PandoraPartyProject

シナリオ詳細

水の都の蒼き日に

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●La città azzurro.
 ――がらん、と教会の鐘が鳴り響く。
 少し癖のある黒髪の青年は、その音に肩をびくつかせると左手の腕時計をちらりと見やる。
 長針が指していたのはてっぺんの数字。毎時丁度を告げる鐘と手元の時計は、どうやら今日も狂いひとつない。
 けれど問題は時計の狂いではなく、短針が指した数字で。
「うわ、うわわ! やばいって、遅刻したらまた先輩に怒られる!」
 キッチンのラックから乱雑にクロワッサンを掴むと、それを口へと放り込みながら玄関の扉を乱雑に開ける。
 明日こそはコルネット――クロワッサンとカプチーノで優雅な朝食を、と思った夜は数知れず。
「おはよう、エンリコ。詰まらせるんじゃないよ!」
「んぐ、んっぐぐぐ!」
「はい、行ってらっしゃい」
 隣のマンマへの挨拶もそこそこに、細い路地を右へ左へ、時には階段を駆け下りて近道をして――
 
「よかったなエンリコ。あと1分で遅刻だったな」
「ティトさん、楽しんでるでしょ」
「ああ。局長に怒られて反省文書くお前は、仕事終わりのワインのいい肴でな」
 職場に着いて大急ぎで制服に着替え、肩で息をする黒髪の青年――エンリコを楽し気に見るのは、先輩であるティト。
 口元のパンのカスを払い、事務所の壁に貼られたスケジュールへと目を通す。
 そうして開けた扉の先には――美しき水路と、無数のゴンドラ。

 この街は『水の都』。
 そして彼らはその街の交通の要、ゴンドラを操るゴンドリエ。
 今日はどんな乗客に会えるだろうか、そして昼は広場のリストランテで何を食べようか。
 きっと今日もいつも通り――いい一日になる。

●Buon viaggio!
 境界案内人が開いた本には、石と煉瓦で作られた街が広がり――その下部は水で満たされていて。
 何も知らないイレギュラーズはそれを「水没しているのか」と問うたが、どうやら先にあったのは水のよう。
 この街は縦横無尽に水路が走る『水の都』なのだと境界案内人は告げる。
 ぱらぱらと頁を捲れば、水路を走るゴンドラに、立体迷路のような路地に、香りまで漂ってくるような料理に。
 ともあれ、危険もなく解決すべき問題もないこの世界はただ旅の者を待っているようで。
 本の中の水面が、きらりと光ったような気がした。

NMコメント

 久しぶりのラリーは、行ってみたい場所をモチーフに。
 飯酒盃おさけです。

●目標
 水の都で楽しく過ごす。

●舞台
 海沿いの港町。
 縦横無尽に運河や水路が巡り、煉瓦や石造りの建物が並ぶ水の都。
 一言で言えば『ヴェネツィア』によく似た街です。
 良く晴れている春と夏の間のその日は、お出かけ日和でしょう。

●できること
【A】ゴンドラで観光
 10人強が乗れるゴンドラで、水路を巡り観光します。
 細い水路をぐるぐるしたと思えば広い運河に抜けたり、時にはOPに登場したエンリコやティトのようなゴンドラの漕ぎ手――ゴンドリエーレがカンツォーネと呼ばれる歌を披露したり。
 広い運河ならば、ほんの少しゴンドラを漕ぐ体験もさせてくれるでしょう。
 
 願いの橋と呼ばれるアーチ形の橋は、その下で願った事が叶うと信じられています。
 くぐる事があれば、目を閉じて願いを胸の中で唱えてみてもよいかもしれませんね。

【B】街中散策
 この街は水路が多く、大きな道路は少ないです。
 水路の横の小路や、建物の隙間の路地や階段を歩いて散策をしてみましょう。
 街を見渡せる屋上や、猫の秘密基地なんかも見つかるかもしれません。
 複数で散策する人は、はぐれないよう気をつけてくださいね。

 食べ歩きがしたい方におすすめなのはコロッケとジェラート。
 コロッケはポテト・ビーフ・チーズ入り・ライスコロッケなど揚げたて熱々。
 ジェラートはバニラ・ミルク・チョコ・チョコチップ・珈琲・ピスタチオ・ヨーグルト・ブラッドオレンジ・フランボワーズ・レモンに日替わりなどフレーバーは盛り沢山!

 買い物がしたい方は雑貨屋へ。
 色鮮やかなグラスやガラス細工のアクセサリー、仮面などが揃っています。
 アイテムとしてのお渡しは出来ませんが、RPとしてお持ち帰り頂くことは可能です。

【C】広場で食事
 街の中心の広場を囲むように建つレストランで食事をします。
 広場に並んだテーブル(屋外)もしくは店内のカウンター(屋内)でどうぞ。

 カウンターでは人の話を聞くのが好きなおじさまマスターが接客をしています。
 普段言えないような気持ちを吐き出してみるのもいいかもしれませんね。
(拙作『白紙の頁に、君を綴る』同様に自PCの掘り下げトークもどうぞ)

・おしながき 
 前菜:シーザーサラダ、ほうれん草サラダ、野菜スティック、チーズ盛り合わせ、生ハム盛り合わせ、トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、いわしのマリネ、タラのムース
 肉・魚:子牛レバーのワイン煮込み、茄子とハムのはさみ揚げ、小エビのアヒージョ
 石窯ピザ:マルガリータ、マリナーラ、クアトロフォルマッジ、ペスカトーレ、ビスマルク、生ハムほうれん草
 パスタ:イカ墨、ボロネーゼ、ペスカトーレ、ボンゴレ(ビアンコ・ロッソ)、カルボナーラ、ペペロンチーノ、茄子トマト
 その他:イカ墨リゾット、トマトリゾット、焼きたてパン、各種ジェラートなど

 ドリンク:食前酒におすすめスプリッツ、ワイン(赤・白・ロゼ・スパークリング軽め~重め各種、グラスでもデキャンタでもボトルでも)、レモネード、ブラッドオレンジジュース、その他カクテルからソフトドリンクまで各種。

 どの選択肢でも、その他なんでもありそうなものはあります。
 自由にのんびり過ごしましょう。

●ラリーシナリオについて
・このラリーシナリオは一章完結です。
 5/22を目安に、以降プレイングが途切れたタイミングで完結予定です。
 完結までは積極的に執筆していきますので、お気軽にどうぞ。

・同行者がいる方は【】でグループタグ、又はお相手のIDを記載してください。
 数人まとめての描写になる可能性がありますので、ソロ希望の方はその旨もお願いします。

 それでは、良い旅へ。
 ご参加お待ちしております。

  • 水の都の蒼き日に完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年05月26日 21時35分
  • 章数1章
  • 総採用数26人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ジン(p3p010382)

 ジンはゴンドラの行き交う水路の縁へ腰掛けると、抱えた紙袋を傍らに置く。袴の裾を直す所作はこの街の解放感とは真逆の凛としたもので――けれどこの都は、その身に水の属性を宿すジンにとって文字通り『水が合う』場所だった。
 独りゆっくりと街を巡り、様々な景色を眺め――食事でも、と露店でパニーニなる軽食を買えば店主に「アンタいい身体だね! ゴンドリエに向いてるよ!」と言われた時は返答に困ったのだが。
 水の気を傍に感じながら持参した本を読めば、頁を捲る手はどんどんと進む。ふと視線を上げれば、日の光で輝く水面が目に飛び込み――その美しさに感じ入る事しかできない自分がもどかしい。
(こういう場に来ると、俺は戦いが出来るのではなくそれしか出来ないのだと思い知るな)
 刀を取るのではなく、筆を取りこの光景を絵に出来れば。
 一閃に気を吐く声でなく、美しさを音に、言葉に乗せられれば。
 地の深くで暮らす同胞に、この美しさを伝えられるのに。
「ままならないものだ……なあ?」
「にゃうん?」
 我が物顔で歩く猫に同意を求めれば、人の悩みなど知らぬと――てし、と紙袋を叩き何かを訴えられる。
「……ん、なんだ。お前も食べたいのか?」
「にゃあ」
「仕方ないな、野菜ならいいぞ……ほら」
 パニーニのレタスを抜いて猫の口元へ運べば、猫はご機嫌にそれを頬ばって。
 思案はひとまず置いておいて。
 今は、一人と一匹の昼食を楽しむことにしよう――

成否

成功


第1章 第2節

越智内 定(p3p009033)
なけなしの一歩

「うーん、本当にヴェネツィアみたいだ」
 辺りを見渡しながら、定は街の中心だという広場へ歩く。
 案内人に見せられた本に描かれたいた光景は、憧れの~なんてTVで見た場所によく似ていて。
 修学旅行が国内だった自分からすれば、画面の向こうの夢みたいな場所だった。
「イタリア語も勉強しなくていいし、なんだか得した気分だぜ」
 慣れた振りを気取って「一人で」と入ったトラットリアで頼んだのはトマトのリゾット、ガーデンサラダ、焼きたてのチャバタ。そう、決して他のメニューが読めても何か判らなかったわけではないのさ。
 食後のエスプレッソの苦みをゆっくりと舌で転がしながら、行き交うゴンドラを眺めるテラス席に吹き抜ける風は心地良い。
 一限の出欠に間に合わないと慌ててかき込む朝食でなく、こんなにも優雅なモーニングから始まる一日は沢山楽しまなければ大損だ。 
「ローマの休日、ではないけれど」
 水都の羽休め、なんてタイトルを付けて――生憎とaPhoneは動かないから、誰かさんへのお土産に写真は撮れないけれど。
 沢山目にこの光景を焼き付けて、お土産を見繕って。
 そうして楽しかったよ、と伝えれば君はなんというだろうか。
「――さんも行きたかったなぁ」
 なんて口を尖らせる姿を想像するだけで、もうだめかもしれない。
「よっし出発――ンンッ!!」
 邪な妄想を掻き消すエスプレッソの底溜りは酷く苦く――まだ子供だ、と笑われた気がした。

成否

成功


第1章 第3節

フロイント ハイン(p3p010570)
友人/死神

 昼下がりの水の都は、照り付ける太陽のように生命力に溢れていた。
 ハインはその中で独り、石畳に落ちる深い黒の影のようにゆらゆらと歩を進める。

 ――美味しい、そっちも一口ちょーだい!
 ――見て、あのステンドグラスすっごく綺麗!
 ――ルキーノさん、お届け物っす!

 広場を通れば、まあるくて伸びるピザなんてものを分け合う男女が居て。
 観光客が指差す水路沿いの小路には、色んな色の窓があった。
 何処へ続くのかも解らない階段を昇っていけば、風のように横を駆けていく青年が小包を老人に渡していて、踵を返して駆け下りる青年も、受け取った老人も笑っていた。

(なんでしょうか、あれは)

 ハインには、欲望が存在しない。
『食べたい』も『眠い』も、すべて。
 自分にも、世界にも、何一つ関心など無い躯体番号10570のモノ。
 それが運命に選ばれ感情が芽生えたのは――文字通り『イレギュラー』で。

 階段を昇った先にあった袋小路は、何処かの屋上のようで――手摺に近寄れば、眼下を行き交う人々がよく見えた。
(笑う人、怒る人、あっちでは子供が泣いています)
 観察してみれば、人々は余りにも些細な事にあんなにも表情を変えていて。
 胸に浮かぶこの感覚を言葉にするなら、きっと。

「羨ましい、のでしょうか」

 零した言葉は、ハインが初めて覚えた欲望か。
 何気ない日々の、小さな営みへ抱いたこの渇望にも似た憧憬こそは。
 ああ、背中の核が、酷く――

成否

成功


第1章 第4節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム

 石畳の上を、トコラトコラと足音がひとつ。
 真白なセーラー襟のワンピースのスカートをふわりとはためかせ、ポシェティケトが進むのは細い細い、建物の間の路地。
 建物の陰に隠れたそこは、頭上に燦々と輝く太陽の光も届かず――少しばかり暗いものの、頭の上で探検隊の隊長を気取る金色妖精のクララのあわい光がほんわりと滲んでいて。
「……ふふ。こっち、行ってみましょうか」
 人とすれ違うことも困難な細さに、誰かが反対から来たらどうしましょう、なんてどきどきも胸に一歩一歩を踏みしめれば、狭いと広い、暗いと明るいが代わりばんこにやってきて――
「あら?」
 辿り着いた行き止まりに引き返そうかと思えば、そこにはゴンドラさえも通れぬ細さの水路がさらさらと流れる。
 膝くらいの高さのゆるい水面にうず、と悪戯心が芽生えれば、靴を脱いでちゃぷりと水路へ足を落とす。
「つめたいわねぇ、クララは落っこちないようにするのよう」
 ざぶざぶと水の流れに逆らって、角を曲がれば――
「おや、裏口からお客さんかい!」
「まぁ、ごめんなさい! こんにちは、マダム」
 頭の上からぴょこりと飛び降りたクララが、まぁるい目を輝かせジェラートのショーケースへと張りついて「食べたい」と訴えるものだから、足を拭ったポシェティケトもショーケースへ。
 おすすめを、と頼んだ塩バニラはしょっぱくて、甘くて。
 この街らしい味を楽しんだら、また歩き出すとしましょうか――

成否

成功


第1章 第5節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
春の約束

「ふぅ、美味しかったぁ!」
 ジェラート屋台の横、浅く細い水路に腰を掛けたイーハトーヴは素足でぱしゃぱしゃと水を跳ね上げる。
 足先に感じる水の冷たさと、喉元を通ったピスタチオのジェラートの冷たさ。
 生き返った、と零せばバランスを崩したオフィーリアがこてん、と腰にもたれかかる。
「絵を描くのに夢中になっちゃってたから、オフィーリアが声をかけてくれなかったら干からびるところだったね」
『……全っ然、笑えないわ!』
 放っておいたら本当に干からびそうで――まったく、と零すオフィーリア。レディにと敷いたハンカチの上で自ら身体を起こす姿は、ようやく見慣れてはきても頬が緩む。
「そこまでウッカリはしてないと思うけどなぁ……あ、ねえそれよりさ、いい絵が沢山掛けたから見てほしいな!」
 ほら、と膝の上に乗せた鞄からスケッチブックを広げて、オフィーリアとメアリに見えるように。描かれていたのは、乗客を案内するゴンドラの漕ぎ手の姿。白のシャツにストライプのバンダナ、足元は黒いパンツ――日避けの帽子を被るその姿をアレンジすれば、きっと二人にも良く似合うから。
「これは雑貨屋さんで、これは海辺で……あっちもこっちもスケッチが捗っちゃった!」
 ジェラートは溶けるから、と描けなかったけれど――きっとピスタチオみたいな緑も二人には似合う。
 沢山歩いて、沢山描いて。レストランに寄って帰るまで――今日という日は、すごく長いね。

成否

成功


第1章 第6節

ロロン・ラプス(p3p007992)
頂点捕食者

 人の身を模したロロンではあれど、その性質は極めて『水』に近く――それ故に水の満ちるこの街はどこか落ち着く気がして、ゆるゆると歩を進める。
(いやあ落ち着く落ち着く……おっと)
 気を抜けばまあるくなりそうな事だけには気を払い、ロロンは目に入った雑貨屋へ。
 店内には所狭しと雑貨が置いてあり見ているだけでも小一時間は立つだろうと思案するが――ふとその目が壁際の棚に留まる。
 並んでいたのは、華美な装飾が施された仮面たち。目元を覆うだけのものや、口元まで隠すもの、棒がついているものと様々な種類が並んでいて――そうだ、とロロンは思いつく。
「あ、ねえねえ店員さん。この中で笑顔、とか喜んでるみたいなものあるかな」
 混沌へと渡り月日が経つ今。人を模して、人を学んで、それでも感情、とりわけ笑顔というものは難しいから。
 だから参考になれば、と選んでもらった笑顔の仮面をロロンは――顔 の 横 に装着。
 お面というものはこうするのが正解なのだと知ったのが夏祭りの縁日なのだから仕方がないのだ。
 そうしてそのまま、ロロンは散策を続けーー



 ーーその日から、この街に一つの噂が生まれた。
「時折街を水が歩いていたら、その仮面を見てはいけない」
「その水は仮面を付けているけれど、それが笑顔だったらいいことがあるんだ」
「けれどそれが泣き顔や怒り顔の仮面だったら――その水に飲み込まれるらしい!」

 はてさて、どうしてだろうね!

成否

成功


第1章 第7節

秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて

 箱一杯に詰まった果物を乗せたゴンドラが、ゆっくりと運河を往く。
 その背中を眺めながら、誠吾とソフィリアは運河沿いの小道を並んで歩いていた。
「さっきから細い道が多くて、まるで迷路みたいなのです……わひゃ!」
 ソフィリアの手の中のミルクジェラートは、この陽気ゆえか早々に溶け出していて。手に垂れたそれを舐めるソフィリアに、ほらと紙ナプキンが手渡される。
「ありがとです誠吾さん、お店でもらってくれてたのです?」
「まぁ、絶対零すと思ったしな」
 珈琲のカップを片手に、誠吾は事も無げにそう返す。この食いしん坊な小鳥のお世話をするのはすっかり日常だから、こうなるのだって見えていた。
「そういやお前、何処に向かって歩いてるんだ?」
 アイスの次はコロッケなのです――なんて言うのだろうかと思えば、ソフィリアははっと思い出したように誠吾の空いた手を引いてぐんぐんと歩き出す。
「はっ。さっき、こっちの小道に猫が入っていったのですよ!」
「おい零れ、あー雑貨屋とかそういうんじゃなくて猫かよ! しゃーねぇなぁ」
 そういえばさっき黒猫が横切ったような記憶は誠吾にもうっすらあるような気はするが、まさか何処にでもいるような猫とは――と口に出した言葉に、ソフィリアは急ブレーキで誠吾へと振り返る。
「誠吾さん、雑貨屋さんに行きたかったのです?」
 こてりと首を傾げるソフィリアにそうだと言えば、きっと猫と雑貨屋の天秤にうんうん唸って後者を選ぶのかもしれない。ドゥネーブで待つ仲間へ、そして隣の小鳥への土産を――と思ったが、それ以上に楽しそうなこの表情の方が今はきっと選ぶ価値があるから。
「可愛い雑貨、お土産……!」
「いいよ、猫で」
「猫のお土産……ふぇ?」
「ほら、早くしないと見失うぞ」
「は、はいなのです!」
 猫に導かれるソフィリアに手を引かれ、右へ左へ。
 そうして辿り着いたのは、がらくた置き場のような場所で――そこには沢山の猫、猫、猫。
「うお、流石にこれは圧巻だな……」
「ねこだまり、なのです!!」
 二人で目を見合わせ驚きを口にしもう一度見やれば、此処へと導いた黒猫は丸まって寝息を立て始めた。
「うお、流石にこれは圧巻だな……」
「猫がいっぱい……しゃ、写真に撮りたいのです……!」
 しゃがみ込んで猫に近付くソフィリアは、手をわきわきとさせたかと思えば指でフレームを作って猫を覗きこみ――あ、と誠吾が首から提げたカメラを見付ける。
「あ、カメラ持ってたのですね! うちにも後でお願いします、なのですよ!」
「はいはい」
 誠吾は返答もそこそこに、猫を写真に収め――気付かれぬよう、ソフィリアの笑った横顔を収めシャッターを切る。
(ま、俺自身への土産はこの一枚で)
 
 撮った写真を確認しようと二人でカメラを覗きこんでこの一枚に気付いたソフィリアが「あー!」と声を張り上げ、カメラの攻防戦になるのは――きっともう少し先、帰ってからの話。

成否

成功


第1章 第8節

リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷狼の誓い

 淡いアイス・ブルーの瞳を細め、リーディアは空を見上げる。
 空は何処までも高く青く、そして視線を下へと戻せば水の青と、立ち並ぶ商店と、行き交う人の色彩に――真白な自分も、ともすれば瞬き一つの間に極彩色に染められてしまうかなんて考えてしまう。
 芸術品のように繊細で、それでいて豪快な活気に溢れるこの街の何処から巡ろうか――リーディアがそう思案していると、そこには土産の露店がひとつ。
(……ああ、そうだ。ガラス細工が欲しいんだった)
「失礼、こちらの二つを頂けないだろうか」
 並んでいる極彩色のグラスから、白い指先が指したのは青と、赤のもの。底が丸いそれは、どちらも下部に行くにつれ透明にグラデーションしていた。青には銀で、赤には金でグラスが縁取られたそれを店主に差し出せば、贈り物かと問う言葉。
「ああ、青は私が使うよ。赤は私の愛弟子に渡すから包装をして頂けないだろうか」
 真っ赤な頭巾の愛弟子は少しばかりお転婆なところがあるから、グラスを割ってしまわないか――なんて不安は、まぁ置いておいて。
 お土産を手に入れ、休憩にと近くのジェラート屋で買ったレモンのフレーバーの酸味が身体に染み渡る。
「……ああ、美味い」
 凍てつく寒さの故郷では楽しめぬ『ひんやり』を堪能すれば――自覚していなかった暑さに気付いてしまう。
 逡巡の後、リーディアは着込んだコートを脱いで――吹き抜けた風が素肌に触れるのは、心地好かった。

成否

成功


第1章 第9節

コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
朔(p3p009861)

 突き抜ける青空に、緩やかに立ち上る紫煙が一つ。
「いつまで座ってんだよ。折角なんだし散策といこうぜ、コルネリア!」
 陽の下に立つ朔の金髪は、太陽の光を浴びてきらきらと輝いていて――建物の影が落ちるベンチに座り込んだコルネリアは、細く煙を吐き出し切ると傍らに立つ灰皿へと煙草を押し付けた。
「元気ねぇアンタ……まぁいいけど、たまにゃ何も考えず散歩も悪くないわ」
 コルネリアはゆっくりと立ち上がると、朔が立つ日向へ踏み出す。
 日陰と違う暑さに踵を返したくなるが――まぁ少しくらいいいかと観念する。

「……暑いんだけど。何処向かってるのよ」
「んー? 別に何処ってないけど」
 当てもなく、気儘に歩く朔の背中にコルネリアが追随すること十数分、歩き回れば背中に汗も伝うもので。行きたい場所や、見たい物でもあるのかと思えば帰ってきたのは気の抜けた返事。
「次こっち行ってみよう。何か面白いモンあるかもしれねーし!」
 探検だ――なんて言いだしそうな朔のその横顔にコルネリアは大袈裟に肩を竦めるが、その表情に在りし日を思ってしまって。
 知らない街、知らない光景に胸を躍らせた自分もいた。
 故に、朔の表情は微笑ましく――懐かしい、と思ってしまうのだ。

 後ろに付いてくるコルネリアの感傷など露知らず歩く朔の鼻に――油と、香ばしい香りが届く。
「おお」
「んぁ?」
 思わず立ち止まった朔の目線の先には、揚げたてのコロッケを売る屋台があった。
 近付いてみれば、その場で揚げているのかじゅうじゅうと油の音と、強くなる香りに朔の食欲は擽られて。
「コルネリア、俺小腹空いてきたんだけど。一緒にどうだ?」
「確かにこの匂いは確かにお腹すいちゃうわね。買っていきましょうかぁ」
 コルネリアはシンプルなポテトの、朔は肉がごろごろ入った揚げたてのコロッケを一つずつ手に。
「ほぁ、ふまひ」
「ほんほ、これはなかなか……」
 小腹が満たされ満足したのか、先程より遅い歩みで並んで歩く朔をコルネリアがふと見れば――朔の目線はコルネリアの手元をじっと見ていたかと思えば、目線に気付いたのかぱっと目を逸らした先ているものだから、思わずコルネリアは吹き出しそうになってしまう。
「こっちも食べたぁい?」
「……俺、そんなに美味そうって顔してた?」
「ええ、あっちのチキンも。食いしん坊ねぇ、あんまりキョロキョロしないの」
 まじか、と髪を掻く朔に――なんだか修道院に居た頃の子供達を重ねてしまって、コルネリアが朔の頭を乱雑に撫でる。
「…っておい、髪! 子供扱いすんなし!」
 乱れた髪に口を尖らせた朔の口に、ずいと近付けられたのはコルネリアの手にあったコロッケ。
 差し出されたそれに思わず朔が齧りつけば――
「……あ、うまい」
 ころりと直る機嫌に、今度こそコルネリアは吹き出して。
(ホント、やんちゃな坊やだこと)
 朔の口の端についた衣は、まだ黙っておこうと心に決めた。

成否

成功


第1章 第10節

ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯

 ゴンドリエーレに手を引かれ、ミディーセラはそっとゴンドラへと乗り込む。
 最初の一歩だけは心臓が跳ねたものの、落ち着けば然程大きく揺れないこのゴンドラならば、きっと酔うこともないだろう。
(お酒にも、箒にも酔いませんのに――のりもの、は苦手です)
 細い路地を気儘に歩いてしまおうかと思えど、折角だからと挑戦してみたゴンドラのずっと低い目線は、不思議な心地だった。路地よりも水路が多いこの街は、引越したら慣れるまで迷ってしまいそうだ。
「どちらまで行きましょうか」
「どちら、ですか。ううん、お任せでのんびり廻って頂いてもよろしいかしら」
「了解しました。ゴンドラからは身を乗り出さないようにしてくださいね」
 ミディーセラが頷けば、ゴンドリエーレが陸の柱からロープを解きオールをゆっくり漕ぎだして――ゆるく編んだミディーセラの髪を、水の香りを孕んだ風が撫でる。

 水路の横を歩く人より、ほんの少し速いだけの速度で進むゴンドラは、ミディーセラを乗せ街を行く。
 活気に溢れる市場、大きな石造りの橋、鮮やかな洗濯物が窓から飛び出す路地。
(なんとも不思議で、綺麗で、穏やかで――ゆっくりできます)
「そうでした。この街で美味しいお酒や、お酒が美味しい所はあるでしょうか」
「お客さん、イケる口ですね? それならあの店のリモンチェッロが――」
 ぐるっと回ったら、お酒を飲んで、お酒を買って――そうして、お家に帰りましょう。

成否

成功


第1章 第11節

マルク・シリング(p3p001309)
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ

 昼下がりの水路の時間は、水の流れとよく似て緩やかに進む。その外側、賑わう市場は何処か別の世界にすら思える。
 マルクが「揺れるから気をつけて」と差し出した手にリンディスはそっと手を重ね、ゴンドラへと爪先を下ろし、二人を乗せたゴンドラはゆったりと街を巡る。
 ゴンドリエーレが高らかに歌うその唄は二人に耳慣れぬ言葉で、不思議とそれが逆に心地好い気がして二人はお喋りを止める。
(波の音が、まるでカンツォーネの伴奏みたい)
 歌声と解け合うような波の音に耳を預ければ、頬を優しく撫でる風。眼を瞑ったら行く先さえ見えそうだ、とリンディスは思う。
 伸びやかな歌声が空に溶け、二人で小さく拍手をして――再び動き出したゴンドラで、口を開いたのはマルクだった。
「水の上から見る街並みって、目線の位置や見える側が違うから、新鮮だね」
「――そうですね、こんな視点で過ごす日も――素敵なものです」
 大きな運河で沢山のゴンドラと擦れ違っては、ゴンドリエーレに教わったこの街の「チャオ」なる陽気な挨拶を交わし――尤も、普段は太陽の下を歩くより書庫に籠る方が多い二人にはその挨拶のハードルは高く、何度か小声を経てのものだったが――細い水路では、建物に反響する音に、秘密の抜け道みたいだ、と胸を躍らせた。 
「音と共に巡る景色一つずつが、一枚の絵のような美しさを持っているようで……あ、わかりにくい表現ですね」
「ううん、解るよ。絵でも描けたらよかったのに、って思うしね」
 水の上、同じ目線で、同じことを思う。
 二人で並んで、歩幅を合わせて歩いて街を見たのと違うこの『同じ』は、どこかふわふわと――揺れるゴンドラのように、心を震わせた。

「良かったらゴンドラ漕ぎも体験してみない?」
「はい!」
 座っていたのとは違う足元の覚束無さに、思わず爪先に力が籠る。背中をゴンドリエーレに支えられながら、マルクが握ったオールは――ぐん、と水に押し戻される。
「……これは、結構重いね。見ていた水の感じと全然違う。リンディスさんにも手伝ってほしいかも」
「が、頑張ります!」
 半歩、身体を縁側へと寄せて出来た場所にリンディスも並んでオールを握ると、リンディスもその重さに思わず手を離しそうになる。
 二人がかりでようやく漕ぎ出せたゴンドラは、ゆっくり、ゆっくりと水面を行く。
「波の声、と教えてもらった通り……重い、ですね。こんなにたくさんの声を毎日ゴンドリエーレさん達は受けて止めているのですね……」
「前に進むには、受け止めるべき重さがある、ってことだね」

 ――まるで、僕達と同じだ。
 ――なんだか、私達みたいですね。

「しっかり受け止めて、進めましょう」
 水の重さと、背負って来た思いの重さとを感じ――前へ。

 旅の終わり、願いの橋。
(優しいこの日が――また大切で素敵な一日となりますように」
(こんな休日を、また二人で過ごせますように)

 その願いは、きっと――

成否

成功


第1章 第12節

皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

 ――エーレンくん、遊びに行こう!
 咲良の突然の問いに、何処にと返す間もなく背中を押され――あれよあれよと境界図書館を駆け抜けた先に広がっていた港町。
 何処へ行くかくらい言え、とエーレンが言えば「言ってなかったっけ?」と咲良はあっけらかんとした顔で言ってのける。
「ほら、最近覇竜とかアーカーシュとかで忙しかったし。だから港町でのんびりするのも良いかなーって思ったんだよね!」
「……まあ、確かにそうだな」
 咲良の言う通り、互いに忙しくしていたのは確かで。ならばこの強引すぎる誘いも悪くないか――そうして街を周遊するゴンドラ乗り場に辿り着き、咲良を先導すべく先にゴンドラへと乗り込むエーレンだが、一向に続いて乗り込まない咲良に気付く。
「……ん?」
 ゴンドラへと先に乗り込んだことで同じになる目線は、普段見下ろすのと違って新鮮で――しかし、目が合っている筈なのに何故か心ここにあらずな咲良はといえば。
 ミスマッチでもあるこの光景を楽しみ、ひとりご満悦の様子。
「咲良、俺の顔に何かついているか?」
「あ、いや、顔になんかついてるってわけじゃ……!」
 再び話しかけられ我に返った咲良は頭を振り、ゴンドラへと乗り込んだ。

 ゴンドラがゆったり進む最中も、咲良は表情をころころ変えあちこちを指差して。
「ねぇエーレンくん、あれ何かな? ほら、あっちの人が食べてるやつ!」
「よく見えんな、降りたら行ってみようか」
「うん!」
 はしゃぐ姿は子供か、それとも子猫のようだ――と、エーレンが微笑ましく見守っていた、瞬間。
「わぁ! 水面がキラキラ光ってて綺麗!」
 反射で輝く水面に咲良は吸い寄せられるように身を乗り出し、手を伸ばし――
「危ない!」
 エーレンが勢いよく伸ばした手は、咲良の腕を掴むと思い切り引き寄せられて。
「……うおぁっ?! あれ? ……ふぇっ?! ふぁっ、あ……。」
 色気の欠片もない驚きの声をあげた咲良は、気付けばエーレンにの胸に背中から抱えられていたことに気付き――茹った頬で、酸素を求める魚のようにぱくぱくと口を震わせる。
(あぁ……近くで見ると整った顔してる……って)
「どうした、咲良? 顔が赤いが……」
 睫毛、意外と長いなぁなんて思ってしまって。早まる心臓の鼓動は、落ちるかもしれなかったドキドキだけじゃ、ない。
「ご、ごめん! か、顔、近かった、よね……大丈夫?」
「いや、申し訳ない。いきなり引き倒されたら驚いて当たり前だな」
「だ、大丈夫。ありがとう、どこか打ってない?」
 いつも助けてもらってばかりだ――なんて思えば、ふと気付いてしまう。
 いつもエーレンは、こちらを気に掛けて助けてくれて。間違いなく頼りになる人で、けれど咲良自身びっくりするほど毎回フォローしてる、ような。
(やば、凄くドキドキする……)
 この火照りを冷ます為、顔を洗いたい――咲良はそう思いながら、流れる水を見つめていた。

成否

成功


第1章 第13節

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

 何処からか聞こえてくる歌声は、舟唄か、讃美歌か。人々の『生』に満ち溢れた活気と絶え間なく流れる美しき水に、ルブラットは想いを馳せる。
(この光景は――懐かしいな。故郷にあった街を思い出させてくれる)
 尤も、最後に見たその街は、呻き声と腐臭と、赤黒く濁った水の澱む『死』に満ち溢れたものだったが――まあ、いいさと感傷は捨て。
 何せ今日はジェラートを食べ歩き、土産物を買う為にこの街へ来たのだから。
 ジェラートは勿論トリプル、フレーバーは酸味の効いた果実、此方へ来て初めて食べた甘いチョコレート。もう一つは店主のお勧めか――そんな思案もそこそこに、立ち並ぶ商店を眺め歩く。
 土産には菓子か、はたまた鮮やかで、不思議で、心惹かれてしまう魅力的な雑貨か――じっとディスプレイを見つめていれば、硝子越しにこちらを見つめると目が合った。
「なぁ、今日は何処でカーニヴァルなの?」
 隣を見やれば、じぃっと此方を見つめる丸い瞳。純粋無垢なその瞳は、どうやらこの仮面に興味津々な様子で。
「いや、私はただの観光客でね」
「じゃあ大道芸だ! 玉乗り? それとも人形劇? 見せてくれよ!」
「……見世物でもなくてだね。強いて言えば本職だが」
「ほんしょく? あ、仮面作ってんだ! すげー、どこの店にあんの!?」
 嗚呼、悲しいかな少年にはルブラットの声は届かず。
 聞いているのか、と嘆く彼が解放されるのは――それから数十分後のこと。

成否

成功


第1章 第14節

アンリ・マレー(p3p010423)
亜竜祓い

 鼻歌を口ずさみながら、アンリはこの街にしては広いメイン通りを往く。その腕には愛らしいドラネコが抱えられており、アンリはすいすいと人の波を縫って僅かに身体を浮かせていた。
(んー、結構人多いな。そしたら……うん、やっぱりこっちで)
 よし、と頷いて力を籠めれば、アンリの身体は空の上。手近な屋根へと爪先を下ろすと、思いきり翼も、尾も伸ばせる爽快感が心地好い。
「ドラちゃんも下よりこっちの方が色々見えるだろうしね。また空いてる道があれば戻って散歩しよう」
 屋根と屋根の間を、跳んで、滑空し――上から見る景色は、下で見るのよりずっと美しく。上から見る水路は迷路みたいだ、なんて指でなぞってしまう。
「あ、ドラちゃんあれ、なんか人が集まってる。降りてみよっか」
 とん、と爪先を地面に下ろせばそこは揚げたてのコロッケを売る屋台のようで。ぐう、と鳴る腹の虫はアンリのものか、腕の中の愛らしい子のものか。
「ドラちゃんチーズ食べられる? はい、どうぞ」
 チーズコロッケを堪能しながら街を歩き、土産を買おうかと雑貨屋へ立ち寄る。
 世話になっている夫妻へガラス細工を買えば喜ぶだろうか――二つ手に取った流れでふ、と視線を横にやれば目に入ったのは華やかな仮面。
 それを買おう、と思ったのは何故だろうか。相手から顔が見えなくなる様なものがいいと思ったのも。
 そんな思案も何処吹く風、腕の中のドラネコは――お腹いっぱい、夢の中。

成否

成功


第1章 第15節

越智内 定(p3p009033)
なけなしの一歩

 エスプレッソにむせた姿を見かねて水を持ってきた店員に、恥ずかしさで頬が熱くなったのは忘れたい――定は扉が開いたままの土産店に吸い寄せられると、入口傍の籠にふ、と目が行く。
(あ、これ。二人に買っていこう)
 花の形のクッキーで思い浮かぶ顔は、それはもう元気で胃袋が四つつくらいありそうな友達と、世話焼きで頼れる友達――と言っていいのだろうかとフリーズしてしまうのは、対人レベル(しかも異性!)に自信がない凡人ゆえの悲しさで。
(後は……んん、どうしようかな)
 有名らしいガラス細工の猫の形のキーホルダーに置物に、と悩めどピンと来ないのは――渡す相手が猫のように天真爛漫でそそっかしいからだと合点がいく。割れてしまったらきっとあの子は悲しむ――ならばと店員と選んだのは、革のペンケース。少し大人びたそれは、きっと今も、この先大学生になったって使えるから。
「……これだけでも喜んでくれるとは思うんだけど、でもなあ」
 どうにも他の二人がクッキーを食べているのを横目で見る光景が目に浮かんでしまう。
「よし」
 入口へと戻り、一番大きな箱のチョコレートを抱えて。
 皆で食べる用にチョコレートと――『せんせ』も誘えば、洋酒を片手に遊びに来てくれるだろうから。
 店を出たらチーズを買って、向こうに戻って誘いのPINEを送ろう。
 パーティーみたいだ、って皆ではしゃぐなんて――もしかして僕ってば、リア充とか陽キャってやつ?

成否

成功


第1章 第16節

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
純白の聖乙女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

「お腹空いたー!」
「サクラちゃん、さっきコロッケも食べたのにー」
「それはそれ、これはこれなんですー!」
 サクラとスティア、二人は広場のレストランでメニューを広げる。
「こうやってゆっくりするのは久しぶりだね」
「うん、最近は色々忙しいからね~」
 深緑も天義も慌ただしい中、こうして穏やかな時間が過ごせることは貴重だった。
「ってことで、今日はいっぱい食べるよ!」
「うんうん、美味しい物がいっぱい載ってて迷っちゃうよー……はっ、サクラちゃん見て!」
 スティアがこれ、と指したのはイカ墨のパスタ。写真がないそれに、二人「いかすみ……」と声が重なる。それは食べられるのか、美味しいのか、しかし一番上に書いてあるくらいなのだから――
「サクラちゃんこれにしてみない? オススメらしいよ!」
「え、あ、うん迷ってたし気になるからいいけど! スティアちゃんは?」
 強引なスティアに、しかし好奇心が勝つサクラも乗せられて。
「私はクアトロフォルマッジ! チーズがびよーんって伸びそうだよね!」
「あ、いいなスティアちゃん、私にも分けて」
 カプレーゼにいわしのマリネ、チーズの盛り合わせにタラのムース、子牛レバーのワイン煮込み、茄子とハムのはさみ揚げ、ドリンクはレモネード――注文を聞いた店員がその量を心配すれば、サクラは大丈夫ですと頷いて――スティアちゃんが料理した時に比べればずっと平和な量だよね、と空を見上げた。

「いただきまーす!」
「あ、スティアちゃんそっちのお皿取ってー」
 テーブルに所狭しと並んだ前菜の料理は、店員の心配も杞憂に終わりあっという間に空になる。
 青カビのチーズは二人で鼻をつまんで口に放り込み、タラのムースにはバゲットもお代わり。いわしのマリネには謎の頭痛を覚えたスティアをサクラが心配した一幕も。
 お待たせしました、と置かれたメインに――サクラはぎょっと目を丸くする。
「く、黒い……」
「ほんとだ、真っ黒! でもおすすめなんだしきっと美味しいよ!」
 スティアはといえば、早速ピザの伸びるチーズに舌鼓を打っている。
 サクラは恐る恐るフォークで真っ黒な麺を巻いて口に運べば――
「あ、おいしい」
 見た目に反して思いの外馴染む味にもくもくと食べ進めるサクラへ「ねぇねぇ」とスティアから声がかけられる。
「サクラちゃん、1+1は?」
「……2?」
「うわー、歯が真っ黒サクラちゃんだー!」
 に、と歯を見せたサクラにスティアが手鏡を見せれば――そこには真っ黒な歯の、自分。
「もしかして知ってた?」
「なんのことかなー?」
「もう、スティアちゃん! ……没収でーす!」
 白を切るスティアの手元から焼きたての肉の皿を奪い取る。スティアの伸ばした手は、無情にも空を切った。
「って怒らないでー! えーん、反省はしてるよー!
 私のお肉ー!どうしてえええええ!」
 幼馴染二人の声は、広場に響く。
 店員も客も、それを微笑ましく見守っていた――

成否

成功


第1章 第17節

リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷狼の誓い

 少しずつ日が西に傾き、石畳に伸びる影が長くなる。
 左手にコートを、右手には大事そうに紙袋を抱えたリーディアは水路を往くゴンドラに目が留まる。
(そろそろ帰ろうかと思っていたのだが……面白い、最後に乗っていこう)
 両の手では足りないお土産話も、きっと愛弟子なら赤い瞳を爛々と輝かせ聞いてくれるだろう。
「……ふぁ」
 思わず零れた欠伸は、退屈な訳ではないが、心地よい揺れと暖かな陽気にはつい眠りそうになってしまうから。
 あの子が隣にいれば、「お師匠!」「あっちに何かあるよ!」なんてはしゃぎ倒すから、きっと眠る暇も与えてはくれないのだろうけど。
(連れてくればよかったかな)
 きっとあの子は、最後には「次は連れていって!」と言うだろうから――そんな思案をしている内に、辿り着いたのは一つの橋。願いの橋、と呼ばれるそこを通る時に願いをすればそれが叶うのだとゴンドリエーレは語る。
「……夢に描いていることがある。それでもいいかな」
「ええ、勿論! それではいきますよ――」
 静かに目を閉じれば、石造りの橋に反響する水の音。リーディアはそのまま、小さく願う。
(私は暖かな家庭を築きたいんだ。
 たくさん子供がいて、傍で妻が微笑んでいる様な笑顔の絶えない家庭がね)

 ああ、けれど。
 願う資格が、自分にはあるのだろうか。

 ――こんな人殺しに、願う資格など。

 ゆっくりと開いたアイスブルーの瞳は――ひどく、寂しげだった。

成否

成功


第1章 第18節

マルク・シリング(p3p001309)
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ

 水上散策を終えたマルクとリンディスは、ゆらゆら、ふわふわ、陸の上に居るのにまるで水路を歩いているみたいだと話しつつレストランへ。
 広場の外、運河沿いのテラスは解放感に溢れている。
「シトリンクォーツのサンドイッチのお礼に、今日は僕がご馳走するよ」
「そんなに気にしないで良いのですよ……? ですが、そう言ってくださるのでしたら今日はお言葉に甘えまして」
 大袈裟です、とリンディスは言おうとして――それは彼にとって好ましい謙遜ではないと飲み込んで。きっとこれは、彼にとって「また今度」の為の誠意だから。
 渡された一冊のメニューを、二人で見られるよう横にして頭を寄せ合って覗き込む。
「これは……思った以上に色々あって迷うよね」
「ええ、食べたい物が沢山あって悩みます……!」
 むむ、と眉間に皺を寄せ頁を行ったり来たりのリンディスにマルクは気付くが、声を掛けるかこのまま見守るか思案し――少しだけその葛藤を微笑ましく見守った後、そっと口を開く。
「二人で別々の種類を頼んでシェアしようか? そうすれば、色々食べられるし」
「名案です! では、お野菜のスティックと……石窯ピザは半熟卵の乗ったビスマルクで」
「じゃあ僕は……イワシのマリネと仔牛レバーのワイン煮込みに」
 それと――二人同時に目が止まるのは、イカ墨のパスタで。
「イカ墨って食べたこと無いな。どんな味だろう……?」
 行ってみる? の問いにリンディスはゆっくりと首を横に振り――次の機会に持ち越しに。

「それでは、よき休日に」
「ですね」

 ――乾杯の声に、リンディスのレモネードとマルクの赤ワインのグラスが軽快な音を立てる。
 見慣れぬ野菜をおずおずと食べ、そのぴりりと辛い刺激に目を回したと思えば段々とそれが癖になり。
 マリネを分け合おうとリンディスが取ったイワシがぽとりと地面に落ちれば、待ってましたと猫が足元を駆け抜け早業に唸ってしまう。
 ワイン煮込みにはマルクのワインが進みそうで――慌ててリンディスがそれを止めて。
 ビスマルクの半熟卵が零れないよう格闘すれば、二人目を見合わせて笑ってしまった。
 どちらからともなく「美味しい」と口にして――ふ、と零れるのは美味しさの理由。

「一番美味しく感じる理由は、二人で一緒に食べるから、だね」
「……そうですね。そうすればきっといつでも美味しいご飯に」

 梅の香りの中街を歩き、甘い抹茶のショコラを食べた。
 花が芽吹けば、覇竜の桜を見上げてちょっとスペシャルなお弁当を食べた。
 風薫る黄水晶の季節は、豊穣で芝桜を眺めてサンドイッチを食べた。
 水の流れに乗って夏の足音がした今日の日は、初めての味を食べた。
 きっと、これからも――夏も、秋も、冬も、次の春も、沢山の美味しいご飯が待っている。

「また僕と、休日に食事に付き合ってくれるかな?」
「是非、また」

 華やいだリンディスの笑顔は、マルクだけが見られた――特別なデザート。

成否

成功


第1章 第19節

ハリエット(p3p009025)
今は未だ秘めた想い

 見上げた空は、どこまでも高く、青く。手で日よけを作ってなお眩しい日差しに目を細め、ハリエットは石畳を往く。
「いいお天気。外が気持ちいい……」
 持っていたコロッケを齧れば、揚げたてのそれはまだ熱く。日の当たらぬ路地裏で俯き、飢えと渇きとで今日をどう生きればいいかだけを空腹をどうするかだけを考えていた自分が、空を見上げ、日の当たる場所を食べ物片手に歩いていることはまだ不思議で。
「あ、雑貨屋さん」
 コロッケをぽい、と口に押し込みハリエットは店内へ。
 店の中は、どこもかしこもキラキラと輝くガラス細工に溢れていて――「女性の方には人気ですよ」と店員が薦める装飾品には食指が進まない。軽く見たら出ようか、とハリエットはは思うが――ふと一角に目が留まる。
(あの人に、似合いそう)
 窓から射す光に反射して光る深い緑のグラスは、何処かハリエットに光をくれたひとを思い出させて。
 初めて自分の為に言葉をくれて、ご飯を食べさせてくれて。
 恩を返したい。最初はそれだけだったのに――今はどうしたら喜んでくれるのだろうか、なんて考えてしまう。

「これ、ください」

 彼へと送る深い緑と、自分の為の淡い緑と。
(一緒に使える日が、来るといいな)
 例えば、仕事終わりに一緒にお酒を呑む日が来れば――なんて、思ってしまうのはどうしてなのだろう。
 どうして、あの人の事ばかり考えてしまうのか。

 今は未だ秘めた想いの、その名前は。

成否

成功


第1章 第20節

しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き

「らぶりーぷりちーしにゃこさまー♪」
 上機嫌な歌を口ずさむしにゃこの右手には五個目のコロッケと、左手にはワッフルコーンに入った三色――バニラ、チョコ、ストロベリーのアイス。
(ふっ、中々綺麗で可愛い町……美少女が食べ歩きするだけでもう絵になりますね!)
 嗚呼悲しいかな、その頬はコロッケとジェラートでぱんぱんに膨らんでいて――最早欲張るリスなその姿は、美少女とは程遠く。
 さあ美少女を一枚、と観光客のカメラへとフレームインしてはカメラを逸らされること両手で足りず。
「チッ、見る目がないですね……ん? なんかこの辺、猫多いですね……」
 路地裏へと入り込んだしにゃこの前には数匹の猫。人間がダメなら猫にモテるのもやぶさかではないとジェラートを平らげ、近う寄れとしゃがんで手を伸ばす。
「よーしよし……あ!?」
 猫はしにゃこに大人しく撫でられたと思えば、目ざとく反対の手のコロッケを奪い――逃走。
「コイツしにゃのコロッケパクリやがりましたよ!? 待てコラァ!!
 にゃんころごときがワイルドプリチーハイエナから逃げられると思うなよ!」
 飛んで潜って鬼ごっこ。ハイエナの執念はしつこい、塀に開いた狭い穴に逃げようと、スレンダーボディならば、そう――!

 コロッケの食べ過ぎで抜けませんでした。
 猫にも逃げられました。

「うぐ、ぬ、抜けないー! 誰か助けてー!!」
 迷路のような路地裏、しにゃこは生きて帰れるのか――!?

成否

成功


第1章 第21節

●A domani!
「はー……今日も疲れたなぁ」
 仕事を終えたエンリコにとって、晴れた夜にベランダでソーダを飲む時間は至福の一時だった。
 遅刻寸前で先輩にからかわれた朝の出だしは最悪で、時にはまだ失敗をして。
 それでもこの街と、この仕事が好きなのだとエンリコは思う。

 ゴンドラからの景色に目を輝かせる人がいた。
 オールの重さに驚く人がいた。
 はしゃいで転ぶ人がいた。
 願いの橋に、小さく祈りを込める人がいた。
 街もいつでも賑やかで、ゴンドラから見える人々の表情が愛おしいと思った。

「……なんか不思議な水の幽霊が見えたのはちょっとやばいと思ったけど。疲れてるのかな」
 そして帰り道で穴に挟まっていた少女は一体何だったのだろうか。
 足を引っ張って助けたら、美少女という割に顔が埃まみれだったけれど。
「さて、と。明日も仕事だし、そろそろ寝るかな」
 明日こそは、クロワッサンとカプチーノで優雅な朝食をとるのだと決意して、瓶に残ったソーダを飲み干す。

 水の都の蒼き日は、いつだって素晴らしく――最高の一日だった。

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