PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あやかし道中、夜話かたり

完了

参加者 : 39 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夜話
 生ぬるい、と言って良い夜だった。
 肌を撫でる風は、撫でると言うよりは纏わり付くようで。近くを流れる畦川からはこの気温のせいか饐えたような臭いが漂ってくる。暑すぎると川の魚も煮上がる時があると聞くもんだから、死んだ魚が腐っちまってるのかもしれねぇ。厭なものから目を逸らすように、俺(おいら)は頭に被った手ぬぐいをぎゅうと締め、家に急いだんだ。
 家では女房とやや子が待っている。仕事で遅くなっちまったが、その日は実入りがよかったもんで土産もある。歯も生えてないやや子からの反応が貰えねぇのは残念だが、女房が喜んでくれると俺は畦道を足早に進んだ。
 いくらか進んだ頃、俺は後ろに気配があることに気付いたんだ。
 ひたひた、ひたひたひたひたひた。明らかに俺に着いてくる足音だ。
 ひた、ひたひたひたひた、ひたひた。こんな時に限って、俺は悪いことに気付いちまう。
 ――なんで、草履の音じゃねぇんだ?
 なんで、水に濡れた足音みてぇなんだ? ……ってな。
 俺は怖くなった。女房が首にかけてくれたお守りを握りしめ、土産を抱いて走った。……足音は、ついてくる。音の早さは変わらねぇはずなのに、遠のく気配が一向にしねぇんだ。
 俺はまろびそうになりながらも走った。
 そうして……ぼとん。背後で、何かが川に落ちた。

 ――ふう。
 暗闇にぼうと浮かび上がっている蝋燭の明かりが、ひとつ消えた。
 同時にキャーッと響く乙女の声と、空笑いの男の声。
「ええ? 何が落ちたんだい?」
「振り返って確認しなかったの?」
「やだね、あんた。確認したら怖いじゃない」
「首のないお人が立っていたら怖いよねぇ」
 座を囲んだ男女がひそひそと漣のような声を交わすが、話し手だった男がそれ以上語ることはない。話というものには想像の余地をつけることも技法のひとつだからだ。
 ――カン。響く、木の音。
 司会者によって拍子木が打ち鳴らされれば、静謐がまた、その場を支配した。
 ひとりずつ語って、蝋燭を消して、順番に話は続いていく。
 百の焔が消えるまで。

●あやしあやかし
 赤い鬼火がゆうらり揺れる。
 ――否、それは鬼灯だ。
 鬼灯を模した提灯に命のような赤い炎が灯されて、ゆらゆら、棒の先で揺れていた。
「わっ……と、ごめんなさい!」
「気をつけてね」
 はーいと声を上げて、けれども振り返ることなくこどもは目先の楽しさに駆けていく。きっとまた誰かにぶつかることが安易に想像が出来て、男は仮面の下で眉を下げながら笑った。
 既に人混みの中に姿を消してしまったこどもは『ひとつ目』――の面をつけていた。けれどそれに疑問を抱く者はここにはいない。二本の尾を揺らす猫又に、頭に皿を載せた河童、本体の屏風を抱えた屏風闚、茶釜を持った狸……そこいらを闊歩するのは、たくさんのあやかしたち。精霊種も鬼人種も思い思いに『妖怪』の仮装をしているから、赤い角を額に覗かせる大鬼でさえ、鬼人種かどうかもわからない。
 白い狐の半面を被った劉・雨泽(p3n000218)はひとつ目小僧を見送って、屋台を冷やかして回る。
「やあ」
「おやあんたはん、来てたのかい」
 声を掛けたのは、ひとつの屋台。
 屋号は『おきつね堂』。白い狐の店主がいる駄菓子屋だ。
「店主が店を出してるって聞いてね」
「……なんや雨泽はん、その格好」
 マズルに眼鏡を載せた二足歩行の白狐が駄菓子から顔を上げるや否や鼻に皺を寄せた。今にも「どう? お揃いだよ」と言いかねない雨泽が気に入らないのだろう。
「僕に意図があってのことではないよ? 仕立て屋さんのチョイスだ」
 着物の裾が君の尾とお揃いみたいじゃない? と笑う雨泽に、狐の店主は益々嫌そうに顔を顰めた――が、その顔が「あ、」と何かを思い出した貌(かたち)になる。
「雨泽はん、そろそろでっせ。行かんでええの?」
「ああ、夜行?」
 夜行――あやかしものたちの漫ろ歩き。
 豊穣では、暦で百鬼夜行があるとして夜間の外出を禁じている日もあるという。
 それ故に始まったこのお祭り『あやかし夜行』は、誰かの悪戯心から始まった。
『妖怪の格好をすれば、出歩いても大丈夫なんじゃないか?』
 精霊種も鬼人種も、あやかしの格好をして。
 本物の妖に会ったとしても、きっと互いに解らぬはず。
 けれども好きにあやかしの格好を模して漫ろ歩きなんぞをしたら、存ぜぬ者等が驚いてしまう。
 だから日にちを決め、夏のある夜に『あやかし夜行』を行うようにしたのだ。
「勿論、いくよ」
 あやかしたちの漫ろ歩きは所謂パレードだ。
 決められた地点から出発し、決められたコースを皆で楽しく漫ろ歩く。
 けれども気まぐれなあやかしたちは、飛び入り参加だってOKなのだ。ぞろりと歩く夜行を見て、楽しそうだと思えば途中から行列に混ざったっていい。
 狐の店主にひいらりと手を振って、雨泽は出発地点ではなく、屋台の灯りの中へと消えていった。
 ローレットで声を掛けたイレギュラーズたちの、楽しげな姿を見るために。

GMコメント

 はっぴーさまー! えんじょい! 壱花です。
 今年の夏は百物語するんだ……と春からご用意しておりました。直前は溶けている可能性が高いですし、実際暑さで溶けています。
 という訳で、キラキラの夏! ではない、涼しい夏! をお届けです。

●シナリオについて
 豊穣にはクーラーとかいう文明の利器がなくて暑いので、怖い話をしたりして涼む文化があるのだそうです。
 『あやかし』には「絢かし」「妖」、『かたり』には「語り」「騙り」が入ります。絢爛豪華な妖たちの百鬼夜行、そして怖いお話を語って騙る百物語。仮装で本性を隠すのも、さらけ出すのも自由。真を嘘で塗り潰して騙るも自由。嘘か本当かだなんて、だぁれもわかりませんし、だぁれも気にしませんからね。
 今宵はきっと、そんな夜。

●プレイングについて
 一行目:行き先【1】~【3】番号をひとつ選択
 二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)

 一緒に行動したい同行者が居る場合は二行目に、魔法の言葉【団体名+人数の数字】or【名前(ID)】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

 例)一行目:【1】
   二行目:【僕と知らない人2】(※2人行動)
   三行目:よく遭遇する警察関係者が気付いたら居ました

【1】百鬼夜行
 妖怪の仮装をして、皆で漫ろ歩きをいたしましょう。
 鬼灯型の提灯、蝋燭等が配布されるので、それらを持って歩いている人が多くいますが、手が塞がるのが嫌な場合は持たなくても大丈夫です。
 道順は決まっているので、前の人に続いて妖怪になった気分で歩きましょう。コースの脇(遊園地等のパレードを想像して下さい)に屋台が並んでいたり見物客がいます。がおー等、妖怪らしいアクションをして見物人を楽しませると喜ばれます。

【2】百物語
 とある料亭の一室に集まり、百物語をします。
 それぞれが手にした蝋燭しか灯りのない部屋で怖い話をし、話し終えたらふうと蝋燭を消し、次の人に繋げていきます。
 ぶるぶる震えたり、隣のお友達と手を握ったりするのは大丈夫ですが、大きな声を立てたる等、他の人のお話を途中で遮ってはいけません。話が終わったところでキャーと言ったりするのは大丈夫です。
 プレイングはお話に掛けても、お話はせず反応に掛けても、お好みで。

【3】屋台を楽しむ
 仮装したまま屋台を楽しむことが出来ます。
 各屋台の店主たちもお面をつけたりと仮装をしています。どこかで見た狐の店主も駄菓子屋を開いていたと雨泽が言っていたので、彼に『証』を見せると駄菓子をひとつ無料でくれるそうです。(装備欄を見ます。)
 焼き鳥、焼きそば、焼きもろこし、りんご飴……と言った、豊穣の縁日で食べられそうな食べ物の屋台があります。……が、今回は皆さん妖怪です。ですので、店に挙げられている名前が違います。味噌ぬりかべ(味噌田楽)、血の池の水(柘榴ジュース)、等です。「わあ、不死鳥焼きだって! なんだろう。……わっ、辛味噌の焼き鳥だ!」等商品名ご自由に。
 狐の駄菓子屋では、星空こんぺいとう、変声らむね、人魚の尾びれゼリー、声マネトローチ、ドクターキャンディー、ポン菓子バズーカ、夢羊わたあめ……等、風変わりな駄菓子――妖菓子(あやかし)を扱っています。
(※狐の店主は冒険『おきつね菓子問屋街』で出てきます。)

●仮装について
 全員、何らかの妖怪(創作OK)の仮装をしています。今宵のドレスコードです。
 この仮装! という拘りがある場合は記載下さい。
(【1】は必須、【2】【3】は記載無くとも何かの仮装をしているのだろう、と解釈します。)

●NPC
 ・劉・雨泽(p3n000218) 仮装:シナリオトップの姿
 ・瑛・天籟(p3n000247) 仮装:獅子
 上記二名が遊びに行っています。どの行き先にも顔を出せるので、御用があればお声掛けください。(『刑部卿』鹿紫雲・白水は家族サービスが忙しいので来ません。)

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。
 年齢不明の方は自己申告でお願いします。

 それでは、あやしくかたる一夜となりますように。

  • あやかし道中、夜話かたり完了
  • GM名壱花
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2022年08月11日 22時05分
  • 参加人数39/∞人
  • 相談10日
  • 参加費50RC

参加者 : 39 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(39人)

ギルオス・ホリス(p3n000016)
綾敷・なじみ(p3n000168)
猫鬼憑き
黄泉津瑞神(p3n000198)
珱・琉珂(p3n000246)
亜竜姫
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
チック・シュテル(p3p000932)
燈囀の鳥
桐野 浩美(p3p001062)
鬼ごろし殺し
古木・文(p3p001262)
結切
蜻蛉(p3p002599)
曙の花
月夜泉・天黒(p3p004964)
月黄泉狐
ルチア・アフラニア(p3p006865)
決死行の立役者
鹿ノ子(p3p007279)
夏の残照
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒き葬牙
水月・鏡禍(p3p008354)
守護者
観音打 至東(p3p008495)
悪縁斬り
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
真意の選択
虚気 影踏(p3p008838)
逃げ出しチワワ
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
越智内 定(p3p009033)
綾敷さんのお友達
アシリ レラ カムイ(p3p009091)
菜園の女神
澄恋(p3p009412)
花嫁キャノン
糸色 月夜(p3p009451)
アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)
茨の棘
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
ファニー(p3p010255)
スケルトンの
アンリ・マレー(p3p010423)
亜竜祓い
琉・玲樹(p3p010481)
フーガ・リリオ(p3p010595)
黄金の旋律
水無比 然音(p3p010637)
旧世代型暗殺者
火野・彩陽(p3p010663)
放逐されし頭首候補
キイチ(p3p010710)
歩み続ける
フォルエスク・グレイブツリー(p3p010721)
燼灰の墓守
フローレンス ポー(p3p010733)
骸骨姫
四(p3p010736)
特異運命座標
コヒナタ・セイ(p3p010738)
挫けぬ魔弾
槐 槐(p3p010747)
特異運命座標

リプレイ

●あやかしの夜
 今宵はひそりと身を顰める妖たちも祭りに生じて現れて、夜の静寂を気にせず騒ぎ合う。どこまでがヒトで、どこまでが妖なのか――その境界はどこまでも希薄で、紛れ込んでいればヒトか妖かだなんて気に留めなくなる――そんな夜。
 鬼火のような明かりに、賑やかな声。
 賑わう屋台の明かりに惹かれた狐――アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)は、左右の屋台を眺めながら気まぐれな爪先任せに通りを歩いた。
 買いたい物は決まっていても、今宵は名前が違うから中々見つけられない。
「あ、あれかな」
 真っ赤な果実を赤い飴に閉じ込めた物が並んでいる。
 ――『乙女の心臓』。
 そう銘打たれた飴を口にしながら、アレンは屋台を見て回った。
「形は……少し、怖いですね」
 けれど甘くて美味しいよと笑う店員から乙女の心臓――りんご飴を受け取った鹿ノ子(p3p007279)は、狐の面の下で小さく笑った。
 帯に挟んだ狐の尾の帯飾りを揺らし、次に向かうのは『人魚の涙』を扱う店。
 小瓶に入った透明な液体を恐る恐る口にすれば、ぱちりと泡が弾けて。
「ラムネ、ですね」
 見た目で解るものもあれば、口にするまで解らないものもある。馴染んでいる豊穣のものだからどれも知っているはずなのに――知らない場所の不思議な夜に迷い込んだよう。
「ンだァ? このちっせェ生き物は」
「む」
「踏まれるぞ、ッつーか踏むぞ」
 地面を歩いていたアシリ レラ カムイ(p3p009091)は、頭上から掛けられた声に頭を上げた。
 大きな手が伸びてきて、無造作に摘み上げられて宙ぶらりん。
 月の光のような白に赤メッシュの、まだ青少年と言っていい年齢の糸色 月夜(p3p009451)に摘み上げられたアシリは、丁度良いとそのままスルスルと腕を伝って彼の頭の上にお邪魔することにした。勿論月夜の許可は得ていないが、コロポックルだから人の理から外れているため気にしない。
「次はアレだ。不死鳥焼きというのを食べたい」
 この月夜と名乗った少年は、口悪いが中々人が好い。不満を口にはするがアシリの望む屋台に寄ってくれるし、頭の上で食べても怒らな――え? 落としたらオマエを食う?
「丸齧りで踊り食いでな」
「冗談じゃろ?」
「……たり前だろ。腹壊しそうだし」
 逆さまに覗き込めば口元を指先で拭ってくれる月夜は、アシリの思った通りいい奴だった。
「く~ま~め~し~や~!」
「うわぁ、お化け!?」
「あはははは、驚いた?」
「……びっくりした、ファゴットさんかぁ」
 猫のお面に猫耳猫尻尾のヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の前にひゅーどろろと現れた布お化け――ファゴット・ベアベアは早々に種明かし。いつものクマ耳ではなく猫耳だからわからなかったと、本物のお化けでなかったことに胸を撫で下ろしたヨゾラはファゴットを屋台巡りに誘った。
「妖菓子……駄菓子屋さんみたいだね」
「まいど、おおきに。ゆっくり見てってなぁ」
 不思議な駄菓子屋を覗き込めば、二足歩行の白狐が商売人ぽく笑った。
 変声らむね、声マネトローチ、ポン菓子バズーカ、夢羊わたあめ……それから、星空こんぺいとう。どれも気になって、ヨゾラはあれもこれもと買い込んだ。
「早速食べてみようか」
「ヨゾラ、あっちで食べられそうだよ」
 向かうのは、床几の並ぶ休憩所。
 星空こんぺいとうの包みを開いて摘み上げれば、夜空の星のように瞬いて。
 ふたりは顔を見合わせ、笑いあう。
 提灯揺れる、非日常。
 漫ろ歩いて流し見ても、心がワクワクするのは何故だろう。
 それはきっと、仲良しの友達が側に居てくれるから。
「見て、琉珂」
 屋台通りの入り口にあったお面屋さんで購入し、早速龍の面を着けた琉・玲樹(p3p010481)が珱・琉珂(p3n000246)を見れば、椿の浴衣を纏う彼女の頭の上にも狐の面。
「滅海竜みたいで格好良いわ!」
「ありがとう、琉珂も似合っているよ」
 豊穣風の龍の面は、覇竜大陸出身のふたりからすると少し不思議だ。遠く離れた地なのに似た姿があって、見えない何かで繋がっているよう。
 もちもちするツブツブが浮かんだ甘い飲み物を購入し、からりと下駄を鳴らして屋台の間をすり抜けるふたりの間で、繋がれた手が楽しげに揺れていた。
 手を繋ぐのは恒例で、仲良しさんの証だ。
「食べたい物はある?」
「たこ焼きや甘いものはあるかしら?」
「えっと、大焼炙そばは焼きそば。一銅釜焼きは……」
 イカ焼きだった。
「何方が先に見つけられるか、競争しましょう!」
 楽しげに笑い合い、ふたりは妖の夜を堪能した。
「やあ。今日は一人?」
「あら、劉さん」
 珍しいねと語尾に付くのは、雨泽の案内に顔を出す際の蜻蛉(p3p002599)は大抵誰かと一緒だからだ。そうなんですと肯定した蜻蛉がご一緒しても? と問う声に、返るのは二つ返事。
 揺れる提灯に、明るく響く人々の声。
 交わす言葉を探さずとも賑やかな音は辺り沢山で、ゆっくりと屋台を見て回るひと時を心地よいと思うのは、きっと二人分。
「今日の装いは、雪女? 白も似合っているね」
 結婚式場でも白い装いは見たけれど、あの時は洋装だった。お礼にと蜻蛉が買って渡した星空こんぺいとうを口にしてから言葉を転がせば、星を摘んだ蜻蛉の指先が狐の形を取る。
「劉さんお狐さんのお面も、よお似合てます。こんこんっ」
「ありがと、こーん。……雪女のポーズは何があると思う?」
「さあ。吹く、とかはどおですか?」
 夜の力を借りた様に不思議に光る小さな星を手の平にそっと乗せて、ふうと一息。
 それっぽいねと笑いあい、またねの時まで足並み揃えた。
「ん。これはなかなか」
 濃い味付けが苦手な火野・彩陽(p3p010663)でも割とどれでも美味だと感じるのは、ここが豊穣という国だからかもしれない。屋台の物は味が濃いと思っていたけれど、練達のような濃い味はしないようだ。
「火蜥蜴の丸焼き……あれは辛そうやな」
 あれやこれやと目についたものを買って口にしている間に、聞き慣れない品名でも大体の当たりがつくようになってきた。
 狐面の男とすれ違った隠岐奈 朝顔(p3p008750)の今日の装いは、猫の仮面と帯に二本の飾りを垂らして、猫又だ。からころと下駄を転がして、既に両手がとうもろこしとりんご飴で埋まっているけれど、白狐が営む駄菓子屋へと顔を覗かせた。
「人魚の尾びれゼリーはどんなお菓子なのですか?」
「暫く泳ぎが得意になるで」
 水色の魚の尾の形のゼリーを食べれば、あら不思議! 足に水の尾を纏うのだとか。是非買うて試してみてなと笑う店主に乗せられて買ってみれば、本当に水の尾が現れて。これでは猫か魚か解らない。
「魚だよ」
 兄さんは何の妖? と白狐の店主に首を傾げられた古木・文(p3p001262)は、金魚の尾びれのように見えなくもない羽織を揺らして魚だともう一度主張し、売られた金魚か、腹を裂かれた鮒か、水底に沈んだままの歸らぬ骸かもしれないけどねと薄ら笑む。
「ほぉん」
「そんなことより、飴はあるかな」
「ほいほい、まいど」
 声マネトローチ、ドクターキャンディー、月蜜甘露。
 どれも甘くて喉に良いと、白狐が薦めていた。
 縹に滝縞、薄緑に大名縞と花柄。同じ呉服屋で仕立てた着物を纏うギルオス・ホリス(p3n000016)とハリエット(p3p009025)の頭上には、白と黒の狐面。
 慣れない浴衣と脱げてしまいそうな下駄が動き難くて苦戦した。けれど、飴に赤い林檎を閉じ込めた菓子をギルオットが買ってくれ、お揃いが増えればハリエットの胸は小さく弾む。
「……手を繋いでも、いいかな」
「あぁ勿論いいよ――逸れたら大変だからね」
 ハリエットの建前をギルオスは疑うこと無く受け入れて。望み通りに差し出された手は、手袋越しでも熱を分け与えてくれる。この手袋の下に傷があることを、そしてその痛ましい経緯の一部を知るハリエットの胸には、どうしたって感情が渦巻いてしまう。
 手を繋げて嬉しい。彼の過去が悲しい。この熱が傷を優しく包んで癒せればいいのに。
 ――なんて。口にはできない。彼を困らせることなんて解りきっていることだから。想いを口には出来ないけれど、彼の隣を歩くことなら出来る。
 過去は無理でも、未来なら。彼を支える手伝いがしたい。
「ギルオスさんにとって安らげる人……必要な人になりたい」
 そんな気持ちが溢れてしまったのだろう。屋台散策の途中にポロリと言葉が落ちて、ハリエットは短く息を飲んだ。そろりと高い位置にある彼の顔を見上げれば、その顔は遠くの屋台へと向けられていてホッとする。良かった、届いていないようだ。
 気分を切り替え『彩雲飴』と書かれた幟を指差すハリエットは気付いていない。ギルオスが聞こえなかった振りをしたことを。
 其れは、またいずれ。いつか彼女に向き合える日が来た時に――。

●あやしあやかし御覧じろ
「今日は誘いを受けてくれてありがとう。ポメ太郎が会いたがっていたから」
「いいえ、ベネディクト様もポメ太郎さんも、お誘い有り難うございます」
 二羽の烏天狗が丁寧に頭を下げあい、その足元を狛犬の格好をしたポメラニアンが尾がはちきれんばかりにブンブン振って、わんわん鳴いていた。瑞さん! 瑞さん! と元気に黄泉津瑞神(p3n000198)に挨拶と仮装について話しているのだろう。瑞神が「お似合いですよ」とか「ええ、ポメ太郎さん」とニコニコ笑いながら相槌を打っている。
 行列が進み出せば、ポメ太郎はルンルンタッタッと軽快な足取りで歩みだす。瑞神と彼を挟む形で歩むベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、楽しげなふたりの姿に自然と口の端が上がっていた。
「わんわんわん!」
「まあ、ご友人が追いかけられて?」
「わんわん!」
「清明と散歩をしたのですか」
 ポメ太郎は瑞神と話すのに夢中で、瑞神以外目に入っていない様子。そんな姿に和みながらも、ベネディクトは時折手にした扇を仰いで見物客へとサービスするのを忘れない。
「わんわわん!」
「そうですね、また食事をご一緒しましょう。賀澄にポメ太郎さんも食べられる食事を用意させますね」
「それは、良いのだろうか」
「ええ、良いのです」
 おふたりはいつだってこうして楽しいことに誘ってくれるのだから、今度はもてなさせてくださいね。
 気を遣うベネディクトに、瑞神は穏やかに微笑んだ。
 鬼灯提灯揺らし、漫ろ歩くは妖たち。
 我が者顔で闊歩し、夜行を見にきた者たちに戯けてみせれば、ワッと笑顔の花が咲く。
「にゃー、魚くれないと悪戯するにゃー」
 浴衣を着た猫又姿の四(p3p010736)が猫の手を作ってにゃーとアピールすれば、見物客たちからは「ごめんねー、お魚持ってないのー」「猫ちゃん可愛いー」と声が上がる。何だかちょっと違うような? と思わない訳でもないが、見物客たちは皆楽しげだ。
「うらめしや~う~ら~め~し~や~」
「わ、本格的」
 くすくすと微笑ましげに笑われた四とは異なり、長い髪を垂らして顔を隠した幽霊の桐野 浩美(p3p001062)は本格的だ。遊園地のお化け屋敷で働いていた経験を活かし、ノリノリで幽霊になりきっている。
「うぅらぁめぇしぃやぁあ!」
 当人が楽しくなってきているのだろう。叫ぶ声に迫力が増していく。
「おっ、やってるねぇ」
 幽霊の浩美の姿にカラリと笑ったファニー(p3p010255)はそれじゃあ俺様もと体を震わせ、自前の骨をカタカタ鳴らした。貸衣装屋から浴衣を借りて提灯を手にしただけだが、それだけで元より骸骨のファニーは馴染んでしまう。
(あ、あの屋台うまそ。後で買って食うか)
 ちらりと見物客の向こうに見える屋台チェックも欠かさない。
「あら、貴方はそもそも妖怪なのでしょう。仮装する必要もないんじゃないかしら?」
 ルチア・アフラニア(p3p006865)の言葉にぱちりと瞬いた水月・鏡禍(p3p008354)は「ああ」と頷いて、元の世界ではそうだけれどこの世界では旅人だからと返した。
 そんな鏡禍は頭に皿を乗せて、甲羅型のリュックを背負って河童な装いだ。見物客用に水鉄砲も手にしている。
「ルチアさんは……もしかしてその姿、僕ですか?」
「……変?」
 代わりに貴方の仮装をしようと思ったの。とは口にせず、首を傾げて見せるルチアは鏡禍の浴衣を纏っていた。髪や瞳も彼に寄せた色を纏い、ダミーミラーを背負って鏡の妖怪であると主張して――これがルチアの思う鏡の妖怪の姿。
「いえ、変ではっ」
「何?」
 恋人が自分の姿をしてくれていて、嬉しくない訳がない。
「鏡禍は河童だったかしら? 似合っているじゃない」
「ル、ルチアさん……!」
 覗き込んで見上げてくる追い打ちに、河童の皿の水は蒸発してしまいそうだ。
「なじみさん、雪女も似合っているね」
「定くんの鬼も似合っているぜ」
 普段どおりの猫鬼で、お揃いもいいかもなんて思ったけれど。今日の綾敷・なじみ(p3n000168)は雪女。越智内 定(p3p009033)が見たいと口にしたからだ。
 収穫祭の日は本当に溶けてしまって失敗したけれど、今日は仮装だから大丈夫。何より定が側にいるのだから、溶けたって彼が雪の結晶となった自分を集めてくれるという信頼による安心感があった。
「夜道でもこれだけ大勢で歩いていると怖くないね」
 前にも後ろにも、ずらりと妖たちがいる。
 どこまでが人で、どこまでが本物かは解らない。
 けれどきっと、互いにそれを詮索しないのが暗黙のルール。
「……手、繋いでもいいかな?」
「ん、手。うん、いいよ」
 誘いとともにそろりと差し出した手に乗る熱は、不意打ちみたいにぎゅうと力が篭められて。
「百鬼夜行ではぐれでもすれば、もうずっと会えないかも――ね?」
「それは困るから、絶対に離さないようにするね」
 ゆうらり尾を揺らし、猫の女が牙見せ咲う。離したら拗ねてしまうよ、と。
「ほぁぁ……。妖怪の格好をした人がこんなに沢山。壮観でありますな」
「これだけの人数が集まると、仮装の是非を問わず迫力があるものだねぇ」
 傍らから聞こえた白装束の雪女の声に、骸骨面の男が同意した。
 もう少し仮装に力を入れるべきだったかとシガー・アッシュグレイ(p3p008560)は少し思ったが、仮装への力の入れ具合は人それぞれだと行列に混じって歩いていればすぐに思うことだ。
「ふふ。もしかしたら『ほんもの』が紛れ込んでいるやもしれませぬな」
「本物が居たとして、見分ける手段も無さそうだし、案外のびのびと楽しんでそうだ」
 下ろした髪を希紗良(p3p008628)が楽しげに歩き、ほらと顔を向けるのは仮装が甘い人。ああ見えて案外本物で、化けるのが下手なのかもしれない。
 今宵は人も妖怪も、潜むこと無く楽しむ夜だ。
 鬼灯提灯片手に手を振って、雪女とがしゃ髑髏は行列の一部となった。
 ひいらりと、布が宙を舞う。
 ひいらりひらりと舞って、ふわりと地に降りれば、それはするすると行列とともに移動する――他国ではシーツお化けと呼ばれるハロウィンではよく見掛ける仮装である。
 少し歩いてはまたひいらりと浮かぶシーツの中身は、観音打 至東(p3p008495)。足が見えないことだけ気をつけて、自然にひらりと舞って魅せた。
「劉殿も獣の花嫁モチーフか?」
 偶然近くに居た雨泽へ黒無垢風浴衣の月夜泉・天黒(p3p004964)が声を掛ければ、雨泽は「君は猫さんなんだね」とこんと狐の手をしてみせた。
 本性は狐なれど、仮装だからと今日の天黒は猫なのだ。猫の面に指先で触れた天黒はふふと小さく笑い、そうなのだとどこかいとけなく笑んだ。
「それにしても、狐には劉殿のようなポーズが定番だが、猫はどのようなものが良いのやら。劉殿、何か案はあるか?」
 どのような物でも大丈夫だぞ! と告げる天黒に、雨泽は拳を握って。
「招き猫はどうかな?」
 くいっと動かす猫の手のポーズ。
 黒猫と白狐の花嫁たちは、元から合わせた対であるかのように夜行を楽しむ。
 豊穣だからだろうか、猫や狐の妖は全体的に多いようだ。
 そして此処にも、猫が一匹。
 浴衣に猫面の出で立ちのアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は猫のように靭やかに飛び上がり、ワッと見物客たちを沸かしていた。
(猫の気持ちになるんだ……)
 何故ならアーマデルは、最近通っている猫カフェの猫たちに連敗中の身。悲しいくらいに全く猫たちがデレてくれないのだ。蛇の気持ちが強すぎるのかもしれない。豊穣でも青大将と猫が睨み合う姿はよく目撃されている。
(猫の気持ち……)
 時に素早く、時に靭やかに、時に愛らしく。
 アーマデルの気持ちが実る日は来るのだろうか――。
「チック」
「あ……雨泽」
 行列に混ざっているチック・シュテル(p3p000932)に気付いた雨泽が後ろから声を掛けた。
「チックは……あ、解った。ユニコーンだ」
「ん。……鬼、だよ」
「あれ違った。ふぅん、鬼なんだ」
 半分面で顔が隠れている雨泽の視線が角へと向かう。
「似合う……してない、かな」
「ううん、似合っているよ」
 いつもと違う格好をして皆で歩くのは、まるでハロウィンのようだ。仄かにひんやりとした気配が紛れ込んでいる事を感じていれば、「あの子たちも好きそうだよね」とシーツおばけの至東を指差して雨泽が口にしたものだから、同じ姿を想像していた事にチックは少し驚いた。
「さぁさ、御覧じろですぞ!」
 明るい声とともにヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が頭を取り外せば、ワッと見物客等から声が上がった。常ならば悲鳴が上がったかもしれないが、今日は妖のお祭りゆえ、仕掛けは? 同胞か? と好奇心に輝く瞳ばかり。
 ひそりと呼んだ霊魂は『見える人』にしか見えないが、それでも『彼等』も雰囲気を楽しんでくれているようでヴェルミリオは「楽しいですな、フローラ」とフローレンス ポー(p3p010733)にカラカラと笑いかけた。
「このヒャッキヤコウは素敵なパレードね、ヴェルミリオ兄さん!」
 わたしとっても気に入ったわと笑むのは、彼女たちのような骸骨でも変装をしなくてもいい。ありのままの姿で皆と一緒にいられることは、なんて素敵なことなのだろうか。
 カアァカアァと不気味に鳴く烏の声をBGMに紅い浴衣の骸骨姫が気分のままに歌いだせば、黒い浴衣の骸骨兵も近くの参加者たちも彼女の歌に合わせて歌詞を知らずとも調子を合わせて口遊む。
 妖たちのパレードは、終点までついたらまたそこが始点になって、最後の一人が抜けるまで――太陽が昇るまで夜の漫ろ歩きは終わらない。
 さあ、楽しく歩こうあやかし道中を。
 我こそが妖であると! 己が化生を誇って魅せよ!

●背筋にひやり
 ――此処は現し世との狭間。
 外の賑やかさとは切り離された料亭の一室で、陰鬱そうな表情をした司会者がそう口にして、今宵の宴は始まった。
(どうして来てしまったのだろう……)
 いくつか話を聞いた時点で、虚気 影踏(p3p008838)は後悔していた。
「さぁテ、今日いたしますお話ハ……」
 話慣れた、情感たっぷりのコヒナタ・セイ(p3p010738)語り草が、静かに静かに場を支配していた。
「怖いですカ? 怖いですカ? ふふ、怖くしてますからネ!」
 誰かが息を呑むのに合わせ、影踏もヒッと息を飲んだ。恐ろしすぎて声も出ないし、最後までこの場にいられるかどうかすら不安でわからなかった。
 影踏が怯えるのに気付いて、コヒナタがふふと小さく笑う。やはりこうでなくては。怖がってくれる人が居るからこそ、語るのも楽しいのだ。
「では、一人の女の話をしましょうか……」
 そうして水無比 然音(p3p010637)が語るのは、とある井戸の話だ。
 願い井戸と呼ばれる古い井戸には、その者が心から願った物がひとつ浮かんでいるという噂があった。ある者は近海を手にし、ある者は失くした親の形見を取り戻す。
 ある日、願いの無い女が飛び込んだ。
「井戸から上がった女は狂い、井戸は封じられたそうです」
 さて、女が井戸の底で掴んだものとは――?
 蝋燭が消え、次は僕がと口を開くのはキイチ(p3p010710)だ。
「聴くと死んでしまう音楽、というものをご存知ですか?」
 その音楽を聴いた者は、ある者は入水、ある者は首に縄を――と必ず自ら死を選ぶのだそうだ。
「しかしその曰くとは裏腹に、それは軽快な祭り囃子のようだとか」
 ほら、ねえ。聞こえますよね。外からも――。
「……此処って宿泊はできるのか?」
 そんな話を聞いた後では、会を終えた後に帰れる気がしないと大きな男が震えていた。
「……これはおいらが衛兵になりたての頃の話でな」
 鬼の仮装をしたフーガ・リリオ(p3p010595)は、怯えてばかりでは駄目だと口を開いた。震える声が話すのは、夜警時に聞こえた女の啜り泣きの話。
 声を辿って見つけたのは、泣いている女ではなく――建物裏に埋められた無残な遺体。
「街中に響く程の泣き声は余程見つけて欲しかったんだろうな……」
 影踏の番が回ってくる。
 前の世界の話を豊穣風に置き換えて話すのは、深夜の心霊スポットドライブの話。
 馬車での夜の旅。肩透かしだったと山を降りる最中に、事は起きた。
 突如慌てたように馬を駆けさせる御者と、それを止める友人たち。
「何か纏わりついている。確認して欲しい、と御者は言った」
 恐ろしくて自分では確認が出来ないからと、手綱を握る手を友人たちが確認すれば――。
「絡みつく手が、無数に――」
 ヒィと聞こえた声は、フーガのもの。
「友人たちは悲鳴を上げて馬車を降り、けれど御者は馬を走らせて去り――その御者の行方は未だに知れない……」
 ふう。影踏は蝋燭の炎を吹き消した。
「仮装をしている人の素性を尋ねてはダメなんだって」
 正体を隠し、何が紛れているのかは解らない。
 賑やかさに惹かれて遊びに来ているのならいい。けれど引き込みに来る性質の悪いやつだっているのだ。
「気付いても、気付いちゃいけないんだ」
 皆も気をつけて。
 意味深な笑みを残し、アンリ・マレー(p3p010423)はふうと静かに蝋燭を消した。今語ったアンリだって、アンリの振りをしたナニカかもしれないのだから。
「そうだな、実際にオレの身に起こった話でもしよう」
 フォルエスク・グレイブツリー(p3p010721)の屋敷で、水が垂れる音がした。
 ぽたぽたぽたぽたと、まるで呼ぶように。
 締めにいって、戻る途中。真っ黒な人間の形をした塊に遭遇した。
「その影人間は凄まじい速度で接近してきて、オレは……」
 ふうと蝋燭を消せば、続きはと声が上がる。
 フォルエスクがここに居ることが全ての答えだが――さぁとはぐらかし薄らと笑み。
「私の番ですね。昔々或る所に獄人の妻を持つ男がおりました」
 しかし彼は、美しい八百万の娘と出会い、村を出ていこうとした。
 村から出て一歩、足は醜く歪む。二歩、肌は真っ赤に染まる。三歩、禍々しい角が額から生えた。
 娘に逃げられた男は仕方なく村へと引き返す――が、村は何処にもない。
「男は今でも誰かを探しているそうですよ」
 ほら、足音が聞こえてきませんか?
 耳を澄ます静寂が落ちる中、槐 槐(p3p010747)はふうと炎を消した。
「最後はわたしの番ですね!」
 最後のひとつの蝋燭の前に、澄恋(p3p009412)の明るい笑みが浮かぶ。
 時折深夜に聞こえる怪しげな金属音と悲鳴。
 そして鋭い牙を持つ血塗れの白い化け物の目撃情報。
「けれどかめらには不法侵入者は特に見当たらず……ふあ……」
 溢れた欠伸を手で隠し、昨夜お遅くまで白無垢を洗っていましてと淑やかに笑う。
「予定がありますので、これにて失礼しますね!」
 治験だとか何だとか物騒な言葉が飛び出たけれど、良い所で止められては聞き手は困ってしまう。最後の話なのに!
 けれど無残にも澄恋は蝋燭を吹き消してしまい、場にはしんと闇が降りてきた。
 先程まで沢山の人の気配がしていたはずなのに、明らかに気配が足りていない。
「あら。皆さん帰り支度が早いのですね」
 ころりと笑った澄恋の声に、フーガの甲高い悲鳴が重なる。
 さぁて。騙っていたのは誰だったのだろうか――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

あやしあやかし、あやしい一夜。
皆さんにとって、どんな夜となったでしょうか?
楽しかったのなら、また来年も妖たちとともに一夜を――。

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