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シナリオ詳細

スピナッチ・グリーンの塊

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●静寂満ちる海の底

 ゴポ……ゴポ、ポ。

 気泡が海底から水面へ。それはいつかにこの海へ沈んだ船の、最後に残された空気だったのかもしれない。海の底は深く、術を持たない者であれば海底から海面まで泳ぎ切るなど到底不可能な距離であった。
 この海は海洋王国外縁、その更に外へ位置している静寂の青。嘗ては『絶望の青』と呼ばれていた海域である。これまで度重なる海洋大号令が発令され、数々の船が挑戦し、海の藻屑となった場所――船の墓場と言っても良いのかもしれない。
 しかしそれも今や踏破され、細々とではあるがその先に見つかったカムイグラとやりとりが始まっている。最も――以前よりマシとはいえ、危険続きなのは変わらないが。

 ゴポ、ポポポ。

 その海域には幽霊船が蔓延り、強力なモンスターが空にも海にも存在する。そんな場所を丁度、数隻の船が通過しようとしていた。
「天候、風向きともに順調だな」
「ああ。これなら問題なくカムイグラに到着できそうだ」
 船上の者たちは一様にほっとした表情で、けれど気を抜いては居られないと引き締める。周囲には護衛に雇った者たちの船があるが、それでも何が起こるか分からないのが静寂の海である。
「各自、今のうちに交代で休憩を――、っ!?」
 指示の声が途切れ、甲板上でいくつもの動揺した声が上がる。ぐらりと船体が傾いた。
「何だこれは!」
「大変です! 船底に穴が……海水が入ってきています!」
 いきなり、それも小さな穴ではない。船員が即座に周囲の船へ連携を取ると、手練れのディープシー達が次々海へ潜っていく様が見えた。
「俺たちは船を立て直すぞ! 『彼女』を見殺しにする腑抜けはいねぇな!?」
「「「応っ!!」」」
 『彼女』――船のことを船長始めとして皆がそう呼び愛していた。長年連れ添い、自身らを海の先へと運んでくれる女神である。故に――自らの命が惜しいからと手放せようか。
 こうして応急処置の施された『彼女』と共に船員は海洋側へと帰還し――護衛船もまた、戦闘員たちを回収して撤退してきたのである。


●ローレット
「……ということで、今アクエリア島にはその応急処置された船たちが停泊しているという事なのです。できることなら修理したうえで再出港したいものの、このままいけばまた同じことになりかねないと」
「あれ、今のって倒した流れじゃなかったんですね」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の締めにブラウ(p3n000090)が首を傾げる。てっきり護衛船のメンバーが撃退したのかと思ったが、よくよく聞けば勝ち目がないと察して殿を守りつつの撤退だったらしい。
「皆さんに倒してもらって、それでようやく通れるのです。これまでどれだけの船が犠牲になったのか分かりませんが、海の中に潜むヤツはとても、とっても大食らいなのです!」
 静寂の青、元絶望の青では無数の船が海の底へ沈んでいる。だというのに、護衛たちが見た限りあの海域にそれらは全くと言って良いほど存在しなかったのだと言う。
「『海の掃除屋』と呼称していますが、その生態は全くの謎なのです。あの海域で突然変異したもの……変異種ではないかと思われます」
「変異種……そっか、まだいてもおかしくないですね」
 ブラウは小さく呟いた。彼もまた、イレギュラーズに対し変異種の討伐を依頼したことがある。
 変異種とは元々人間だったモノである。絶望の青では廃滅病という死病にかかることがあり、罹患した者が海を彷徨う怨念に憑依されることで発生するのだ。今は廃滅病がなくなり、新たに変異種へなる者はいないだろう。またイレギュラーズも特別な加護を受けし者として廃滅病にかかろうとも変異種とはならなかった。しかしこれまでに変異種になってしまった者は廃滅病がなくなったとしても戻れないのだ。
「先の大号令でも少なくない数が変異種になり、その全てが討伐できたわけではないと聞いています。そのうちの1人かもしれませんが……今を生きる皆さんの歩みを止めることは許されないのです!」
 ふんす! と息巻くユリーカ。その言葉は確かに道理であるが――。
「海の中にいるんですよね?」
「ふふーん、そこはばっちり対策済みなのです!」
 ブラウの問いかけにユリーカは全身タイツのようなものを取り出した。曰く、海中でも問題なく戦闘するためのスーツなのだと言う。どんなサイズでも、勿論人型でなくても着用可能な摩訶不思議性能はどう考えても練達由来だろう。
「というわけで――イレギュラーズの皆さん、出番ですよ!」

GMコメント

●成功条件
 『海の掃除屋』の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。危険には不測の事態も起こり得るでしょう。

●『海の掃除屋』シースイーパー
 静寂の青の海底に潜む変異種です。知性は全く感じられず、元の人間がどのような者だったかも定かでありません。その巨体は緑色の藻などに覆われてしまっていますが、動きに問題はないようです。鯨のような形をしていますが、緑色の間から無数の目が覗いています。
 もともと動きたがらない性質のようで、海面の獲物(船)を打ち落として自分のいるところまで沈めていたようです。
 機動力は低いですが、攻撃手段・レンジには多彩です。また防御技術とHPに優れています。また【棘】の性質を持ちます。

吸い込み:大きな口で海水ごと周囲のものを引き摺り込みます。【呪縛】【致命】【HP吸収200】
吐き出し:海流を乱すように海中でうねりを作り出します。【飛】【体勢不利】
海流渦:海の中で起こる竜巻。どこまでも一直線に貫きます。【スプラッシュ4】【混乱】
水球砲:遠くまで飛んでいく大きな水の弾です。砲弾レベルと考えてください。【氷結】【麻痺】

●フィールド
 静寂の青の海底です。海面に近づけば近づくほど明るくなりますが、海底へ向かう程暗くなります。また、海面から海底は非常に離れています。
 海面には船の残骸などがありません。ある意味すっきりしていると言うべきでしょう。
 皆さんは該当海域まで接近後、海へ潜ります。船は一度安全圏へ移動した後、海面へ皆さんが出てきたことを発見次第回収へ向かいます。

●海中戦闘スーツ
 どんな生き物でもバッチリ身につけられるスーツです。これを身に着けることで、適性を持たずとも海中での戦闘活動を可能にします。

●ご挨拶
 愁と申します。
 普段と異なり、三次元的に動けるフィールドとなります。より工夫しての戦闘が行える、もしくは行わなくてはならないでしょう。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • スピナッチ・グリーンの塊Lv:20以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年02月10日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
メリッカ・ヘクセス(p3p006565)
大空の支配者
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

リプレイ


 波の音はひどく穏やかで、先ほどまで嵐のような天候だったとは誰も思わない。けれどもイレギュラーズを乗せた船は荒波を乗り越えて件の海域まで踏み込もうとしていた。
 絶望の青から静寂の青へ名前を変えたとて、此処は未だ危険海域。以前ほどでなくても船や人が沈むことはありあるだろう。
 しかしそれらを全て食べてしまう存在がこの先の海域に住んでいる。時には自ら沈ませんとする危険生物――シースイーパー。イレギュラーズが今回討伐する対象である。
 『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)はローレットで聞いた話を思い出し、瞑目する。そうだ、確か初めて依頼に出た時の相手も同じモノで。
「大戦の犠牲者……かもしれない訳だ」
「変異種、だっけ」
 フェルディンは『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の言葉に首肯する。そして記憶を掘り返すように開いた目を細めた。
 変異種――それは『嘗て人間だったモノ』である。この海にいた冠位魔種を討伐した今、罹患することのない廃滅病。そして心半ばにして海へ散った者たちの怨念。それらが合わさることによって生まれる怪物を彼らはそう呼称していた。徐々に理性を削ぎ落すそれはもはや倒すほか手立てはない。故にイレギュラーズたちは絶望の青踏破の際、そのような怪物たちも退けてきたのである。
 最早新たな変異種が生まれることはないだろう。けれどもこれまでに生まれてしまった変異種が戻るという事もない。シースイーパーがどのような者だったのかはわからないが、やはりその魂を天へ送るしかないのだ。
「一概に怒りをぶつけられるような相手じゃないけれど……」
「うん。このままにはしておけない」
「いくべきところに送ってあげないとね」
 『大空の支配者』メリッカ・ヘクセス(p3p006565)の言葉にフェルディンが続き、アクセルもまたしかと船の行く方向を見据える。もう件の海域には入ったはず、ならばそろそろ海へ潜ることになるだろう。
 あらかじめ海中戦闘スーツを身にまとっていた彼らは、船が止まるとすぐに海面へ飛び込んだ。長居すればするほど船自体が狙われかねない。
(元は人間、脚があればいいのですが)
 海中へ潜った『不屈の恋』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は情報屋から聞いた見た目を想像して首を捻る。やっぱりないかもしれない。それはそれで脚らしき部位を切り取れば良いだろうが。何はともあれ、そんなことを考えられるのも相手を始末してからの話。
「段々暗くなっていくね」
 『ひとかけらの海』ロロン・ラプス(p3p007992)は周囲の精霊を探しながら皆へついていく。暗さばかりはもうどうしようもない。
(精霊は……掃除屋の存在で隠れてしまっているのかな)
 ロロンの見通せる範囲に精霊は存在しない。怯えて隠れてしまっているのか、或いはシースイーパーに食べられてしまったのか。かの怪物が精霊をも食べるか否かは定かでないが、可能性としては有り得るだろう。
「――いたぞ」
 『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が夜闇をも見通す超視力で海底に居座る巨体を視認する。鯨のようだと聞いていたが、遠目に見てあのサイズであれば実際は更に大きい筈だ。
「こういうものは祭司長として幾度となく見てきたが……いつだって痛ましいな」
 『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)はその姿が見えてきた時点で小さく顔を顰める。コン=モスカの祭司長であった彼女はそれだけ、こういった場面も――変異種が討伐された後も見てきたことだろう。何故、神はこのような存在を作るのかと問うたことすらある。勿論返事など来るわけもないが、そもそも変異種とは神でさえ予測できなかった代物だろう。魔種がいなければ廃滅病が存在しなかったのだから。
 なればこそ、彼らがすべきはひとつ。
「哀れなるものに――祈りを」
 変異種となった者たちが、安らかに眠れるように倒すだけだ。



「先行するぞ」
 クレマァダが皆よりも先に出る。その瞳が黄金色へ輝き、周囲の水がゆらりとうねりを見せる。ただならぬオーラは本来の領域(テリトリー)である水辺にて勢いを増した。

 ――神威、限定再演。

 腕の一振りで発生した水の奔流がシースイーパーへ叩き込まれる。その巨体に纏わりついた藻が一部だけ剥がれ落ち、その下からぎょろぎょろと辺りを見る無数の目が露出した。
 視界の良くなった目がクレマァダと、その後ろから自身へ向かってくるイレギュラーズたちを視認する。それらが来るよりも早く、降りかかったのは。

 いあ こん=もすか

 ふんぐるい むぐるうなふ くつるぅ るる=りぇ うがふなぐる ふたぐん

 片割れのそれと似た、けれど異なる旋律。理解してはいけない、けれども抗いがたいうた。クレマァダの夢見る歌声が止むと同時、ピリムが飛び込む。
「それじゃ、さっさと始末しましょー」
 急所と思しき目を狙った脚での突きを繰り出すピリム。シースイーパーが悶えるようにその巨体を揺らし、反撃するように竜巻を起こすも挑発めいた狙撃が冷静さを削いでいく。
「仲間に手を出させるつもりはない」
 『紹介係』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の言葉にぐわり、とシースイーパーが向きを変える。フェルディンもその対角線へ向かうべく動き出した。
「引き付け、頼むのじゃ……フェルディン」
 クレマァダとすれ違いざまにそう告げられて、フェルディンはしかと剣を握りしめた。どうか――彼女の憂いを少しでも断てますように、と願って。
「これが『海の掃除屋』か」
「食べ甲斐のありそうな魚だね」
 アルヴァの声を聞きながらロロンは敵の頭上へと移動する。ぷるぽよな水まんじゅうが周囲の海水と明確な境界線を持つ姿はぱっと見異様であるが、それも海中戦闘スーツを纏っていると思えば気になることはない。
(水風船みたいだけれどね)
 しかし借りない選択肢はなかった。水中での行動なんて、ロロンにはあまり自信なかったから。アクセルもまたこのスーツの力で通常と変わらない――勝手に落ちはしないけれど――空中戦闘をするように飛んでいく。その手にした指揮杖を振り、空奏結界を作り出すアクセルの身に微かな痛みが走る。シースイーパーが攻撃を受けた時、生じた小さな振動が力を帯びて反撃をしてくるのだ。
(でも、『実際に受けた』ダメージはもっと大きい筈だ)
 相手この指揮杖で作り出した結界は、その振動すらも生じないような奥深くでシースイーパーを苛む。アクセルはそれを維持するように指揮杖を振りながら、仲間たちと被らないように移動していく。その合間にもフェルディンがアルヴァの反対側へ到達し、高らかに名乗り口上を上げた。周囲でちくちくとつついてくる有象無象から明確な『敵意』を向ける存在を感知したシースイーパーがゆっくりとアルヴァからフェルディンの方向へ――正反対の場所へ――向き直る。
(よし、それでいい)
 フェルディンはロングソードをシースイーパーへ向けた。この図体のでかさだ、仲間たち同士が多少孤立しあうのは想定内の事。勿論、フェルディン自身も。それでも誰かへ向いてくれるのであれば、他の仲間たちは無事である。ひいては全体としての被害も抑えられるはずだ。
 そうなれば負担がなくなるのは回復手である。ゲオルグはフェルディンへ聖躰降臨をかけたあと周囲を見渡し、些か頼りないながらも水中の音へ耳を澄ませながら新たな敵影がないことを確認していた。
(事前に知らされているだけとは限らない)
 ユリーカたちはこの1体だけと言っていたが、見逃した何か――或いは乱入者――がないとは限らない。いつでも迅速に動けるように、と気構えしておきながらゲオルグは孤立しがちな仲間たちをなるべく範囲に入れ、力強い言霊を放った。
 しかして――ヤツは大きい。その範囲内に入りに行くよりはとメリッカは消費を押さえ、通常の魔術攻撃をシースイーパーへ向ける。この暗闇も些か目が慣れてきたが、それ以上にこの敵は大きい。当てる事自体は苦にならない。
「まあ、正攻法だと難しいだろうけれど」
 ロロンはそう呟きながら巨体を囲う黒いキューブを作り出す。初手のクレマァダが放った攻撃が功を奏しているものの、それでもなかなか頑丈なようだ。皆で状態異常を重ね、確実な追撃を図りたいところである。
 その途方もないほどの忍耐力は、この世に留まり続けんとする執着か。
「……ごめんよ」
 メリッカは小さく呟いた。理性の欠片も残っていないだろう怪物へ。眠ってもらわなければ、今を生きる者たちを邪魔してしまうから。
(もし"次"があったなら、その時はどうか――幸せに生きて欲しい)
 その次を手にするために、イレギュラーズがその命を絶ってやらなくては。
「己が今どこにいるか認識し続けるのじゃ! 水中は立ち位置が定まらんぞ!」
 クレマァダは仲間へ指示をしながらもコン=モスカの武術でシースイーパーを攻める。奇しくも集まったメンバーでディープシーは彼女1人きり。いかに海中戦闘スーツが有効であっても戦い方ばかりは難儀するだろう。
「しぶといですねー」
 ピリムは水中ならではの動きで相手を翻弄しながら相手の目のひとつを切り裂く。水中を伝わる振動がピリムを傷つけて行くが、この程度ならまだまだ。
 だが『この程度』であってもゲオルグは一抹の不安をよぎらせていた。何故ならここは深い海の底。ここで力尽きた場合、はるか上の海面まで運ばねばならない可能性がある。この強敵を前にして、それが果たして叶うだろうか?
 不安があるのならば、そうならないように全力を尽くすのみ。ゲオルグはクェーサーアナライズとサンクチュアリで仲間たちの負傷を癒していく。併せて引き付けていたフェルディンも自身を強烈に癒しつつ、応戦するが――この巨体から放たれる攻撃は酷く鈍重だ。
「アルヴァ君!」
 彼の声にアルヴァのアンガーコールがシースイーパーを引き付けなおす。これで彼は回復に専念できるだろう。
「さて、自分が掃除される気分はどうだ? 今度はお前が海の藻屑になるといい」
 アルヴァは狙撃銃を手にシースイーパーを睨みつけた。これ以上往来の船を邪魔されてはたまらない。本当のゴミを掃除するのならば歓迎するが、そうでないのならば排除されるしかないのだ。
 アクセルは指揮杖を振りながらもアルヴァとゲオルグの様子を見て、必要だと感じるや否や大天使の祝福を仲間へ贈る。持ち直す仲間たちの頭上では氷の槍が形成され、露出した目へ向かって飛び込んだ。
「分かりやすい弱点だね。だから隠していたのかもしれないけれど」
 こう見えてしまっては狙われざるを得ない――そう呟くロロンの前で、シースイーパーは怪しげな動きを見せていた。
「おっと、」
 ピリムがいち早く察してかの背後へと動き始める。しかし周囲の海水が口を開いたシースイーパーの吸い込みに引き寄せられ、対角線にいたフェルディンたちが強く手を引いて海流を脱した。
「吸い込んで膨らんだ……次が来るぞ!!」
 クレマァダの言葉とともにシースイーパーがぐりん、と方向を変える。今しがたイレギュラーズの集まった――反対側へ。水の流れにいち早く気づき、安全地帯へ脱した者。間に合わずに押し流されていく者。様々であったが翻弄されて止まっている暇はない。
「皆、距離を取るのじゃ!」
 再び巻き起こらんとする海嘯の気配。素早く彼女とシースイーパーから離れたフェルディンが叫ぶ。
「大丈夫です! 貴女の御力、存分に示して下さい!!」
「――勿論じゃよ」
 クレマァダが再び起こす刹那の神威。その間にゲオルグは海底近くを泳ぎ回り、先ほどシースイーパーが海流を生んだことによって巻きあがった土煙を緩和できないかと試みる。――が、この状態ではハイテレパスも通じないと程々の土煙の中を脱出した。
『回復の必要な者は』
『あっちに流されてるね。頼めるかな』
 ロロンからの返事に視線を向け、押し流されてしまった仲間たちの方へ向かうゲオルグ。ロロンはそれを見届ける前にシースイーパーへ向き直り、その頭上から全力のソウルストライクを放つ。確かな手ごたえ。それ相応のダメージは食らうがこればかりは致し方がない。
 先ほどの大技を素早く回避していたアルヴァはアクセルの支援を受けながら応戦するが、如何せん巨体だ。動きが読めても躱しきれるかどうかは別の話。
(それでも、弔ってやりたいんだ)
 負けるものかとアルヴァの瞳に浮かんでいた力強い光が濃くなる。こんな見た目になってしまっていても、元は人間で――きっと、こんな姿になりたくてなったわけじゃないだろうから。
 真っ直ぐにアルヴァめがけて放たれる水球砲。パンドラの光を明滅させたアルヴァはそれを紙一重で避け、渾身のソニックエッジをぶつけた。

 複数人で敵視を繋ぎあい、回復手が粘りながら攻撃を叩き込む。長期戦になればなるにつれて否応なく襲ってくる者は――疲労だ。それが蓄積すればするほど心の奥底には焦りに近いものが生まれることだろう。
 事実、焦りが生まれていた。精神力は徐々に回復するとしても戦いの速度に追いつかない。ロロンも長期戦を予期して用意していた手段により支援へ回るが、それでも、まだ。
「こうなったら仕方ありませんねー……」
 ピリムは引き寄せられる海流に身を任せ、自らのリミッターをかちりと外した。そしてこれまで以上に速度を上げて――斬り刻む!
 びりびりと水を伝ってシースイーパーの鳴き声らしきものが響き渡るが、その身は横たわることなく。今度は押し流される海流を叩きつけられ、ピリムの体は遥か遠くへと押しやられた。
「いけない……!」
 ゲオルグがピリムを助けようと泳ぎだす。主だって引き付けんとしていたメンバーはとっくに疲労困憊、となれば。
「そぅらこっちだ!」
 メリッカが頭上からリリカルスターをぶち込む。露出していた目玉がぎょろぎょろと一斉にメリッカを向いた。ハーフアムリタも使用しながら必死に彼女がシースイーパーを引き付け、残ったメンバーが早く倒れてくれろと渾身の力で殴り掛かる。

 ――されども。かの怪物は途方もなく強靭で。

 厚い表皮をものともしない打撃を叩き込んだクレマァダは、しかし相手の様子に瞳を眇めた。ああ、しきりに蠢く目玉の何とも不気味なこと。そしてこれが人間の成れの果てとは何とも悼ましいこと。
 けれど、今。イレギュラーズがこの悲しい怪物を倒すには――あともう一歩。

成否

失敗

MVP

クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

状態異常

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)[重傷]
海淵の騎士
メリッカ・ヘクセス(p3p006565)[重傷]
大空の支配者
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)[重傷]
復讐者
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)[重傷]
航空指揮

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 まずは傷を癒しましょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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