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シナリオ詳細

黄泉還る修羅:槍姫迷妄

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●落ちる日
 ――今になって、子供の頃を思い出す。
 村の剣術道場で、心太と一緒に訓練した日の事。
「お美知はさぁ、槍の方がいいよ」
 と、心太が笑った夕暮れ。
「なんって言うか、見ただけだけどさ。刀より良く動いてる。才能あるって」
 そう言って笑ってくれたのがうれしくて、槍を一生懸命練習して。
「やっぱり、俺なんかよりずっと強いじゃん」
 模擬試合で打ち負かしてしまった時も、そう言って笑って。
「俺の目に狂いはなかったな! きっとお美知は凄い武芸者になるんだ! 俺が保証する」
 その保証してくれたのがうれしくて。強くなるんだって、そうずっと信じて。

 うぬぼれだったな。

 死の間際にそんなことを思い出す。ある日、村を襲撃した15の野盗。追い返せると思った。2,3人は確かに無力化できた。が、その後に出てきた剣客は、私の強さなんかをずっとずっと上回っていた。あたしの槍の間合いをするりと踏み込んで、あたしの腹を裂いて殺すまでわずか数秒。
 あたしは無様に砂を噛んで、見下ろす男に一瞥をくれる。そこまでだ。後はこぼれるだけ。死ぬだけ。子供の頃を思い出しながら、ここで無様に散り果てる。
「邪魔立てする奴はこいつで仕舞いか?」
 野盗が言った。
「違いない。後は村の連中を殺せば仕舞い」
 剣客が言った。
 ああ、厭だ。
 あたしは何のために、腕を磨いたのか。
 何のために、うぬぼれたのか。
 ああ、厭だ。死にたくない。まもりたい。村の皆を。心太を。守りたい。
「ならば一つ手があるぞ、むすめごよ」
 と、誰かが言った。
 気づけばあたしの目の前に、子供のような影があった。顔は良く見えない。ただ、赤い赤い目と、ぎざぎざとした歯だけが印象に残った。
「なんだ、てめぇは――」
 突然現れた子供に、剣客が声をあげる。「ああ?」と、子供は面倒くさそうに声をあげ、
「我はなぁ……なんだったかな……そう、『勧誘員(そりしたぁ)』よ」
「そりし……なんだと?」
「そう名乗れと、『観測者(うぉっちゃぁ)』に言われておる。まぁ、良い。呼びたいのはお主等ではないわ。のう、むすめご」
 と、子供は笑う。
「悔しかろう、空しかろう。今一度立ち上がり、こ奴らを皆殺したかろう」
 しみこむように、聞こえる。声。それは、声だ。心の狭間に入り込み、手を引くような声。
 悪鬼の、こえ。
「だがお前は死ぬ。此処で死ぬ。無残に死ぬ。無力に死ぬ。無様に死ぬ。だが」
 子供は、三日月のように口の端をあげて、
「一つ、手はある」
 と言った。
「冥府魔道に堕ちる事。それが唯一、我が差し出せる道である」
 ――冥府魔道。すなわちそれは、人ではなく。
「修羅となる事をさす。むすめごよ、恐れるかい?」
 何を。
「人でなしになる事さあ」
 突きつけられるは現実。
 人のままで死ぬか。
 人でなしとなって立つか。
 ああ、恐れはしない。この身
 たとえこの身、悪鬼羅刹の類となり果てようとも。
 この今生のすべてを以て、この村を、民を守ろうと。
「ではむすめごよ。『声』を聴け」
 声、とは。
「声である。呼び声である――」
 ああ、聞こえる。さっきよりもはるかにはっきりと。しっかりと。しみいる様に――。
 悪鬼の、声が。
 それからくるうり、と。
 世界が回った。

●愛しき者よ、死に給う
「神使様。どうか、お美知を殺してやってください――」
 と。心太なる男は、神使――すなわち特異運命座標たちへと言った。
「殺してくれ、ってのは穏やかなじゃないが」
 神使が一人、新道 風牙(p3p005012)がそう言うのへ、心太は傷つき、疲労した体をおして言葉をつづけた。
「実は……お美知は、死にかけたんです。村にやってきた野盗を追い払うってんで飛び出して、返り討ちにあっちまった。腹きられて、このままだと死ぬって時に、子供が」
「子供?」
「赤い目をした子供が……お美知を、修羅に変えちまったんです」
「……詳しく教えてくれ。そのお美知ってこの近くにいると、なにか、ざわざわとする感覚を覚えないか? 他にも、近くにいる奴が、こう、人が変わっちまうとか」
 風牙の言うその特徴とは、原罪の呼び声による精神変容、および反転の影響を考えてのことだ。つまり、修羅に変えられた、とは、魔種に反転させられたのではないか、と風牙は思ったのだ。というのも、幾日か前に、魔種に堕ちた剣客と戦ったことがあり、今回の事件は、その件と何か近しいものを感じたのだ。
 つまり、子供、なるキーパーソンである。
「はい、おっしゃる通り……噂に聞く、魔種(でもにあ)ってのに、なっちまったんだと思います。お美知は確かに腕は立ちましたが、それでも剣豪や剣客には構いません。でも、子供に唆されて、起き上がったお美知は、まるで鬼みてぇになっちまって、野盗どもを皆殺しにして」
 笑ったんです、と心太は言った。
「綺麗な顔で……ずっとこの村を守るって。それからは地獄です。村に訪れたものを、守るって言って斬っちまって。村から出ようとしても、守るから出るなって、無理やり出ようとした奴の足とか斬って、動けなくしちまって。俺も、皆に助けてもらって、ようやく外まで逃げてこれたんです」
 頼んます、と心太は言った。
「あんなお美知は……あんなの、お美知じゃねぇんだ。ほんとは優しくて、強くて……でも、鬼になっちまったんだよ。どうか、どうか、お美知を、殺してやってください……」
「わかった」
 と、風牙は言う。
「行こう、アンタの村へ」
 そう言って、心太の手を取った。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 蘇りし修羅。お美知なる魔種を、討伐してください。

●成功条件
 お美知の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 とある村を守るために、死地から生還した槍姫、お美知。
 しかし彼女に救いの手を伸べたのは、赤い目をした子供の魔種でした。
 現在の呼び声により反転したお美知は修羅と化し、村を守るという迷妄のまま、訪れるものも、さるものも等しく斬り、村を支配しています。
 皆さんはこの村に向かい、お美知を撃破。完全にその息の根を止めてください。
 いかな事情があれど相手は魔種。相容れぬ存在であり、生かしておくわけにはいかないのですから。
 作戦決行被告は昼。周囲は村に通じる道で、特に戦闘ペナルティなどは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 魔種、お美知 ×1
  反転し、魔種と化した元鬼人種の女性です。槍術を嗜んでおり、並の男より強かったですが、流石に本物の剣客には勝てず。
  死の淵にて呼び声を受け入れ、魔種となりました。
  戦闘方法は、得意の槍術に、魔種としての膂力と魔力を込めた武術を用います。
  『EXA』は高く、1ターンに複数回の行動を行ってくるでしょう。また、『防御技術』、『特殊抵抗』に秀でている、いわば『守る戦い』をします。
  『背水』を持つ強力なスキルや、『攻勢BS回復』も有しています。戦闘が長引けば、背水の強力なスキルで狩られる可能性もあります。一気に仕留めるのがいいと思います。

●味方NPC
 心太
  お美知の幼馴染で、共に剣術を学んだ間柄です。
  同行しますが、戦力として期待するのはやめた方がいいでしょう。積極的に戦闘に参加することはありません。
  ただ、もしイレギュラーズ達がピンチに陥った場合、飛び出して加勢してくる可能性もあります。ある程度は行動に注意を払う必要があるかもしれません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 黄泉還る修羅:槍姫迷妄完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年09月30日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
すずな(p3p005307)
信ず刄
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
策士
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
未来への陽を浴びた花
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀

リプレイ

●道中
 村へと向かう道は、なだらかで穏やかなものだった。
 しかしそれと反するように、その道を行くイレギュラーズ達の心は、些かざわついていた。
 この距離からもわかる、魔の気配。
「呼び声によって守られたものもあり、失われた未来もある、か。
 居た堪れないねぇ」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は静かに呟いた。話によれば、お美知と言う女性は、村を襲った賊と、村を守るために戦い死にかけ、その結果反転し、村を守った……のだという。
 とはいえ、その守る、とは魔に堕ちたものの迷妄に過ぎない。実際には、自身の歪んだ思想の下、村を檻の中に隠したに過ぎない。
 が……村人たちが、賊から守られたことだけは事実だ。複雑な環境ではあったが、しかしお美知の存在を許すわけにはいかない。
「くだらねぇ賊のせいで大変だな」
 『馬には蹴られぬ』不動 狂歌(p3p008820)が応じるように呟いた。元はと言えば、この地獄を招いたのは賊。余計な事をしたものである。
「……反転したせいで、認識が歪んで……守りたかった村人を苦しめてるんじゃぁ、元の意識があったら辛いだろうな。
 止めてやるのが、そいつのためだが……後味の悪い依頼になりそうだぜ」
「大元は、子供の魔種、だな」
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が言った。
「前にも、そいつに反転させらた奴を見たことがある……そいつは大したゲス野郎だったけど、今回は……くそっ、妙なのが暗躍してやがる」
 まるで、愉快犯のように魔種を増やそうとしている『子供』。未だ影もつかめない。
「ええ、気配はまさに、いつぞやの修羅を思い起こさせます」
 『一人前』すずな(p3p005307)が言った。
「この魔の気配は……風牙さんのおっしゃる通り、以前の修羅のものと同じ。
 あとくされがないという意味では、前の方がマシでしたが……」
「すまねぇ、神使様がた」
 依頼人でもある、心太が言った。
「ほんとは、俺がぁ斬れれば良かったんだ。でも、お美知は俺より強かったのに、もっと、化け物みたいになっちまった……手も足も、出せねぇんだ」
 申し訳なさそうに、悔し気にそう言う心太へ、
「ううん、気にしないで? 魔種と戦うのは、お姉さんたちの使命みたいなものだから!」
 と、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が、落ち着かせるように言った。
「だから……気に病むことは無いよ。うん。
 それから、お姉さんと約束して。お美知さんは、確かにすごく強くなってる。
 私達も、苦戦するかもしれない。ただ、もし私達が負けそうになっても、心太君は絶対に、隠れたままでいてね?」
「お美知さんは賊共から村を守って死んだのよ」
 『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)が、言い聞かせるように言った。その言葉には、深い説得力のようなものが、確かにこもっていた。
「心太さん、冥府魔道に堕ちようとも村を守ろうとしたお美知さんの遺志と名誉を守りたいなら、貴方はどんなに辛くとも絶対に戦いの場に出てきたり、ましてや怪我を負うようなことがあってはならないわ、わかったわね?」
 小夜の言葉に、心太は頷く。解ってくれただろう。いまのお美知は、おそらく――邪魔をするならば、心太すら殺してしまう可能性がある。
「本当に……鬼に、なっちまったんだな」
 泣きそうな心太の気配を感じて、小夜はしかし、慰めの言葉を持たない。それは自分の役目ではないだろう、と思った。自分は剣客だから、剣に生き、剣に死に、魔として蘇ったものを斬る事こそが、言葉で百を語るよりも、雄弁に意を語るものであろうと思った。
「大丈夫だ」
 と、『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は言った。
「……どうか、気に病まないでくれ。恨むなら、自分ではない。どうしても辛くなったら、殺すことしかできない、僕を恨んでくれて、いい」
 気高く、シューヴェルトはそう言った。哀しみさえも、背負うという気高さ。貴族騎士としての高潔さ。
 心太は「ありがとうございます」と答えた。その目に、イレギュラーズ達を恨むような色は無い。恨むなら……そう、賊であり、魔種、なのだ。
「……魔種の気配が濃くなっています。もうすぐです」
 『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)の言葉通り、むせかえるような魔の気配が、感じられた。まるで、近づくな、と警告しているかのようだ。「来るな」
 ぴしゃり、と、声が響いた。女性の声。魔種の、声。
「ここはあたしが守る村だ。誰一人、立ち入らせない」
 決意の声。村を守るという、優しく、身勝手で、酷い声。
「お美知さんですね?」
 朝顔は、柔らかな笑顔を浮かべた。心太に、大丈夫だから、と伝えるように。
「あなたを……止めに来ました」
「村を、害するというのね」
 かみ合わない会話に、イレギュラーズ達が身構える。ずるり、と槍を構えた少女が、その姿を現した。反転はしていたが、その姿にさほどの変わりはない。優し気な女性だ。だが、確かな魔の気配は感じられた。
「お美知……」
 と、心太が声をあげたのへ、お美知は驚いたように目を丸めて、それから嬉しそうに笑った。
「心太……! どこへ行ってたの!?」
 駆け寄ろうとするお美知を、
「悪いが、そこまでだ」
 風牙が止めるように、立ちはだかる。
「あんた達、心太に何をしたの!?」
 にらみつける、目。心底に、こちらに敵意を向ける目。それは、心太を心配し、大切に思っているからこそできる、悲しい瞳。
「何かしようとしているのは、オメェさんの方だろう?」
 ゴリョウが、言った。その身を、鎧が包み込む。
「その槍で、何をするつもりだったんだ。なんで槍を構えた。まるで……斬っちまおう、って具合だ」
「……もう二度と村から出られないように、脚を斬るだけよ」
 当然のように、お美知は言った。
「だってそうでしょう!? じゃなければ、あたしが守れないじゃない!」
「心太さん、隠れてください」
 すずなが、言った。
「お美知殿は、とてもお強いです。
 私だってそれなりに腕に自信はありますし、修羅場も潜ってきています。
 それでも――容易いと言えない程、今のお美知殿は強くなっているのです。
 故に、どうしても劣勢になるのは避けられないでしょうし、誰かが深手を負う事だってあるでしょう。
 ですが、決して負けはしませんので、安心して見ていてください。
 約束ですよ?」
 それは、これから戦いが始まる、と言う言葉だった。巻き込まれぬように隠れて居ろ、と言う言葉だった。心太は頷いて。ゆっくりと後ずさる。
「心太! 行かないで!」
 追いすがろうとするお美知を、小夜の刃がけん制するように閃いた。
「剣を取る者は皆、剣で滅びる」
 小夜が言った。彼女が槍を取った時から、彼女が武の道を行くと決めた時から、その果てに斃れるは解り切っていたこと。
「貴女が守りたかった場所に貴女はもう戻れない、堕ちてしまった貴女が戻ることは許されない、だから貴女を斬るわ」
 その言葉に、魔の気配が一層濃くなる。明確に、お美知が此方を敵と認識した合図。
「邪魔しないで……心太には指一本触れさせない!」
 槍を構える。その構えは、小夜やすずなにはまだまだ拙く見えたが、しかし纏う剣気は達人以上のモノ。
「魔技の槍使か……」
 その気配に、シューヴェルトもまた、息をのむ。何度か戦ってきた魔種と言う存在。やはり、その力は底知れない。
「はじめましょう!」
 アリアの言葉に、仲間達は頷いた。一同は武器を構えると、一斉に駆け出した。

●迷妄の槍姫
「かかってこい……この村に害為すなら……!」
 ざぁ、と風が駆ける。噴き上がる、魔の気配。一呼吸で放たれた強化術式が、ただでさえ人外の境地に達していた魔の肉体を、さらに堅固なものへと変える。
「守りに特化した、か……!」
 ゴリョウは声をあげ、一気に駆けだす。走る、黒の鎧。
「村を――!?」
 お美知が、声をあげた。ゴリョウが、村に向かう――と、錯覚させたのだ。
(オメェさんの妄執、悪いが利用させてもらう!)
 ゴリョウの目の前に、お美知が立ちはだかった。振るわれる槍の一撃を、ゴリョウは天狼盾『天蓋』をかざして受け止める! 上段から放たれた槍の一撃は、勢いと間の膂力を乗せてゴリョウを叩く!
「ち、ぃ! 流石魔種だな、全力でなくてもこうか!」
 体を走る衝撃に歯噛みしながら、しかしゴリョウは大胆不敵に笑ってみせた。
「こいよ、槍姫! オメェさんが迷妄に囚われているなら、その全てを! この腹で受け止めてやるぜ!」
「邪魔をするなぁぁっ!」
 お美知が叫び、再度槍を振り下ろす! 何の変哲もない槍は、この時魔種の魔を受けて邪悪な業物へと変貌する。振るわれる、魔器。ゴリョウはそれを再度天蓋で受け止めながら力強く振るい、槍を弾き飛ばした。敵の体勢を崩して見せる――。
「すずな! 小夜!」
「承知」
 ゴリョウの声に、二人の剣客が魔へと飛び掛かる! 左右より振るわれる、絶技――神速の刃。この態勢なら、よけられるはずもあるまい!
 が、お美知はすでに人外の領域へと達している。魔の膂力で無理やり槍を手元に引き戻すと、刹那、強く回転させた。暴風の如き槍の嵐が、二人の剣客の刃を受け止め、圧し返して見せる!
「……! 業としては確かに拙い。ですが、それを魔種の膂力で補っていますね……!」
 すずなは呟きつつ、着地、そのまま距離を詰めるべく、前進! 槍のリーチの長さは、剣術家にとってはやりにくい。ならば、その間合いのうち、リーチの長さを殺す! 二人の剣客はそのセオリーに乗っ取り、距離を詰める。が、相手も魔の怪物! 素早く反応するや距離を取り、槍を振るって衝撃波を撃ち放つ! 飛ぶ斬撃が小夜とすずなを狙う! 二人はとっさに身を翻して、その斬撃を回避!
「この反応……まさに魔技ですか! 愚直な分、行動は読みやすいですが……!」
「ええ、けれど、ただでは当てさせてはくれなささそうね?」
 すずなの言葉に、小夜が続けるのへ、
「なら、足を止めるよ!」
 アリアが叫び、手に宝珠を掲げた。途端、魔力の旋律があたりを包む。悪い神々、の名を冠する魔曲が響くや、お美知の身体にまとわりつく!
「この歌……なに!?」
 間髪入れずアリアは、宝珠に手を掲げ、さらなる魔曲を奏でだす。先ほどとは打って変わって、テンポの良いダンス・ミュージックが、お美知の脳裏を叩いた!
「さあて、どうかな? 痺れるかな? 惑うかな?」
「くっ……!」
 魔のヴェールを貫いて、アリアの魔曲がお美知の自由を奪った。
「この村を護りし者、そして今は仇為す者よ! 村の者達の願いを受け、お前を討つ!
 『人の世に仇為す『魔』を討ち、平穏な世を拓く』――。
 新道風牙、務めを果たす!」
 お美知の隙をつき、風牙がその槍を振るう。お美知は痺れる体をおしながら、風牙の槍を迎え撃った! 二つの槍が、衝突する! 激しいつばぜり合いを演じながら、風牙は叫んだ!
「お前の気持ちはわかる! でも、もう終わりにしよう!」
「何言ってるさ! あたしは、これからも、この村を守るんだ!」
 鋭く振るわれる槍が、風牙を圧し返し、身を蝕む痺れを打ち払う。タフな相手だ、とイレギュラーズ達は理解する。
「少しでもダメージを蓄積させよう!」
 シューヴェルトが接近、放つ毒手が、お美知の腕をないだ。内部に浸潤する毒が、お美知の体力を奪う――が、お美知はすぐにそれを打ち払った。
「たとえ、何度打ち払われようとも……!」
 シューベルトが再撃。再びの毒手が、お美知に毒を喰らわせる。お美知が苦痛に呻いた。
「なんなんだ……なんであんたらは、邪魔しに来たんだ!」
 悲鳴にも近い叫びに、答えたのは朝顔だ。
「ねぇ、お美知さん。
 貴女にとって守るとは何ですか?」
「なに……?」
 お美知が呻くのへ、朝顔は笑顔を向けて、言葉を続ける。
「私にも守りたい、懸想している人が居ます。
 彼を誰も触れられぬようにして、
 彼以外は敵だと全て倒す。
 それが守る事なら、
 どんなに幸せで楽だろう」
 朝顔は、少しだけ悲しそうに笑う。お美知が、僅かに息をのんだ。
「対象の命のみ大事なら、
 今の貴女の守り方も間違いじゃない。
 でも……それじゃ『守りたい人は笑顔に、幸せにならない』。
 もう一度、聞きます。貴女は、何が守りたかったのですか?
 命だけ守って……鳥かごに閉じ込めていれば、満足なんですか?
 守りたかったのは、笑顔なんじゃないんですか!」
 虚を突かれた様に、お美知は目を見開いた。刹那、朝顔は走る! 輝く神刀、それがイレギュラーズ達の攻撃により隙を作られたお美知の身体を、鋭く切り裂いた。赤い血が、涙のように流れる。
「あたしは、あたしは! 村を、心太を……!」
「分かってる! でも、アンタはもう、ダメになっちまったんだよ!」
 狂歌が叫び、大太刀を振るう。斬撃が、お美知を裂いた。途端、魔の気配がお美知に背水の力を得たことを見せつけるかのように膨れ上がる!
「あたしはぁ!」
 叫ぶ、お美知。振り払われた強烈な槍の一撃が、狂歌に叩きつけられた! 躱せない! 強打を喰らった狂歌が吹き飛ぶ!
「神使様!」
 心太が叫んだ。
「来るな!」
 狂歌が叫ぶ。
「アンタは来るな! 見届けろ――!」
 心太が頷くのを見て、狂歌が意識を失う――シューヴェルトは吹き飛ばされる狂歌を受け止めた。
「ゴリョウ! この一撃は……!」
 シューヴェルトが叫ぶのへ、ゴリョウは頷いた。
「ああ、『これ』だ! 皆、覚悟決めろォッ!」
 ゴリョウが、お美知の前に立ちはだかる。ゆらり、と立ち昇る魔気。同時、猛烈な斬撃が、ゴリョウの身体を打ち貫いた。鎧越しにすら感じる、強烈な一撃! ゴリョウの意識が飛びそうになるのを、可能性を昇華して引き戻す!
「ぶははっ……強烈だが、まだ俺は墜とせないぜ!」
 ゴリョウが笑う――同時、アリアの歌が響く!
「そんな物騒なモノ使われ続けたら困っちゃうからね、ごめんね!」
 歌声は簡易封印となって、お美知の腕に封呪の文様を打ち込んだ!
「長くはもたないよ! みんな、決めて!」
「はい……!」
 朝顔が駆ける! 去来する、想い。守りたい人が、愛する人が、”何時までも幸せに、笑って生きて欲しい。だから、私は守りたい”。それが守りたい者に対して、守る者が持つべき想いだ。お美知はそれを、知っていたはずだ。魔の声が、それを塗りつぶしてしまった。だったら。だからこそ、本当のお美知の願いのために。
「絶対に負けられない。貴女の防御も、迷妄も全て貫きます!」
 上段から振るわれる斬撃が、お美知の腕を切り裂いた。迸る、鮮血。封印が、全力の反撃をさせなかった。喘ぐように振るわれる槍を、朝顔は後方に跳躍して回避――入れ替わる様に飛び込んできたシューヴェルトの蹴撃が、お美知の腹へとめり込む!
「すまない……が、君を止めるにはこれしかない!」
 鋭い格闘攻撃が、お美知の体力を奪う。お美知はどうにか後方へ跳躍して距離を取るが、そこには風牙の姿があった。
「あんたの「村を護りたい」という気持ち。
 そのために腕を磨き続けてきたことも、その想いも、ちゃんと伝わってるよ。村人たちにも、心太にも。
 そして、結果として村も心太も生き残った。
 だから、もう十分だ。
 それ以上は、かえって村を苦しめる。だから。
 ここで、おしまいにしよう」
 優しく告げるその言葉に、お美知は泣いた。
「厭だ」
 と。
「あたしは」
 お美知が、駆ける。槍を振るい、がむしゃらの一撃が、風牙を襲う。それを回避し、反撃の槍が、お美知の槍を打ち払う。同時、すずなと小夜は駆けた。
「――此処です! 小夜さん、往きましょう!」
「ええ――ここからが正念場、盲御前の手管、とくと御覧に入れましょう」
 二人の刃は流麗――流れるように、お美知の懐にもぐりこむ。すずなと、お美知の視線が交差する。お美知が、打ち払われた槍を、もう一度手元に戻そうと力を込めた。が、こんどはすずなのそれの方が速い。すずなが刃を振るう――横なぎに、お美知の胸が切り裂かれた。ごふ、と、お美知が血を吐く。が、生命力が躍動し、今一たびの生を、お美知に与えた。力を込めて、すずなを迎撃せんと、槍が振り下ろされる――。
「――小夜さん」
 すずなが、そう言った。刹那、すずなが飛びずさる。入れ替わる様に現れた小夜が、お美知の両の腕を、その刃を持って切り裂いた。
「武に生きるものは武にて散る。これが手向けよ」
 流れるように払われた小夜の刃が、お美知の腹をないだ。再び血を吐いて、お美知が倒れる。
「槍姫、斬らせてもらったわ」
 小夜が、呟いた。
「お美知――」
 心太が叫び、飛び出した。誰も、それを止めることはなかった。戦いは、終わったのだという事を、誰もが理解していた。
 跪いて、心太がお美知に呼びかける。お美知が、何事かをつぶやいていた。「ああ、ああ」心太が頷く。
「こんどは、俺が守るからな。お前が守りたかったもの、ちゃんと守るから」
 心太がそう言ったのを聞いて、お美知はうっすらと笑った。そのまま静かにこと切れると、魔の気配は霧散する。
「終わった、か」
 風牙がそう呟くのへ、仲間達は頷いた。
 悲しいほどに青い空が、魔に翻弄された二人の男女を見つめていた。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

不動 狂歌(p3p008820)[重傷]
斬竜刀

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この後、イレギュラーズ達の提案により、お美知は村を見下ろせる丘の上に葬られました。
 今は静かに、この村を見守っています。

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