＜竜想エリタージュ＞君の望みを齧らせて

オープニング

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　あのね、ぼくらはね。
　お腹が減ってるの。
　この島にはたくさんのフルーツが成ってるけど、ぼくらはもうふつうのフルーツじゃがまんできない。
　何か、おいしく食べるほうほうはないかなあ。
　ないかしら。

　きったり？
　わったり？
　やってみたけど変わらない。

　でも、でもでも、それどころじゃなくなっちゃった。
　いつものように流れ着いたふねから、沢山のこわいものが出て来ちゃった。
　ぼくらにはわかる。あれはぼくらにとってよくないもの。
　ぼくらだけじゃない、きっと世界にとってよくないもの。
　こわいよ。
　たべられちゃうの？
　いやだよ。
　たすけて。


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　光が明るければ明るい程、影もより濃くなるものだ。
　フェデリア島――シレンツィオ・リゾートの傍には“ダガヌ海域”と呼ばれる場所がある。
　三つの島を頂点に、地図に三角形を描く。其れがダガヌ海域だ。其処には未だに、嘗ての「絶望の青」が存在するともひそやかに言われている。

　或いは岩礁に船底を削られ、船が難破する。
　或いは突然の嵐で帆を折られ、航行不能となる。
　或いは激しい海流に舵を奪われて、何処へとも知れず漂い続ける。

　不安定な天候に、荒々しい環境。
　自然の怪異だけではない。更には其処に深海魔まで現れるとなっては、人の住む隙も生まれず、入植も開発も進まない。

　故にイレギュラーズが調査を頼まれるのは、自明の理とも言えるだろう。
　ダガヌ海域には大小さまざまな無人島が点在している。海域の流れを読み、天候を制し、リゾートの幅を広げたいと思う商人は少なくない。
　絶望の青を超えたのだ。ダガヌ海域とて制せるはずだと。

　そして今回の舞台は無人島のうちの一つ、「不夜島」。
　島を囲む岩礁にさえ目を瞑れば、この不穏な海域には珍しく穏やかな島である。これまで座礁して来た船の残骸に取り憑いたヒカリゴケや、海に漂う発光動物たちによって、夜も明るい島。故に此処は「不夜島」と呼ばれるのだ。

　――しかし。

　一際大きく、最早真っ黒な影にしか見えない船が、岩礁に乗り上げていた。
　ずるり。
　泥濘で捏ねたかのような真っ黒な腕が、破れた板の間から垣間見える。
　ずるり。
　其れらは船から出てきたかと思うと、島へと雪崩れるように入り込んでいく。
　逃げていくのは遊色の、泡に似た存在――フリーパレット。

　何故フリーパレットを追うのか。
　あれらは何物なのか。

　灯りで闇を払ったつもりでも、案外傍に暗がりはあるものだ。
　シレンツィオ・リゾートの華やかな繁栄にも、そっと暗雲が立ち込めようとしていた。

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第2章

第2章 第1節

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　――美味しいものがたべたい

　フリーパレットたちが口々にいう。

　――くだものもおいしい
　――水もおいしい
　――けど、おいしいものが食べたい

　森を見れば、鈴なりに様々な果実がなっている。
　種類は多いが、其の中でも洋梨の類が多いようで、島の異類の豊かさを象徴するように海風に揺れていた。
　フリーパレットたちは口々に言う。おいしいものが食べたい。この果物が食べたい。いろんな食べるをしたい。

　――きみたちに憑いたら、おいしく食べられる？
　――それとも、食べられるようにしてくれる？

　子どもがお願いとねだるような、囁くような小さな声。
　助けてくれて尚も願うのはわがままだとわかっている、そんな響きだった。

　フリーパレットも、元をたどればダガヌチと同じく竜宮幣に憑いた執念だ。
　ならば、其れを取り払ってやるのがよいだろう。
　願いを叶えれば去ってくれるのだから、きっとやりやすい筈だ。

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第2章 第2節

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「見たところ、特に食べ物が不足するような環境には見えませんね」

　雨紅は改めて島を見回す。
　鈴なりに果実は実り、危険な海域だという割には――危険だと言われる故だろうか？　通常の島よりも不夜島は肥沃に見えた。

　――おなかがへったよ

　そうフリーパレットは囁く。
　生前は人だったからか、料理を求めているような気配を察したが、

「……。私、料理はそんなに得意ではなく……余り期待はしないでくださいね？」

　――すごい、きたい
　――どんなのつくるの？
　――どきどき

　うう、期待されている。
　仮面の下で困った、と雨紅は手持ちを確かめる。洋梨のような実が多かったように思う。ならば塩気のあるものと合わせてみれば……

「ああ、そうだ」

　保存食の干し肉なら、と雨紅は取り出して。
　これで果実をくるんでみましょうか、とフリーパレットに提案する。甘いものには塩気のあるもの。いわゆる「生ハムとメロン」と同じ事だ。
　果実をもぎとり、ナイフでくるりと皮を剥くと、其の白い果肉に干し肉を巻いて先に自分が味見をする。味の保証が持てなかったのと、“一緒に食べている”感じを出す為だ。

「……うん、なかなかいけますね。さあ、皆さんもどうぞ」

　――しおっけ
　――しょっぱい、あまい
　――おいしい

　――ありがとう

　そして味わって満足したフリーパレット、消えた其の跡にはきらりと輝く欠片が落ちていた。

成否

成功

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第2章 第3節

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「こんな時じゃなかったら、もっとじっくり見て回りたいんすけど」

　慧は庭師だ。植物を見て回りたいと思うのは一種の職業病だろう。
　育てられる物なら持って帰りたいし、果実に害がないなら摘んで帰りたいとも思う。後者は簡単に叶えられそうだが、前者は難しそうだ。この木を丸ごと船に乗せ、荒波を超えるのは難しかろう。

「――ああ、でも、見ながらでも皆さんの話は聞けますね」

　慧はこっちっすよ、と歩き出す。
　フリーパレットがふよふよと、彼の後をついていく。

「まずは一緒に果実を集めましょう。何処にどんなのがあるかとか、どんな味だったか教えて下さい」

　慧が問うと、様々な声が返って来る。
　あっちに甘いのがあった、こっちのはすごく甘かった、むこうのは少しすっぱかった、多分熟してなかった。
　其の声に従って歩きながら、慧は確認しつつ果実をもいでいく。木の健康状態は至って良好だ。本当に、持って帰れたら良かったのに。

　――ぶちぶち
　――きのみ、さくさく、おいしい

「成る程、林檎みたいな食感っすか？」

　――そう

　会話をしながら収穫するというのは楽しいもので。
　気が付けば慧の腕の中には果物がたくさん。さて、これをどうしようか……と考えて、慧は焚き火を起こす事に決めた。
　熱してみれば甘みが増すかもしれない。そうすれば、お腹が減ったフリーパレットも喜ぶだろう。

成否

成功

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第2章 第4節

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　俺が作ってカンちゃんが食べる。
　いつもと変わらないね、と史之は笑う。
　そうだね、と笑み返しながら、フリーパレットにおいで、と睦月は誘った。憑いても良いよ、これでも元かみさまだからね。憑かれるのには慣れているのです。
　フリーパレットはそう言った睦月に僅かに惑うような動きをした後、……勇気ある一人が、ぽん！　と中に入った。……自我を奪うような様子はない。ただ、なんだか無性にお腹が減った感じがする。

「どう、変な感じはない？」
「うん……でも、凄くお腹が減った！　しーちゃん、美味しいの作って！」
「勿論。季節的には栗を使った料理が良いのかもしれないけど、折角洋梨が多いからね。贅沢に使ったタルトと」
「美味しそう！」
「ドリンクは紅茶。レモンとミルクならどちらが良い？」
「えっと、じゃあミルクで」
「はいはい。お砂糖は多め？」
「うん！　じゃあ、いただきます！」

　さっくりタルト生地に、中身はカスタードと生クリーム。
　上部には洋梨のコンポートを贅沢に並べて、艶出しにナパージュを。しゃくしゃく、じゅわっ。やわらかい甘みに睦月は蕩けそうな笑みを浮かべて。

「やっぱりしーちゃんのお菓子って美味しい！　僕の中のフリーパレットさんもそう言ってます」
「はは、それなら光栄なんだけどな」
「ほら、他の子もおいでー。大丈夫だよ、美味しいよ。……でも、食べ過ぎたら運動しないといけないね」

協力してくれるよね？　しーちゃん。
上目づかいで誘った睦月は、ふふふ、と笑って、出されたミルクティをくぴり、と一口飲んだ。――あ。今、憑いてたものがいなくなった感じがした。美味しかったんだね。

成否

成功

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第2章 第5節

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「ぶはははッ！　美味いもんが喰いたいって！？」

　そりゃあ俺の出番だな！　俺がこういう問題に顔を出さない事はねえ！
　ゴリョウはそう言って豪快に笑う。そう、彼はこう見えて料理上手なのだ。

「おめぇさんらのご希望を存分に叶えてやらぁ！」

　――おいしいものがたべたいな
　――おりょうりとかできるの？

「おう、勿論出来るぜぇ！　其のまま食っても旨いだろうし、デザートにするのも良さそうだが……おいしいものの可能性は無限大だ！」

　言うと、ゴリョウは幾つか摘んできた洋梨をミキサーにかける。ぎゅるるん。そしてペースト状になった洋梨に醤油、みりん、片栗粉。そしてレモン汁を加える。
　そうするとあら不思議！　焼肉や魚のムニエルによくあうソースの出来上がり！

　――おいしそう
　――そのままのみたい

「おいおい、そのままは勿体無ぇよ！　あとでムニエルとか作ってやるからな。あとはそうだな……酸っぱい果物の場所は判るか？　ああいうのはな、タコやイカ、野菜と共にマリネするセビチェにすりゃあ意外と美味いんだぜ」

　――ものしり
　――おいしそう……おなかへった

「そう、この世に無駄な食材なんてないのさ！　色々食料もある、これからメインの料理を作ってやるからな、存分に食いねぇ！」

成否

成功

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第2章 第6節

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　――ああ、うん、そっか。

　彩陽は納得する。
　美味しいものが食べたい。其れが願いやったんやな。

「ええよ。身体貸したる、一杯食べ」

　――いいの？
　――こわくない？

「怖ないよ。大丈夫」

　寧ろ怖がっているのはフリーパレットの方だった。
　憑いて大丈夫かな、と遊色がふらふらとして……大丈夫や、と彩陽が念を押すと、じゃあ、と一つのフリーパレットが身体に飛び込んだ。
　ぐう、とお腹がなる。とてもお腹が減った、……そうか。こんな気持ちでおったんやね。

　森の中に踏み入れば、直ぐに成っている果物が見える。
　彩陽は背が届きそうな位置のものを一つもぎりとると、そのまましゃくり、と齧る。ほんの僅かな酸っぱさと、其れに勝る甘みがじゅわりと口内に広がる。

「美味しい？」

　――おいしい
　――もっと、たべたい

「はいはい」

　……満足するまで付き合って、俺のお腹、破裂したりせんかな。
　まあ、限界までがんばってみましょ。

成否

成功

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第2章 第7節

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「美味しいものを食べたい、か。よし、わかった！　やってみよう！」

　フーガが用意するのは簡易キッチンと調理器具。
　なんだろう、すごい、ふしぎ、と集まって来るフリーパレットが愛らしくて笑いながら、集めて置いた果物を調理していく。
　器の中ですり合わせて、混ぜて、コップの中に。ほら、こうするだけで美味しい100%果汁のジュースが出来上がる。

　――なし
　――りんご

　フリーパレットのリクエストに応えながら、様々な果物で、時には混ぜながらジュースを作って行く。
　その途中でそういえば、とフーガは問うた。

「一つ気になったんだが……アンタらは人間に取り憑く事が出来るのか？」

　問いに、フリーパレットはふらふら、と揺れる。

　――できるけど、やったことない
　――ないね

「ないのか。じゃあ試しにおいらの身体に取り憑いてみるか？」

　取り憑かれる、というのが怖くないというと嘘になる。
　なるけれども……後悔なく堪能してほしい、とも思うのだ。出来る限り、最大限に、美味しいものを味わって貰いたい。
　そうすればきっと未練も晴れるだろう、と。フーガはジュースを作りながら、順番を決めといてくれとフリーパレットに言うのだった。

成否

成功

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第2章 第8節

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「ふむふむ。そのまま食べるのには飽きちゃった感じなのかな？」

　Meerはフリーパレットが口々に言う欲望を聞いて頷く。
　じゃあ、と彼女が出した案は、果物をアイスティにして飲むというもの。フリーパレットはきっと、何処に何の果実がなっているのか知っている筈。そして多分、いつが食べごろなのかも知っていそう。
　なので、果物への案内は任せました！

　という訳で集まった果物を、Meerは一口大にカットする。
　或いは皮を付けたままスライスしたり、スライスしたものを型抜きしたりする。型抜き、という発想はフリーパレットにはなかったようで、星やハート型に型抜きされた其れ等を見てかわいい、と遊色が揺れる様は其れこそ可愛いとMeerは笑った。

　そしてフルーツと冷たい新鮮な水、そして水出しの紅茶葉を硝子ポットに詰めて、少しずつ水が色を変えていくのを見守る。

　――きれい
　――たのしみ

「たのしみだね！　フルーツの風味があるから、普通のアイスティより美味しいと思うんだ！」

　そうして、適度に綺麗な色に水が染まればグラスに注いで。ほんのり紅茶色のフルーツを取り出して盛れば、お好みで蜂蜜を入れる。
　さあ、完成！　島をまるごと味わうフルーツティー！
　Meerとフリーパレットは可愛い、美味しそう、ときゃあきゃあ騒ぐのであった。

成否

成功

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第2章 第9節

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「別に、お願いを叶えるくらいどうってことないわよ」

　だから遠慮しないで、とセレナは優しくフリーパレットに話しかける。
　でも、憑いたら……って事は、取り憑けるのかしら。と少しばかり思案。まあ、食事ってやっぱり自分の手で食べて、味わってこそよね。

「いいわ、わたしの身体を貸してあげる」

　でもヘンな事はしちゃ駄目よ？
　からかうように言ったセレナに、フリーパレットは何を思ったのか大慌てした。そんなことしない、と。

　さて、取り憑いて貰って食べるにも準備が必要だ。
　セレナは取ってきた果物を食べやすい大きさにカットして、どうぞ、とフリーパレットを手招いた。
　迷うような逡巡の後、フリーパレットが一つ、ぽん、とセレナの胸元に入って来る。――特に何かを奪われるような感覚はなかったけれど、くう、とセレナのお腹が可愛く鳴いた。

　じゃあ、いただきます。

　セレナはフルーツを手に取ると、さくり、と口に運ぶ。しっかりと味わうように噛んで、十分に水分を堪能して呑み込む。
　食べ方はセレナ任せにしてくれているのがありがたい。服を汚さないように食べる事が出来る。

「……おいしい？」

　セレナは己のうちに問い掛ける。

　――おいしい
　――くだもの、じゅーしー

　返ってきた答えに、良かった、と魔女は笑うのだった。

成否

成功

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第2章 第10節

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　無垢なるものは、祭で送ろう。
　不夜の島に灯火を掲げよう。
　魂たちよ、未練あらば……

「美味しいもの食べたい人集まれーっす！」

　ウォリアの口上を見事に邪魔したレッドが、さあ挙手っすよ！　と自らも手を挙げてみせるけれども、フリーパレットには手がないのであった。

　用意したのは島の果物、それからお取り寄せの食材を沢山。
　さあ、準備は万端だ。美味しく食べる準備をしようっす。

「ウォリアさんもやろうやろうっす！」

　フルーツパイを作るんすよ、と言うレッドに、そうか、とウォリアは言った。
　いや、そうとしか言えなかったという方が正しい。
　聞き届けて叶える。其れは神の本懐。ウォリアはおよそ「人に出来る事柄」は一通りこなす事が出来るけれども……しかし、彼の身には味覚というものが存在しなかった。
　食事も睡眠も要らない、必要のない身体だ。其の身でフリーパレットを満たす事が出来るのだろうか、とウォリアは思案する。

「大丈夫っすよ」

　これ切ってください、と思案するウォリアの前にフルーツを並べながら、隣のレッドが笑ってみせる。

「だって今までだって大丈夫だったでしょ？　ウォリアさんとボクがいれば、大丈夫っす」

　＿＿そうか。
　ウォリアは納得する。味覚がないのなら、他の事で楽しませればよい。レッドとフリーパレット、そして自分。皆で一つの料理を作り、今という一瞬を分かち合う。
　魂に刻まれるほどに賑やかな宴で、フリーパレットを送るのだ。
　願ってよかった、存在して良かったと彼らが思いながら、輪廻に還れるように。

「よーし、完成っすよー！　切り分けるっすよ！」

　嗅覚に届く香りは確かに“美味しそう”なフルーツパイの香り。
　例え味が判らなくても。空っぽの鎧、燃ゆる焔の中に落ちるだけだとしても。
　それでも――

「はい、これはフリーパレットさんたちの分っす！　じゃあ……」

　祭のように、賑やかに！
　いただきます！

成否

成功