シナリオ詳細
再現性東京2010:去夢鉄道午前零時
オープニング
●
迫りくる――汽笛の音は現代的ではない。
ホームへと電車が滑り込む際に響くBGMさえ存在しない。時代錯誤な蒸気機関車が其処には存在して居た。
有り得るはずのない存在は、午前0時を告げるように。
廃線となった駅のホームは『何処か』へと攫うが如く。
興味本位で乗り込む際にA-netで掲示板を開いてみせる。書き込みのスレッドは決まっている。
この噂を発見した場所だ。
『今から乗り込もうと思う』と記入すれば、簡単にレスポンスが付いた。釣り乙と笑う声などスルーする。
いいや、今から自分が英雄になる。噂から生還したのだと!
●A-net
http://adept???.net
去夢鉄道の死列車って知ってる?
1:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx
深夜0:00丁度に希望ヶ浜中央駅の石神線ホームに居たら古めかしい汽車が来るって噂
3:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx
冥界に連れて行かれる噂。良くあるじゃん、はい、乙
●――と言う噂がありまして、
「聞いたことあります?」
音呂木ひよのはカフェローレットのタブレットをすいすいと弄りながらそう言った。
インターネットの匿名掲示板には様々な噂がある。特にオカルト関連を扱うスレッドでは夜妖の話が出るのも日常茶飯事だ。
そもそも希望ヶ浜は不可思議な存在を見て見ぬ振りをしている。故に、有り得ない筈の恐怖を想像しては溺れるように夢中になるのだ。
「『深夜の希望ヶ浜駅、0:00にホームにいると古めかしい汽車がやってくる。それに乗り込むと、冥界へと連れ去られてしまう』戸のことなんですが、まあ、0時なら終電はあるのですよね。
ですが、もう廃線になっている線路ならばそうも行かない。そもそも、そちらは封鎖されていますし……? ねえ、興味本位で其れを見にいって、乗り込んだら最後。
そういえば最近ニュースで見ません? 行方不明者が多発しているだとか。最後の目撃が希望ヶ浜中央駅だったとか……」
ひよのはそう微笑んだ。つまりは去夢鉄道の廃線になった駅のホームに古めかしい蒸気機関車が現われ、異界に連れ去るという夜妖が存在して居るというのだろう。
「それでも、直ぐに犠牲になるわけではないでしょうね。乗り込んで、蒸気機関車を斃してしまえば問題は無いでしょう。
相手は悪性怪異ですから斃せない事は無いですよ。本当です。
ですが……そうですね、注意しなくてはならないのですが、汽車に乗り込むだけでは大元を斃すことは出来ないかと思います。
内外何方もが連携した方が良いと――まあ、これは調査したんですが」
ひよのはタブレットをすいすいと弄りながら言った。
汽車の中に乗り込めば夢の世界に誘われてしまうらしい。だが、外部から汽車に攻撃を加えることが出来れば、その夢から覚めることが出来る。
故に、内部班と外部班に分かれて連携することが求められる。幸いにして希望ヶ浜ならばaPhoneを使用して立ち回ることが可能だ。
「あ」
ひよのはそう言えばと思いだしたようにイレギュラーズを見た。
「汽車から振り下ろされないようにして下さいね。暴れ馬みたいなものでしょう? 私は、汽車の外に張り付いたことないので分かりませんが」
何気なく酷いことを言ってみせるひよのはにんまりと微笑んで、希望ヶ浜中央駅への入場券をぐいぐいと差し出した。
- 再現性東京2010:去夢鉄道午前零時完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年04月09日 21時56分
- 参加人数10/10人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
――囂々。音を立て迫る。徐々に近付く汽笛、そして駆動音。猛々しくも棚引き白煙は現代にはとても似合わぬ姿をしていて。
再現性東京2010街、希望ヶ浜県の中央市街、希望ヶ浜中央駅のホームは最終電車が近付き伽藍堂として居た。駅のホームに流れるアナウンスは最終電車の時刻を知らせ、帰宅をスムーズに行えるようにと気を配る。駅員達の清掃も済んだそのホームは立ち入る者も多くはないだろう。
廃線となった石神線。人口流出による利用者激減による廃線で整備され居たホームにも塵や埃の香りが立ちこめていた。それでも、外部へ繋がる道は閉鎖されず、何処かへと誘ってくれそうだとさえ感じられる。
そう、と顔を上げた糸色 月夜(p3p009451)の視界に何かの光がチラついた。人工的に光を備え付けてある駅のホームではない――暗闇に包まれた、線路の向こうからだ。
最初に口を開いたのは誰だったか。掲示板の噂話――其れを真に受けて『侵入』した者達の多数の行方不明事件。夜妖によるものだとしても、事件は事件であると再現性大阪府警マル妖の刑事を自称する『観光客』アト・サイン(p3p001394)は警察手帳をポケットの中に滑り込ませた。
正義感で動いている訳ではなく、仕事だと腕時計の時間を確認する。それの到着までもう少しか。感じる夜の空気、忍び寄るは『魔』を告げる蒸気機関車。
「あーはいはいよくある胡散臭い話、ただの噂だろ? ――そう言いたくなるのも判るが再現性東京ならあり得る話だ。
実際色んな『怪異譚』がある訳だし、行方不明者を増やす訳にもな。……噂通りだと冥界に連れてかれるって話だが、まぁなるようになるだろう」
どうおもう、と問うた『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の言葉に「浪漫だろうな」と『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は静かに返した。
再現性東京は旅人――特に地球・現代日本・東京と呼ばれる区分からの旅人達――が自身らの故郷を造り仮初めの平穏を味わう場所なのだという。科学技術も伸び悩み、技術発展の中に過ごす魔法が存在しない世界。便利さを追求するが故に、廃れていった『汽車』。それは正しく浪漫の塊なのだとウロヴェルグリーズは指し示した。
「そういった『浪漫』や『興味』と言った感情に訴えかける何かが『冥界』に繋がるなんて言うウワサを生み出してしまっているのかも名」
「まあ、そうかもしれないな。冥界――死後の世界なんて、存在してるかも分からない。現実的ではない自称は正しく浪漫と想像から出来上がる」
アルヴァは生温い風を感じた。春に吹く風は花弁と共に鉄の塊を運んでくる。『裏咲々宮一刀流 皆伝』咲々宮 幻介(p3p001387)が「来るか」と粒自棄なねこボイスのアラームが時刻を告げた。まるで何かに頬を撫でられたような不快感、其れを感じると共にホームに滑り込んだのは去夢鉄道では使用されていない蒸気機関車であった。
「これが『噂』のヤツっすか? ……死列車なんてたいそうな名前を貰ってみたいっすけど」
のっぺりと聳え立った『黒い壁』を見上げたのは『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)。つう、と細められた瞳は異形の品定めをするかのようであった。
「ほえー、これが噂の幽霊列車かぁ。これに乗ったままのんびりしてると文字通りあの世行きなんだっけ?」
汽車へとぺたりと掌を付けてから「普通だけどなあ」と『ウツロバスレイヤー』長谷部 朋子(p3p008321)は首を捻った。怪異なんて『自分は知りません』という顔をして此方を誘うものかとからから笑う。
「まぁわざわざ廃線に怪しげな時間帯に行って巻き込まれて、なんてなかなか無いと思うけど、お仕事ならぶっ壊さないとだね!
んじゃまあたしは中からぶっ潰してあげるよ! 外のみんな、フォローよろしくね!」
「勿論、任せ――」
微笑んだウルズの声を遮るように、いそいそと柵によじ登っていた『シティーガール仮面』メイ=ルゥ(p3p007582)が「とぉう!」と勢い付けて着地する。
「メ……ではなく、この依頼の助っ人、謎のヒーローシティガール仮面参上なのですよ!」
「……うん、任せるね!」「頼りになる! ヒーローシティガール仮面!」
朋子とウルズは分からないふりをした。作戦を確認しようか、と幻介が声を掛ければメイは普段使いのaPhoneを取り出して「あわ、間違えたのです!」と直ぐに仕舞い込む。
(――危ない危ない。でもまだバレてないのです! 仮面を着けているので、きっと誰もメイだとは思わないはずなのですよ!)
――知らない振りをした幻介は外部内部での情報連絡はaPhoneを活かそうとそう告げた。『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)からすれば冥界に連れて行く蒸気機関車を『機械』として調査をしてみたい気持ちもあるのだが、今回は其れ全てが夜妖だというならば機械的に判断する事は叶わないだろうか。
「さて、練達って国には領地とか結構世話になってるからな、少しでも恩を売っとかないと!」
行けるか、と問うたアオイにヴェルグリーズとアトは静かに頷いた。生温い、近寄ればそれが優しく肌をなで回す奇妙な感覚。ふう、と息を吐いたアルヴァは二班に分かれての行動を確認し、ゆっくりと一歩踏み出した。
「冷え切った夜の空気……蒸気機関車の独特な匂い……これが依頼で夜妖じゃなければアトさんと汽車を楽しみたいとこだけど」
ちら、と『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)はアトを見遣った。何時もと違う『再現性東京』風の衣服も似合っている。
フラーゴラの胸はとくり、と高鳴った。ああ、だからそれ故に『死列車』がなんだというのか。
「汽車が移動手段であるようにここはワタシの通過点でしかない。
ワタシはやりたいことがある……だから……絶対帰って来るんだから……」
生き延びることに関してはフラーゴラはなによりもプロフェッショナルなのだ。生きていなくては恋も何も始まらない。
●
「にしても、こんな鉄の塊が俺に匹敵する速度で走るなんて……技術の進歩ってのはスゲーもんだな、流石に慣れてきたけどよ」
汽車に乗り込まんと武器の具合を確認する。外部で『汽車の上部で徒競走』を行う事となる幻介は故郷(くに)との違いに驚くようであった。
冥界へと誘う死列車――そこは人が立ち入る場所ではないのだろう。ゆっくりと身体を持ち上げれば、生温い空気が一層強くなった気さえした。
「しかし、コイツに乗りっぱなしだと確実にあの世逝きってか……冗談にしちゃ質が悪すぎるぜ。
俺達は飛び降りりゃいいけど、中の奴等はそうもいかねえ……責任重大って奴だな。失敗は許されねえ、気を引き締めていくぞ」
小さく頷いてaPhoneから聞こえる衣擦れとノイズをBGMにアオイは「こんな所、修理工しか昇らないだろうに」と小さく呟いた。
「昇るのですか!? えーと、はい!」
「はい」
ぐう、と背伸びをして持ち上げて欲しいとアピールするメイへとアオイは頷いた。小さな少女の身体を天井へと持ち上げれば「ふおー」と驚いた用に声を漏らす。
「此処で戦うのですね? まるで映画みたいですね!」
ムービースターだって御免被りたいシチュエーションだろうとメイは小さく笑った。映画、そう言われればウルズは「主演映画が出来ちゃうっすね」と小さく微笑みその瞳に魔力を集める。『封・印・解・放』と合図を囁けば、己に満ちるのは影すら踏ませぬ風の気配。
「――で、アレは一体何なんだ?」
汽車の天井を足場にして、身体を持ち上げたアルヴァは静かな声音で問い掛けた。それを『標的』だと差した幻介の声に頷いて、ウルズ達は前線へと飛び込んで。
「―――日午前0時0分、マル妖事案確認、対夜妖特殊兵装の使用を開始するっと」
形式的にそう告げて、竹刀ケースから取り出したのは長剣。形式的な口頭での周囲の注意喚起を行ってアトは「行けるか」と問うた。
「行ける」と朋子は大きく頷き、その脚に力を込める。乗り込んだならば『起きている』時間を活かして前へ向かわねばならない。ヴェルグリーズはお守りをぎゅ、と握り「さて、車掌を探そうか」と揶揄うように小さく笑った。
「アトさん、おやすみなさいの次の言葉を知ってる……?」
「さあ?」
「――おはよう、だよ……それじゃあ、転た寝しながら……行こっか……」
青き血を滾らせて、フラーゴラは最前線へとその身体を投じた。見るならとっておきの夢が良い。共に進む月夜は園からだから力が抜けていく感覚を覚えた。
強制的に夢を見せるような――優しい感覚。生温い微睡みに存在するような、奇妙さ。身体を包み込んだ泥濘みから抜け出すには『外部』の『鬼ごっこ』を何度も成功させなくてはならないか。
(……あ、聞こえる……)
微睡みの中でフラーゴラは聴いていた。喧噪の中でウルズの声がする。aPhoneのスピーカー越しに聞こえた汽車の汽笛に駆動音。鉄を足場に蹴り上げた僅かな振動ががあん、と大きな音を立てる。
『ッ――この!』
手を伸ばす。ウルズは殴る蹴るなどの暴行で時間稼ぎをすると決めていたのだろう.彼女の戦う音を聞きながらフラーゴラは覚醒が遠いのだと意識を手繰る。
起きている内に出来る限り進まねばならないとヴェルグリーズは覚醒の時を待っていた。指先に力が入らない。意識が朧気に存在する其れは死にも近いような気さえする。
『わわわっ! お、落とされてたまるかですよ!』
びゅん、と風を切る音はロケッ都会羊を駆使するメイの移動であろうか。慌ただしい声を聴けども目覚めはまだまだ遠いのだ。
『足元には気を付けろよ、こんなの落ちたら追い付けなくなるぜ?』
小さく笑うアルヴァの声に、そりゃあそうだろうと朋子は感じた。感じれど、だから助けようと身体は動かない。夢を見ているかのような、酩酊。途切れない空想の中に浸る朋子の頭が何かに垣まざれらる様な感覚を覚えた。それが、夢を見るという事か。
『――ってうおっ……!? あっぶね、振り落とされるところだった。気をつけないと』
アオイの驚きの声に振り下ろされたら二度はないと幻介が笑う声がする。脹脛の筋肉が悲鳴を上げようとも、関係はなかった。裏咲々宮一刀流 肆之型で捕えてみせんと幻介が走る音がする。
『確かに中々の速さだが、俺達なら追い付ける……本当にあの程度ならな。俺が奴を引き付ける、お前達は温存しながら攻撃を仕掛けろ……いくぞ!』
『ああ、仕掛ける!』
続くアルヴァの声――アトはその声を見逃さぬようにと指先に力を込めた。
――何だ、何を見せられている? 意識を手繰れ、僕は何をすべきで今ここにいるんだ。いや、そうか、これは……
はっと目が覚めた。攻撃の気配だ。ここが夜妖の内部であることを見失ってはいけない。起きろ、と叫んだアトの声にいの一番に目を覚ましたのはフラーゴラだ。
「おはよう。行こう!」
少しでも進まなくては。フラーゴラが受け止めた夜妖は奇怪な形をしている。正しく『妖怪』を絵に描いたような其れへと朋子が「退けェ!」と叫んだ。
「まずい、間違いない……次が来るぞ!」
「――少しでも前だ!」
アトの言葉に頷いてヴェルグリーズは前へと倒れるように手を伸ばす。少しずつ、進む。それでも『前』が遠いことを悔しげに悔いを滲ませたヴェルグリーズの傍らでアトは眠りに落ちるその前に腕時計を確認していた。
一度の攻撃で『目が覚めている時間』の長さ。それを30秒と計測したならば30秒でどこまで進めるか、だ。夢から覚める方法を探らねばならない。どうすればいいか。夢と、現実の間に存在するこの意識は『果たして本物』であるか――博打かもしれないが、眠ってしまった瞬間に、自分で拳銃を加えて発砲してしまえばいいだろうか。死のイメージが過るがパンドラが存在して居れば『死ぬにも死にきれない』
(――試す価値はあるか?)
アトは、心に決めたようにゆっくりと拳銃を構えた。
●
追いかけっこも十分な時間が経ったか。幻介はその脚に力を込め、走り回る夜妖へと攻撃を叩き付ける。内部で、動く音。
aPhoneから伝わる其れを聴きながら、アオイは掛け釣り続けた。夜妖の放つ攻撃に、身体が吹き飛ばされる。
「ッ――!?」
足場からその脚が浮いた。アルヴァが咄嗟にアオイを受け止める。腕に僅かな衝撃。だが、速度を武器に走る夜妖は此方を気にする素振りもない。
「逃げ足だけは速い様だが、まあ頑張って逃げてみたまえよ」
狙う。その言葉を聴きながらひょこりと顔を出したメイは「危ないところだったのです!」と汗を拭った。反撃を行いながら『戻ってきた』彼女は夜妖の衝撃波で見事に吹き飛ばされていたのだろう。
「もうひと頑張りして『おはよう』をするのです!」
「そうっすね。……全員で冥府に何て笑えない!」
ウルズが叫ぶ。殴る蹴るだけなら簡単だ。フラーゴラと連絡を密に取り合い、状況を把握し続ける。纏う香水が自身の気配をも希薄にしようとも、新年は揺るぎなく。
夜妖を殴りつけた拳。『簡単な攻撃』でも、乙女の一撃は重たいのだ。苛立ったようなウルズの攻撃に夜妖の動きは一瞬でぴたりと止る。
茫として居た頭をたたき起こして。朋子は空中から攻撃を放ち、其の儘走る。ネアンデルタールは過去最大級の安定感を感じさせる。
振り上げて、体力を武器に戦えば、自身を包む戦装束が赫々たる輝きを増した。荒ぶる感情の波を其の儘に進撃する。獣の如く、獰猛さで。
目的の夜妖の元へと向かう。その為には前線へ。朋子が走る――走り、そしてヴェルグリーズが顔を上げたのと同時、前方を蹂躙する。
「行こう」
静かな声音で、ヴェルグリーズはそう言った。別れの属性は、自身の性質だ。『分ける』事に特化して、全て分つ。
青年の『別れ』の特性は夜妖さえ逃さない。襲い来る夜妖の前へとすらりと滑り込んだのはフラーゴラ。
「ワタシの殻はこんなとこで砕けない……!」
ぎ、と睨み付ける。眠ってしまう前に、進まねば。
フラーゴラが「行くよ……!」と声を掛ければaPhone越しにウルズの応じる声がする。眠らぬように。前へ前へと身体を進ませる。
蒼き彗星の如く。フラーゴラは『違法改造・ヤベー追加スラスター』を駆使して前方へとその身を投じた。
戦闘用にアレンジされた美しいドレスを揺らす。戦う姿さえも可愛くありたいのは恋する乙女。後方には愛しい人が立っている。
「――どけどけ、全員薙ぎ払う!」
叫ぶ。自身の運命力など鱈腹くれてやると決意を決めていたアトは血潮をぐ、と拭った。
強制的に眠りから覚める衝撃を受け止めて目が覚めた彼は周辺全てを薙ぎ払う。自己複製の魔術は過充填され発射される。指先でぴん、と弾けば周辺の夜妖が消し飛んでいく。強烈な火花が飛び散るが周囲の仲間に当たらぬようにと配慮を行い続ける。
そんな気遣いさえ愛おしいと微笑むフラーゴラは「一番前!」と叫んだ。朋子とヴェルグリーズは頷いた。
網二度とは眠るわけにはいかないと、自身らの力全てを放つように。
「ここがアナタの終着駅……!」
此処で止れと、フラーゴラは愛しきものをも死に至らしめる地獄の業火で包み込む。足を止めろ、と叫ぶ其の焔へとアトの攻撃が重なって――
「――この、いい加減、止まれ!」
がうん、と音がした。足下がぐらりと揺らいだことにアオイは「お」と小さく声を漏らす。
止ったか。ならば、と走り回る夜妖を見遣る。それは『無限』なる存在ではない。いつかは朽ちて終わる筈なのだ。そのいつかが今、やってきた。
「もう落ちる心配も無い、なら……全力で殺り切るだけだ! 速さ勝負で俺に挑んだ事、後悔させてやるぜ!」
地を踏む足はそれが汽車の上であろうが、どこであろうが淀みはなかっただろう。幻介のハンチング帽が速度に煽られて舞う。
必殺の腕輪は攻めを補強する。八艘跳び、汽車の上を渡り速度で逃げ続けるそれを捕えて放さない。神速を越えた領域を目指すように、青年は『天井』を渡るそれを間近に見た。
濃い、緑色の瞳だった。夢見るように微笑んだ。幼い子供のような、甘い安らぎ。
ぐ、と息を飲む。放った一撃を返すように夜妖が至近へと迫った。一気に叩き込む機会だ。此処で退いてなるものか。アオイのギア・クリスタルが僅かに輝きを帯びた――歯車の音を聞く。
クリスタルソードに乗せるのはifの可能性。自身の身体を前へと突き動かす鉄華閃撃。周囲に放たれた歯車は、六花の様に鮮やかに。鉄華は緩急付けて夜妖へと迫り行く。
「さて、電車の動力が落ちたか。あとは袋の鼠って奴だ」
残念だったね、と囁く。アルヴァの握る全距離万能型魔導狙撃銃は少年の掌によく馴染んだ。軽量化された銃を構える。
「まだ冥界には行けない理由があるものでね。鬼ごっこは終わりさ」
機動の慣性を切れ味にする。全てを断ち切るための刃を作り出すのは風の加護。隊長ヘルメットを被っていたメイは「落ちたら怪我して危ないのです!」と憤慨していた。内部の皆が『畳み掛けてくれた』事が幸いしたのだと勢い込めて叩き込むのは超新星のスピード。
内部から飛び出した朋子は「いける!?」と問い掛ける。ヴェルグリーズは静かに頷き、『動きを止めた』夜妖をその双眸に映した。
一見すれば普通の少年だ。縫い付けられちゃおうに足を止めたそれはもう二度とは動くことはない。
「――一緒に行こうよ」
聞こえた、その声音を遮るように。
此処で終いだと叫ぶ様に、放たれたのは音速の殺術。先を翔る様に――影をも踏ませぬ少女は天蓋を走り抜ける夜妖へと渾身の一撃を叩き込んだ。
「……それにしても、あの汽車は本当に冥界に繋がっていたのかな。
興味はあるけどそれが人を殺しかねないのがこの国の怪異だよね。何も無かったと思うのがやっぱり懸命かな」
そう呟くヴェルグリーズに「深追いしない方が良い事もあるのだろうね」とアトは小さく呟いた。この地域では『怪異』は別の意味を帯びている。人の命を蔑ろにするような悍ましさ。それらを感じ取りながら、見て見ぬ振りをするのだと目を閉じて。
「……聞き込み、しようとおもって写真撮ったんだけど……」
aPhoneを構えていたフラーゴラの手元を覗き込んでからウルズは首を振る。どうやったって写真が『上手』に撮れない。何かが遮るように光が差す。
「フッ……希望ヶ浜の日常が守られたなら、メイは行くのですよ。では、さらばなのですよ! とうっ!」
徒歩で帰宅するメイ――その言葉を聞きながら朋子は「最後に本名行っちゃってる……」とぽつりと呟いたのだった。
――事後、掲示板に『ボヤけた』黒い塊の写真がUPされた。勿論、撮影時に一等良いものを選んだつもりなのに、だ。
736:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx
冥界行きの列車に乗ってみたったwww
嘘乙と、書かれた文字列はそれでも非日常を楽しむかのようであった――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。希望ヶ浜にも色々なウワサが盛りだくさんですね。
GMコメント
去夢鉄道に乗りたいですって!? よろこんで! 夏です!
●成功条件
無事に帰ってくること
●冥界死汽車
希望ヶ浜の去夢鉄道石神線ホームに入ってくる蒸気機関車です。
噂についてはA-netの匿名掲示板に書き込まれていたそうです。
0:00の石神線ホームに居ると蒸気機関車がやってきて、冥界に連れて行かれてしまう……という夜妖です。
夜妖なので、通常の蒸気機関車ではないようです。そう言う存在に見せかけているだけ……とも言います。
外部班と内部班に分かれて行動して下さい。詳細は後述。
●外部班
汽車の外(上)での戦闘を中心に行って下さい。振り落とされないようにご注意を。
一度だけなら自力で追い付くことが出来ますが、二度目は追い付けません。途中乗車NGの汽車です。
落ちた場合は強制的に戦闘不能扱いになります。飛行などで回避可能。
汽車から発生する夜妖との戦闘です。天井を奔り、天井に存在する夜妖を斃して下さい。
>天井の夜妖
凄まじい速さで移動する夜妖です。
機動力を武器に逃げ回るので、追いかけて倒すか、立ち止まった際に攻撃を重ねるなど工夫が必要になります。
この夜妖に一度でもダメージを与え続ける事で内部班が夢から覚めることが可能となります(1度攻撃で3T動けます)。
積極的に落とそうとしてきますので注意して下さい。また先頭車両で動力がストップされない限り倒すことは出来ません。
●内部班
内部に乗り込むと夢を見て行動不能になります。外部班が天井の夜妖にダメージを与えることで夢から覚めて行動することが可能です。
内部ではBSを駆使する夜妖が種類豊富に居ます。常時BS窒息状態、数ターンに1度BS乱れが付与されます。
先頭車両を目指して下さい。内部では無数の夜妖が襲い掛かって来ます。
>先頭車両
列車を止めることが可能となります。列車が止ることで、『天井の夜妖』を倒すことが可能となります。
天井の夜妖がこの列車の本体となります。其れを倒すことで、気付けば皆さんは希望ヶ浜中央駅に戻っていることでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、頑張ってきて下さいね!
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