PandoraPartyProject

シナリオ詳細

潔斎の私雨

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●黄泉津の守護者
「呪獣を『斃さず』解放できるのではないか、と黄龍と考えておりました。
 そして……もし、叶うならば、皆様の力を借り子らを救う手が正しき者であるかを確かめたいのです」
 尾をゆらりと揺らしたのは黄泉津瑞神 (p3n000198)――瑞であった。小型の犬の姿をした小さな彼女は丁寧に頭を下げる。
 幼い姿をしては居るが黄泉津という島がその姿を保ち『大きな意味での平和』を保てているのは彼女の力に寄るところが多いと囁かれる。詰る所、彼女は『神』であるという事だ。
「お手伝い、して頂けますでしょうか」
「わん!(はい!)わんわんわん!(もちろんですよ! ねえ、ご主人様!?)」
 尾をたしたしと揺らしていたのはポメ太郎――ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の使い魔である。
 瑞と近しい位置で喜ぶように尾を揺らす彼はどうやら自身の仲間だと認識している様だ。
「瑞殿、済まない。使い魔が失礼を」
「いいえ……。わたしもポメ太郎さまとは仲間のようなものでしょう。ねえ? 黄龍」
 なんと答えたら良いものかと首を捻った黄龍 (p3n000192)は「そうじゃなあ」と呟く。今日は男性の姿をとっているようだ。
 彼の傍からてこてこと進み、ポメ太郎に「ご一緒してくれるのならばうれしいです」と喜ばしいと言わんばかりに微笑む瑞神。
「――つまり、瑞殿の考える『呪獣の穢れ祓い』の実験を行うべく神使に同行して欲しいと言うことで合っているだろうか」
「はい。此れより参るのは自凝島に程近い場所です。
 自凝島……黄龍の分霊であります麒麟が納めるその島は今も危機が蔓延っていることでしょう。
 その地に乗り込むためにはいくつかの準備をしておくべきでしょう。賀澄と話し合ったのはいくつかあります。
 その一つが『呪獣の穢れ祓い』です。周辺の『けがれ』を少なくし、存在するであろう肉腫達の脅威を出来うる限り退ける……」
 嘗て、イレギュラーズが囚われた場所でもある自凝島(おのころしま)は未だに肉腫達による支配があるだろうと推定されている。
 今は瑞神の再誕で幾許かマシになったけがれもその地だけは濃く、黄龍は分霊である麒麟の力がまたも弱くなっていることを感じているのだろう。
「吾と瑞は外部からのサポーターになるだろうが、その為にも準備を整えたいのだ。
 賀澄とて人の子よ、主等を危険地帯に送り込み自身は安置でぬくぬくして居るのが我慢ならんのだ。無論、心優しき瑞もな」
「黄龍、あまりに話してしまっては賀澄が羞恥に打ち震えてしまうではありませんか……。
 まあ、その通りなのです。わたし達が出来る限り皆様の危機を無くすための準備を整えたい。
 これはわたしの我儘ではありますが、道を開く者としての責務でもあります。……どうか、ご理解頂ければ」
 小さな体を縮めて頭を下げた瑞は今回は『穢れ払い』を手伝って欲しいとそう言った。

 場所は流刑の浜と呼ばれる場所だ。
 その地に最近よく見られるようになった呪獣を生け捕りに為て欲しいのだという。
 儀式には人手が必要だ。その手伝いを行ってくれても構わないと瑞は願う。
「どうか……ご協力頂ければ。宜しくお願い致します」

GMコメント

 どうぶつの、圧が強い
 夏あかねです。

●成功条件
 呪獣を浄化してみる

●自凝島(参考情報)
 神威神楽による流刑の地。悍ましき呪いの蔓延る罪人の終の地です。<天之四霊>自凝島で登場しました。
 今回はその近くまで参ります。

●流刑の浜
 そう呼ばれる黄泉津の海沿い。松の木が印象的です。罪人達の拘置所が程近くにあり、流刑を行う黄泉津本島より離れた小島・自凝島を一望することが出来ます。その地の穢れは流刑の浜に立っていても感じるほどです。
 足場や視界に問題はありませんが拘置所が近いことは留意して頂けますと幸いです。
 最近よく見られるという呪獣はとても巨大なようです。

●呪獣
 1匹ですがとても巨大であり、無数の腕を持ちます。ムカデにも似た姿ですが、所々に負の気配やけがれを感じます。
 海を渡ってきたのか、海の香りを纏っているようです。とても巨大ですのでちょっとしたことでは倒れません。
 ある程度は全力で挑んで頂いても大丈夫です。瑞が観察していますのである一定のラインを過ぎたら合図してくれるでしょう。
 生け捕りをお願い致します。

●穢れ払い
 黄泉津瑞神と協力して呪獣の汚れを祓い、普通の妖に戻してあげて下さい。
 穢れ払いの方法は瑞曰く簡単です。清水を使用するなどの作法の中で協力できる箇所もありますので、是非手伝ってあげて下さい。
 お手伝いはそれ程難しくはありません。ポメ太郎でも大丈夫だと瑞は言います。

●瑞
 黄泉津瑞神です。「気軽に瑞とお呼びください」と名乗っています。
 白くてふわふわした子犬です。拙作の『<神逐>黄泉津瑞神』にて天守閣の上に存在した大きな白い犬が本来の大きさです。
 けがれを落としたために再誕し、今は幼体としててこてこと歩いています。
 非常に心優しく、穏やかな気質です。

●黄龍
 黄泉津の神霊。男女どちらの姿を取ることが出来る黄金の龍です。人型でついていきます。
 所謂瑞神の保護者です。瑞を護るための行動をします。それ以外の戦闘行動は行いません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 潔斎の私雨完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月20日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸

リプレイ


 春の近づく浜に吹いた風は未だ冷たく。尾を揺らがせたポメラニアンは一歩前足を出しては埋まったことに驚くようにキャインと鳴いた。
「ポメ太郎、大丈夫です。ただの浜辺です。ですが……危ないことはしないようにして下さいね」
 肉球にへばりついた細かな砂を払って抱え上げた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は尾を揺らがすポメ太郎に忠告を一つ。
 何かあればご主人様――『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が悲しむと囁けば、真面目な顔をしたポメラニアンは「わん!」と元気良く鳴いた。勿論、リュティス本人も悲しむのだと付け足せば嬉しそうに尾が千切れんばかりに振られ続ける。
「も、もふ……もふ圧が……っょぃ」
 可愛らしく尾を振り続けるポメ太郎だけではない、ちょこりと座った白い毛並みの犬――此方は、大精霊にして守護神と祀られた黄泉津瑞神である。アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は神霊である彼女とポメ太郎を見て滾るもふ欲を抑えるように酒蔵の聖女をチラ見して頭を振った。
「……ワンコは癒しだ。ポメ太郎も瑞もモフモフで撫で回してぇ――と、欲求が漏れちまったかもしれんが気にすンな!」
 笑う『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)ににくきゅうをぺたりとした瑞は「撫で撫でしますか」と問い掛ける。レイチェルは「ありがとさん」と子犬の頭を撫で付けた。
「目的は呪獣の穢れ祓いだろ? 分かってるぞ」
「はい。此の地は特に『濃い』のです。ですから穢れ祓いをと――」
 佇む自凝島を見遣った瑞に大きく頷いたのは『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)。呪獣の浄化を試し見て、穢れを出来る限り少なくすることで麒麟が座すという島へと渡る準備をするのだという。現状の儘で飛び込めば無数の肉腫に囲まれて命の危険まで感じるというのだから、此処で協力を拒む理由はないだろう。
「下準備ってやつは大切だろう。にしても斃すことなく浄化する、か……。ふふ。そうだね、だいじょうぶ。きっとうまくいくさ」
 斃さず命を救う――それは難しく、そして大切なことであることをシキは知っている。瑞神さえ『神霊』でなければ消滅していたはずの存在だ。
 彼女の場合はこの黄泉津という地に蔓延ったけがれを取り込んでの暴走であったが――呪獣たちは『人々の手で狂わされた』存在だ。
「レーさんは妖怪さんの事をよく知らないっきゅ。魔物とどんな違いがあるのかとか、いい妖怪や悪い妖怪、人に友好的なのか敵意を持ってるのか。
 よく知らないっきゅ……だからこれから知っていくっきゅ! だから助けたいっきゅ!」
 やる気漲らせる『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)へと『青樹護』フリークライ(p3p008595)は同意するように言葉を繋いだ。
「ン。呪獣サレタ 妖サン 斃サズ 解放。フリックモ 可能性 願ウ。
 ソレニ 自凝島 解放 繋ガル 俄然 頑張ル。麒麟モ 頑張ッテル。フリック達 応エル」
 そう、自凝島――それは嘗ては流刑になった者達が余生を過ごすための島であった。
 その地に蔓延るのは肉腫達である。隠れ蓑とされ、肉腫達を赦してしまったのは神威神楽の落ち度であり、麒麟とのリンクが途絶えた黄龍の責任とする声もある。だが、現段階で責任を問うのも可笑しな事だ。最早事は進んでいるのだから。
「我々が取れる策の一つとして考え得るという事。ならば可能な限り不安要素は取り払い、この依頼を成功させねばな。一欠けらの光明でも見つかれば良いのだが……」
「自凝島、あまり長居するべき場所ではないと思うが……だが、その地を解放するためだ。
 こういう所だからこそ呪獣が現れたのかもしれんな。穢れ払いはなんとしても成功させたい、そのために、俺が成すべき事を為そう」
 自凝島を見遣るベネディクトに神威神楽で生きる者として『背負い歩む者』金枝 繁茂(p3p008917)は成すべき事をと決意する。
「それに……それにムカデさんにも大切な者が、ムカデさんを待ってる妖怪がいるかもしれないから、絶対に助けるっきゅ!」
 妖にとっても何かしらの関係があるだろうとレーゲンが告げれば「わん!(そのとおりです!)」とポメ太郎が鳴いた。
「……ポメ太郎。瑞殿達の側にいて、邪魔はせぬ様に。お手伝いはしても良いが……いや、信頼するぞ。任せた」
 黄龍には申し訳ないと一瞥を送れば楽しげな笑みが返される。一抹の不安は拭えないが、彼とて使い魔だ。賢い動きをすることもあると、信頼を置いてやる。
「ア……鳥サン達 瑞 ポメ太郎 混ザル モフモフアップ 確認。ン。キット 鳥サン達モ 応援シテクレテル」
 フリークライの穏やかな言葉に瑞とポメ太郎の尾が揺れたことをレイチェルとシキは見逃さず可笑しそうに小さく笑った。


 神霊の類で目や腕が多い者は賢さや強さが目に見える形で顕現したものであるとされる。そうした文化を学んだことがあると言うアーマデルは浜を蠢く百足をその双眸へと映した。
「要は、器に収まり切らなくて溢れた姿なのだと。つまり……あれは百足に似ているが、元がそうだとは限らないという訳だな。
 だが、今は便宜上で『百足』と呼ぼう。以前は斃すしかなかったが、戻せるのならそうしてやりたい」
「ああ、百足と呼ぶが良いぞ。吾もアレが呪獣となる前はどのような妖で在ったかは把握しておらなんだ」
 大きく頷いた黄龍。呪獣の様子をまじまじと見詰める瑞に観察を再度願い出た繁茂に神霊は尾をゆらゆらとさせて喜んだ。頼って貰うのが嬉しいのだろう。
「……全然関係ないが、黄龍殿の性別は気分なんだろうか、何か基準があるんだろうか……?」
「気分である。好みは何方だ? ああ、幼児でも老人でも変容する事は吝かではないぞ」
 揶揄うような黄龍の声音に「黄龍」と声を掛けたシキ。今はそれどころではないのが現状だ。レイチェルが蝙蝠を使役して拘置所の周辺を偵察すれば、常通りの生活が営まれている。
「アチラさんからお出ましだ。良いか?」
 レイチェルの問い掛けにフリークライははっとしたように「鳥サン達」と自身の身体に止まり穏やかに過ごしている小鳥へと声を掛ける。
「鳥サン達 避難。切リ裂カレタカラ ダケジャナイ 呪イ込メラレ 恨ンデモナイ相手 呪ワサレル。
 ソレハ トテモ 辛イコト。待ッテテ 妖サン。今 助ケル」
 フリークライの言葉に、アーマデルは頷き拘置所を背に護る様に布陣した。ずるりと音を立てて進み来る巨体。無数の脚が縮まり広がりと動き続ける、生命の営みの一欠片。
「――成程、巨大だな。あの巨体と無数の腕、注意すべきはそこか。リュティス、問題無いな?」
「ええ、問題ありません。敵の長所を封じてみせましょう」
 矢を番える。赫々たる戦意を滾らせたその眸が移し込んだ巨躯は緩慢な動きを繰り返しながらイレギュラーズへと飛び込んだ。
 すう、と息を吸った。美しき花冠、それは今は必要ないとでも言うように繁茂は華奢な手甲に包まれた掌に力を込める。
 百足の巨躯を受け止めて、その腕に奔った僅かな痛みに眉を顰める。聳えたる巨壁――そう称するに値する鬼人の身体を包んだ神代伝承の霊布がはためいた。
「此処は通さん――!」
 繁茂の言葉に小さく頷いてレイチェルは回り込み、その身に刻まれた鮮烈たる緋に魔力を奔らせた。指先から滴り落ちる血潮が紅蓮の炎を生み出す。
「……あァ、言っただろ? 通行止めだってな」
「通りたいなら、通して行けって。ふふ、悪役(アンチヒーロー)みたいだとは思わない?」
 処刑剣は変幻するように百足へと一撃を投じた。恍惚のまにまに、首切りに特化した刃が節へぶつかり鈍い音を立てる。
 薄雲の如き束ねた長髪を揺らがせて、身を転じる。放たれたのは眩いばかりの光。それは神聖たる気配を宿し邪悪を払うが如く広がった。

 ――レーさんっきゅ!

 心を伝えるように。白い彼岸花と共に、レーゲンは声を掛ける。名前も知らない赤の他人に刃を振るわれるのは恐ろしい。これは『殺戮』ではなくて『救済』と少しでも百足に伝われと願うように声を掛けた。
 繁茂が低く唸る。腕に奔った痛み、それをフリークライが癒し支え続ける。だが、苦しい。百足の苦しみを感じ取るように繁茂は唇を噛み締める。
「ポメ太郎と瑞、そして蝙蝠と鳥たちは吾も護ろうぞ。眼前の妖へ『瑞の我儘(きゅうさい)』を与えてやって呉れ」
「ああ、感謝する。ポメ太郎、良い子にしているんだぞ」
「わん!」
 使い魔が尾をゆらゆらとさせる様子を一瞥したベネディクトは柄のへし折れたグロリアスが宿すバッドエンドを払うように振り上げた。動き回る百足を繁茂と共に先には進ませぬ為にと放ったのが膂力全てを奔る雷撃へと変換した一閃。
 ばちり、と音立つ。
 その傍らで、控えていたと言うようにリボンを揺らがせたリュティスの唇が音を乗せた。メイドは主人をサポートするように悍ましき畏れを呪獣へと振り撒いた。

 ―――オオオオオオ!

 その叫び声が、呪いに蝕まれたという証拠か。まるで毒が如く身を蝕んでは離すことの無い苦しみにフリークライは自身の仲間達を癒やしながら囁いた。
「受刑者逃亡モダケド 妖怪サン 穢レ 毒 苦シメル サセナイ」
 フリークライの癒しを見守る瑞は目を逸らすことはない。傷ましい、妖さえも瑞神と呼ばれた神霊にとっては我が子のように愛おしい。
 それが、愛しい子らが傷付け合う風景を眺める瑞の表情が暗くなる。
「瑞」
 大丈夫かと声を掛けるアーマデルに瑞は「此方は大丈夫です。ですから、どうか、救ってやって下さい」と願うように言った。
 そうだ。苦しんでいるのだ。アーマデルは鞭剣を撓らせる。志半ばで斃れた英霊の未練の結晶、それが奏でた音色は呪いの如く蝕んだ。
 その悍ましさが百足の纏うものと一緒であるとなれば哀れで仕方がない。アーマデルは唇を震わせる。傍らで見守る霊魂に「危ないことはするなよ」と囁けば、心配をすることが可笑しいというようにけらりと笑う。彼岸へ渡り損ねた彼女の笑みに溜息漏らし百足へと向き合った。


「もうすぐです、みなさま、よろしいでしょうか!」
 瑞の声に、イレギュラーズの顔色が変わった。ばたん、ばたん、と大きな音を立てて暴れる呪獣の攻撃が後方へと飛ぶことに気づきリュティスは身を投じる。
 ばちりと音を立てた百足の一撃に、リュティスの弓が指先から離れ踊る。それでも、怯むこと無くメイドは溜息を吐いた。
「全く……世話が焼けますね」
「くぅん」
 ポメ太郎を庇った一撃。攻撃に意識を割くことなく統率に意識を向けたフリークライの合図と共にアーマデルが怨嗟の音色を響かせた。
 包み込むその苦しみに藻掻き苦しむ様を見遣れば行く手遮る繁茂も苦しげに表情を歪める。
 一体どうしてこの様なことになったのだろうかと、そう告げるように広く放たれた閃光。
 レーゲンはオパールグリーンのハンドベルをゆらゆらと揺らがせた。その音色を響かせて、神聖の光を纏い続ける。
 その命を奪わぬように。『殺さず』を心がけるイレギュラーズ達は瑞の合図に応じて攻撃方法を変えた。
 リュティスと僅かに視線を交わらせ、言葉も無くベネディクトは地を踏み締める。後方でポメ太郎を抱えたリュティスは小さく頷いた。
 蹴撃を放ったベネディクトは「苦しいものだな」と雷撃で動きを僅かに弱める妖を見て小さく呟いた。
「ええ。これも人の勝手――業を背負わされるのも苦しいものです」
 エプロンドレスを摘まみ上げたリュティスの前を影が行く。
 躍る様に刃を振りかざす。その一閃、硬い妖の身体に跳ね返った刃を気にすること無く体制を立て直す。
「君の命が。また普通に生きられるように。どうか少しばかり眠っていておくれね」
 囁く言葉と共にシキの刃が翻った。命を奪うためのそれは、今は、誰かの命を救うために。
 人の命を奪うことだけが生業であった娘には余りにも似合わぬ行い。それは、命を救う事を生業とする医者、レイチェルとは対照的で。
「――……悪いなァ。これもアンタの穢れを祓う為だ」
 不死ノ王は呼吸をするように容易く。他者の命を吸い取った。
 朽ちること無き月下美人。夜の魔が密やかに安らかな死を誘うように蒼白い妖気を漂わせた。それこそが、妖の生気であろうか。
 その隙へ飛び込んだシキの慈悲を帯びた一撃が放たれる。
 おやすみなさいと唇に音を乗せれば呪い帯びた妖はずずんと音を立てて転がった。

「瑞、手伝うことはあるだろうか。やり方を憶えておけば何かに役が立つのではないかと思ったのだが……」
 傍らの霊魂に離れるようにと指示をしたアーマデルに「わたしの力でないと中々難しいのが現状です」と残念そうに耳をぺしょりと折った瑞。
 手伝うことは出来るが、瑞なしでは其れを実行できないのだろう。穢れ祓いを確立できるのだろうかと問うた繁茂。
 複製肉腫は救う手立てがあるが、純然たる『純正(オリジン)』や『膠窈(セバストス)』にはどうする事もできない。瑞は「そこまでは、どうでしょう」と悲しげに目を伏せた。
「わたしも子らを――肉腫となった愛い子を救いたいと思います。それでも、狂気や魔種と言った性質反転には手立てがないのも実情」
「そうか……」
 苦しげに呟いた繁茂に「力及ばず」と瑞は悲しげに尾を撓らせた。その傍らで励ますように肩へと手を置いたポメ太郎。ポメ太郎と慌てるベネディクトを他所にリュティスは「宜しいのでは」と微笑む。
「儀式 手伝ウ 心 込メル 青龍 加護 瑞 支援可能ナラ 活用」
「ありがとうございます。青龍の力があれば心強いです」
 それも自身の愛しい子であると喜ばしげな瑞の身体が人間へと変化する。犬の身では難しいことも多いのだろう。その様にショックを受けたポメ太郎は「ええ!? 人間!?」とリュティスと瑞を何度も見比べる。
「……犬です」
「瑞神」
「……わたしは、犬です」
 ポメ太郎への優しさであったのだろう。倒れた百足が害を為す存在であったかは定かではないが心優しき神霊が救いの手を差し伸べてくれるのならば安心だとベネディクトはポメ太郎を撫でた。
「ポメ太郎、サポートをします。……成功させましょうね」
 主人と自分の期待を背負ったのだと囁くリュティスからのプレッシャー(?)にポメは背をぴんっと伸ばした。
「皆さんにわたしの神力を通した霊水をお渡しします。これを、この子に掛けては頂けませんか?」
 瑞に頷いて、飛行を使用して水を掛けるシキ。作法は簡単であれど、瑞の力を媒体にするのならば、と気遣えば「大丈夫です」と尾を揺らがせる。
「殺さねぇで済むなら、それが一番だ。瑞は身体に負担掛かってないか? 大丈夫なら、それで良い」
「はい。わたしは苦しくありませんよ。みなさんが居ますから」
 嬉しそうに尾を揺らした瑞にレイチェルは「わかった」と頷いた。ポメ太郎が尾をぶんぶん振りながら水を掛けたいと水筒を鍬手居る事に気付きレイチェルが抱え上げる。
「ほら」
「わん!」
「レイチェル様、有難うございます」
 ポメ太郎のサポーター、リュティスに「構わねェよ」とレイチェルは小さく笑った。
「ねぇ、君は普通の妖に戻れるのかい。……いや、戻れるって信じてる。
 今回ばかりは止まない雨の音は聞きたくなくて。清い雨が、どうか。君の穢れもぜんぶ流し去ってくれますように」

 淡く、青く煌めく。

 それが穢れ祓いだと気づきアーマデルは息を飲んだ。淡い光に包まれる百足は徐々に小さく小さく変容し続ける。人の子程度の大きさとなった妖にフリークライは癒しを送った。
「妖サン 思ウ所アルダロウケド 只々 癒ヤス 怒ッテモ 恨ンデテモ ソウデナクテモ 癒ヤス 命ナノダカラ」
「そうっきゅ。レーさんたちはムカデさんを護りたかったっきゅ!
 海の匂いがするけど海は好きっきゅ? レーさんの領地は海の中にあるから、いっぱい海を満喫できるっきゅよ?遊びに来るっきゅ?」
 嬉しそうに声を掛けるレーゲンは出来れば、妖に楽しみを与えてやりたいと考えていた。その心に声を掛け、その苦しみから解き放つことが出来ればと工夫する。
 そんな姿に瑞は「妖も喜んでいると思いますよ」と微笑んだ。此れが穢れ祓い――まだ、未完成なところはある。
 それでも、少しでも命を守り、そしてこの国の汚れを祓うことが出来るならば。

「――あの場所へ、行くための準備を整えましょう」
 瑞は静かにそう言ってからポメ太郎を抱き締めた。共に来てくれて、有難うと感謝を告げるように。

成否

成功

MVP

レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 犬の圧がとても……凄いですね。すごいもふ圧。

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