PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>人斬りは鮮血と殺戮を嗜む

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●同類、相見える
「キェェェェェイッ!!」
「チェェェェストォゥ!!」
 深夜のスラムに、奇怪な叫びが響き渡る。その度に、スラムの住民達が一人、また一人と地に倒れ伏し、自らの血に染まりながら事切れていった。
「ハハハハハハ! おはんら、ここん住民ば次々と斬っていくがよか!
 のこんこっ領主が出てくればそいでよかし、そいでなくっばここを血ん海にしてから、探し出して斬っまでばい」
 殺戮の中心で高らかに笑うのは、威風堂々たる巨漢、『殺魔示厳流(さつまじげんりゅう)』ジーク西郷。その言葉を受けて、周囲にいるジーク西郷の門弟達はさらに次々と住民達を斬り伏せようとする。門弟達の顔は、どれもこれからの殺戮で得られる悦楽を期待して歪んでいた。
「そんな必要はありませんよぉ? ここで血の海に沈むのは、貴方達なんですからぁ。
 それにしても、人の領地で随分と好き勝手にやってくれましたねぇ? ジーク西郷さん?」
 だが、門弟達の動きは間延びした、それでいて妖艶さを感じさせる声によって止まる。ジーク西郷達の狙いである鏡(p3p008705)が現れたからだ。
「出てきもしたか……おはんは、斬られたらどげん声で鳴いてくるっとじゃろか。
 想像すっだけで、オイは昂ぶってたまらん」
 鏡の肢体(からだ)をジロジロと舐めるように見つめながら、ジーク西郷は下卑た笑みを浮かべ、ペロリと舌舐めずりをする。まるで、これから女を犯しでもするかのように。
「あらぁ、噂には聞いていましたけど、やっぱり私と同類なんですね。
 そんな貴方を斬ったら、私はどれだけ気持ちよくなれるんでしょう?」
 その様子に、鏡はジーク西郷が自身と同じく、単に人を斬ることに悦びを感じるだけでなく、性的な快楽さえ覚えるタイプの人斬りであることを看取した。だが一方で、そんな同類を斬った際に得られる快楽がどんなものなのか、期待が鏡の胸を躍らせ、顔に笑みを浮かばせる。
 二人の会話は、それで終わった。これ以上は言葉は不要、後は斬り結ぶまでと、ほぼ同時に鏡とジーク西郷は動いた。

●刺客が送られた舞台裏
 時は、しばし遡る。
「イレギュラーズめ……! 今こそ、報復してくれる……っ!」
 腐敗した幻想貴族であるロシーニ・クブッケ領主は、幾度か自らの目論見を台無しにされたことで、イレギュラーズ達を酷く恨んでいた。
 初夜権を嫌ったある新婚夫婦が隣領バシータへと脱出した際、バシータ領主を軍事力で恫喝してその新婚夫婦を返還させたものの、連れ帰る途中で鏡を含むイレギュラーズの襲撃によってその身柄を奪われてしまっている。
 バシータ領主は表向きは新婚夫婦を返還しており、しかもイレギュラーズを動かした明確な証拠もないため、追求してものらりくらりとかわされるだけだった。
 自身の欲を満たせなかった憤懣と怨恨は、黒幕であろうバシータ領主はもちろんのこと、実行を担ったイレギュラーズ達に対しても募る一方である。さらに、後にそれを長じさせる事件も発生していた。
 だが、イレギュラーズの領地が魔物に襲撃されると言う事件が頻発するに及び、ロシーニ・クブッケ領主はこれを報復の好機と見る。ローレットやイレギュラーズは、自領に出現した魔物の対処に手一杯のはずだ。ならば、この機に邪魔してくれたイレギュラーズの元に刺客を送り、屠ってやろう――。
 その判断の下、ジーク西郷が鏡の領地へと送られたのだ。
「標的を誰一人逃したことがないと言うその腕前、期待しておるぞ」
「言わるっまでもなか。そうそう、お目にかかれん標的ばい。しかと、斬ってみせもんそ」
 ロシーニ・クブッケ領主の言葉に、ジーク西郷は下卑た笑みを浮かべながら応えるのだった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回も<ヴァーリの裁決>のうちの一本をお送りします。鏡さんに送られた刺客『殺魔示厳流』ジーク西郷を討伐して、鏡さんの領地と領民を守って下さい。

●成功条件
 『殺魔示厳流』ジーク西郷の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 鏡さんの領地のスラムです。時間は深夜、天候は晴れ。
 地形自体は平坦ですが、建物があるためそれが遮蔽や障害となる可能性はあります。
 暗視やそれに類するスキル・アイテムを有していない場合、命中・回避に若干の不利な修正を受けます。

●初期配置
 ジーク西郷を中心として、門弟達が周囲に散らばっています。その距離は20メートル。
 イレギュラーズの配置は自由ですが、最も近い門弟まで最低20メートル、つまりジーク西郷までは最低40メートルとなります。

●『殺魔示厳流』ジーク西郷
 ロシーニ・クブッケ領主に雇われた、鏡さんへの刺客です。実は魔種であり、属性は強欲。
 殺魔示厳流と言う一撃必殺が特徴の剣術の使い手で、人を斬ることに悦びだけでなく性的な快楽さえ感じる殺人者です。
 豊穣の高天京を拠点としていましたが、天香・長胤が討たれた後に豊穣を脱出して大陸に渡りました。その後、趣味と実益を兼ねてジーク西郷のコードネームで幾多もの人斬りの依頼を受けており、今までその剛剣から逃れられた標的は存在しないと言われています。
 攻撃力と生命力が極めて高く、反応も鏡さんと勝負が可能なレベルで高くなっています。一方で防御技術と回避は皆無なのですが、高い生命力で強引に耐えつつ再生能力で回復してきます。
 鏡さんに獲物として強い興味を示しているため、鏡さん以外からの【怒り】は効きにくくなっています。

・攻撃手段など
 壱の太刀 物至単 【必殺】【防無】【災厄】【致命】【出血】【流血】【失血】
  殺魔示厳流の特徴と言える必殺の初太刀です。圧倒的な速度で、全力で太刀を打ち込みます。APの大部分を消費します。
  さすがに最初の一撃でしか使えないと言うことはなく、必要APが貯まり次第再使用が可能となります。
 太刀 物至単 【邪道】【出血】【流血】
 鎌鼬 物遠単 【邪道】【出血】
 猿叫 神至域 【識別】【変幻】【攻勢BS回復】
 【怒り】耐性(高:鏡さん除く)
 覇道の精神
 充填
 再生
 
●殺魔示厳流門弟 ✕10
 ジーク西郷の門弟です。師匠と同じく、血に飢えた人斬り達です。師匠と違って性的な快楽までは覚えたりしませんが。
 攻撃力と生命力が高いのは師匠譲りです。一方、師匠のような高生命力や再生能力をもっていたりはしないので、防御技術や回避もそれなりにあります。また、さすがに鏡さんよりは大幅に劣りますが、反応も高くなっています。
 基本的に、鏡さんと師匠であるジーク西郷との戦いを邪魔させないように動きます。

・攻撃手段など
 壱の太刀 物至単 【必殺】【弱点】【鬼道】【致命】【出血】【流血】
 太刀 物至単 【邪道】【出血】
 鎌鼬 物遠単 【邪道】
 猿叫 神至範 【識別】【変幻】【攻勢BS回復】
 充填

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>人斬りは鮮血と殺戮を嗜むLv:15以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時11分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
鏡(p3p008705)

リプレイ

●虐殺を前にして
(強者自体は嫌いじゃないし、戦うことは実際大好きよ。でも――)
 奇怪な叫びを放ちながらスラムの住民を虐殺していく『殺魔示厳流』ジーク西郷とその門弟達の姿に、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は憤りを抑えられなかった。
「戦う意思がない者を殺すなんて、許せないわね! ヴァイスドラッヘ! 罪無き住民達を殺める者を討つため、只今参上!」
 レイリーは愛馬『ムーンリットナイト』の上で、愛用の馬上槍『ヴァイスドラッヘンホーン』を門弟の一人に向けて構えながら吼えた。
(なんだかんだで依頼などで数多くを斬った俺ではあるが。まぁ、人を斬る瞬間に快楽を感じると言ったか……笑えない趣味だな)
 西郷や門弟達の嗜好に、『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)は呆れ果てるしかなかった。そもそも、命を軽視する者を嫌うクロバにとって、西郷達の嗜好はとても理解も受容も出来るものではない。
「多くは語らなくていい、語る必要もない。さっさと門弟共々地獄へと斬り落してやるよ……冬月流、クロバ・フユツキ、参る」
 西郷らを鋭く睨み付けながら、クロバはガンブレイド『アストライア=ディザイア』のグリップを握りしめつつ、それだけを告げる。
 レイリーが高らかに、クロバが静かに名乗ると、西郷も門弟達もイレギュラーズの方へと目を向けた。その間に、今にも殺されそうになっていたスラムの住人達は脱兎の如く逃げ去っていく。
「武芸者ってヤツかと思ったら、オオゼイ引き連れてアバレようなんて、真っ当なテアイじゃなさそうだね。
 これならこっちもエンリョ無しで乱戦に持ち込んで、ボコボコにしてやれるってもんだね!」
 猛獣のような獰猛な笑みを浮かべながら、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は掌に拳をパン、と叩き付ける。その全身には、これからの戦いに期待するが如く、闘気が漲っていた。
「ほんっと人斬りってやつは面倒な性格してるよなぁ。どっかの梅泉然り。
 ただ、ま。可愛い女の子が斬られるところを黙って見てるってのも、夢見が悪いんでね……それなりの邪魔はさせて貰うさ」
 『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)にかかれば、本質的には西郷と同類の人斬りである鏡(p3p008705)も「可愛い女の子」であるようだ。ともかく、ミーナは『希望の剣 【束】』の柄に手をかけ、鞘から抜き放つ。
 イグナートの闘気とミーナの抜刀に、門弟達も戦意を刺激されたか、刀の柄をグッと握り直していく。
(人斬りかー。じゃあ魔物なボクは歯牙にもかけられなさそうだね。食べるわけでもなく殺戮に耽る人間は、いつみても不思議だ)
 いわゆるスライムが人の少女の姿を取ったかのような『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)は、虐殺の有様に心を痛めるでも憤るでもなく、食らうでも無しに同類を殺める人間の有様を、これまでと同様にただ不思議に感じていた。
 もっとも、そうしてばかりもいられない。仕事として、西郷達を倒さねばならないのだ。
(俺も多くの人を殺してきましたが……そこにあるのは、人の命を奪った重みだけなのです。
 ……人を斬る事に喜びを感じる感覚など、絶対にわかりたくもない!)
 『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)は一言も発さずに静かにその場に佇んでいるが、その心中では西郷達への嫌悪と憤懣が激しく渦巻いている。これ以上の蛮行を許さないという意志を示すかのように、ラクリマは『氷晶のタクト』をギュッときつく握りしめた。
「あらあら、斬ることがお好きでしたら藁束を斬って喜んでいてくれればいいですのにー。
 誰にも迷惑がかからず、誰にも邪魔されない、貴方だけの時間ですわー」
「きさん……ないをゆぅか!?」
 『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)が煽るように放った一言に、西郷も門弟達も気色ばんだ。人斬りを業とし楽しんでいる西郷らにとって、藁束を斬って喜んでいろなど、侮辱以外の何物でも無かった。あからさまな敵意が、ユゥリアリアに向けられていく。
(最初から果たし状でも叩きつければ良かった気もしますが、それはそれ!
 こういう汚い手に出てくれた方が、拙者としてはやりやすい事この上なし!)
 この場の領主である鏡を誘き出すためなら、こんな虐殺をしなくてもよかったはずだと『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)は考える。もっとも、相手が士道を忘れて非道に手を染めるのであれば、忍者たるルル家としても相応の手段に出られると言うものだ。
 大太刀『啾鬼四郎片喰』を鞘から抜き放ったルル家は、構えを取りつつニッと不気味な笑みを浮かべた。
(……やれやれ、未だに豊穣決戦の影響が後引いてるみたいだな。ま、その処理だって俺たちの仕事だろうし、強敵相手なら尚更腕が鳴る)
 まさか豊穣での決戦を受けて、こんな人斬りが大陸まで流出してくるとはと、『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は苦笑いを浮かべた。一方で、強敵を相手にアルヴァの心は昂ぶっている。
「さーて、その一撃必殺の太刀筋とやら、破らせてもらうぜ?」
「ようゆぅた……オイん壱ん太刀ば、破るっもんか!」
 自信ありげなアルヴァの言葉と笑みに、西郷も自信満々に返す。アルヴァは自身の策に、西郷は必殺の太刀に、それぞれ絶対の自信を持っていた。
(……それなりに恨みも買ってる自覚はありますけどぉ、こんなあからさまに刺客を送り込まれるとは、ねぇ)
 アルヴァと西郷のやりとりの間に、鏡はぼんやりとそんなことを考えていた。だが。
「……皆が居れば、怖いものなしです。えぇ、本当に……なので、周りの人達はお任せしますね。
 折角の御指名、私はイチャイチャさせてもらいます」
 うっとりとした笑みを浮かべながら、鏡は他のイレギュラーズ達に告げた。

●封じられた壱の太刀
「ねぇ西郷くん、私と楽しみに来てくれたんですよねぇ?
 ほら、私も盛り上がっちゃってるんですからぁ……よそ見なんてしちゃ、嫌ですよぉ?」
「いかにもそんとおり……よそ見なんかせん。おはんを斬っことを楽しみにしてきたんじゃで」
 間延びしていても妖艶さを感じさせる声で、鏡が西郷を誘う。あたかも、花が虫を誘うが如く。鏡の誘いに当てられた西郷はゴクリと唾を飲み込んで、今から女を抱くかのようなだらしない笑みを浮かべた。
 そして、言葉は十分に交わしたとばかりに鏡と西郷は動き出す。
「さぁさぁ道をお開き遊ばせ! 想い人の入場でございますよ!」
 ルル家が門弟達に告げると同時に、鏡は西郷の前にいる門弟の横をすり抜けて、西郷へと迫っていた。
「チェェェェェストオゥゥゥゥゥ!」
 必殺の太刀を繰り出す西郷の叫びが響き、そして鏡が刀を鞘に収めるチン、と言う音が鳴った。
 交錯した二人、いや、三人を、イレギュラーズ達も門弟達も固唾を飲んで見守っている。
「……卑怯な! オイが、どげん楽しみんしちょったと……!」
「……一騎打ちに水を差す真似をして悪ぃな。仲間を守るのが俺の仕事なんだ」
 己が首筋を深く斬られ、鮮血を噴き出しているのもお構いなしで、西郷は怒り心頭で悔しがる。期待していた手応え、快楽が全く得られなかったからだ。西郷の必殺の初太刀は、物理的な力を全て遮断する結界を展開したアルヴァが盾となって受け止めていたのだ。
「あらあら、カッコイイ騎士に守ってもらっちゃいました。でも安心してください、ここからは私とアナタの時間ですよぉ」
「……うぬっ!」
 熱い吐息混じりの鏡の言葉に、西郷はギリ、と歯ぎしりをする。確かに鏡は、この後も西郷の相手はするのだろう。しかし、西郷からすれば初太刀で鏡を斬る至高の瞬間は、もう取り返しようがないのだ。憤怒と悔恨が、西郷を支配する。
「師匠ん楽しみに、水ば差すとは……! チェェェストォゥゥゥ!」
 門弟達は師の壱の太刀を結界で受け止めたアルヴァに憤りつつも、他のイレギュラーズ達に師匠の邪魔をさせないと言う仕事をするために動いた。半数がユゥリアリアに集り、全身全霊の初太刀を浴びせていく。五度も斬られたユゥリアリアの傷は深く、可能性の力を費やすことで辛うじて倒れることなく耐えきった。
 門弟達の残り半数は、鏡とアルヴァ以外のイレギュラーズ達を半包囲するように取り囲んでいる。
「それ以上は……させん!」
 たちまち窮地に陥ったユゥリアリアを援護するべく、クロバはユゥリアリアを斬った門弟の一人に斬りかかった。縦横無尽に振るわれた『アストライア=ディザイア』は、幾重もの傷を門弟の身体に刻み込んでいく。斬撃を受け続けて血を流しすぎた門弟は、自らの血の海に沈んだ。
「よくも、やってくれましたわねー。次は、こちらの番ですわー。
 固まって下さるとは、こちらも働きがいがございますわねー」
 ユゥリアリアは、背中から光の翼を生やしてバサリ、バサリと羽ばたかせた。舞い散る羽は光の刃となって周囲の門弟達を幾度も斬り刻み、その都度傷を負わせていく。羽が消えた時には、門弟達はいずれも満身創痍となっていた。
「……私はヴァイスドラッヘ! 私を倒せぬ臆病者ばかりかぁ!
 お前達の相手は私だ! それともこれだけいて、私すら殺せないかぁ!」
 このままではユゥリアリアが危ない。焦燥を感じながら、レイリーは門弟達の敵意を集めるべく高らかに叫ぶ。門弟達は、ユゥリアリアへの敵意を何処かに忘れてしまったかのように、レイリーを鋭い視線で睨め付けた。門弟達の敵意を自身に集められたことに、レイリーは内心で胸を撫で下ろす。
「これ以上ユゥリアリアを斬らせるわけにはいかないんでね……仕留める!」
 レイリーによる挑発が成功したとは言え、ユゥリアリアの側にいる門弟は排除しておきたい。自身の身体に魔力を滾らせたミーナは、ユゥリアリアの側にいる門弟をさらに倒すべく、熱光線を放つ。光線によって胸を深く穿たれた門弟は、口から血を吐いてその場に崩れ落ちた。
「拙者の宇宙力(うちゅうちから)による多重銀河分身、しかと見せてあげます!」
 ルル家はユゥリアリアに斬りかかった門弟の一人を、じっと見定める。その死角を見出すと数体の分身を出現させ、それぞれ別々の方向から攻撃させた。幾度も太刀に斬られ、あるいは貫かれた門弟は、その攻勢に耐え切れず力尽きた。
(サイゴウとやり合ってるカガミ、楽しそうでイイなぁ!)
 ちらりと三人の方を見やったイグナートは、ユゥリアリアの側に駆け寄った。
「まとめて片付けさせてもらうね!」
 そして、ユゥリアリアに斬りかかった門弟達に、無数の蹴りを浴びせていく。幾度も襲い来る蹴撃に、門弟達は耐えきれずに次々と倒れていった。
「ユゥリアリアさん! すぐに、回復しますからね……!」
「ボクも、この水で癒やすよ!」
「ありがとうございますわー」
 ラクリマとロロンは、それぞれ白い花びらのように舞い散る幻の雪と調和の力から精製した癒やしの水で、深手を負ったユゥリアリアの傷を癒やしていく。二人がかりの回復に、完全回復とまではいかなかったものの、ユゥリアリアの身体に刻まれた傷は浅いと言うにはやや重いところまでは塞がった。
 苦痛が大きく和らぎ、身体に活力が戻りつつある感覚に、ユゥリアリアは礼を述べた。

 まだ初太刀を放っていない門弟がレイリーを狙っている状況を、アルヴァは危険と判断し、レイリーの盾となった。そのため、レイリーは残る門弟達からの初太刀は受けずに済んだ。
 アルヴァが守りから離れたことによって鏡は西郷から深手を負わせられるも、鏡も全力で西郷の首を狙い不可視の居合抜きを放つ。だが、今度は首を守りに入った西郷の太刀に受け止められた。それでも鏡の太刀は完全には止められず、西郷は首の半ばまでを斬られてしまう。常人なら首を刎ね飛ばされてもおかしくない一閃だったが、太刀で受けたとは言え斬られるのを首の半ばまでで留め、なお生き存えているのは西郷が魔種である故だろう。
 残る門弟はユゥリアリアの光の翼、クロバのガンブレードによる猛攻、レイリーの馬上槍、ミーナの熱光線、ルル家の分身による多方向からの同時攻撃、イグナートの蹴撃によって全て倒れた
 その間にラクリマとロロンは幻の雪と癒やしの水で再度ユゥリアリアの治療を試み、ほぼ全回復と言えるところまで癒やしていった。

●ジーク西郷、斃る
 鏡の息が荒い。納刀からの不可視の一閃を放つには、莫大な気力を消耗するのだ。故にそれを放てるのは精々二度までであり、三度目を放つ余力は鏡には無い。それでも、呼吸を整えることこそ出来なかったものの、鏡は最後の気力を振り絞って西郷の首を狙い、横薙ぎの一閃を放った。
 鏡が首を狙ってくると見た西郷は太刀でその一閃を受け止めるが、それでも止めきれずに、再生して塞がった分を台無しにされてしまう。
「オイに二度も刀で受けさせっとは、流石でごわすな。じゃっどん、もう気力も残っちょらんじゃろう」
 西郷の言葉が正しいと言わんばかりに、鏡がガクリと地面に膝を突いた。西郷はその鏡の喉を突かんとするが――。
「手下は全滅したぜ。人斬りだか何だか知らねぇけど、俺が斬れると思うなよ?」
「ぬうっ! またきさんかあっ!」
 鏡の側に駆けつけたアルヴァが盾となり、西郷の刃を受け止めた。鏡は、不敵な妖しい笑みを西郷に向ける。
「……ごめん、なさい。私、『武士道』とか興味ないのでぇ」
「命を命と思わない……いや、自分たちの快楽の餌とするような奴に、見せる慈悲も情けもない」
「ぬおっ、きさん……! きさんとて、オイの弟子達ば殺したじゃらせんか!」
 西郷がアルヴァと鏡に気を取られた隙に、銀髪紅眼の姿となったクロバが、黒煙を纏わせた『アストライア=ディザイア』と『鬼哭・紅葉』の二刀でその背を幾度も斬りつけた。
「同じ人殺しだろって? まぁそこだけは否定しないけどね。――だが、俺とお前らとは決定的に違うものがある。
 あんたらは自分たちの愉しみの為、俺は――この剣が届く範囲のものを奪わせない為、強さを求めた。
 だから言ってやる、『お前らと一緒にすんなよ』ってなぁ!!!」
 西郷達と一緒にされるのは心外だとばかりに、クロバは吼え、さらに二刀を西郷に浴びせていく。幾多もの傷と火傷が、西郷の再生能力さえも追いつかせない勢いで、西郷の命を蝕んでいく。
「勇者、だなんて柄じゃあねぇがね。やるからには、やるさ! 行け、レイリー!」
「任せて、ミーナ! ヴァイスドラッヘが、お前を討つ!」
「ぬうっ……小賢しか!」
 レイリーは『ヴァイスドラッヘンホーン』を構え、『ムーンリットナイト』を西郷に向けて駆る。愛しあう相手の突撃を援護するべく、ミーナは熱光線を西郷へと放った。熱光線は西郷の胸板を深く穿ち、ジュウ、とその肉を焦がしていく。愛しあうミーナの援護を受けたレイリーは奮い立ち、西郷の肩口に『ヴァイスドラッヘンホーン』を突き立てた。『ヴァイスドラッヘンホーン』の穂先が、西郷の身体を貫きその背から現れる。
「尋常に勝負を申し込んでこない相手に、尋常の勝負をして差し上げる義理はありませんよ!」
「ないや、これは……!」
 そこに、ルル家が畳みかける。ルル家は自らの異能を用いて、無数の可能性から西郷を斬った斬撃のみを手繰り寄せ、具現化する。理外にして不可避の幾多もの斬撃が、西郷を襲った。
「逃がす気はございませんわー……ここで、倒れてくださいませー」
「おんれぇ……オイは、死なん!」
 ユゥリアリアは自身の血を用いて氷の槍を精製し、西郷へと投げた。迫る氷槍を西郷は避けられず、腹部に受けてしまう。西郷の腹部に突き立った蒼白の氷槍は、血で赤黒く染まった西郷自身と奇妙なコントラストを生み出していた。
「オレもバトルは大好きだけれど、アンタみたいなのとは音楽性のチガイってヤツを感じるね。
 命は懸けるけれど、生死に頓着はしない! 生きてたらまた強いヤツと戦えるなんて、そっちの方がオトクで楽しいじゃないか!」
「剣ん道は、敵を殺してどしこじゃ。弱かもんは、死ぬるだけばい」
 イグナートが感じているとおり、イグナートと西郷の『音楽性』には、大きな隔たりがあった。そもそも、イグナートにとっては戦うこと自体が目的であり、生死はその結果に過ぎない。一方西郷にとっては、相手を斬り殺すことが目的であり、剣を振るうのはその手段に過ぎないのだ。
 西郷の返答に、互いの『音楽性』は決して相容れないと改めて悟ったイグナートは、語るのを止めて西郷に仕掛けた。苦難を退け栄光を掴む力をその身に宿すると、指先を虎の爪の如く曲げ、手首を捻りながら掌打を西郷の腹部に叩き込む。虎爪と化した指は西郷の肉を抉るだけでなく、イグナートが練った気を西郷の体内に伝え、爆発させる。その衝撃に、西郷は身体をくの字に折り曲げた。
「――奪った命はもう戻らない。死んでしまったら、もうそこで終わりなのです。
 『殺すな』なんて綺麗ごとは言いませんが、俺は命の重みを大切にしない……快楽のためだけに命を軽んじたり、粗末にするような奴らが一番嫌いです!」
「そいとて、綺麗ごつじゃろうがい!」
 ラクリマは白薔薇をあしらった鞭の柄を手に取ると、そこから紅と黒で彩られた茨付きの鞭を生成する。そして、心中に抱いた憤怒を叩き付けるかのように、西郷へと振るった。西郷はラクリマに反論するように吼えたが、鞭によって身体にさらに傷を刻まれながらでは迫力に欠けた。
「キミの身体は、ボクの餌食にするよ。キミと違って、食うために殺すんだからね」
「な……ないをゆぅちょるんか!?」
 己の身体から分離させたミニスライム達を、ロロンは西郷にけしかけた。ミニスライム達は西郷の身体を這い上がると、その傷口から血を食らって西郷の命を削っていく。想像だにしない攻撃に、西郷は恐慌に陥った。

 如何に魔種と言えども、最初に鏡に生命力を大きく削られた上で、しかも結界を纏ったアルヴァに攻撃を遮られた上で、イレギュラーズ十人を相手にしては西郷が勝てるはずはなかった。奇妙な叫びを放って周囲に衝撃波を迸らせたり、アルヴァの隙を縫うように遠距離攻撃を放っても、焼け石に水だった。
 程なくして、西郷の身体がどうと地面に倒れる。
「鏡……地獄で、待っちょっ……」
 それだけ言い残して、西郷は死んだ。
「アナタ……強くて、イイ男でしたよ……ええ、地獄で待ってて下さいねぇ」
 西郷の遺体を見下ろしながら、鏡は静かに独り言ちた。

成否

成功

MVP

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

状態異常

ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)[重傷]
氷雪の歌姫
ロロン・ラプス(p3p007992)[重傷]
見守る
鏡(p3p008705)[重傷]

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。ジーク西郷と門弟達は討伐され、鏡さんとスラムの住民達は守られました。
 MVPは、西郷の壱の太刀をカットしたアルヴァさんにお送りします。鏡さんに壱の太刀を決めたかった……orz

 それでは、お疲れ様でした!

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