写は控えめになるので、行動は絞った方が良いでしょう。

 それでは、佳き夜となりますように。

  • <Scheinen Nacht2022>氷華天燈完了
  • GM名壱花
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2023年01月02日 22時05分
  • 参加人数31/31人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(31人)

建葉・晴明(p3n000180)
中務卿
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)
傍らへ共に
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
メイメイ・ルー(p3p004460)
掴んだぬくもり
天之空・ミーナ(p3p005003)
誰が為に
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
Meer=See=Februar(p3p007819)
おはようの祝福
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
鏡禍・A・水月(p3p008354)
夜鏡
ニル(p3p009185)
おいしいを一緒に
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
神倉 五十琴姫(p3p009466)
白蛇
アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)
茨の棘
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ユーフォニー(p3p010323)
相賀の弟子
紲 寿馨(p3p010459)
紲家
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

サポートNPC一覧(2人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
瑛・天籟(p3n000247)
綵雲児

リプレイ

●ぬくもりと
 大きな湖が凍ると、それだけで人々は寒さを実感する。
 本当に凍っていると目を丸くしたアレン・ローゼンバーグ(p3p010096)と紲 寿馨(p3p010459)は、しっかりと温かな格好をしてきたけれども鼻を赤くして。そんな互いの顔を見合うとくすりと笑って芳しい香りへと惹かれていく。
「元気じゃの、おんし」
 凍った湖に首をすくめた物部 支佐手(p3p009422)は幼馴染――寒さの中でもキョロキョロと見渡し、天灯浮かぶ空を浮かべ、屋台に瞳を輝かせ、氷滑りもしたいと次々と元気に興味を示す神倉 五十琴姫(p3p009466)に思わずボヤいた。ぐいぐい引かれてついてきたものの、支佐手は既に帰りたい。
「見よ、支佐! 珍かな屋台があるようじゃぞ」
 はあとため息を付いた支佐手が屋台なぞどこも似たようなもの……と視線を向け――パッとその表情が変わった。大陸の料理名が視界に入り、先程までの態度は何処へやら。渋る五十琴姫を伴い嬉々として列に並びに行く。
 豊穣が開いてから、この国には『外』の文化が少しずつ浸透していっていた。シャイネンナハトとてそうだし、他国の食べ物とてそうだ。
「まいど。おっと、気を付けてくれよ。熱いからな」
 今年も屋台を出しているゴリョウ・クートン(p3p002081)の店には『野菜の飴煮』の文字が踊っている。飴色になるまで炒めた玉ねぎをベースにしたオニオンスープに、たくさんの野菜とウインナーを加えた熱々のポトフ。鍋をふたつ用意して、片方は味噌ベースに豚肉の豚汁。
 どちらも味が優しくて指先や腹を温めた人々の間に笑顔が咲いた。
「はー……あったまるねー」
「あったまるねえ」
 ゴリョウから豚汁を受け取ったアレンと寿馨も、その温かさについつい笑みが溢れる。寸前までは覇竜では見かけない焼きそばに心惹かれていたふたりだけれど、ほこほこと湯気立つ温かな誘惑に負けてしまったようだ。
「来年もよろしくアレン」
「……来年もよろしくね。寿馨」
 輝かんばかりのこの夜に。
 君とぬくもりと喜びを分かち合う。
「これが大陸の味か。味噌汁とはひと味もふた味も違うのう」
「確かにうまいのぅ」
 支佐手と五十琴姫の手元には、黄色と白。味噌汁とは違うクリーミーな味わいに支佐手が満足そうにほうと息を吐き、飲みかけの器を差し出してくる。
「ほれ琴、そっち寄越しんさい」
「これ!? き、支佐!?」
 どちらの味も口にしたい。
 それは自然な考えで、理解もできる。
 しかしそれは間接的な接吻でもあり、五十琴姫は慌てた。
(この朴念仁め!)

●あかりと
 灯りがひとたび天を上りゆけば、ひとときの静寂が訪れる。
(……こんな安らぎの場に、私が居てもいいのでしょうか)
 人々は祈りを籠めて天灯を飛ばしているが、マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は天灯を抱えたままこの一年を振り返っていた。
「どうだ、何か書けたか?」
「バクルドさん」
 おかえりなさいと淡い笑みを向けたバクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)の手には甘酒がふたつ。隙無く彼女の手元の天灯を見て、離れた時と変わらずにいることに気付いていれど、そう問うた。
「皆さんの幸せを、願おうかと」
「ほい、寒い夜にゃ温かいもんを飲むのが乙ってやつだ」
 差し出された甘酒を「ありがとうございます」とマリエッタが受け取る。
『どうか無事でいてくれ』
 小さな願いを託された甘酒が、自身が自身でなくなるまで思い出を作っていきたいマリエッタを温めてくれた。
『豊穣の発展を』
 そう記した天灯が、建葉・晴明(p3n000180)とメイメイ・ルー(p3p004460)の手からゆっくりと離れていく。
 一斉に放たれた灯りに人々の声がワッと重なって「来年も、その先も」と願った少女の小さな声は晴明には届かない。けれど彼女がともに豊穣のことを想ってくれることがあたたかであった。
「……霞帝さまは、こんなにも沢山の人たちに慕われていらっしゃるのです、ね」
「そうだな、あの方は――賀澄殿は凄い」
 晴明の視線が灯りを追う。
 種族の境無く受け入れ、手を差し伸べてくれた異邦の人。
 すぐに調子に乗るかの面影を思って微かに笑うその横顔を、メイメイはそっと見上げていた。
 誇らしげで、あたたかで。そうして向けられる肩を竦めての表情は、気心の知れた相手にしか向けないもので。
(あれ、どうして……?)
 頬に集まる熱に気付いて押さえた頬が染まるのは、天灯のあかりや寒さのせいだけではないだろう。



●きらめきと
 氷上には氷滑りを楽しむひとびとであふれていた。
 スケートと耳にして、善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が「我(わたし)に任せなさい」と優雅さたっぷりに微笑んだものだから、スケートをしたことがないミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は「流石だね、レナ」と彼女を頼りにさせてもらおうと決めた。
 ……決めたのだ、が……いざ氷上へと歩を進めればそれは間違いであったことを知った。
「あ、あれおかしいわね! こ、こんなはずじゃ……!」
 レジーナは自分が滑れると思い込んでいたが、実は滑れない。
 ひゃあああああっと叫んで転び、それでもよたよたと立ち上がったレジーナが、ミニュイへと「り、リードしてあげるわ!」と手を差し伸べてきている。
 しかし、スケート未経験者であるミニュイにとて解ることがある。
 ――この手を掴んだら、ふたりで仲良くすってんころりん!
(やはり頼れるのは自分だけ)
 ミニュイは友人の手を取って、ふわりと両翼を広げたのだった。
「……わ、わ」
 スケート靴を履いてと立ち上がった途端、チック・シュテル(p3p000932)の身体はぐらりと傾いた。
「大丈夫?」
「ん、ありがとう……」
 支えられたその後も。立つのも前に進むのも、ふるふると震えながら。
「掴んでくれて大丈夫だよ」
 初めての刃のついた靴の扱いは難しくて、平気な顔をして氷の上に立っている雨泽の方がチックには不思議に思える。滑られるようになるには、慣れと練習が必要そうだ。
「そんな難しくないよ」
 なぁ~んてコラバポス 夏子(p3p000808)は言っていたのに!
 いつまでたってもタイム(p3p007854)は上達しないのに、夏子ばかりがスイスイと滑っているものだから、ずるいと頬を膨らませてしまうのも仕方がない。
 けれどそれも持ち前の運動神経の差だろう。よたよたと近寄って、笑って見守ってくれている夏子の手へと縋りつこうと手を伸ばす――が。
「ちょっと先行ってるね ゆっくりおいで 無理せずにね」
 その手が触れる前に、彼はするりと氷を滑って行ってしまう。
「えっ、やだやだ待ってよぉ……!」
 嘘でしょ!?
 そんな思いで懸命に追いかけて滑っていけば、ぽふんと大きな身体にぶつかった。
「もう! 面白がってるでしょ。いじわる」
「あ~ゴメンねゴメン」
 ココロコ変わる表情が可愛かったのは事実だけれど、そんなつもりはなかったのだ。ごめんねと謝っても、タイムの頬は膨れたまま。
 けれども少し赤く染まった耳の先が、本気で怒っているわけではないと知らせていた。
「っと……」
 最初は真っ直ぐ滑るにも難しかったシャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)だけれど、コツは掴めてきた。
「わ、わ」
 けれどもネーヴェ(p3p007199)にはまだまだ時間が必要そうで、「クラリウス様、ずるい」と唇を尖らせた。さっきまで、ふたりは一緒にふらふらしていたのに!
「……ネーヴェさん、手を支えても?」
「は、はい」
 剣を握る固いシャルティエの手に、柔らかなネーヴェの手が重なった。
(ネーヴェさんの手、こんなに小さかったかな……)
(クラリウス様、すっかり男の人の手に……)
 互いを意識したふたりの頬に、熱が灯る。
「ど、どうかな?」
 意識しすぎないように滑れそうかと尋ねると、ネーヴェからは「まだ少し」と言葉が返る。それならばまだ、手を握っていられそうだとシャルティエは密かに思った。
(――本当はもう少ししたら滑れそう、だけれど)
 異性の友人と手を絡める機会は早々ないから、今だけは――。
 ネーヴェは滑られるようになっても暫くは告げずにいたのだった。
「どう? 少しは滑れるようになったかな?」
「……少し?」
 少し練習するから楽しんできてと送り出した雨泽がチックの元に戻ってきた。
 ゆっくりと滑って見せるその姿に雨泽は快なりを唱えると手を引いて、流れる景色にチックは目が丸くなるほど驚いた。

「メイ、氷の上に立つの初めてなのです! ご指導よろしくお願いしますなの!」
「氷上に立つことは難しいが、ゆっくりやっていこう」
 ぴょっこりと頭を下げたメイ(p3p010703)に「よろしく」と告げたジョージ・キングマン(p3p007332)は余裕ある大人の笑みでそう告げた。
 ダンスは禁止されているから、ゆっくりと流れに合わせて滑っていく。
 最初はゆっくり。段々とスピードを付けて。
 メイが覚えが早いのか、それともジョージの教え方が良いのか。メイはすぐに上達していった。
 だからだろう。もう少しスピードを、なんて思ってしまった。
「……あ!」
 付けすぎたスピードでは、このままではコーナーが曲がれない!
 思わずメイは目を閉じたけれど、いつまで経っても衝撃は来なかった。
「怪我はないか?」
 巨大なコウテイペンギンがメイをフリッパーで優しく撫でてくれている。ぽよんとしたお腹が、メイを抱きとめてくれたのだった。
「はわわ。わ……」
「ニル」
 へっぴり腰で滑っては、ふるふるよろよろすってんころりん。
 人にぶつかる寸前で伸ばされてきた手に思わず捕まって、「雨泽様」とニル(p3p009185)は顔を上げた。
「雨泽様はじょうずですね」
「体を動かすのは得意なんだ」
 手を引かれて滑り方を教わる最中、ニルにとっての氷上はワカサギ釣りだと伝えれば、雨泽がへえと口にした。
「僕はそっちの方が苦手かも。ジッと待つのは寒いでしょ?」
「はい。でもワカサギは『おいしい』です」
 今度コツを教えてよと提案し、雨泽はニルの意識が足元ばかりに向かわないように導いていた。
 氷の上を赤がスイと流れていく。
 ついついその赤を目で追いそうになった水月・鏡禍(p3p008354)の身体はぐらりと揺れ、今はそれどころではないと現実(主に足)が告げてきた。
「鏡禍、意地張らずにソリのほうがいいんじゃない?」
「う、動けないですけど、ソリは負けた気になるので、大丈夫です」
 滑らかに滑るルチア・アフラニア(p3p006865)に対し、鏡禍は生まれたての子鹿。本来の鏡禍の計画では手を取り合って一緒にスイスイ滑ることだったのだが……ソリを押してもらってはそこから更に遠ざかってしまう。
「とりあえず、私に捕まって。脚をハの字に開いて立ちましょ。無駄に力が入っていると、その方が危ないわよ」
 プルプルと足が震えているのは、その証。
 差し出された手を取るか、悩むのはほんの少しの間だけ。
 鏡禍は眉を下げながらもルチアの手を取って、彼女に知られずに練習して上達した姿を見せることを心に誓ったのだった。
「あっあっあっあああ!!!!?!!」
「ほ、保安官さーーーーん!」
 刃のついた靴で雪をザクザク踏んでからそろりと氷に足をつけた瞬間、ムサシ・セルブライト(p3p010126)の声が裏返った。右足が、滑る。慌てて左足に力を入れると、これまた滑る。滑る、滑る、滑る――!
 あっという間にへっぴり腰でぐるぐると滑っていったムサシの姿に、ユーフォニー(p3p010323)も流石に驚いた。
「はいっ、手、どうぞ」
 慌てて追いかけて、手を差し出して。
 ムサシはその手に縋り付く。
「ああ良かった……ユーフォニーさん、手をありがとうございます……貴女がいて良かった……」
「ふふ、大袈裟ですよ……!」
 楽しくてくすくす笑ったユーフォニーが「始めは皆そうなんですよ」と口にすれば、ムサシも「練習あるのみですね」と気を取り直す。
「そういえば保安官さんって真冬でも制服だけなんですか?」
 言われてみれば、今はスーツを着ていない。
 つまり、寒い。
 自覚した途端ガタガタと震えだしたムサシの首に、マフラーが巻かれた。

(すいすい、しない……)
 祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が右を見ても左を見ても、皆スイスイ滑っていくのに。
(思っていたより……難しい……)
 スイスイ滑る人々が楽しそうで勇気を出してスケート靴を借りてみたけれど祝音には難しくて、ちょっぴり悲しくなった。
(あ、劉さん)
 スイーッと滑っていった人の髪が尾のようで、視線で追うと知った姿。すごいなぁという気持ちと、僕も! という気持ちが湧いたから、祝音ももう少し頑張ってみようと思ったのだ。つい足元ばかりに視線が行ってしまって、彼が寸の間振り返ったことに気付かずに。
(あ……)
 空が明るくなって、天灯が昇っていく。
 氷に温かな色が映り、思わず目で追いたくなる。
(だめだめ、転んじゃう)
 きっと見上げたら、猫みたいにころん、だ、
 けれど、解っていても意識が――。
「わっ」
 ぐらりと身体が揺れた。
「祝音、大丈夫?」
 とん、と両肩に人の手が触れ、支えられた。
「劉さん」
 祝音を見つけて一周まわってきたのだろう。
「少し一緒に滑ろうか」
 差し出された手に祝音が手を重ねると、雨泽はゆっくりと祝音を導いた。
「まずはゆっくり歩いて……」
 流れるように滑る人々の邪魔にならない湖の端。まずはそこで練習をしようと回言 世界(p3p007315)が導いていたMeer=See=Februar(p3p007819)の手から手を離した。
「わ、わ、これ結構バランス感覚が……」
 経験者の世界に支えてもらってここまできたけれど、支えがなくなった途端にMeerを取り巻く氷の世界は一変した。
 ぷるぷると震える身体と足とでバランスを保ち、この先はどうすればいいのと視線を向け、そうして――。
「おい待て! いきなり氷を蹴るんじゃない。転ぶぞ!」
「え? 氷を蹴る? えっ?」
 すってん!
 思いっきり後ろに上半身が傾いたMeerの体の下に、慌てて世界が滑り込んだ。
「……ごめんね、世界さん」
「いい。大丈夫だ」
 世界の初めてのスケートはもっと色々と大変だったから、氷上の不安定さは理解している。
 Meerを立ち上がらせ、手を引いて導いた。
(世界さん、すごく頼りになる……!)
 けれども少し、Meerの胸はちくんと痛む。だってもうMeerも20歳なのだ。甘えっきりなのもなんだかなぁってなるし、それにもう少し……なんでもない。
 悩める心はミスを生むが、それでも少しずつMeerは氷に慣れていく。流氷の天使は氷上でも天使だし、世界の導き方も上手かったのだろう。
「見て見て、世界さん!」
「おー、中々滑る姿も様になってるじゃないか」
 それじゃあこっちまで滑ってこられるか、と世界がMeerから離れた。
「……あれっ待って待って! これ止められな、あ、あああぁ」
「……なに? 止まらない?」
 そういえば、止まり方って教えたっけ?
 いや、止まり方ってそもそもどうだった?
 かくしてふたりは激突し、抱き合った状態でくるくると回りながら氷上からフェードアウトするのだった。

「スケートって初めてだな~」
「そうなの? じゃあ準備運動は念入りにしようね」
 スケート初心者がアイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)。
 スケートが久しぶりなのがクリム・T・マスクヴェール(p3p001831)とアリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)とレイリー=シュタイン(p3p007270)。しかしレイリーにはスケートの腕(足)に自信があるのか、率先して準備運動からブーツチェックと友人たちの世話を焼いて回っていた。
「私は滑れるぞ」
 多分人並み以上だと、天之空・ミーナ(p3p005003)が軽やかに滑って見せてくれれば、4名から「おお~」と歓声と拍手が上がった。
 滑り出せば少しのブランクは吹き飛んで、レイリーを先頭に5人はゆっくりと氷上遊戯を楽しむ。
「そうだ、アリシア、一緒に手を繋いで滑らない?」
「仕方ないわね……」
 レイリーが手を差し出せば、ちょっとだけよと口にしながらもアリシアはその手を繋いでくれた。その頬が赤いのは恥じらいがあってのことだが、それでも繋いでくれたことが嬉しくてレイリーの胸にぬくもりが広がった。
「ミーナ」
「なんだクリム……って、私の翼で暖とろうとするな」
 ミーナの羽は冬毛になって、いつもよりももこもこふかふか暖かそう。ついついスススと近寄って暖を取りたくなってしまうのも仕方がないことだけれど、「名残惜しいですが」とアリシアは良い子の返事で離れた。後からまたぬくもろう。
 そんな前方4人の様子に、アイリスはくすりと笑う。
(たまには悪戯じゃなくて観察するのもいいかな~?)
 いつもは悪戯ばかりなアイリスだけれど、こうして見守るのも胸があたたかになることに気がついた。
「今年も来年も5人で遊ぼうね」
 シャッと氷を跳ねさせてレイリーが微笑んだ。
「ああ、来年もその先もずっとずっと。皆一緒だ」
「ですねー。キャンプとか花火とかやってみたいですね!」
 振り返って後ろ向きに滑るレイリーに少し驚いたけれど、クリムとミーナがそう返し、アイリスも後ろから同意を示して手を振っている。
 明るい、友人たちの笑顔。
 いつも同じのように見えても、同じひとときというものはきっとない。
「この選択に、なって良かったと思うわ」
 小さく呟くアリシアの声に、4人の「輝かんばかりのこの夜に!」が重なった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

輝かんばかりのこの夜に!
素敵な夜になっていたでしょうか。
温かくして新年もお過ごしくださいね。

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