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シナリオ詳細

<天翼のグランサムズ>雹塊降り注ぎ、壊剣は喉笛に至るか

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「なるほど……あの森の奥にはそのような大樹と魔物が……」
 テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)がころころと表情を変えながら報告書を読み終えた頃。
「結局、天翼のグランサムズの話が本当にあったかは分からないが……墓標のようなものも無かった」
 ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は言いつつもあそこで実際に何かがあったことは考え付いている。
 そうでなければ、蓮杖 綾姫(p3p008658)があそこで倒れるようなことも無かったろう。
「だから、もう少し調査をしてみたが……恐らく、墓標を俺達は見たんだろうな」
「おや? 無かった、のでは?」
「あそこにあった大樹、あれが墓標なんだろう。
 普通に墓を立てるわけにはいかない理由があったんじゃないか?」
「なるほど、素晴らしい推察ですね。それなら墓標らしい墓標がないことに説明はつきます」
「そもそも、墓標が立てられるはずがないのです。
 どれほど彼が嫌でも――彼にそれを否定するだけの力はなかったでしょうから」
 そう言った声に視線を向けると、綾姫がふるふると小さく首を振っていた。
「――夢を、見ました。
 美しい蒼銀の狼の視点から、まだ若い少年に殺される夢です。
 心臓を一突きにしようとして、それでも力が足りず動脈を幾つか裂いた少年に殺される狼の夢を」
 あの時に倒れ、その時に見た夢。
 泣きながら殺して、夢の主を殺す少年が酷く憐れで、悲しかった。
 だが、それは殺されたことにではない。
 理解できなくて悲しかったのは、少年が悲しんでいたこと。
 そうまでして、『思いが通じ合っていた』愛おしき少年に自分を殺させようとする、彼の周囲の全てが赦せなかった。
 ――なぜ、貴様らは手を出さず、この子に我を殺させる?
 ――どうして、この子が悲しむようなことをして平気で笑っている。
 ――赦さない、貴様ら一族諸共、絶対に赦しておくものか。
 嘆きと怒り。その本質が纏わりつくように最期まで彼らを呪い続けた。
「それが、あの呪いか……それならたしかに、墓標なんて作られる筈がないな」
 墓標を作り、埋葬しなおすのがばれることをその少年が出来る力を持っていたとは思えない。
「――ですが、きっとその子は長じても自分の罪を忘れなかったのです。
 だから、自分が彼女を殺したその場所に、1本の木を植えたのでしょう」
「なるほど! 墓標はなかったのではなく、その大樹こそが墓標であったと、そういうことですか!」
 綾姫が語り終えれば、テレーゼが目を輝かせた後に少し目を伏せた。
「悲しい話でもありますね。ですが……ええ、力のない当主が一族の命令に逆らえないというのも、ないわけではありません」
 テレーゼがやや視線を逸らす。
 場合は違えど、実権を握るテレーゼ自身、当主の妹という当主一族である。
 思い当たる節があるのだろう。
「あぁ、そうだ。実は1つ。私も仮説をご用意しました」
 そういうと、テレーゼは話を切り替えるように2人を見上げた。
「今回の話に絡んできているあの小説、天翼のグランサムズ……でしたっけ。あれについてです」
「あれは初版本含め、内容に不審な点はなかったんじゃ?」
「えぇ、でも装丁がそうで中身が別まで行くと探しようがありません。
 これは仮説なのですが……アダレード・オークランドが求めていた天翼のグランサムズは、本ではなかったのではないでしょうか」
「本じゃない……だと? 書斎にあるって言ってたのにか?」
「えぇ……なので、正確に言うのなら『本にすらなる前の段階のもの』であったのでは?
 私は物書きではないので良く知りませんけれど、作家の方はプロット……でしたっけ?
 本を書く前にそういう、ネタを纏めた設計図のようなものを作るという話を聞いたことがあります」
「あぁ、詩だってなんだってそういうのは作る奴は作るが……」
 ヤツェクが頷くとそれに背中を押されたようにテレーゼは話を続ける。
「小説にする前の段階――小説として世の中に出すよりも前の。
 つまり、もっと生々しい、『本当にあの当時あった事が書かれていた日記』のようなもの。
 そんなものが存在していたのなら……それを創作物と言う体で保管していたのなら」
「アダレードが求めていたのはそれだったと……ではそれは一体どこに?」
「さぁ……ですが、おちょくられたと彼女が言っていたのなら、オースティン卿は既に破棄したのでしょう。
 ――生々しい真実が書かれていて、それを元に何かするつもりだったのなら、破棄した方が遥かにいい。
 どうせ、語り継ぐ人だっていませんから、ね?」
 そう言ってテレーゼが小首をかしげた所で、ノックが鳴り、女性が一人姿を見せた。
 入室の許可を受けて入ってきたのは、緑色の髪を束ねた女。
「カルラさんでしたか。何か?」
「エーレンフェルト南方に、魔獣の影あり。
 先頭に、黒翼で金色の髪をした飛行種の女あり……到達予想日は……七日後ってところね」
「アダレードか!」
 ヤツェクは先頭を行くという女の容姿で直ぐに察しがついた。


「はいぃぃ?」
 テレーゼが素っ頓狂な声を上げた。
「て、テレーゼさん?」
 偶然にこの地に立ち寄っていたサイズ(p3p000319)はそんな声を上げた女性に驚きつつも、視線を巡らせる。
 そちらには1組の男女がいる。
 1人は同僚であるローレットのマルク・シリング(p3p001309)で、もう1人は紅髪の女性だった。
 テレーゼは2人から報告を受けた途端、先程の声を上げたのだ。
 もちろん、不思議な話ではあったが、驚くほどの事でもなさそうだったのだが――

 マルクはちらりと視線を自分の隣にたつ紅髪の女性――イングヒルトに向けた。
 マルクにとっても部下のような立場であるイングヒルトは、正確にはテレーゼの部下である。
 テレーゼのギフトは『自らを殺して貴族らしい、あるいは指導者らしい装い、振る舞い、性格、思考、言動を行うことができる』というものだ。
 そんな彼女が、事もあろうにイングヒルト――部下から受けた報告に、ギフトで取り付く島もなく声を上げたのである。
「テレーゼ様、素が出てますよ」
「あぁ……ごめんなさい、イングヒルトさん。もう一度、ご報告お願いしても?」
 未だなお、若干の引きつった顔をしながらも促されれば、イングヒルトが教養の深さを感じさせる所作の後にどこか申し訳なさそうに告げる。
「テレーゼ様、私の下にお手紙が届いていました。――グレアム・アスクウィス卿からです」
「…………え?? 何故……?」
 改めて聞いても、言われた内容にテレーゼは『どういうこと??』と言わんばかりの表情を浮かべている。
 困惑しきりだったテレーゼは一つ息を吐いてふるふると頭を振って取り繕うと、貴族然とした表情で顔を上げる。
「すいません。お手紙、ですね。お手紙……ええ、それで、内容は?」
「はい、テレーゼ様へと面会の要請のようでした」
「……面会、の……要請、ですか」
「はい、理由は不明ですが、彼は――魔種グレアム・アスクウィスは、テレーゼ様への面会を要求しております」
「……マルクさんも、ご存知でしたか?」
「僕もここに来るときに教えてもらったばかりです」
 イングヒルトからテレーゼがこちらに視線を向ける。
 その視線にはやはり困惑があった。
「……なるほど。しかし、魔種であり、聞く限り私についても良くは思っていないであろうグレアム卿がなにゆえ私に面会を?」
 アスクウィス家はブラウベルク家に因縁がある。
 まず、直接の主君ともいえたオランジュベネ家の当主が反転を引き起こした果てに反乱を起こしたことで滅び。
 そして、オランジュベネが反乱を起こしたあくまで大義名分はブラウベルク家の討伐だった。
 結果として、少なくとも現時点では魔種とは相容れぬイレギュラーズの支援を受けたブラウベルク家が勝利し、オランジュベネの一派は没落した。
 この反乱の前後で反転し、潜伏したグレアムの父ジュリアスはミーミルンド派に与してヴィーグリーズ会戦にてイレギュラーズに討たれた。
 言葉にすればただそれだけの流れである。
 ――とはいえ、そのことを考えればグレアムはテレーゼを嫌っている、ないし敵対的な感情を持っているはずだ。
「分かりません……ただ、グレアムは魔剣を手に入れていました。
 それで何らかの事件を起こす気……なのだとは思います」
 長らく黙考していたマルクは、改めてそう告げる。
「そうですか……あの、お手紙を見せて頂いてよろしいですか?」
 問われたマルクがイングヒルトに視線を送れば、イングヒルトから手紙を受け取ったテレーゼは、真剣そのものの様子で手紙に視線を降ろす。
「これは、なんというか……かなり格式ばってますね。正式な外交文書と言っても過言じゃありません。
 これを出されては、私も無碍にするわけには……」
 暫く真剣そのものだった視線は徐々に引きつり、露骨に嫌そうな顔になる。
「はぁ……面倒くさい……」
 ――挙句の果て、テレーゼは思わずそう零して、手紙をぽろりと手放した。
「テレーゼ様、どうしますか?」
「……ローレットの方に、私の護衛をお願いします。
 マルクさん、お手伝いをお願いできますか?」
「分かりました。ということは、この話を受けるんですか?」
「危険すぎる! 相手は魔種なんだ!」
 思わずずっと聞いていたサイズも思わずテレーゼの方を向いて言えば、彼女の表情は穏やかではない。
 全力を持って貴族を取り繕ったままだった。
「えぇ、受けます。受けましょう――受けるしかありません。
 相手は貴族の公式文書として今回の手紙をこちらに渡してきたのですから。
 これを蔑ろにしてしまえばどうなるのか……マルクさんは想像つきますか?」
「分かりません。でも、グレアム・アスクウィスは傲慢の魔種です。
 彼の事を僕はよく知らないけど、傲慢というフレーズから考えれば、要求を無視するのは得策じゃなさそうだ」
「……ですね。私もそう思います。だから、受けましょう。
 下手に蹴っては相手の動きが読めません」
 そういうテレーゼの表情は、あくまでも貴族(せいじか)のそれだった。
「同時に、ローレットの皆さんを20人ほど、お借りすることになりそうです。
 ――まさか全く同じ日に、別の場所で一斉に魔種の襲撃があるなんてこと、偶然で片付けられません。
 これはブラウベルク家に対するグレアム・アスクウィスとアダレード・オークランドによる共同作戦です」
 首謀者がどっちなのかは――知りませんけれど。
 そう言い捨てて、テレーゼが依頼状を書き始めた。


「邂逅に向け、準備はしてきたつもりですが……まさかこんなことになるとは思いませんでした」
 リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は南の地平に掛かる黒を見ながら思わずつぶやいていた。
 黒――それらすべてが魔種アダレード・オークランドによる扇動を受けた魔獣の群れであるなど、想像したくもない。
「領主代行として同じ彼女に何か手助けできないかと以前から打診してはいたが、こうなったか」
 隣で立つベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)もまた、その光景は視野に入る。
「ご主人様、ご足労頂きありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げたリュティスに、ベネディクトは真剣な面持ちのまま首を振る。
「全く、デートというには少々、観客が多すぎないかな!」
 影を眺めみるヨハン=レーム(p3p001117)は、その先頭に立つアダレードの姿を確かめながら声を上げた。
「こんにちは、閃電の勇者様。
 お手紙代わりに7日前から姿を見せておいて差し上げましたわ」
 くすりと笑って、魔種が手に握る弓を鳴らせば、魔獣たちが応えるように咆哮を上げた。


「お初にお目にかかります、テレーゼ様。
 私の名はグレアム。グレアム・アスクウィス。
 御身の命を頂戴に参りました」
 禍々しい魔剣を手に、騎士が声を上げた。
 その周囲には宙を浮かぶローブ姿のナニカ。
 魔物らを引き連れて姿を見せた魔種は、いっそ清々しいほど真正面から、領主館の目の前で宣戦布告を告げる。
「とはいえ、無力のご婦人を一方的に嬲る気はありません。
 ――御身の代行者と一戦、頂きたい」
 バルコニーへ姿を見せたテレーゼを射抜くように、魔種はそう続けるのだった。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 天翼のグランサムズクライマックス直前、同日同時刻二正面作戦となります。
 要は目の前の敵をぶん殴れ!!です。

●オーダー
【1】アダレード・オークランドの撃退もしくは撃破
【2】グレアム・アスクウィスの撃退もしくは撃破

●フィールドデータ
【1】エーレンフェルト南方
 平野部です。事前準備として陣地や罠を築いても構いません。
 作る場合は何を目的とするのか、どう作るのかに非戦スキルでの上方修正が加わります。

【2】ブラウベルク領主館
 よく整備された庭園です。
 事前準備で罠を作成することも出来ます。
 作る場合は何を目的とするのか、どう作るのかに非戦スキルでの上方修正が加わります。


●特殊ルール
【1】
・集団戦
 イレギュラーズ側は戦いに際して後述する傭兵、もしくは自領から10人規模の部下を率いることができます。
 また、指揮官として妥当な関係者に小隊の指揮を託しても構いません。
 加えて、関係者に10人、自分でも10人の部下を率いることも出来ます。
 小隊を率いる場合、その配下は特別に記されてない場合、PCと同じ系統のステータス構成になります。

・悲嘆の呪い
 フィールド【1】に蓮杖 綾姫(p3p008658)さんが参加される場合、任意タイミングで【悲嘆の呪い】が発動できます。
 発動ターンから7ターンの間、フィールドの魔獣の行動を放棄させることができます。

【2】
・防衛戦
 この戦場は防衛戦になります。
 一定以上に戦線が後退すると魔種勢力が護衛対象に向かって攻撃をしかけます。

【1・2】排他
 当シナリオの戦闘は『全く同時に開戦』となり、お互いの戦場にはそこそこ距離があるため、
 どちらかの戦闘に参加した後でもう片方へ移動する、ということはできませんのでご注意を

●エネミーデータ
【1】
・『黒羽の天翼』アダレード・オークランド
 傲慢属性の魔種です。かつては美しき金色の長髪と白色の羽をした白鳥の飛行種でしたが、今は濡れ羽色の翼をしています。
 何処で手にしたのか、魔獣を操作する特殊なスキルを持っているようです。

 【凍結】系列の魔術と弓術を用いる神秘スピードアタッカーです。
 弓だけあり、主体は遠距離戦闘ですが、魔種だけあり、近接戦闘も出来ないわけではありません。
 単体、扇、貫、範射程を持ちます。

・オルトロス×???
 2つの頭部をもつ犬型魔物です。身長2m~3m程度で獰猛で攻撃的。
 また、どうやら石化の魔眼を有している様です。
 帯電している様子から【痺れ】系列、その牙から【出血】系列のBSを用いることが推察されます。

・ステュムパリデス×???
 翼、嘴、爪が青銅で出来た巨大な鳥です。
 その羽ばたきによって強風を起こし、【窒息】系列、【乱れ】系列のBSをもたらします。

・キメラ×???
 獅子の顔と身体、背中に山羊の顔を乗せ、翼を生やした大型の魔物です。
 【重圧】を加え、【狂気】を与える魔眼を持ち、【火炎】系列を与える炎を吐きます。

【2】
・『灼銀の壊剣』グレアム・アスクウィス
 赤色の瞳に銀色の髪の騎士。元人間種の魔種で、属性は傲慢。
 その手に握る魔剣は【火炎】系列、【出血】系列、【致命】を与え、その剛力は【乱れ】系列を押し付けるでしょう。
 また、一部スキルには【災厄】属性が付与されています。

 分かりやすいパワーファイタータイプです。
 連撃性能ことやや低めですが、その分、一撃は非常に重いものと思われます。

・『流離う者』グラムリッパー×10
 ボロボロのフードに身を包み、袖からガントレットが覗く浮遊する怪物です。
 常に3mほどの低空飛行状態にあります。
 その両手に刃先が四叉に別れた鎌のような武器を握っており、ガントレットの爪先は鋭くとがっています。

 前段シナリオ『<天翼のグランサムズ>魅せられた物語』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7600)
 参加者はそれが前段シナリオにて森の中で遭遇した魔物であると悟ることができます。

●友軍データ
【1】
・傭兵×40
 ブラウベルク家が契約している傭兵の皆さんです。
 戦力として十分に信頼できます。
 普通に戦力として起用する他、陣地作成の際には人手としても活用できます。

 指揮官として隊長のユルゲン、参謀のクラウスという人物がいます。
 なお、イレギュラーズは小隊の兵士として借り受けることも出来ます。
 指示が無ければ基本的には魔獣との戦いに専念するでしょう。

【2】
・ブラウベルク兵×20
 ブラウベルク家の兵士達です。
 指示が無ければ基本的にはグラムリッパーとの戦いに専念します。
 また、マルクさんが参加される場合、
 指揮官として『忘れられた武略』メイナード、『流転する槍媛』イングヒルトが配置されます。

●優先参加者について
 優先参加者の皆さんは現時点では以下のような振り分けで参加する形になります。
 とはいえ、別の方面での参加を禁ずるものではありませんので、選択はご自由に。

【1】
 ヨハン=レーム(p3p001117)
 リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
 蓮杖 綾姫(p3p008658)
 ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)

【2】
 サイズ(p3p000319)
 マルク・シリング(p3p001309)

●プレイング書式について
 出来るだけ下記のような書式でお願いします。
 プレイングの1行目に向かう場所(下記【1】、【2】)※1
 プレイングの2行目に同行者やタグがあれば
 プレイングの3行目から本文を書いてください。

例:
【1】

 皆をヒールで助けるよ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <天翼のグランサムズ>雹塊降り注ぎ、壊剣は喉笛に至るか完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別長編
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年08月10日 22時05分
  • 参加人数20/20人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代行業
ヨハン=レーム(p3p001117)
帝国軽騎兵隊客員軍医将校
マルク・シリング(p3p001309)
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
シラス(p3p004421)
竜剣
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
回言 世界(p3p007315)
貧乏籤
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空猟兵
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒き葬牙
ラムダ・アイリス(p3p008609)
咎狩り
蓮杖 綾姫(p3p008658)
厄斬奉演
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
奏で伝う
ユーフォニー(p3p010323)
ドラネコ配達便の恩返し
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
輝奪のヘリオドール
フロイント ハイン(p3p010570)
友人/死神

リプレイ


 夏の盛りに差し掛かる平野に陽の光に熱された温かい風が吹いていた。
 かなり緩やかな、丘ともいえぬほどの丘陵を持ちつつもただ草原の広がるそこで、多くの人々が動き回っている。
「ちょっと悪い、手を貸してくれ。人手が足りないんだ」
 そう言って到着したばかりの傭兵へと声をかけたのは『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)である。
 偶然のいたずらか、都合よく飛行種が多い彼らを10人、アルヴァは一先ず借り受ける。
「なんでも敵は空を飛んでる奴が多いらしい。対空用にバリスタと投石器を作りたい」
「あぁ、いいぜ、それで? 材料は……この辺のか?」
「あぁ、よろしく頼む」
 頷いた彼らとともに、アルヴァは早速作業を再開していった。
「妙に渋ると思ったら……なるほど、そういうことでしたか。気が回らず申し訳ありません」
 馴染みの商人である妙に小物っぽい男の話を一通り聞いた『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はひとまずの謝罪の意思を示す。
「アータに言われちゃァ仕方ねぇですが、アッシぁただの無力な小市民でしてね?
 あまり貴族様とはかかわりあいたくないんですがね?」
「ところで……」
 何やら言っているカールに対して瑠璃はそのまま話を続けて行く。
「今日、あなたをここに呼んだのは商い以外の理由もあるのですよ」
「……なんです?」
「今回は敵の数が多い。実は傭兵を率いて戦える人物の協力が欲しいのですよ。
 主に持ってきて頂いた材料を使った罠や陣地の設営、それから魔獣との戦闘ですね」
「自分にですか? ……分かりました」
「よろしくお願いします」
 今までの小物じみた雰囲気が鳴りを潜め、騎士を思わせるような威風を纏ったカール――ニコライに瑠璃が言えば、彼はその場から立ち去り、傭兵の方へと近づいて言った。
「よし、完成。次だな」
 『竜剣』シラス(p3p004421)の周りには幾つものくくり罠が準備されつつある。
 作りは雑極まる物がほとんどであり、目立ってしまう物すらもあるが、そんなことよりもまずは量産こそが一番だった。
 足止めが一番だが、なによりも進路そのものを限定することを目的とする以上、作りの雑さも目立つことすらも許容範囲だった。
「お前らもどんどん作れよ」
「分かってらぁ……ったく、まさかこんなことも手伝わされるとは」
 ぶつくさいいながらも量産に精を出すのは凶暴そうな男たち。
 自領でもあるスラムの罪人たちの中でも、特に腕プ氏に長けた凶暴な連中だ。
 減刑を約束したこともあり、文句こそ言いつつも従っている。
 着々と進められていく迎撃体制を確かめていた『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)はふと視線をあげる。
 そこには準備が出来たらしい自領の部下たちの姿――正確には名義貸しでしかないために部下と言うのも不思議な関係性ではあるが。
「それでは早速、協議を始めましょうか」
 ヘイゼルが言えば彼らが小さく頷いて席に着く。
 それは実戦となった時のための連携、傭兵を検討しておくためのもの。
(二正面作戦とは彼方さんも本気のようですね。
 ……まあ、私は緊急の依頼を受けただけで襲撃側とは初対面なのですが)
 迫りきているという敵の情報と、ここではない地を襲う敵の情報。
 それらを改めて検討しながら、ヘイゼルは傭兵達の案をひと先ずは聞いていく。


「魔種なのにわざわざ書類通して会いに来るのか……」
 ぽつりと呟いたのは『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)であった。
「騎士らしくあるため、傲慢の道を選んだグレアム卿。
 だから、正式な外交文書で面会を求めテレーゼ様の命を狙うのも、その傲慢に所以する行動かもね」
 答えたのはマルク・シリング(p3p001309)だ。
(もし断れば……騎士の誇りを誹られたと、領内は惨劇だったかもしれない。
 テレーゼ様の英断を、名代として支えるまでだ)
 傲慢の魔種――であるがゆえに、そのことにマルクは改めて意識を向けた。
「なんであれ、お陰で事前準備する時間があるのはありがたい。堅牢な防衛陣地を作ろう、鍛冶屋の本髄見せてやる」
 ふぅ、と一息入れて視線を上げれば、既に1つ完成までこぎつけた櫓がある。
「まぁ……出来てるのは館の中からも見えてましたが、もう1つ完成されたのですね」
 ……必要なものがあれば、いくらでも言ってくださいね?」
 そう言って首を傾げるのは依頼人であり護衛対象でもあるはずのテレーゼである。
 その日が来るまであと数日。
 傲慢であるがゆえに、敵はその日程を前倒しにはしまい――そう言っていた彼女は、現場にひょっこりと顔を出してくる。
「あぁ、大丈夫だ! それより、万が一の事も考えておかないと。
 最悪の時、テレーゼさんが逃げられるように逃走ルートはしっかり構築しておくよ」
「ありがとうございます。とはいえ、逃げるような場所はありませんから、
 そのような事態になっては、折角のご準備も意味がないかもしれませんが……」
「もちろん、俺も出来る限りのことはするし、イレギュラーズの力は信頼してるけど……いつだって理不尽は不意に降りかかるものだからね」
「ええ、本当にそうだと思います」
「テレーゼ様、ジュリアス討伐時に借りたブラウベルクの旗を今一度借用してもいいですか?」
「ええ、もちろん構いませんよ。館の敷地内ですから借用というのもおかしな話ですが、足しになるのであれば」
 『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)は陣地構築作業を開始するサイズの手伝いを行っていた。
「ソーちゃん、一緒に頑張ろうね!」
 ドラネコ型ロボットが、にゃっฅ^•ω•^ฅ と頷いてから一緒に資材を運んでくる。
(状況は全くもってわからんが、魔種ならば取り合えずぶちのめしておけばいいんだろう?
 ……と言いたいところだが、とりあえずお嬢の命が第一だな)
 『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)がぼんやりとそんなことを考えていると、気付いたらしいテレーゼが首をかしげてから近付いてきた。
「どうかしたのか?」
「いえ。何やらこちらを見ていたような気がしましたので。
 お久し振りです。来てくださって嬉しいです……よろしくお願いしますね?」
「まぁ、自他ともに面倒くさがりではあるが、領地を借りてる恩もある。たまには身を粉にして働くとするさ」
「ふふ、力強いです」
 ぶっきら棒な答えへ、テレーゼからの微笑が返ってきた。
「テレーゼおねーさんったら、実はモテモテなのでしょうか? ……なんて言ったら可哀想ですね」
「否定はできませんね……事実ですし、仕方ないとも思います」
 冗談交じりにからかう様な声で『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が言えば、テレーゼは達観したような、諦観したような笑みを浮かべた。
「グレアムが何を考えているのかイマイチ分からないけれど、取り合えず殴ってモンダイ無さそうだよね?」
「ええ、そうなるかと」
「じゃあ話がハヤイ! テレーゼも話したい事があるだろうけれど、込み入った話はぶっ飛ばしてからにしよう!」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はテレーゼの言葉を受けてそういえば、彼女が目を見開いた。
「そう、ですね……」
 こくり、とテレーゼが頷いた。


「……これは驚いた。何とも真っ直ぐだね、清々しいよ。でも彼女の命はあげません。
 君はここを通れないからね。お帰りはあちらだけど……帰る気は無いか」
 堂々と名乗りを上げた魔種に対して愛杖を構えるのは『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)である。
「当然。通さぬというならば、押し通るまでのこと」
「結構。ならば帰りたくなるまでぼこぼこにしてあげよう」
「――舐められたものだ」
 構えられた魔剣には禍々しいまでのオーラが纏う。
「随分と物々しい使節外交団を引き連れてきたものだ。
 最初から正直に戦を始めたいと言えばいいものを、貴族の格式とは面倒なものだ」
 愛剣を抜き放った『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)に、騎士を思わせるグレアムがすっと視線を向けてくる。
「貴公は?」
「黒一閃、黒星一晃。一筋の光と成りて、灼銀の壊剣を此処で折る!」
 堂々たる名乗り口上、ギフトの効果もあり言い切れば。
「『灼銀の壊剣』グレアム、貴公の名乗りに応じよう」
 静かに魔種が更に闘志を溢れだしてきた。
「『灼銀の壊剣』。ふふ、良い名前ね。
 どうぞ、私は『李花(りーふぁ)』とお呼びくださいな?」
 フルールは魔種の姿を見ながら微笑むと自らの二つ名で答えた。
「李花、とは美しく華憐な二つ名だ。その花飾りから来たものかな?」
「さぁ、どうでしょう?」
「傲慢に属する魔種ですか。言動こそ慇懃ですが、僕達のことなど虫けら程度にしか思っていなさそうです。
 確かに、ブラウベルク家の兵士さん達はイレギュラーズですらありません
 ですが、例えどんなに矮小な存在でも、断固たる意志があれば無限の力を発揮できるということを、今から証明してみせましょう」
 大鎌をくるりとふるった『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)に、グレアムが魔剣を掲げると、魔剣が禍々しいオーラを放つ。
 それに応じるようにグラムリッパー達が鎌を構え始める。
(あの魔剣……美味しそうだな……溶かして鎌に吸収させて、食いたいな……終わった後頼んでみるか……)
 その輝きを見たサイズはほんのりとそんなことを考えていた。
(いや、まずはテレーゼさんには近寄らせないようにしよう!)
 魔砲のユニットを装備させ、固定すれば。
(魔種……きっと彼らも唆されて揺らいで……転じてしまったんでしょう
だからこそ救いたい……なんて思いもしますが、その手段は、終わらせることしか私は持ち得ません)
 目の前に立つ魔種に一種の憐憫を覗かせて『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は静かに血印に力を籠めた。
 その手に刻まれた印がますますと熱を帯びて行く。
「ええ、大丈夫です。少なくとも、ここで彼らを倒さなければ…もっと、被害が出ます。
 ですから、私は一切遠慮も容赦も……しませんよ。だって私は、悪い魔女なんですから」
 その視線が真っすぐにグラムリッパーへと向いた。
「マルク・シリング。ブラウベルクの旗の元にダリウス卿・ジュリアス卿を討った、貴公にとっての仇だ。テレーゼ様の名代として、グレアム・アスクウィス卿のお相手仕る」
「そうか――貴殿が。なるほど、そうか……兄を。ふっ、ふふ、ふふふ……兄上を、か! いいだろう! 貴殿を討てねば、こうした身に堕ちた意味も無い!」
 騎士が声を荒げたかと思えば、大きく笑ったかと思えば、次の瞬間、爆ぜるようにマルク目掛けて突っ込んでくる。
「おっと! スコシの間だけオレにツキアッテよ」
 それに割り込んだのは当初の予定の通りのイグナートだ。
 割り込むのと同時に牽制がてらに打ち込んだ拳は軽くいなされてしまう。
 だがそれはあくまで牽制であり、注意を引くためでさえない。
「むっ」
「まずはこれを受けてみてから考えてね!」
 握りしめた拳に雷光、踏み込んだ勢いのままに打ち込んだ拳は、闘志が唸り雷の如きスパークを放つ。
「――どうやら無視できそうにないな!」
 体捌きでいなされこそすれど、その注意がこちらを向いているのは明らか。
「ぶっ飛ばしたら聞けなくなるかもシレナイし今のうちに聞かせておいてよ!
 何でこんな芝居がかった手でテレーゼを攻めたの?」
「――俺は騎士だ。少なくとも、騎士であるというつもりだ。ただ、それだけよ」
「でも、こんなことすればオレたちが出張って来るのは分かりそうなもんだよね。
 モクテキはオレたちイレギュラーズとかだったりするのかな?」
「それは――ふっ、そうだな。それも、あった。
 兄を、父を討ち取った者達。それが貴殿らイレギュラーズだ。
 ――であれば、騎士として、一人の男として、それを為したお前たちと戦わずして散れようか!」
 容赦のない応酬、それを繰り返しながら、イグナートはグレアムとの対話を続けて行く。
「グレアムおにーさんはテレーゼおねーさんに用があると聞きましたが、どうして殺そうとするのです? あなたは魔種でしょう。そして、強いのでしょう? 呼び声で絡めて、側に置くという思考にはならないのですか?」
 フルールはそんな対話を聞いて、自らも問いたかったことを聞いてみることにした。
 フルールは、何も魔種だからと言った問答無用という気はなかった。
 そこに悲しい過去があるのなら、話を聞く余地はある。
 ただの魔種は、あくまでも同じ純種である、狂気に落ちてしまったのだとしても――そう少なくともフルールは思うから。
「――ないな。そもそも、私は彼女にそう言った感情は無い」
「なら、どうして? どうしてテレーゼおねーさんを殺そうとするのですか? 
 ふふ、もし納得できたのなら、私は味方になるかもしれませんよ?
 特別な理由もなしに殺そうとするならば、容赦はできませんけどね?」
「――いや、貴女の思うようなところはきっと何もない。
 私は、騎士として――貴族として、一人の男として、結果として彼女に滅ぼされた我が家の無念を晴らしたい、ただそれだけだ」
「そう、そうなのね?」
 それは手を貸すには及ばぬ理由、手を止めるには至らぬ理由。
「――それに、自らを好いてくれる女が、果たしたい事があるというのなら、少しぐらいは手を貸してやってもいい。そう思っただけだ」
 それは――いま別の場所で起きている戦いに関する事なのだろうとフルールは何となくそう思った。
「はっ、貴族様のいうことは気障っぽいことで。結局、ただ人殺しをしたいってだけだろ」
 世界は敢えて嘲りを籠めて笑ってみせる。
 魔術を放てば、言葉と表情に加えて注意を惹くには十分だった。
 前から迫るイグナートと削り合うグレアムの精神性を少しずつ蝕んでいく。


「二人はテレーゼ様の直衛を! メイナードさんは正面を固めて。
 イングヒルトさんは回り込んでくる敵への対処。
 バリケードや櫓を活用して、護るための闘いに専念してくれ!」
 マルクは戦場を俯瞰すると共にブラウベルク兵を指揮する2人へそう指示を与えつつ、グラムリッパー全体の位置を把握する。
「一気に片付けていくとしよう」
 踏み込みと同時、一晃は剣を払う。
 前線からはやや下がった立ち位置、圧倒的な反応速度を以って打ち出された斬撃は無数に、縦横無尽に戦場を駆け巡る。
 優れたる技巧を以って、シンプルに切り刻む美しき剣閃は正しく一騎当千の如く、それだけで大いなる災いを討ち果たす烈風の如く走りぬける。
「一緒にいけるか?」
 問いかけに頷いた射手らと合わせ、サイズは魔砲を一気にぶちまけた。
 真っすぐに戦場をかける魔力砲撃と矢がグラムリッパーを穿つ。
「どんなに挨拶が丁寧だって、言っていることは殺すということ。
 グレアムさんたちのこれまでを考えたら、やるせないで済まない気持ちもわかる気がします。
 でも…嫌なんです。だから、私も」
 いつの間にかすぐ隣に立っていた今井さんが前に出る。
「みなさんが傲慢なら、私も私の傲慢を突き通します」
 ユーフォニーは深呼吸をして真っすぐに前を向いてそう言い放つ。
 彩波揺籃の万華鏡がグラムリッパーの多くを包み込んだ。
 壮絶な天運を以って向こう側を見る。
「後は任せるよ――」
 ウィリアムは愛杖に籠る魔力を練り上げると、それと世界を繋げた。
 高度に高められた術式より行われた世界干渉に四象がそれを嫌ったように、或いはその干渉に応えるようにグラムリッパーへその権能を叩きつける。
 天災にも等しき権能が二度に渡って降り注いだその後、ウィリアムは愛杖に籠めた魔術を発動させると、仲間達の不調を取り除いていく。
 マルクが放った魔弾は幾つにも分かれて戦場に降り注ぐと、それらはまるでグラムリッパーの身体へと侵食するように吸い込まれていく。広域に降り注ぐケイオスタイドに魔物たちの動きが明確に悪くなっていく。
「文字通りの最終防衛ライン…ここを守る一人が数か月前は村娘だったなんて、
 私自身驚きを隠せませんけど……今は、ここを守る魔女の一人、心は十分……冷静沈着です」
 マリエッタは自らを奮い立たせるように呟いて、死血の呪印の力を活性化させた。
 自らの血を媒介として姿を見せたのは大鎌のような形状に揺蕩う血影。
 跳ぶように走り、近くにいた個体へと肉薄すると、思いっきり鎌を振り抜いた。
 それを躱そうと動いたグラムリッパーへと踊ったのは足元の影。
 無数の槍のようになった影がグラムリッパーの身体を貫いていく。

「――Generalpause」
 ハインは鎌を緩やかにふるった。
 真一文字に開かれた斬撃は大気を刈り取り、グラムリッパー達の動きをその場に固定する。
 多くのグラムリッパーの動きが制限された辺りで、そこ目掛けて仲間達の猛攻が注がれていく。


 その日、進軍経路として割り出された平野部には、イレギュラーズの陣地が築かれていた。
 瑠璃が主導した陣地構築は形を取っている。
 土嚢の築かれた本陣手前には偽装された罠がいくつも仕込まれ、要所となりそうな場所には鉄傘が据え付けられている。
 見事な野戦陣地を築かれたその場所へ魔獣の群れは姿を見せる。
「これはこれは沢山のお友達を連れてきてくれたものだ! 式でも挙げるおつもりかな? アダレードお嬢様?」
 自らの戦力を誇示するかのように悠々と、真っすぐに街道を突っ切って姿を見せた群れの只中にて、宙に揺蕩うアダレードを見据えて『約束よ?』ヨハン=レーム(p3p001117)は声をあげる。
「うふふ、そうでしょう? 壮観だとは思いませんか? 式――えぇ、それもいいかもしれませんわね?
 折角の再会ですもの。楽しみましょう?」
 楽しげに笑う女の居場所はここからでは狙いにくい。
「僕としてはもう少し静かで、穏やかで、夜想曲のかかるような場面で再会したかったものだがねぇ。
 いいよ、遊ぼうか。あのグランなんちゃらとかいう本への執着が少しばかり僕に向いてくれたと前向きに捉えておくね」
「グラン……ええ、あの本は結局手に入りませんでしたわね。思い出すと腹が立ってきますわ!」
 刹那、女の纏う気配が迫力を増す。
「随分な数の供を連れての邂逅となった様だな、アダレード・オークランド」
 頭上を見上げた『黒き葬牙』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はアダレードの姿を認めるとそう呟き、視線を後ろへ。
「……多くを語る心算は無い。戦う術を持たぬ者達を、守るべき者達を守る為に喰らい破れ」
 そこに居並ぶは自領よりつれてきた兵士達。
「承知いたしました、マナガルム卿!」
 実戦を積む経験としてもちょうどいい、そう判断したこの戦場。
 彼らの配分は堅実そのものである。
「突出をする必要は無い、崩れた所からフォロー出来る様に後衛は視野を広く持て。
 敵陣を殲滅し、突破するのは俺達、特異運命座標の役目だ」
「御武運を……!」
 兵士達の敬礼に頷いて、ベネディクトは槍を掲げた。
(夫殺しの次は娘殺しだ。どっちにしてもヘレナが傷つく結末ならば、おれは嫌われ役になろう)
 空に笑うアダレードを見つけ、『奏で伝う』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は内心にある女の事を思う。
 ――ヘレナ・オークランド。血のつながりはないとはいえ、アダレードにとっては母にあたる女。
(慕情は叶わないもんだ。叶えるには、年を重ね過ぎた)
 その思いは胸に秘めている。
(この戦が終わったら、おれを裁いてくれ)
 そのためにも――この場を生き残るのだと。
「なぁ、領主さま? なんか気負いすぎてねえか?」
 軽装の彼らは斥候役。かつては仕事にあぶれた傭兵、兵士、用心棒といった連中。
 そんな彼らだからこそ、戦場における気の張りに気付いたのか。
「いいや、そんなことはないさ」
 ひとまず首を振って否定しておいて、ヤツェクはギターに手を添えた。
「アダレード……貴女が何を目的にしてるかはわかりません。
 ですが、『獣の呪い』の真実に近づいた身としてはここを通す気にもなりません。
 我が黒蓮、手向けの花とします!」
 抜き放った黒蓮を構え『悲嘆の呪いを知りし者』蓮杖 綾姫(p3p008658)が告げる。
「おぉ、あの女ですか、蓮杖様がおっしゃっていた、例の呪いのナイフを持っている者というのは」
 率いるは魔導師兼考古学者という面々。
 オークランドにあった呪いと伝承についての話をしたところ、『それは興味深い! 是非に本物を見せていただきたい!』と目を輝かせた連中である。
「ガーハッハッハ、中々敵の数が多いようであるが、
 アダマンアントとの決戦を乗り越えたこの覇竜一の知識人にして
 スゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアである吾輩がこの頭脳を持ってして蹴散らしてくれようではないか」
 豪快に笑う『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)はめちゃめちゃ目立つ囚人服を纏いながら精霊爆弾を戦場に仕掛けていく。
(君らの目的は自身が作り出した武具の性能試験だったり改良点の洗い出しだったりした技能者集団だったはずだったけど……)
 領地から連れてきた10人の部下の様子を見ながら、『咎狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)はちょっと遠い目になっていた。
(なんだかちょっと見ない間にまた進化してる……うん、見なかったことにしよう)
 領地の工房で生産された機械刀と迷彩外套を装備した魔導機械化歩兵たちの姿と現実からちょっぴり視線を逸らして、こほんと小さな咳ばらいを一つ。
「じゃあ、諸君、魔導刃抜刀! 僕らの役目は敵首魁までの道を切り開くこと……さぁ、始めよう戦争の時間だ」
 返事はない――遊撃兵は静かに走り出す。


 連続するイレギュラーズの猛攻により、瞬くうちにグラムリッパーはその姿を塵のように変えて消えて行った。
「貴族の公的な面会の場を戦場に変えるのは、いささか無粋に過ぎますね」
 グラムリッパーの対処を終えたハインはその脚で一気に魔種へと肉薄するやそう告げれば。
「――ならばどうする?」
「上に立つ者のマナーとエチケットを忘れた者には、速やかなる退場をお願いします」
 振り返りざま魔剣を構えて告げたグレアムへ、全力の一撃を叩き込んだ。
 大いなる極光、創世の光。開闢の時に生まれる超エネルギー。
 それを再現する文字通りのビックバン。
 鮮やかな閃光は鋭くその身体に傷を叩き込む。
「最初から全力で行かせてもらおう」
 一晃は居合のように愛刀を鞘に納めると、一気に跳び出した。
 爆ぜるような飛び込みと共に駆け抜ければ、彗星の如き衝撃を内に潜めた居合抜きを叩き込む。咄嗟に合わせたグレアムと刹那の拮抗の後、斬撃が魔種の身体に傷を生み出した。
「グラムリッパーどもは消えたか……しかたあるまい、攻め切らせてもらうぞ!」
 グレアムは魔剣に力を籠めて剣を撃ちあげるようにして拮抗を外すと、大きく開いた隙を突いて剣を振り抜いた。
 放たれた斬撃は紅蓮の炎を纏い、戦場を走り抜けて遥か後方のテレーゼ目掛けて飛んでいく。
「……こっちは所詮遊びかよ、ふざけた奴め」
 世界は舌打ちし――小さく笑った。
 放たれた斬撃はテレーゼを貫き――その身体はゆらりと揺らいで、その場から消えた。
 直後、パチンと指を鳴らせば、各地から煙が立ち込めてテレーゼの姿を掻き消した。
「――なんてな。元よりそうなった時の保険はさせてもらってたぞ」
「――そうだったか」
「ソレジャ、改めて――イッキにショウブを付けさせてもらうね!」
 イグナートは拳を握りなおすと、腰を落として深呼吸する。
 壮絶な闘志が拳へと注ぎ込まれていく。 
 振り穿つは栄光の一手。自らの異常を取り除き、そのままに撃ち込むべきは破城の拳。
 咄嗟に魔剣で防ぐのを躊躇ったグレアムへと拳が突き刺さる。
「はっ――流石に重いな……!」
 楽しそうな声がそう返ってきた。
「貴方は、何のために戦うのですか」
 ユーフォニーは問う。
 グレアムは迫りくる数多な攻撃を受け、或いは躱しながらその問いを聞こえたのか静かにユーフォニーの方へ振りむいてきた。
「私は自らの誇りの為に戦うのみですよ。
 騎士として、兄の為に、家の為に――美しき小鳥の為に……なんて、そんなことを言っているが、結局、私は、私の誇りの為に戦っている」
「貴方の誇りとは――」
「――――大切な人たちを守る騎士である、ですかね」
 それがどうして、他人を殺すなんて決断をすることになるのか――ユーフォニーが言おうとした言葉を先読みしたかのようにグレアムが笑った。
「もっとも、私が守りたかった人達は、全員死んでしまいました。
 だから――せめて、穢れた誇りを雪ぐ戦いで死にたいのですよ」
 そう言ったグレアムが魔剣の出力を上げている。
「ところで」
「は、はい」
 咄嗟にだろうか。今井さんが身を乗り出してユーフォニーを庇うように立つ。
「貴女は何のために戦うのです?」
「私は……私は、私の大好きな世界のために戦うんです!」
「なら、私は倒さないといけませんね」
 ユーフォニーが真っすぐに告げた答えに、騎士は穏やかに笑った。
「私は、いるだけで貴方の好きな世界を磨り潰す連中の一人ですから」
 振り抜かれた斬撃を今井さんがかばい、けれど僅かにユーフォニーにまで届いた。
 ――万華鏡のように綺麗なこの世界の為に。
 願うように放たれた物を、騎士は愛おしげに微笑みながら真正面から受けてた。
 その身体に痛撃のご痕が滲むのを、騎士は気にすらしてないようにも見えた。
「言ったよね。彼女に届かせないって」
 ウィリアムは静かにそう告げれば、再び世界への干渉を開始する。
 幻影が4つ。それはまるで豊穣にあるかの四神にも似ているが、それとは異なる四の在り方。
 雷光が、灼熱が、水流が、グレアムを刺し穿ち、精神を呑む干渉が巻き起こる。
「アルトゲフェングニス」
 古の幻想種、勇者王の協力者の儀式魔術の縮小再現、大いなるは蛇の結界が身動きを止めた魔種をその内側に包み込んだ。
「……傲慢の騎士……騎士。猶更、負けられませんね。
 血の魔女が、貴方の輝きを奪い……そして、その血をもって未来へと運びます。
 だから……覚悟してくださいね」
「あぁ――やってみろ、魔女。ふ……まったく、これが英雄と呼ばれる者達か」
 マリエッタの言葉に合わせて、グレアムが笑った。
 どこか愉快そうに。その感情に合わせるように、彼の手に握られて魔剣が鮮やかに魔力を籠めなおす。
 そうは言えど、実際のところ、マリエッタのやることは何も変わらない。
 大鎌を構え直して、地面を蹴った。
 充足していく魔力に合わせて、緑のエメラルド色の瞳が、鮮やかな金のヘリオドール色へと移り変わっていく。
 真っすぐに駆けるマリエッタが身を低くして鎌を振り抜けば、それに合わせてグレアムが動く。
 魔剣が振り抜かれた。
 拮抗、けれど既に奇襲の影が魔種に襲い掛かっていた。
 幾つもの影の棘がその身体を穿ち、血がいくつもその身体から零れ落ちた。
 それでもなお、グレアムは笑っていた。
「魔女よ、貴殿はこの血すらも未来へと運ぶか?」
「えぇ、そう言ったはずですが」
「なれば――最期まで、足掻くか」
 ニヤリと笑ってグレアムが間合いを開けた。
 その視線がマルクを射抜いた。
 それまで以上に魔剣の出力が上がり続けているのが目に見えた。
「受けてみろ騎士グレアム! この一撃こそ、ブラウベルクの剣だ!」
「ブラウベルク……これが宿命か。あぁ、全く! 兄上!
 貴方と同じ相手に俺は殺されるらしい!」
 死に体にありながら、けれど到底そうだとは思えぬ楽しそうな声で魔種が笑っている。
 その魔剣が鮮やかに輝いていた。それはまるで彼自身の命を喰らっているようにも見える。
 マルクは全身の魔力をワールドリンカーへと注ぎ込んだ。
 それぐらいしなければ、逆に食われる。それぐらいの力を敵から感じた。
 眩く輝く極光の魔力がただ一発の魔弾へと生まれ変わり、剣のような形状を生み出す。
 放たれた剣が極光を放ち、振り抜かれた魔種の魔剣に触れ――その全てを呑み込んだ。
 そして――ぱたりと。
 剣だけが大地に落ちていた。


「行きなさい。調子に乗っている人類にその力を見せつけてやるんですわ」
 弓をハープのようにほろろんと奏でた刹那、魔物達が各々の咆哮を鳴き声をあげ、一斉に走り出した。
「吾輩の高度なインテリジェンスによって導き出し設置したトラップの威力を特と味わうである。ポチっと」
 走り出した魔獣たちが近づいてくるのを見て止めた練倒は精霊爆弾をぽちりと押してやった。
 刹那、何匹かのオルトロスが駆け抜けた後を一斉に爆発を引き起こす。
 各地へと設置された爆弾の一斉起爆に、魔獣たちの動きが僅かながら躊躇する。
「ガーハッハッハッ! これぞスゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアのインテリジェンスである!」
 瑠璃は堀と堀の間にて息を潜めていた。
 アダレードの指示を受けて突っ込んできたオルトロスたちが、次々に泥で満たした堀に足を取られて立ち止まり始める。
「そろそろ頃合いでしょう」
 タイミングを見計らって瑠璃は愛刀を抜いた。
 真横に振り払った斬撃は空間を断ち、斬られた場所から何かがどろりと零れだす。
 ソレは泥へと脚を取られていたオルトロス達を上から押しつぶしていく。
(ニコライさんは……大丈夫そうですね)
 ちらりと視線をそちらに向ければ傭兵達の隊長代わりに大型のキメラを相手取り押し返そうとする彼の姿が見える。
「よーし、出番だぜ、クソ野郎ども。刺激的にいこう」
 シラスの言葉に罪人たちの野次にも似た答えが返ってくる。
「お出ましだ」
 罠を避けるようにして集団化していくオルトロスとキメラ、それらの集団の一部目掛け、シラスは手を翳す。
 そのまま、空間を捩じるように拳を握れば、渦を巻いた空間が裂け、そこから泥が溢れ出す。
 それらに絡めとられた動きに合わせてシラスは指を鳴らす。
 微弱な魔力の揺れが戦場を迸り、脳髄を揺らされた魔獣たちが雄叫びを上げてシラスへと殺到してくる。
「俺が釣り出してやる。クソ野郎ども、働いて見せな」
 その言葉に合わせて、兵士達が半ば自棄の雄叫びとともに集まってくる魔獣たちを殴りつけて行く。
 罠の発動を見届けた後、少しばかり下がった練倒は戦場を見渡していた。
「それではあれから行くのである!」
 やがて狙いを定めたのは1匹のキメラ。印を結び放たれるは魔光閃熱波。
 苛烈に、凄烈に叩きつけられる魔力砲撃が雷光を抱いて炸裂する。
 強烈な一撃に見舞われたキメラが突如の攻撃にうめき声を上げ、きょろきょろと見渡し、その視線が練倒に注がれた。
「黒牙天墜――!!」
 ベネディクトは魔獣の群れの一段目掛けて槍を投擲した。
 放物線を描いて戦場を飛翔した黒き槍は 天より落ち、空を裂いていく。
 それは宛ら狼が唸り声を上げているかのような音を鳴らしながら。
 その着弾と同時、兵士達が魔獣たちに向けて追撃を開始する。
 迫る魔獣たちの只中を、走り抜けるバイクの集団が合った。
「此処はボク達に任せて先に征けってね♪」
 それはアイリスとその部下の兵士達。
 迎撃態勢の整ったその戦場で、アイリスたちは道を切り開くための遊撃を開始する。
「さて、大物は彼らに任せるとしてボク達はお掃除としようか?」
 そのままバイクでぐるりとオルトロスの群れを囲うように走らせれば、車輪が大地に術式を刻む。
「――対群拘束術式、『神狼繋ぐ縛鎖(グレイプ二ル・イマージュ)』」
 刹那、刻まれた術式の内側に無数の鎖が多数のオルトロスの身体を縛り付けていく。
 張り巡らされた罠、進路妨害の数々に翻弄される魔獣たちから視線を上へ。
 会敵に伴う戦闘音響く中、ヘイゼルは最前線へ姿を現す。
「さて、それでは皆様、参りませう」
 導きの星は棒切れを天へと掲げれば、露骨にそれを振るって兵士や傭兵への指示を出す。
『クルゥァ!!』
 天より響く鳴き声、翼、嘴、爪が青銅で出来た怪鳥が3羽、ヘイゼル目掛けて突っ込んでくる。
「星の輝きを手に――エクス・カリバー!」
 棒切れへと束ねた聖光を剣閃のように降り抜いた。
 それらの挙動はすべてが『それらしさ』を演じた上での壮大なる演劇の上での一撃。
 鮮やかに輝く聖剣の名を冠す邪悪を纏う神聖の斬撃が1羽を地上へと叩き落とした。
 落下した先に合った鉄傘に弾かれた個体はそのまま何かの罠に引っかかって絶命をきたす。
 激昂した2羽が降下の直後にその爪で斬り裂かんとすれど、すらりとそれを躱して堂々とその場で立ち続ける。
「ステュムバリデスです! お願いします!」
 組み立てられた物見やぐらのその上、綾姫は考古学者たちへと指示を飛ばしながら、自らも数多の魔獣を見据え、最短距離でアダレードへと進む位置を見定める。
 そのまま考古学者たちが一斉に戦場を貫く魔砲をぶっぱなす。戦場を穿つ砲撃により、幾つもの鳥が撃ち落とされていく。
「うじゃうじゃと飛んで、制空権を渡すわけねーだろ」
 大空へとぶっ放した空砲の音に注意を惹かれたステュムバリデスたちが近づいてくる。
 迫るそれらの爪を、嘴を、高度に整えられた身のこなしをもってすらりと受け流し、振り抜いて返すように時折は殴りつける。
 その最中、時折に飛んでくるバリスタの杭や投石がステュムバリデスを撃ち落としていく。
 地上、空中共に迎撃が進む中、ヨハンは兵とともに戦場へと進んでいる。
「良いね、支払額も手厳しい物になるだろうが傭兵は良い。戦いを生業としてる者たちだ。思った通りに動いてくれる」
 ヨハンは思わず小隊の動きにそう言葉を零す。
 ヨハンの為に命を投げうてる部下をあの女との戦いに使うわけにはいかない。
 寧ろ後腐れのない傭兵が、旗色が悪くなれば勝手に逃げ出すような、自分の命を最優先に考えるような輩こそが都合が良いのだ。
「僕は決して悪ふざけでお嬢様と交遊してるんじゃあないぜ。
 互いにわかりあえない立場だ。なればこそ最期の瞬間までは楽しく、一人の淑女として扱おうじゃないか――なぁ、アダレードお嬢様!」
「くすくす、なんてことでしょう。素敵……ぞくぞくしてしまいますわ。ねぇ、閃電の勇者様? もっと遊びましょうね」
 オルトロスが、キメラが波のように押し寄せてくる。
 時折に突っ込んでくるステュムバリデスにも警戒は怠れない。
 視線の先、愉しげに笑っていたアダレードが不意に弓を構えた。
 それに割り込んだのはアルヴァである。
「おおっと待った、空飛べるのはアンタらだけじゃないぜ?」
「あらあら。乱暴な方! 無理されてないかしら? ふふふ」
「余裕ぶったツラしやがって。地に引きずり下ろしてやるからな」
「まぁ! それは取っても楽しみですわ!」
 笑う女目掛け、アルヴァは一気に高度を上げて行く。
 届く――そう判断した刹那、アルヴァは空を蹴った。
 速度を跳ね上げて動きに、余裕そうだったアダレードが目を瞠るが、もう遅い。
「翼を持つ魔種は大っ嫌いだよ。別に直接アンタに恨みがあるわけじゃねえけど――恨むなよ、悪いのは魔種になったアンタだ」
 肉薄の刹那。銃床で思いっきり鳩尾を殴りつけてやる。
「ッ――!! やってくれたわね、犬っころ!」
 アダレードの弓がこちらに照準を合わせる。
「墜ちろ。そんな翼でも、魔種には似つかわしくない」
 半身だけ上向きに吹き付ける風を強めることで無理矢理に矢を躱すと、そのまま眼下を見下ろした。
「アダレード・オークランド!」
 綾姫は励起された黒蓮で戦場を真っ二つに叩き割り、そこにいた女へと声を向けた。
「以前貴女が持ち帰ったナイフ……あれは今どこに?
 血のつながりは無くとも、貴女もこの『悲嘆』の連なりに組み込まれた身なのでは?
 もしや……この魔獣たちを駆り立てるのに、用いた……?」
「あらあら、よくご存知ではありませんか」
 楽し気に、アダレードが笑う。
「『悲嘆』の一端を私も知りました。
 だからこそ、これを利用させるわけにはいきません
 ここで貴女の道を、断ち斬らせていただきます!」
「まぁ、怖い! どうするというのかしら!」
 余裕そうに笑うアダレードに対して、綾姫は深呼吸する。
「こうするのです」
 ――どくん、と胸の奥で何かが脈打った。
『――赦さぬ』
 声がする、蒼銀の狼の声がする。
『――赦さぬ』
 もちろん、それは幻聴の類だ。
 既に死んだ、呪いの声。
「どうか、貴女の怒りを利用する彼女に、教えてあげてください」
 それはあくまで、自分の中に残った僅かな残滓なのだとしても。
「励起せよ、黒蓮――」
 全力駆動した黒蓮が何かを纏う。
 全身全霊を籠め、集中して振り払った刹那のことだ。


 ――――ウオォォォォォン――――


 斬撃に混じり、戦場を劈いたのは、狼の咆哮だった。
 酷く悲し気に、冷たく怒りの籠った、戦場を裂く咆哮が轟いたその刹那。
「――なっ」
 明らかな動揺とともに、アダレードが目を瞠った。
 清水により大いに高められた力でもって振り払った斬撃がアダレードの身体を大きく削り落とし。
 戦場にある多数の魔獣たちが、その動きをぴたりと落ちつけた。
「やはり……貴女があのナイフを触媒に使った術式なのであれば、同じように残滓を受け取った私なら対処ができるのですね。
 皆さん、あとはお願いします」

 その隙を練倒は見逃さなかった。
「ガハハ! スゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアである吾輩がそのような姿を見逃すわけがないではないか!」
 隙だらけのアダレードめがけて放たれた魔の閃光が痛撃を叩き込み、その身体を震えさせ、地上に落ちた。

「暫くぶりか。だが、そう長く話をしている余裕はなさそうだ」
 地面へと叩きつけられたアダレードがふらふらと立ち上がる。
 ベネディクトはそれを見据えながら、射程圏内に至った女へと槍を構えた。
「黒狼の勇者様――ふふ、そうですわね……」
 黒き槍が執拗に襲い掛かる餓狼の如く無数の刺突を、斬撃を見舞う。

「お嬢さん、この間はヘレナをとんだ目に合わせてくれたな。まあ、さておき。その戦技で、おれを仕留められるか、勝負だ」
 ヤツェクは呆然としたアダレードへそのタイミングで接近すると同時に声をあげた。
「――おじ、さま?」
 動揺を隠しきれぬ震えた声で、アダレードがヤツェクを認識する。
「あぁ、あぁ、あはは! 全く、貴方と言う人は、本当に面白い方ですわね!
 そんなにも、母が恋しいのかしら? 愛しておられる?」
「あぁ、アダレード。おれはアンタの母君を心底抱きたいと思っているよ!」
 告げながら、ヤツェクは魔弾を放つ。呪詛と共に放たれる魔弾はアダレードへと確かに叩き込まれた。
「まぁ! 詩人とは思えぬ直接的な言葉だこと!
 血がつながらないとはいえ、娘に向かって言う事かしら!」
 動揺を覆い隠すように、今起きていることから視線をそらすように、アダレードが声を張りあげた。
 そこへつけて、一斉に小隊の面々が攻撃を仕掛けていく。
 一斉掃射で放たれた魔弾は撤退に移行しようとしていた黒翼の女に致命傷を刻み付ける。
「……あ、あは。あははは……」
 小さく、アダレードが笑う。
 どこか悲し気に、切なげに。
「――お父様、私達はどこまでも悲恋なんですわね?」
 血を吐いたアダレードはそう言って小さく笑うと、ふらふらと立ち上がり――膝を屈した。
「あら? ら?」
 目を瞠ったアダレードは、何が起こっているのか分からないと言った顔をしたアダレードは、そのまま荒い息を漏らす。
「――けれど、死ねませんわ、このままここで死ぬわけには……」
 ふらふら、ふらふらと産まれたての小鹿のように震えながら立ち上がったアダレードは、大きく翼を羽ばたかせて舞い上がった。
 その懐から、くるくる、くるくると回転しながら何かが落下して――さくりと地面に突き立つ。見ればそこに綺麗なナイフが一本、刺さっていた。

成否

成功

MVP

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
輝奪のヘリオドール

状態異常

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
業壊掌
黒星 一晃(p3p004679)[重傷]
黒一閃

あとがき

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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