PandoraPartyProject

シナリオ詳細

精霊狩り

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深緑の精霊
 深緑、そのとあるエリアに存在する小さな村、クレッセス。
 これと言った産業も名産もない場所ではあったが、春には豊かな実りを、冬にはささやかな糧をもたらす、肥沃な森林地帯が傍に存在し、穏やかやな生活を送る村人たちで、内部は活気に満ちていた。
 その村の中。元気に遊ぶ子供たちが、森の奥へと指をさした。
「あ、クレッセスさまだ!」
 そちらの方へと目を向けてみれば、巨大な鹿のような生物が、此方を覗いているのが見えただろう。特異な点は、その足が霞のようにかすんで見えないこと、そして、その頭部より映えている二つの角が、右角は様々な花々が咲き乱れる美しい角であり、左角が氷が角の形を模ったような輝く角であることだろう。
 精霊鹿、クレッセス。村の名の元ともなったこの精霊は、春の森に豊穣を、冬の森に温かな糧をもたらすとされ、この村の多くの人々からの信仰と親愛を向けられた対象である。クレッセスもまた、村の人々を愛し、その神秘の力を惜しげもなく分け与えた。
 共に生き、共に尊敬しあう。理想的な関係であっただろう。
 子供の傍らにいた母親もまた、笑顔でクレッセスに向けて、一礼した。
「まぁ、クレッセス様。お散歩ですか? 今日は暖かくて過ごしやすいですね」
 その言葉を理解しているかのように、クレッセスは一声、鳴いた。村の人々が今日も健やかに過ごしていることを確認したのだろうか、クレッセスは満足げに一声鳴くと、森の奥へと姿を消した。
 ……森の影から。そんな彼らの営みを見つめる、一人の少年の姿があった。
「ふーん」
 赤毛の少年はどうでも良さげに鼻を鳴らすと、クレッセスを追って森の奥へと消えた――。

●精霊狩り
「まぁ、そう言うわけでさ。このクレッセスってのを狩りたいんだよな」
 ギルド・ローレット。その拠点の一つ。酒場も兼ねたそこのテーブルについて、赤毛の少年――ユリアンはイレギュラーズ達をへ、そう告げた。
 曰く。ユリアンは、ラサのとある大物より、クレッセスと言う大鹿の角を手に入れてきてほしい、と依頼をされたのだという。
「そうなん? でも、ローレット(アタシら)に回さなくても、一人で狩ってくれば丸儲けじゃないの?」
 ジェック・アーロン (p3p004755)が胡乱気に尋ねるのへ、ユリアンは肩をすくめて頭を振った。
「それがてんでダメでよ。俺はほら、どっちかってーと猟師タイプだから? 罠仕掛けたり奇襲しかけたりが本分なんだが、あの鹿、頭がいいらしくてちっとも引っかからねぇ。ツテに聴いてみりゃあ、今まで何人もの同業者が狩ろうとして失敗したらしいぜ?」
「なるほど。手に負えなくて、俺たちに投げようってわけだ」
 サンディ・カルタ (p3p000438)が目を細めて、注文したソーダ水を一口、飲む。
「まぁ、そう言うなって。今回の依頼主は――まぁ、まだ名前は言えねぇが。ラサでは著名な大富豪様だ。今回の依頼を成功させれば覚えよく、また仕事をおろしてくれるかもしれねぇ。悪名(なまえ)を売るにはいい依頼だと思うぜ?」
「しかしラサって言ったら、今はファルベライズで大騒ぎだろ? 依頼主はそっちの方には興味ねぇの?」
 キドー (p3p000244)が頬杖をつきつつ尋ねるのへ、ユリアンはふむ、と唸った。
「興味ねぇんだと。何でも、『なんでも願いが叶う等と言う物ほどつまらないものはない』とかなんとか……ま、好事家の考えることはよくわからねぇわな、俺には」
「一応聞くけどさ。そのクレッセスっての、村の信仰対象みたいな感じなんだろ?」
 サンディが聞くのへ、「まぁ、そうだな」とユリアンは答える。
「俺達がそれを狩ったらさ、その村ってどうなんの?」
「知らねぇ。興味もねぇ」
 ユリアンは笑った。
「いやさ、人間て、強いじゃん? 別に信じるモノの一匹や二匹無くなった所で、別にどうって事ねぇって。な」
(こいつ、相変わらず悪党だな……)
 胸中で、旧知の友をそのように評価するのは、シラス (p3p004421)だ。
 前向きなように聞こえて、ユリアンの発言は最悪の分類である。もしクレッセスの存在が村の人々の心の拠り所となっているのなら、今回の依頼は、村の人々の心を、尊厳を破壊することに他ならない。それにクレッセスが事実、村の生活にその力を使っているのだとしたら、クレッセスが居なくなれば、村の生活そのものが成り立たなくなるだろう。
 どう転んでも村に待っているのは、信仰対象を奪われ、生活そのものも奪われる、絶望の二文字。それをユリアンは、知らないし興味もない、の一言で切って捨てた。やはり根っからの悪党である。
(むしろ、直接殺しをやらない分優しい、と思ってるんだろうなぁ……)
 シラスは苦笑した。
「ま、依頼を受けた以上、完遂するのがローレットだ」
 シラスの言葉に、
「そうじゃんねー。アタシはやるって決めたし、後のことは後で考えるよ」
 ジェックをはじめとし、仲間達は頷いた。この村にどのような結末が待っていようと、結局は、やるしかないのである。
「まて。一つ聞きたい」
 ふと、それまで沈黙を保っていた咲花・百合子 (p3p001385)が声上げた。
「吾が興味を持つのは、ただ一点――これは、手応えのある狩りであろうな」
 じ、と、百合子がユリアンを睨み据える。
「ただの獣狩りで吾らを利用するな。相応の『敵』でなければ、吾は納得せん」
「そう来たか。まぁ、アンタはそう言うタイプだろうよ」
 キドーがけけ、と笑い声をあげた。
「で、どうなんよ、ユリアンくぅん?」
 挑発するように尋ねるキドー、そして睨みつける百合子へ、ユリアンは口の端を釣り上げて、張り合った。
「そりゃもう。満足いただけると思うぜ」
 にぃ、と百合子は笑った。
 契約は成立した。
 狩りが、始まろうとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は、イレギュラーズ達への依頼(リクエスト)により発生した依頼となっています。

●成功条件
 『精霊鹿、クレッセス』を討伐し、『豊穣の角』『冷厳の角』のどちらか、あるいは両方を持ち帰る。

●失敗条件
 『豊穣の角』『冷厳の角』の両方を破壊する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『深緑』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●状況
 深緑の、とある農村クレッセス。
 そこには、村の名と同じ精霊鹿であるクレッセスが存在しました。
 村の人々の信仰対象として、そして同時に村に豊穣をもたらす存在として、この地を長く守護してきた精霊です。
 さて、そんな精霊を討伐し、頭に生えている『豊穣の角』と『冷厳の角』と呼ばれる日本の角を密猟してきてほしいと言う依頼が、ラサのとある蒐集家からもたらされました。
 その依頼を受けたのは、シラスさんの旧友でもあるユリアン。彼はその依頼をローレットに持ち込み、皆さんに密猟の手助けを依頼してきます。
 クレッセスを失えば、村の人々は絶望し、豊穣の力は失われ、村はそう遠くないうちに絶望のまま壊滅するでしょう。が、それは皆さんの知ったことではありません。
 むしろ、皆さんは自分たちの身を心配しなければなりません。クレッセスは強力な精霊です。罠や奇襲の類はことごとく防がれるほどの鋭敏な知覚と、タフな生命力、神秘的な力を持つでしょう。
 これは危険な密猟です。くれぐれも心揺さぶられ油断などされぬように。
 作戦決行時刻は夜。明かりなどが必要になるかもしれません。周囲は森で、少し動きづらい可能性があります。

●エネミーデータ
 『精霊鹿、クレッセス』 ×1
  クレッセスの村を守る精霊鹿です。お供の類は存在しませんが、それでも皆さんを相手取るに充分な戦闘能力を誇ります。
  クレッセスを見つけることは容易ではありません。が、森に害なすものが現れた時、クレッセスは必ず現れ、その者を罰するでしょう。
  HPは高く、EXAによる複数行動も行ってくることが予測されます。神秘属性の攻撃を多用してきますが、反面物理攻撃能力は低めです。
  また、本シナリオの特別ルールとして、『豊穣の角』および『冷厳の角』は、狙って攻撃することを宣言すれば(そして一定以上のダメージを与えることができれば)、部位破壊を狙う事が可能です。ただし、命中率は低下します。

  判明しているスキルは、現時点で以下の通りです。

   精霊鹿の怒り
    それは神罰の雷。
    神・中・扇。追撃・ショック。
  
   豊穣の角
    春のように、温かに。
    神・中・単。治癒・HA回復大。『豊穣の角』が破壊された場合、このスキルは使用できない。

   冷厳の角
    冬の激しさは、貴方を傷つける。
    神・中・単。連・流血。高威力。『冷厳の角』が破壊された場合、このスキルは使用できない。


●味方NPC
 ユリアン
  シラス (p3p004421)さんの関係者にして、今回の依頼主。
  ナイフを用いた近接攻撃や、投擲攻撃を主とします。
  一撃一撃の攻撃力は低いですが、様々な毒物を利用したBS付与によるデバッファーとして立ち回ってくれるでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイング、お待ちしております。

  • 精霊狩り完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月28日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
※参加確定済み※
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
※参加確定済み※
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
※参加確定済み※
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
シラス(p3p004421)
超える者
※参加確定済み※
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
※参加確定済み※
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
小金井・正純(p3p008000)
ただの女

リプレイ

●精霊・密猟
 夜、森の入り口である――。
 常なれば、夜の森とは人の恐怖心を湧かせる、どこか不穏な雰囲気を持つものであるが、この森は違った。
 清々しいほどの清浄な空気が、あたりに満ちて居る。虫の声、夜鳥の鳴き声すら、不気味ではなく、祝福のように聞こえてくる。
「へぇ。大精霊とか、森のヌシとか。こりゃほんとなのかもしれねーなー」
 『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)が唸った。此度の『密猟』の目標は、『精霊鹿、クレッセス』。この森の主にして、同名の村にて篤く信仰される存在であった。
「言ったろぉ? 結構これが、手ごわいんだって。もう何人も返り討ちにあってんだよ」
 依頼主でもあるユリアンが肩をすくめる。ユリアンの話によれば、その美麗な『角』を狙い、幾人もの悪党が密猟を目論み、そして返り討ちにあっていったのだという。
「で、どうする? 地道に探すか? これがよ、中々姿を現さなくて――」
「燃やすか」
 ユリアンの言葉を遮り、そう言ったのは『鳶指』シラス(p3p004421)である。
「は?」
「いや、燃やすか、って。森。そうすりゃ出てくんだろ、流石に」
「おっ、いいねー」
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)がケタケタと笑った。
「深緑って火気厳禁だからなぁ。たまには盛大に火ぃつけるのも悪くねぇだろ。あ、でも、そうすっと村人が飛んできちまうかな?」
「そうなる前に決着をつければよいでしょう」
 『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)が、躊躇なく断言する。
「それに……『村人は、そうは早くはきませんよ』。断言出来ます」
 少しだけ唾棄するような思いを言葉にのせて、正純の言葉に、尋ねたのは『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)である。
「そうなの? 大切な精霊様が襲われたら、飛んできそうなものだけど」
「ええ、真に信仰に篤いものでしたら。ですが……私達は、『何の妨害もなく森までやってこれた』。それが答えです」
 つまり、本気で守る気があるのなら、再三密猟の標的になっているクレッセスを、守ろうとする向きが出てくるだろう、と言うのが正純の弁である。にもかかわらず、イレギュラーズ達は、ここに来るまで見張りの一つも発見していない。いなかったのだし、いるという情報もなかった。つまり、村人には、良くも悪くもクレッセスを『守ろう』とする意識がない。
「なるほどね。驚いて見には来るだろうけど、そのころにはお仕事も終わってるよネー。じゃあ、燃やしちゃおっか」
「燃やすって所には反論はしねーんだ」
 ユリアンが苦笑する。
「あらあら~、怖気づいちゃった?」
 『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)が挑発するように言うのへ、ユリアンは肩をすくめる。
「いや、そうでもないが? ただ、今回森を燃やすとなると、多分ラストチャンスだぜ? 森が燃えたとなれば、深緑も本腰入れて警備に回って来るだろうからな」
「だろうな。でもま、問題ないだろ。今回で仕留めきれるって。俺達を誰だと思ってるんだ?」
 キドーの言葉に、ユリアンは真顔で、声を潜めるように言った。
「とんでもねぇ悪党」
「大正解! じゃあ燃やす準備すんぜ。下草とか刈っとくわ。火は任せた」
 キドーは鼻歌交じりでナイフを振り回す。ばっさばさと下草や低木が、無残に刈り払われていく。
「さぁて、楽しみになってきたでありんすなぁ」
 『Enigma』ウィートラント・エマ(p3p005065)が、荷物から油を取り出して、とりあえず辺りにぶちまけ始めた。
「あ、依頼主からの要望は二本の角……という事は、首は貰っていいんでごぜーますかね? トロフィーにしたい……でも、角がねーとみっともないかもでありんすなぁ」
「それより、精霊の肉っておいしいのかな」
 ジェックが言う。
「気になる。食べたい……お肉貰ってもいい?」
 ユリアンへ視線を向けるのへ、
「お、おう。まぁ、仕事は角の奪取だからな……」
「やった」
「森燃やすだけでいいか? 何匹か小動物でも仕留めるか?」
 サンディの言葉へ、
「応、では吾の美少女力を発揮しようぞ」
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が微笑んだ。
「お、じゃあ頼むわ」
「うむ。呼び出して普段は踊ったり歌ったりするとことであるが、火が回って来るとなると、なんだ。飛んで火にいる夏の虫……虫ではないが。それともあれか、異界の神の逸話。神に食べられるために、自ら火に飛び込んだとかいう」
「そんなのあるんだ? まぁ、別に喰う訳じゃ似ないけどな!」
 ケタケタと笑う二人。繰り広げらる悪だくみの話し合いに、ユリアンは満足げに笑って、シラスへと言った。
「お前の友達、悪党ばっかじゃん。いいね」
「そうだよ? 知らなかった?」
 こともなげに返すシラスに、ユリアンは再び、嬉し気な笑顔を浮かべた。
 やっぱりお前は、俺達側の人間だよなぁ。
 胸中でそう呟き、ユリアンもまた、火付けの準備に取り掛かった。

●火炎・激怒
 延焼は、瞬く間に広がった。
 森のあちこちには火が回り、イレギュラーズ達の全面、森の奥へと続く道が、炎に明るく照らされている。
「うん、これならアタシの目も、そんなに疲れなくていいね」
 ジェックが言う。暗い所での戦闘となれば、暗視の力で見通すつもりだったが、こうまで煌々と炎が照らされていれば、その必要もないだろう。
「やー、鹿狩りっての楽しいぜ。テンション上がるなー。お貴族様っていつもこんな気持ちなのか? ずるくねぇ?」
 ことほぎがケラケラと笑う。魔女の笑い声に応じるみたいに、ぼう、と火が燃え盛った。
「さって、どう出る? 精霊様。森が燃えちまうぜ」
 シラスの呟き――果たしてそれに反応したみたいに、一陣の、清涼なる風が周囲を吹き抜けた。
 その方向を見てみれば、それは居た。
 ぞくり、とイレギュラーズ達の肌が粟立つ。それは、明確な怒りの感情であった。
 普段であれば、それの持つ眼は、愛しさと優しさに満ちて居るのだろう。慈愛の眼で、人々を見つめているのだろう。
 だが、今そこにあったものは、明確な怒りの炎。
 周囲の炎に負けぬ、触れるものを焼き尽くす、炎。
 その瞳の主は、こう呼ばれいてた。
「『精霊鹿、クレッセス』――」
 くはは、と百合子は笑った。同時。精霊鹿は嘶きと共に突進してきた。
「来るぜ! 鹿狩りの始まりだ!」
 シラスは叫んだ。ばちり、とその両の手に魔力が集中される。精霊鹿は突進しながら、その首を振るった。途端、激しい雷が周囲に生まれ、雷撃の鞭となってイレギュラーズ達を打ち払う!
 シラスはそれを、その手をかざすことで打ち払った。術式・分解。神秘攻撃であれば、この時のシラスを捉えることはできない。とはいえ、その攻撃の威力を察することはできる。直撃すれば、相応の傷は免れまい。
「怒り心頭と言った所か! 良いぞ、やる気になってくれれば吾は嬉しい! 貴殿を贄とし、吾が美少女力の糧としよう!」
 百合子は笑う。
「鹿型の精霊の体は初めて触るが――ここか!?」
 鋭い掌打――精霊鹿の脇腹に潜り込み、叩きつける。ずむ、とその掌が肉体に潜り込み、存在するであろう内臓器官に打撃を与えた。
 きぃ、と精霊鹿が悲鳴をあげる。同時に、気配を消していたジェックの銃弾が、精霊鹿の額にめり込んだ。がおん! 爆発するような炎が、精霊鹿の額にさく裂する!
「とっておきの一発――」
 ガシャン、とジェックが銃の遊底を引く。二発目を発射。だが、精霊鹿は高らかに足を蹴り上げ、その攻撃を避けて見せた。
「ちっ、やっぱり気づかれてるか!」
 ジェックが舌打ち。しかし、精霊鹿へのダメージは確実に大きい。このまま押せば――そう考えたイレギュラーズ達だったが、しかし次の瞬間、その考えを変えることになる。
 ぴぃ、と精霊鹿が鳴く。途端、豊穣の角が春の輝きを放ち、温かな風が精霊鹿を中心に吹いた。途端、その身の傷が次々と癒えていくのを確認したのである。
「チッ、めんどくせぇ! あの回復、止められるか!?」
 シラスの叫びに、キドーが応えた。
「応よ! 俺が抑える! ことほぎ、下準備たのまぁ!」
「はいよ、了解だ! 精霊様よぉ、魔女の呪いをたらふく食らいな!」
 ことほぎが唱えるのは『監獄魔術『プレガーレ』』。その祈りは、しかし呪いである。放たれた銃弾が、精霊鹿の前足に突き刺さるや、その呪いは身体の内を蝕み始めるのだ。
「下ごしらえ、完了!」
「よーし、ぶっ放すぜ! アンタら巻き込まれんなよ!」
 キドーが続く。その手をかざせば、精霊鹿の脳裏に『霧』がかかる。
 思考を、視界を、身体を蝕む霧。それに囚われれば、如何に精霊と言えど、その力を制限されざるを得ない。清浄なる春の風が、その力を一時的に失った事を、イレギュラーズ達は確認した。
「よし、攻めるぞ! ユリアン、前みたいにサボるなよ!」
 シラスの言葉に、ユリアンは頷く。
「あいよ! 俺とお前が最強のコンビって所、見せてやろうじゃねーか!」
 ユリアンがナイフを投擲する。様々な毒物が塗りつけられたそれが、精霊鹿の肉体へと突き刺さった。その毒が身体に回る瞬間、シラスの、そのナイフにも勝るとも劣らない鋭い打撃が、精霊鹿の皮膚を薙いだ。
 きぃ、と精霊鹿が悲鳴をあげる。だが、タフな精霊鹿が倒れる様子は、まだまだ見受けられない。
「あらあら。いくら頑健な肉体を持っていたとて、内側から腐らせれば元も子もありんせんなぁ?」
 ウィートラントの『呪い』が、精霊鹿の身を焼く。ウィートラント呪いは、その自然治癒力を発揮させることも許さない。
「ぐずぐずに腐って、死んでいただきんす……っと。でも、腐らせたら、肉が楽しめんでありんすな」
 身体中を襲う激痛に悲鳴を上げながら、精霊鹿はもう片側の、氷の角を光らせた。
 途端、冷たい冬の空気があたりを包み込み。現れた巨大な氷のナイフが、宙に舞う。
 さながらダイヤモンドダストのように舞う巨大な氷のナイフが、反撃とばかりにイレギュラーズ達を狙い、その身体を強く傷つけた――。

●冷厳・豊穣
「ち、いっ!」
 キドーが舌打ちをする。放たれた鋭い氷のナイフが、キドーの腕を切り裂き、そこから青黒い血液を噴出させた。
「キドー、俺が受ける! いったんその傷塞げ!」
 サンディが叫んだ。
「ジェック、援護頼む!」
「了、解っ!」
 ジェックの銃弾が、精霊鹿の足元に着弾する。足を止めたすきをついて、サンディが精霊鹿の前に立ちはだかった。
 振るわれる精霊鹿の前足は、棍棒のように太く、硬い。叩きつけられた痛みに、サンディが顔をしかめる。
「あの氷のナイフほどじゃないがな! で、どうする!? いっそ割っちまうか、角!?」
 依頼の達成条件は、あくまで『どちらかの角の回収』である。であれば、ここは安全第一、封殺しきれない『冷厳の角』を破壊し、安全を確保するのも一つの手である。
「くはは、却下、である!」
 百合子が叫んだ。精霊鹿へと一気に接敵し、殴りつける。シンプルな、打撃。故に威力のある一撃が、精霊鹿へと叩きつけらえる。
「せっかくです。いただけるものはいただきましょう」
 正純は静かにそう呟くと、静かに矢を番え、放った。放たれた矢が、魔性をまといて精霊鹿へと襲い掛かる。突き刺さった矢がその魔を爆散させ、精霊鹿を強かに打ちのめした。きゅい、と精霊鹿が体勢を崩すのへ、百合子のさらなる打撃が突き刺さる。
「それに……私たちなら。この程度の困難、乗り越えることなど容易でしょう」
 百合子の打撃に合わせるように、正純の矢が、精霊鹿の肉体に突き刺さる。
「はっ、そう言われたら、頑張らざるを得ないな!」
 サンディが笑い、精霊鹿に相対する。
「待たせたな、サンディ! 二人で抑えるぜ!」
 傷をふさいだキドーも戻り、二人がかりの攻勢にうつる。
 キドーのナイフが精霊鹿を切り裂き、同時に逆側からサンディの不可視の刃が、精霊鹿の肉を削り取った。飛び散った肉片が、キドーの眼前を飛ぶ。キドーは、興味半分、それを口でキャッチしてみた。
「ん? んン〜〜……?? へぇ、こいつは、びっくり!」
 臭みのない、柔らかな味わいが、口中を満たした。当然のことながら、寄生虫だの雑菌だのは存在しない。これをきちんと調理したら、さらなるうまみが爆発するだろうことは想像に難くない!
「俄然やる気が出てきたぜ! 肉も持って帰る!」
「マジか、そんなに美味いのかよ」
 サンディは笑った。一方、精霊鹿は再度、必殺の氷のナイフを宙に展開する――同時に、正純、ジェック、そしてことほぎが動いた。
 全員が、一斉に、矢を、銃弾を、術式を撃ち放つ。一斉射撃が氷のナイフに次々と着弾し、それを粉々に粉砕してみせた。
「厄介だからなぁ、潰させてもらうぜ!」
 ことほぎが笑う――同時に、百合子が動いた。一気に接敵。精霊鹿の横腹をつく。
「なるほど、肉を食らうのであれば、『叩いてやる』と味が良くなるというな!」
 にぃ、と百合子は笑う。その両の拳をぐい、と握り、雪崩のごとく撃ちだし始めた!
「ユリユリユリユリユリユリユリィーーーーッ!!!!!!」
 ラッシュ! ラッシュ! ラッシュ! 残像すら見えるほどの、拳撃の雨あられ! 強かに打ち据えられた精霊鹿は、たまらずその身をよじらせ――。
 どす、と。
 その眉間に、一筋の矢が突き刺さった。
「大精霊、数多の密猟者を退けてきたのでしょう。
 貴方は信仰の成れの果て。
 ここで朽ちてください。
 私もその姿を肝に銘じておきます」
 正純の、矢だった。凛とした空気すら感じさせる、整った『型』のまま、弓を構えた正純が、静かにそう呟く。
 ゆっくりと、弓をおろした。すぅ、と息を吐く。同時に――精霊鹿の目が、白く濁った。生命を手放した、瞳だった。
 どう、と精霊鹿が倒れる。途端、辺りを包んでいた清浄なる空気が、霧散するのを感じた。
 精霊は、死んだ。
 森の加護は、この時、消えうせたのだ――。

●信仰・崩壊
「いぇーい、ってな!」
 ぱしん、と、シラスとユリアンがハイタッチをする。
「流石だぜ、相棒。あのクレッセスをやっちまうとはなぁ」
「俺たちに依頼して正解だったろ?」
 シラスが笑う。ユリアンの判断は正解だった。この、精鋭たる八人のイレギュラーズ……彼らに任せれば、いかな精霊鹿とは言え、その命は無いのだ。
「とりあえず、角は根元から折ればいいのかな? あと、お肉。お肉食べたい」
 ジェックが言うのへ、仲間達は頷く。
「となると、一応血抜きした方がいいんだろうなぁ。どうする? 血抜いてから逃げる? 逃げてから血抜く?」
 ことほぎが尋ねるのへ、
「いや、やっぱり鮮度だろ。此処で抜いちまおうぜ」
 と、キドーは器用にクレッセスの死体を木につるすと、そのまま頸動脈を切り裂いた。まだ血の循環は止まっていなかったのか、ぼたぼたと血が流れ落ちる。
「あ、あと内蔵もぬかねーと。キドー、やれる?」
 サンディが言うのへ、キドーは頷いて、肉を簡単に解体し始めた。
「うふふ。楽しみでごぜーますねぇ。今宵は良い肉が手に入りんした」
 ウィートラントがにっこりと笑う。
 と――。
「な……あなた方は。何を……?」
 驚愕するかのような声が響いた。
 一同がそちらを見てみれば、数名の幻想種たちが、此方を見ていた。村の民だろう。
「いや、何って……狩猟?」
 悪びれもなくシラスが言うのへ、村の代表と思われる老人が、声をあげる。
「な、く、クレッセス様を、狩った……と!?」
「見てのとおりかな。あ、無駄にはしないよ。美味しく頂くからね」
 ジェックが手を合わせて、頭を下げた。信じられないものを見るような目で、老人は叫んだ。
「ば、馬鹿な! なんという事を! 何を、何をしているんだ、お前等は」
「だから、狩りである」
 鬱陶しそうな目で、百合子は言った。
「お望みであれば、同じ所に送ってやっても……いや、吾は今、とても心地が良い。それを貴殿らを嬲るなど、興ざめもよい所」
 老人たちは、口をパクパクとさせながら、唖然とした。
「クレッセスは、我々の、信仰の」
 それをどうにか絞り出した時、心底軽蔑するような目で、百合子は口を開いた。
「だったらいまさら何をしに来た」
 百合子は会話することすら鬱陶しそうに、続けた。
「大方、自分たちの身の安全を優先して震えておったのだろう……信仰などと良い様に言うが、要は集落の根幹を一匹に任せて居ったのであろう? なれば共倒れも道理よ。現に貴殿らは、誰もクレッセスの前に立ち守ろうとはせなんだではないか」
 そこまでだ、と言わんばかりに、百合子は会話打ち切る。バタバタと、血が流れる音だげが響いていた。
「……信仰、といいますが」
 正純が、言った。その目には、確かな軽蔑の色が浮かんでいた。
「信仰とは、信じ、身を捧げるモノ……あなた方は、身を捧げる覚悟もなかった。信仰? 笑わせないでください。あなた方は、ただ『飼われていた』だけです」
「お、血抜きを終わったぜ。じゃ、帰るか」
 サンディの言葉に、仲間達は頷いた。クレッセスの遺体を皆で担ぎ、呆然とする村人たちを背に、一同は姿を消す。
 後には、火のくすぶる森と、村人たちだけが残った。

 村人たちがその後どうなったのかを、イレギュラーズ達は知らない。

成否

成功

MVP

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の戦果に、ユリアン、そしてその依頼主はたいそう満足しています。
 ちなみに、皆さんがその後に頂いた精霊鹿の肉は、絶品だったそうですよ。

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