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シナリオ詳細

<咎の鉄条>風の通り道

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幼いころから風は友達だった。
 森を抜けていく風も、森へ吹き込んでくる風も。色々なものを運んでくれるそれは、時として少女を助けてくれることもあった。
 良くも悪くもただ、それだけ。人生が逆転してしまうような、あの瞬間までは。
「――何をしている!!」
 鋭い声。真っ直ぐな眼差し。余所者をものともしない凛とした姿。その全てに射抜かれたのだと思う。心が大きく揺さぶられるような、そんな心地。
 余所者を見事な手腕で捕縛し、部下へと任せたその人は「大丈夫か?」と私に目線を合わせてくれた。言葉が出てくなくて只々凝視していたら、その人の指が伸びてきて眦に触れる。余所者に捕まれた時、痛くて涙が滲んだんだった。そんなことも忘れてしまうくらいにぼうっとしていたのだけれど。
「すまない。痣ができてしまっているな」
「……あ、いいえ! これくらい」
 その人が私の腕を見て表情を曇らせた。視線を追えば、先ほど掴まれた痕がくっきりと手首に残っている。けれど数日で消えるだろうし、それ以上の事をされたわけでもない。
「家まで送ろう。立てるか?」
「は、はい……あの」
 その人の手を取って、ゆっくりと立ち上がる。続く言葉を添えたなら、その人の瞳がこちらを向いた。
(嗚呼、なんて綺麗なの)
 その瞳にずっと映っていたい。いいや、こうして瞳に映していたい。私も――。
「私も、警備隊に入ることはできますか?」
 唐突なその申し出に、『迷宮森林警備隊長』ルドラ・ヘス(p3n000085)は目を瞬かせたのだった。

 慕う相手を得た彼女、ルナリア・エフィルディスは両親兄妹の説得も押しきり、迷宮森林警備隊への所属を果たした。それどころか元々親和性の高かった風の魔術を極め、警備隊内でもそれなりに名の知れた人物にまで至っている。
 しかし、ルナリアはルドラに対して1点だけ、どうしても譲れないことがあった。
「ルドラお姉様が余所者と顔を合わせねばならないだなんて……!」
「ルナリア。悪い者ばかりではないと言っただろう?」
 彼女のそんな態度にはルドラも苦笑いせざるを得ない。これも幻想種としては珍しくない姿なのだ。ルドラ限定、というところを除けば。
 元々閉鎖的だった深緑で、しかもルナリアは人攫いに遭いかけた過去がある。同胞以外を受け入れられないというのは致し方ない事だった。



 致し方ない事だった、のだが。今ばかりはそんなことも言っていられないのである。
「ルドラお姉さまを始めとして、既に依頼が入っていると思います。私も皆さんへ助力をお願いしたいのです」
 そうイレギュラーズへと告げるルナリアは、口調こそ穏やかであれどその表情は好意的に程遠い。信用がないことは誰から見ても明らかであった。
「ファルカウは謎の茨に覆われ、中へ入ることも……連絡を取ることもできない状態です。しかし、何処からも入ることができないと証明されたわけではありません」
 どこかに内部へ至る道がないか調査を進めるにあたり、徘徊している魔物が厄介なのだと言う。イレギュラーズにはその討伐に力を貸して欲しいとのことだった。
「魔物の討伐ですね。出現するあたりの地図を頂けますか?」
「ええ。私も共に戦いますので、よろしくお願いします」
 その返事に『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はえ、とルナリアを見た。イレギュラーズたちも思わず彼女を見た。複数の視線にさらされたルナリアが嫌そうに目を眇めたので、慌てて何人かが目を逸らす。
「私も警備隊の1人ですから、それなりに戦えます。……それに」
 それに? とユリーカが聞き返すと、ルナリアはちょっと悔し気な顔をした。
「……お姉さまが『イレギュラーズと一度共闘してみたらどうだ』と仰っていたから……あの方が認めるほどの方々なのでしょう?」
 とは言うものの、雰囲気としてはルドラが認めている相手だからと言うより、ルドラがそう言ったから共闘するのだというようにも見える。
 ともあれ、風魔術の使い手として実力ある者だ。自身では『それなりに』と言っていたが、十二分に戦うことができるだろう。あとは自分たち次第だと、イレギュラーズたちは心の中で気合を入れた。

GMコメント

●成功条件
 魔物の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 深緑の国境付近です。迷宮森林が広がっていますが、少し行けば茨が行く手を塞いでいるでしょう。
 茨に近づかなければどうということはありませんが、近づけば侵入者を追い出すが如く攻撃を行ってきます。今回は特に依頼と関係ありませんので、近づかないのがベターでしょう。

●エネミー
・オウシィ
 動く巨大球根のようなモンスターです。全長は5mほどあるでしょう。球根の側面に口があり、家畜程度なら丸呑みできてしまうくらいに大きく開きます。
 目や鼻はどこかにあるのかもしれませんが、場所は分かりません。ないかもしれません。鳴き声は野太いです。
 突進、噛みつく攻撃が主となります。また、口から泥を吐き出す攻撃をしてきます。この泥は多くのBSの可能性を秘めています。本体は体力がかなり多いようです。
 当エネミーの攻撃はいずれも範囲攻撃になり、その図体からしてブロックするのに2人は必要です。
 一定周期で頭頂部から花が咲きます。この花で何が起こるかは不明です。

・コウシィ×15
 オウシィの小型版です。大体人の子供くらいの大きさです。オウシィの成長前の姿と思われます。やはりこちらも側面に口がありますが、丸呑みに出来ても鶏くらいでしょう。
 オウシィより動きが素早く、ちょこまかと忙しなく動き回ります。鳴き声は可愛いです。
 突進、噛みつく攻撃が主となりますが、単体攻撃である代わりに手数が多いようです。数で囲まれると非常に厄介でしょう。
 一定周期で頭頂部から花が咲きます。枯れさせる代わりに自身のHPを回復します。

●NPC
・ルナリア・エフィルディス
 炎堂 焔さんの関係者。迷宮森林警備隊の隊員で、隊長であるルドラをとても慕っています。
 余所者、特にルドラへ近づこうとする男性へは厳しい態度を取りがちですが、元々は穏やかで優しい性格です。同胞には本来の気性で話すことでしょう。また、家族が茨より内部にいます。
 また、今回の皆さんの言動によって、ルナリアのイレギュラーズに対する友好度が上下する可能性があります。コツは『森と同胞に誠実である事』だと思います。
 戦闘に置いては風の魔術を行使し、十分に戦えます。イレギュラーズからの指示があれば可能な限り従います。

●ご挨拶
 愁と申します。
 今後の事も考えればルナリアさんと仲良くなっておきたいところですが、本来の依頼も忘れずに。彼女の風が深緑内部まで届くように、手前にいる邪魔な魔物を倒してしまいましょう。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • <咎の鉄条>風の通り道完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月14日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


 ラサと深緑の国境近いこの場所は、他の場所よりも若干暖かい空気が満ちている。ラサから空気が流れ込んでいるのだろう。
「今回は中に入れる場所があるか調べる……ための準備、だよね?」
「ええ。一筋縄ではいかなさそうですが、手をこまねいているわけにもいきません」
 ルナリア・エフィルディスの言葉に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はそうだねと視線を伏せる。
「ボクも中に知り合いやお友達もいるし……早く状況を知りたいよね」
「……友人。深緑に、ですか」
 複雑そうな表情を浮かべているのは、やはりルナリアが余所者に対して良い感情を抱いていないからだろうか。
 こればかりは過去の出来事が積み重なってもいるだろうから、仕方ないのだろう。けれど此度の依頼で支障をきたすわけにはいかないし、やっぱり仲良くなれるならなりたいものである。
「例の茨だけでも厄介なのに、大変ね」
「調査どころじゃないよ。まずは魔物退治をしっかりこなそう! ね、ルナリアちゃん!」
 焔の勢いに若干引きながらも、ルナリアは小さく返事をした。余所者にツンケンした態度を取りがちであるが、根は良い人のはずである。
「魔物討伐はイレギュラーズの十八番だもんね! 現場の専門家のルナリアさんも一緒なら、きっとしっかりがっつりフルパワー全開だよ!」
 そうでしょ、と満面の笑みを浮かべる『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)に美咲は頷き、ところでとルナリアへ視線を向ける。討伐は全くもって構わないのだが、それにあたり確認しなければと思っていたことがあるのだ。
「今回の討伐って、間伐と外来種駆除のどっち相当なの?」
「外来種、で良いと思われます。少なくとも私が見たことはありません」
 なるほど、と『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)は呟く。間伐でないのなら、今後も見かけたら報告なり対処なりすべきなのだろう。外来種が入り込めば、その周囲の生物に影響を及ぼすはずだ。
「ねえ、ルナリアちゃん。良かったら目的地に着くまで、少しお話ししない?」
「そのように呑気なことはしていられません」
 そんな返答も予想の範囲内。緊張し続けたら疲れてしまうだろうという言葉にルナリアは首を振る。
「仲良しごっこをするつもりはありません。お姉さまに認められるだけの力を確かめたいだけ」
「でも、お互いにどんな戦い方をするかってことくらい、知っておきたくない? 上手く連携ができなくて失敗しちゃったら大変でしょ?」
 それは確かに道理である――が、ルナリアの眼差しは険しくなるばかり。そんな2人の気を逸らすように第三者の声が挟まる。
「ま、初対面の相手を信用しろってのも無理な話だ。とはいえ、そんなにツンケンしてたら折角の美人が台無しだぜ?」
 『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)――幻想種でない男性の姿にルナリアは一瞬顔をこわばらせ、威嚇するように睨みつけ、そして我に返って視線を逸らす。流石に諌めただけの相手へ向ける態度ではなかったと感じているようだ。
「……すみません、他所の男性には良い思い出がなく」
「まあ、長い間鎖国していたしな。だがラサと深緑は盟友だ。俺は少なくとも、俺達もダチみてえなもんだと思ってるよ」
 とはいえ、言葉だけなら如何様にも並び立てられる。どれが本物でどれが嘘だなどと判断できないだろう。
 だからこそ、言動全てひっくるめてイレギュラーズの思いを理解して貰えば良い。信用に足ると断じたならば、彼女はきっと心強い協力者になるだろうから。
「まずはわたしから自己紹介をしようか。勝手に喋るから、聞いてくれれば良いよ。もちろん、できるなら貴方の事も教えて欲しいけれど」
 未知を怖いと感じるのは当然のこと。『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)はこちらから歩み寄ろうと口を開く。何だって良い、何でも話して彼女が興味を持ったなら、それが糸口になるのだから。
 別に勝手に話しているだけなら、聞いているフリでもして全て流してしまえば良い。けれども思わず耳を傾けてしまうのはЯ・E・Dの力なのだろう。
 そうすると一言、二言と言葉を交わすようになってきて、それは話したくてウズウズしていた焔とも交わされるようになる。
 少しずつ解ける緊張の糸を感じながら、ルカは先を進んで辺りを見回した。
(どこもかしこも茨だらけだ)
 有刺鉄線のようなそれは先へ進むことを阻むようである。早く中の様子を確かめ、必要とあらば馳せ参じたいところだが、それもままならないだろう。
「まだ森に入る以前なのね……」
 この先にいるはずなのに―― 『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)の瞳が揺れる。ぐらつく心を支えるようにリチェルカーレがその体をこすりつけた。
「リチェ、ありがとう。……邪魔をする大きい球根さんたち、ここでしっかり倒すのよ! ルナリアお姉さん、一緒に頑張りましょうね!」
 気持ちを切り替えて、いつものように明るく元気に。そんなキルシュにルナリアは表情を緩める。対して『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)はその様子に考えを巡らせた。
(一見しただけじゃ間違えちゃうかな? 依頼が終わるまでは黙ってよっと)
 その見た目は幻想種と見紛うが、アリアは精霊種である。だが同胞であると判断してくれるのならば、仲良くなるには都合が良い。
「迷宮森林が今の状態になってから、モンスターの出現が活発になった気がする! ルナリアさんは警備していてどう?」
「妖精郷の邪妖精が見かけられているようです。そのせいではないでしょうか」
 邪妖精(アンシーリーコート)とは、妖精郷アルヴィオンに住まうモンスターである。妖精たちに恐れられるモンスターがかの場所から出てきている、というのも不思議なことだ。
「領地があるから、早く通れるようになるといいんだけれど」
「私も深緑の一部を頂いている身。微力ですが、お力になりましょう」
 深緑の領主であると告げるアリアと『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)にルナリアは納得したように頷いた。確かに、各国の名だたる者が集まり、イレギュラーズへ領地を分け与えると決めていた。そこには深緑を束ねるリュミエの姿もあり、この深緑に置いてある程度名が広まっているならば、領地を持つことを許されているだろう。
 それは何よりも、イレギュラーズが深緑に貢献してきたという目に見える『功績』でもある。
「皆、そろそろ気をひきしめて」
 Я・E・Dが敵の気配を察知する。とはいえまだ距離はあるが、鋭敏な嗅覚は甘い香りを捉えていた。
 先ほどまでの雰囲気とは一転して、黙々と歩く一同。やがて開けた場所に球根のような一団を発見する。まだこちらには気づいていないようだ。
 先手必勝、不意打ち上等とЯ・E・Dはコウシィの群れに向けて勘通力に長けた破壊魔砲を宇付様に撃ち放つ。動揺した風の彼らへ容赦なく攻撃を叩き込むЯ・E・Dは、じりじりと位置を調整しながら視線をグリーフとアリアへ。
「ごめん、こっちはできる限り急いで倒すから、オウシィの方は持ちこたえて!!」
「ええ、もちろんです」
「そっちも頑張ってね!」
 ひときわ大きいオウシィへ向かっていく2人。ヒィロはコウシィの群れへ突撃してさあこい! と闘志を放つ。
(もう少し集まるのを待ってからがいいかな……?)
 美咲はその集まり具合――というか物凄くちょこまか動くので集まらないったらありゃしない――を見ながら攻撃の機会を待つ。数打てば当たるだろうが、そんなことをすればあっという間にガス欠だ。
 ヒィロが闘志全開で挑発するが、如何せんコウシィも負けていない。忙しない動きでヒィロを翻弄していく。そこへルカは躊躇なく乱撃を叩き込んだ。
「叩かないと始まらねえ。行くぞ!」
「うん!」
 彼らの張った結界が木々を守る。けれども焔は延焼しないように注意しながら炎の弾を投げつけた。ルナリアも焔に合わせ、その炎を広げないようにしながら風を操る。
「アリアお姉さんたち、ぱくって食べられないでね?」
「頑張るよー!」
 キルシェは大丈夫だろうかとドキドキしながらオウシィへ背を向け、コウシィと戦う仲間たちを回復する。今のところこちらの被害の方が大きそうだ。しっかり癒して守らなくては!
「さて、なるべく食べられたくないものですね」
 グリーフはオウシィを引き付け、丸呑みされないようにと立ち回る。仲間に攻撃されようと構わないが、キルシュにああ言われた手前、食われては驚かせてしまうだろう。
「痛いからね、気をつけて!」
 アリアの奏でる蛇骨の調がオウシィを苦しめる。巨大な球根はこらえきれなくなったように口から膨大な泥を吐き出した。それをびしゃりと被ってしまったグリーフは小さく眉を寄せる。魔力障壁と破邪の結界がグリーフを傷付けることを許さないが、これは良くない感覚だ。効かないとはいえ、その不快感はこびりついたように残る。
(しかし、消化液の類ではなさそうです)
 グリーフは突進してくるオウシィを簡易飛行の補助を受けながら跳躍し、その背後へと回る。時に避け、時に受け止め、その体で以てオウシィの放つそれがなんであるのか、徐々に理解する。その間にもアリアのフルルーンブラスターが強かに叩きつけられるが、流石の巨体を揺らすことはなかなか叶わない。魔力を躊躇なく使いながらの激しい猛攻が続く、その一方でコウシィたちと戦う仲間も畳みかけんと攻撃を繰り広げていた。
「数が多かろうが手数が多かろうが、そんな攻撃当たらないよ!」
 ヒィロの軽やかなステップは引き付けたコウシィたちの攻撃をいとも簡単に躱していく。スラムのどん底で鍛えられたこの身軽さは伊達じゃない。そこへ息の合った動きで美咲の一撃が決まる。
「さすが美咲さんだね! ……あれ?」
「持ち前の回避力でどうにかしたのかしらね」
 確かに攻撃は命中した……が、ぐぐっと起き上がったコウシィたちはいっせいに花を咲かせ、急速に萎れさせることで生命力を回復する。しかしそんな回復も無に帰すように無情なЯ・E・Dの攻撃が幾重にも突き刺さった。数えきれないほどの魔砲に乗じ、焔も火炎弾を投げ込む。
「皆、ルシェの傍によってね!」
 キルシェが桜色の優しい雨を降らせ、味方の気力を底上げする。しかしそこへ乱入するかのように、ヒィロに引き付けられていなかったコウシィが飛び込んできた。
「早く減らさないとこっちからやられていくか」
 倒せない敵より倒しやすい敵から。生存本能に従えば弱き者を叩くのは当然のことで、そういう意味ではヒィロは倒せない敵と判断されているわけだ。彼女の闘志に当てられたコウシィは夢中になって彼女へ突撃をかましてるが、すばしこいこの敵をすべて引き付けるというのは中々難しいだろう。
「攻撃を集中させるぞ!」
「うん!」
「ボクは出来る限り引き付けるよ!」
 頼もしいヒィロへ任せたとルカは頷いて、得物を手にコウシィの群れへと駆けだした。
 コウシィの群れとイレギュラーズの攻防は続く。キルシェの回復はその要だろう。
「ぜったいに、誰も倒れさせないのよ……!」
 桜色の慈雨を起こし、幻想福音を奏でながら必死に鼓舞するキルシェ。その支援を受けながら、単体で動き回っているコウシィめがけて焔の烈火業炎撃が繰り出される。美咲によって降ろされた終焉の帳はコウシィたちへ終わりを告げた。
「アハッ、すごいすごい!」
「ヒィロは大丈夫?」
「もちろん!」
 さあ、あらかた自由勝手に動き回るコウシィはいなくなった。あとはヒィロへ群がる敵の排除だけだ。

「グリーフさん、花が咲いてる!」
 アリアの声にグリーフは視線を上げた。大輪の花を咲かせているが、不気味な暗色だ。そこから降り注ぐ花粉を浴びたグリーフは唐突に膝をつく。アリアの動揺した声が聞こえた。
(これは……)
 グリーフのその身は異常状態をものともしない。けれど確かにその効果は身に刻まれており、それを増幅させるような攻撃であれば内側からダメージを受けるだろう。
「他の方がいれば、もっと大変な事になっていたでしょうね」
 すぐさまアリアが大天使の祝福でグリーフと自身を治療していく。あとは攻撃に戻るだけ――とはいっても、最初に飛ばし過ぎてガス欠気味なことは否めない。
「――待たせたなアリア、グリーフ。助かったぜ!」
 そこへ馳せ参じる仲間たち。ルカは力任せに振るう大剣で容赦なくオウシィへ斬りかかる。その身には多少の傷が見えど、疲労困憊といった様子はない。
「大きいね……」
 Я・E・Dはその指先から何本もの光る糸を出し、それをオウシィへ向かって放つ。一直線に伸びるそれは逃さず、がんじがらめにするようにオウシィへ絡みついて行った。
「あともうちょっとよ! ルナリアお姉さんも大丈夫?」
「ええ。ここで倒れては同胞に向ける顔がありません」
 キルシェにルナリアが頷き、嵐の如く風を起こす。随分な体力バカのようだが、その攻撃に気をつけながら戦えば勝機は見えてくるだろう。
(アリアお姉さん、すっごく大きい球根さんのお花は呪殺を持ってるっていってたのよ)
 それならば皆の不調を癒してしまえば問題ない。先ほどの花は枯れてしまったようだが、油断はできないだろう。
「行くよ!」
 焔の烈火業炎撃がオウシィへめり込み、その体がぐらつき始める。しかしそうするとその勢いのまま、体を大きく転がしてイレギュラーズたちを轢かんとした。
「させませんよ……っ」
 その動線にグリーフが立ちはだかり、高い壁の如くその巨体を押しとどめる。Я・E・Dは横倒しになったオウシィの頭頂部に向けて魔砲を撃ち放った。
「美咲さん、行って!」
 ヒィロの闘志が美咲の背中をも押していく。気糸の斬撃はオウシィの至る場所を切り裂いた。
 大分消耗したようだが――最後のあがきか。無茶苦茶に暴れまわるオウシィをいなし、受け止めながらイレギュラーズたちの猛攻が続く。
「悪いな、急いでるんだ。盟友(ガチ)が待ってるもんでな!」
 ルカの雷切に続き、魔力の回復したアリアが攻撃を叩きつける。すっかりボロボロになった体を焔が空中へと跳ね上げ、跳躍して地面へ叩きつければ――地面の半ばまでめり込んだオウシィは、漸くその動きを止めたのだった。

「お疲れ様でーした!」
「これで終わったみたいだね……どう? ルナリアさん」
 アリアに続き、Я・E・Dがルナリアの方を見る。彼女が認めるほどの強さであるのだと、思って貰えただろうか。対する彼女の瞳は、先ほどよりどこか柔らかいような気がして――でもやっぱり悔し気に顔を歪めるのだ。
「……お姉さまの仰る通りでした。認めざるを得ないでしょう」
「やったあ!」
 大喜びの焔と憮然としたルナリア。強いのはわかったが、自分より先にルドラに認められてしまうなんて、と言った所だろうか?
「さて、一休みの前に片付けしよっか」
「うん! ヤリ甲斐のある敵についアツくなっちゃった。スカッと出来る上に報酬もゲットできるなんて、素敵なお仕事バンザイ! ってやつだね!」
 また魔物が出たら呼んでね、と言ってヒィロは美咲と共に敵の片づけへ向かう。グリーフも安全かっく人に立ち会うつもりのようだ。
(彼らは何処から来たのでしょう。茨の中から?)
 それならば通路も見つかりそうなものだが、はてさて。
「この辺りの茨は薄い方かな?」
「いえ、まだまだ先があるみたいですね……」
「茨を土ごと確保出来たら、持ち運んだりできないかしら?」
 アリアとルナリア、キルシェはああでもない、こうでもないと議論する。ルカがルナリアの風に探ってもらってはどうか、と提案したが、まだまだその先まで届けるには遠いようだ。
 思わず肩を落としてしまった彼女に、ルカはぽんと肩を叩く。
「何も1回きりって訳じゃねえ。肩の力抜きな。成功するまで付き合うさ」
「……ダチだから、ですか?」
「おう! 頼りにしてるし、頼りにもしてくれ」
 にかっと笑うルカ。つられてルナリアも小さく微笑む。
 ほんの小さな1歩だって、積み重ねればきっと――届くだろう。

成否

成功

MVP

キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

状態異常

なし

あとがき

 お待たせいたしました、イレギュラーズ。
 結果として、ルナリアの態度は大分軟化したようです。次回にはもう少しとっつきやすくなることでしょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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