PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<至高の美味を求めて>渡り豚がやってくる

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●渡り豚の噂

「……そういえば、そろそろ渡り豚の時期なんじゃないか?」
「いや、今年はまだ無いだろう。アレの周期だって1年ごとってわけじゃない」
「そうそう。それに情報屋もまだ動いてないじゃないか」

 街の何処かで囁かれる、そんな声。
 渡り豚。一体それは何なのか。
 そんな食材、街の何処にも並んだことはないはずだ。
 しかし毎年のように何処かで噂される「幻の食材」の1つ。
 それを手に入れようというなら相当に精度の高い情報網か高い運、あるいは……とある場所に立つ少女のような。

「……ギフトの情報から判断すれば、今はこの辺り。どうやら当たったです」

 地を駆ける豚……豚?
 豚というには少々獰猛な何かの群れを見下ろす、1人の少女。
 そして、そんなものがなくとも精度の高い情報網があれば。

「よーし、傭兵ども進め! 渡り豚を捕獲するんだ!」
「ブキー!」
「ブキキー!」
「うわああああ! なんだこの豚……豚!?」

 眼下で見事に渡り豚の群れを取り逃がした何者かに溜息をつきながら、『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201) は額を押さえる。

「私のギフトが発動したからには、今年は当たり年なのです。この機会は絶対逃せないです……となれば……」

●そして仕事になる

「というわけで仕事です。寄ってくるです」

 どういうわけなのか分からないが、その場に居た者達を集めるとチーサは話を切り出した。

「世の中には唸る程ある幻の食材の1つ、渡り豚の季節がやってきたです」

 その言葉に何人かが素早く反応したのを見て、チーサは目をキラリと光らせる。

「そう、その渡り豚です。残念なことに何処かの馬鹿が取り逃がしたせいで、捕獲難度が上がってるですが……関係ねーのです」

 そう、噂通りであれば渡り豚は凄く旨い。
 煮て良し焼いて良し、干し肉にしたって旨い。
 その旨さに渡り豚を求める者も多くいるが……渡り豚は常に旅をしていないとストレスで死ぬ類の生き物であるらしく、人の手で繁殖させることが不可能な類の生き物であるらしい。

「そして厄介なことに、最大の捕食者である人類に特化した攻撃手段を持ってもいるです」

 それは、すなわち武装解除能力。
 実際に武装が失われるわけではないが……服を含めた武装を失うような外観に……すなわち裸になってしまうのだ。
 これは非常に辛い。というか最悪である。
 なんだこのブタ。ブタめ。

「私も実際見たですが、実に見苦しい光景だったです」

 本当に嫌そうな顔をしながら、チーサは地図の一点を指さす。

「渡り豚の向かった方角を見るに……キャンプ地としても有名なアダン山へと向かった可能性が高いです」

 そこに美味がある。
 ならば食わねばなるまい。
 それを否と言うのであれば、知性ある生き物としての義務をかなりの割合で放棄しているようなものである。
 ちなみにチーサの個人的見解である。念のため。

「恐らくはそれなりの長期戦になるです。しっかり準備をしていくですよ」

GMコメント

まだ見ぬグルメ食材を求めて。
今回の場所は以下のような感じでございます。

A:キャンプ地
B:アダン山(山頂付近)
C:アダン山(キャンプ地以外)
D:アダン山周辺の森

ちなみに今回、アダン山のキャンプ地にキャンプを張ることになります。
より良いキャンプを作れば作る程、渡り豚が出現する可能性が高まります。
勿論キャンプ地での出現率も上がるので、調理班として待機しているチーサの守りも必要でしょう。

●敵データ

・怪鳥たち
渡り豚の匂いを感じてきたっぽい。お肉は堅いので食用には向いてません。
風のブレス攻撃を使います。

・イノシシモンスターたち
渡り豚かと思いきや外れ枠。旬を外してるのでお肉が堅いです。
ボディを狙って突っ込んできます。げふう。

・何処かの金持ちの雇った私兵団
あんまり友好的じゃなさそうです。ひどい目にあったからね。仕方ないですね。

・渡り豚
総数不明。戦闘力はあんましないですが、武装解除攻撃を仕掛けてきます。
喰らえば数ターン裸です。おまけに逃げ足もとんでもなく早い上に羽が生えて飛びます。
このブタ野郎め。

今回、『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201) が調理班として同行しています。
見事捕まえた際には皆で美味しい豚肉キャンプです。
騒いで飲んで楽しみましょう!
そうすれば、心の傷だって、きっと癒えますよね!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <至高の美味を求めて>渡り豚がやってくる完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月21日 22時05分
  • 参加人数20/20人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
彼者誰(p3p004449)
決別せし過去
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

サポートNPC一覧(1人)

チーサ・ナコック(p3n000201)
旅するグルメ辞典

リプレイ

●ただいまキャンプ設営中

 アダン山キャンプ場。キャンプ地としては「知る人ぞ知る」レベルの知名度であり、あまり有名ではない場所だ。
 そのせいなのかどうか、今はこの場には『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)達以外の姿はない。
 しかし、これからの渡り豚狩りを考えれば丁度よくはあるのだろう。
 庇護対象が増えてしまっては、狩れる豚も狩れなくなってしまうだろうから。

「にしても、渡り豚が来そうな良いキャンプ地ってどういうのだろう?」

 朝顔は、ふとそうした疑問に思い至る。
 渡り豚がより良いキャンプ地に惹かれてくるだろうということは、すでに事前の情報で分かっている。
 しかし、それははたしてどんなものなのか?
 自分にはキャンプ地設営に役立つ技術は持っていない。それを感じていた朝顔は、近くの岩に座ってぼーっとしている『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)に声をかける。

「チーサ先輩はどう思いますか?」
「んー……たぶんですけど。理屈よりも楽しさが重要だと思うのです」
「楽しさ、ですか」
「です。ほら、見るですよ」

 チーサの示した先に朝顔が視線を向ければ……そこには『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)の姿がある。

「いったいここには何をしに来たんだろう、くらいに立派なものにしてみせるよ……!」

 砦のような強固なキャンプ地にしてみせる、と意気込んでいるЯ・E・Dは傍から見て分かる程にやる気に満ちていて……朝顔は思わず頷いてしまう。
 Я・E・Dの指示を聞いて動いていれば、その熱意が自分にも移るかもしれない。そう思える程だった。

「Я・E・D先輩! 私も手伝います!」
「うん、ありがとう」
「良いのを作りましょうね!」
「良いキャンプ地をつくれば、豚さん達も来る可能性が高まるんだよね? 頑張ろう」

 言いながらも、朝顔とЯ・E・Dの中にはすでにアイデアが生まれ始めている。

「キャンプが目立った方が良いのであれば、派手な飾り付けとか必要そうですし。逆に目立たせないなら、周りから枝や葉っぱを持ってきて飾ったら効果的だと思いますし……」
「塹壕、バリケード、柵。渡り豚だろうが、何処かの金持ちの雇った私兵団だろうが襲ってきたら返り討ちだね」

 楽しげに話しながらも作業を進めていく2人を見ながら、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は気だるげに溜息をつく。

「しかし準備からとは面倒ですね、戦うのは得意ですがこの手の小細工はどうにも……一人で宿動かす分にはですが多人数は……」

 言いながらも、利香も何もしていないわけではない。各自が集めた物資や人員のまとめ、「こうしたらいいのではないか」という提案など……自分の能力を駆使して仕切りをやってもいるのだ。
 本人曰く雑に、ではあるが……それがある程度の指針になっているのは間違いない。

「ところで念のため……クーア、火は何に使うものです? 熱や暖、光源を取るものですよね? キャンプどころじゃなくなる様にはしないでくださいよ。ね?」
「か、火事にはしないよう加減しますので。そのへんほんとうに空気は読むのです。タブン」
「多分?」
「使い走りが必要そうなので承ってきます! 足の速さには自信があるねこであり、メイドなのです!」

 凄い速さで駆けていく『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)に再度の溜息をつきながら、利香はチーサの近くに腰を下ろす。

「チーサさんの護衛も請け負いましょう。ご安心を、護衛の腕に関しては譲る気はありませんので」

 別にサボろうという心意気で護衛を請け負ったわけではない。安心である。

「そですか。腕自慢なのは良い事ですし有難いのです。私が想像してたより、ずっと良いキャンプになりそうですし」
「そう、ですね……」

 先程クーアが堀り途中の塹壕に落ちているのが見えたが……キャンプというよりは砦のような様相になりつつあるキャンプ地を見て、利香は頷く。
 別に要塞を作ろうと思ってやっているわけではないだろうが……全員が楽しくやっているのは利香にも十分すぎるほどに理解できた。

「楽しい雰囲気には豚だって寄ってくるものです。そういうのは昔話でも現実でもかわらねーのです」

 そう、楽しいのは大事だ。この場でキャンプ地を設営している全員には、すでに楽しい豚肉パーティの光景が見えている。

「豚と鳥ですか。良いですよね、丼とか……と、おや。それは?」
「水を汲んできたぞ。良い湧き水が見つかった」
「おお、これは良い水ですね」

調理場を設置していた『肉壁バトラー』彼者誰(p3p004449)の下に、大きな容器に水を入れて持ってきた風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)を伴う『Meteora Barista』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)がやってくる。
 調理班でもある彼者誰とモカには、当然のように水の良し悪しが分かる。
 
「湧きたてのものが見つかってな……運が良かった」
「そして荷物持ちなら任せろ! って感じだな。俺の場合は」
「ええ、ご苦労様です。大変だったでしょう?」
「こういうのもオトコの仕事だからな!」

 サンディの下ろした容器の中の水を確かめながら、彼者誰はそうサンディにお礼を言う。
 このキャンプ地にも山頂付近から流れ込む小川が水源として存在はするが、煮沸が必要だとモカたちは理解できている。
 その為にも、調理場の建設は急務であった。

「まぁおれはその辺に寝る系男子だから得意じゃねぇが……」
「充分働いたんだ。しばらく寝ていても誰も怒らないだろう」
「ですね。サボりすぎは鍋に放り込むですけど」

 モカ達に言われながら、サンディは「そっかあ」と頷いて座り込む。
 労働の後に休息は必要だ。特にこの後、キャンプ地を離れて状況を見に行こうと考えているのだから猶更だ。
 全員、それが分かっているからこそ何も言わず水などを差し出して。

「調理スペースとしては雨が降っても炭火が使える小屋は必要、だな」
「一応好きにやっていいとキャンプ場のオーナーから許可はとってるですよ」

 此処に安全で便利なキャンプ地が出来る事は、今後の利用客の安全にも繋がる。
 だからこその全面許可だが、そんなチーサの言葉に彼者誰とモカは頷く。

「ならば安心ですね」
「ああ。しかし、やっていいなら……メインとなる三方を囲った焚火窯は屋外に設置しなければな」

 ……渡り豚に攻撃されて裸になった場合の女性用の避難所としてもな、と呟くモカにその場にいた女性陣が何度か頷くのが見える。

「ちなみに俺は美しく鍛えておりますから、見るに耐えないってことはありませんよ」
「そういう問題じゃないだろう」
「だからって見せたらお前を焼くですよ」

 モカとチーサの非難を受け、彼者誰は降参だというかのように両手をあげるが……それはさておき。

「よし、ばっちりだ」

 3人が手を止めている間に調理場の仕上げをしていた『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が満足げにそう呟く。
 
「あとは……仕切りももう少し多めに設置しておくか?」
「大事です」
「ああ、大事だ。小屋に逃げ込む為の目隠しにもなる」

 モカとチーサに言われ、錬は「そうだろうな」と答える。
 誰しも彼者誰のように自分の身体を見られても大丈夫な類のものだと思っているわけでは……いや、この言い方は語弊がある。
 見られる事に耐えられるというわけではない。
 特に女子は見られても良いとか良くないとか、そういう次元では生きていない。

「とにかく豚の襲来に気を付けろよ、脱がされたくない奴はすぐ隠れろよ?」

 言いながら錬の視線の先には……豚も居ないのに上半身が脱げている男の姿が見えてしまう。

「はい、御手手をばんざーい! です!」

 犯人の名前は『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)。
 被害者の名前は『決死防盾』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)。
 未散とヴィクトール、どっちの評価でも「絶妙にダサい」綿100%のTシャツを着せられたヴィクトールではあるが……これは勿論、未散なりの計算あってこそのものである。

「今回の対象はすばしっこく動き回るとの事、より動き易い方がよう御座いましょう」
「キャンプでカソックというのはまあ些か不自然でしょうし、まあ悪くはないでしょう」

 ちなみに被害者と呼んではいるが、ヴィクトールはちゃんと屈んで脱がされているので被害者ではなく共犯かもしれない。
 それはともかく。

「何かこう、キャンプをする浮かれポンチ感上がりますしねえ。ぼくも色違いの其れで、いざ行かん!」
「ええ、それは良いのですが……」

 言いながら、ヴィクトールは自分が着せられたTシャツを軽く引っ張る。
 何度見ても絶妙にダサいTシャツ。その辺りで探そうとしても見つからない程度にはダサいTシャツ。
 よく見つけてきたものだと、ヴィクトールは未散に感心してしまう。

「……にしてもこのTシャツ、どこで手に入れてきたんです?」
「こういうのは、観光資源を扱うお店で存外安く手に入るのですよ?」
「なるほど」

 謎は解けた。だからどうしたという話ではあるが。

「正直な話、脱げた所でまあ、困る様なプロポーションの軀では無い筈なのですが……取り敢えず可愛らしく悲鳴をあげる準備をしておきますか」

 言いながらも未散は、小さく笑みを浮かべる。

「でも、ぼくの事。守って下さるのでしょう?」
「ええ。ボクが……守りますから」

 ともかくキャンプ地の準備は進んでいき……他の場所でも、渡り豚の探索が始まっていた。

●渡り豚の影を求めて


「きますよ、怪鳥です!」
「煮ても焼いても食えない手合いに用事はないのです!」

 空舞う怪鳥を見つけた利香の指示が飛び、クーアのふぁーれが放たれる。
 渡り豚を狙ってやってきたのだろうか、それ自身は時期を外しているせいで煮ても焼いても食えはしない怪鳥が山の頂上を探索しに来た面々へと襲い掛かってくる。

「襲う気満々の魔獣に躊躇は出来ないからね……!」
「ギエー!?」

『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)のシムーンケイジが怪鳥の一体を捕らえ、そのまま大地へと叩き落とす。
 さほど強くはない。そう感じたカインではあったが……クーアたちが危なげなくもう1体の怪鳥を倒したことで、安堵の息を吐く。

「しかし、こんなところに怪鳥が2体もいるとはね」

 此処に来るまで山の幸を狩りながら来たカインではあったが、怪鳥がやってきたせいか森の動物たちはどれもこれも警戒心がマックス近くまで上がってしまっていた。

「しかし、こんなところに2体も居たとは……驚きなのです」
「標高の高い地点に豚より鳥の方が多いのは納得ではありますけどね」

 クーアと利香の言葉にカインは頷きながら考える。そう、その通りだ。
 カインの「冒険者」としての知識からしても、それに間違いはない。
 とはいえ、渡り豚という幻の食材を味わいに来たカインは無計画に此処に来たというわけでは、当然ない。

「美味しい物が食べられて楽しい冒険が出来ればそれはそれで大成功で良いとも思うけどね」

 そんな事を言いながらも、カインには思うところがあった。

「……此処に怪鳥が2体も居た理由……もしかして……」
「あ、豚なのです」

 そう、そこにはおだててもいないのに木に登っている豚が1匹。そんなことが出来るのは……。

「渡り豚!」
「ブヒーッ!」
「大人しく私に撃ち落とさヒャーッ!?」

 どういう理屈か一陣の風が吹き、物理法則を無視してクーアの服が宙を舞う。

「なんというチャンス! むむ! いえ、見たいってわけでは……」

 言いながらもガン見している利香はともかく。
 
「逃がさないよ!」

 一瞬とはいえ動きの止まった渡り豚をカインが見事に仕留める。
 そうして、まずは一匹確保。
 カインがえっちな男子で無かったことは、クーアにとっては幸運であったかどうか。
 そんな騒ぎのあった山頂ではない場所でも、同じように渡り豚を巡る冒険が繰り広げられている。
 たとえば頂上とキャンプ地を除くアダン山の中でも、渡り豚の捜索は続けられていた。

「渡り豚、そんな空想のような動物がいるのですか。それはとても良い。興味深い情報です」
「そのような食材があったとは知りませんでした。チーサ殿率いる調理班の皆さんが作る豚料理はいったいどんな味がするのでしょう」
「それを知る為には、豚を確保せねばなりませんね」
「ええ、頑張りましょう!」

『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)と共に薪用の枝を拾いながら、『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)はそう頷く。
 迅のやっている事は、周辺の仲間と協力しながらのキャンプ地外周の巡回だ。
 キャンプ地に近づく獣を狩ると同時に、渡り豚が誘われてやってきたりでもしたら狩ってやろうというわけだ。
 今のところ、渡り豚の姿は見えないが……。

「む、豚……いや、イノシシ!」

 鉄拳鳳墜で襲ってくるイノシシを叩き伏せている横では、同じようにボディがイノシシを叩き伏せている。

「まあ、これだけやっていればイノシシも誘き寄せられますか」

 要塞じみてきたキャンプ地を見ながらボディは言うが、それは純粋に賛辞が含まれた言葉で……迅もそれに同意する。

「この調子で渡り豚をおびき寄せられればよいのですが」
「さて、それは分かりませんが……どうでしょうね?」

 ボディが視線を向けた先には、茂みの中から姿を現した『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)がいる。

「今のところ、それらしきものは居ないね……でも不審な陰や物音、匂いには気を付けて」

 首を横に振りながら言うドゥーに迅とボディは頷く。
 そう、渡り豚は逃げ足が速い。
 それを捕まえるのには一瞬の油断も許されないだろうと分かっている。
 そして……この中で一番恐らくピリピリしているのもドゥーであるだろう。
 服の下、腰に巻いている包帯がその証だ。
 ドゥーには裸よりも見られたくないものがある。それ故のものだが……今のところ、それが活躍する機会はない。

「渡り豚……か。無事に捕まえる事が出来ればよいのだけど」
「ブー」

 言った瞬間、ドゥーがいるのとは別の茂みから渡り豚が顔を出して。

「「スーパーノヴァ‼」」

 瞬時に超絶加速し目の前の敵を粉砕する技を、ボディと迅が叩きこむ。
 あまりの超絶速度に渡り豚は逃げることすら思いつかないままに粉砕され……「あっ」という二人の声が響く。

「ひ、挽肉になってしまいましたね……」
「次は鉈でやりましょう。一撃で仕留められるでしょう」
「……とりあえず回収しようか」

 ドゥーに言われ、迅とボディは頷き……ともかく、渡り豚を確保である。
 
●周辺の森にて

「そら俺は川に潜めるがこりゃあ暇だな……」

 渡り豚が水場に来るだろうと睨み川に居た『倫理コード違反』晋 飛(p3p008588)は、そんな事を呟く。
 飛の知る限り、豚は綺麗好きだ。
 だからこそ、水を飲むにせよ身体を洗うにせよ水場に現れるだろうと考えていたのだが……中々現れない。
 あまりにも暇すぎて、飛はこれからのキャンプに思いを馳せてみる。

「しっかしキャンプたぁ楽しみだねぇ。飛ぶ豚までは、わかる。なんで服だけを器用に破壊すんのかこれがわからねぇが、折角なんで俺も見てみるとすっかぃ」

 何やら不穏な台詞を吐いてはいるが、ひとまず表面的には真面目にやるつもりだし真面目にやってもいる。
 飛はあくまで紳士的な男。人助けセンサーに反応し駆けつけた結果そういう場面に出くわすかもしれないが、それはあくまで役得なのだ。

「んん……? ありゃたい焼き……違うか。確かアレは……」

 呟く飛の視線の先に居たのはたい焼き……いや、『人外誘う香り』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)だ。
 あくまでギフトの効果でたい焼きに見えているだけであって、ベークはしっかりとしたディープシーであり鯛なのだ。
 そんなたい焼き……もといベークの側を歩くのは『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)だ。

「やったーお肉食べ放題! しかも幻の渡り豚なんて、三つ星のお店でしか食べられないと思ってた……え? なになにベーク先輩」
「味が楽しみですねー。違うのも来ちゃってますけど」
「たい焼きが豚を……」
「フランさん、なんか急に声が紳士だけど軽薄っぽくて、けどやる時はバッチリキメるおじさんっぽい声になりませんでした?」
「何その具体的なディス!? あとで覚えててね!?」

 ちなみに言ったのはフランではなく飛だが、それはさておき。
 精霊操作と動物疎通を使い周辺の情報を探っていたフランは、どうやら渡り豚があちこちを高速で移動したり隠れたりしていると知る。
 山の上から、今フランたちがいる周辺の森まで広く分かれてしまっているようだが……。

「よし、おびき寄せて罠にかけよう!」
「ということは」
「勿論、罠の餌はベーク先輩! 甘い香りを出してもらって、はい風の精霊さん拡散! おいしいたいやきあるよ~」
「もう餌扱いも慣れたもんです。逆に食ってやりましょう」

 そうして香る、たい焼きの香り。甘く、何処か香ばしい焼き立ての……そんな、完璧なるたい焼きの香りが風にのって。

「プギー!」
「たいやきガード!」
「ナチュラルに壁にしますねえ!?」

 巻き起こる風。脱げていくベークの装備。
 かくしてベークはアンコのみの姿に……なるわけではなく。見た目はそのままである。

「よかった、ベーク先輩の皮が解除されてアンコだけになるとかじゃなくて!」
「ま、期待してた状況とは違うが……大丈夫かい? お嬢さん方」

 そこに飛も現れ、渡り豚に一撃を入れ仕留めてしまう。
 
「助かりました! あたしのせくしーぼでぃの解禁の危機でしたからね!」
「……せくしー……?」
「ほんと、後で覚えててね?」
「ひえっ……」
「あー。これ、俺がお邪魔なやつか?」

 そんな会話が交わされているのとは別の場所で。
 
「……なんだかたい焼きの香りが漂ってくる……」

 仮のソロキャンプを設営して渡り豚を獣道を監視できる場所に居た『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は、そんな事を呟く。
 まさかそれがベークの香りとは思いもしないだろうが……その食欲を誘う香りは、マルベートに渡り豚のことを自然と思わせる。

「ふふっ、『幻の味』か。実に素敵な響きだ。これは何が何でも味わわせて貰わなくてはね!」

 折り畳みのキャンピングチェアをひとつに小さ目のサイドテーブルひとつ、待ち時間を無駄にしない為に本を一冊とワインを一本、そしてお気に入りのグラス。
 後は森の空気を味わいつつ読書とワインを楽しみながら耳と鼻に集中して、自然のオーケストラに交じる獣の息遣い、ワインの芳醇な香り……に混じる豚の香り。

「出たか……!」

 香りの漂う先を探り、マルベートは走る。

「初めてならば、まずは生で頂こうじゃないか……!」
「ブー!?」

 襲い来る捕食者……もといマルベートに脱衣攻撃を仕掛ける渡り豚ではあったが……元々ソロ行動。
 恥じるべき相手は此処には居ない。
 あっという間に仕留めた渡り豚を見下ろしながら、マルベートは呟く。

「……いや、そもそも私は露出の多い恰好だったな」

 そういうこともある。
 あるが……そうではない女性も当然いる。
 たとえば、ちょっとぼろぼろだけど頑丈なダンボールを被り気配を消している『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)。
 
「怪鳥が嗅ぎつけるという事は臭いで追うのがいい感じなのかしら」
 
 この場には出る可能性があるのは何も渡り豚だけではない。
 怪鳥にイノシシ、そして何処かの貴族が雇った私兵団に遭遇する可能性すらある。
 
「……ん」

 ガサガサと茂みをかき分けて現れたのは、その私兵団ではなく……『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)だ。

「胡桃か。そちらはどうだ?」
「こっちには居なかったの。オニキスは?」
「同じだ……イノシシは出たんだがな」

 イノシシと豚は似ているが、渡り豚と比べれば時期を外したイノシシなどは比べ物にならない。
 硬くて食べられない、そんな肉を確保したところで……これから始まる渡り豚パーティーの添え物にもなりはしない。
 この周辺に怪鳥が出ないのを見るに、やはり森の中には怪鳥は来ないのだろうかと……そんな事を胡桃は考える。

「エネミーサーチと温度視覚の併用までしているが……中々な」
「私もなの。ただ、さっきフランと会ったけど……あちこちに分散してるっぽいの」
「それは中々に面倒な話だな」

 流石は幻の食材か、とオニキスは呟く。

「捕まえなければ。なんとしても。どんな味なのか。どうやって食べようか。たのしみ」
「もちろんわたしも渡り豚食べたいのでがんばるの」
「一応罠も仕掛けてきている。角煮。引っかかってくれればいいが……生姜焼き。薪も確保してはいる。豚カツ」
「思考が飯色に染まってるの」
「そんなことはない。回鍋肉」
「そんなことあるの」
「ブー」

 とはいえ、分からないではない。楽しそうに言う胡桃に渡り豚も同意するかのように鳴いて。

「渡り豚!?」
「上空からだ!」
「ブブー!」

 そして吹く一陣の風。オニキスの服が物理法則を無視した脱げ方をして……しかし、オニキスは全く怯まない。

「火力低下……捕獲方針を変更。マジカル・キャプチャーネット!」
「堂々とし過ぎなの。炙り豚トロ!」
「……チャーシューもいいな」

 何やらオニキスの飯色思考が移ってしまったらしい胡桃が渡り豚を仕留めて。
 豚丼、という2人の声が響く。
 そう、渡り豚を各チームが仕留め始めている現状……その先にあるのは、十分な量を確保した渡り豚パーティのみだ。

●渡り豚がやってくる

 そんな彼等が帰還しようと向かってくる基地……もといキャンプ地では、ひと騒ぎが起こっていた。

「くっ……こっちに来たか! チーサさんを守らねば!」

 上空から襲ってきた渡り豚たちの群れ。
 この場が自分たちを狩って喰らわんとする者の本拠地だと気付いたのか。
 それともこの場を仮の住み家にでもしようというのか。
 ともかく襲ってくる渡り豚たちの群れのうちの数匹がチーサのいる調理場にも襲い掛かり……モカの服が宙を舞う。

「怯まず、恥ずかしがらず! とりゃー!」

 多少は恥ずかしがった方がいいだろうが、モカの蹴りが渡り豚を見事に仕留め。

「美味しく調理しますから、ね?」

 もう1体の渡り豚を彼者誰が仕留める。
 
「レディの前で脱ぐことになるのは信条にゃ反するが、突風なら向こう側に駆け抜けていく形になるはずなのでヨシ!」

 そんな事を言いながら、戻ってきたサンディが渡り豚を仕留めながら駆け抜けていく。
 その視界にチラリと映ったのは『脱げた』彼者誰である辺り、世界はサンディに優しくはない。

「よし、これでチーサさんを守れ……あれ!?」
「問題ねーのです」

 何やら裸エプロンっぽい格好になっているチーサにモカが声をあげるが、チーサにエプロンを投げつけられたモカは大人しくそれを纏う。
 どうせ時間が過ぎれば元に戻るし、チーサも20を超えているので安心だ。
 何が安心かは分からない。だが彼者誰も裸エプロンっぽい格好になったのは何かの法律に触れるかもしれない。
 心の安寧的な意味で。

「大丈夫ですか、チーサ殿! うおおおお!」

 外周から助けに戻ってきた迅の服がスポーンと脱げたり。

「社会的なダメージなんてものは気にしませんしね」
「周りの評価を気にしろです」

 ヴィクトールが裸エプロンになったり。

「うわ本当に飛んでやがる……さっさと火に入れてやらないとな!」

 すでに裸エプロンの錬が渡り豚を仕留めたり。
 羞恥心未発達故に裸エプロンを欠片も気にしないボディが渡り豚を殴打したり。

「今度こそ大丈夫かお嬢さんたち……ぐえっ!?」

 人助けセンサーが反応して急行してきた飛が男達の裸エプロンを目撃するという痛ましい事故があったり。

「よりによって裸にする能力持つなんて…渡り豚の馬鹿ーッ!」

 やっぱり結果として裸エプロンになった朝顔が渡り豚を仕留めたりしていた。

「……それにしても、裸って……いや、敵が嫌がる能力を持つ事は正しいんですけど! なんでよりにもよって、ですよ⁉」
「どうせ時間で治るです」
「チーサ先輩はもっと羞恥心を! ちょっと見た目が犯罪っぽいです!」
「それに関しては言われたくねーのです」

 この場に彼女の想い人がいなかったのは幸運だったのかどうか。
 ともかく、阿鼻叫喚の裸エプロン地獄となったキャンプ地では、ギフトの効果で瞬時に着替えられるЯ・E・D以外は大体裸エプロンである。

「うん、わたしは貴方達の天敵だよ。悪い豚さんは大人しく食べられてね?」

 言いながら次々と違う服を纏い舞うЯ・E・Dは、少し幻想的にも見えて……そうして、襲撃も終わる。
 多少の心の傷とか、そういうのを残して。

「ただいま……え、何事!?」

 直後に戻ってきて、飛の裸エプロンを目撃したカインが思わず後ずさったのも、無理のないことと言えるだろう。

●世界を渡る美味、渡り豚

「あ、たいやき。あっため直した方がいいよね。うんうん、網の上にそぉい!」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"何事もなく焼こうとしないでください!」
「プレイは余所でやれです」
「違うんじゃないかな……」

 マルベートのツッコミが響くが、ともかく美味しく焼かれそうになったベークは網の上から降ろされ、代わりにフランが豚肉を焼き始める。
 そう、調理場は今まさに一番忙しい。
 チーサが、モカが、錬が、彼者誰が、ドゥーが……調理を出来る者も出来ない者も、自分に出来る事を探して忙しく動き回る。

「コャー。わたしも中々の食道楽を自称しておりますがー、ヒトの欲望は尽きぬもの。美食を求めて数千里。努力を厭わない姿勢は感嘆するのよ」
「旨いものは世界に溢れてるのです。ボーッとしてたら半分も食えねーってだけなのです」
「それは確かに同意なのよ!」

 言いながら胡桃は焼き肉用に渡り豚の肉を刻む。
 勿論、炙り豚トロ用の部分も仕込みながら……だ。

「豚料理ってぇとやっぱチャーシューだろ。つってもタレにつけてる時間もねぇし山菜に包んで香味料と豆板醬で味付けてワイルドホット焼きといきますかい!」
「グッドなの、どんどんやるの!」
「ええ、幸い渡り豚は唸る程あるのです」

 本拠地で仕留めた渡り豚、そして捜索隊が見つけてきた渡り豚。
 この場の全員がお腹いっぱい食べてお土産にするくらいには狩れている。

「ごはんも欲しいな。炊き立ての」
「今炊いていますよ」

 オニキスの呟きに、米を持ち込んでいた彼者誰が答え、オニキスが小さく歓声をあげる。
 そう、これだけ料理を出来る者とサポーターがいればメニューも自由自在。
 
「豚カツは基本として生姜焼きとかソーセージとかもお願いしたいな」
「カツなら丁度揚がったのです。活躍したんだから、一足先に味見させてやるのです」
「ほふっ、うま……何これ!? え、これが豚肉!?」

 チーサにカツを口に突っ込まれたЯ・E・Dは、思わずそんな声をあげる。
 旨い。
 それ以外に感想の言いようがない。
 油がちょうどいい。白身と赤身のバランス。歯ごたえ。ジューシーさ。
 言おうと思えば幾らでも言える。
 しかしどれも「その通り」であるが「そうではない」とも言える。
 ただ、旨い。既知の豚肉の全てを超えた味。
 これが旬の渡り豚……幻の食材の1つ。
 
「実は私も一番得意なのは味見。全面的に任せてくれていいよ」
「ほれ、です」
「美味しい……!」

 パリッと美味しいウインナーを齧りながら、その無表情でも分かる程の至福をオニキスはその顔に宿す。
 本当に美味い豚肉は何をやっても美味い。
 それが如実に分かる味だった。

「もう1つ……」
「さ、味見は終わりです。仕上げるですよ!」

 そうして完成したのは、思いつく限りの渡り豚のお肉のフルコース。
 焼き物、煮物、揚げ物、炒め物、スープ。
 様々な料理が並び、バーベキューまで完備である。

「信じてたぜ! 俺の分がある事を……! 美味え……!」

 チャーシューを齧ったサンディが感動の声をあげたのを皮切りに、各所で喜びの声があがっていく。

「ポークソテーにしてトマトソースを乗せて、そして程よく溶けたカマンベールチーズ……ああ、やっぱり美味しいですね!」
「焼き豚も美味しいのです」
「それにしても渡り豚いいですね。故郷は食べ物が少ないので来てくれると助かるのですが……そんな危ない場所には近づかないですかね」

 迅の疑問には誰もが「分からない」と答えるしかないだろう。
 何しろ渡り豚のルートには不明点が多い。
 だからこその幻の食材。けれど、この日この時だけは潤沢に存在する食材だ。

「……うん、いいな」

 炙り豚トロを口にしながら、ドゥーはそう呟く。
 ドゥーの希望は、最後に「楽しかった」と帰る事。
 その希望にして願いは、間違いなく成就するだろう。
 渡り豚は、こんなにも美味しくて。皆での食事は、こんなにも楽しいのだから。

「そういや私兵団は出なかったな」
「確かに会わなかったね。諦めて帰ったのかな……?」
「何もなかったなら、それが一番いいの」

 飛にカインがそう答え、胡桃がそう締める。
 そう、居るという話だった私兵団には誰も会わなかった。
 それが良い事だったのか悪い事だったのかは分からないが……トラブルにならなかったという点だけを考えれば、きっと良い事だったのだろう。
 何しろ、渡り豚はこんなに美味しくて。
 長期戦に備えたキャンプ地は万全だ。
 何の憂いもない渡り豚パーティーは……宵の時間を過ぎても、楽しく続くのだった。



成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

誰かが裸にエプロンと言ったから。
A地点は裸エプロン祭り。

私は悪くない(処刑場に引っ立てられながら)

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