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シナリオ詳細

<モスカ漫遊記>鉄帝といえばコーントーストとヴォートカですわね!?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●コーントースト祭司長に敬礼
 コン=モスカ。その名は海洋に縁のある者ならば聞いた事ぐらいはあるだろう――
 あといま祭司長の足元にぶっ倒れてる男達と虹色の川も。
 かつて絶望の青と呼ばれたその大海を神聖な地として信仰していた者ら――
 そして半分気絶した男らの襟首を掴んで割れた酒瓶を振りかざす女。
 海洋王国大号令において海往く者らに加護を与えた一族――
 でもってわんわん泣く酒場の娘と困惑して動けない店主。
 かの滅海竜との戦いでも大きな役割を担い、悲しき『別れ』がありながらも英雄譚として後世に残る詩が紡がれ――
「控えろ! この方を誰と心得る!」
「コーントースト祭司長であらせあられるわよ!」
「コーントーストにはヴォートカが合いますわ!!」
「誰かこの状況を説明しろぉおおおお!」
 祭司長クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は、頭を抱えて悲鳴に近い叫びをあげた。
 モスカ漫遊記、鉄帝編。はじまるよ!

 まずは状況を説明したい。
 ゴプニク(ロシア式ヤンキー座り)をしたイーリン・ジョーンズ (p3p000854)、フェルディン・T・レオンハート (p3p000215)、そしてヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)がサングラスをしてあたりめをかじっていた。
 ヴァレーリヤはサングラスをすいっとあげると、地面に置いていたヴォートカ(ウォッカのこと)を手に取り、ラッパのみをはじめる。
「クレマァダ。これが鉄帝での基本的な冬の過ごし方ですわ」
「嘘じゃ!」
 我はぜったいやらんぞ! と首をぶんぶん振るクレマァダ=コン=モスカ (p3p008547)に、イーリンがサングラスをスッとあげる。
「見なさい、このフルシチョーヴィの列を」
 言われたとおりに振り返ると、まるで切りそろえたような箱形の高い建造物が並んでいる。フルシチョフカという集合住宅であり、『団地』という呼び方もできそうな建物だ。防寒もろくにできておらず室内も過ごしづらいこの建物はいわゆる鉄帝の貧民窟であった。
「暖房器具もろくにないこの環境を生き抜くために、人は安くて度数の高いアルコールを摂取し暖をとり、地べたに座ればたちまち体温が奪われる気温と立ったままでは疲れすぎるという事情からこのゴプニクというバランスのとれた座り方が開発されたのよ。つまりこのスタイルは……理にかなっているの!」
「ベンチとかカフェとかで座ればいいじゃろ!?」
「鉄帝にカフェなんてないよ!(偏見)」
 吐き捨てるように叫んだフェルディンには、知らない鉄帝貧民の悪霊でもとりついているようだった。
「鉄帝にはオシャレなカフェはないし、ゲーセンもなければ出前もないんだ。あるのはパチンコ屋だけだよ」
「それは流石に嘘じゃろ」
「フ、さすがは祭司長わかっていますわね……」
 サングラスと空っぽになった瓶を投げ捨てたヴァレーリヤは、立ち上がりクレマァダの肩を叩いた。
 耳元で囁く。
 ここまでの流れが何かの幻だったのではと思うほど、重く固い口調で。
「しかし、ここの風景はしっかりと目に焼き付けておく必要がありますわよ」

●薪を焼くには権利がいるが、兵を焼くのに権利はいらない
 深緑奥地で霊験あらたかな大樹を切り取り密輸していた密猟者もとい密樹者を捕まえた際、材木はラサや鉄帝へとわたっていることがわかっていた。
 問題はその用途なのだが……。
「ここが……?」
 雪深い街だった。
 粗末な建材によって作られた家々には防寒といった考え方はないようで、深く降り積もる雪がトタンの屋根を滑り落ちていく風景だけがある。
 道の雪はほとんどそのままとなり、一人二人が歩くのがやっとのスペースを除き道の端によせられていた。
「鉄帝国の北には、このような地域が多くありますわ。普通ならば人が暮らすことに適さない土地。けれど、私達鉄騎種ならば暮らせる土地が」
 むき出しになったヴァレーリヤの鋼の腕には、寒さを感じていないのか震えがない。
 クレマァダは今にも凍え死にそうといった様子でマフラーとコートで自分をもふもふにしているというのに。
「皆、寒くないのか?」
「寒いですわ。けれど、身体がそれに耐えられるだけ」
「好き好んで暮らしている分けじゃない……ってところなのかしら」
 イーリンのつぶやきに、ヴァレーリヤは沈黙を返した。肯定の意味として。
 彼女たちがたどり着いたのは、そんな街の一角。酒場である。
 扉をあけると、どうにもガラの悪い男達がこちらを見た。
 そうなることを予見していたのか、フェルディンが先頭に立ち彼らを見返す。
 こういう酒場は、よくある。
 田舎にぽつんと存在し、いつもの顔ぶれしか訪れないので知らぬ者が現れれば注目されるという酒場だ。大抵歓迎されるか嫌がられるかの二択なのだが、どうやら後者であるらしい。
 男たちはチッと舌打ちし、店の奥へと進んでいけばカウンターに立った店主らしきスキンヘッドの男も仏頂面だけを向けてくる。
 そしてそこで、クレマァダは思い出した。
 この貧民窟での酒の飲み方は『地面に座り込んでウォッカをがぶ飲みする』ことであるということ。
 見回せば、テーブルにピーナッツの載った皿や肉の切れ端。ビールジョッキを持った男が木の椅子に座ってこちらをちらちらと見ている。
 貧民窟の一般的な酒場……とは、ここは呼べない。では……?
「注文は」
 店主が短く言うと、フェルディンがカウンターテーブルに手を置いて言う。
「コーントースト。それと……深緑の霊樹を買ってるマフィアさんをひと束」
 店中の男達全員が立ち上がり、一斉に腰に下げた武器を手に取った。
 そして、冒頭へと至る。

GMコメント

 リクエストありがとうございます、祭司長の道筋、鉄帝編!

●オーダー
 霊樹密売組織を壊滅させよ!

 今からちょっと長くてややこしい話をするので、酔っ払ってる人はコーントーストのはなしをするまで読み飛ばしてください。
 前回(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6800)、深緑の霊樹をめっちゃ切り取ってうっぱらう密樹者たちをとっつかまえましたが、その流れで深緑の樹を流すことで荒稼ぎをしている鉄帝密売組織へとたどり着きました。
 貧民窟において魔法の力のこもった霊樹素材は重宝され、これがなければ眠ることも難しいという者も多いようです。特に鉄騎種以外の(ここへ流れてくるしかなかった)住民には死活問題らしく、そういった人々から金を巻き上げる形で密売組織は潤っていました。

 なので今からコーントースト祭司長と共にこのワルたちをぶちのめしましょう!
 特におおきな理由は無いんですが、司祭長観光のついでです。
 場所は酒場。敵は鉄帝のごろつきたち。
 無事に倒したら軍に突き出したりしましょう。

●オマケ
 酒場で暴れるだけ暴れたら、鉄帝の雪景色を見に外を歩いてみるのもいいでしょう。
 海洋では見ることの出来ないような文化や風景がそこには広がっている筈です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <モスカ漫遊記>鉄帝といえばコーントーストとヴォートカですわね!?完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年02月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
※参加確定済み※
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
※参加確定済み※
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
※参加確定済み※
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
※参加確定済み※
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

リプレイ

●クククこれから流血と暴力に彩られたマフィアとの戦いを描くぞククク
「ひかえおろうひかえおろう!」
「この方をなんとこころえる!」
「かの偉大なるあのえっとなんだっけ?」
「エビチャーハンひとつ」
「コーントースト祭司長殿であらせられるぞ!」
「頭が高ぁい!」
「お酒まだありますか?」
「エビチャーハンこっちこっち」
 スキンヘッドのごろつきたちが全員土下座していた。
 何人かは頭にガラス辺が刺さり、周囲には割れ瓶が散乱している。
 部屋の端では『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が30年モノのヴォートカをゴプニクstyleでラッパ飲みし、『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)もその隣で手酌飲みしていた。
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はさっきから上半身を脱ぎ捨て謎にパンプアップされた筋肉をむき出しにしているし、『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はひのきで出来た風呂釜に浸かってギターをぼろろんってしていた。『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)はもう仕事は終わったとばかりに剣を布で拭いているし、『海淵の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)と『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は作った覚えのないコン=モスカ印籠(中身は8種のキャンディ)を翳して『ひかえおろう!』てやっていた。
「な、なんじゃこの光景は……」
 自分は一体なんの依頼にいたのか。さっきまでのピリピリとした空気はなんだったのか。
 『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は頭を抱え、店内では一つだけ残った椅子にこしかけた。もはや椅子もテーブルもこれを除いて全て破壊されていたからだ。どう破壊されたのかは、さっきから土下座してるトゲ突き肩パット男の頭に刺さった材木から察しがつく。
「一体どうしようというのじゃ……もう終わりなのか? 帰るのか……?」
 頭を抱えて振り返るクレマァダに、フェルディンが真顔で振り返った。
 真顔のままゆっくりと恋ダンスを始め、その隣でリズムをとっていたイーリンがカメラ(かめら?)に向かってビッと指をさす。
「というわけで『踊るモスカ亭』編、始まるわよ!」

●鉄帝のグルメ ~踊るモスカ亭編~
 マフィアから脚を洗いアンティークを専門とした商人へと転職したカタパ=ドゥ=モヒカンヌは、もはや着慣れたビジネススーツのネクタイをしめなおすと花屋の外へと出た。
 見送りにきた四十台ほどのご夫人が手を振り、カタパはモヒカンの頭をさげた。
 顔をあげ、背を向け、駅馬車のとまる建物へと歩いて行く。雪深いこの時期、町から町へ移動するのに駅馬車を使わないという選択肢はない。
 歩きながら、カタパは商談の内容を思い出していた。店にあうアンティーク棚を探しているというご夫人の話は、その七割が御見合い写真についてだった。似合いの女性がいるのだとカタパにしつこく写真をみせつけ、その数は覚えているだけで10枚を超えた。
 やれやれと首を振り、そして……足を止める。ネクタイを緩めてみると、ふと……腹が、減った。
 駅馬車で何が食べ物はあるだろうか。この時期はあってもせいぜいが保存に適した固いパンと苦いコーヒーくらいだろう。
 どこかに店はないか。さまよう亡者のように歩き出し、そして……気付けば貧民窟へとたどり着いていた。懐かしい風景だ。雪に今にも押しつぶされそうなバラック小屋が並ぶ風景……だが、記憶にない香りがする。
 不思議に思って歩いてみると、木製の看板がさがる建物があった。
 『踊るモスカ亭編』と海洋王国の文字で書かれたそれは、温かい香りを店外へともらしている。
 ここは確か、マフィア御用達の酒場だった筈。自分も幾度か前職の付き合いで通ったことがある。勝負に出るなら、ここはうってつけだろう。
 扉を開くと、ウェルカムベルの音によばれたように一人の男性がやってきた。精悍な体つきにすこし癖のある金髪。胸には『カクサン』という名札がついている。
 彼は優しいイケボで『いらっしゃいませ』と言って店の奥にあるテーブルへと案内してくれた。
「メニューは……」
 問いかけるカタパに、カクサンは優しく笑って壁際をゆびさした。
 木の板がさがり、墨汁を使って品書きがなされていた。
 その中に、『鉄帝風フィッシュサンド』なる文字を見つけた。
 ふと別のテーブルを見てみると、平たい円形に焼いたパンを上下に切ったものに、キャベツやトマトといった寒冷地でよくとれる野菜と何かのフライが挟まったものがある。おそらくは白身魚だろう。鉄帝は海が凍るほどの土地だが、川はその限りではない。川魚は貴重なタンパク源として知られるのだ。
 注文を考えていると、スッと皿がテーブルに置かれた。
「こちらコーントーストはサービスになっております」
 『スケサン』という名札のついた女性がそうとだけ言うと、静かに下がり店の奥へと行ってしまった。
「斉唱! いらっしゃいませ!」
「「エアッロスミスェ!」」
「ありがとうございました!」
「「アランドロンフザイデシタァ!」」
 随分とスタッフ教育に熱心な店らしい。トーストまでサービスされるとは。
 しかし囓ってみたトーストは期待をふくらませるに充分な味わいだった。腹を満たすにはやや足りないこぶりなサイズということもあって、ぺろりと平らげてしまう。
「くっふふー、酒を飲みながら乱闘というのも中々無かったでありんすからねえ」
 ふと、別のテーブルから声がした。
 黒髪の女性が椅子に腰掛け、昼からワインをたしなんでいる。
「楽しくてついお酒が進んでしまう!
 ついでに酔いも進んでしまう!
 ……わっち、体質的に酔えないでありんすけど!」
 冗談めかしていう女性の向かいには、鎧姿の男性がひとり。身を示すためか『オリーブ』と刻まれたプレートがさがっている。常在戦場の心持ちなのか、顔をすっぽりと覆ったヘルメットの下でなにごとかを言ったようだった。テーブルをはさんだ向かいの女性には聞こえただろうが、くぐもった声ゆえにこちらまではよく聞こえない。
 『普通なら表でやるべきですけど、店主まで悪党の一人なら遠慮は要りません』といったような内容だが、おそらく今この場で暴れるという意図のものではないだろう。過去の話をしているようなニュアンスがそこにはあった。
 気を取り直してメニューを見てみると、『魚のスープ』なるメニューがあった。寒い季節だ。温かい汁物は欲しくなる。丁度トーストで口も渇いたところだ。
 注文してみると、胸に筆で『トビサル』と書いた上半身裸のパンプアップした美男子がトレーを持って現れた。
 自分はなにもおかしなことをしていないとでもいうような、。クールでハンサムな顔立ちがカタパをとらえ、そしてゆっくりと歩いてくる。
 歩くたび大胸筋が左右にぴくりと動くさまが、彼の鍛え上げられた肉体を語っている。
 無言のままテーブルにおかれたのはスープだ。
 添え物としてサワークリームとザワークラフト。スープも肉や魚のすり身と野菜を入れた食べ応えのありそうなものだ。
 早速スプーンを手に取ると、店の端に一人の男が入ってきた。
 ギターをさげた男は、窓の外にとめた屋台車をさして何事か店の者に言うと、ゆっくりと店の端の椅子へと座る。
 そして、吟遊詩人のようにギターをゆったりと演奏しながら歌い始めた。
 それは、この店がマフィア御用達の酒場であった頃の物語。
 一通りの演奏が終わったところで、客のひとりから『ヤツェク』と呼ばれた男にコインが投げられる。帝国で主に使われる共通銅貨だ。
 それをキャッチし、男はそのまま店の女に温かい飲み物を注文している。
「あなた……この辺では見ない顔ですわね」
 ふと、声をかけられた。
 振り返ると、テーブルに酒瓶を置いた赤毛の女がこちらをとろんとした目で見つめていた。道ばたでからでくる酔っ払いと同じ目だ。
「なら、私の考案した新メニューを紹介しますわ。その名も――クレマッツォ!」
 バズりそうな名前ですわー! と叫びながら取り出したそれは、クリームをぬりたくったパンにぴっちぴちの生魚(生きてる)を挟んだかつてない一品であった。
 これまで世に出なかったってことは出さなかっただけの理由があると言うことをふと思い出したカタパに、赤毛の女はにやりと笑う。
「フフフ、これを看板メニューにすれば、名前と見た目から漂う南国の雰囲気に惹かれてお客様が押すな押すなと……磯臭いですわ!」
 オラァと叫んでぶん投げたクレマッツォがカタパの顔面にスパーキングした。
「魚介類を出すなら、やっぱりヴォートカで臭みを誤魔化しながらが一番ではなくて!? 身体も温まりますしィ!?」
 とかいいながら、30年モノとおもわれる酒瓶をぐびぐびと飲み始める女。メニューに酒はないので、おそらくは持ち込みだろう。
 こんなことをしていいのだろうかと店内を見回すも、全員が赤毛の女からあ目を背けていた。

 暫くゆったりとした時間を過ごし、食事をすませたカタパは店を出た。
 とめられている屋台車はどうやらこの店のメニューを売り歩くための屋台であったらしく、同じ看板が下がっている。
 今度みかけたらこの屋台からも買ってみようと思いながら、カタパは店をあとにし歩き出したのだった。

●今回のコノスキタイム
「コーントーストとマリトッツォならぬクレマッツォ! さあ、コーントースト祭司長! 食べなんし! まさか嫌とは言わないでありんすよね? もちろん他の皆々様にもごぜーますよ! さあ、遠慮せずに食べなんし!」
 すごい絡み方をするエマとそれを適度になだめるオリーブ。
 ここは『踊るモスカ亭』が見せる夜の姿だ。
 昼はカフェ、夜はバーといった具合に24時間営業をするこの店は夜その姿を変える。
 サービスもコーントーストからヴォートカのショットに早変わりだ。
 イーリンは店の奥でチャチャチャっと共通銀貨や銅貨の数を数えて箱につめていく作業を終え、帳面に金額を書き込んでいく。
「そろそろ軌道に乗ってきたわね。あとは従業員に任せていいんじゃないかしら」
「そうだね……」
 店の奥に備え付けたシャワー室から出てきたフェルディンが、頭をタオルで拭きながら歩いてくる。あ、こちらの胸板はサービスとなっております。
「クレマッツォ以外はそれなりに人気があるし、バイトリーダーを店長に昇格させてもやっていけるだろうね。それにしても……地元の団体を潰すだけじゃなく貧民窟のコミュニティも改善しようとは」
 ボクらは世直しの旅をしているわけじゃないんだけどねと肩をすくめるが、その表情はさわやかだ。
 一通りの片付けを終えて店に出てみると、ヤツェクの演奏を聴きながらマカライトやヴァレーリヤたちがちびちびと酒をやっていた。
 火を灯したジッポライターをサイリウムのようにゆっくりと振り、曲に気分をのせている。
 オリーブが、ふと外から帰ってきたクレマァダに振り返り歓迎の言葉をかけた。
「お帰りなさい。クレマァダさん」
 モスカさんと呼ばないのは、その呼び方だと少し幅が広くなりすぎるためらしい。
「うむ」
 クレマァダは椅子に腰掛けると、温かい飲み物を持ってきたフェルディンに唇を突き出したような表情を返す。なんともわからないしぐさだが、どうやら二人の間ではなにか通じているらしい。
「全く……モスカ亭やらクレマッツォやらはもうこの際いいが……」
 これまで何度もやめさせようとして流されてきた要素に渋面を作りつつ、クレマッツォじゃなかったクレマァダは店に集まった仲間達の顔を見る。
「鉄帝観光をするつもりがとんだことになったが……
 まあ、これがお主らの思うこの国の”今”だということは、理解した。
 貧しいだけでは人は死なぬが。
 食すものがなくなれば人は死ぬ。
 暖炉の薪がなくなれば人は死ぬ。
 この国にある財は、人の生存というものとは違うところにある。
 それが、民の飢えとなっておる。
 鉄帝という国の強さは、民を養わない」
 雪深い風景に似合ったような、つめたい土地。
 鉄帝というくに。
「その上で、改めて問う。
 お主ら……この国のことは、好きか?」
 問いかけに、順に仲間達がこたえた。
「過酷極まりない環境ですが、それでもこの国の人は折れずに、抗って、今日を生き続けている。その強さ……ええ、とても好ましく思います」
 フェルディンはそう言って、マカライトへと視線をやる。
「良い国かと言われれば言う程良くないし。悪い国かと言われればなんだかんだそこまで悪くはないと思うしな。
 ただ雪景色は個人的に好みだな。……ここ程多くはないが、故郷も同じ雪国だったから」
 窓の外を見つめながら、温かいコーヒーに口をつけるマカライト。
 オリーブは待ってましたとばかりに頷いて、鎧の下からこたえた。
「残念ながら、どの国よりも好きですよ。
 喧嘩や揉め事は日常茶飯事、貧富の差はどこよりも大きく、弱者はまるで顧みられない。
 そんな貧しくて過酷な碌でもない国なのですけど、悔しい事に良い所も沢山あるのです。
 まあ、もう少し落ち着いて欲しいとは思いますけどね!」
 その答えに笑みを送るエマ。
「くふふ、ええ、わっちももちろん好きでありんす。
 脳筋なのは考えものでありんすが、それが彼らの輝きであればわかりやすい」
 フッと苦笑交じりの声がした。ヤツェクのものだ。
「どの国も、最低の場所はある。クソだと言い切るのは一番楽だ。
 だが――雪が綺麗でヴォートカが旨い。まだ、絶望しきってない。それは、希望だな。ああ、悪くない」
 そう言って、ヴォートカのショットをあおって苦笑をより深く温かいものにした。
 外の人間も、この国で育った人間も、それぞれ思う所をもちながらもこの国を好んでいた。
 ヴァレーリヤも、また同じだ。
「この国が好きか、ですって?当然、生まれ育った国ですもの。
 好きだからこそ、良くなって欲しいという思いはあるけれど、ね」
 国をよくするため。そのために動く人々がいることを知っている。やり方を間違えた人間や、失敗した人間も。そして彼らが心の底で国を愛していたことを。
 イーリンはそこまでの話を聞いてから、クレマァダへと向き直る。
「そうね、もっと優しくなれば、もっと好き」
 世界中に言えるような、そんな言葉で――夜はまた更けていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――またのお越しを

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