PandoraPartyProject

シナリオ詳細

わたしの罪をお前が語るな

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●最悪のその続き
「あの最悪のクソッタレ共を追い詰める機会が出来たのね?」
「ええ。調査隊から直々に。名指しの依頼ですよ」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の食って掛かりそうな剣幕を前に、『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は首肯する。
 イーリンが感情的になるのは別に珍しいことではない。それなり色々と経験してきた身として、それだけ心に『襞』というか、感情的になるトリガーが増えたのだろう、ともとれる。
 そういう意味で今回の案件は強烈なものだった。
 ラサの砂漠地帯で頻発した失踪事件を契機に、『魂との回向』を目論んだイーリンの調査意図が噛み合い、理解しがたいたぐいの怪物と対峙することになったのである。
 他者の記憶を媒介として相手を偽装する『偽物』。その素体が逃げた先に、遺跡があったというのだ。イーリンは直ぐ様その座標情報をローレットに報告。ラサに伝達されたことで、調査隊が組まれることになったのだ。
「第一次調査隊はほぼ壊滅。命からがら生き延びた方が同行するとのことです。マッピングはかなり進んでいるそうですので、ついていくことになるでしょう」
「……そう、先導に期待してるわ」
 イーリンはそう応じると、表情をわずかに歪めた。
(壊滅した調査隊の生き残りが、わざわざ此方を指名して……におうわね)
 彼女の疑念露わな様子に、三弦は多くを告げなかった。少なくとも、その推論が間違っているとも言い切れなかったのだから。

●宝物庫(と言う名の地獄)へ
「いやあ、ここまでの大所帯で来ていただけるのは誠に光栄です! 私としてもこの遺跡の突破は至上命題ですので、はい……」
 調査隊の生き残り、ギルバレイと名乗った男は非常に平身低頭でイレギュラーズを迎え入れた。遺跡規模が大きいという事前通知もあって、相応の規模感で集められたことも起因している。
 広さはそこそこ、途中に居着いていたのか、虫型の魔物も出現するが数と力で押しきり、奥へ奥へ進んでいく。
 そして最奥と思われるフロアまで到達したところで、ギルバレイが扉に手をかけ一同に問う。
「このさきは宝物庫の手前というだけあって、危険な場所です。相応の覚悟をいただける方に向かっていただきたく。あと、全員が入れる広さではないので相応の人数で……はい」
 人数を分けたほうがリスクヘッジが成立するだろう、とギルバレイ。イレギュラーズ達はその言葉に一理ありと次々と入っていく。
 ……と、ある程度入ったあたりで突如として石扉が降ってきて、フロアと通路を断絶した。内部からは悲鳴らしきものが響いてくる。
「大変結構。これだけの人数が『拷問部屋』に入ったのなら、その糧たるやすさまじいものとなる」
 糧。
 いま、ギルバレイは糧といったか。
 つまり彼は――最初から、「調査隊の生き残り」などではなかったのだ。
 周囲から湧き出てきた骨子のみの魔導生物、そして余裕ありげに笑うギルバレイ。
 内部も懸念されるが、兎角、状況は最悪を指し示していた。

●『拷問部屋』
 半ば押し込まれるように、誘われるように石室に入ったイレギュラーズの前に並ぶのは、多種多様な異様な器械群であった。無論、迷い込んだ者の中にはその器械の用途に思い至り、顔を青褪めた者もいるだろう。
 これは、拷問道具だ。なんとかして脱出しなければ――そう考えた彼らは、自らの肉体に違和感を覚える。
 力が入らない。否、入ってはいるが到底戦える状態ではないのだ。目の前に居並ぶゴーレムたちは三角頭巾で顔を隠し、さながら拷問官のような姿だ。
 そして、一同の腰には布ベルトに差された一本のナイフがある。禍々しい気配を感じるそれは、『触れてはいけない』という実感を持つに十分だった。だが捨てられない。ベルトが腰から離れないのだ。
 周囲からひとり、またひとりと拷問器具に据えられていく仲間の姿。悲鳴の立ち込める狂気の空間で、それぞれが己の罪と邂逅する。
 狂気渦巻く中で頼れるのは、己の正気と腰のナイフ。殺すべきは、己か、相手か。
 自我境界が曖昧になるなかで手を伸ばしたそれを、なんのために振るうのか……。

GMコメント

●成功条件
 拷問部屋から出来るだけ多くが無事に脱出する(脱出させてもらう)
(必須)拷問執行官ギルバレイ(幻想の徒)の撃破

●拷問部屋
 ラサで発見された遺跡のフロアです。宝物庫の前の試練です。
 ……というのは表向きの話で、じつは誤った道のりで辿り着いた者達をできるだけ長く苦しめる為に設けられた、とんでもなく悪趣味な部屋となっています。
 数体のゴーレム、多数の拷問器具、そして室内全体を覆う空気により徐々に狂気を来します。
 拷問器具の種類:ファラリスの雄牛、アイアン・メイデン、ヤギ(型ゴーレム)の足舐め、人間ダーツ、エクスター公の娘、鉄鍋の刑、etc...
 ゴーレムは基本的に拷問官のようなかたちで配置されており、直接戦闘したり殺しにかかるわけではありません。自己防衛はしますしそこそこ強いけど……。
 これらの拷問による死亡に【パンドラ復活及びEXFは通用します】。ですが、痛くないわけでもありませんし強烈な拷問の数々の合間に肉体に軽微な毒が流し込まれています(四散してもとに戻る人とかも)。
 これは蓄積型の毒で、一定数蓄積すると【災厄】【狂気】を発生させます。つまりは何度も死んで生き返ってってしてると正気を失うってことですね。
 拷問には2系統あり、「HP的には明らかに何れ死ぬが【必殺】がない」「極微量のHP減少を伴うが多大な苦痛を伴う」の2系統が存在します。
 なお、皆さんは状況開始時、それぞれ手に届く位置に「厚みのあるナイフ(すべての攻撃に【必殺】を付与するアイテム。一発重傷あり)」を有しています。狂気による自傷行為にはこれを用いることもありえます。また、一度使用するとぼろぼろに崩れて消え去ります。
 この空間では謎の強制力が働くことにより、「自分は拷問を受けて然るべき人間なのだ」という暗示が働いているのです(これに抵抗し続けるのも本シナリオのテーマとなっています)。
 脱出方法は、皆さんをここに導いた相手を(拷問部屋に入らなかった人だけで)殺害することです。
 また、「できるだけ体力ギリギリまで耐える」「めちゃくちゃ殺されまくって生き延びて狂気をやりすごす」ことで「ナイフで拷問官を刺す(一撃で消滅します)」機会が得られます。
 最初から狙いにいくとバレバレで蹴散らされるので、出来るだけ苦しんで狂気じみた状態の演技をしつつ、近づいてきた拷問官をひと刺しで倒さねばなりません。
 拷問官を倒した方は石扉を越えて謎の軍勢と戦う仲間に加勢できます。尤も、そこまで「自分と」戦ったあとに体力が残っているか、は疑問ですが……。

●拷問執行官ギルバレイ
 ラサの遺跡調査隊の一人で、第一次調査隊の生き残りです。
 イーリンさんから『幻想の徒』の存在とその遺跡の場所を確認したことで調査が進み、なおかつ第一次調査隊が壊滅したため、イレギュラーズに協力を要請しました。
(当該事件については拙作『あなたの姿で私を呪うな』をご参照ください。必須ではありません)
 ……というのが表向きの顔です。
 実は本当のギルバレイは既に死亡しており、『幻想の徒(外装)』の亜種として本物の姿をコピーした状態です。そもそも調査隊になるくらいなので、ギルバレイの戦闘能力は高いです。剣主体の攻撃を行います。
 【多重影】【混乱】を伴う「幻影剣」、【出血系統】を伴う「錐揉」など、多彩な技を持ちます。
 撃破された場合、『幻想の徒(骨子)』へと移行します。

●幻想の徒(骨子)
 正確な数は不明です。ギルバレイの配下として、また、彼が倒された後にこの姿となります。変化時にダメージ等はリセットされます。
 基本的には砂を巻き上げる範囲系攻撃、砂礫による遠距離物理攻撃、関節部の高速回転による【防無】攻撃など多岐にわたります。
 また、今回は一部に骨子の色がやや赤い『強化体』が混じっており、攻撃パターンが違ったり指揮統率を行うなどの行動を伴います。

●行動選択肢
 今回は以下の選択肢が存在します。
 A:拷問部屋に突入する(そうと知らず入った、薄々気付きつつ誘いに乗った、など)
→あらゆる拷問を受けることになります。痛みに強い、弱い、拷問の強度その他はプレイングに依拠します。
 狂気に陥ったときの判断や抵抗など。
 なお、拷問を受けている間は(任意で)「自分が犯した(と認識している)罪」が再生され続けます。
 エモーショナルな罪との向き合い方とかそういうものができます。

 B:ギルバレイと対峙する
→そもそも彼を怪しんでいた、遺跡自体が怪しいと思っていた、などなど「誘われてホイホイ入る道理が薄い」場合はこちらになります。
 なお、こちらも人数はそこそこいないと大変です。
 比較的純戦。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • わたしの罪をお前が語るな完了
  • GM名ふみの
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月21日 21時35分
  • 参加人数20/20人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
エマ(p3p000257)
こそどろ
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
赤羽 旭日(p3p008879)
朝日が昇る
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者
弟橘 ヨミコ(p3p010577)
えにしを縫う乙女

リプレイ

●生贄になれなかった女
「なあ、一ついいか? お前ら先遣隊はどうして全滅したんだ?」
「此処に来るまでの魔物を見ましたか? 少なくとも、我等烏合の傭兵ではどうにもなりませんでしたよ」
 宝物庫に続く道と聞かされて、イレギュラーズ質は疑いもせず向かっていく。だが、『悠遠の放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はどうやらそうではないらしく、ギルバレイに問いかけた。彼は飄々と、戦う術にかけていたことを認めた。
「それともう一つ。あのものまね木偶人形、彼奴等を見かけてねえしお前さんの口からもでてきてねえ」
「…………?」
 バクルドの次の質問に、ギルバレイは沈黙と停止で応じた。宝物庫に視線を向ける『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の目を見よ。彼女は、恐らくは何か――以前の戦いで見た、見てしまった『彼女』の影を追っている。追っているはずだ。
「ついでにもう一つ。お前、何だ?」
 最後の問い。ギルバレイは、その問答を聞く前に意気揚々と入っていったイレギュラーズを見、ここにないものを追って入ろうとしていたイーリンをみていた。彼女が一番の標的であったことは否めない。それを糧とできるなら申し分ないだろう。
 だがその願いは叶わない。『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)がイーリンを突き飛ばし、降り始めた石扉とともに姿を消したからだ。なおも指を伸ばそうとした彼女は、呆然と周囲の空気が変わるのを感じ取った。
「擬態が得意な敵が逃げ込んだ遺跡からの生還者……か、それだけで疑うには十分だ」
「姿を変え縁者に化ける人形、その逃げ込んだ遺跡ですから……疑う要素しかなかったんですけどねえ」
 『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)と『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はもとより信じる気がなかったようで、既に臨戦態勢を整えていた。
「やはり罠、か」
 『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は当然のように察していたようで、、周囲の空気が変わったことにも驚きはない。ただ、冷静に状況を見ている。
「もう遅い。彼等を糧にし、君達を屈服させ『我々』は扉を開く。長かった。積み上げた罪をここで吐き出し、彼等は――」
「囀るな」
 ギルバレイが誇らしげに語る様子を耳にし、『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)は静かに恫喝の語を放つ。死霊に通じ、死霊を従えるために命を望む普段の彼女の姿とは全く違う、相手に対する純粋な害意でもって自らを規定した姿であった。
「分断されたか……前回の件といい、随分と厄介なことをするな!」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は向き合うべきを終え、疑いを以てギルバレイを見ていた。魅惑が無いといえば、この精霊にとって言い切れぬ魅惑はあった。だが、耐えたのだ。だからこそ、イーリンの困惑が手にとるようにわかる。
「我は我の仕事に就かせて貰う……さぁ、我に喰わせてくれ」
 『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)は先程までみせていた人の姿をかなぐり捨て、獣として敵を討つ覚悟を決めた。その姿に、ひとつの曇りも感じられない。内部から聞こえる仲間の声を思えば、早急に攻略しようと考えるのは当然なれど……その眼に使命感や善意といった感情があるようには感じられない。
「……では、ひとまず、私は飛ばしていこうか」
 『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は冷静さを失ったイーリンや、動揺を隠さない仲間をして奥に向かうことは憚られた。そしてその結果がコレだ。声をかけてやる温情は、自分より仲間の役割だ。襲ってくる相手を倒すのが、最善。
「馬の骨。まあ俺も相当腸が煮えてるがな、一先ず冷水で頭ァ冷やせ。冷静に怒れ」
 バクルドの警句を耳にしながら、イーリンはなにかに焦るように黒剣に手を添える。だが、その手を掴み、いきおい、頭突きをかましたのはエクスマリアだった。両者の額が割れ、血が滲む。
「少しは頭に上った血は抜けた、か?」
「……ええ」
「心なら、いくらでも煮え滾らせて、いい。だが、頭は、冷やせ。いいな?」
「わかっているわ。待たせたわね」
 エクスマリアの言葉に、目の焦点が戻ったイーリンが応じる。声にも心なしか力が戻ったようにすら思える。その姿は、恐らくこの場に残ったうちで『騎兵隊』の面々が強く望んだものである。
「イーリン殿が戻ったなら此方に負けの目はない。俺達を招いたこと、あの世で後悔するといい」
「手早く片付けましょう。遺言にはまだ早い」
 ヴェルグリーズと瑠璃は、扉の向こうの悲鳴に嫌悪感をあらわにしつつも己の使命を忘れることはない。目の前の「ギルバレイ」がもういないとしても、仲間は助けられる、そしてそれまで耐えてくれると信じている。
「イーリン・ジョーンズ! 最果てを行く者よ! 数多の人材を纏める騎兵隊の長が、勇者がうつむいてたら、勝てる戦いも勝てねぇ! 頭のいい君ならどうするべきかわかってるだろ? 顔あげて敵を倒して、閉じ込められた人を救うぞ!」
「大丈夫よ、サイズ。貴方らしくもない情熱的な言葉ね?」
 サイズは叫んだ。ここで振り絞らねばならぬ言葉を知っていた。それを、イーリンは無碍にはしない。
 だから、此処にいる仲間とともに。
「神がそれを望まれる」

●燃え尽きぬ情動、絶え間なき贖罪
「んー、これ、罠に嵌められた感じなのかな?」
「分断されたか。向こうは向こうでうまくやってくれればいいが、こっちはこっちで何とかするしかないが……」
 『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は周囲の異様な状況を察し、初めて自分達が罠にかけられたことを察した。『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)もまた、この状況を即座に受け入れ、その不利を覆す対策を考え始めた。だが、乾ききった血が空気に交じる匂い、人だったものが風に交じる気配に耐えきれぬものを覚え、舌打ちする。これは、毒だ。「こうなるぞ」という敵の脅し、或いは宣言か。こんなものをかぎ続ければ恐らく狂うな、と。
(さて、カナリア役として入ったはいいが……あまり趣味のよろしい部屋ではなさそうだ)
「どうして……ルシアじゃダメだって、思って……は、離すのです! どこに連れてくつもりです、よ……? あの、と、棘だらけの椅子何……まさかそんな、いやでして……!!」
 悲鳴をあげられるようなタマであれば、カナリアにでもなれたろうに。『闇之雲』武器商人(p3p001107)は己の内奥から燃え上がる『己ではないもの』をなだめすかしつつ、ゴーレムに拘束され拷問器に、『エクセター公の娘と結婚させられる』。拷問を受けることより、その比喩にこそ最低の侮辱があることを気づかぬ武器商人ではないが。それ以上に、その身よりずっとカナリア足る相手がいた。『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)である。ぶんぶんと手足を振り回すが誰も助けてはくれない。自信の魔砲も魔力が練れない。何も出来ない。なにもさせてもらえないのだ。
【償いを】
「いぃっ、やぁ…!いやでしてぇぇぇ!! 痛いのですよ痛いのですよぉぉぉ!! 外して離して帰してほしいのでしてぇぇぇ!!」
 異様な声が恐怖を掻き立てる。ルシアの表情が、ころころと笑う娘のそれが恐怖に歪む。世が世であれば最高の愉悦であったろう見世物だ。
「ごめんなさい」
【認めぬ】
「ごめんなさい」
【足らぬ】
「ごめんなさい」
【業に届かぬ】
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)の放り込まれたアイアン・メイデンは処刑用にカスタマイズされたもので、重要な臓器や頭部を殺し過ぎぬ設計にされている。そして、あろうことかその頭部には器を擁し、流し込まれる毒が外殻の管をつたい棘に流れ落ちる構造となっていた。その毒も、痛みだけを惹起する拷問用の毒だ。
 増し続ける痛みはその身を、『虚』を苛む。その根源は、一人の旅人の少女だ。自分を殺して、混沌でなお不幸を振りまく、正義なんてクソ喰らえと笑顔で笑う少女。己(あこ)には負ける道理がないと笑顔で嘯く女。その人々が上げた悲鳴。そういえば、ナントカという貴族が死んだときもそこに居た。そして、その貴族が生み出した怪王種も沢山の人を殺した。まだ罪は足りていない。罰は。
「ギ……ッィ、ア゛ア゛――!」
 四肢を引き伸ばされ、胴に徐々に重みを増す「プレスヤード」。『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)の身はすでに300ポンド(約138kg)もの重石が載せられていた。内蔵が圧迫され呼吸が意味を成さなくなる中で、罪が己の脳裏をかすめる。悪役であった過去、混沌で重ねた戦いの血、何度も罪と向き合ったつもりであった。だが、それでもなお罰は足りていない。罪と向き合った事は多くても、罰を与えられた試しは驚くほど少なかった。
 悲鳴をあげるのは耐えるためだ。汎ゆる無様を晒しても、息子『達』に誇れる父でいるために。
(罠の可能性から逃げて、損耗をさせまいと願って、気付かないふりをし続けた結果がこれか……)
 『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)は『スカベンジャーの娘』に拘束された上で石抱き台に載せられ、その身を押しつぶされる苦痛に苛まれていた。体感時間は恐らく実時間より遥かに長く、全身を巡る血が留まる感触としたから突き上げられる棘がどんどんと食い込んでいく。
 その罪は逃げたこと。決断することで損耗させることを嫌い、誰かに決断を任せ怠惰に同意を重ねたこと。決断すべき場所で、選ばれるはずだった選択肢が崩れる音、それで生き残れるはずだった人々の悲鳴がリフレインする。周囲の、拷問で苦しむ仲間達の姿こそが彼の罪だ。痛みとも言えぬ痛みをじわじわと迫りくるそれが罰だ。彼が正当な評価を以て罰を受けることこそ、運命は由としないのだ。
「大丈夫、生身の皆さんよりは耐性は高いッス。『家電に拷問したって、意味がない』でしょう?」
 『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)はその身を拘束され、『長距離電話を掛けられ続けた』。取り上げられることのない着信は、その首筋に絶え間ない電撃を浴びせ、平気そうな顔をしていた彼女の表情を歪ませる。痛みなど無い、家電に電流を流したところで意味がない。大丈夫だ、こんなものは拷問たりえない。自分に言い聞かせ、イルミナは耐える。耐え続けることは、痛みを増すとしっていて。
【家電であると嘯き、人の身で耐える】
【滑稽也、陰湿也】
「なっ――」
 その冒涜に表情が固まった。自分の内面にある歪みの源を見透かされたようで、心底から怯えを覚えた。家電である――だから、痛みなど無い。そう言い聞かせていた彼女に、果たしてその指摘はどれほど深く刺さるものか。自分は自分であると諦めぬ為に、痛みに耐える。耐え抜く。
 拷問に耐える声、拷問に呻く声。純然たる悲鳴。汎ゆる声が反響する地獄の空間で、イレギュラーズの前には多種多様な罪が押し寄せる。それがどんなものであっても。それがどんな扱いであろうと。

●尽きぬ波濤、絶えざる連続性、毀れぬ決意
「狙うのは貴方の首だけよ、わかってる?」
 深い呼吸とともに魔力を循環させ、イーリンは獰猛な視線でもってギルバレイを見る。その姿とは裏腹に、彼女の身を包むのは魔力の鎧。どこまでも冷静な姿を有している。
「結構、結構。人間の言葉としては上等ですよ」
「滑稽。人の成り代わりが人を語るなど」
 イーリンの威嚇をうけてもなお余裕を見せるギルバレイは、その周囲を固める幻想の徒の数こそが根拠である。守りを突破できるはずがない、という過大な自信こそが拠り所なのだろう。そんな姿を、ロックは切り捨て前進する。
 ギルバレイへの進路を邪魔する個体へと槍を叩きつけると、そのまま前進する。受け止めた個体はたまらず振り払おうとするが、追随するイレギュラーズがそれを許さない。
「話している時間も惜しい。一気に終わらせるよ」
 ヴェルグリーズの勇ましい攻撃を負ってマリカが屍の鎌を持ち上げる。すわ同士討ちかと思われたそれは、しかし彼をすり抜け幻想の徒を蹴散らしていく。何も見ていないような彼女は、その実『お友達』だけをしっかり見据えている。それ以外には興味がないから、仲間を傷つけることがないのだ。
「数ばかりが多いな。先ず減らさないと始まらないか」
「守りも重要だ、突出しすぎないように慎重にいこう!」
 サイズの術式で守りを固めた者であれ、強化個体を積極的に倒せるかといえば並ではない。手近な敵に不利を強いて回っていたマニエラは、間違いなく余裕を欠いていた。それは仲間にも言えたことだが、さりとてその動きを誰も軽挙とは言うまい。
「数を頼りに守りを固めるというなら、数ごと押しつぶしてしまえば何ら問題はないでしょう」
「馬の骨が囮になってくれんなら、これ以上の得はねえや。邪魔な奴をふっ飛ばせばいいだけだ」
 瑠璃の生み出した泥に飲み込まれた幻想の徒を、バクルドの放った光弾が次々と巻き込んでいく。距離を取った事は、逆に相手側の状況を悪化させているようにもとれる。兎角、『彼等』はイレギュラーズのやりくちを甘く見すぎていたのである。
 だが、それだけで倒せるほど易い敵ではなく、甘い数ではない。冗談めかした数と勢いで迫り来るそれらは、先頭を走るロックを含め、多数のイレギュラーズの傷をどんどんと増やしていく。
「マリアが立つ限り、誰も、倒れさせない」
「そうね、貴方なら預けられるわエクスマリア。エマ、ついてきて」
「そりゃあ、お望みとあればついていきますよ!」
 イーリンはエクスマリアの、そしてサイズが全霊を傾けて治療に専念している姿に心底からの信頼を向け、そして前に進む覚悟とした。傷は考えるな。感慨は捨てろ。誰かが倒れるかより、どれだけ倒せたのかが勝負を分ける。倒れさせないといったなら、それは真実になるのだろう。速度に身を任せ叩き込まれたエマの一撃。仲間達の全霊。それらは、ギルバレイが前に出る理由足り得た。
 先程までイレギュラーズを侮っていたそれが前に出たのは、果たして焦りか矜持か。未だ彼等を取り巻く幻想の徒は多く、不利とはとても呼べぬがゆえに。その動きは、たしかに不自然なものであった。
「渡さない、お前達にこの連中は渡さない……」
「何を言ってるのか分からねえが、俺達は逃げも隠れもしねえぜ」
「…………」
 バクルドが間合いに踏み込んだギルバレイに苛烈な一撃を浴びせると、マリカはそのまま数多の怨嗟を叩き込む。ギルバレイの本来のスペックなら避ける事ができたかもしれないが、状況の積み重ねがそれを許さない。許すはずがなかった。
「ところでお前さん、少し様子が変だが大丈夫か」
 バクルドは傍らを後退し、次の一撃に備えるマリカに問う。彼女は無言で頷くと、浅く息を吐いた。何が見えているのか、聞こえているのかはバクルドにはわからない。が、彼女のそれは極限状態のイーリンに似た危うさを湛えているということだけは理解が出来た。
「赤い個体――! あれを優先して叩く! ギルバレイは追える人で追って貰えないかな!」
「奴が追えぬなら、こちらの掃討を先んじて行うまで。食わせて貰おうか」
 ヴェルグリーズはギルバレイを追う中で突如現れた『赤い』幻想の徒の螺旋打撃を剣でいなし、首筋に神々廻剱皇を当てる。硬い。この刃で通らぬとは余程だが、傷はついている……その確信ごと、ロックの牙が噛み砕いた。それでもなお攻撃姿勢を向けてくる幻想の徒を突き動かすのは一体何なのか。
「下がる、な。マリアが癒やす、戦線を下げず、ギルバレイを――イーリンを侮った奴を倒せ」
「そりゃあ、俺にも理由があるからね! 武器商人さんに下手な傷を作って帰ったら合わせる顔がないよ!」
 エクスマリアは隙が生まれたヴェルグリーズの傷へ癒しの手を施し、前へ進むよう声をかける。彼女の冷静な口調の中に感じられる赫怒は、ヴェルグリーズの中にも同質のものがある。だから、引き下がる訳にはいかない。ロックが暴れまわり、攻めを止めないのと似ている。渇きにも似た、使命感。
「魔力に関しては心配するな。私がか弱い分、頑張って働いてもらうぞ。なあイーリン?」
「そこで私に水を向けないでよ」
 イーリンは敵陣を蹴散らすなか、苦虫を噛み潰したような顔でマギエラを見た。
「俄然やる気になっちゃうじゃない」
 彼女が冗談めかして応じた、その声が呼び水となったのか。はたまた、偶然か。
 石扉が僅かに光を湛えたのを、一同は見た。

●何もなく、全てを備え
「ッ!!ア゛ア゛ア゛……クソッ……」
 いっそ意識を飛ばしたほうが楽だろうか。飛ばせれば、楽だったのに。
 レイヴンは痛みのたびに、人が死ぬ姿を見る。怨嗟の声とともに痛みを受ける。降り積もり、堆積し、そして腐って泥のように溜まっていく、怨嗟と怒号と慟哭が。
 何度も何度も刃が木台を叩く音が聞こえる。繰り返す、死が、痛みが、後悔が。
 それだけ殺してきたのだ。それだけで、もういいだろうとレイヴンは手を伸ばす。腰に提げられたナイフに伸びた指は、恐ろしく流麗な動きでそのテに収まった。
「邪魔をォア、スルナァアア!!」
 ゴーレムの顔が、ヴェランに。彼の憎むべき対象へと変わったように見えた。罪を重ねる。たとえ万人が後ろ指を差しても、最後に一人、地獄に落とすまで。
【罰を受け続けるか】
【それもまた良し。ようこそ、地獄へ】

「ルシアが、こうなったのは、ルシアのせいだって、分かるのにっ……! 何でっ、悪いのかが……! 分からないのですよぉ……!」
 痛みで何度泣き叫んだことだろうか。恐らくこの空間で最も泣き叫んだのは彼女であろう。理由なき痛みは、罰は最も辛いものだ。何が悪いのかがわからない。わかるまで理解しろ。それはわかっている人間の無理筋の道理だ。
 真っ白で、真っ暗。視界の明滅の中で彼女は自らを置いて他のすべてが見えていなかった。
 彼女には何もない。彼女には何も顧みられない。
 何も、なにも。
「なんにもない、なんにもないなんにもないなんにもない……! からっぽで、まっしろで、まっくらで……! こんなの、こんなの!いやでして……!!」
 帳の降りた、闇しか無い瞳で周囲をまさぐる彼女の姿は非常に屈辱的だった。侮辱的だった。だが。彼女は理解しきれていない。
 彼女が一番持ち得ている罪は。その『無』が、記憶を紡ぎ始めて今まで、未だに、続いているという傲慢だ。
【罪も人生も得た『虚ろ』が、なにもないという顔をする。それは罪ではないのか】
 責め立てるような声とともに彼女は己を貫いた。見れば、眼前には『えにしを縫う乙女』弟橘 ヨミコ(p3p010577)が倒れた姿があった。

(……息子が待っているんだ)
 ウェールのギフトは追憶のためのもの。だが、その一瞬に関しては意味が大きく異なった。
 偽りなのか、実像なのか分からぬ息子の姿。自らを殺すという十字架を受けたその姿は、悲しみのなか、己の墓の前にいた。
 そうだ。自分を殺すという十字架を背負った息子が、悲しみを手にしていないわけがない。
 そんなことも理解できない身で、よくぞ息子のためなどと言えたものだ。自分だけ楽になるなんて、誰が許すというのだろうか?
【不理解こそ罪、無私を気取って子の思いを遠ざけた己にこそ罪はある】
【贖え、今こそその時であ――】
「いいや」
 このナイフ(ばつ)はそちらに贈ろう。俺には自死を選べない理由がある。

 ――あゝ、単純すぎて辛い部類だなぁ。
 帳は鞭打ちに処されていた。あまりに単純、しかし殆どの者が『刑罰相応』の回数を絶えられずショック死を選ぶというそれだ。
 彼のギフトは己を的にかけるもの。自己犠牲といえば聞こえはいいが、自らへの害意を加速させるものは、対象が彼を傷つけたという事実が残る。それは相手の石を無視するもの。
 多くの人々が、槍を突き立てるだけの偶像。その血が目に入っても痛いだけだろうに。
 痛い。痛い。どうしようもなく痛い。なのに、痛いだけなのだ。
「だって、ボクには救えない」
 いくら痛みをうけても、いくら嘆きを聞いても、人々が求めた救いは帳の手の中には最初から最後まで、なかった。
 なのに彼を痛めつければ救われるという根拠なき盲信が人々の心を燃やす。滾らせる。だからあの日の人々の暴力(いのり)は本当に痛かった。
 なのに、これは違う。痛めつけるだけの痛みだ。
「こんなものでは、ボクは許されないよ」
【ならばどうする】
「……だから拷問官さん、君が倒れろ」
【より強い、より重い罰だぞそれは】
「わかってるよ。それじゃないと救えない」

「ねぇほら、罪には罰が必要であろ?贖いが必要であろ? こんなんじゃ足りないよ、ねぇったら」
【度し難し】
【死をそれだけ重ねても、足らぬというか】
「そりゃあ、まあ?」
 武器商人は数多受けた拷問をこともなげに受け流し、首を捻った。
 不調に対する耐性は、この空間では残されていない。だが、その不死性だけは奪いきれなかった。だから、痛くないなんてことはない。辛くないなんてことは、ない。それでも武器商人が平然としていられるのは、もしかしたらその身を案じる相手、その一部始終を伝える第三者がいることが大きいのかもしれない。
 『武器商人』という名に恥じぬ行いをしてきた。名を汚さぬ努力をしてきた。それはつまり、それだけ積み上げた罪が目の前にあるということである。それでもなお平然としていられるのは、多分その身を案じる相手がいるからだ。彼の心に長らく刺さっていた棘を抜いてやったのに、己が棘になっていいものか。いいわけがない。
「さて、我(アタシ)には会いたい相手がいるんだ。通してもらうよ」
 ナイフを突き立てられ、崩れ落ちたゴーレムを見下ろすその姿は、青い炎を湛えている。

(時間は……ああクソ、こんなに経って)
 旭日は拷問部屋にはいってから今までの時間を察知し、その長さに舌打ちした。きっと外では戦いが続いている。ここで足止めを食うだけ、外での仲間が不利になるというのに。
 時間稼ぎなどと、なんという惰弱の言葉だ。喉から漏れる悲鳴はとても無様だ。打ち切ってしまいたいとも思える。
 人の死を背負えずして何がヒーローか。傷つく姿を見過ごしてなんとするか。
 抗おうと伸ばした手の先にあるナイフの意味を、彼は必然理解した。唐突に理解した。この状況に終止符を打てるのは。

「酷い顔をしているねえ、役者のコ」
「そりゃあ……ね。これだけ泣き叫んで涙で顔を汚したのは久しぶりだよ」
 武器商人が腕をつかんで引き上げたのは、『稔』の顔をした青年だった。目は腫れ上がるほどに――実際、目元は散々貫かれて酷い有様だが――涙を流し、憔悴しきった表情を見せている。それすらも演技だというのも、その痛みが演技ではないのもわかる。
「強がりはいいから。もう立てないんであろ?」
「はは、頑張ったんだけどなあ……」
「10人いて全員うまくいくなんてあるわけなかろ。外の連中がお呼びみたいだね。先に行ってるよ」
 へなへなと崩れ落ちた稔をよそに、武器商人の姿が消えていく。半数以上が残った拷問部屋は、しかし沈黙が支配していた。……終わったという安堵、敗北の苦味。それらは残されたものが味わう特権でもあった。

●だって逃げ場は前にしか無いから
「早かったわね、戻ってくるの」
「どっかの司書の楔になるとも、宣ったからな」
 イーリンの軽口に、レイヴンもまた軽口で返す。互いの、打てば響くようなやり取りはしかし、直後にレイヴンが膝をついたことで断ち切られた。
「無理は、するな。誇りに反すとしても、な」
「倒れない程度には、無茶はするさ。それを越えたらおしまいだけど」
「こんなことしかできないけど、それでも『できる』んだ」
 エクスマリアは戻ってきた仲間達に治癒を施しつつ、無理をしないよう強く言い含める。だが、ウェールも帳も手を抜くつもりはなく、最低限体力が戻ったところで一気に攻勢に回る。彼等は痛めつけられたことで、より強く敵意を鍛え直されたのか、無理をして倒れない程度に、しかし『らしい』戦い方で前に出る。
「まったく、かなわないな……俺じゃやっぱり付け焼き刃の励ましにしかならないじゃないか」
「腐ってる場合じゃないよ、妖精鎌。キミにはキミなりの戦い方ができた気がするけどねえ?」
 戻ってきた仲間と軽妙なやりとりをする仲間達を見て、サイズはやはり自分は間に合わせ程度の役割しか持てないのでは、と卑屈さをのぞかせた。だが、武器商人はそれを否定する。サイズはサイズなりに、己の役割通りに動いているのである。誰かの代わりなんて、考えちゃいけないのだ。
「ひひ、戦場で倒れないだけ才能ってもんですよ……さて……、お覚悟ーッ!」
「人の記憶覗き込んで化ける不愉快なやつがいねぇなら敵じゃねえんだよ!とっとと砕けな!」
 エマはイーリンに歩調を合わせる形で周囲の敵を蹴散らしつつ、ギルバレイの隙へと飛びかかる。バクルドの猛攻を受け止めていた彼にもう避ける手段はない。どころか、人の姿をかなぐり捨ててなお押し込まれている状況で、対抗できる手段など初めから無かった、というのが正しいだろうか?
「最後は貴方の望むようになさったらいいと思いますよ。罪も罰も、生きていればこそ得られるものですし」
 エマの一撃で動きを鈍らせたギルバレイ――幻想の徒をイーリンの側に押し付けたのは瑠璃だ。彼女はこの瞬間を、強がる相手がミステイクのまえに倒れるのを待っていた。特に理由はないが、そうでもしないといけない気がしたのだ。
「私の罪は――既知にして、何れ裁かれる。安心なさい、貴方達も終わらせる。慈悲で、ね」
「まったく……これでは、もう、無意味で――」
 イーリンの一刀は、単純で、しかしだからこそ速かった。正中線から両断されたその亡骸は、悔しそうな声を並べ立てながら崩れ落ち、砂と化して消えていく。
 それが最後の一体。幻想の徒は、少なくとも此処には残されていなかった。

●『二重構造』
「商人殿、キミに何かあったら俺は小鳥殿に何て伝えればいいんだい」
「うーん、ヴェルグリーズ、内緒にしてもらうのは駄目?駄目かあ……バレるかぁ……」
 ヴェルグリーズは武器商人を問い詰めるような形で矢継ぎ早に問いかける。ばつの悪そうな顔をする武器商人を覆う炎は、抗議の意思を発するように小刻みに燃えている。
「あのあたりはこわれやすい筈、一気に壊して仲間達を……あれ?」
 サイズは遺跡の石扉、その弱っている部分を見抜き一気に壊そうとした。全ては仲間を助ける為である。……だが、サイズが実行に移すより早く、石扉の前に倒れていたイレギュラーズが転送されてくる。
「おかしいなあ、さっきまで倒れてたような……」
「もう、もういやでして……なんにもないのは……あれ?」
 『稔』とルシアは周囲を見回し、自分たちが知らず元のフロアに戻ってきていることに気付く。その事実はたしかに驚くべきもので、拷問部屋以上の超常がこの遺跡にあった、ということになる。
「なあ馬の骨、この木偶人形共はここで作られてると思うか?」
「そりゃあそうじゃないの? 逃げ込んできたのよ、奴ら」
 幻想の徒の残骸をうきうきと漁るロックをよそに、バクルドは単純な疑問を向けた。
 これら幻想の徒は、ギルバレイ「だったもの」の言葉の端々を聞くに、拷問部屋より奥に対してなんらかの執着があったことを匂わせる。だというのに、拷問部屋の奥に自分たちではいかなかった。『糧』、とイレギュラーズを規定していた。
 そして、奥に向かうことを、何らかの悲願であるかのように語っていた。
 それはとりもなおさず、幻想の徒は防衛ではなく踏破のためにこの場に現れた可能性もあったわけだ。イーリンは顔をしかめ、そんな疑問からは視線を切ろうとした。今それを議論したら、遺跡の中でもう一晩、なんてことになり得ない。
 だが、遺跡は全く予想もつかない方法で事実を伝えようとした。
『いいえ。この木偶人形は「わたし」の間へと向かい、踏破するためにつくられた「外側の遺跡」の遺物です。皆さんを呼び寄せたのも、これらだけではどうにもならなかったからでしょう』
 ルシアの姿をして、しかし彼女の声ならざるイントネーションで喋る姿は驚きとともに迎えられた。だが、その口から吐き出される話は想定外のものばかり。幻想の徒は、『この遺跡』のものではなく。
「もしかして、本当の遺跡っていうのが……この奥?」
『ご理解が早くて助かります。審判を越え、敵勢を越え、誘惑に萌え、自他の犠牲を秤にかけられる。そんなあなた方を探していました』
「よくわかりませんね。それだけのことを試すなら、わざわざ拷問を選ばなくても」
 瑠璃の問いは尤もだ。声の主が侵入者を試すのに、ここまで苛烈である意味がなかった。
『防衛機構です。あらぬ者がこの先へと向かわぬよう』
「そもそも、閉じ込める構造なのがどうかと思うッス」
『逃さぬためには閉じ込めるしかありません』
 なんとか立ち上がっていたイルミナの疑念を、声の主は切って捨てた。
 だが、彼女の言葉もまた尤もだ。さばきを与える方法が、あまりに性急に過ぎたのだ。
『それでも――皆さんの結論と物資不足にはかないません。さあ、【罪ある者はこちらへ』
 この言葉が最後か、否か。彼等に対する声は既にかき消え、そして――幻想の徒を生み出していた遺跡の大半は、突如始まった地割れにより混沌の中へ果てていく。

成否

成功

MVP

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪

状態異常

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)[重傷]
まずは、お話から。
Tricky・Stars(p3p004734)[重傷]
二人一役
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)[重傷]
海淵の祭司
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)[重傷]
開幕を告げる星
弟橘 ヨミコ(p3p010577)[重傷]
えにしを縫う乙女

あとがき

 大変おまたせいたしました。
 数名ほど個別あとがきがでております。

 ……どうやら『拷問部屋とその奥』、そして『その手前』は別の遺跡を無理やりつなげていたようです。
 それ以上の真相か、遠からず明らかになるでしょう。

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