PandoraPartyProject

シナリオ詳細

弔い花に舞う瑞花や

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 神威神楽にて行われた神逐の一件で妖を媒介にした呪詛が横行した事は記憶に新しい。
 霞帝との謁見に臨んだ『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は犠牲となった妖達を公的に弔いたいとそう告げた。
「宜しいのではないでしょうか」
 霞帝の側、黄龍の膝上にちょこりと座っていたのは白い子犬であった。淡い硝子玉の様な瞳で霞帝と黄龍を見遣った彼女は神威神楽の守護神であり、神逐の一件で『穢れ』より再誕したばかりの幼神『黄泉津瑞神』である。
 彼女を取り巻いていたのはこの地に存在した獄人迫害や緩和政策で被害を被った八百万達の恨み嫉みが地へと沁み込んだ『けがれ』である。本来ならば此岸ノ辺と呼ばれし場所で彼女はけがれを落とし守護神として君臨し続ける筈だった――だが、当代の此岸ノ辺の巫女『けがれの巫女』は双子であった為、その神力を別ち、けがれ堕としを上手く作用させることが出来なかったのだろう。
 ……故に、狂い堕ちた神となった彼女は神使(イレギュラーズ)によって、けがれを落とし幼神として現在、神力の回復を行っている最中なのだろう。

「あの子たちも、さぞ苦しかったでしょう。人々の業により身を刻まれた者です。
 ……その苦しみより呪獣となった者もおりましょう。ですが、其れも望んでではない筈。
 同様に、妖達だけではなく此度の戦で犠牲になった獣や我が眷属達も弔ってはもらえませんでしょうか」 
 黄泉津瑞神はそう言った。妖、精霊、神霊の眷属たち。
 そうした存在を弔いたい。
 戦で犠牲となった人々は霞帝や中務卿が協力し、その身元の分かる者は確りと弔われた。
 此度は『身寄りの無かった者』や『妖』、『精霊』、『眷属』達にスポットを置きたいという事だろう。
「魔種であった者も、肉腫であった者も……人為らざるとされた者でも、わたしにとっては等しく愛しい我が子です。
 我が子の死を悼まぬ母(おや)が居る者でしょうか。
 ……けれど、わたしは見ての通り、生まれ変わったばかりの幼体です。神使の手を煩わせることとなりますが……」
 どうか、共に弔いの儀を執り行ってほしいと瑞神はそう言った。


 弔いの儀の為に、瑞神は弔い花を用意したいと言った。
 彼女らは黄泉津の守護者であるが、高天京以外にはその守護結界の綻びが未だに存在しているという。
「瑞と吾が案内役として同行しよう。向かいたいのは郊外ではあるが、高天京より幾分か向かった先の山だ。
 その山には瑞の神域があってな……神奈備(禁足地)ではあるが、此度は瑞と吾が居れば許されよう」
 黄龍の指し示した山は『神ノ山』と称される場所であるそうだ。その山一帯が神体山として扱われているそうだ。
 その山に特別に咲く花こそが今回の弔い花。瑞の浄かな神力に呼応して咲き誇るそれは彼岸へ渡る者の行く先の極楽を願うとされているそうだ。
「花の名は『瑞花』と申します。壱師の花……彼岸花と似ていますが、真白で光り輝いているのです」
「ああ、だが瑞はこの通りだ。
 花は問題なく存在するが道中は未だ、黄泉津に残る呪獣らが瑞の気配を感じ襲い掛かってくる可能性が存在している」
「彼らが苦しんだ姿の儘であるのは忍びないのです。
 せめて、その苦しみから解き放ってやくれませんでしょうか……」
 呪獣を斃し、その後供養を以てその苦しみから解き放ちたいのだと瑞神は懇願した。
「どうぞ、わたしたちに協力してくださいますよう……」
 黄泉津――神威神楽の座すその地の名を冠する守護神は小さな体を折りたたんでそう願った。

GMコメント

夏あかねです。弔いの小旅行。

●成功条件
 弔い花『瑞花』を手に入れる。

●道中
 瑞神の神域である神奈備へと向かいます。小さなお山です。
 四神や黄龍は高天京の守護の為に結界を張り、瑞神自身の力も弱まっているために、残っている呪獣等が集まってきているようです……。
 迎撃しながら山登りをし、瑞花の元へと向かってください。継続的な戦闘が必要となります。

●呪獣(複数)
 呪詛で使われた妖が変質した存在です。呪詛に対する恨み嫉みが強く、それを結界に守られた高天京に居る呪詛の使用者にぶつけることが出来ずに瑞神の領域に集まって来たようです。
 彼らを斃す事で、その苦しみや恨みから解き放つことが出来ます。
 複数存在していますので、どうかその苦しみや悲しみから解き放ってあげてください……。

●瑞花
 弔い花。瑞神の力と黄泉津の地の清らかな気配に反応して咲き誇る淡く輝く華です。
 彼岸花を思わせますが、其れとは違った真白さと、雪の様な儚さを感じさせます。

●瑞
 黄泉津瑞神です。「気軽に瑞とお呼びください」と名乗っています。
 白くてふわふわした子犬です。拙作の『<神逐>黄泉津瑞神』にて天守閣の上に存在した大きな白い犬が本来の大きさです。
 けがれを落としたために再誕し、今は幼体としててこてこと歩いています。
 非常に心優しく、穏やかな気質です。

●黄龍
 黄泉津の神霊。男女どちらの姿を取ることが出来る黄金の龍です。人型でついていきます。
 所謂瑞神の保護者です。瑞を護るための行動をします。それ以外の戦闘行動は行いません。
 案内人として瑞を抱えていますが、瑞を抱えたいイレギュラーズが居れば気軽に交代してくれます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、いってらっしゃいませ。

  • 弔い花に舞う瑞花や完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花

リプレイ


「ン。弔イ 申シ出 許可 アリガトウ」
 穏やかにそう告げたのは『青樹護』フリークライ(p3p008595)。霞帝の側に居た小さな白い子犬――黄泉津瑞神はフリークライが提言した『妖の供養』だけではなく精霊達や眷属、身寄り無き者達も共にと願った。
「ミンナ 命。フリックモ 妖ダケデナク 弔イタイ。案内 ヨロシク オ願イシマス」
 向かうのは瑞神の、神威神楽にとっては『守護神の神域』である神奈備である。禁足の地へと踏み入る事を許し、ともに弔って欲しいと告げた神の言葉に『薄桃花の想い』節樹 トウカ(p3p008730)も思う事があるようにぐ、と息を飲んだ。
(呪詛の犠牲者……もしも俺が全てから逃げようと一族のお役目を理由に寝ていなければ。
 神使、特異運命座標として召喚されず、高天京に来ていたら……故郷で使っていたかもしれない)
 獄人の境遇は八百万による迫害の歴史を鑑みれば辛く苦しい者であっただろう。呪詛に手を染めた獄人も数多い事をトウカは知っている。故に、できるだけ恨みも悲しみも終わらせるのだと彼は共に往くことを決めた。
「難しいこと、よくわからない、する。けど、弔い? は、よいことな気、する。
 今まで、頑張ったね、って。お疲れ様って、するんだもんな」
 それはきっと喜んで貰えることだと『新たな可能性』カルウェット コーラス(p3p008549)はそう告げた。カルウェットにとってはまだ分からないことで、しっくりきては居ない。けれど――大切なことであるのは分かるから。
「フリックが、やりたいするなら、お手伝いする、したい思う、した。
 優しいフリック、すること、悪いこと、違う。よいことに、違いないぞ」
「アリガトウ」
 カルウェットとフリークライの微笑みを見ながら、神威神楽の動乱を思い浮かべたのは『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)。
「弔い……そういえば約束してからもう半年になるっきゅね。
 レーさんは作法とか礼儀とか分からないけど……あの時みたいにお別れと、また会う日まで安らかに眠ってほしいって、思いを込めて頑張るっきゅ!」
 神威神楽。それは酷い事態で、ひどい戦いだった。この国の淀みが爆発したのだろうと『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は感じていた。風牙が守り抜くと近い、未だにその様子を見に時折訪れている此岸ノ辺はその機能を停止しており、眼前に存在する小さな子犬――瑞神さえも此の国の淀みを受け止めきれなかった。
(……傷つく必要のないモノたちがたくさん傷つき、なくなった)
 ぐ、と拳を固めて風牙は笑みを浮かべる。そうだ、沢山傷ついたのは国や民だけではない.此の地に存在した全ての命だ。
「そんな彼らを弔いたいって気持ち、すげえわかるぜ。
 ああ、もちろんオレもだ。喜んで手伝わせてもらうとも!」
「はい。瑞さまの、お花。弔いの花。
 戦いの中で、犠牲になった、全ての方々が安らぎを得られるように。わたしも、お力になりたい、です」
『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)はこくりと頷いた。この地の動乱の全てが払われますように――とそう願わずには居られないのだ。
「弔う事でこの地に苦しみながら留まるよりも、その苦しみから解放してやれると言うなら俺も喜んで手を貸そう」
 この地に残された深い爪痕は未だ多く残っているという事なのだろうと『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は深く頷いた。
「そうね、そうね。命は等しく尊いもの。弔うのに敵も味方も、聖も邪もないわ。
 例えばこれが生者の自己満足であったとしても、愛しきものを送ることは大事なこと」
 目を細め、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は黄龍に抱えられた瑞をそうと見遣る。
「ねぇ、私も戦った魔種や肉腫達をお弔いしても良いのかしら?
 不遇な命とは言え、ただ滅びに荷担するからと言って滅ぼされたもの達。私にとっては、彼らも世界に生きる命の一端だもの。瑞は視点が普通の生き物とは違うのね。私とはどうかしら?」
「ええ。わたしは此の地の守護者。此の地で生きた全てを愛しております。
 故に……肉腫であろうとも、魔種であろうとも、弔うことは罪ではありませんでしょう?」


 黄龍が瑞神を抱えたのは、彼女が幼体であるからだ。人間のかたちをとれども10にも満たぬ幼子でしかない小さな神。子犬の儘抱えられた彼女を見遣ればベネディクトは自身の傍で何時も過ごしている小さなポメラニアンの『ポメ太郎』を思い浮かべる。
「随分と小さくなったな……うちのポメ太郎の方がもしかしたら大きいくらいかも知れん」
「まあ、ポメ太郎さまはおにいさまですね」
 くすくすと笑った瑞を見詰めてメイメイは眸を煌めかせる。道中を警戒するイレギュラーズの中で、メイメイはどうしても『ふわふわした犬』が気になって仕方が無かったのだ。
「……あ、あの、瑞さまを抱っこするお役目、ぜ、是非、わたしも」
「少し重たいかも知れませんが……よろしいですか?」
 首をこてんと傾いだ瑞神にメイメイはぱあ、と瞳を輝かせる。タイミングとしては安全だ。カルウェットは黄龍と瑞を護ると宣言し、二人に危機が及ばぬようにとしっかりと護衛役として動いている。
「しっかしお前……可愛くなっちまって、まあ」
 風牙が想像したのはあの神逐の刻だと霞帝が宣言したその時に天守閣の上に座した巨大な犬神である。禍々しいけがれをその身に宿し、歴戦の猛者であるイレギュラーズを相手取った此の地の『神様』は見下ろせば愛らしい子犬でしかないのだ。
「ちょっと抱っこさせてくれよ。一回だけ、一回だけでいいから!」
「それでは、わたしの次に……確かに、少しだけ、重たいみたいです」
 メイメイがしっかりと抱っこしもふもふと体を撫でている。風牙は「じゃあ帰りは交代するか」とにい、と笑った。瑞神に『気配を分けて欲しい』と言ったレーゲンは神奈備へと入る前に瑞神をもふもふすりすりうきゅうきゅしておいた。匂いや抜け毛で此の地の神の権威を借りて、敵意を凭れやすくならないように試す事としたのだ。
(……神様――いや、瑞さんを抱っこしてもふもふって、いいのだろうか。
 いや、ある『一匹』の先輩が凄いもふってるからセーフだよな……?)
 途惑うトウカ。瑞は「良いですよ」とにこにこと微笑んで居たが、何となく、こんなことをして良いのかと不安になりつつも恨みや悲しみの感情を探知し続ける。
(……呪詛で使われて変質し、恨んだ妖達が、悲しんだ妖達が、豊穣に居たことを少しでも忘れないように)
 こんな悲しみが減るように.そう願ったトウカは心に焼き付けながら進み続ける。フリークライはゆっくりと進みながら植物達に問い掛けながら背後への警戒を行っていた。
「……瑞さま、黄龍さまも、こうしてカムイグラの地を歩いて回ることはあったのでしょう、か」
「ああ。瑞が保護者として吾らも巡ったものよ。瑞の方針は『自らの目で見てきなさい』だったからのう」
 からからと笑う黄龍にメイメイは「それはすてきですね」と微笑んだ。歩む中で、近づく気配を感じ取る。フルールは植物たちの怯えを感じ取り「ありがとう」と囁いた。
「さあ、行きましょう。フィニクス、ジャバウォック、精霊達。精霊天花で一つになりましょう」
 フルールは七種の精霊達をその身に纏う。焔の如く、その身を包み込んだ精霊達にフルールはくるりと躍る。
「さぁさぁお花を探しましょう。弔い花、白い白い可愛いお花。
 どこにあるかしらねー? 飛んで探しましょう。瑞も一緒に飛んでみる? 抱えてあげるわ」
 どうするかしら、ととうフルールへ瑞は空は未だ怖いのですと尾をぺしゃりと下ろした。天守閣。その高い場に座した神は幾許か怖れがあるのだろうか。フルールは「そうなのね」と微笑んでくるりくるりと躍ってみせた。 


「長い戦い、なるって、みんなから聞く、したから。なるべく疲れないよう、する。攻撃は余裕ある、したら」
「ン。フリックニットッテモ カルウェット 大事 友達。護ル 当然ナラ 癒ヤスノモ 当然」
 カルウェットが護衛として護る神々。フリークライは癒すも当然だと胸を張る。鳥の使い魔を空へと放ったベネディクトは周囲より聞こえた唸り声にレーゲンはぴくと肩を震わせた。
「黄龍さんは強いだろうけれど、万が一もあるっきゅ! レーさんはHPはあるから少しは盾になれるっきゅ!」
「ああ。瑞を護る護身は行えるが、ここは瑞の神奈備。吾も力は余り奮えぬ故――任せよう」
 堂々とそう告げた黄龍にレーゲンは頷いた。距離をとって攻撃を行うことの出来るフルールは索敵し、真っ直ぐに紅蓮の如き一薙ぎで払う。呪獣が飛び出した事に肩を揺らしたメイメイはぎゅ、と唇を噛んだ。
「呪獣たち……こんなになるまで……さぞ、苦しかったでしょう、ね」
 黒ずんだ気配。それを纏いながらも牙を剥きだした呪獣が駆け寄ってくる。地を蹴って飛び込んだ風牙は隕石を研ぎ澄ました槍を握りしめ彗星の如く高めた気を放つ。
 痺れにも似た脱力が呪獣を包み込む。其の儘、体を一転させる風牙は瑞の護衛は仲間に信を於いて、攻撃に注力した。
「もうずっと苦しまなくても良いんだ――負の連鎖から、君達を開放しよう」
 静かな声音でそう告げたのはベネディクト。青銀に輝く槍の穂先は絶望を声、希望へ居たるが為にその輝きを損なうことはない。限界を超え、溜め込んだ力は槍に乗せられたままに呪獣の下へと飛び込んでゆく。
 グルルル――――
 喉を鳴らし牙を剥きだした獣達。それを真っ直ぐに見据えたベネディクトと風牙は頷き合う。黒狼の牙は決して獲物を逃さない。こうして、苦しみ続ける存在を有り触れたバッドエンドとして残しておくことはしないのだ。
 トウカが握りしめた桜の太刀が呪獣の牙を受け止めた。鬼紋の花弁が幸運を掴み取るという決意を帯びたように有刺鉄線のような道へと変貌する。鬼血が呪獣へと絡みつく。天下無敵の勇猛果敢、そう己を鼓舞し続けるトウカは呪獣の苦しみをも飲み込むことを願った。
「恨ミ 妬ミ フリック達 受ケ止メル。
 幾ラデモ……ダカラ ソノ苦シミ 哀シミ 置イテッテ」
「ああ――もう、悲しまなくっていいんだ」
 誰かのせいで、なんて。目を細めたトウカは願うようにその獣を地へ。


 瑞花、そう名付けられたのは瑞神の神力で咲き誇るが故なのだそうだ。フルールは「どこかしら?」と囁く。
 壱師の花に似たそれの眼前に立ったベネディクトは「これが、瑞花か?」と問い掛ける。美しい、小さな花をまじまじと見詰めていた風牙は「瑞」と呼び掛ける。
「ひとつ、オレの分を余分にもらってもいいかな。一人、個人的に弔いたいヤツがいるんだ」
「ええ」
 美しい花を一輪、風牙は有難う。と頷いてフリークライへと慎重に植え替えた。
「早く帰ってお弔いをしましょう。望まず邪に身をやつしたもの達、妖、呪獣、魔種、肉腫を次に生まれてくる時は共に歩める命であることを祈って。そして、倒さなければならなかったとは言え、ごめんなさい、と。謝りたいわ」
 フルールは柔らかな声音でそう言った。弔い花の白い白い美しさ。それが魂を誘ってくれるのならば、喜びが溢れるようで。
 メイメイは一輪一輪弔いの気持ちを込めてフリークライへと植え替えて小さく笑う。
「ふふ、小さなお花畑みたいです」
 目を細めて微笑んだメイメイにレーゲンは「綺麗っきゅ」と頷いた。
「恨みは無いけど、そのままずっと恨んだり、ずっと悲しむのは辛いから……時でも癒せぬ悲哀がある事を自分の心は思い知ったから……またこの混沌で会える日までさよならバイバイとしっかりお別れっきゅ」
 屹度、『またね』と告げればそれは叶うはずなのだと、レーゲンは知っている。
 今はバイバイと手を振って。また、会いに来てくれる日を望むように。白い花を無数に背負った小さなお花畑をカルウェットはまじまじと見詰めている。
「フリック、瑞花、植える、したら。ボク、フリック、守る。瑞花、運ぶためも、だけど。
 こっち、ボク、力入れたい。もちろん、さっきも、頑張るしたけど。
 さっきと同じ、守る。だけど、さらに、気持ちはいる。ボクの力、大切な人、守るため、使うできる」
 カルウェットは今までで一番気合いを入れると瑞花をその背に植えたフリークライを見遣った。フリークライも花も何方も守り抜く。そう心に決めれば、やる気だって溢れるものだ。
「安心して、任す、してもらえるよう、がんばるぞ」
「コレデ 帰路 安心。花 元気ナママ。必要量次第デハ フリック 真ッ白?」
 慌てるフリークライに瑞は「わたしも頑張ります」と己の中に存在した神力をフリークライへ分けるように祈る。

 ゆっくりと、山を下りる。その最中も、来た時と同じように、いや、それ以上に慎重に。
 其れでも厳かに。葬列を見送るような心地でレーゲンは進んだ。まるで死者を空へ帰すかのような感覚。風牙は神妙な面持ちでフリークライの背を見遣る。
 彼処に揺れた一輪。それが、自身と戦った『あやかし』であった『裏返った』その人に。『よ』をなくしたその人が、為に。
 背中を預けて戦った名も知らぬ亡くなった武者達に。そして、幾度となく戦った呪獣達に。
 ベネディクトは其れ等を弔うように目を臥せった。そうして、送りたい魂達が、少しでも良き輪廻に導かれることを切に願う。
(……卑踏。いや、つむぎ。オレは、この国から穢れを払いきってみせるぜ。地獄で釜茹でされながら見てるがいいさ)
 個人的に弔いたい――そう願った。
 誰もが、フリークライの背に咲いた花に弔いの想いを込める。美しき、白き瑞花は祈りを受けたように、沫雪のように光に散って、周囲に踊る。
 暖かな、気配だとレーゲンは感じていた。
「きれい」とメイメイは囁き、ベネディクトは驚いたように瞬く。光が、空へと昇るように溶けてゆく。
「あれが、君の――瑞神にとっての弔いと、祈りか」
「はい。わたしは、我が愛しい子達がさいわいであることを願います。
 まだ、幼子の力しか無かろうとも……此の想いは、皆様の祈りは、大神(はは)へ届くでしょう――」
 瑞に「それなら、うれしい」とカルウェットは小さく頷いた。光舞う、その中で、誰かの命の終焉が届けられてゆく。
「どうか、みんな、幸せに、なれますように。わがまま、なのは、わかるけど、祈らずにはいられないぞ」
「公的ニ弔ウ 願イ出タノハ 未ダ 呪詛 利用スル者ヘノ 釘刺シ 牽制ニダケデナク 人々 意識シテ欲シイ フリック 願ッタカラ……妖モマタ 命ナノダト」
 故に――これからは人々の勝手な都合で呪詛が行われないようになれば良いと。そう願う。
 瑞は「ええ、そうなることを望みます」と囁いた。感情を持つ生き物であるから故に、恨みは連鎖を続けていく。
 トウカは、鬼人種は――『獄人』と呼ばれ迫害された種は其れを識っていた。恨みはない、敵と思うには辛い.助けられないことが辛かった。それでも、此れからの悲しみの連鎖が生まれないように。故に、先程振るった刃は、もう惑うことは無かった。
「瑞、彼らはまたこの世界に生まれる事が出来るのだろうか――」
 ベネディクトに黄泉津の名を冠した神は「ええ、屹度。幸福な子として生まれてきてくれるでしょう」と静かな声で囁いた。

 あすしらぬ我身ど思えど 暮れぬまのけふは人こそ悲しかりけれ――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は有難う御座いました。
 神威神楽はまだまだ、傷跡も深く立ち直り始めたばかり。

 此れからも瑞神を何卒宜しくお願い致します。

PAGETOPPAGEBOTTOM