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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>闇の片方はまた闇なりて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それを快く思わぬモノもいるという事
 ラサの某所にある、とある建物がある。新興宗教が設立した孤児院……と周りにはそう伝えられている。
 質素な造りの応接間兼書斎があり、奥のデスクには一人の男が座っていた。
 白のローブに金の刺繍を施し、白く長い帽子を被った男。わかるのは口元のみで、その顔は暗くてよく見えない。
 外は夜の帳を下ろしており、デスクの上で発光するカンテラの火は弱々しい。しかし、男の手元にある紙の束を照らすには十分だった。
「――ふん」
 書類を机に投げ出し、椅子の背もたれに体重を預ける。
 机の前にも男が一人立っていた。こちらは白のローブに銀の刺繍。だが、書き込まれた刺繍の数量は金の方が多い。こちらの男も薄暗い中の為顔はよく見えない。
 金の刺繍の男が机の上に置いた書類に目をやりながら口を開く。
「奴隷が幻想に集中しつつある、か……」
 声は低いがまだ若い。しかし、顔が見えないので年齢は分からない。
「はい。おかげで、ラサ内の奴隷も幻想へと運ばれる始末です」
「厄介だね。これではラサへと運ばれてきた者達を助けてここに連れてくるという口実が出来なくなる」
「信者を増やさぬ事には我々の悲願も達成できませんからね」
「そうだ。…………いや、待て」
 そう言って考え込む男。
 暫し考え込んだ後、彼は口元を薄く横に広げた。
「逆だ。ラサ内から出そうとする奴隷があるならば、それを奪えば良いのだ。幻想に運ばれる前に救出してやればいい。そうだろう?」
「なるほど。慧眼です、教祖様」
「そうと決まれば、適当なのを数体、いや、最近『生まれ変わった』者達が居ただろう。『新種』の性能を試す意味も兼ねて、彼らを出動させてやりなさい。
 全ては神の御心のままに」
「わかりました。
 全ては神の御心のままに」
 深く頭を垂れる男。
 教祖と呼ばれた男は、黙って微笑むのみだった。

◆荷物の中身は決して詮索してはならない
 ラサの商人が幻想に無事に荷物を届けるまでの護衛を依頼する。
 そう情報屋からは聞いていた。
 しかし、条件があった。
 一つ。荷物の中身を詮索しない事。
 二つ。商人の商売の内容を聞こうとしない事。
 これらの条件を呑んだ上での依頼受注となったイレギュラーズは、胸中で溜息を零した。
 条件の内容を考えるに、こんなのは非合法の商売をしていると言っているようなものだ。
 最近、幻想では奴隷が闇市に上がっている事が増えてきている。つまり、この荷物もまたそういう事なのではないか。
 もちろん、それは推測でしかなく、確証はない。中身を知らないのだから。
 木製のコンテナに車輪をつけ、それを馬に引かせる。御者は商人自身だ。木製のコンテナは大きく、馬が一頭二頭入っても問題ないような大きさだった。
 荷馬車の周囲をイレギュラーズが囲み、徒歩で護衛する。
 砂漠地帯だった場所を抜ければ森の中だ。ある程度整備された道を進んでいく。
 道中の気まずさを逸らすように、イレギュラーズは世間話をし、商人にも好きな食べ物やラサでのお勧めの食事などを聞いたりしていた。
 歩いていると、開けた道に出た。周囲が森なのは変わらないが、この大きさのコンテナを引く荷馬車が二台通れる程には広い道幅に変わっている。仮に盗賊が出たとしても、十分に戦える広さだ。
 何てことは無い雑談をしながら歩を進めていると、前方に何かが立ち塞がる。
 それは白い姿の獣であった。数種類の獣が道を塞ぎ、イレギュラーズ達を睨みつける。
 気付けば荷馬車は囲まれていた。
 獣は三種類いる。ゴリラ、グリフォン、ライオン。その数は五体ずつ。それが荷馬車を取り囲み、威嚇の声を上げる。
 見覚えがある者が居れば、わかるだろう。以前ラサに入ろうとする者達を襲っていた獣達に似ている事を。
「な、なんだこいつらは! 早く倒してくれ!」
「言われなくとも!」
 複雑な胸中を抱えたまま、イレギュラーズは獣達と対峙するのだった。

GMコメント

 自分にししては今まで救いのないシナリオとか出しておいてまだ悪依頼出していなかった事が不思議でなりません。
 似たようなモンスターの出現したシナリオとして「それを呪いを貴方は嗤い、それを祝福と私は笑う」がありますが、該当シナリオを読まなくても問題ありません。
 そんなわけで、今回は悪依頼となります。
 対象達を守れば悪依頼達成となり、名声にマイナスが入ります。
 『商品』の中身を明け渡せば失敗となります。
 この二点にご留意いただけると幸いです。

●達成条件
・獣達(三種類×五体)の撃破
・商人を無傷で守る
・『商品』を守る

●敵情報
・ゴリラ
 地上を二足歩行する、色が白いだけで姿形は一般的なゴリラです。
 手足を使い、地鳴り(物・近・範)を起こします。【体勢不利】【混乱】を伴います。
 また、ドラミング(神・中・範)で威嚇をします。【混乱】【不運】があります。
 通常攻撃として素手(物・至・単)がありますが、こちらはBSがありません。

・グリフォン
 成人男性ほどの大きさの白い鷲です。常に空中に滞空しています。
 風起こし(物・遠・範)にて【足止】【乱れ】を付与しようとします。
 また、咆哮(神・中・範)にて【魅了】を仕掛けてきます。
 通常攻撃として突撃(物・至・単)がありますが、こちらは【出血】を伴います。

・ライオン
 タテガミも含めて全て白いライオン。姿形は普通のライオンです。
 咆哮(神・中・範)があり、【呪縛】を伴います。
 また、地鳴り(物・近・範)があり、こちらは【崩れ】【停滞】を伴います。
 通常攻撃として、爪や噛みつきによる攻撃(物・至・単)がありますが、こちらはBSがありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>闇の片方はまた闇なりて完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月27日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

リプレイ


 白い動物達――グリフォン、ゴリラ、ライオン――に囲まれている中、イレギュラーズはそれぞれ戦闘態勢をとる。
 商人が手綱を握る馬は訓練された馬らしく、動揺して嘶く事も無い。
 木箱の馬車を率いる商人より、檄が飛ぶ。
「早くこの邪魔者をどうにかしろ!」
「はいはい。お仕事はしっかりこなすわよー」
 『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)が返事をする。
 動物達を数えながら、『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)はテンション高く呟く。
「まさかわくわく動物ランドとは予想外ですね!」
「よく見たら襲ってくる獣はみんな真っ白ですねー親近感が湧いてきますー」
 彼女とは違う意味で興奮している様子の『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)。無表情は変わらぬ為、興奮度合いは声色から判断するしかないが。
 荷馬車を守るように移動する『闇之雲』武器商人(p3p001107)。木箱の中からする気配からは動揺が窺えた。逃げようと画策する可能性はあるがだろうが、その場合は逃げないようにするだけだ。木箱の上部には小窓があったが、おそらくは何か踏み台でも無ければそこから外を覗けないだろう。つけられている鍵も、おそらくは外からしかかけられないと思われる。
 武器商人の動きを確認していた『薄桃花の想い』節樹 トウカ(p3p008730)は、下唇を軽く噛む。
 荷物の中身が何かはおおよその察しはついている。しかし、今は依頼の遂行中。出来る事なら助けたいがそれも出来ない。
(この怒りは敵にぶつけさせてもらうか)
 視線を合わせ、眼前の敵を睨みつける。
 睨み合っている間に、『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)は自分を含む仲間達に風の魔法を付与する。顕現した暴風は彼らに回復の力を与えてくれる。
 お礼を述べて、『身体を張った囮役』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は斧を素振りした。彼もまた、木箱の中身について思う所のある者であった。
(商人が何を運んでるのか知らぬが関係ない……やる事をただこなすだけじゃ……)
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は商人を一瞥する。
(これだけあちこちに火が付いてるのに、商売根性の強いこと)
 逆に感心するぐらいだ。
 だが、今はそれよりも目の前の事への注力である。
「神がそれを望まれる」
 静かな森で響いたその言葉に、動物達から唸り声で反応があったような気がしたのは、気のせいだろう。
 ライオン達が高らかに咆哮した。
 それが、戦いの合図となった。
 

 白きライオン達による咆哮は何かしらの意味があったのだろう。
 しかし、その影響がイレギュラーズに現れる様子は無い。彼らの平気な様に、ライオンの口から低い唸り声が呟きのように零れる。
 数の多さにサンディが舌打ちする。
「頭数はやけに多いみたいだからな。一つずつ叩いてたら日が暮れちまうだろ」
「……あ」
 イーリンが呟く。彼女のギフトであるインスピレーションが働いたのか、イーリンの唇からは得たものが言葉となって滑り出た。
「多分、積荷が目的だと思うわ。もし積荷の攻撃を優先する個体が居た場合は、そいつへの攻撃優先をした方がいいかもしれないわね」
「あーしも賛成かな。りんきおーへんってやつだね」
 夕子からも賛同の声が返り、他の仲間達も頷く。
 トウカが優先順位について確認の声を出す。
「ライオンからでいいな」
「そうですね!」
 ルル家の返答は力強く、そしてその眼光も鋭く敵を捉えていた。
 地面を蹴り、初手はピリムから。彼女は既に己の安全装置を外しており、その速度を上げていた。
 電光の名に相応しき速度が一体のライオンを翻弄する。木を利用してあちらこちらへと跳ぶ彼女は、ライオンの顔を、体を、切り刻む。決して脚は傷つけない。それは彼女が後で回収したい部位だから。
 他のライオン達にもイレギュラーズが近付いていく。
 トウカの妖刀が刃を閃かせ、ライオンの体を傷つける。
 色香を纏った夕子がライオンに近付く。甘い匂いを漂わせる彼女へと注意が向き、その隙を狙って蹴りが繰り出された。
「はいぱー、じぇいけー、きーっく! ライオン相手ならぱんつ見られても恥ずかしくないもん!」
 そういう問題で良いのだろうか、と思わなくもなかった周りだったが、特に突っ込む事もない。この状況でそんな余裕は無いのだが。
 兎にも角にも、彼女の蹴りはライオンの顔に命中し、体をふらつかせた。
 白きライオンに襲いかかるイレギュラーズに対し、グリフォンやゴリラもまた動き出す。
 グリフォンが起こした風が地上を襲う。足が動かぬその隙を狙い、ゴリラの足が地面を踏み鳴らした。
 揺れる地面はイレギュラーズのみならず馬や荷車にも影響を与えた。
 木箱の中から叩くような音がする。その叩き方は動物がぶつかるようなそれではない。拳で叩くような音。
「ちっ」
 商人の舌打ちに、武器商人は木箱の中身の確信を得る。
 だから、武器商人が代わりに叩いてみせた。一回きりの力強い音に驚いてか、中からはそれ以上叩く音がしなくなった。
「助かったよ」
「別にいいのさァ。さて、下手に怪我をしたくなけりゃ大人しく我の傍に居ることだね」
「あ、ああ……そうするよ」
 改めて自身にかけた魔力障壁を確認する。まだ維持は出来ているようだ。このまま守りに集中する事とした。
 『荷物』とのやり取りを横目に見ていたオウェードは、近くのライオンに斧を突き立てながら、自身の考えが間違っていなかった事に一瞬の想いを馳せる。
(ワシのギフトが悩んでる理由はわかった……じゃが依頼を引き受けた以上、止める訳にもいかん……許せ……)
 彼のギフトは混沌にとっての善行や名誉ある行為を推測する、所謂正義心に訴えかけるギフトである。それがオウェードにどう告げるか悩んでいたとはいえ、この依頼を引き受ける事を選んだのは彼自身だ。
 イレギュラーズの間を抜けて進もうとするライオンを引きつけようと口を開く前に、乾いた音がして、弾丸がライオンの眉間を射貫いた。
 弾丸を撃ち込んだのはサンディ。銃身を切り詰めたショットガンは、アドラステイアの聖銃士の一部に支給されていたものの横流し品だ。
 撃った反動が彼の体に襲いかかり、痛みが手から走る。だが、取り落とす事はしない。
 前線に立つ仲間の補助として、彼はもう一度狙いをつける。仲間が真っ先に片付けようとしているライオンを少しでも減らすべく、彼はもう一度撃鉄を起こし、両手で構えた。ショットガンの銃口が火を噴き、先程のライオンへもう一発弾丸が叩き込まれた。
 代償として反動が来たが、そんなものどうとでもなる。
 次なる獲物を狙う彼にルル家が「ナイスです!」と声をかけた。
 彼女はグリフォンの突撃をかわすと、大声で周囲の気を引いた。
「さぁお立ち会い! ここにあるは世にも珍しい鴉天狗の目玉! はい注目!」
 髪に隠された右目を陽の下に公開する。ヒトのモノとは違う瞳が視界に入る限りの敵を捉えた。
 その目を見た敵は精神を侵されるだろう。虚ろなる眼は動物達の精神を蝕み、狂気に苛まれる。
 低い確率とはいえ、自分で自分を傷つけてくれれば万々歳。
 ライオンやゴリラの中で二体ほどが自傷を始めた。よし、と胸中で呟くルル家。
 イーリンも自身を襲おうとするライオンに向けて、攻撃を繰り出す。時間に干渉して得た僅かな予知が、彼女の動きを有利に運ぶ。
 紅玉の輝きを湛え、彼女の魔力塊が剣のようにライオンを刺す。
 トウカの妖刀が、周囲に向けて振るわれる。ホオズキの古名を冠するその技は、ライオンだけでなくゴリラにも届いた。青白い妖気を放つ刀を、彼は難なく振るっていく。
 グリフォンやゴリラの攻撃をかいくぐり、ライオンへ的確に攻撃を当てていくイレギュラーズ。
 逆にライオン達もまた反撃をするのだが、咆哮は意味が無く。
 ゴリラと同じように前足を上げて地面を踏鳴らすが、それも反応がいい者が跳ぶ事で意味を成さない。
 傷ついた体では次第に攻撃も動きも鈍くなる。そこを突いたイレギュラーズが徐々に体力を削り、トドメを刺すまでに時間は長くかからなかった。
 一体、また一体と倒れていくライオン達。
 合間にグリフォンやゴリラにも攻撃の余波が当たっていたりもしたが。
 そうして全てのライオンが地面に倒れ伏した後、彼らの次なる標的は空を舞うグリフォン。
 空を舞う彼らを落とすべく、ルル家がもう一度右目を晒す。狂気に陥った内の一名が自傷した事で体勢を保てずに落ちてくる。
 まだ空に残る者達へ、夕子が声高にその名を告げる。
「クノイチJK、高槻 夕子! かかってきなさい!」
 その声を聞いたグリフォン達が彼女に向かって降りてくる。
 降りてくるグリフォンの数は四体。彼女一人だけで迎え撃つ事は無く、仲間達も彼女の近くに駆け寄ってきた。
 トウカが不知火を空中に向けて振るえば、一体へとその斬撃が届く。慣性を切れ味へと変えたその一撃は、飛行力を削ぐに十分だった。裂けた羽を抱えたまま、落下するグリフォン。
 他のグリフォンにも、攻撃の手が入る。イーリンの紫苑の魔眼がグリフォンを捉え、その背に魔力の刃を与えた。
 悲鳴のような鳴声を上げるグリフォンは、せめてもの抵抗として風を起こそうとするが、それはサンディが放った弾丸により遮られる。
「させねーよ」
 彼の攻撃のメインとしては仲間の攻撃の補助だが、これもまた補助の一つだ。
 彼は、次に単身でゴリラに向かっているピリムへ戦乙女の呼び声を届ける。それは、彼女の体を癒やしていく。
「ありがとうごぜーます!」
 簡潔な礼を述べて、彼女は再度ゴリラへ挑む。
 このゴリラ達、木箱の方へと向かっていた。
 武器商人による障壁だけでは心許なく、また、自身がグリフォンに対する策を持っていなかった為にこうして転じたという訳だ。
 彼女の他にも、オウェードが協力してくれている。グリフォンは策のある者達に任せるべきという判断だ。
 木箱の鍵は壊されていない。ここを壊されれば『荷物』は奪われる事となるだろう。
 それ故に、ピリムと武器商人で相手をしていたが、グリフォンへの対応が十分だろうという理由から、サンディも補助としてそこへ回る。
「何するんですかー。木箱に攻撃が当たったら危ねーじゃねーですかー。
 もし中身が脚の山なら大事ですよー。まーこんなこと畜生共のあなた達に言ったところで理解できねーでしょーけど」
 ピリムの特殊な趣味はともかくとして、彼女は彼らに対して注意を自身に向けさせる事に注力する。
「すまんすまん、大丈夫か」
「問題ねーですー。むしろグッドですー」
 謝罪するオウェードに、怒りもせず賞賛の声をかけるピリム。
 仲間達も少しずつこちらに集い始めている。グリフォンを一体ずつ仕留めていっているようだ。
 残るゴリラ達は、相変わらず木箱を狙おうと動いていくが、そうは問屋が卸さない。
 武器商人が障壁を張って入口をカバーし、群がるゴリラ達に向けてオウェードが注意を引きつける。ゴリラのジョブを得ている彼だからこそのものだ。
 狙い通りにやってきてくれたゴリラが拳を振るう。それをかわし、敵の勢いを借りて斧を叩き込む。
 肉や骨に食い込む音を立てながら、ゴリラは後ろへと飛んでいく。
 合流してきた仲間達により、ゴリラ達の攻撃は少しずつ削がれる事となる。
 一体ずつ仕留めていくのを見ても、ゴリラは怯まない。なおも目的である木箱を狙おうと、地鳴りをしたりしてくるのだが、それを甘んじて受けるイレギュラーズではない。
 隙を突いて振るわれたオウェードの斧が最後のゴリラの命を奪った。


 戦闘も終わり、商人に戦後処理の為に暫し待って貰う。
 その間に、やれる事をやろうと動く一部の者達。
「弔いとかするー?」
 夕子の質問に対し、全員が首を横に振る。
 とはいえ、このまま捨て置けば通行の邪魔になるだけ。道から外れた場所に移動させようという事になった、が。
 それに待ったをかけたのはピリム。
「脚を回収させてほしーです」
「脚?!」
 聞いていた商人の素っ頓狂な声が上がる。
 彼に向けて、彼女は「趣味だから」と声をかけて片付けた。
 白い動物達。脚までも白いとなれば、興味を引いたのだろう。
 早くに終わらせるべく解体作業を手伝うサンディやイーリン。
「変わってるわね」
 とは、イーリンの弁。隣のサンディは無口を貫いていたが。
(積荷の想像ならまぁある程度はつくが、ま、運がなかったよな。
 もっとも、当人たちだって白馬の王子様がゴリラってのもいやかもしれんが。
 ……おっと、口には出さねーぜ、こんなのさ)
 胸中で呟きつつも、手は止めない。
「それにしてもゴリラやライオンが白いのは珍しいのう……」
 人為的なものか、あるいは突然変異か。
 オウェードの呟きに対し、ルル家も同意であったか、頷く。
「怪王種とも何やら違う様子。噂に聞くアドラステイアの聖獣と似ているような……それとも違うような。
 いずれにしても自然界のものとは思えぬのは確か!」
「そうじゃのう……」
 商人が「見物に出来れば良かった」と呟くのが聞こえて、オウェードが謝罪する。
「ウム……ワシもそう思ってた……殺してすまんのう……」
 そのままオウェードと雑談を交わす商人の顔を武器商人は確認する。今後のための参考にと。
 数秒の凝視後、気付いた商人に「何か?」と聞かれて「何でもない」と答えると、その場を離れて馬車の後ろへと回る。
 木箱の中からは気配がする。戦闘中に叩くような音が聞こえた事から、中身の確信は得ていた。
 木箱の後ろ、高い場所につけられた小窓からは声が聞こえるはずだ。
「誰もキミたちを『助け』には来ない」
 そう囁けば、気配が身じろぎしたように感じた。
「仮にキミの大事な人たちが助けに来たとしても我たちはそれらを痛めつけるなり殺すなりするだろう」
 息を呑む音が聞こえた気がする。
 顔を見る事が出来たなら彼の目の能力で反抗する意志を削ぐ事も出来ただろうが。
 トウカがやってきて、武器商人に場所を変わるようジェスチャーで示す。
 一つ頷いて、場所の入れ替わりに協力した。
 彼の手から鬼紋の花びらが現れ、それは小窓へと入り込む。
 込めた想いは届くだろうか。
『助けられなくてごめん。
 これが俺達の今の仕事なんだ。
 ……でもこの仕事が終わったら助ける側に回れる。
 頑張って探すから、その時まで諦めない心と体力を温存してくれ』
 果たしてそれに触れた『商品』達に希望は灯ったか。
 確認は出来ないが、トウカは信じる事にしてその場を離れた。
 既に脚の回収は終わったようだ。纏めて縛っているピリムを横目に見つつ、残り全員で動物達を移動させる。
 血だけは赤い動物達の姿は妙に不気味さえ映る。
 移動させる中で、ルル家が何かに気付いたようにハッとして刀に手をかけた。
「何奴! 姿を現しなさい!」
 抜いたそれを一点の木に刺す。
「ちっ」
 聞こえてきた舌打ち。そして白い服が翻り、森の中へと姿を消す。
 追いかけようと思ったが、依頼の遂行が先だと仲間に諭されて、刀を回収するに留める。
 夕子は動物達の死骸に向けて両手を鳴らし、合掌した。
「さ、お仕事終了」
 振り返り、合流する夕子。
 それを確認し、オウェードは商人へと声をかける。
「さあまだお前さんの依頼は終わっておらん……早い内に運ぶとしようかね……」
 一行は再び歩き出す。幻想領へと向かうべく。
 あの白い者は何だったのか。分かる事は現時点では無く、記憶の隅へと追いやる事にした。
(久々の汚れ仕事じゃったのう……次から汚れ仕事を受ける時はギフトと相談して考えないといかんのう……。
 ガハハハ……次会う時は敵かも知れぬ……)
 商人と雑談しながら、オウェードは密かに黒い笑顔を浮かべる。

成否

成功

MVP

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女

状態異常

なし

あとがき

何やら怪しい人も居たようですが、いつかまた出る事もあるでしょう。
それはさておき、皆様お疲れ様でした。

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