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シナリオ詳細

<獣のしるし>刀神千刃門

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『刀神』だった男は
 鉄帝、ハープスベルク・ライン。
 冷たい潮風が流れ込むその街道には、数多突き立てられた刃の叢と、それを背に仁王立ちする大男の姿があった。
 そして見よ、突き立てられた刃の先には、黒く染まった獣達が突き立てられているではないか。それどころか、黒い影は今なお生きているかのように武器を黒く染め上げようとしている。
「は、は、は、は!! 全く世界の広さには驚かされる! この鉄と錆の国にあって、未だ見ぬ敵がごまんと出てくる! いつぞや倒した猪も! 腕を六本も生やした熊もだ! あれらは貴様等と同じで『世界の敵』とやらなのだろう? 佳い佳い、儂を愉しませてくれるなら付き合おうぞ! ……無論、儂でなくヌシらが死ぬ迄でも一向に構わぬがな!」
「あなたの情報はありませんでしたね。……それか相当な昔話か。この国、ひいてはこの世界の人間ではないのでしょう、あなた?」
 豪放磊落に笑う刃の持ち主は、黒い影――汚泥の兵とか、ワールドイーターなどとよばれる連中を尽く蹴散らして立っていた。口ぶりからするに、余程協力な天衝種とやりあっているのは間違いなさそうだ。そして生き延びている。
 男に応じ、後方から現れた天義の聖職者として振る舞う男はといえば、その惨状をして正直に驚きを隠さぬが、さりとて動揺しているというふうにはとても見えなかった。オールバックに整えた髪、目鼻立ちがはっきりした顔のラインを見れば、優男といっていい部類なのだろう。その割に、表情がはっきりと印象に残ることはなかった。
「如何にも! 儂の名は――面倒であるな、『刀神』と名乗った旅人である!」
「神を名乗るとは不遜極まりありませんね。いいでしょう、そこまで命が惜しくないなら……この『美食家』たちの胃を満たしていただきましょうか。すべては『彼女』のために、正義のために。我々はこの国を攻めねばならないのですから」
 男の背後で膨れ上がった気配は、影だった。が、全身が刺々しい、宛ら全身から刃が飛び出したかのような外見を見せた巨大な人狼を思わせる立ち姿は明らかに常軌を逸している。いままで倒してきた影などより、余程異常だ。
「このような強者揃いの国を、外圧で閉じるのはしのびなし。儂の目が黒いうちは、せめてこの道一本を埋める程度にはこの者等と貴様の肉を積み上げてやろうぞ!」
 男は、刀神は迫る刃の獣へと牽制とばかりに小刀を投げつけるが、それはすげなく弾かれた。続けざまに地面から引き抜いた薙刀はしかし、獣の顎を狙ったと思いきや刀身がごっそりと消えているではないか。柄だけがのこった武器を投げ捨てた刀神は、その日最も獰猛な笑みを浮かべた。

●矢尽き刀折れ、しかし
「なんだい、こりゃあ……」
「ハ、遅かったではないか『同胞』。この国を守るためにきたのだろう?」
「同胞呼ばわりすんなよ、アンタ、ホルム街道を通せんぼしてたっていう旅人じゃねえか」
 時間はやや針を進め、イレギュラーズ達はハープスベルク・ラインで繰り広げられる異常に色を失った。
 そこにいるのは、かつて鉄帝と傭兵を繋ぐホルム街道を武力にて押し留めていた『刀神』と僭称した旅人の姿。そして、無数に転がる『刃のない得物たち』。眼前に立つ影の人狼、そして数多の影の尖兵を従える聖職者然とした男。
 誰が敵で味方なのか、なんて……いまさら語るものではないが。
「儂からひとつ言えるのは、かの獣……ワールドイーターといったか? アレは『武器と持ち手の絆』が好物の偏執狂よ。果たして、儂の得物もこの有様……やり難ぅて敵わん!」
 彼の言葉が本当なら、敵の厄介さもだが……長々と人々から奪った武器の数々を、絆が深まるまで丁重に扱っていたという事実に行き当たる。が、多分イレギュラーズはその厄介さの前に、意外な事実には気付かないかもしれなかった。

GMコメント

 実に1年10ヶ月弱ぶり(すっかり忘れてた)の登場です。練達行ったんじゃなかったの君……。

●成功条件
・ワールドイーター『刃林狼』撃破
・影の兵の殲滅
・薄ら笑いの聖職者の撤退

●失敗条件
・刀神の死亡、または『刃林狼』に食われた状態でそれを撤退させること

●『刃林狼』
 全身を刃のような突起が覆う、狼とおぼしきシルエットを持つワールドイーターの一体。
 非常に偏食家で、『使い込まれた武器と持ち手の絆、ひいては武器と持ち手そのもの』を捕食しようとしてきます。
 すでに刀神の持つ得物の8割くらいを食らっていますが満ち足りた様子が感じられません。
・絆喰い(P):攻撃が命中した対象の装備と持ち主の絆が深い(GM判断)場合、当該装備の能力orステータス補正値をコピーする(ローレット・イレギュラーズに限っては武器が消えたりはしないらしい)。
・刃森(物中扇):【スプラッシュ(中)】【出血系列】【乱れ系列】
・刃雨(物超域):【災厄】【窒息系列】【麻痺系列】【呪殺】
・咆哮斬撃(物超貫):【万能】【ブレイク】ほか
 他、【必殺】込の能力などなど。【絆喰い】の頻度によってさらに能力強化もありうる。
 なお、『刀神』HP30%以下の状態でハードヒット以上を叩き込んだ場合、彼を一時的に捕食する(即死攻撃ではない)。倒したら取り戻せる模様。

●影の兵(汚泥の兵とも)×そこそこ多い
 正体不明の黒い影の軍勢。それは『冠位強欲』の泥の兵を思わせますが、外見が似ているだけで命は有限です。
 EXFがべらぼうに高く、数と死ににくさで戦場を横断するだけで押しつぶす圧力があります(一般人相手の場合)。
 近接攻撃しかありませんが、色々と厄介な特性をもっているとかなんとか。

●薄ら笑いの聖職者
 詳細不明。
 聖職者の格好をしており、実質ヒーラーとして立ち回る。
 その割に回避が高かったり機動がそこそこ高かったり、あと口が回る。胡散臭い。

●刀神
 友軍。『刀神闊歩』に出てきた迷惑者。
 千本の武器があるかはわからないですが、とにかく得物が取り込まれまくっていて数本の剣を背負うのみになりました。
 HPが低い状態だと食われる可能性があります。

●名声
 当シナリオは天義/鉄帝に分割して名声が配布されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <獣のしるし>刀神千刃門完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)

リプレイ


「ワールドイーター……ROOだけの産物じゃなかったのか……いや、混沌にも居たからROOにもコピーされた感じか……?」
「別件でもワールドイーターが現れている以上、『今まさに』混沌に在るというのは事実のようですね。先が見えませんが、自由にしておけないのは確かです」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)のみならず、練達の仮想世界に飛んだ者であれば『ワールドイーター』の名や存在はそう古い記憶ではあるまい。あたかも混沌が仮想に侵食されたよ

うな厳格すら覚えるそれに驚くのも無理はない。『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)はむしろ、『月光人形』にも似た影の兵隊達の得体のしれなさにこそ脅威を嗅ぎ取っている様子

だった。わからないことが、多すぎる。敵の能力をある程度引き出している相手がいるのは、それだけで随分と助かるものだ。……それにしても今日のサイズは鎌本体も肉体も、自己主張が殊更

に強い。自分を狙えと言わんばかりである。
「フン、こんな形の化物がそこら中にいるというのは、本当にこの国は面白いな!」
「そこまでボロボロにされて言うことか?」
 グリーフの治癒を受けつつ剛毅に笑って見せる刀神の姿に、サイズは呆れを隠しきれなかった。ここまで一方的にやられながらも、まだ戦えるだけの力を残している。覇気とでも言おうか。少

なくとも、雑魚にどうこうされる実力ではないことは確かだ。
「何を相談しているのか知りませんが、数が増えたなら増えただけ、食いでがあるだけではないですか?」
「自分は刀神殿も、ワールドイーターも詳しくないが……このような怪物を野放しにするなど不正義にすぎる! 貴様もだ、聖職者もどき!」
「おやおや」
 イレギュラーズの出現に驚くでもなく、呆れたように肩を竦めた聖職者に向けてマルコキアス・ゴモリー(p3p010903)は断罪するように指をつきつける。彼の実直な言動を受け、しかし相手

は頬をひきつらせたような笑いを絶やさず首を振るだけだった。
「武器喰いか。絆喰いというからには、主食は感情。あるいはそういった概念か」
「……お父様からもらって、ずっと一緒に戦ってきたカグツチとの絆を食べられる?」
「面白え。喰えるもんなら喰ってみな」
「食べられたら困るよ!?」
 持ち主との武器の絆、ひいては武器そのものすらも食い散らかすというワールドイーターの特性、その本質をいち早く理解したのは『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)だった。何名

かはその事実をしっかり理解しているようだが、武器すら食われることを前提で戦っているサイズの考えも間違っちゃいない。というかそういう意味では、絆を食われることで互いの繋がりを断

たれると怯える『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の反応こそ一番的確なのだ。概念的な意味では、『竜剣』シラス(p3p004421)の武器――というかその手指が培ってきた技術を武器と呼ぶの

なら、成程、肉体すらも喰ってしまう可能性は十分にあったといえるだろう。
「しかし刀神さんはすごいですね、あんなにたくさんの武器と絆を結んでるなんて。付喪神の一人や二人、生まれてもおかしくなさそうな」
「でも、あれって全部略奪品だよね?」
「え?」
「え?」
 『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は己の武器、ひいては自身の能力とイコールであろうそれをしげしげと眺め、それからあたり一面に散らばった武器の数々を見た。刀神のそれが物理的に

ではなく概念的に取り込まれているということは、つまりそういうことなのかと納得してしまっていたワケだ。直後、『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の言葉で「いい話風」の推測

が崩れかけたのだがまあ言うまい。
「でも、そんな刀神にとっても、誰にとっても。武器と持ち手の関係は神聖にして不可侵の領域だ。それをむさぼり食らおうなどと実に腹立たしいことこの上ない」
「……元聖騎士マルコキアス・ゴモリー……参る!」
 マルコキアスの気合いの籠もった叫びとともに彼の得物が唸りをあげて聖職者を狙いに行く。が、聖職者との間に割って入った影の兵が相次いでそれを受け止め、近付けさせまいと肉壁を形成

する。聖職者とて、思考を以て立ち回る一個の人間。気合十分な者の間合いに入るなど、軽々にはしないということか。
「やっぱりこの影、数が多すぎるよ!」
「こちらで影を引き付けます、数が数ですので全てとはいきませんが」
「真っ先にあの狼に、とはいかないのが面倒だけど、仕方ない!」
 焔もまた、マルコキアス同様に聖職者を仕留めたかったが、影を減らさねば厳しいのは理解済みだ。光明足りうるのは、グリーフによる誘引からの掃討か。逸る気持ちは誰しもあるが、切り替

えと戦局把握は重要だ。サイズも、眼前の相手を一撃のもとに消滅させて前へと踏み出した。
「死ににくい相手がどれだけ面倒か、何をされれば嫌なのか。僕は分かっていますから、『そのように』しますよ。『絶対』じゃないなら、倒しようなんて幾らでもありますから」
 鏡禍はそう言うと、仲間が弱らせた個体を次々と切り刻み、影から『血』を流させる。或いはそれは血ではないかもしれない。が、存在が弱るという意味で同じことだ。
 しぶとさを主とするものは、一度の失敗目掛けて繰り返される試行をこそ恐れる。其れを強制する術技は、致命的殺戮よりも重い意味を持つのである。
「一撃で倒せずとも、流れ出す『死』からは抗えまい。一度の不幸には耐えきれまい。そういうものだからだ」
「狼野郎の動きにも気をつけろよ! 何をきっかけに武器を狙われるか分からねえんだからな!」
 影の兵を数名ほど仕留め、ジョージは四周を改めて確認する。なるほど多い。だが、実力的に十二分のものを持つイレギュラーズであれば早晩撃滅は容易であろう。問題は、やはり聖職者の治

癒と刃林狼。
 イレギュラーズのあまりに早い覚悟と素早い初動に一瞬だけあっけにとられた刀神であったが、その戦い方を理解してからは早かった。
「ハ、死なぬなら死ぬまで死ぬように誘い込め、と。儂には考えつかぬ柔軟性であったわ!」
 残り少ない武器から、刀神は薙刀を選んで引っ張り出す。無理に前に出ず、しかし確実に切り刻むための長柄武器。彼なりに、『気を遣われている』状況なりの選択をしたということか。
「儂は死なんように立ち回る。貴殿等は勝つために立ち回る。なれば問題あるまい!」
「無理しないでくれるなら、助かるよ。手は幾つあっても足りないからね」
 近場の兵士を切り裂き薙ぎ払った刀神の声に、ヴェルグリーズは歓迎の意を込め頷き返した。


「乱戦になれば俺達を止められると思ったか? 甘いんだよ!」
 シラスは影の兵達がひしめく中心へと、長距離術式を打ち込んでいく。混戦状態にある中での範囲術の行使は、同士討ちのリスクを加味せねばならない。だがシラスの放ったそれは、敵のみを

穿つもの。致命傷を受け、立ち上がろうとした影の兵はしかし、起き上がり半ばの姿勢で硬直し、次の瞬間には崩れ落ちていた。
「成程、影を相手にするのは慣れている……ということですか。強いことも素晴らしい」
 聖職者は笑みを張り付けたまま、刃林狼に手元の動きで指示を飛ばす。意を得たりとひと吠えした獣に応じるように、影の兵、そしてイレギュラーズの頭上へと刃の影が降り注いだ。
「仲間ごと仕留めにかかるか。使い捨ての道具そのものだな」
「手の込んだ攻撃ですが、この程度ならまだ耐えられます」
 ジョージは兵の扱いの雑さにやや嫌悪感を覚えたが、命なき雑兵の使い捨てとしてこの上ない手段だと理解する。ワールドイーターの攻勢を警戒したグリーフもまた、その攻勢の厄介さを理解

したうえで問題なしと判断した。
「あれ……カグツチ、大丈夫?」
「神々廻に夢弦、二人ともまだ戦えるね?」
 寧ろ、焔やヴェルグリーズは得物との絆が食い散らされていないかを咄嗟に確認し、彼我の双方に変化がないことを理解し胸をなで下ろした。
「サイズさん、今のうちに!」
「刀神を喰われても、逃げられても負けとは面倒な……」
 鏡禍はサイズと組んで刃林狼の懐に飛び込むと、近くに湧き出た影の兵ごと切り刻む。サイズは殊更に、敵に『我を見よ』と言わんばかりの動きで暴れまわり、じわじわとその体力を削ってい

く。
 だが、足止めは出来ても撃滅するには遠く、敵の攻勢も激しいもの。爪牙をすり抜け、仲間から引き剥がし倒し切るには少なくない努力を必要とするのである。
「その程度の傷で倒れるようにはできていないでしょう。立ち上がりなさい」
 さらに言えば、聖職者の治癒が飛んでくるのだからたまらない。この状況が続けばイレギュラーズに勝ちの目は薄いところだが……。
「このままじゃ僕達では抑えきれません、早く助けを! ……なんて」
 鏡禍の焦りを伴う声は、敵の喜色を深めたことだろう。だが、その言葉の裏にはじっくりと練り上げられた準備があることは獣の身では推し量れまい。
 襲い掛かったのはシラスの高速打撃。距離をとって打込まれた連撃は、前後の二人に意識を割いたその身に正確に叩き込まれる。反撃とばかりに振るわれた刃森が都合よく受け流された状況は

、果たしてどれほどの驚きがあったことか。
「疑似聖剣抜刀……断罪の鎖剣よ、不正義共を拘束せよ」
「っと、危ない危ない。油断も隙もありませんね」
 聖職者の隙を突くように、マルコキアスの一撃が迸る。鼻先を掠めたそれに笑みを深めた聖職者は、しかし続けざまに飛び込んでくる攻勢に色を喪いかけた。
「お前はどっちだ? 死人の模造品か、この騒ぎの仕掛け人か。正義を騙るなら、天義の人間なのは間違いなさそうだな」
「私を『あれ』等と一緒にされるのは不愉快ですね。然し、ひい、ふう、みい、四人ですか。私のようないち個人に其処まで手を割きますか?」
「俺達は外見で甘く見る気はない、それだけの話だ」
 ジョージの追撃、それに合わせた問いにとぼけたような答えを返す姿は、手練れ四人に囲まれた者とは思えない。が、その気配や実力から魔種や肉腫の気配は感じ取れない。
 再び治癒術を練り上げようと構えた彼は、術式を唐突に打ち切り、腰に吊ったメイスで焔に打ち掛かる。正面からメイスをカグツチで受け止め、焔は勝利を確信した。
「これ以上好きに回復をさせるわけにはいかないよ! 覚悟してよね!」
「覚悟を決める前に、言い残してくれると助かるな。キミも他の依頼と同じように聖女様とやらの下で動いているのかな、そして行軍の目的は何なのかな?」
「覚悟を……決めたなら、猶更口にはしないでしょう。何れ手遅れになる頃に、あなた達は気付くはずだ」
「……情報を……吐けば楽になれるぞ?」
「楽、などという堕落な考えで聖務が果たせると? 見くびらないで頂きたいッ!」
 ヴェルグリーズは過去の依頼の情報から、彼もまた何者かの手引きで動いていることを知っていた。最後にひとつくらい情報を吐くかと思ったが、思いのほか口が堅い。
 影の兵を引きつけ、刀神とともに撃退に回っていたグリーフは、続くマルコキアスとの対話を聞いていたが、『狂人』以上の異常性が皆無なことに却って驚かされた。そう、狂人だ。肉体のリ

ミッターが少し外れた程度、実力はローレット中位かやや上の治癒術師。それ以上の評価をしえぬ相手が、笑みを絶やさず戦っている。その狂気。
 彼が命を落とすのにそう時間はかからなかったが、首輪を繋ぐ主を喪ったワールドイーターは、より凶悪に暴れまわるべく身を撓めた。


「狙ってくると思った。俺の武器は俺そのものみたいなモンだ。簡単に引きはがされるなんて」
 思うなよ、とサイズの言葉が続くより早く、手にした鎌は光を飲み込む程の黒に染まり、手から取り落しかねぬ重みを伴ったことが理解できた。次いで吐き出された咆哮はサイズとその背後数

名を巻き込み、付与術式ごと戦意を砕きにかかる。暗転する視界を拒絶し踏ん張ったサイズは、今の一合で『喰われた』と理解した。飲み込まれれば内側から食い破ろう。その策はユニークだ。

だがこの場にはそぐわなかった、というだけだ。
「武器を飲み込ませて反撃する、という手段は得策ではなさそうですね」
「何だって?」
「刃林狼の体内の武器の『意思』を確認しました。意思そのものはありますが、姿かたちや能力を見失いつつあるので、長居させるには危険すぎます」
 グリーフは敵体内の武器、その奪われた部位に働きかけることで武器の残存を確認した。残っていればよし、喪われたのなら軽率に武器を差し出せ、とは言えぬからだ。結果としては黒に近い

グレー、という感じだ。
「他人様の力を奪ったくらいで自慢気になってるのは感心しねえな。それで……強くなれたかよ?」
 シラスの言葉に刃林狼は反応を返さない。指先に滲んだ黒を見た彼が、些かの動揺も見せぬからだ。どころか、余裕すらも感じられる。
「自分自身を奪われるって経験はなかなか斬新ですね。でも、コピーしただけなら真価は発揮できないはず……!」
「それを差し引いても不愉快だ。不正義に過ぎる!」
 鏡禍とマルコキアスも各々の武器(あるいは能力)の精髄を喰らわれ、模倣された。こころなしか敵の身のこなしが軽くなったのもその影響だろう。だが、手にした得物はなにひとつ変わらな

い。彼我の実力差が少し開いた程度、彼らの決意と実力のほどで如何様にも出来るのだ。
「大丈夫、この世界に来る前からずっと一緒だったボク達なら負けない! 行こう! 力を貸して!」
 焔はカグツチにそう語りかけ、刃林狼目掛けて渾身の一撃を叩き込む。先ほどまで戦場を泥沼に変えていた聖職者はもう虫の息、イレギュラーズ達は未だ体力気力ともに十二分のものがある。
「かの強欲のように底無しなら、この拳を腹一杯喰らわせてやろう!」
「すまないね神々廻に夢弦、二人とも少しだけ辛抱してくれるかな。せいぜい、あと少し殴れば終わるよ」
 絆を喰われ、模倣された不快感は底知れぬもの。
 使い込まれたグローブの感触を再確認し、ジョージは繰り返し敵の腹部にこぶしを打ち付ける。ヴェルグリーズは二振りの獲物を手に一気に攻め立てる。
 もはや、一同の猛攻を止める手立ては刃林狼には残されていない。
 ややあって、炸裂したそれの体内から吐き出された白光は、それぞれの持ち主のもとへと向かっていく。刀神の武器たちもまた、元の輝きを取り戻そうとしていた。
「刀神さん、貴方はとても、彼らを大事にされていたんですね。素敵ですね」
「略奪品のわりに丁寧に扱ってたってことですよね………?」
 武器を回収する刀神の背に、グリーフは敬意を含んだ問いを向けた。「うむ」とだけ返す彼を怪訝な目で見た鏡禍の言葉は尤もで、刀神は少し手を止め、暫く考えてから応じた。
「儂が橋に陣取ってこれらを奪ったのは事実よ。だが、奪ったからには使い熟さねばならん。持ち手以上にな。鋳溶かされたり質に入れられては、奪われた者等が恥をかくだけであろう。奪われ

たなりに、『強い儂に有意に使われたなら仕方なし』と思えねばな」
「それが絆っていうんだと思うよ。これからも大事にしてほしいね」
 ヴェルグリーズは刀神の持論を聞き終えると、満足げに頷いた。経緯はどうあれ、武器にとっては今が最良の環境なのではないか……と。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

ツリー・ロド(p3p000319)[重傷]
ロストプライド
マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)[重傷]

あとがき

 おまたせして申し訳有りません。無事成功となります。
 展開に関してはご期待に添えるような派手なものはありませんでしたが、無難に堅実な内容で落ち着いたと思います。
 心情じゃないけど心理の深いところを聞けるようなギミック、悪くないですね。

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