亜竜集落ペイトへ

オープニング

●覇竜領域にて
　覇竜領域デザストルは大陸南方の山脈に拠点を置く竜種の領域だ。
　国というよりは棲家といった方が適切でしょう。住民である人種『亜竜種』たちは領域（くに）と呼んでいる。
　竜種の住処であるという危険性から人類未踏の地ともされ、地理に関してはほとんど分かっていない。
　人間（人類）とは土台存在の異なる上位竜種の存在が多数観測されており、亜竜種と呼ばれる人種以外の混沌生命体は進んで此の山脈には近付きもしない。
　竜は自身の認めた勇者にのみ力を貸すとされているが、実際の所その観測例は殆どなかった。
　伝説や記録には極々稀に『竜を従えた勇者』の存在は記録されているのだが、実際の所それが可能であるかどうかは定かではなく夢物語であった。
　だが、絶望の青にて観測されイレギュラーズと敵対した『滅海竜』リヴァイアサン、練達で観測された『怪竜』ジャバーウォック等、その存在は夢物語ではない。
　そして……そのデザストルの亜竜集落フリアノンから地下通路を通ると、亜竜集落ペイトと呼ばれる場所に到着する。
　地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。
　暗い洞穴に更に穴を掘り、地中深くに里を築いたこの場所は武闘派の亜竜種が多く住んでいる。
　基本的にはペイト周辺は蟻の巣のような地下空洞が広がっており、地中生物たちがわらわらと存在している。
　そう聞くとフリアノンやウェスタよりも安全に聞こえるが……そうではない。
　地上となんら変わらぬ……一秒先の死の危険が、常にそこにある。
　たとえば、そう。
　地下空洞の先。何やら粘土質の土と台車の置かれた、その場所に空いた大穴。
　そして、そこから顔を出している、巨大なアリのような生物……とか。

●陶土を求めてペイトへ
　珱・琉珂の提案である『覇竜領域トライアル』。それは簡単に言ってしまえば覇竜領域での雑用仕事の始まりだ。
　前人未踏とされた危険領域だ。亜竜種達もその危険性を重々承知の上でイレギュラーズ達との友誼を図るための手立てとして提案したのだろう。
　仲良くなれようとも、この領域で生き残れなくては友誼を結ぶことは難しい。それは自身等の戦力強化でもある。
　竜種の脅威を目前とするこの覇竜領域でイレギュラーズと出会った『数奇な運命を宿した』亜竜種達は共に冒険を始めるのであった。
　そして……今日、此処にも１人。
「おー、すまんすまん。呼びつける形になっちまったのう」
　老齢の亜竜種の男は、集まったイレギュラーズを前に酒瓶を振ってみせる。
　此処で醸造している酒なのだろう、老人の周囲には幾つもの、酒の入った大きな甕（かめ）が置いてある。
　酒職人であると名乗っていたが、老人自身もかなりの酒豪であるようだ。すでに軽く酔っているようにも見える。
　確か黒鉄・相賀（くろがね・そうが）と名乗っていたはずだ。
「実はな、此処にたーくさん甕があるのが見えると思うが」
　確かにある。どの甕に何が入っているのかは分からないが、恐らくほとんどは酒であるのだろう。
　しかし、その甕がどうしたというのだろうか？
「実はな、この甕を焼く為の土なんじゃが……ペイトっつー場所から仕入れとる」
　亜竜集落ペイト。
　地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。
　暗い洞穴に更に穴を掘り、地中深くに里を築いたこの場所は武闘派の亜竜種が多く住んでいる。
　基本的にはペイト周辺は蟻の巣のような地下空洞が広がっており、地中生物たちがわらわらと存在しているというが……なるほど、土を仕入れるには最適な場所なのかもしれない。
「しかしのー、どうも普段使っとる場所に妙なもんが出ちまったようでの」
　それはアリ型の地中生物であるようだが、そんなものが居ては採土場所も使えはしない。
「まあ、飽きればどっか行くかもしれんし、他の場所を探せばいいんじゃが……問題が１つあってのう」
　それは、その採土場所に置いてある台車とスコップだ。
　これは採土職人の家が代々使っている業物であるらしく、出来れば手放したくない品であるらしい。
「仕方ないと落ち込む姿がなんとも可哀想でのう。こりゃ、一肌脱ぐべきところとは思わんか？　ん？」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●ペイトへ行こう
「ふむ、今回は亜竜集落ペイトか」
『特異運命座標』ベネディクト＝レベンディス＝マナガルム（p3p008160）は亜竜集落ペイトを見回し、他と違う雰囲気を肌で感じ取っていた。
　フリアノンにウェスタにペイト、それぞれの集落にベネディクトは行ってきたが、どの集落もそれぞれの文化が形成されているのを感じていた。
　勿論、その触り程度しかまだ知らないが……それでも感じ入るものはある。
　そして、このペイトのような場所であれば採土職人が代々の仕事として成り立っているのも納得ではある。
「台車とスコップだったか。それが大事な物だというなら、持ち帰ろう。少なくとも、依頼人にとっては只の、ではないのだろう？」
　そう、その採土職人の使う凄いスコップと凄い台車。
　通常のモノよりも凄いというソレは、スペックだけ見れば「外」にあるものよりも高性能である。
「そんなすごい代物を残してきちゃったのですよ……？　余程焦っていたのか、それとも余程のうっかりやさんなのでして」
「ま、両方じゃろうのう」
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン（p3p009869）の呟きに黒鉄・相賀がそう返す。
「両方でして？」
「うむ。加えて死の危険も感じたんじゃろなあ。儂等の生活は常に死がすぐ側にあるからの。代々のものとはいえ、命は１個じゃ」
　事実、デザストルでは道を少し間違えただけでイレギュラーズでもアッサリ死ぬ可能性がある。
　外の世界とは全く違う強力な生物の闊歩する場所。それをルシアは再確認してしまう。
「なるほどな、先祖代々の形見ってわけか」
「そういうことじゃの」
『竜剣』シラス（p3p004421）も「気持ちは分からなくもない」と納得してしまう。
　そういった代物であれば、シラスとしても気合が入るというものだ。
「そのアリはどっからやってきたんだ。そういう生物ってあんまり住処を鞍替えするイメージはねーんだがな。もともとの縄張りでなんかあったか？」
「ま、何処かにいたモンが偶然穴を開けたんじゃなかろーかの。理由までは知らんが」
「ふーん……まあ、細かいことはどうでもいいな。とりあえず頼まれごとは片付けちまおう。道具が大事な気持ちはわからなくもねーしな」
「使い慣れた道具は大事だよな。焼き物の土だって他を探すにしても、場所が変われば質も変わるだろう……追い払えれば最良なのだろうが、そう簡単にもいくまいな」
「ああ。手に馴染んだもんってのはそう簡単に手放せないもんだ。それが代々受け継いだもんなら尚更な」
『餓狼』シオン・シズリー（p3p010236）と『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル（p3p008599）、そして『波濤の盾』エイヴァン＝フルブス＝グラキオール（p3p000072）も頷きあうが、実際此処では「理由」など些細なことなのだろう。
　出た、死んだ。そのくらいの気安さで人が死ぬ場所なのだ。
　追い払うという考えは、中々出てはこない。
　この覇竜領域デザストルで暮らすというのは、そういうことだ。
　誰もがそんな中で自分の生業を見つけ生活している。いる、のだが。
「相賀のジーサン、アンタ酒だけじゃなく龜まで作ってんのかよ……」
「酒ごとに合う甕っちゅーもんがあるんじゃよ」
　まあ、何でも商人から買うという土地柄でもない。
『竜撃』ルカ・ガンビーノ（p3p007268）としても相賀の言うことは理解できる。
「お酒の話ですか？　味のほうはわたしにはさっぱりわからないのです。一応、未成年ですし」
「酒っつーより甕じゃのう。酒の話でもあるが」
『医術士』ココロ＝Bliss＝Solitude（p3p000323）は相賀の返答に首を傾げ、「甕ですか」と呟く。
「海洋で皆さんが飲んでいるお酒を保存するのは樽、なにかの木製のものですね」
「木製か。ふーむ、木の香りが移りそうじゃのう」
　事実、そういう手法はある。しかしまあ、相賀の作る酒で合うかどうかは試してみなければ分からないのだろう。
「土製と木製の容器の差、うまくいったら黒鉄さん、おしえてくださいね。それに、わたしたちは覇竜のことを知らない。酒は文化。尋ねる土地の文化を知るのは大事だと思いますし」
「はっはっは！　勤勉なお嬢さんじゃのう！」
　ココロに相賀は上機嫌に笑って見せるが、ルカの訝しげな視線に気付き「む？」と声をあげる。
（そこまでモンスターに占拠されたって……このジーサン、俺らを試してるだけで普段は自分で解決してんじゃねえか？）
「ま、何でも構わねえけどよ。俺らを試してくれるってんならありがてえ話に変わりはねえ」
「何を考えとるか知らんがの。わしゃタダのジジイじゃよ」
「ただのジジイの身のこなしじゃねえんだよなあ……」
　ヒョイヒョイと歩いていく相賀にルカは溜息をつくが、その姿にベネディクトはこの前知り合った亜竜種の少女の姿を思い出し首を傾げる。
　何処か、似ているような……？
「さ、到着したぞい。此処が採土場所じゃ」
　岩と土の壁の入り混じる場所。そこに到着すると……確かにあった。巨大なアリモンスター……アダマンアントの、その姿が。

●アリだー！
　全く動く気配のないアダマンアントだが、触覚が動いているのがよく見える。
　こちらの様子を見ているのが明らかな中、放置されたスコップと台車はすぐに発見することが出来た。
「穴を埋めて出てこなくなるなら良いんだが……アリじゃあすぐ掘り出すだろうからなぁ……」
　ルカは言いながら根本的解決の方法を考えるが、穴掘りの名手であるアリ相手の良い方法は中々考えつかない。
　たとえ硬い金属板を打ち付けたところで、出ようと思えば側面から出てくるだろう。
　こればかりは、今考えてもどうしようもないのかもしれない。
「さて、どの土か見分け方を今のうちに教えてくれ、折角掘っても使えない土だと勿体ないしな」
　アーマデルは袋とかあればそこに詰めた方がいいだろうし、台車に載せて布でも被せてロープで縛って積載出来れば運び易そうだという理由で袋を用意してきていた。
「ん、そこの壁のは全部大丈夫じゃな」
　粘土質の土の壁を指して言う相賀にアーマデルは頷いてスコップを構える。
　そういうことならば、話は非常に早い。
「サクッと土ごと持って帰って、陶芸に勤しもうじゃないか」
　エイヴァンの合図に従い、全員で土の掘り出しと積み込みを進めていく。
　ザクザクと掘れていく土は、台車いっぱいの量がすぐに集まってしまう。
「しかし、一定の距離を逃げると元の場所に戻るというのは……習性なのか、それとも何かを守っているのか、不思議な生物だな」
「縄張り的な何かなのかもな」
「まあ、そう考えるのが妥当だな」
　ベネディクトとシオンはそんな見解に至るが、実際その辺りが妥当なところだろう。
　ところどころに存在する安全地帯や何もしなければ安全な道など、細かくモンスターの縄張りのようなものが決まっていると考えると納得のいく部分はある。
　まあ、空飛ぶワイバーンのことも思えば、それが全てではないのだろうが……。
「アリか……身体がでかくなると外骨格が厄介そうだな　尻の方とか多少柔らかいってのが定番だが……？」
　こちらを見ているアダマンアントを今のうちにとアーマデルはじっくり観察する。
　フルアーマーの生物を見ているかのようなその黒い輝きは、本当に硬そうだ。
（顔を見せてるのは一匹、だがアリはフェロモンで印を残しながら歩く。それを辿って仲間が近くにいる可能性は低くない）
　事実、ただ何の意味もなくあそこから顔を見せているとも思えない。
　そういう役割を持っている……と考えるのが無難だ。
「それに地下空洞といえば、ROOの時のワームの巣を思い出すな。混沌の方にもいる可能性は高いだろう」
　ワーム。こちらでは亜竜の一種としてワームはアーマデルの予想通りに存在している。
　当然、実力も相当なものだが……さておいて、ベネディクトが台車を軽く叩く。
「あまり詰め込み過ぎてもあれだろうから、この程度か？　帰り道は気を引き締めねばな」
　帰り道はルシアが台車を引くことになっているが、そのルシアは台車を見ながら思いついたように手を叩く。
「そうだ！　ルシアだけだともしもの時があったら大変ですから土をなるべく平らに固めて、そこに守りに自信がある人が乗るってどうですよ？　一応は騎乗戦闘の類だから抑えきれずにはみ出した程度であればきっと十分でして！　準備が出来たら逃げるのです！」
「まあ、乗っても移動速度に支障がないなら、お言葉に甘えて乗せてもらうつもりだが……」
「問題ないのでして！」
　エイヴァンはその返事に頷くと、ルシアと共に積んだ土を平らにし始める。
　此処から先は、台車を守るのが最優先だ。スコップも括り付けるようにして載せているが……その上にエイヴァンを載せると、まるで古代の戦車か何かのようだ。
「まずは最初の追手を退けないといけませんね」
　ココロは言いながら、アダマンアントを睨みつける。
（混沌には沢山の生物がいますが、巨大アリとは初めて。初めての場所に初めての相手。油断はしません）
　そう、これで準備は出来た。ならば後は逃げ切るだけだ。
「んじゃあ、作戦開始と行こうや」
　そんなルカの声が響くと共に、ルシアの引く台車が凄い勢いで走り出す。
　同時にアダマンアントが反応し、穴から凄い勢いで跳び出してくる。
「持ち出すものを追いかける習性はあるみてーだが、さすがに大きな打撃を与えてくる相手は無視しづらいだろう！」
　シオンの黒顎魔王が炸裂し、台車から意識を外させようとする。
　シラスとアーマデル、相賀は台車を追って走り出し、ルカとベネディクトはシオン、ココロと共にアダマンアントの前に立ち塞がる。
「お前達の相手は此方だ」
　言いながらも、軽い汗が流れるのを止められない。
（今の一撃でも倒れないか）
　その黒い装甲は凶悪にギラつき、その凄まじい防御力を見せつけてくる。
「念入りに殺す必要まではないですし……もう少し距離を稼いだら逃げましょ」
　ココロの提案に、全員が頷く。台車の安全さえ確保できれば、この依頼は完遂できる。
　あとは自分たちの命を守るのみだ。
　……そうして、ココロたちがボロボロになりながらもペイトに辿り着いた時。
　そこでは台車に縋りついて泣いている採土職人と、シラスたちの姿があった。
　あまり時間的には差のない到着となったが、これでなんとか依頼も完遂。
　採土職人に何度もお礼を言われながら、折角だからと場所と窯を借りて陶芸体験である。
　先程までの死闘で高揚した心を落ち着けるには、非常に良い作業だ。
「俺も甕を焼きたいな。土を練るところからなんて本格的だ」
　それに亜竜種の文化はなるべく学んでおきたい。そう言いながらシラスは土を捏ね、相賀のアドバイスも受けながら甕を作っていく。
「それにこの手の作業は自信があるしな」
　そう、シラスには獲物を狙う猛禽のごとく素早く正確に手指を運び操作することが出来るギフト「鳶指」がある。
　出来た甕を相賀への贈り物にしようと、そんなことを考えながらシラスは甕を形作っていく。
「これはどうだい、酒が美味く見えそうだろう？」
「うむ、よく出来とるの。お前さん、こっちの道でも食っていけそうじゃな」
　そんなことをやっている横では、エイヴァンとルカもそれぞれのものを作っている。
「こういう細かい作業は苦手なんだよ……」
「ま、それも含めての楽しさだな」
　愚痴をエイヴァンに受け流されながらも、ルカは真剣に汗を流しながら陶芸に挑む。
　勿論、一生懸命ならうまくいく……などというわけでもないが。
　出来上がったのは初めてにしては上出来な、けれどルカからしてみれば不細工な酒器だ。
（それでも俺が最初に作ったもんだ。大事に使うぜ。それに……）
「見てくれは悪くても、自分で作った器で酒を飲んだらそりゃあ美味ぇだろうからな！」
　そしてココロとアーマデル、シオンの３人は……ルシアが一生懸命捏ねているものに思わず目がいっていた。
　皿ではない。壺でも甕でもない。これは……。
「出来たのですよ！」
　謎のハニワっぽい何か（可愛い）と名付けられたソレは、まあ……陶芸とはいえば陶芸だろうか。
　陶芸は自由だ。
「そういえば、黒鉄に聞きたいのだがもしかして奏音の親族か何かなのか？　同じ苗字だなと思って少し気になったのだが……もし違っているのなら済まない、俺の只の勘違いだ」
「ほう、奏音を知っとるのか。娘じゃよ」
　随分年が離れているように見えるが、詳しくは聞くまい。
　しかしまあ、やはり家族だったのか……と、ベネディクトは何となくスッキリした気分で、土を捏ねるのだった。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

黒鉄・相賀からの好感度がほんのちょっとだけ上がりました！