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シナリオ詳細

<美しき珠の枝>花信風のしらせ

完了

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●はなさかば
 金糸雀の鳴く季節。
 過ぎた季節の分だけ積まれた報告書へと手を伸ばし、鹿紫雲・白水(p3n000229)は眼鏡(がんきょう)の下の薄い色をそっと眇めた。自然と眉間に皺が寄ってしまうのは仕方がない。彼の職種的に、彼の元に集まる報告書は『良いもの』ではないのだから。

 刑部省の指揮下で行われた年末の『大掃除』――豊穣の貴族である小笠原弘鳳を捕縛した際に、刑部省はイレギュラーズたちが助け出した少年の保護をした。
 少年の名は、蒼太。……この名すら、刑部省は少年から聞き出せずに居た。というのも彼の事件で少年は、信じていた人に裏切られて恐ろしい目にあった事から大人の男性全てを恐れるようになってしまっていたのだ。彼が預けられた寺では『そーた』と名は名乗ったが、思い出したくないのかそれ以上は語らず。和尚も少年の傷を広げたくないからと、彼が自ら話し出すまでは待つと決めていたのだ。
 そこへ少年を護ると小笠原邸で決めた澄恋(p3p009412)が瑞鬼(p3p008720)を伴い訪れて少年と話をし、当事者の口から事の顛末を詳しく知ることが叶った。
 少年からの話を纏めると、『寒村の鬼人種を買う人買い、もしくは奉公先を斡旋する組織だった者たちがいる』ということだった。

 刑部省が人員を多く導入すれば、朝廷に入り込んでいる悪人がいた場合に不審に思われることだろう。実際、小笠原弘鳳は朝廷で発言力のある有力な貴族であった。他にどれだけ悪事に加担している者等がいるかは解らない。……大きな動乱の折にある程度の膿は出たとは思われるが、やはり底を知ることは叶わない。世渡り上手な者ほど、保身が上手いものなのだ。
 そこでイレギュラーズたちの手を借りて調査を進めているのだが、帝のお膝元たる高天京でも事件は起きていた。
 水瀬 冬佳(p3p006383)が知り合った鬼人種の女性から『ほおずき屋』という小物屋の情報を得た。生活に欠かせない小物等が質は落ちるが安価で手に入る、上京したばかりの者等がよく使う店らしい。
 少しでも怪しくばと、刑部省でこの店を詳しく調べることにし、ひと月以上の監視を続けた。その結果――、

『拐かしの可能性有り』

 との報告が白水の手元に届いたのだ。
 報告によると、その店は鬼人種・精霊種ともに利用するのだが、店に入ったまま出てこない鬼人種が居たとのことだった。数刻経っても出てこない客が居ることに気付いた刑部の役人は一般客を装い店へと入ったが、店内には人の良さそうな顔をした精霊種の店主がいるだけだった。今は未だ事を荒げる訳にはいかないため、知り合いが来なかったかと出てこなかった客の特徴をあげて尋ねてみたものの、店主は「すぐに帰られましたが」と返した。
 上京したばかりの者等が使うその店は、生活が落ち着いてくれば使うことが無くなるため客の入れ替わりが常に起きており、客同士も「そういえばあの人最近見ないね」とはならない。京(みやこ)の中でも、そうして人知れず足取りが掴めなくなる鬼人種がいるのかもしれない。
 人知れず、闇の中で藻掻き苦しんでいる鬼人種は多いのだろう。
 そしてそれらを食い物にしている輩も――。
 それら全てを一網打尽とするためにも、事が敵方に知られぬように動きたい。
「今暫く手を借りる事となりそうだ」
 眉間を揉みほぐしながら、白水は筆を執る。筆を紙へと置く一呼吸前、白水の視線は積み上げられた報告書の一番上へと向けられた。
 それに記された題は『「鬼閃党」目撃情報』。鬼閃党員――善悪を問わず依頼を受けるという集団に属する人物を豊穣内で見掛けた、という報告を纏めたものである。党員はひとりひとりが腕のたつ猛者揃い。党として動くわけではなく個として動く上、彼等が真に求めるのは金銭ではないため、動きは読めない点が多い。
 郊外での動き、件の店での動き、それから花街や賭場も何やらきな臭い。
 安寧の世を謳う平和の下で、火種はくすぶり続けている。
 白水は国の未来を憂い、嘆息した。


●雨曇り
「雨泽様、お耳を」
 鈴鳴らすような声で、鬼の娘が提案があるのだと囁いた。
「わたしを使ってみませんか?」
 弧を描く瞳は優しげに見えて、実のところその奥底は笑んでいない。
 こわいなぁなんて言葉は女性にかけるものではないかと飲み込んで。
「僕としては反対したいところだけれど」
 けれど、君がそれを望むのなら。
 澄恋の提案を雨泽は刑部へと伝え、検討することになった。
 そうして数日後。刑部から帰ってきた回答の元、娘は友人たちと花街へと赴き――『理由』を作ったのだった。

 ――――
 ――

「結婚支度の手伝いや、お祝いがしたいって子はいるかな?」
 何の脈絡もなくローレットでそう切り出した劉・雨泽(p3n000218)に「誰のじゃ?」と瑞鬼(p3p008720)が率直に尋ねた。
「澄恋の」
「……は。聞いとらんが?」
「うん、決まったばかりだから」
 君は行きたそうだね、と口にした雨泽はそのまま長身の瑞鬼の後ろへと視線を向ける。
「綾姫、君も行ってくれると嬉しいな」
 自身に指をさして『私?』と示す蓮杖 綾姫(p3p008658)へ、「刃物が出るかもしれないから」と笑みの表情を崩さずに雨泽が告げる。
「澄恋の嫁ぐ先はね、少しばかりきな臭い……と言うか、悪い人でね。
 あっ、僕が手を回した訳ではなく、これは彼女たっての希望だから」
 瑞鬼の視線の温度が下がったのを感じたのだろう、両手を広げて誤解しないでのポーズを示す。
 そう、これは彼女自身が持ちかけたことだ。けれど本人の胸の内は本人だけのものだ。詳しくは語らず、ただ端的に「借金がね」と雨泽は口にした。
「あ?」
「えっ」
「借金……」
 その言葉に反応して、暗い顔をして請求書らしき紙と睨み合っていた男たちが顔を上げた。嘉六(p3p010174)と唯月 清舟(p3p010224)と松元 聖霊(p3p008208)の悪友三人だ。同じ日に、同じだけ遊んだ澄恋が、何故居ないかに気付いた三人に雨泽は「……君たちのも、口を利いてあるから」と少しだけ憐憫の籠もった声で告げる。暗い顔をした彼等の心を軽くするためか、臓器を売らないで済むコースですと笑う顔が如何にも胡散臭かった。

 それからは、これからのことを。
 主に行ってほしいのは、引き続き高天京の調査と郊外の調査だ。
「大通りにある『ほおずき屋』は鬼人種の人に暫く通ってもらうのがいいかな」
 鬼人種と間違えられそうな旅人だっていいし、露見しない自信があるならば巧妙に変装してもいい。もし拐かしであった場合、身寄りがなさそうで儚ければなお良いが、該当者がいなければ保留にしても少し時間はかかるがそのうち刑部が手柄を上げてくることだろう。
「それから郊外は、被害者とか噂とかが京よりも多いのではないかな」
 勿論、巧みに隠されてはいるだろう。
 情報を選り分けて、少しずつでも真相に近づけていけたら幸いだ。
「そんなところかな」
 お願いするね、と笑う雨泽に「任せて」とジルーシャ・グレイ(p3p002246)が笑う。種族は関係なく、悪は放置すればのさばり、増長する。住まう者たちが安全に暮らすためにも、それは決して見逃してはならないことだ。
「あの、雨泽」
 ちょっといい? と控えめに名を呼んだチック・シュテル(p3p000932)に、雨泽はなぁにと首を傾げてみせる。何処か言いづらそうに視線を左右に逃したチックは暫くそうした後、気のせいかもしれないけれどと口を開いて。
「最近、豊穣に行くと……視線感じる、かも」
 返るのは、「あぁ」と「へぇ」の間みたいな生返事。
 気のせいだと言い切るには情報が足りない。
「もし一人でいるのが不安だったら、僕に声を掛けてくれていいよ」
 いつもどおりの姿で、いつもどおりのかおで、笑みを返す。
 警戒するに越したことはないから、と。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 お待たせいたしました。<美しき珠の枝>の続きとなります。

●成功条件
 溝口・大河を生きた状態で捕縛
 有力な被害側と加害側の情報を掴むこと
 情報漏洩をしない
 (刑部省が動いている/神使であること含む)(※溝口邸は下記参照)

●シナリオについて
 鬼人種虐待絶対許さないマンが刑部卿に就任しちゃったのであら大変★
 叩けば出る出る、豊穣に蔓延る鬼人種が被害にあっている悪事の数々!
 刑部卿「この機に洗いざらい綺麗にするから覚悟するがいい!」(意訳)
 ――という訳で、少しずつ動いていっています。
 被害者と加害者の情報を集め、小さいところから潰していき、最終的に総元締めを叩き潰したいなと刑部省が動いていきます。
 しかし、この情報が漏れる事は望ましくありません。悪人が「暫く大人しくするか……」「神使ってあのやばいやつらだろ?」と隠れてしまいます。刑部省が動いていること、そして神使であることは隠した方が良いでしょう。何も知らない一般人にも、悪事を働く者たちにも知られること無く情報を集める必要があります。

【関連シナリオ】※読む必要はありません。
・美しき珠の枝
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7061
・<美しき珠の枝>きさらぎの風
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7309
・<美しき珠の枝>幕間 戀遊戯
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7479

●プレイングについて
 一行目:行き先【1】~【4】
 二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)

 一緒に行動したい同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名+人数の数字】or【名前(ID)】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

 例)一行目:【2】賭場
   二行目:【お掃除隊3】(※3人行動)
   三行目:仲良しトリオで行動だよ。盛り場の賭場に行ってみようかな~

 情報収集のためにNPC等に話しかける言葉は、具体的に。『セリフ』でお願いします。そのセリフが有効であった場合、良い結果が得られることでしょう。
 怪しまれる、無理を通す、先に手を出す、等といった問題が生じなければ戦闘は発生しません。
 2と3の調査行動は、行いたい時間帯を『朝昼夕夜』から選べます。特に指定がなければ昼間の扱いになります。高天京の夜は花街以外、酒家帰りの人か脛に傷を持つ人にしか会えない可能性が高いです(例外もあります)。郊外の夜は言うまでもなく。

【1】地方地主『溝口・大河』の家へ行く
 澄恋さんの『嫁ぎ先』に潜入します。
 夕方頃から宴会をするので、お手伝いとして、もしくは伝手がある場合は客として潜入できます。主な流れは過去のシナリオ(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7061)と似た感じになります。家探しをして、証拠をゲットするのが主なお仕事です。他の使用人や溝口家の人たちに怪しまれないように行動すれば、地方地主なので然程警戒が強い訳ではないため、家の中の怪しい場所を探すと色んな証拠が出てきます。
 スムーズに行けば断罪までいけますが、いけなくとも刑部省がひっ捕らえます。鬼の角等の件で刑部・神使が動いていることは内緒なので、罪状は『横領』で捕らえます。
 人数が多すぎると不自然になるため、多くても澄恋さんを含めて『8名まで』が良いでしょう。

【2】高天京を調査
 前回から引き続き、長屋通り、大通り、職人町、盛り場、花街等の調査を行う。

<現時点で公開されている情報>
・花街 …鬼人種の遊女が多い見世『白鴇屋』がある
・職人町…時折職人たちに依頼が入る、鍛冶師を刑部省が確保(保護)
・盛り場…怪しい行商人を見かけた、(誰かが何か情報を得ています)
・大通り…怪しい行商人を見かけた、誘拐事件を刑部省が追っている(ほおずき屋)
・長屋通…(誰かが何か情報を得ています)

【3】郊外の村落を調査
 高天京から離れ、郊外の村落の調査に向かいます。
 京(みやこ)から離れれば離れるほど鬼人種の姿を多く見かけることでしょう。
 村の中で区別化されている村や、差別なく平和に助け合って暮らしている村もあることでしょう。
 鬼人種のみが平和に暮らしている村もあるかもしれませんが、そういった場合は隠れ里かもしれません。嫌なことがあった鬼人種が逃げて隠れている可能性もありますが、最初から存在を知っているかクリティカルな行動がなければ見つけるのは難しいかと思います。また、閉ざされている環境なので外の情報は知らない可能性もあります。

【4】その他
 他にやりたいことがある人向け。何かを行えます。


●溝口・大河
 澄恋さんが作った借金を肩代わりした大金持ちの地方地主。壮年のヤオヨロズ。
 澄恋さん以前にも何人か前妻が居たようですが……?
 夕方の宴会の刻限になると刑部省が動きます。ガサ入れです。『横領』の罪で逮捕の形となり、鬼人種の件で動いている事は漏れません。贈賄等、叩けばいくらでも罪がポロポロと落ちてくる人なので罪状には困りません。
 使用人からも彼が治める土地からも、評判はすこぶる悪いです。

●澄恋(p3p009412)
 突然ですが、澄恋さんがついに嫁ぐらしい……です? とつ、げる? 本当に?
 澄恋さんのための宴会が開かれますので、当日はほぼほぼ準備のために人がついているため動き難いかと思います。が、前日の夕方に家に入り、顔合わせ、早めに休んで(客間)明日に備える……なスケジュールですので、不審すぎない行動は可能です。
 当日に澄恋さんとコンタクトを取る場合も不自然でなければ取れるので、彼女が前日等に調べた情報を渡す術があれば他の人とも情報共有が可能でしょう。
「宴会を無事に終えさえしなければバツがつかないよね」って雨泽が言っていましたが、刑部省に待ってもらっても(誰かに伝えてもらう必要があります)大丈夫です。このタイミングが良い! 等のご指定ありましたら、澄恋さんはプレイングに記してください。

●『白鴇屋』
 客として行く、もしくは働き(許可がでている人のみ)に行くことが可能です。
 花魁が居ますが、花魁に会えるのは花魁に会う『許可が出ている人のみ』となります。男衆では会えませんが、お医者さんは昼間、よく出入りしている人は夜間に不自然でなければ会えることでしょう。
(※花魁は幕間OPに出ている人です)

●鬼閃党
 強きを良しとする集団で、ローレットとは違い善悪に関わらず、力を請われ、己が武が必要とされた際に依頼を受けたりしています。
 豊穣と天義において度々目撃情報が上がっており、天義では危険集団としてマークされているようですが……。
 現状、公開されている情報と誰かが持っている情報によっては二箇所くらいで姿が見える『可能性』があります。もし党員と出会ってしまった際は、荒事は避けた方が良いでしょう。例え自身が相当な手練であろうとも。

●証拠品『鬼人種の角』
 以前集めた証拠品の内、『鬼人種の角』を刑部省から借りられます。
 これは『証拠品を集めた該当シナリオの参加者』もしくは『直接刑部卿に会った人』に限り、解決するまでその人が所持している扱いになります。(解決後、刑部省に返却)
 一人一本まで借りられます。プレイングで仲間の誰かに譲渡することは可能ですが、一度所持した人が刑部省の所に余っていたとしても新たに借り受ける事は出来ません。また、一箇所に集める(全員が一人の人に渡す)ことも可能となります。譲渡可能対象者は『同じ行き先』の人のみです。(『【2】職人町』までの合致)
 前述の通り、善良なヤオヨロズの民たちは角と言われても首を傾げますが、提示方法によっては何らかの情報が出る可能性があります。
 また、悪人にも同様です。彼等は隠しているので口が固いのですが、提示方法によっては何らかの情報が出る可能性があります。
 言うまでも無いことかも知れませんが……どちらの場合に置いても、角だと言って唐突に見せるのは怪しまれることでしょう。

・刑部省が保管している角
 金・銀・瑠璃・硨磲・瑪瑙・玫瑰 ……めいた角。
 上記条件に当て嵌まる貸し出し希望者は、【三行目】に【金の角】等、希望の角を記してください。また、他の人と被らないように相談をして担当を決めてください。(被った場合、どちらにも貸し出しはありません)

・貸出中
 珊瑚…チック

●プレイング
 長編プレイングは公開されません。
 調べたいことを自由に、あなたらしく記してください。

●EXプレイング
 関係者は、被害者・加害者・協力者が居ましたら、本シリーズに今後登場するかもしれません。(登場を確約するものではありません)
 文字数が足りない時等にご利用ください。

●同行
 弊NPC、劉・雨泽(p3n000218)が同行しています。
 刑部省に伝えたいこと、もしくは彼に話したいこと等ありましたら掴まえてください。基本的には高天京をウロウロしています。
 ※種族を知られることを嫌うので、種族特徴を明かすような行動を弊著SS以外で行う事はありません。


 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <美しき珠の枝>花信風のしらせ完了
  • GM名壱花
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月27日 22時05分
  • 参加人数25/25人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(25人)

チック・シュテル(p3p000932)
燈囀の鳥
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
月香るウィスタリア
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
影を歩くもの
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒狼の勇者
松元 聖霊(p3p008208)
医神の傲慢
蓮杖 綾姫(p3p008658)
厄斬奉演
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
真意の選択
白ノ雪 此花(p3p008758)
特異運命座標
日向寺 三毒(p3p008777)
瞑目の墓守
金枝 繁茂(p3p008917)
夜妖<ヨル>を狩る者
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
澄恋(p3p009412)
花嫁キャノン
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
耀 英司(p3p009524)
怪人暗黒騎士
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
嘉六(p3p010174)
のんべんだらり
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
反撃の紅
唯月 清舟(p3p010224)
天を見上げる無頼
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座

リプレイ

●鬼の婚礼
 風が温かに頬を撫でる頃。地方地主の『溝口・大河』が婚礼を挙げるとの話が、溝口が預かる土地の人々の間で囁かれるようになった。
「あの地主、『また』婚礼を挙げるらしい」
「何人目かねぇ。また年も考えずに綺麗なお嬢さんなんだろう?」
「いい歳した爺さんが……訳ありな娘ばかりを囲って……」
「そういえば前の嫁はどうしとるんじゃ?」
「さぁ……逃げられたんじゃないかね」
(ふぅん。やはり不人気のようだな)
 使いを頼まれた下男の装いの『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は、村民たちの話を澄ました耳で捉えながら村を抜けていく。高天京から然程離れてはいない場所に位置するこの村は、寂れすぎている訳ではないが裕福とも言えない。重い荷のお使いを嫌がる使用人に進んで仕事を買って出ることで信頼を得、村と屋敷とを幾度か往復すれば、年貢が高いだとか大河の人となりだとか、そんな話は沢山耳へと飛び込んできた。
 溝口邸の門を潜り、担いできた酒樽を庭へと下ろす。ふうと汗を拭いながら、ざ、ざ、と聞こえてきた音に視線を向ければ、竹箒を手に庭掃除をしている体格の良い鬼人種の男が目に入った。
「繁茂、これを蔵へと運んでおいてくれ」
「承知いたしました」
 丁寧に砂を均した『神威雲雀』金枝 繁茂(p3p008917)が後を継ぎ、安々と酒樽を持ち上げて米俵や醤油と言った食糧がしまわれている倉庫へと運んでいく。
「いやぁ、ふたりが来てくれて本当に助かっているよ」
 おいすーなんて挨拶をされた時には都会ではそういうのが流行っているのかと驚いたけれど。繁茂の背を見送るジェイクに話しかける初老と言ってもいい男は、この家の使用人の内のひとりだ。昔から村に住んでいるものはここで働くしかないなら仕方がないが、外から働きに来た若い者は家主に嫌気が差してすぐに居なくなってしまうのだとぼやいていた。臨時で入ったふたりに重いものを運ばせて済まないねと腰に手をやって男は困ったように笑うが――それはイレギュラーズたちにとっては都合が良いことだ。重いものを運ぶと言えば悪い顔はされないし、長時間こもれば怪しまれる蔵に幾度も脚を運んで調べることが叶う。
 大柄な繁茂の足元で身を隠すように動き回る鼠のファミリアーと視覚と聴覚を共有――相手の感じているものを感じられるため暗視等の効果はなく、鼠は色を識別する能力も低い視覚の弱い生き物だが――しながら、ジェイクは「お役に立てて嬉しいでーす」と人好きのする笑みで笑ってみせた。
「――普通の蔵でしょうか」
 繁茂は素早く酒樽を置くと、辺りをじっくりと見て回る。蔵へ入る前にちらりと送った視線の先ではジェイクが使用人の男の気を引いており、更に面紗を着けた『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)が遠くから「手を貸してくれませんか」とふたりを呼んでいる。少しくらいとどまったところで気にはされることはないだろう。
 既にこの蔵には幾度か足を運んでおり、半分ほど見終えている。しかし、使用人たちが気になる言葉を零していたため、此処を調べ尽くすことに決めたのだ。
 それは、厨房に味噌が入った重たい瓶を持っていった時に聞いた話だった。
『旦那様はあたしたちが調味料をすくねていると思っているのよ』
『自分はいいものばかり食べているのに、あたしたちにはうるさいんだから』
『蔵にもしょっちゅう見に行って、目減りしていないのか調べているのよね』
 使用人たちの言葉を頼りに、仲間たちに用事を作ってもらって蔵へと足を運べば、そこは米俵が多く仕舞われた普通の蔵であった。瓶(かめ)や樽が多いのは、祝言のせいだろう。振る舞うための酒が今日も仕舞い込まれたばかりだ。
 繁茂はそうして、見落としがないようにと隅々まで見て回った。
 温度を感じ取れる視界で全てを見て回れば――。
「これは……」
 醤油や酒、味噌や漬物とも違う――温度が視認できる瞳では一見何も入っていないように見えるが、しっかりと封がされている瓶をみつけたのだった。

「ああ、またお呼びになっているわ。用事を聞いてきてもらってもいい?」
「わかりました、私が行ってきますね」
「あなたが臨時だなんて惜しいわ。ずっと居てくれたらいいのに」
 厨で明日の料理の段取りをし――素早く包丁等の刃物も確認をした『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)は先輩使用人たちに困ったような笑みを向ける。人手が必要となったために短期の勤めだとは使用人たちも理解はしていたが――正直、新たに迎え入れられる嫁に辟易していた。
 ――何故なら。
「お母様、ここのお料理、わたしの口にあいません。お母さんのお料理のほうが美味しいです」
「そうじゃな……いや、澄恋。おぬしはこの家の嫁になるのじゃ。慣れぬといかんぞ」
 新しく嫁となる娘はにこりと微笑んだ第一印象は良かったものの、ことあるごとに不満を口にした。
「まあ。簪はこれだけしかないのですか? 衣紋掛けに華やかなお着物も飾ってない……わたし、この家でやっていけるでしょうか……」
「そうじゃのう。おぬしに合う装飾に欠けておるようじゃ。じゃがまぁ、追々旦那様に買って貰うがよいじゃろうて」
「そうですね、お母様!」
 大柄の鬼人種『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)を伴い溝口家の敷居を跨いだ『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は瑞鬼を母と紹介し、それからずっとこの調子だ。売られてきた娘に母が着いてくることなど異例なことではあるが、彼女が甘やかされて育った娘であり、だからこそ金遣いが荒くて旦那様の嫁に……と使用人たちへと印象づけられた。
 けれども一通りの礼儀作法は身につけているのか、大河の前では「溝口の姓を賜ります、澄恋と申します」と恭しく三指をついてこうべを垂れ、頭を上げた後の所作では大河にほうと感心するような吐息を零させたようだ。
(角と、唇を見てらした? 大河様はちゅーがしたいのでしょうか)
 視線の先を覚えた澄恋は明日を楽しみにしていますと大河へと笑みを向け、瑞鬼と使用人たちを伴い屋敷内の探索へと繰り出したのだった。

 ――などというやり取りがあったため、出来るだけ相手をしたくないのだろう。快く引き受けてくれる綾姫に感謝を口にしながら、婚礼が済めば押し付けられる相手が居なくなること惜しく思っているのだ。
「それでは、行ってきますね」
「ええ。出来る限り我儘は聞いてあげてね。旦那様からもそう言いつかっているし、それに――」
「……それに?」
「旦那様はすぐにお嫁さまに逃げられるから、蜜月もそう長くは続かないもの」
「あら、逃げられてしまっているのですか」
「大きい声じゃ言えないけど、旦那様ってば性格が悪いし好色爺だし……色んな人から嫌われているのよ」
 内緒よと告げる使用人へ聞かなかったことにしますねと笑い、綾姫は厨を後にした。――勿論、この会話はジェイクの耳や『偶然』厨の前を通りかかった英司の耳にも入っている。
「私は茶室を見に行ってきますね」
「はい、よろしくお願いします」
 ひょこりと顔を出した綾姫に、澄恋は頷き返す。探検を終えた澄恋は明日の婚礼のためにおとなしくして居なければならない。けれど、澄恋が用事を申し付けたていで動いてもらうことは可能だ。そこで何をしていると問い詰められても、「花嫁の命で」と口にすれば「ああ、あの我儘の」で通るからだ。
(前妻たちはどうなったんだ……?)
 ジェイクは英司と協力して家の中を見て回ったがそれらしい証拠は掴めず、英司からも人助けセンサーに反応がない旨を告げられているため囚われていないことが解っている。野菜を洗う手伝いをしながら噂好きの振りをして尋ねてみても、使用人たちからは『突然居なくなった=逃げた』という見解で居ることしか解らず、用事を作って村に出てみれば『逃げた姿は見ていない』と……まるでこの屋敷内で忽然と姿を消したような――いや。事実、そうなのだろう。
 前妻たちは、ある日突然屋敷内で失踪した。庭等に埋められた形跡もないことから、第三者が絡んでいることは容易に推察できる。
(それが誰で、どう連絡を取っているのか。その尻尾を刑部は掴みたいって訳だ)
 澄恋を護るように彼女の近くを調べて周りながら、英司は思案する。
 その手の証拠があるとしたら、一番に怪しいのは家主の寝室だろう。しかしそこに入れるのは婚礼の宴の最中のみだろう。澄恋の危機には真っ先に駆けつけたい英司は、面紗の下で眉を寄せるのだった。

 月も微睡む夜半時。
「寂しくて眠れないのです」
 花嫁がまたも我儘を口にした。
 しかし屋敷の者たちからすれば、母親である瑞鬼が側に居るというのに寂しいというのはおかしな話だ。けれどもワンワンと泣き出した澄恋の声は屋敷内に響き渡って一騒動を起こし、綾姫が昼間に目星をつけた茶室に忍び込んで少し大きな音を立てても気を取られる者はいなかった。
 翌日は朝から忙しい。村で古くから付き合いのある者たちが呼ばれ、使用人たちは接待や配膳に忙しく動き回る――はずだったのだが、遅くまで澄恋が騒いでいたせいで朝早くから動かねばならなかった使用人たちの予定は大いに狂った。睡眠不足に苛まれ、人前に出る殆どの仕事をイレギュラーズたち臨時の使用人に委ねることとなった。
 使用人の気持ち知らず、花嫁たる澄恋は昨夜の騒ぎなぞどこ吹く風。瑞鬼に最後の仕上げをしてもらって過ごし、美しく着飾って――仲間たちからすれば普段の彼女とそう違いはないが――婚礼の宴へと挑んだ。
 忙しなさが過ぎれば、婚礼の宴はつつがなく進んでいく。
 澄恋はニコニコと愛らしく笑みを振りまき、隣に座る大河は始終上機嫌であった。
 そうした時間が暫く過ぎた後、薄く襖が開くのを澄恋の視線が捉えた。こっそりと顔を出したジェイクとハイテレパスでやり取りをした澄恋は『あちら』も恙無く事を終えたことを知り、ツ、と上座に座す澄恋と大河からは一等離れた襖――出入り口付近に身を置いている繁茂と視線を交わした。
 得たいものは、得た。
 ならばもう、この茶番劇を続ける必要はない。
「大河様」
 小夜啼鳥のような愛らしい声で澄恋が名を呼べば、大河が幼妻へと気持ちよく酒精で頬を赤らめた顔を向けてくる。彼の視線は常に澄恋の頭上と、微笑む彼女の美しい口元へと向けられていた。
「なんじゃ、澄恋や。甘味がもっとほしいか?」
「ええ、甘いものも欲しいのですけれど、もっと甘い……ちゅーがほしいです、大河様!」
「ちゅ……なんと、口吸いか」
 豊穣の作法では婚礼時に口吻はしないため、大河が面食らう。しかし若い花嫁が積極的に望むのならば、と年甲斐もなく胸を跳ねさせた大河は澄恋へと顔を寄せた。
 菫色の瞳が閉ざされ、顔が近付いて唇と唇が今にも触れ合いそうに迫り――。

 ――ガブッ!

「――ッ! なッ!?」
「大河様!?」
 突然首元へと噛み付いた花嫁に、宴席に集う人々は大いに慌てた。
 しかしそれだけはなく、スパン! といい音がして大広間の襖が開いた。
「刑部である! 溝口大河だな? 神妙にお縄に着け!」
 ぞろぞろと入ってくる、役人たちと手引をしたイレギュラーズたち。イレギュラーズたちは神使とバレないように一歩引いた場所にいるが、素早く退路を断つように素早く移動をしている。
 大河に噛み付いたままそれを確認する澄恋の側で、ひときわ強くムスクが香った。
「お楽しみのところ申し訳ございませんが……」
 慇懃な声は、形だけ。澄恋が大河に何かをするよりも早く、駆けつけた英司が大河を蹴りつけ彼女から離した。
「返してもらうぜ、俺の半身」
 耀 英司はスーツアクターであって、主演俳優(ヒーロー)ではない。
 けれど、けれどだ。今このときばかりは主役と呼んでも差し違え無いだろう。澄恋の膝裏に腕を回して抱き上げ颯爽と宴会場を後にする姿は、いつか見た映画のワンシーンのようだったのだから。
 澄恋と英司の背後からは、わあわあと慌ただしい声が響いている。刑部の役人たちが罪状を読み上げる声、無関係を主張する客たちの声。ふたりの後を追って駆けてきた瑞鬼が廊下に出たふたりを遮るように襖を閉ざせば、背後からの声は遠くなる。
「お待ちしておりました、英司様」
 本当の本心は、誰にも告げなかった。
 いつだって心は悲しみと不安に叫んでいた。
 けれど隠すのは、得意だから――。
 虐げられている鬼人種(どうほう)たちの為に気丈に振る舞い続けた娘は彼にだけ聞こえる声で本心を零し、そっと英司の胸へと頭を預けるのだった。

 ――『溝口・大河』捕縛。
 表向きの罪状は、横領。
 表に出せぬ罪状は『人身売買』『鬼人種の殺害』。
 蔵からは『鬼人種の欠けた角』、茶室からは『特殊な薬研』『鋸』『抜歯鉗子』、大河寝室からは『売買契約書』『遺体処理の契約書』等の証拠品が神使等の手により見つけられた。契約書には事が済み次第燃やす旨を相手側から指示されていたが、もしもの時の自身の保身のため、手元に残しておいたもののひとつと思われる。
 また、後の刑部省の調べにより、大河という男は『鬼人種の角と牙を粉末にして飲んでいる』という旨が解ることとなる。

●花信風吹きて
(澄恋さんは今頃……)
 婚礼の宴席の最中だろうか。
 ふうと息を吐いて村から村へと立ち寄る行商人――を装った『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は、此度婚礼を挙げると話を聞いた鬼の娘のことを思った。もし本当に彼女が愛する人と結ばれるのならモカは喜んで馳せ参じ、祝い料理のために腕を振るいたいと望むことだろう。しかし、此度の婚礼は偽物だ。
(私もやれることをしなくては)
 きっと彼女も今、頑張っているのだから。
 吐息を零して瞳を伏せ、高い位置を飛ぶ鷹の視界を借りる。視力に優れている鷹は遠くまで見通すことが出来て便利だが、視覚を借りている間は歩を止めねばならない。鷹の視界で山中の集落を見つけてはそこへ赴き、また次へと足を運んでいく。街道と違って足場が整っている訳ではない上に歩を止めねばならないため、自然と歩みは遅くなり樹上泊も増えたが、モカにとっては良い旅と言えるものだった。
 適度に訛りがある人当たりの良い人間を装ったからか、道中の村では伽羅蕗という煮物の作り方も教えてもらった。甘く煮た蕗はシャキシャキとした歯ごたえも楽しく、保存性も高く、旅の友にも良い。酒のつまみにする者も居ると聞いたため店でも出せそうだと、隠れ里に辿り着くことはできなかったが胸を満たせた。
「あら、この漬物? 煮物? 美味しいわね。へぇ、伽羅蕗って言うの? ついつい食べすぎてしまいそう」
 モカも立ち寄った街道沿いの村に辿り着いた『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は、茶屋に座って一息をついた。お茶請けに出てきた伽羅蕗が良い塩梅で、ほっこりとした笑みが自然と浮かんでしまう。つい今さっきまでは『ちょっと口では言えないこと』なんて考えていたとは思えない表情だ。でもそれも仕方がない。豊穣の地には悪人たちが密かにのさばっていて、鬼人種たちを始めとした立場の弱いひとたちを苦しめているのだから。
(それに、平和じゃないと実るものも実らないわ)
 豊かな暮らしも、恋も。
 最近会った人たちの顔を思い浮かべれば、皆が幸せになれるようにと気持ちが切り替わる。
「ねえ、この辺りに良い香りのする植物とかってないかしら?」
「匂いのする植物なんて、どうするんだい?」
「アタシね、調香師なの」
 ジルーシャの言葉に茶屋の女将は首を傾げるが、すぐにああと呟いて「お貴族様たちが着物に焚く香木を求めているんだね」と得心がいった様子だ。香水の文化はまだ無いが香を焚く文化や香り袋といった物があるため、それを作っている職人だと理解したのだろう。
 そういうことならと教えてもらった場所へと向かうジルーシャだったが――予期せぬ再会を果たすこととなる。
「ええ! 師匠!? どうして!?」
 そう、ジルーシャの師匠こと『レディ・グレイ』との再会であった。
「こんな所でのんびり散歩してる暇があるなら手伝いな、クソ弟子」
 師匠が混沌に居ることへ驚きを隠せないジルーシャに、当の師匠は気にした様子もなく『いつも』の調子でそんなことを口にする。
「て、手伝うって何を?」
 アタシ、これでも少しは忙しいのよ。
 なんて口にしても、この師匠には通じない。
「アタシ等の仕事をさ」
 暫く会ってなかったからって、忘れたわけじゃないだろ?
 彼女はにやりと不敵に笑むのだった。

 高天京から離れた豊穣の景色は『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が普段拠点としている練達よりも『かなり』長閑だ。田舎であると言ってもいい。緑に溢れ、所々で鳥や獣気配を感じられる、自然に溢れた長閑な景色ばかりだった。
 知人に、隠れ里に住む鬼人種が居そうな場所を調べてほしいと依頼したブランシュだが、どの知り合いも首を傾げるばかりでそれらしい情報は杳として掴めなかった。当然の話ではあるが、『隠れ里』である。人伝に情報が出回るくらいなら、既にその地は悪しき者の手に落ちていることだろう。
 だからブランシュは自分の足で探して回らねばならないのだが――。
「すみませーん。道に迷ってしまったですよ。旅の者でお里がある場所に行きたいですよ!」
「……里? どこの里のことを言っているんだい?」
 ブランシュに明るく声を掛けられた村の老爺が首を傾げる。
 本当に知らないのか、それとも隠しているのか。わからない。
 道すがら同じことを尋ねてきたが、ブランシュの聞き方ではそれ以上の答えは得られなかった。
「旅人さん、遠くから来なすったのかい? 何もない村だがゆっくりしていくといい」
 穏やかそうな精霊種の老爺は、宝石を隠して着物を着ているブランシュのことを同族だと思っているのだろう。嫌な顔を見せず茶屋はあっちだよと紹介してくれた。
『最近知らないにおいの人が来ませんでしたか?』
『わんわんわん、わぅん?(来た来た、来たよ! あれ、でもどうだっけ?)』
 茶屋の番犬をしている柴犬に似た雑種犬の前にしゃがみこんだ『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)が、尻尾をブンブンと振る犬の頭を撫でる。今日会ったばかりのリスェンにこの調子では、番犬になっていないのかも知れない。
「可愛いですねー」っと声を掛けながら撫でてカモフラージュをしながらと問うてみたが、村に来るのは行商人等もいるため、犬は『わふわふ! わう、わふん?(しらないひと、よく見る! あれ、よく見るってことはしってるひと?)』と首を傾げた。
『その人は、この村の人を連れて行きませんでしたか?』
『わぅ、わん!(そういうひともいるよ!)』
 違う村に住んでいる親族と伴ってどこかへ出掛けたのかも知れないし、また違う理由からかも知れない。
 はちきれんばかりに尾を振る犬の頭を撫でたリスェンは、茶屋の女将に「しっかりした子ですね」と声を掛けてから茶屋を後にした。
 次は墓地へと向かう。
(体の一部を切り取られるだなんて、おぞましいです)
 リスェンは鬼人種ではないが、角がある。好いてはいない角だが、それが誰かに奪われるだなんて……考えたくもない。被害にあった鬼人種たちはさぞや恐ろしい思いをしたことだろう。
 そんな無念を知っている者はいないかと墓地で霊魂へと語りかけてみたが――村の墓地にはいないようだ。
 墓地をきれいに掃除して花まで供えて帰ると、茶屋の女将がリスェンを呼び止めお茶をご馳走してくれた。どうやら、他の村人に墓掃除をしている姿を見られたようだ。

 隠れ里を探すのならば――。
 風の匂いを嗅ぐように、『特異運命座標』白ノ雪 此花(p3p008758)はツ、とその白皙を上げた。瞳を閉ざせば頬を柔らかく撫でる山中の風の中に、微かに水の気配を感ぜられる。――川が近い証拠だ。
 人が住まうためにまず必要なもの、それは水源だろう。地を掘って水脈を見つけられれば良いが、そんな幸運は滅多にない。ならば川や湖といった水源から徒歩でいけるような場所の方が、確率は高いだろう。
 あちらこちらへと足を伸ばして霊魂や精霊を探し回った此花は、目星をつけた山の中で見つけた川を上流方向へと辿っていく。基本的に辺りに存在する下位の精霊たち相手では、彼等の感情がふわりと解る程度で言葉は理解できない。けれど川に目をつけていた此花は、運良く霊魂に出会うことが叶った。水辺はあの世とこの世の堺だとも言われる程に、霊魂が集いやすいのか――それとも。
「あなたが亡くなった時の事を覚えていますか?」
 鬼人種の少女の霊魂は怖かったと告げた。死に際の記憶が、それしかなかったのだろう。
「あなたの身体は何処に?」
『わからない』
「わからない?」
『もやされて、くださかれて、川にながされたの』
 ただ埋めれば、野犬や獣に掘り起こされ露見する可能性がある。露見する可能性が少ないやり方を、悪人どもは常に選んでいるのだろう。
 息を呑んだ此花は必ず無念を晴らすことを約束して少女の魂と別れ、そうして今、山の中にあった。
(完全に自給自足するのはなかなか難しいものですし……)
 取引をするのならばなるべく同じ鬼人種か口の硬さが折り紙つきの信頼出来る精霊種だろう。――同族とて、必ずしも味方とは言えないのだが。

 刻は少し遡る。
「あー、ちぃとお尋ねしたいんだがね」
 此花が少女の霊魂と会っているくらいの頃、『瞑目の墓守』日向寺 三毒(p3p008777)はとある村に居た。
 目深にフードを被った三毒に怪訝な顔をしてみせる村人に「怪しいモンじゃあねェ」とチラと顔を覗かせて見せれば、村人――他の村人と身なりの変わらない鬼人種の青年の視線は三毒の角へと注がれる。同族か、と少しだけ安堵の色も見て取れた。
「実は家出した妹を探していてなァ。彼方此方と村を聞いて回ってるってワケなんだが……最近、若い娘がこの村に来なかったかい?」
「若い娘の一人旅となれば目立つが……見掛けてはいないな」
「オレとは似ても似つかねェ別嬪サンでな。色も白くて、細っこくて……随分と歳が離れてるせいか、娘みてェに可愛がってたンだが」
 三毒の目の裏に浮かぶのは違う女性だが気持ちを載せて語れば村人は、それはさぞやと気遣う表情となった。
「行き先の宛は知らないのかい?」
「あの子は京に憧れてやがったからなァ。京へ向かう道がてら、どこかの村の名士の元へ奉公に出ていないか、こうして聞いて回っているのさ」
「美しい娘だと見初められたりもするから心配だな……。奉公に上がるのもよくあることだが――兄さんの懸念を増やすようですまないが、拐かしもあると聞く。早く見つけてやった方がいいだろうな」
「拐かし!? ああ、心配だ。あの子は本当にめんこい娘なんだ」
 自分の命よりも大事な妹なのだと心配げに袷を握れば、可哀想にと眉を寄せた村人がひとつ提案をした。
 ――兄さん。絶対に、誰にも言わないでくれよ、と。

 三毒が会った青年は、商人であった。鬼人種がてら京とも取引をしており、村々を回って商いをしている男であった。京では幾人もの腹黒い商人たちを相手にし、村々では多くの人に触れてきたため、人を見抜く目を持っている。商人として演技もできれば、口も硬い。親身になって案じる振りをしつつ、三毒の真意を探っていたのだ。
 まず青年は「兄さん、さっきの話は嘘だろう?」と三毒だけに聞こえる声音で囁いてから、とある集落へと案内すると話をした。ワケありなのだろう、と。
(さて、)
 その話に乗るべきか。伸るか反るかを勿論思案する。
 その集落が鬼人種の集落なら当たりだ。しかし、加害者側のアジトなら――?
 思案は一瞬。待たせては怪しまれる。最悪後者でも被害は己だけで済むよう、仲間と共に居るわけでもない。
 是を唱えた三毒に、青年はにっかりと人好きそうな笑みを見せる。――それは、いついかなる時も不自然がないよう、他者の目を気にしているからなのだろう。
 そうして青年と共に村を出た三毒は重そうな荷物を背負った山中へと入り――。
「ん?」
「おや」
 山中で此花と鉢合わせし、
「あら?」
「なんだクソ弟子。知り合いか?」
「ええ、ちょっと」
 とある集落では師匠にこき使われているジルーシャとも顔を合わせることとなった。仕事を受ける際にローレットで顔を合わせ済みの面々を前に、さあ関係をどう説明するべきかと、ジルーシャは背中にダラダラと汗をかいた。
 けれど師匠は弟子の胸の内はどこ吹く風で、あっけらかんと言い放つ。
「お前たち、神使ってやつなんだろ?」
 アタシはローレットに所属はしていないけど、風の噂を幾つも聞いてるよ。
 ジルーシャの悲鳴を飲み込んで、集落を護るように覆う分厚い門が閉ざされた。

●京に巣食うは――陰鬼(おに)ばかり
「鬼閃党、ですか」
「ああ」
 幾度か交戦したことのある組織であるため、この豊穣の地で動いているのが本当に彼等なら気になる。そう告げた『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)に、『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)はぱちりと目を瞬かせた。
 鬼閃党は党員が何名もいるが、その活動は個々による場合が殆どである。それぞれの思惑で依頼を受けたり活動をするため、何を目的としていて、誰が動いているかは会ってみなければ解らない。
「まずは情報を、ですね」
 私も何やら臭うと思っていましたと眼鏡を正した『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が光を反射させる。広い京内を一人で探し回るには限界がある。信頼の置ける知己がそこに居るのだから、頼るのが最適解である。そう判じたベネディクトが頼むと告げれば、ふたりからは心強い返事が返ってきた。

 突然じゃが、儂の話を聞いて欲しい。
 儂の名は『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)。
 先日悪友等とちぃとばかし飲みすぎちまったもんで、借金を背負うてしもうた。まぁ、それは良いんじゃ(良くはない)。使っちまった金子は、用立てなくちゃぁならんもんじゃしなぁ。
 一緒に行った澄恋は身体で払――っと言うと聞こえが悪いか。借金の肩に嫁入りという潜入捜査で働いとる。儂も花街で働いて返すことになったんじゃが……じゃが……。
 何でじゃ? 何で儂一人なんじゃ?
 え? 嘉六は? 聖霊は? 何しちょるんじゃ?
「おいこら、新入り。休んでる暇はねぇぞ。さっさと働け」
「――ハッ!?」
 綺麗なお姉さんに「あなた(ここで働くのが)初めてなの?」と優しく頬を撫でられてスゥ――……と、自然と意識を飛ばしていた清舟は、廊下で先輩男衆に足蹴にされて目を覚ました。
 優雅に遊女たちが微笑む表舞台と違い、裏方は兎角忙しい。見世が開くまでにもやることは山積みだし、開いてからも山積みだ。先輩男衆にどやされながら右に左に忙しく走り回り、時に遊女の色香に卒倒し、時に仕事の失敗で凹んでいるところを小さな禿に慰められ、先輩たちにはしょうが無いやつだと良い意味で笑われるようにもなった。
 その過程で『ヒュギエイアの杯』松元 聖霊(p3p008208)を見つけた。どうやら本職で借金を返済しているらしい。嘉六の姿は何故だか見ていない。
(もしや儂、嘉六の分も働かされちょる!?)
 清舟は清舟なりに出来ることをして(時に気絶をして)働いていた。
 一方その頃、聖霊はと言うと――外で女性と会っていた。もし清舟が知っていたら今頃憤死しているかもしれない。
 花街の外にある飯屋の個室で、お疲れさまですと美女が微笑んで聖霊を待っていた。
 美女――『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)も聖霊とともに働いて『白鴇屋』の内情を探ろうと思っていたが、白鴇屋は『一般的な』遊郭である。遊女たちは全て売られてきた女達で、全ての遊女たちは幼い頃から歌に踊り、作法……と数々の芸事を仕込まれて生きてきている、そんじゃそこらの庶民では褥をともに出来ない高嶺の花たちである。女の一時だけの雇入は行っていない。店の格が落ちるからだ。
『うちはそういう決まりなんでね。うちだけじゃない。遊郭内の殆どはそうだよ』
 アンタが幼い頃からうちにいたら、花魁まで上がれそうだったのにねぇ。
 働き口の指名している女がいると大門の門番達から連絡を受けた花車(楼主の妻)が大門まで訪い、惜しむようにそう口にした。その表情は心底残念そうであった。妖艶な異国調の美女なぞ開かれたばかりの豊穣では珍かで、それだけで価値があるのだから。大門の門番も、白鴇屋の名を出されただけで普段は門前払いをするのだが――ヴァイオレットが実に妖艶過ぎたせいで、つい口を利いてしまった。後からこっ酷く叱られているかも知れないが、それはヴァイオレットには関係のない話だ。
 目裏に思い出し、一度瞳を閉ざしてからふうと吐息を吐き出したヴァイオレットは、それよりもと眼前で「やってしまった……」とほぼ机と同化している男を見遣る。「俺が世間知らずだからか……?」「いやでも親父は『肌と肌を重ねることは愛情を確かめる為でもあるんだよ』って言っていたし……」等とブツブツと繰り返している。
「聖霊様は清くいらっしゃるのですね」
 店員から受け取ったお絞りを開いて熱気を少し飛ばし、そっと頬へ押し当ててやれば男の肩が跳ねた。
 この男の中に救うのは善性だ。その心が報われてほしいとは思うけれど、世の中には世の中の、今まで培ってきた仕組みというものがある。
「お話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
 ヴァイオレットの言葉に顔を上げた聖霊は、暗い顔で遊郭での出来事を語った。

「お前らは此処を出たいか?」
 お若いお医者様だわとキャッキャと明るく声をはしゃがせていた遊女たちの声が、ぴたりと止んだ。
 異国の者ではあるとは言え、それを彼女等に問うのは酷であろう。
 自ら出合茶屋で客を取る下級遊女とは異なり、遊郭という場の高級遊女達はみな、口減らしか、親の負債の肩代わりか、それとも食うに困って自らか――様々な理由で売られて来ている。楼主が身代金と借金の肩代わりをしている形になるため、彼女たちは働いて支払っていくのが決まりだ。言わば、額はぜんぜん違うが、現在の聖霊と同じである。勿論、掛かる年月による利子や、禿時代からの習い事を始めとした生きるために掛かった費用、着物や装飾と言ったものも上乗せされていく。
 遊女たちが遊郭を出る方法は、年季が明けて支払いを終えるか、お大尽に気に入られて借金と身代金を払って貰う身請けか――それとも、死か。
 男衆や身請けの出来ない男との本気の恋は地獄である。足抜けさせないように大門で厳しく取り締まり、失敗した遊女には見せしめを込めた手酷い罰が待っている。その罰の果てに身体を壊して早死にする遊女のなんと多いことか。
「せんせ。そう思うてくれるなら、せんせがあちきを買うてくだしゃんせ?」
 それが出来ないのなら、聖霊が口を出す領分ではない。花魁を始めとしたどの遊女たちの視線も冷ややかなものとなっている。
 此処は女の檻。
 愛が最も軽く、一夜の甘い夢を売る場所。
 身の置かれた状況の中で必死に背筋を伸ばして生きてきている女達に、甘い毒を与えてはいけない。その優しい言葉は、女達にとってはただの害悪であるからだ。
「せんせ。おかえりなんし」
 話は、そこまで。
 ぴしゃんと言い切った遊女の言葉とともに、襖が閉ざされた。

「それは失敗をなさいましたね。ですがきっと、花魁には顔を覚えて頂けたはずですから、何か助けとなる時も来るかと思います」
「そうだといいんだが……」
 溜息の中に、ふたりの夜は更けていった。
 連絡を取りあっていた『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)との連絡が、ぱたりと止んだ。彼自身が『炎熱百計』猪市 きゐこ(p3p010262)との接触を避けているようで、彼がとっている宿へと向かっても会えることはなかった。
 そこできゐこは支佐手を探すべく、支佐手を最後にどこで見掛けたかを辺りの者たちに聞いて回ることにした。
「大きな荷物を背負った私みたいな商人で……そうね、身奇麗ではない人よ」
 たしかこの辺りでも彼は商売をしているはず! と当たりをつけた場所を訪ね歩いていく。
「ええ、そうよ。骨董売りの行商人風の……え、知り合い? 知り合いって程ではないけれど、あれだけちょくちょく来てた商人が居なくなったって事は何か良い儲け話でも見つけたのかなってね♪」
 ニヒヒときゐこは笑って、支佐手が行きそうな場所をはしごしていく。
「夜になると花街の方向に歩いていくのを見た? となると……儲け話は花街にあるのかしら」
「花街は何かと金が動くからねぇ……。ああでも、アンタは入れないか」
「どうして?」
「何か特別な理由がないと、大門で追い返されるからさ」
 女が好き勝手に出入りしては、服装を交換しての足抜け等を阻止することが難しくなる。そのため、よっぽどの大店の女主人でその身を保証するものがあれば別だが、普段は女性がひとりで出入りすることは出来ない。――先日の訪いとて先に雨泽が連絡を入れ、揃って大門を潜ったのだ。
(やっぱり彼処かしらね)
 ――白鴇屋。
 鬼人種も多いと聞いている。向かうのならば、しっかりと男装するなり手はずを整える必要がありそうだ。
 明日の夜にでも……と心に決めたその日の夜半、きゐこの元に一匹の蝙蝠が訪った。

「人を探して居るのですが何処に住んで居るかわからず、迷ってしまいまして。この辺りに鬼人種の方は住んでいらっしゃるかご存じでしょうか?」
「鬼人種? そのお人は最近住みだした人かい?」
「いいえ、昔から京に住んでいると聞いています。高天京で鬼人種は珍しいからすぐにわかるとだけ聞いているのですが……」
 会えると信じて遥々高天京へとやって来たのに、会えない。
 遠方からその人を尋ねて京へと来た精霊種の娘――冬佳は顔を曇らせ、声を掛けられた長屋住まいの女性は困ったように頬に手を当てた。
「それならねぇ――」
 教えてもらった先は、京の中でも貧しい者――と言っても郊外よりはずっと暮らしは豊かであろうが――の住まう地区だ。
「鬼人の子供を連れた身なりの良い大人を見た事はありませんか?」
 手鞠で遊ぶ子等に尋ねれば『知らない』と頭を振られる。
(そうですよね、目立つ行いはされませんよね……)
 人を探す素振りで声を掛けながらその一角を歩いて回ったが、怪しい人影は見当たらなかった。
「よう、お久しぶり。先日はお話ありがとうさんでした」
「おう、にいさん。妹の話は何とかなったか?」
 なったなったとカラカラと明るく笑った『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)がこれはその礼だと土産の酒と燻製酒を掲げて見せれば、以前も訪った長屋の面々は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「お、いいねぇ。にいさん、一杯やってくか?」
 こらあんた、昼間から! と女房と見られる女から声が飛んでドッと笑いが起きるが、気の良い長屋の人々は「うちでやってきな」と場所を貸してくれた。
「しかし立派な鮭だな……漁師なのかい?」
「いんや。これは親父達からだ」
 京に憧れる娘に不安を覚えていた両親の話をすれば、なるほどと長屋の人々は頷いた。獅門の勧めで燻製された鮭を軽く炙って柔らかくすると美味そうに頬張った。
「妹さんが住むことになったら俺らにも紹介してくれよな」
「ああ。……紹介と言えば……そうだ。この辺で『幹二』って人を知っているかな?」
「幹二ぃ?」
「何か仕事を紹介してくれるとかって聞いたんだけどな」
「やめとけやめとけ、あんなやつが出来る仕事なんて碌でもないぞ」
「……うーん、一応家を教えて貰ってもいいですかね」
 眉を顰めて顔を見合わせた長屋の住民たちは、教えてくれた人にも悪いからと眉を下げる獅門に「俺はやめとけって言ったからな」と幹二の家の在り処を教えてくれた。
 獅門は日が暮れちまう前にと断って、教わった家へと早速向かうことにした。その家は明らかに襤褸と言った風情で、住まう男の羽振りの悪さや几帳面さが欠けている性格を伺わせていた。
 ごめんよと戸を叩いたが、返事はない。
 それでも人の気配がすることから戸を叩き続ければ、「あ゛あ?」と不機嫌な声が返ってくる。
「すまん。ここで若い娘に仕事が貰えると聞いたんだが」
「誰だ、そんなデマを口にしたのは……いや、待て」
 ガタガタとつっかえながら戸が開き、うらぶれた男――幹二が姿を現した。幹二の視線が獅門の視線へと向かうと、少しだけ悩む素振りをしてから「お前の妹か?」と問うてきた。
「そうだ。京に憧れている田舎娘なんだが、京で暮らすとなれば仕事が必要だろう?」
 先に口利きをと思った兄心なのだと告げれば、ニタリと笑った幹二が「数日待ちな」と告げるのだった。

「劉さんどう思いますか? 駄目な所がありましたら、遠慮なく仰ってください」
「とてもいいと思うよ」
 両手で丸を作ってみせた雨泽が花丸と笑った。纏う衣装選びや設定もだが、巨躯を案じて身を縮こまらせているのも良かった。大きな体なのに気が小さいのかと、相手側は侮りやすくなる。
「……でも、ひとりで大丈夫?」
 練ってきた設定と実際に扮した姿を雨泽に見せた『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は、彼の問いに頷いて返す。
「はい、大丈夫です。刑部卿も私達獄人のために頑張ってくれていますし、私も大好きな人や豊穣のために頑張らないと!」
 拳をぐっと握った朝顔は「ではいってきます」と気丈に笑い、大通りへと向かっていった。
 大通りは賑わいに満ちて、面した大店はどこも賑わっている。一等大きな通りからふたつば程中に入ったような場所にある小さな小間物屋『ほおずき屋』。その暖簾を潜った身なりが良いとは言えない少女は、きょろりと店内を見渡した。
「えっと、上京したての子におすすめって推されて来たのですが、あの、此処は何の店ですか……?」
 いらっしゃいと読売から顔を上げた店主の目に映った朝顔の姿は、如何にも上京したての鬼人種の娘と言えた。少し襤褸ではあるが、それでも一番可愛いと思った着物を纏い、髪を編んで精一杯のお洒落をし、新しい暮らしへの希望と不安が見え隠れしている。店に入って商品棚を目にした途端、わぁと目が輝いたのも決定打だ。物珍しそうにキョロキョロとし、村に無いものばかりと頬を紅潮させている。
「あ……すみません。私、上京したばかりで……てっきりお仕事の斡旋とかかなって……そんな都合の良い事、無いですよね……」
 視線に気付いてハッとしたのか、最初から縮めていた巨躯を更に縮こまらせた少女が不安げに三編みをいじる。店内に入ればすぐに小間物屋だと解る風情でも、仕事の斡旋があるのではないかと望みを捨てきれない様子だ。
「そうですねぇ、紹介できる仕事がある時はしているけど」
 今はないけれど、またそのうち都合をつけてあげましょう。
 柔和な笑みとともに零される店主の言葉にパッと表情を明るくした少女は、毎週この曜日……と決まった時間帯に度々訪い続ければ、店主とも少し気心がしれた感じに話せるようになり、身の上話をしたりと日々の小さな相談事をするようになった。
 その日もいつもと変わらず店に行き、店内を見て回り――そうして。
「え――」
 突然、ぐるりと朝顔の世界が回転した。
(――……君……)
 愛しき君の姿を最期に思い浮かべ、朝顔の意識はぷつりと途切れたのだった。

(知らぬ地とは言え、困っている人がいるのならば! 悪党がいるならば! この宇宙保安官ムサシ・セルブライト! 全力で力を貸させていただくでありますとも!)
 とは言え、人が多い高天京の中でも更に人の集まる盛り場には、行商人たちの姿を多く見掛けられた。この中から怪しい人物を見つけるとなると、かなりの工夫か目星、または情報が必要となることだろう。
 昼間の大通りを眺め、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は思わず「うぅむ」と唸ってしまう。露天や床見世が立ち並び、大道芸は行われ、ちょっとした手遊び等の見世に、大きな芝居小屋の客寄せ、読売……とにかく人が多いのだ。
 その中で人助けセンサーを使用すればどうなるか。
『困ったなぁ、ああ、困った。金を全部すっちまった……』
『わぁん、おっかぁ、どこぉ? おっかぁ! おっかぁ!』
『誰か! 助けて! ひったくりよぉ!』
『どこ見て歩い……っとと、うわぁ! 助けてくれえ、俺は泳げねぇんだ!』
 とにかく様々な『助けを求める声』が聞こえてしまう。
 むむむっとムサシの眉が自然と寄っていく。任務中だと無視をすることは――。
「……っ、今いくであります!!」
 『出来ない』。そこに助けを求める人がいて、駆けつけられる足があり、救える腕があるのなら――宇宙保安官ムサシ・セルブライトは全力で人々に手を差し出して、不運な無辜の人々を救うのだ。
「お茶屋さんに行った日から、かな。誰かからの視線、感じる様に……なって」
 賑わう昼時の盛り場でそろりと辺りに視線を巡らせながらそう口にした『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)に、劉・雨泽(p3n000218)は不安だよねぇとうんうんと頷いた。
 互いに、その原因は何となく察しがついている。極力隠してはいたものの、茶屋という人の出入りの多い場所で預かり物――被害にあった鬼人種の角を見せたからだ。
「『珊瑚』に似た飾り、ある……かな」
 角、と口にするのは憚られる。刑部省から借り受けている角の特徴を口にすれば、「ひとつずつ見ていくしかないね」と口にした雨泽はどこか楽しげだ。
「チックと装飾品を見るのは初めてだよね。普段から見て回ったりとかしている?」
「色んなお店、見て回るの……好き、だよ」
 立ち寄った街で偶然開いていた市やお祭り。その露天に並ぶ異国調の装飾品は色も形も様々で、見て回るだけでも楽しい。これなんて君に合いそうなんて軽い口調で露天から翡翠色の水晶が揺れるラサ風のペンダントを摘み上げた雨泽はそのまま購入すると、あげるとチックへ手渡し店を離れる。
「『珊瑚』って此処で売られているものより高価だと思うんだよね」
 好事家が好むものだから、露天では扱われないだろうと暗に告げ。
 歩みは自然さを装いつつ、人通りの少ない方へと向かっていく。
「雨泽……今回も……一緒、してくれて。ありがと、ね」
「こちらこそいつもありがとう。ああでも、今はそれよりも。ねぇ、」
 気付いている――?
 みなまで言わずに言葉を区切った雨泽にチックが頷き返す。
 人混みの中、『ずっと着いてきている人がいる』。
 適当に建物のある角を曲がって、壁越しに『透過』でその人物が着いてくることも確認済みだ。
(敵意は感じない……けど)
 一通りの少ない方へと向かったからか、距離も近付いている。楽しく会話をする振り(一方的に雨泽が喋っているのに相槌を打っている)をしながら角をいくつか曲がった頃、何かあれば雨泽を庇える位置を意識し、チックは唐突に振り返った。
「……ねぇ。君は、誰?」
「――ッ」
 慌てて身を翻そうとした人物の顔は、該当のフードで見えない。けれど体格からして子供か女だと知れ――所作から女だろうと当たりがついた。
「これのこと知っている、の?」
 丁寧に包んだ珊瑚めいた角を取り出せば、すぐに視線が注がれる。
 逃げようとした身を更に翻し、チックへと距離を詰めようとし――その足元へカンと乾いた音を立てた棍が、チックとの接触を阻害する。
「あ、あの……! その角は、どこでっ」
 目深に被ったフードがするりと、丸い頭を滑るように後ろへ落ちていく。
「その角は、姉の角だと思うのです……!」
 そこにあった淡い珊瑚色に、チックと雨泽のふたりは思わず顔を見合わせたのだった。

(ああ、これは)
 海洋から渡ってきた商人に扮した寛治は、眼鏡の下で固定した笑顔の形を崩さずに内心で溜息を吐いた。
 場所は盛り場のとある酒家。金で雇ったダチコーたちを『部下』として、航海の無事と商売が上手く行ったことへの祝いの席――の形で辺りに振る舞い酒をして何か情報を得られぬものかと勤しんでいた。
 しかし、解りきっていたことではあるが、それらしい情報は得られない。刑部省が尻尾を掴めずにいる相手なのだ、金銭で落ちる情報の殆どは大元とは関係のない下っ端のものばかりだ。深く繋がっているもの程、己の命が掛かっていると知っている。己の命を安売りなどしないことだろう。
 けれど嗅ぎ回っている者がいれば接触してくるかもしれない。
 ――そう思っての行動ではあったが、寛治が盛り場の酒家をはしごしている間、それらしい動きは見られなかった。
 ガヤガヤと人の声が頭上で交差する。
 また別の盛り場の飯屋で食事をしていたベネディクトの装いは、寛治とは違い顔を覚えられないような変装を少しした軽装だ。友人を真似てターバンを巻けばそれだけでラサあたりからの旅人だろうと見られるのを良いことに、ベネディクトは空になった隣席の片付けをしている店員へ世間話の体(てい)で噂話を聞くならどこが良いかと声を掛けた。
「噂話と言ってもなぁ……京は広いんだ、どこだって流れる噂の種類は様々だよ。うちは賑わっているだろう? この辺りならうちだと自負しているがね」
「ふむ。では、噂の種類を絞ろうか。そうだな……」
 悪い噂なら、どこだろうか。
 マントと腕で隠すように金子をチラつかせれば店員は辺りを気にしながら顔を寄せる。
 けれど。
 ――入る当てが無ければ入れないよ。

「と、まあ。そんなところですね」
 中指で眼鏡の位置を正した寛治が報告を終え、三人は情報交換を終えた。
 得られた結果は『わからない』だ。
「しかし、当て……ですか」
 きな臭い場所に潜入する当てが、ちょっとやそっとの――数年程度の付き合いで得られるとは思えない。
 此度寛治が想定するケースは3つ。
 大元となる悪党に鬼閃党が雇われている。
 偶然鬼閃党がこの状況に居合わせた。
 第三の目的を持って鬼閃党が活動している。
 澄恋の借金と引き換えに彼女を嫁に向かえる溝口は、構成員ではなく買い手であろう。裏で糸を引いている者が周到なのはこれまでの報告にも上がっている。それなのにまだ、存在すら感じさせていないのだから――ベネディクトから聞いている鬼閃党の在り方とも照らし合わせると、『誰かに雇われている』と考えるのが一番確率が高そうだ。
「勿論、他のケースも視野にいれて動きましょう」
 しかし、それにしても当てか……。
 三人寄れば文殊の知恵。良い案は出て来ぬかと知恵を絞るが、こればかりは――。
「あ」
「どうされました、冬佳さん」
「嘉六さんが悪そうな格好で誰かと歩いています」
 嘉六の一歩前を歩く男は、如何にも『その筋』の男だ。
 三人は視線だけで互いの思いを共有させると、通りを歩く彼等へと近寄っていった。

 先日も足を運んだ場所へと『のんべんだらり』嘉六(p3p010174)が再度訪れれば、まるで来るのが解っていたとでも言いそうな顔で日暮・明は美味そうに煙管から煙をくゆらせていた。
「よう、クソガキ。おまえ、借金をこさえたんだって?」
「あ゛?」
 ニヤニヤとからかうように笑う明に思わず目くじらを立てそうになる嘉六だが、今日は頼み事があって彼に会いに来ている。「あ~」と視線を逸らしながら「俺にゃお優しい友人がいるんでな、快く請け負って貰ったぜ」と聞いとらんがぁ! と叫んでいそうな清舟の顔を思い浮かべながら口にすれば、明は暫くくつくつと笑うと身を翻す。
「『例の賭場』に行きてぇんだろ? ついてきな」
「お、おう」
 なんだかんだと言われるかと思えば、素直に連れて行ってくれるらしい。
 拍子抜けした表情で後を追った嘉六は「俺の連れっぽくしろよ」と言われて変装し、中偶然顔を合わせた寛治たち――勿論彼等にも所謂チンピラ風に変装――も交え、『例の賭場』へと向かった。裏社会に通じる明が紹介してくれるのは、賭場は賭場でも一般客が入れるようなところではない。身分を明かせないお偉いさんだったり、隠れて生きていかないといけないような者等が集う場所だ。

 美しい女店主の小間物屋で、ギィと床下の隠し木戸が開かれる。
 降りていった先の通路を何度も曲がって辿り着いた扉を護る、入り口を屈強そうな男たち。その男たちに明が幾つか言葉を告げれば、その扉は開かれる。
「おイタはしすぎるなよ」
 薄暗くも異様な熱気のあるその場でひらりと手を振った明は、酒を飲みにいったようだ。
(さて、俺は……と)
 寛治等とも別れた嘉六は、ファミリアーの鼠を呼び出した。鼠は、視力は低いが聴力が優れている。こっそりと聞き耳を立てるにはもってこいだろう。
(何か、商売の話をしているな……薬、か?)
 とても効きが良いと語る男と、疑う男。
「なぁあんたら」
 それとなく近寄って声を掛け適当に話をしてみれば、彼等は売り手とも買い手ともつかない立ち位置のようだ。直接やり取りするにはかなりの伝手が必要で、いつかはそうなりたいと片方の男が口にした。
 他に何か情報は得られぬかと探ってみたが、大元となっている者はこういった場にも滅多に現れないのだそうだ。居るのは腕の覚えのある荒くれ共たちか――。
「ああ、ほら」
 奥のしっかりとした木戸へと男たちが視線を向けると、屈強そうな男たちの姿が見て取れた。
 強面の鬼人種たちは筋肉隆々で、荒事を担っていることが見るだけで窺える。件の荒事担当の者たちか、用心棒と言ったところだろう。
 けれどその奥。
 ひとりだけ、空気の違う男がいる。
 太刀と脇差を佩いた男の姿が鬼人種たちの体の間から見えた瞬間――少しだけ、場の空気がざわついた。その場に集う人々が小さく言葉を漏らしあい、さっと視線が合わぬよう気をつけている。まるで目をつけられないように一等気をつけている素振りだ。
 嘉六の――厳密に言えば、明の――同行者に加えて貰った冬佳と新田、ベネディクトの三人の視線が男へと真っ直ぐに向けられる。男は何かの用事で少し顔を出しただけ様で、すぐに木戸の向こうに開かれた闇の中へ消えんとしていた。
 素早く動いたベネディクトが距離を詰める。
 すぐに荒事が得意そうな鬼人種たちが、行く手を阻むように塞ぐ。
 男はベネディクトを一瞥したが、然程興味が無さそうに視線を逸らす。
 だが。
「鬼閃党員か」
 鋭いベネディクトの声に、ふ、と笑みの気配を漂わせた眼前の男がベネディクトへと向けられ、口が開かれ渋味のある声が静かに響いた。
「――そうだ。ああ、酒家で嗅ぎ回っていたのはお前たちのことか」
 肯定する男の眼がスッと細められる。まるで力量を測るような眼だ。イレギュラーズたちのやり取りを何とはなしに野次馬していた一般客が、ヒと短に悲鳴を上げて腰を抜かす。しかしベネディクトは臆すこともなく、ただ男を真っ直ぐに見つめていた。
 両者動かず、ただ見つめ合う。
 動けば――重なり合うは、刃であろう。
 仲間たちも呼吸を浅くし、動向を見守っていた。
 膠着状態を解除したのは、男の部下であった。男に耳打ちをし、浅く顎を引いた男が身を翻す。
「すまねぇな。呼ばれている」
「名を、尋ねても良いだろうか」
 置いていけと告げずにあくまで願う形で口にすれば、背を向けた男の肩が揺れた。笑ったのだろう。
 暗がりに溶けて消える寸前、男は小さく言葉を零した。
 幽かに、それなのに静かに響く声で。
 男は確かに、名を告げた。

 ――新城。新城弦一郎だ。

成否

成功

MVP

日向寺 三毒(p3p008777)
瞑目の墓守

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 一部の方に個別あとがきが出ておりますので、よろしくお願いします。
 それによって刑部がどれだけ動くか、事態がどれだけ動くか等変わってきます。
 MVPは、丁寧に話運びを記してくれていた三毒さんへ。
 スキルは万能ではありません。説得等の対人スキルはあなたが放つ言葉の効力を上げるものですので、話す相手に適した話の運び方や言葉の選び方。それらが上手くいき、相手の心にヒットした時に初めて上昇するか否かとなると思います。マスコメで『セリフで』と記されている場合は、特に。
 また次回まで少し空いてしまうかもしれませんが、お付き合いくださいますと幸いです。

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