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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>モリブデン会談

完了

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オープニング

●fifty-fifty
 ――この世の全てがゲームであるとするならば
 ――交渉とはすなわちカードゲームである
 ――両者の要求を満たしつつ、互いのコストが釣り合うようにカードを出し合うゲームなのだ
 ――これが一対一ならば容易だが、それが複数ずつになれば難しい
 ――≪ジェロッタ・トールマン著「ワールドワイドワイプ」より引用≫

 再開発都市モリブデン。
 かつては九龍城さながらのスラム街であったこの場所は、今では都会的な観光スポットだ。
 新しい建築建築技術と莫大な予算によって建設されたモリブデンスーパーアリーナを中心とした闘技場ビジネスはこの場所が巨大な犠牲のもとにできあがったことを忘れさせる。
「だが、私達が忘れることは永遠にないでしょう。この土地の地下に埋まっていた古代兵器――今では『ギアバジリカ』と呼ばれるあれがこの土地を一度全て更地に変えてしまったこと。そして司教アナスタシアを狂わせたこと。
 結果としてギアバジリカもモリブデンも観光地となり、住民達の生活も改善された。
 それが犠牲のうえに得られた変化だということを……決して忘れません」
 そこは広い公園だった。よく手入れされた芝生の中央に建っているのは一本の石柱であり、そこには多くの名が刻まれている。
 ギアバジリカの内部にも同様の柱が設置され、同じ名が刻まれているのを……一部の者はよく知っていた。そしてそれが、かの事件の犠牲者たちの名であることも。
 男の名はボリスラフ。鉄帝軍の少佐位につき、特殊部隊ブラックハンズのリーダーである。
 『革命派』はイレギュラーズたちの提案のもと、不足する軍事力増強のため、そして主要派閥のどこにも属していない警察・軍人組織の支援のために彼らとの会談の場を設けることとなった。
「この度は場を設けて頂き、ありがとうございます。私はアミナ……クラースナヤ・ズヴェズダーの司教を務めています」
 深々と頭を下げるアミナの後ろで、大司教ヴァルフォロメイはニカッと笑った。
「ま、俺の挨拶は今更だわな。皆、こいつはボリスラフ。元々革命派に協力してた軍人だ。今じゃあちと疎遠になっちまったがな……」
 口ぶりに反して、ヴァルフォロメイがぽんと肩を叩くとボリスラフも彼に笑みを返した。
 二人の間には同じ種類の悲しみと、後悔。そしてそれをくり返したくないという気持ちが結ばれているようだった。
 革命派とボリスラフ……ひいては彼のブラックハンズ隊との関係は既に良好なようだ。
 ボリスラフが振り返ると、そこには大勢が座れるテーブルと椅子があった。野外ということもあって椅子もかなりの数だ。
 最初に『交渉のテーブル』についたのはボリスラフ少佐のほうだった。
「おおまかな話は聞いています。俺たちブラックハンズを革命派に取り込みたい、ということでしたね。リターンはそのための支援……もとい後ろ盾となることですが」
 ボリスラフ少佐はそこで顔をしかめた。
「俺たちは既に軍をほぼ脱退しています。というのも、新皇帝派の将軍が軍を縛っているからです。派閥間の争いはナシとはしているものの、あの場所に私達の居場所はないと判断しました」
「それは……『ブラックハンズだから』ですか?」
 最初に口を開いたのはアミナだった。
 表情をかえずに頷くボリスラフ。
「その通りです。軍による、兵站維持のための略奪や侵略のための内偵などをしてきた歴史がありますから……我々は軍にとって、『表に出したくない人間』の詰め合わせパックです。日の目の当たらない汚れ仕事に回すための肩書きといって良いでしょう」
 ボリスラフがそのリーダーという地位に饐えられたのは、彼が革命派と深い繋がりがあったため。つまりは『後に反転するアナスタシアの仲間だった』という経緯が軍にとって都合が悪かったのだろう。
「我々は『無所属かつ無職だから』という理由でモリブデンの警備を勝手に行うことができました。しかし革命派に属したことで、他派閥……特に新皇帝派のヘイトを買うのは間違いありません。
 我々が貴方がたに求めたいのは、『モリブデンの安全をこれからも守る保証』です。
 既に我々がこの町を守っていますが、もし大きな攻撃を仕掛けられる場合はそれ以上の戦力が必要になるやもしれません。そうなれば、我々が革命派に協力するメリットがない。そもそも協力しなければ危険にさらされませんし、協力したはいいものの革命派に提供できる軍事力がなくなります。お互いにとってよくない話だ。
 皆さんは、それを解決するアイデアや、そのリソースを持っていますか? それを、この場所で話し合いましょう」
 そう、これは交渉のテーブル。
 ここについたからには、互いに対等な対話相手である。
 あなたは椅子に座り、そして――。

GMコメント

※このシナリオは『交渉用ラリーシナリオ』です。
 話が一つ纏まるたびに章が更新されますので、少ない採用人数で小刻みに次章へ進むことがあります。
 主な採用条件については下記を参照してください。

・交渉までの経緯
 イレギュラーズの提案により、警察組織あるいは軍事組織の取り込み交渉を行うことになりました。
 ヴィジョンはイレギュラーズたちが持っているため、交渉の発言権はヴァルフォロメイから委任されるという形でイレギュラーズが持っています。

・プレイングの採用
 この『交渉のテーブル』についたPCは、一度仲間や有識者と話し合った上の内容を発言する扱いになります。
 そのため、プレイング内容が交渉に不向きであったり、主旨を大きく外れていたりした場合はプレイングがあえて採用されず、章切り替え時において返金されます。
 また、【交渉】以外の行動プレイングも可能ですので、以下のパートタグから自分のとりたい行動を選んでください。

・交渉の内容
 交渉相手:ボリスラフ少佐
 こちらからの要求内容:ボリスラフ及びブラックハンズ隊を革命派に取り込む
 相手からの要求内容:革命派に取り込んだ後のモリブデンの防衛手段とリソースの保証 →(※ブラックハンズ隊が革命派に加わらずに残った場合よりも高い防衛内容を提案すること)

※この交渉には革命派ギルドに所属していないPCも交渉人として参加することができます。
 参加にあたって当シナリオの相談掲示板等を使って認識を共有しておくと有効な手を打ちやすくなるでしょう。

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●パートタグ
 以下の内からとりたい行動を選び、プレイング冒頭に【】ごとコピペしてください

【交渉】
交渉のテーブルにつき、発言します。
交渉に不向きであるものや、現実的でないもの、または実行に際して不可能そうな要因のあるものなどはプレイング自体を採用せず、そもそも発言にあげなかったことになります。
同様の発言があった場合、それは合同で行ったものとして判定されます。
この発言に対してヴァルフォロメイとアミナは補足や支援を行いますが、主たる発言権はイレギュラーズにあります。

【見学】
交渉の様子を観察します。場に対して発言することや、直接手を出すことはできません。
感想を述べ合ったりすることができます。
一応本筋と異なりますので、交渉パートに対して採用率が低く設定されています。

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●章切り替えのタイミング
 話がひとつ纏まる度に章が切り替わり、交渉に必要な要素が新たに提示されます。
 これによって、発言(プレイング)が採用されなくてもすぐに話し合いに復帰することができます。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者(プレイング採用者)全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>モリブデン会談完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月01日 12時20分
  • 章数3章
  • 総採用数33人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

 『会談が始まった』――と、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が感じたのは、大きなテーブルについた何人ものローレット・イレギュラーズのうち、『紅霞の雪』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が「はじめまして」と述べた瞬間だった。
「改めて『はじめまして』、ボリスラフ少佐。ワタシはフラーゴラ。ローレット所属のイレギュラーズだよ。今回の会談で、革命派の交渉役として今回このテーブルにつかせてもらってるよ。まずはワタシたちの紹介をするね、右から――」
 フラーゴラが順番に紹介していったイレギュラーズの数は、多い……と言っていいだろう。
 革命派の代表として席に着いているヴァルフォロメイとアミナを除けばテーブルの9割以上がイレギュラーズによって埋まっている。
 対するブラックハンズ側の交渉役はボリスラフ本人なので、彼一人を相手に取り囲むようなプレッシャーすら生まれているだろう。
 だが、ボリスラフは平然とした様子で手元のコップから水を飲んでいる。
 交渉というものは、人によっては真剣を交わす殺し合い以上に緊張するものだろう。そもそも人間は――というよりあらゆる生物は、『戦闘をして勝った方の言うことを聞く』という原則で生きていない。それが通るのは最初からそうしたルールに双方が同意した時と、『言うことを聞かなければならない』状況に追い込まれた時だけだ。
 戦争で誤解しがちなのは、相手をコテンパンに叩きのめしたから勝ちではなく、相手が降伏を認めるか一人も残らず消えるかのどちらかでしか勝利できないという点だ。
 交渉というものは、よくそういった場面で用いられる。
 ボリスラフとて、ブラックハンズという組織と自分達の守護しているモリブデン。この二つの未来がかかったこの会談を、疎かにできるなどとはとても思っていないはずだ。
 なにせ、相手がたとえ『善良なローレット』であったとしても、解釈次第ではこちらが奴隷や特攻人員扱いされることだってないとはいえないのだ。逆に、ローレット側が過剰なカードをきってきた場合、こちらがその『見返り』だけで破綻することだってありえる。
 ボリスラフ少佐の心中は、かなり荒れているはずなのだ。

「まずはボリスラフ少佐のこと知りたいな。どうしてブラックハンズ隊に?」
 会談は実務的な交渉をまえに、まずは互いを知るための雑談から始まった。といっても、ここでの発言は記録されるため言質になり得る。ボリスラフも言葉を選ぶコンマ数秒の間を置いてからにこやかに返した。
「説明が抜けていたかもしれませんね。『ブラックハンズ』という組織は過去に二度の再編が行われています。これは……そうですね、学校における部活のメンバーが全員卒業して人員がごっそり入れ替わる現象に似ています。
 違うのは、一度で全員という点です。リーダーから末端の構成員に至るまでが総入れ替えされたのです。
 我々を仮に第三期と呼ぶとして、第一期のメンバーは貴方がたもご存じのはずです」
「ショッケン・ハイドリヒと、聖女アナスタシア――」
 レイリーが発言したことで、ボリスラフは頷いた。
「では、第二期はリーダーとなったショッケンを除いて、他の構成員全てが入れ替わったと」
 総入れ替えと表現したわりにはショッケンが被っているのでは。そう問おうとして、ボリスラフのやや厳しい表情に口を閉じた。彼の中で、第一期におけるショッケンと第二期のショッケンは別人という考え方なのだろう。
 そしてそれは、今の話題にさして重要ではない。
「その通りです。第三期が私――ボリスラフをリーダーとした部隊です。
 軍部も上は政治家たちでできていますから、以前のギアバジリカ事件を『軍部の暴走』とはしたくなかったのでしょう。それよりも、過激な教派の暴走をローレットと共同で鎮圧したという表題のほうが立場を守りやすいのです。
 だから、全員が投獄あるいは閑職に回されたブラックハンズ隊を取り潰すことができず、名前だけを残して『部隊の再編成』を行ったのです。
 つまり、我々は軍からみて、恥ずかしい部隊なのです」
「ボリスラフ少佐……」
 『恥ずかしい部隊』などと発言したわりには、ボリスラフの表情は暗くない。
 むしろさっぱりしているように見える。
 レイリーはコホンと咳払いをした。
「ボリスラフ少佐。あなたはこのモリブデンを心底護りたいと考えているように見えるよ。その考えはむしろ、新皇帝即位後――あなたがたブラックハンズ隊が軍を実質的に離脱した今だからこそ、自由にできていることなのかな」
「……?」
 首をかしげるフラーゴラ。レイリーが『日陰者にせざるをえないブラックハンズ隊を邪魔する勢力が軍の主流にはいたってこと』と耳打ちした。
「たしかに」
 ボリスラフ少佐は先ほどとは異なる、やや温かい笑みを浮かべた。
「モリブデンは……なんと言えばいいのでしょうね。『私に似ている』んです。情に脆くて、しかし弱くて、誰かに助けられて今がある。
 このご時世です。こういう場所は、放っておけば略奪者たちに好き放題されてしまうでしょう」

 ボリスラフ少佐という人物がこの土地を好いていること、あるいは共感していること。
 それは見学しているイーリンや恋屍・愛無(p3p007296)たちから見ても明らかだった。
「所で、彼は本当にそれだけの理由でモリブデンを守護し続けているのかな?」
 やわらかい疑問符をつけて、愛無が隣に座るイーリンに問いかける。
「それもあるだろうけど……政治的に言えば、モリブデンを守ることで自分たちの存在意義を明確にして後年までの安泰を買いたいってことでしょ。
 私ならこういうとき、他の派閥に対する『情報』を材料にして価値をつり上げるところだけれど……」
「情報、か」
 ブラックハンズは町の防衛を行っている。
 が、その実体は工作員たちによる偵察や諜報を得意とする部隊だ。ちょっと洒落たこというならスパイチームやニンジャクランである。
 彼らが『防衛』できているのは、武力ゆえというより情報を材料にした暗黙の牽制といったところだろう。
「彼らを刺激すれば、自派閥にとって不都合な情報が他派閥に流れる危険がある……かもしれない。それゆえに、派閥の規模が大きくなればなるほど手を出しづらいというわけか」
「そういうこと。彼らが『自分達だけでも町は守れる』なんて言ってのけた背景はおそらくソレよ。逆に言えば、私達が『他の怖い人に襲われる前に私の手下になっちゃいな』と脅したとして、それを材料に他派閥をこちらにけしかけるようなことが可能よね。
 そんなリスクを冒してまで、新興観光地なんかをこのご時世に欲しい組織がないのよ。
 そういう情報的牽制が効果的でない小規模の団体……たとえばレイダー(略奪者集団)なんかはブラックハンズの戦力だけで撃退が可能だしね」
「なら、彼らがこの『交渉のテーブル』についたのは?」
「さっき言った情報的牽制が『マジで通用しない相手』がよりによって皇帝だからよ」
「ああ……焦ってはいる、のか」
 様々な組織のなかで、最も馴染みがあり自分達を悪いようにはしないであろう組織を相手に、交渉をとりつけたかったのだろう。それも、できるだけ早く。
「しかしそれを理由にこの交渉をゴリ押しした場合は――」
 愛無は薄目をあけて天井をみやる。
「悪手ね。相手はその『最低価値による競り落とし』を避けるべく逃げるわ。
 相手は安くも高くもない丁度良い値段で自分を競り落としてほしいのよ。
 第一……この交渉の『模範解答』は最初から決まっているようなものだわ」
「?」
 意味ありげに言うイーリン。愛無は怪訝そうに彼女の横顔を見た。
「この交渉自体、一種の誘い受けってこと」

成否

成功


第1章 第2節

※アナウンス
・本シナリオ第一章のプレイング投稿期間を以下に変更します。
 『~10月14日08時』
・採用予定プレイングを除き、一部プレイングを編集可能状態に戻しました。
 (一時的に再び『確認済み』シグナルとなってロックがかかることがりますので再投稿の際にはご注意ください)


第1章 第3節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

 前提は出そろった。今度こそ、こちらの手番だ。
「久しぶりですわね、ボリスラフ。あの事件以来かしら」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がそう口を開くと、ボリスラフはどこか気まずそうに視線を斜め下に移した。
「はい。その節は……」
「こんな交渉が不要な時代が続けば良かったのだけれど、なってしまったものは仕方ありませんわね」
 革命派の中でも顔の広いヴァレーリヤと、革命派に長らく協力していたボリスラフ。『当時のまま』であったのなら、わざわざテーブルなど挟む必要すらなかったろう。助けを求めれば、二つ返事で都合をつけたはずだ。今やお互い、それが出来る立場ではない。
 今は、互いに保証するものがなければならないのだ。
「私達が落とし所として考えているのは、緊急時に援軍を出し物資を供給する協定の締結ですわ」
「協定、ですか」
「いかにも」
 『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が僅かに身を乗り出す。
「我々イレギュラーズが、有事の際にはこの場所に駆けつけます。
 また、ギアバジリカから回収・応用される強力な兵器を提供することも可能になるでしょう。
 難民がでた場合には革命派拠点である難民キャンプや、いざとなればギアバジリカ内部にかくまうことができます。特にクラースナヤ・ズヴェズダーは支援団体としての側面が強いので、医療支援部隊をこのモリブデンへ派遣することも検討しましょう」
 畳みかけるように続けるルル家。
 ボリスラフは一言一句を聞き漏らすまいと、真剣に彼女の目を見つめていた。
「魅力的な提案です。ですが一つ――有事の際に『ローレットのイレギュラーズが駆けつける』ことは、ローレットとの協力であって革命派との協力関係とは言えませんね?」
「む……」
 やはり気付いたか。とルル家は口を引き結んでから続けた。
「確かに。革命派の戦力は決して高くはありません。増え続ける難民と拡大を続けるキャンプを保護するためにその戦力の大半はさかれています。
 ですので、軍事力そのものを供給することは難しいとみています」
「ですが、『供給できる』と協定を結ぶことに意味がある。そうでしょう?」
 ヴァレーリヤが続けたことで、ルル家が我が意を得たりと頷いた。
「モリブデンはスチールグラード周辺に睨みを効かせられる拠点。
 どの勢力も未来のために手を広げつつあるこの状況下では、無所属であっても他勢力からの攻撃を受ける可能性はございますわ。軍からほぼ抜けているのであれば尚更に。
 この位置にある拠点を『正式な味方である』と表明することが、貴方がたにとって大きな意味をもつのではありませんか」
「……その通りです」
 ボリスラフも、それまで堅くしていた表情をやっと柔らかいものにした。
 この言葉を聞けないのであれば、この先の話ができなかった。そういう表情だ。
 『もしもの時は助け合いましょう』という約束を、それも元から自由に動けるはずのローレットのリソースだけで行うのであれば革命派と組む意味が無い。
 革命派という勢力を後ろ盾にするだけのコネクションが、彼らは欲しかったのだ。
「やっと次の話ができます。そうですね?」
「はい……」
 『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)がほっとした様子で胸に手を当てた。
「まずはモリブデンの状況を教えて。戦力、物資、医療。緊急時の避難場所……」
 指折り数えるアレクシアに手を翳し、ボリスラフは小さく首を横に振る。
「あえて言いましょう。『全て足りていない』。私はモリブデンを自分達だけで守れるなどと表明しましたが、それは真実ではあるが虚実入り交じったものです。
 この土地は新興開発地であり、土地資源自体は乏しい場所です。わざわざ『乱暴者のレッテル』を張られてまで周辺地域からの略奪が起きていない、起きる価値がないというだけで、『ただいたずらに殺戮を楽しみたい』などという無駄な理由で攻め込まれればひとたまりもないでしょう」
 そして往々にして、人は無駄なことをするものだ。
 実際そういう暴徒の事件はここ最近で後を絶たない。
 アレクシアは頷き、そしてヴァルフォロメイたちを見た。
「いざモリブデンを守らないといけなくなった時に、何よりも大事なのは『その場所』を守ることと同時に『人』を守ることだと思う。
 さっきボリスラフ少佐は『次の話が出来る』って言ったよね。それは、今すぐにでも支援を必要としているってことだと思う。ちがうかな」
「はい、いいえ、その通りです」
 すこし堅い、軍人口調でボリスラフは述べると咳払いをはさんだ。
「周辺の土地への移動が難しい今、自給自足ができないこの土地は食糧資源が枯渇寸前です。有事の際のシェルターとして機能するようモリブデンスーパーアリーナが建設されたおかげで今はなんとかなっていますが、やはり医療人員の不足が住民の不安を高めています。
 まずは医療人員の派遣と、僅かでもいいので食料物資の供給をお願いしたい。
 そして中にはモリブデンのシェルターから、より安全そうな革命派の難民キャンプへの移動を求める住民が現れるはずです。彼らの受け入れもお願いしたい。
 交換として、我々からはブラックハンズの戦力と持っている情報を提供することができます。いかがでしょうか?」

成否

成功


第1章 第4節

佐藤 美咲(p3p009818)
無職

 話の進展を、ポップコーンをかじりながら観察している者が居た。者というか、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)であったのだが。
 彼女からして、この会談は『プロモーション』に見えた。
 誰でも『見学』することのできる会話を、二つの組織が交わしているというこの状況。
 賢い者は観察するし、より賢い者は観察している人間達すらも観察している。
 美咲は自己評価を高くするタチではないが、少なくとも後者であった。
(ローレットのイレギュラーズはともかく、革命派の司祭が何人か。各派閥のイレギュラーズも一通り見えるし……この話は各派閥に流れてるとみて間違いない。そう、『各派閥』に)
 そっと席を立ち、出て行く人間を横目に捕らえる。
「もし? どこかで会ったことあったスか? ポップコーン食べます?」
 美咲は恐るべき速度で追いつくと、その人物の肩をポンと掴んだ。
「おや、美咲さん。いやだな、革命派の難民キャンプでお会いしたじゃないですか。写真家のジェパーソンですよ」
 にこやかにそう語るジェパーソン(仮)。
 美咲が感知したかぎり、テレパスが使われた形跡はない。相手に怪しいところは『何一つとしてない』。
「そうだったッスねー! すみません顔を覚えられなくって」
 あははと言いながら手を離す。では失礼といってジェパーソン(仮)はその場を去った。
 美咲は笑顔をスッと消し、すぐ側の仲間に耳打ちをする。

「警戒してください。新皇帝派のスパイが今の状況を仲間に知らせています」

成否

成功

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