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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>来たる冬を見据え、怒れる残滓を越える日<貪る蛇とフォークロア>

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 城塞都市群『クラスノグラード』――そこはヴィーザル地方に面する地域の一つであり、ローレットや鉄帝軍の手で激闘が繰り広げられた地域である。
 今から数ヶ月ほど前、ノーザンキングス系の傭兵達が組織化して傭兵連盟『ニーズヘッグ』と名乗りクラスノグラードやその周辺を席巻した。
 それをローレットは激闘の末に傭兵連盟のトップであった魔種『ヴァルデマール』を討ち取ることで奪還した。
 更にはその影で先史文明時代に存在した魔獣『ニーズヘッグ』の存在を知ったローレットは鉄帝軍と共にこの魔獣をも討ち果たした。
 襲来した傭兵達との戦争を片付け、先史時代に封印することしかできなかった魔獣を討伐したクラスノグラードはようやく穏やかな日常を取り戻す――はずだった。
 けれど、クラスノグラードに住まう人々は今、再び脅威への対処を巡らせていた。
 そう、ヴェルス帝を破って帝位に即いた新帝・バルナバスが発布した彼の勅令、『総軍鏖殺の令』である。
 正確に言うのなら、それによって脈動するノーザンキングス連合王国が目論んでいるという、大規模攻勢である。
 クラスノグラード地方の一角、凍てつく木々と雪原の合間に高い塀で囲われた集落がある。
 名を『ユージヌイ』というその集落は傭兵連盟により支配されたのち、ローレットにその支配から救い出され、2つのニーズヘッグとの戦いにも手を貸した町である。

「ひっひっ、まさか会長の方から来て下さるとは」
 受け取る者によっては不気味な印象を受ける引き攣った笑みをこぼす小太りな青年――ダヴィット。
「商会長として商会員の身柄を守るのは当然の義務だろう?」
 ダヴィットにラダ・ジグリ(p3p000271)は自然と言葉を返す。
「ひっひっ、そのように言ってくださると我々としても安心して取り組めますね」
「ノーザンキングスの攻撃が予測されてるって聞いて、この町の事が気になって来てみたの。
 この町の様子はどうなの?」
 レイリー=シュタイン(p3p007270)が問えば。
「そうですね……今のところ、商会の方は何の支障もありません。
 ただ……お2人も此処に来るとき、少し感じませんでした?」
「たしかに、この町なんだか物々しいわね」
 レイリーが言えばダヴィットがこくりと頷く。
「実は、今後の事をめぐってこの町とベロゴルスクの間で会合が開かれるが持たれるって話です」
「ベロゴルスクって、あの戦いでローレットや鉄帝軍と一緒に戦ったもう1つの町の?」
「なんでも冬越えを控えてる今、ノーザンキングスの攻勢も噂されるってなると、
 あの時に共同した2つの町が手を組んだ方がいいって話でして」
「なるほど、そういうわけね」
 レイリーが頷けば、ダヴィットがラダとレイリーに視線を巡らせる。
「それから、会長。商会の事で相談がある」
「……どうした?」
 商人の仮面を潜め、真剣な顔で言うダヴィットにラダは首を傾げれば。
「この会合が終わったら、商会でユージヌイとベロゴルスクの冬越え用物資を流通する形になると思う。
 準備しておいたほうが良い」
「……分かった」
 商人として、将来の展望を述べた青年は、直ぐに人のよさそうな笑みで頷いた。

「マリー!」
 リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)はユージヌイの中で見知った顔を見つけて手を振って近づいていく。
「リュカシス! どうしてここに?」
「ノーザンキングスが大攻勢に出るっていう話があるデショ? 気になって来てみたんだ!」
「あぁ、そういう事だったのか。
 ……そうだ、ちょうどいいし、リュカシスにもお願いできないか?」
「なにを?」
「実は、この町を出てクラスノグラードでユージヌイとベロゴルスクの連中の話し合いがあるんだが、
 俺達はその時にユージヌイ側の防衛隊を務めることになったんだ」
「それのお手伝いってことダネ! おっけー!」
「助かる。でも、それよりもお願いしたことがある。
 実はクラスノグラードの近郊に今まで見たことのない魔獣が多数出てるらしい。
 他の鉄帝領で良く見るようになった天衝種だったか? ああいう奴らみたいだ」
「天衝種……こんなところまで?」
「あぁ、どうにもそうみたいだ」
 静かに頷いたマリウスの発言に驚きつつもリュカシスは頷いて見せる。


「良いんじゃない? これからの事を考えれば、手を組むのは妥当でしょ。
 それで、その話が私たちに頼みたいって話にどう繋がるのかしら」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の問いに、獣種の男はくしゃくしゃと冬毛を撫でつける。
 たしか、ディートリントとか言ったか。この町の警備隊長で、義勇軍のリーダーだ。
「俺ら義勇軍はその会合でベロゴルスク側の護衛になるんだけどよ。
 ……なんでも、クラスノグラード近郊に見たことのねえ魔獣ってのが姿を見せてるらしい。
 頭が2つあるデカい狼とか、炎で出来た人間とか、やたらデカい熊とか」
「……それってもしかして天衝種でして?」
 ディートリントの話にルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は何となく覚えのある新種の魔物を口に出す。
 バルナバスの出現と同時に姿を見せた、憤怒の魔物である。
「そういう名前なのか? その辺は知らなかったけどさ。
 得体のしれないその魔獣の方をあんたらに何とかしてほしいってのは確かにあるんだ。
 けどさ、シスター。実は、もう1つ……いやな予感がしてる」
「難しい顔をしてどうしたんだ?」
 イズマ・トーティス(p3p009471)の言葉にディートリントは小さくため息を吐いた。
「あんたらが倒したあの連中……傭兵連盟って言ったか?
 あいつらの残党のごく一部を糾合してる奴がいるらしいんだ」
 そういうと、ディートリントは真剣な瞳を3人に向けて続きを話し始めた。

 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は医術士見習いの子達のところに訪れていた。
「治安の方はどうですか?」
「今のところは問題ないですよ。
 ただ少しだけ物々しい感じがしてて……」
 ココロの問いかけに医術士見習いの子達の1人がそう答えた。
 たしか、ダリヤとか言っていたか。この子達の中でも一番熱心にココロの話を聞いてくれている子だ。
「ココロさん。『亡者』って知ってますか?
 私も、あの戦いの後に親しくなったある義勇兵の人から聞いた話なんですけど……
 その人が傭兵連盟の残党を集めて何か企んでるらしいんです。
 もしもその人が今回の会合を邪魔したら……」
「そうなると、ユージヌイとこの町の関係が悪くなってしまうかもしれませんね」
「……私達の仕事は、命を繋ぐことですよね。だから、お手伝いをお願いできませんか。
 亡者の目論見が達成されたら、沢山の人が死ぬかもしれないんです」

「ひとまずは大丈夫みたいで良かった! なにかお手伝いできることあるかな?」
 リリー・シャルラハ (p3p000955)は獣種の住民たちに問いかける。
「今のところは特にないけど……あっ、そうだ!
 今度の会合の時にローレットの人たちにお願いがあるの」
「出来る事ならなんでもするよ!」
「クラスノグラードの町で、私達を護ってくれない?
 私の子は義勇兵にいるんだけど、あの子、何か起こりそうで怖いって言っててね」
 少しばかり考えて、住民が言えば、リリーはこくりと頷いた。

「……霊魂が騒がしい」
 リースヒース(p3p009207)は墓地の中でぽつりと呟いた。
「何か、良くないモノが近づいている……と?」
 目を閉じる。霊魂たちは酷く騒がしい。
 何を思ってそれだけ騒いでいるのかまでは分からないが。
「……気にしておいた方が良いだろうか」
 閉じていた瞳を開いて、リースヒースは空を見上げた。


 深き闇に包まれた森の中、幾つもの影がある。
「本当に彼らの和を乱せると思っておいでですか?」
 そう言ったのは人間種の女だ。
 傍らの木にクレイモアを預ける姿を見るに、ハイエスタの系統であろうか。
「オレらもやられっぱなしは気に食わないが、オマエを言う通りに上手く行くもんかね」
 そう言ったのは獣種の男だ。
 黒豹の肌は暗がりに溶けるかのようで、瞳だけが輝いて見える。
「僕の事は『亡者』とお呼びください。そう言ったはずです。
 ですが……ふ、大丈夫ですよ。彼らの和を乱すのは充分。
 その上、会場にて僕がどちらかに手傷を負わせばいい。
 そうなればきっと――貴方達の言う通り、ユージヌイとベロゴルスクは仲違いを起こす。
 いえ、互いを信じられなくなるというべきですね」
 『亡者』――とそう名乗ったのは細身の体躯をした人間種の男だ。
 ハイエスタ系を思わせる衣装だが、その瞳の輝きは利を追求する傭兵のそれ。
「獣種の貴方……たしか、ナルヴィクさん。
 貴方達はベロゴルスクの住人を装い、今からクラスノグラードに入るのです。
 バルバラさん、貴方は――」
「分かってます。ユージヌイの者と偽るのでしょう……」
「ふ。そうです。ご承知いただけているようであれば構いません。
 私も同様、密かに潜り込みますので――また後程。当日にお会いしましょう」
 亡者は笑い、その名の通り亡霊の如くどこかへを消えた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 <貪る蛇とフォークロア>で頂いたAAを交えつつ、エピローグを兼ねたお話となります。
 <貪る蛇とフォークロア>をローレットと共に戦い抜いた町の様子を見に行きましょう。

●オーダー
【1】クラスノグラードで行なわれる会合を成功させる。
【2】クラスノグラード近郊の魔獣を討伐する
【3】『亡者』の無力化(生死などは問いません)

●フィールドデータ
【A】クラスノグラード
 鉄帝国北東部、ヴィーザル地方に面した城塞都市です。
 赤い城壁に囲まれ、秩序だった煉瓦造りの建築物が並ぶ都市です。
 城門の修築も終わり、往時の姿を取り戻しています。
 会合の舞台となるのは町の行政を司る建物の会議室です。

 町の中では元々クラスノグラードに暮らしていた人々が普通に生活しているほか、
 ベロゴルスク、ユージヌイから訪れた人々が観光などを楽しんでいます。

※会合について
 今後の対策、主に『ベロゴルスク・ユージヌイのクラスノグラードへの避難及び移住計画』
 『その際に住む場所』などの話し合いが持たれます。
 何もなければそのまま成功で落ち着くはずです……が。
 互いの町長が殺されたり、町の中にいる人々の間で死傷者が出るとそうも言っていられなくなります。

【B】クラスノグラード郊外
 城塞の外です。美しい雪原や森林が存在しています。
 リプレイ開始後、会合の話を聞いていたかのように数多の天衝種が姿を見せます。
 城門を破壊されたり、城壁を乗り越えられれば人々に被害が出てしまうでしょう。

●エネミーデータ
【A】クラスノグラード
・『亡者』
 謎の人物です。同行は不明ですが、傭兵連盟の残党を糾合した人物のようです。
 会合の失敗を目論んでいるようです。ほぼ確実に町の中に姿を見せるでしょう。
 『亡者』の名からアサシン系の人物と推察されます。

・『亡霊』×5
 『亡者』と行動を共にする影のような傭兵達です。

・傭兵連盟残党×15
 クラスノグラードへと潜入しているであろう傭兵連盟の残党です。
 ハイエスタ系を思わせる者達が10人、シルヴァンス系を思わせる者達が5人潜んでいるような気がします。
 ハイエスタ系の者達のうち、5人ほどはどことなく傭兵を思わせます。
 彼らはハイエスタ系の残党はベロゴロスク(獣種)を、シルヴァンス系の残党はユージヌイ(人間種)を優先的に狙います。

【B】クラスノグラード郊外
・ヘイトスネーク×???
 炎で出来た3mクラスの蛇型魔獣であり、『魔獣ニーズヘッグ』の逆恨みに近い怒りの残滓です。
 イレギュラーズ陣営へ向け、その憎悪を籠めて攻撃してきます。

 突撃や尻尾での薙ぎ払い、火炎放射などを行います。
 その全ての攻撃は【火炎】系列のBSをもたらします。

・グルゥイグダロス×??
 巨大な双頭の狼を思わせる魔獣です。
 何故か尻尾が蛇になっており、噛まれると【麻痺】【致死毒】【火炎】のBSを受ける可能性があります。
 俊敏にして獰猛。その爪や牙には【出血】系列を与える効果を持ちます。

・ヘァズ・フィラン×??
 3mクラスの巨大な鳥です。
 飛ぶ力を持ちませんが、その眼には【足止め】系列、【呪縛】【呪い】【呪殺】の効果を持ちます。
 また、巨体の突撃や嘴による連続攻撃も油断なりません。

・ギルバディア×??
 巨大な熊型を思わせる魔獣です。
 その凄まじい突進は直線上を貫通します。
 その衝撃は【痺れ】系列、【乱れ】系列のBSを引き起こし、【ブレイク】【飛】などの効力を発揮するでしょう。
 また、口から毒液を吐き出す効果を持ち、
 【毒】系列、【火炎】系列、【麻痺】などを引き起こす可能性があります。


 エネミーの数は蛇>狼>鳥>熊の比率となり、数が少ないほど個体の強さは上昇します。

●特殊ルール
・小隊兵×10
 皆さんは自分の領地ないし鉄帝軍、
 これまでのフォークロアシリーズで関係を結んだベロゴルスク、
 ユージヌイなどの町から10人の兵を部下として率いることも可能です。

 この場合、特別な明記の無い限り、兵士の性質は皆さんと同系統となります。
 皆さんはプレイングにて兵士をどう導くかを記してください。
 例えば自身は前衛に立ってその活躍で奮い立たせるも良し、
 自らは支援に回って落ち着いて兵士を導くもよし、
 アイドル風に歌って踊って鼓舞するもよし。
 その他諸々、ご自身らしい指揮をお取りください。

●用語解説
・『城塞都市』クラスノグラード
 赤い城壁が特徴的な鉄帝の城塞都市。
 傭兵連盟『ニーズヘッグ』とイレギュラーズによる会戦の後、鉄帝に再び組み込まれました。
 今回は下記ユージヌイ、ベロゴルスク側からの提案で鉄帝に付く代わりに身を守るための避難所として開放される予定です。

・傭兵連盟『ニーズヘッグ』
 魔種・ヴァルデマール率いる傭兵達が一部のシルヴァンス系、ハイエスタ系を纏めて組織したノーザンキングス系勢力でした。
 現在はイレギュラーズの手により首魁の他、幹部の戦死により瓦解し消滅しています。

・魔獣『ニーズヘッグ』
 先史古代文明の遺産ともいうべき魔獣です。
 怒りや嘆きを喰らい成長する性質を持ち、先史時代にある国で神と崇められていました。
 イレギュラーズの手により打ち倒され、その血肉は殆どが戦勝の宴で処理され、大地に還りました。

・ユージヌイ
 クラスノグラード近郊に存在するハイエスタ系の人々が住まう集落です。
 木々の間に高い塀で囲まれてひっそり存在します。
 かつて傭兵連盟により占領された後、イレギュラーズにより解放されました。

・ベロゴルスク
 クラスノグラード近郊に存在するシルヴァンス系の人々が住まう集落です。
 溶けることのない針葉樹林の間にひっそりと存在します。
 かつて傭兵連盟により占領された後、イレギュラーズにより解放されました。

●特設ページ
https://rev1.reversion.jp/page/folklore

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <総軍鏖殺>来たる冬を見据え、怒れる残滓を越える日<貪る蛇とフォークロア>完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月07日 23時40分
  • 参加人数20/20人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ

●生まれ落ちた日
 胸の奥で燻っていたのは強烈な飢餓感と、焦燥感。
『僕は何者なのか』『どうして生まれ落ちたのか』『ここはどこなのか』
 ――何も分からず、僕は『その日』お山の麓に生まれ落ちたのだ。
「――こ、こ、は」
「――おい、お前さん」
 僕は顔を上げる。
 呼び掛けてきたのは、1人の男。
 後から聞いてみたら、彼は傭兵なんだといい自らを『亡霊』と嘲笑った。
「――何者だ、お前さん」
「僕は――僕の、名前は」
 思い出そうとして気づく。僕に名前なんてないのだと。
「……その赤い蛇みたいな眼、ニーズヘッグみたいだな」
「にーず、へっぐ……?」
 そう冗談めかして笑う男に、僕は首を傾げる。
 聞き覚えの無い――けれど何か懐かしい。そんな単語だった。

●クラスノグラード会談Ⅰ
 会談の舞台となる場所は役所の中でも一番大きな会議室であった。
 会場の入り口には受付が設けられている。
「今の鉄帝国はどこも危険だから警備してるんだ。会合の成功を祈ってるよ」
「なるほど、そういうことでしたか。ありがとうございます」
 参加者へ『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は声をかけて行く。
 今のところ、彼らの中に参加者名簿に記されてない人物はいないようだ。
(……自立し、良い関係を築くのを邪魔はさせない)
 その双眸を入場者に向け、その立ち振る舞いから実力を大まかに観察していく。
「失礼。申し訳ないが少し検めても?」
 役所の入り口を回っていた『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はある男を呼び止めた。
「えっ、ええ、構いませんよ」
 獣種であろうか。男性はそう頷くと立ち止まってくれる。
「……職業を聞いてもいいだろうか?」
「普段は猟師をしてますが……」
 不思議そうに首を傾げる男性の荷物を確認してから、道を開ける。
「すまない。問題ない」
「いえ、こちらこそ?」
 鋭敏なる嗅覚が血の臭いを捉えたために呼び止めたものの、職業を聞けば納得だった。
(……しかし、件の『亡者』か)
 ベロゴルスクとユージヌイにまでその存在の噂が流れていただけあり、その人物の情報は他の町でも時折耳にすることが出来ていた。
(人間、だとは思うが……共通認識は『一見すると穏やかな細身の青年』、『外見では人間種』のみ。
 他は点でバラバラで信用できないな……)
「ルシアがいる内はお茶とお菓子はこっちで提供するのでして!」
 会場にて準備を手伝う体でお貸しを配っているのは『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)である。
 ギフトを駆使したお菓子と紅茶の提供は人々の心を掴んでいた。
「ん~美味しいのでして~」
 毒見代わりに自分が食べてみれば、会場の人々も続けて食べてくれる。
「本当に美味しい……」
「素晴らしい。ありがたい、少しばかり緊張がほぐれるよ」
 参加者たちの表情がほころびを見せる。
 それに頷きながらも、ルシアは内心で警戒を隠さない。
(今のところ、印無しの人はいないのですよ……)
 会合の参加者にはルシアの提案により事前に印章を渡している。
 そうやって持ってない人を割り出そうという策だ。
 現時点では持ってない人もいなければ、手渡した人との顔も一致している。

●クラスノグラード会談Ⅱ
 背中に会場を背負うようにして、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は立っている。
「ユージヌイの人達も自分達で前に進もうとしている。
 ベロゴルスクと共に協力して乗り越えようとしているんだ。
 絶対に邪魔はさせないわよ!」
 意気込むレイリーは領地から騎兵隊を連れてきていた。
「皆、周辺の巡回をよろしく」
「行ってまいります!」
 レイリーの命令に頷いた兵士達が立ち去るのを待って、レイリーは情報を整理し始める。
 クラスノグラードは神話の頃に魔獣ニーズヘッグとの戦闘が行われた場所であり、城塞であり陣地でもあった場所だという。
(入り組んだ路地が多いけど、『ここ』に至る道は最終的に一本になる)
 それはきっと、ここがまだ最前線、陣地出会った頃、ここが本陣だったからだろう。
(なら敵は確実にここに来るしかない、はず)
 整理しなおした情報を元に、レイリーは深呼吸する。
「皆には地上の警備をお願いしたいかなっ!」
 集まってきた10人の兵士達へ『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)が言えば、彼らは頷いてくれる。
「隊長はどうするんです?」
「リリーは……」
 隊員の1人からの疑問に、リリーは空を見上げた。
 首を傾げる隊員が続いて空を見上げ、目を見開く。
「リョクの背中に乗って空から見てみるよ」
「なるほど……分かりました。それでは連絡には……」
「ファミリアーを使うねっ! それじゃあ、あとはよろしく!」
 隊員たちが頷いて散開するのを見てから、降りてきたリョクに跨り、空へ。
 大空へ舞い上がり、城塞を俯瞰できるほどの位置を取り、顔を上げてみる。
 城塞の外、迫る魔獣を蹴散らしている面々の姿が見えた。
「流石にまだ動いてないかな……それじゃあ、リョク、よろしくねっ」
 ザッと見渡してみてリョクの背中を撫でてやると、小さな唸り声をあげたリョクが羽ばたいた。
「そういえば貴方のダチの奥さん、夏頃には結構お腹大きかったけどもう大丈夫なの?」
「ええ、おかげさまで。もう少しで産まれるとかなんとか」
 隊員へと雑談がてら話しかける『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は隊員の様子をざっと確かめる。
「それならよかったわ。町の様子も良さそうね……それじゃ、ここからはお話と行きましょう」
 そういうと、切り替えるようにイーリンは今回の作戦を提示する。
 やがて頷きあった隊員たちがそれぞれ散開していく。
(……彼らの旅路を守る、それ以上に名誉なんてないわ)
 その背中を見ながら、感傷に浸りそうになりながら立ち上がった。
「お師匠様? なにこの優秀な弟子を待たずに行こうとしてるんですか?」
 イーリンに声をかけたのは『愛を知りたい』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)である。
 準備万端といった様子を見せるココロにイーリンが何とも言えぬ表情を浮かべた。
「さ、行くわよ? 待ちの体制で襲撃を乗り越えられないでしょう」
「あ、いや、待って! 置いてかないで~!」
「ココロさん……? 大丈夫ですか……?」
 追おうとしたところで、不意に声をかけられて思わず立ち止まる。
「んっ、んんっ……あ……うん。行きましょう、ダリヤさん。
 多くの人の命をこのようにつなぎとめるために」
 気持ちを切り替えてから振り返りいうと、驚いた様子を見せる少女――ダリヤ。
「……はい! 頑張りましょう!」
 雰囲気の違いに驚いた様子を見せていた彼女は、切り替えたように頷いてくれる。
「ハイ獣種兵の彼女、会合が終わったら僕とお茶でもどう? 僕、獣種好きなんだよね、ふかふかの耳とか?」
 さらっとナンパをかける『帝国軽騎兵隊客員軍医将校』ヨハン=レーム(p3p001117)はそんなことを言いつつ、小隊員である彼女に耳元に顔を寄せる。
「なんて冗談はさておき。ここからは真面目にいくぜ、よく聞いておいてな。
 町長が死ねばそりゃ大パニックになるわけだが、そう素早く事を起こせるものか」
 そのままこっそりとヨハンは作戦を語り始めた。
「ふかふかの耳の彼女も魅力的だけど?
 本命はキミたち獣種の反応速度だ。まずキミたちに不意打ちは通用しないと頼りにしている。
 不審な物事が起きた所にすっ飛んでいってくれ、それだけで良い」
「それだけで?」
「もちろん。戦闘のカバーは僕がなんとかする。
 事が長引けば敵側が芋づる式に引き出されるぜ。
 仲間を見捨てる判断をすればするだけ不利になるからな」
「なるほど……」
 驚いた様子を見せつつも、隊員たちが頷く。
「目に見えてわかるモンスターが相手じゃないのが厄介だけど、気を引き締めていこう」
 そう発破をかければ、ヨハンは動き出した。
「復興も進んでにぎやかーな感じ……だけど暗躍する誰かがいるんだよね?
 会合をできなくするためだけに町の人に手を出すなんて許さないよ」
 来る道中の町の様子を思い出して『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は思わず小声で呟いていた。
(ちょっと時間かかるかもだけど、この調子でさがしていけばわかるはず!)
 気配を押し殺して進むリュコスは、周囲を行きながらその都度エネミースキャンを試みていた。
 流石に数が多く、目を回しつつあったものの、今のところ悪くはない。
(……あのひと、つよい)
 リュコスは不意にぴたりと息を殺す。
 視線の先には獣種の男。2人組で歩く姿は町の観光を思わせるが、スキャンした情報はただの観光客とは言えない。
(……おってみよう)
 リュコスが動き出すと、それを守ろうとするかのように小隊員達も動き出す。
「まぁ、確かに俺ァこの件に関しちゃ新参者だし、特別肩入れする理由もねぇが。
 状況からノーザンキングスに組しちまったノルダインのアホが知り合いにいてな。
 それに会場の警備にも知り合いが名乗り出てるらしいじゃねぇか」
 小隊員の獣種からの質問に答えつつ『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は町の中を歩いている。
「まぁ、新参だからこそな、顔も割れてねぇだろ。なら、適当に街ン中冷やかしてようぜ」
「な、なるほど……」
 挑発的に笑って見せれば、驚いた様子でその獣種が頷く。
「それにだ、獣種を狙う連中もいるらしいじゃねぇか。種族スキルで奇襲をうけねぇ俺らを狩ろうっつーんだ、いい度胸じゃねぇか、ナァ?」
 狩人の本能を見せたルナにその獣種もまた、刺激されたように頷いてみせる。
「……シッ」
 不意にルナは口を閉ざす。
(……血の臭い、それも今のは殺しを慣れた奴の……嫌でもあれは)
 ――どちらかというと獣の臭い。
(狩人か猟師って線もあるか?)
 ひとまず視線を外して、ルナは歩みを進めた。

●ひしめく獣達
 冬の色が混じりつつある冷たい風が吹きつけ、晴れ間に差した温かな光が紅い城壁を照らしていた。
 平原にはまだ浅い雪がその色を白に染めている。
 静謐でさえあれば美しき銀世界は、在ってはならぬ存在によって汚されていた。
 どこから姿を見せたのか、引き寄せられるようにクラスノグラードへと迫りくる数えるのも億劫になる数の魔獣ども。
 それは意図をもっているようにも見えるが。
(このまま何事もなく終わってくれれば北辰連合の……
 ひいてはそれに肩入れする鬼楽を通して楽に利権を得られたというのに)
 そう心のうちに漏らすのは『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)である。
 アンニュイに目を伏せる様は流石に美少年である。
(……いや、考えようによってはちょうどいい機会か?)
 そのまま企むような視線が更なる美を生んだ。
「ボクほどではないが合理的で、且つ悍ましい魔性共と契約を結んだ私兵諸君。
 ボクたちのここでの活躍が北辰連合における、ひいては鉄帝における鬼楽の力を示すことになる。
 その力で怪物の首根っこを押さえ込み、そして鮮やかに窮状を救って見せようじゃないか」
 緩やかに自然な調子で美少年は配下へと告げる。
「では、各自散開。友軍を援護しつつ、敵の数や脅威に関する報告を怠らぬように。
 これは連絡が早いことによる対応力を生かすためでもあるが、周囲にボクたちを覚えてもらうためでもある。
 恩は積極的に売っておけ」
 粛々たる者どもが動き出す。
 微笑を刻む美しき少年の行進と、それに続く者共が大量の魔獣たちを絡めとる。
「蛇は執念深いと言いますが会合の邪魔をしに来たかのようなタイミングですね」
 そう呟くのは『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)である。
「毒を使う獣も多くいるようですし……皆さん、頑張りましょう」
「うん、頑張ろう、ジョシュアちゃん!」
「……では、僕達は他の皆さんの支援射撃を」
 気恥ずかしさの拭えぬ『ちゃん』呼びに一瞬言葉を飲みつつも、頷く兵士達と共に視線を巡らせる。
 ジョシュアは標的を定めると、一気に弾丸をぶちまけた。
 無数の弾丸が放物線を描き、ヘイトスネークやグルゥイグダロスへと降り注いでいく。
 兵士達もそれに遅れずとばかりに弾丸をぶちまければ、撃ち抜かれた魔獣たちの身体が蜂の巣を描いていた。
「手負いの獣を逃がしてはいけません。着実にいきましょう」
 次を見定め、ジョシュアは銃口を向けた。
「ふぅん、魔獣ねぇ。
 随分と数が多いようだけれど――上等じゃない。徹底的に叩き潰してあげるわ!」
 戦闘の始まった戦場にて、『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)は苛烈に挑戦の声をあげる。
「さぁ、行くわよ皆! 私に続きなさい!」
 その勢いのままに、啓示の乙女が戦場へ攻め立てる。
「是こそは神を討ち、灰燼となす神滅の魔剣!」
 その手に集めた魔力を燃え盛る炎の魔剣へと形成したままに、燦火は眼前のヘイトスネーク目掛けて振り抜いた。
 自らの精神性、豪放にして堂々としたその在り方を形にしたような魔剣の斬撃は苛烈にヘイトスネークを抉り穿つ。
 近くにいたヘイトスネークたちも又、兵士達の猛攻を受けて削り落とされていく。
「さて、状況を進めて行こう」
 『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は戦線の維持を目的とした小隊編成を行っていた。
「即死しなければなんとか回復できる。信じれなかったら死ぬのは隣のやつかもしれんぞ」
(……ま、私は滅多に即死しないがね)
 発破をかけるように兵士達に告げながら、内心で圧倒的タフネスさを思うメーヴィンは、術式を起動する。
 冬の風を払うような温かな日差しを思わせる術式が仲間達の疲労感を取り除き、圧倒的多数を打ち倒すための策を練り上げていく。
「相手が賢ければその分狙ってくる可能性もあろうが……今回の敵は獣だ。
 よほどのことがなければ問題ない。互いを信じて自分の役割に徹していけ」
 そういうメーヴィンの言葉に応えるように、兵士達の術式が放たれた。
「ニーズヘッグ戦すら臆せず戦い、生き抜いたんだ。
 こんな有象無象の群れ程度、どうってことない! そうだろう!」
 愛剣を高くつき上げ、『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)がそう言えば、兵士達が雄叫びを上げた。
 城門へと迫りくる大量の蛇。
 ヘイトスネークと名付けられたそれらは、小型化した魔獣ニーズヘッグを思わせる。
「どこの世界でも、お前はしぶといな――!」
 死神の大鎌を大きく薙ぎ払えば、構成する魔力が爆ぜて炸裂する。
 苛烈なる一撃を受けたヘイトスネークが1匹、ただそれだけで消し飛んだ。
「私達は死ななきゃ負けない! だから絶対に生きることを諦めるな!」
 叫ぶように言うミーナの背後から、兵士達が縛鎖を放ち、或いは武器を振るって薙ぎ払う。
 数こそ多いが、一撃で屠れるヘイトスネークならば、どうと言う事はない。
「ニーズヘッグを倒してひと安心だったのに、国全体が非常事態になっちゃうんだもの。
 安寧なんてずっとこないのかなって思っちゃうよね」
 背中に感じる人々の願いを背負うように、『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は声に漏らす。
(でもね、縁のある人たちの大事な『いつも通りの暮らし』を守るのは大切だから。
 クラスノグラードは決して堕ちない砦だってこと、
 ベロゴルスク、ユージヌイから身を寄せるみなさんに安心してもらえるように働きを見せなくちゃ)
「みんな、今日はよろしくね!」
 リュカシスがそう言って笑いかければ、それに応じるのは同年代を思わせる少年少女。
 軍馬に跨る彼らは皆、リュカシスの学友たちだ。
「変な事になっちまったけど、ありがとな、リュカシス!
 こんな暴れる舞台を用意してくれて!」
 そう言って笑う男子学生は、バルナバスへの政権交代後の鬱憤を晴らす気満々だ。
 ――そしてそれは彼だけではない。
「じゃあ、いこう!」
『ドスコイ!!』
 大きく啼いたドスコイマンモスに跨るリュカシスを先頭に、騎兵が走り出す。
 大量の蛇のような怪物の只中を突き進めば、マンモスが馬の如く棹立ちになって足を踏み下ろす。
 それだけで戦場を揺らす衝撃を生み、学友たちが流れ込んでいく。
「穏やかになった地にも、再び災厄が来る。安寧の維持は難しいとて、些かこれは早過ぎぬか?
 人であれ獣であれ、悪しきものは、祓わねば。
 逆恨みの残滓ならば、立派に悪霊だ。墓に再びお帰り願おうか」
 漆黒の馬車アバンロラージュに乗り込み、敵を眺めながらそう語るのは『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)である。
「行くぞ。遅れぬように」
 その周囲を固めるのは神官を思わせる装いの騎兵たち。
 リースヒースに頷いた彼らと共に部隊は動き出す。
 黒騎士の如き男が戦場を奔り抜ける。
 黒き騎兵はアバンロラージュの装いもあってさながら死を告げる兵団にも似た畏怖を齎した。
 その存在は、結果として仲間達の足取りを支援し、先鋒を描いて心強い旗頭のように映っていた。
「ふふ、ボクはザーバ派閥に属してはいるけど、
 街を市民を護るという責務においてそんな垣根は関係ないと思っているんだよ?
 キミ達だって思っているはず……護るべきは友や肉親、隣人達だって……」
 鉄帝軍の兵士達へと笑って告げるのは『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)である。
「ということで鉄帝軍人諸君! 心を奮い立たせろ! 撃鉄を起こせ!
 この街を護るのは自分達だと…迫りくる敵性勢力の悉くを鏖殺せよ!
 ……なんてね? 少しは活が入った? じゃあ、征こうか♪」
 元気のいい返答を聞きながら頷いて、アイリスは動き出す。
 はためく宵闇の外套が尾を引くかのように思わせる。
 視線の先には地面を覆う大量の魔獣たち。
 適当に狙ってもどれかにあたるであろう魔獣へ視線を向けながら、霊刀へと手を置いた。
 視点を定め、刹那の一閃。
 鮮やかに振り払われた太刀筋は堕天の輝きを以って純黒の斬撃を払う。
 それに続けて鉄帝軍の兵士達が各々の銃から似たような砲弾をぶっ放していく。
「今まで関わりがなかったが、この地の人々がどれほどこの会合を待ち望んだのかは理解できる。それを邪魔立てするなら容赦するまい」
 魔女帽を思わせるとんがり帽子から敵の群れを見下ろす『不運《ハードラック》超越』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)がそう口にすれば、有志達の声が聞こえる。
「友のために戦い続ける意志が! 人が! 次代を繋ぐのだ! そうだろうお前たち!」
 自らを、同氏を奮い立たせるような鬨の声を共に、マッダラーは戦場へ。
 小隊を他のメンバーと合流させながら、向かってくる魔獣を引き付けて行く。
 近づいてきた魔獣目掛け、マッダラーは旗を掲げた。
 タイミングを見計らってマッダラーは持ち込んでいた携行品を発動する。
 強烈な魔力が一時的にその身を包み込めば、中天に浮かぶは時刻からして見えてはならぬ月明かり。
 終焉を描く濃紫の帳が戦場を包み込む。
 どろりと泥のように溶け落ちるそれは、まるで人々を呑むかのように魔獣たちを狂奔へ誘う。
「随分とまあ、強力な魔獣がうじゃうじゃしていること。
 クラスノグラードでは今頃会合をしているだろうし、取り逃さない様に注意しなきゃねえ。ヒヒ!」
 そう笑う『闇之雲』武器商人(p3p001107)はソレの後ろを行く兵士達との共鳴を繰り返しながら、戦場を歩く。
『グゥルルゥ!!』
 警戒するようにして唸り声をあげるグルゥイグダロスが一斉に飛び掛かってきた。
 その数おおよそ15匹ほど。
 苛烈に食らいつき、引きちぎらんとする獣の猛攻を、涼しい顔で受け止めながら、仲間達の盾となる。
「なに、我々はしぶといのがウリだ。死ぬほど痛い目を見て、相手に死ぬほど痛い目を見せればいい。そうだろう?」
 同意は必要なく、従う兵士達を連れて、ソレが進む。

●そして『亡者』たちは這い上がる
「あの人……」
 空から俯瞰していたリリーは不意に町の一角に視線を向けた。
 そこには人間種の女性が2人。
 片方はクレイモアを。もう片方は丸腰――のように見せて、後ろ腰に魔導書が見える。
 2人は店主と何やら言い争いをしているように見えた。
「お願い」
 ファミリアーの鳥を2人の方へけしかける。
「こんにちはっ」
「おう、挨拶は良いが下がん――なぁ?」
 驚いた様子を見せたクレイモア持ちが辺りを見て首を傾げ、もう片方が何やら耳打つ。
「――ファミリアーか……んなっ!? わ、ワイバーン!?」
 辺りを見渡して、誰もいなかったが故か、視線がリリーを見た。
 女の片方が目を瞠る。彼女の位置からはリョクしか見えまい。
「リリーだよっ、お姉さんたち何してたの?」
「なんだと思う?」
 警戒を露わにする2人のうち、片方が魔導書を開いたかと思えば、術式がリリー目掛けて放たれた。
「他の人にはもう連絡してあるから――逃げた方がいいだと思うよ!」
 言いつつ、リリーは反撃の弾丸を撃ち込んだ。
 走る獣種、その眼前に鉄が姿を見せる。
「――やはり、対策は練られていましたか」
 鉄――いや、それは鉄の塊が如きクレイモアの刃。
 獣種の反射神経が功を奏し、傷は深くない。
「やぁやぁ、美人なお嬢さん。物騒な物を置いて僕とデートしない?」
 獣種の後ろから追いついてきたヨハンは、立ちふさがるその存在に取りあえず声をかければ。
「ふふふ残念ですが――そうもいきませんね」
「だろうね……ええっと、3人か。あっちにも2人いるけど」
 目配らせして、バルバラの仲間らしい2人を見定め、ヨハンは愛銃を構えた。
「きゃあああああ!!!」
「おや、ばれてしまいました」
 顔を出したらしい市民の悲鳴をまるで意に介さぬ辺り、間違いあるまい。
「名前は?」
「バルバラ」
 ゆらりとクレイモアを構えなおす。
 戦意は明らかだった。
 イーリンは思考を滞らせることなく巡らせている。
(私ならどうするか。考えて、少数で会合に、死人を出すなら最も効率がいい方法を)
 町の地図は頭に入ってる。
 部下の感想、情報、生じうる死角。
 あらゆる情報が、脳内で急速に組み立てられていく。
(張り巡らしたこの網を抜けるには……)
「自分だけが通れる道があれば良い、か」
 小さく呟きが漏れた。
「シスター!」
 部下の声。続けて入ってくるのはどこかでの戦闘音。恐らくは別の小隊だ。
 一歩前に出て、足元が嫌に滑る。
 こけることはないが――それが最後のひとピース。
(マンホール……これだわ!)
「会場に一番近いマンホールはどこ!?」
「な、なんだよ急に。わからねぇけど……」
「恐らく、『亡者』は下水道を通って会場近くのマンホールから一気に会場へ攻め込むつもりよ。
 それぐらいしか、この警戒網を抜ける方法はもうないわ!」
 戦闘音が響き始めたという事は、注意が行く段階だ。
 それが囮であることは、こちらだって読んでいる。
「戻るわよ!」
 義勇兵だって馬鹿じゃない。着いてくるのは分かっていた。
 返事を待つ間もなく、イーリンは動き出す。

 ――戦況が動き出していた。

「だ、だめっ!」
 リュコスの声に合わせて影が飛び出した。
「うおっ!?」
「何もんだあんたら!」
 町の人に難癖をつけて襲い掛かろうとしていた2人に向けて影を飛ばす。
 踊り狂うような狼の影が乱打を叩き込み、受け切った2人が構えを取る。
 その瞬間、リュコスを守るように小隊員達が姿を見せた。
 刹那、獣種達がこちらから逃げるように走り出す。
「ナルヴィクの旦那に知らせねえと! やっぱこりゃあ罠だって!」
「おうよ! 走るぜ、相棒!」
「お、おわなきゃっ」
 走り出した2人を追うように、リュコスも、そして小隊員達も走り出す。
「――あっちだけじゃないの!」
 レイリーは顔を上げた。
 戦闘音は別の場所からも聞こえている。
(――行こう)
 咄嗟の判断、レイリーは愛馬に鞭を入れて走り出した。
 最短ルートを駆け抜けた愛馬と小隊は目立つ姿で現場へと走り込む。
「全部奪っちまえ! こんな馬鹿馬鹿しい作戦まともにしてられっかよ!」
 そう笑いながら宝石店への攻撃を命じているのは黒豹の獣種。
「それ以上は許さないわよ! 
 私の名はレイリー=シュタイン!
 皆の者、ここは私に任せて避難したまえ!」
「はっ、だから言ったじゃねえか。連中のことを甘く見すぎてるってよ」
 レイリーの言葉に振り返り、黒豹が舌打ちする。
「あぁ、よく見りゃあんた、あの日もあの戦場にいたな?
 ヴァルデマールと戦うあの場所に」
「貴方もいたのね。それならわかるでしょう」
「止めてみるか、俺を!」
 にやりと笑う黒豹が飛び掛かってくる。

「陽動が2つ。流石にこれ以上はねぇだろ!」
 ルナは会場に向かって撤退しながら思わず声をあげる。
 速度を更に上げ、最高速度を叩きだす。
「他の連中にその辺の騒ぎは任せりゃぁいい。
 俺達の役目は出来るだけ早く事が起きたことを伝えることだ!」
 駆けに駆ける。
 最後に信じられるのは己が脚力のみ。
 全力を以って走り抜けたその先で、ルナは確かにそいつらを見た。
「――景色に溶けるローブとフード……連中がそうか」
 会場の外、壁面を駆け抜けるそいつらを見て、ルナは直ぐにそれをラダへ伝えるべく速度を上げた。

●『亡者』――あるいは
 会合が始まり、少しばかりの時間が流れていた。
 お互いの町長が互いの状況を整理し、話し合いはスムーズに行われている。
 イズマはそんな会場にて守りに着いていた。

 ――ざりっ

(――なんだ、今の音)
 その音は背中の方から聞こえてくる。
 しかし、そちらには窓しかないはず――
「――危ないっ、伏せて!!」
 隣にいた参加者を庇うように立ち上がった刹那、そこにあった窓が叩き割られ、閃光が瞬く。
「くっ――」
 目を伏せたイズマが顔を上げると同時、激しい音を立てて扉が開いた。
「これ以上の好き勝手は控えてもらおう!」
 襲撃音を聞いて、飛び込んだラダは、そのまま引き金を弾いた。
 放たれた弾丸は『亡者』にも『亡霊』にも当たらぬものの、注意を引くには十分。
 そのまま我に返った要人たちと入れ替わるように前へ。
「――逃がしません」
「『亡者』ってのはアンタか」
 落ち着いた声色の青年の前に立てば、その横を抜けようとする『亡霊』たち。
「うまく終われば商会からの依頼も考える、期待してるぞ」
 それに、傭兵達が答えたのか剣戟の音が鳴る。
「『亡者』『亡霊』、生きている人の名前とは思えませんね」
 続けて姿を見せたココロは入室とほぼ同時に声をあげた。
 答えは銃声だった。
 それはまるで、告げられては困ると言わんばかりに。
 ココロは反撃とばかりにウルバニの剣を振り抜いた。
 十字に開いた輝きが炸裂し、『亡霊』のフードが裂けて傷口が見える。
「やっぱり、貴方達に不殺が効くんだから、生きてるに決まってる!
 なんで死んでいる人の振りをするの? 現にあなた方は生きているじゃないですか!」
「俺達は、死んでるよ。あの日、あの人が死んじまった。
 その時から俺達に居場所はねえ! だからあの人に着いてった。
 でもあの人が死んじまったのなら――もう一遍作るっきゃねえだろ」
 魔術障壁を張り巡らせ、守りに徹したココロが続ければ今度は答えがあった。
 だがそれは『亡者』の答えではなく『亡霊』の答え。
「亡霊だと言うのなら、死人に口は無し。手を取り合って生きようとする者達を邪魔するな」
 速度を跳ね上げ、イズマが剣を閃かせる。
 苛烈に撃ち抜く夜空の剛剣が美しき音色を奏でながら乱撃を紡ぎ、『亡者』と『亡霊』を丸ごと狩るように切り刻んでいく。
 鮮烈の斬撃が『亡者』と『亡霊』たちのローブを削り落とす。
「……貴方達は、傭兵ですね。ヴァルデマールに着いてきた。
 だから帰る道がない。だから、新しく作る――そのためになら、人が死んでも、いいと?」
 身勝手な発想だけれど、きっと彼らも『生きる道』を探しているのだろう。
(……じゃあ、貴方は?)
 その視線が、『亡者』を見た。
 ローブの下から見えるのは余りにも白い肌。
 フードに包まれた表情は、見えない。

●――無垢なる赤子
 ――弱い。あまりにも弱い。
 それがイレギュラーズが『亡者』と会敵してからこちら感じ取ったことだ。
 彼が何者であったとしても、驚くほど弱かった。
「お顔を見せてほしいのですよ!」
 自らへと2種の加護を施したルシアは、『亡者』目掛けて引き金を弾いた。
 炸裂するは魔神の凶弾。絶凍をもって致命傷たらしめる、凍土の魔弾。
 それが殲滅の輝きが真っすぐに『亡者』へと走る。
「くっ――」
 躱そうと試みた『亡者』のフードがはじけ飛び、炸裂した魔神の一手に顔を覆う。
「僕は、僕は、このようなところで――終わるわけには、いかないのに。
 僕の、生まれた意味を――僕はまだ、知らないのに!
 僕は知りたい。僕の生まれた意味を! そのために、必要な事をするんだ!
 だから、邪魔を――しないで!!」
 ぼろフードが吹き飛び、露わになった顔には赤い蛇の目。
 髪も肌も病的なまでに白い。
 イレギュラーズの反撃に傷は増えている。
 手を伸ばした『亡者』がその手から魔術を放つ。
 それをウルバニの剣で弾いて、ココロは目を向けた。
「……貴方は、生まれたばかりなんですね。
 でも、それっていったいどういう意味?」
「答える必要はねえさ! アンタには答える必要はない。
 教えてやるよ! 俺達が――だから聞く耳持つ必要もねえ!」
 ココロの問いかけを邪魔したのは亡霊だ。
「……どうして邪魔をするんですか?」
 ウルバニの剣の切っ先へ魔力を集束させ、振りはなった星の輝きが亡霊を貫く。
「アンタ……その姿……」
 ラダは『亡者』を観察して思わず口を開いた。
「僕を知ってるんですか……?」
「――いや、まさか、な」
 ――どことなく、本当にどことなく『険の取れたニーズヘッグがいたのならこんな風だろう』なと思わせた。
「ちっ、このままじゃあ駄目だな。おい、逃げるぞ『亡者』」
「僕……僕は……」
 動揺を口にする亡者を担ぐようにして、亡霊が入ってきたであろう窓から飛び降りた。
 追撃せんとするイレギュラーズを塞ぐように構える3人の亡霊。
 その眼は『死兵』の類。倒さねば追撃などできまい。

●波濤の如く
「一撫でで腕でも吹き飛びそうな巨体だが、泥人形をなめるなよ、魔獣如きが!」
 マッダラーは戦場の一部にいた。
 ギルバディアの姿を見たマッダラーはその進軍を止めるようにその正面へと姿を見せている。
 咆哮を立てるギルバディアへと望む泥人形を、その牙が食らいつく。
「この程度で――!」
 刹那、その身体が炸裂するように魔力が爆ぜる。
 それはギルバディアの身体を包み込み、夢想へと誘った。
 自らが望んだ悪夢はギルバディアを捉えて蝕んでいく。
「さぁ――そろそろ我々の番だ。存分に暴れるとしよう」
 ローブの下から覗く口元に静かな笑みを刻み、武器商人が告げる。
『ォォォオオオオオオ!!!!』
 巨大なる熊の如き魔物の咆哮が轟き、下手をすればそれだけで痛撃となりえる突撃が繰り出される。
「――ヒヒ」
 痛撃を受け切り、武器商人は笑いながらギルバディアに手を翳す。
 刹那、足元から伸びた黒き刃がギルバディアの心臓を撃ち抜いた。
 合わせ、兵士達が放つ深海の呪いが周囲の魔獣たちを捉え、その色を以って魅了する。
 セレマの部隊は散開しながらも共鳴し合い、情報を伝達していた。
 攻め立てる魔獣の数は減りつつあるが、まだ攻撃は終わらない。
「勝つことは大前提だがボク達の目的はその先だ。
 もっといい暮らしをしたいだろう?
 明日生まれる子によい教育を受けさせたいだろう?
 ならここで誇示し、権益を勝ち取れ。あの獣共よりも貪欲にな」
 迷うような、怯むような者は、いようはずもない。
 そのような真っ当な人間が彼らと契約しようはずもない。
 ただ利己的に、合理的に判断し、最適を述べて伝達する。
 それを受けた各々の正体が、強かに魔獣たちを追い詰めていく。
「一斉掃射します。射線を開けてください」
 そう声をあげたのはジョシュアである。
 落ち着いて気持ちを入れなおしたあと、その銃口が巡る先には3匹の巨大な鳥。
『クルルゥゥオォ!!!!』
 不協和音に近い鳴き声と怪しい双眸を諸共に撃ち抜くように、ジョシュアは引き金を弾いた。
 戦場に爆ぜる弾幕が一気にヘァズ・フィランへと降り注ぐ。
 炸裂の衝撃で舞い散る羽根が戦場に落ちて、ついでとばかりにその周囲にいた多くのヘイトスネークとグルゥイグダロスを巻き込んだ。
「誰の差し金か知らないけれど、余り舐めない事ね。これが北辰連合よ!」
 そう叫ぶようにして、燦火はマナを掌に集めて行く。
「――歓喜の絶叫、憤怒の鉄槌、悲哀の波濤、歓楽の灼熱。
 ――我が内なる衝動こそを力と成す。
 ――塗り潰す色は赫く、其の全てを飲み込み、染め尽くす!」
 熱はやがて光を放ち、陽光を思わせる苛烈な光を帯びた。
「――赫衝波!!」
 放たれた刹那、戦場を赤が塗り潰す。
 苛烈なる衝撃波は燦火の在り方を思わせる真っすぐさを以って直線を描く。
 撃ち抜かれた魔獣たちの遠吠えが燦火の方を向いた。
 メーヴィン率いる小隊の重要性はかなりの物であるといえよう。
 リースヒースや燦火など、支援型の部隊は他にもあれど、無限陣の存在は大きい。
 なにより、メーヴィン自らの予測の通り、獣の群れでしかない敵の攻撃は必ずしもメーヴィン隊に集中しているわけではなかった。
「ま、とはいえこの数。討ち漏らしが出る事も想定済みだ」
 扇を払うように、メーヴィンは薙いだ。
 縛鎖が走り、こちらへと突っ込んでくるヘァズ・フィランを絡めとる。
 巨体を引きずり倒せば、脚を取られた巨鳥の身動きを封じ込める。
 そこへ、雪崩のような攻撃が他の小隊から降り注いだ。
「来たか、大物!」
 雄叫びを上げる大型の熊――ギルバディアを見つけ、ミーナは魔力を高めていく。
「あいつを近寄らせるな! 近づいてきたら私に任せて支援しろ!」
 それだけ言うとミーナは剣を大地へ突き立てる。
 地を這うようにして迸るは鎖。
 縦横無尽に走り抜け、それがギルバディアの身体を縛り付けた。
 それを迎撃と受け取ったらしいギルバディアがミーナへと咆哮を上げて突っ込んでくる。
「ふふ、キミ達鉄帝軍人の矜持の魅せどころだよ? ギア上げて行くよ!」
 広がる戦場、アイリスはそう告げると霊刀の出力を上げながら集中していく。
「咎人よ――」
 居合抜きの要領で打ち出された斬撃が戦場を直線に撃ち抜いた。
 敵の群れに風穴を開ける直線を薙ぐ魔神の息吹を思わす一太刀に続けるように、鉄帝軍人達による砲撃が飛んでいく。
 通った先を幾つもの穴が開く。
「怨嗟の亡霊何するものぞ。我らは今を生き、未来に至るのだ」
 旗を翻すリースヒースの宣誓が戦場に響き渡る。
 黒騎士の宣誓を見入った各地の小隊が奮い立ち、攻め込んでいく。
(……穿った見方ならば、我らは陽動に『引っかかった』側やもしれぬ。
 天衝種の増加を利用して、手薄になったあたりで会合を失敗させるという作戦を人は好みそうだ)
 それは自らも極端だと思うこと。
「だとしても、敵が不和を狙うのなら、我らは友情を以って勝利としよう」
 静かに、数を減らしつつある魔獣の群れを見据えて静かに告げた。


 ―――― ピィィィ ――――


 激しい戦闘の音が鳴り響き、終わりの知れぬ戦場に置いて、それでもなお脳裏に刻まれる不自然な音があった。
 それはどこか、口笛か何かのように聞こえるものだった。
「……退いていくだと?」
 ミーナはギルバディアを切り伏せた所で顔を上げて声を漏らす。
 そう、退いていく。
 波濤の如く断続的に攻め寄せてきた魔獣たちは、同じく波のように静かに退いていく。
 それは明らかに『何か』の意思が無ければおかしな動き。
 同時に何となく理解する。
「……中の奴らが守り抜いたのか」
 敵が撤退する理由など――他にあろうはずもない。
 それは、勝利を意味する音だった。

●戦火は潰えず
「ひとまず、会合自体は成功みたいで良かったよ」
 イズマは『亡者』の撤退後に別室で再開された会合が無事に終わったことでホッと胸を撫でおろしていた。
 ここから先、クラスノグラードとベロゴルスク、ユージヌイを含む周辺集落は鉄帝国――現在の派閥では北辰連合へと組み込まれるだろう。
「……それじゃあ、死者は」
「いない、みたいです」
 ダリヤからの返答にココロはほっと胸を撫でおろした。
「……でも反省点もあります。これからも頑張ろう!」
「はいっ!」
 心が言えば、ダリヤや他の医術士見習いたちが真剣な面持ちで頷いた。
 幸い、死者は出なかった。重傷者も、いなかったらしい。
 でも傷が少しばかり残ってしまいそうな怪我人は出たという。
 だから――もっともっと。
 そう思わずにはいられない。
「『亡者』の正体……知りませんよ」
 ヨハンからの尋問にそう答えるのはバルバラなる女。
「焼きが回りました。まさか捕縛されるとは……えぇ、何でも話しますよ。
 知ってさえいれば」
「つまり君達は体よく利用されたわけだ」
「けっ……」
 そうそっぽを向くのはナルヴィクとかいう男。
「まぁ、実際、オレらが利用されただけってのはその通りなわけだが!」
 そう言ってやけくそに笑っている。
「……『亡者』、『どこかニーズヘッグを思わせるでもニーズヘッグではあるはずのない存在』……」
 だれからともなく、そう呟いていた。
 そう、有り得ないのだ。
 ――ニーズヘッグは死んだ。
 死者は生き返らぬ、絶対の摂理を持つこの世界で、ニーズヘッグがいるはずがないのだ。

成否

成功

MVP

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
クラスノグラード城塞都市群は団結し、北辰連合の勢力下に組み込まれました。

●運営による追記
 本シナリオの結果により、<六天覇道>ポラリス・ユニオン(北辰連合)の求心力が+20されました!

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