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シナリオ詳細

再現性東京2010:子供たちの夢を守るのは

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「「はぁ」」
 リア・クォーツ(p3p004937)とヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)はため息をついて、それから互いの顔を見合わせた。それから今出てきたばかりの研究所を振り返る。
 ことの始まりは年末に遡る。もうご覧になった方も多いとは思うが、幻想家族バルツァーレク伯爵のアトリエ――さまざまな絵姿などが蒐集される場所だ――に、魔法少女たちの絵姿が納品された。言わずもがな、2人のものである。もちろん伯爵にも見られているぞ、リア・クォーツ。
 当然ながら2人のそれは格好だけで、魔法少女的な存在ではない――はずだった。
「知識の無駄遣いだわ」
「ええ、本当に」
 2人は手元のソレを見下ろした。特にリアなんて見たことがあるのではないだろうか。新型装備のテストという名目で――いや、確かにテストではあったのだろうが――魔法少女にさせられたアイテムである。
 なんか、あの時の試作品が実用的(?)になったらしくて。しかもタイムリーに2人の魔法少女姿を見ちゃったりなんかして。『折角だからあげちゃおう!』というお呼び出しだったのである。
 もちろん2人は何を渡されるのかなど聞いていない。嫌な予感と共にやってきた結果がコレだった。
「しかもこんなに沢山。リア様、ワタクシは配る相手がいないのてこざいますよ」
「まあ奇遇」
 お友達にもいるだろう沢山持っていってと押し付け、否、渡された変身アクセサリーたち。何人かくらいなら――セラマリとか――思い当たる節もあるが、流石に捌ききれない。こんなもの持っていたら絶対何かあるに決まっているし、自分にと渡された分だって早々に手放してしまいたいのだ。つまるところ――2人とも、余分になんて持ちたくない。
「「はぁ」」
 2人分のため息が練達の地面に落ちる。ああ、そういえばこのまままっすぐ行けば希望ヶ浜か。なんて思いながらてくてくとなんとなしに歩いていたら、前方から見覚えのある人物が見えた。
「あらぁ? リアちゃんたちじゃない」
 彼女らに声をかけたアーリア・スピリッツ(p3p004400)はことの事態を聞き、思わず目を遠くする。リアも見たことのあるアクセサリーはアーリアも見たことがある。何を隠そう同じ依頼に出ていたのだから。
「……あの依頼の? 完成品? そう……」
「よろしければどうぞ」
 目からハイライトを消したアーリアの手へアクセサリーを握り込ませるヴァイオレット。彼女には悪いが少しでも在庫を減らしたいのである。のちに彼女から(自分以外であれば)誰に渡ったって良いのだ、一時でも預かってもらおう。
「あら、珍しい組み合わ、せ――」
 そこは通りがかったアルテミア・フィルティス(p3p001981)は即座に感じた嫌な予感にくるり、と身を翻す。ここで用事を思い出したとか言っておけばセーフ――。
「――なんて思わないわよね?」
「わ、私には関係ないことでしょうっ?」
「あらあら、関係あるでしょ~? リアちゃんと一緒に深い心の傷を負ったものねぇ?」
「「ぐっ」」
 アーリアの言葉にリアも巻き添えをくらう。何してんだこいつら。
 そんな彼女らの耳にふと、緊迫感のある声が飛び込んだ。



「誰か! 助けてー!」
「っ!?」
 ばっと振り返り駆けだす4人。声の場所はここからさほど遠くない。この表面上だけでも平穏な希望ヶ浜において、一体なぜそんな叫びが出て来ると言うのか。
 ……が、4人の歩調は近づくたびに段々と緩やかなものとなる。未だに悲鳴が聞こえているが、それと混じって音楽とか、効果音とか聞こえ始めたから。
「え、なにこれ」
「ヒーローショー……でございますかね?」
「あらぁ」
「迫真の演技だったのね……」
 そっと顔を覗かせた4人は、ミニステージで行われるヒーローショーに戸惑うやら、照れるやら。至極真面目に走ってきてしまったあたり、人を助けなければという善の心が鍛えられているようである。
「ワタクシが善人だなんて、世迷言ですね」
「でも一緒に走ってきたじゃない」
「うふふ。条件反射って怖いわねぇ」
 頬に手を当てて笑うアーリアとアルテミアは、その周囲に見知った顔がいることに気付く。彼らも同じような手合いか、それともヒーローショーを見に来たのか。自分たちだけではない様だ、などと思うも束の間。

 突然の出来事だった――突然、空が黒く覆われたのは。

「えっ?」
 困惑する司会のお姉さんの言葉がこれは想定外なのだと知らせる。イレギュラーズは辺りに満ちた雰囲気に表情を険しくする。わらわらと周囲から詰めて来るような気配にいち早く子供達が泣きだした。
「マリー」
「はい。……夜妖ですね」
 頷いたハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)はセララ(p3p000273)と視線を交錯させる。自分たちもまきこまれたのは勿論であるが、このままにはしておけない。そう話しているのはアーリアたちの方も同じだ。
「でも、普通の人たちはどうするの?」
「こうなったら仕方ない、気を失ってもらうとか……」
 この街にいる住民は非日常を認めない。彼らの前で戦闘など始まれば正常でいられない者もいるだろう。せめて意識を飛ばしてやるのが情けか。そう考える一同の視線がおもむろに手元へ向かい――固まった。
「……え?」
「いやいやいや」
「ちょっと落ち着きましょう」
「あ、皆もいたんだ!」
 困惑と嫌悪を示す一同の元へセララとハイデマリーが、そして他のイレギュラーズも集まってくる。どうしたのと問われた4人は何とも言えない表情で、自分たちが持っているアイテムについてをかいつまんで説明した。
「皆で魔法少女! なろうよ!」
 セララがぱあっと目を輝かせる。一般人にバレず、危害を加えることなく倒せるのならその方が絶対良い。セララにノってくる者もいれば逆に渋る者もいるが――カルマ・モンクスフード (p3p009282)はその中で魔杖を握りしめた。ああ、どうやらここでも魔法少女になる運命のようである。

 ――ああ、どうしてこうなった!!

GMコメント

●成功条件
 夜妖の討伐
 ※これはコメディ強めな戦闘依頼です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点はありますが、今回に関してはそこまでやべーことにはならないでしょう。

●エネミー
・ヨミー×???
 ヒーローショーで扱っていた敵役がそのまま夜妖になったようです。弱めだけどたくさんいます。初手では外側からじりじりと追い詰めてきているようです。近づいてくるまではそれこそショーの敵役のようですが、一般人まで接近されたなら何をされるか分かりません。

・怪人『ダスク』
 親玉です。あとからもったいぶってやってくる、ちょっと強い敵です。夜妖です。
 片言に喋りますが、凡そ意思疎通はできないものと見てよいでしょう。ある範囲にいる相手を金縛り状態にするなどの特殊能力をもっているようです。

●フィールド
 ヒーローショーをやっていたミニステージです。ベンチが並んでいます。
 周辺は大きめな公園で、広さは十分です。
 先ほどまで昼間だったのに、空が真っ暗になっています。不思議と周囲は良く見えるようです。

●NPC
・一般人
 希望ヶ浜の住人です。ヒーローショーを見に来ていたり、演じていたりしました。皆困惑していますが、イレギュラーズがガチで戦おうとすればパニックになるでしょう。
 逆に魔法少女らしく、これはショーの一環であると思いこませられれば応援が貰えるかもしれません。

●練達アイテム『マジカル☆ミラージュ』
 リアさんとヴァイオレットさんが大量に受け取り、周りのイレギュラーズへ押し付k配布したアイテムです。様々なアクセサリーを模しています。
 効果は以下の通り。

・魔法少女のお着換えができ、武器もそれっぽいものになります。スキル発動の際も魔法少女っぽくなりますし。
・既に変身バンクやギフトなどで魔法少女になれる場合はちょっとゴージャスでスペシャルな感じになります。
・上記のいずれも装備やスキル、威力などはステータスシートが準拠されます。
・小さなマスコット的存在が1体まで『任意で』付属できます。これはファミリアーに近い存在であり、戦闘はできません。また主から離れることもできません。

●プレイング
 どのような順番でも構いませんが、以下がプレイングに書かれていると活躍させやすいです。

1. あなたが持つマジカル☆ミラージュの外見を書いて下さい。簡単で構いません。
 例:ファンシーなブレスレット、雫型の耳飾り、等
2. あなたの魔法少女名を書いて下さい。称号がある人は『名乗りは称号参照』で構いません。
3. 戦法と共に、希望があれば『どれそれのスキルはハートのビームが出る!』など描写希望をお書きください。

●ご挨拶
 このネタ去年から温めていました。正確には12月9日に思いつきました。愁です。
 PC的成功条件は『夜妖の討伐』ですが、PL的成功条件は『PCが魔法少女姿で恥じらったりはじけちゃったりする姿を楽しもう!』です。戦闘が絡んではいますが、主体はそちらじゃありません。
 このシナリオでは魔法少女にならない選択肢はありません。老若男女問わず魔法少女です。活躍を楽しみにしています。ええ、称号がありましたら是非とも設定してきてくださいね!!!
 それではどうぞよろしくお願いします!

余談:下記はリアさんやアルテミアさん、アーリアさんたちが魔法少女になったお話です。読まなくても今回のシナリオをお楽しみいただけます。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3970

  • 再現性東京2010:子供たちの夢を守るのは完了
  • GM名
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月08日 22時00分
  • 参加人数20/20人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
真名凪 ぱるす(p3p005184)
圏外ヒロイズム
ベディヴィア・ログレス(p3p006481)
戦えニート
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
宮田・ラインバルド・遥華(p3p007403)
ファンディスクよ出ろ
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
エシャメル・コッコ(p3p008572)
魔法少女
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)
灰色の残火
カルマ・モンクスフード(p3p009282)
魔法少女(?)マジカル★カルマ

リプレイ


 練達・再現性東京希望ヶ浜の一画。今この時、一般市民の夢と平和が壊されようとしていた。
「CQCQ、聞こえるか? こちら、事件現場に無事到着した」
 これより作戦行動を取る、とどこかへ報告する『圏外ヒロイズム』真名凪 ぱるす(p3p005184)。曰く遥か彼方、この空の果てから降った電波であるらしい。作戦はこうだ――マジカル☆ミラージュを用いて変身し、ヒラヒラした服を着て敵を掃討する。だって使えって言うんだもん。
(時たま通りかかっただけなのじゃが……)
 『絶対領域の防衛者』ベディヴィア・ログレス(p3p006481)はそんなぱるすをぽかんと見つめ、それから唖然と辺りを見回し、それからイレギュラーズたちの手元に存在するマジカル☆ミラージュを見る。マジで? やらなきゃダメ? ダメです。
 しかも気がつけば自身のサブクラスまで魔法少女になっている。これは何かの呪いなのだろうか。視線を巡らせる。複数人いる男性陣。うん、呪いだな。
「宮田の出番ですね!」
 束の間目を輝かせた『ファンディスクよ出ろ』宮田・ラインバルド・遥華(p3p007403)は差し出されたマジカル☆ミラージュにはっと我へ返る。そう、魔法少女はヒロイン枠。変身ヒーローではなく変身ヒロイン!
「どちらかと言えばボクは『あちら側』かマスコットなんだけれど」
 淡い困惑の色を声に乗せた『ひとかけらの海』ロロン・ラプス(p3p007992)は――人ですらない。いや、正確には『人の形でない』。ぷるんと震える水まんじゅうだ。幸い擬態はできるし、『魔法少女』なるもののサンプルもここには数多くいる。真似をすればやってやれないことはないだろう。多分。
 ロロンはまだ擬態ゆえに少女型を取れるからまだ良いかもしれない。さらに厳しいのはそう、ベディヴィアが視線を向けていた――男性陣である。
(前みたいに男が俺1人だったらなぁ……)
 乾いた笑みを浮かべた『月光狩人チェインムーン』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)というこの男。この地獄を既に一度味わった経験者である。どんな目に遭ったのかは該当の依頼報告書(リリカル・マジカル・マーケット)を読んで欲しい。女装してた。

「どうして……どうしてこんな事に……」

 今回のそんなきっかけを作ってしまっt……作った本人たちもまた愕然としていた。
「少しの気の迷いでしたのに……」
 狼狽える『木漏れ日の先』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)。まさかあの絵姿をきっかけにこんなものを押し付けられ、しかも破棄する前に使うハメになるなんて思いもしなかったのだろう。あの絵姿を頼みたいと言ったのは果たしてどちらだったのか。
 ちなみにその相方たる『戦慄少女リア☆ロック』リア・クォーツ(p3p004937)はと言えば――。
「……どうすんだよ、あたしこれでも練達の学校に出入りしてんだぞ」
 伯爵にはとてもお聞かせできないひっっくい声でそう呟いた。
 リアは九尾・理愛という名前で再現性東京に、つまりここに出入りしている。襲われた一般人の中に知人はいないが、電子機器というものが普及しているこの地域でどう顔バレ身バレするかもわからない。避けたい。絶対に避けたい!
「それもこれもてめーが元凶だほm――居ねぇ!」
 視線を向けた先は無。やり場のない怒りにリアは顔をスン……とさせて、それからヴァイオレットを見た。めちゃくちゃ首を振られた。「ワタクシは完全に被害者です」みたいなツラしてた。

 まあ被害者であろうと加害者であろうと、ならねばならぬのだ。『魔法少女』という愛と夢、平和を守る存在に!

 マジカル☆ミラージュを受け取った『魔法中年☆キュアシャチク』只野・黒子(p3p008597)は腹を括った。やるのだ。やらねばならない。夢を壊さず野郎も魔法少女になるのだ!
(流石に変身は夢を壊すだろう)
 物陰に隠れて魔法中年☆キュアシャチクになった黒子はロングスカートの衣装を纏い、顔には面布をつける。布面積チェック、ヨシ!
 くるりと自分を見て問題ないことを確認したキュアシャチクの次のチェック事項は――足だ。野郎のすね毛はアウトもアウト、あろうものならガムテで剥がすことすら厭わない。
 だが夜妖たちはそんなこと待ってはくれないので。
「うはははは! 『魔法警備士 マジカルにーと☆ミラージュごーるど』参上じゃ!」
 金ぴかキラキラのナイト、眼帯をさらりと風に吹かれた金の髪が撫でる姿に子供達――主に女児たち――の瞳が輝く。ちなみに中身はベディヴィア。傍らには騎士服姿のケット・シーがそれいけやれいけとマジカルにーと☆ミラージュごーるをつっつく。
「む、我を働かせるつもりかぬこ~」
 マスコットと睨みあっている間にも夜妖は子供達へと迫ってくる。そこへ颯爽と現れたのは、
「それ以上はこの『ソウルボイス☆ハルカ』がさせません!」
 可愛らしいガントレットを身に着けた魔法少女。ソウルボイス☆ハルカ(遥華)は夜妖を退けるなり子供達を背にして立つ。
(うう、かっこいいのが良かった……)
 じとりと自らの手元、可愛らしいガントレットをねめつけるように見てしまうが変わらないものは変わらない。ここで望まれているのは正義のヒーローではなくて可愛らしく戦っちゃうヒロインなのだ。
「愛と勇気と希望の魔法少女! マジカル♡サリー、登場です☆」
 加勢しますよ! とここで新たに出てきた魔法少女が一般人とヨミーたちの視線を総取りする。キャピ☆と横ピするマジカル♡サリー(『魔法少女マジカル♡サリー』一条 佐里(p3p007118))、22歳170cm体重は秘密。いいんだ、魔法少女の正体なんて誰も分からないはずだから。
(身分はバレず、被害は出ず、問題にならず……ええ、いいじゃないですか)
 まさか20歳越えてこんな――ミニスカフリフリコスチュームで魔法のステッキを握った――姿になるとは思わなかったけど! 思いたくなかったけど!
 早速諦めの境地に近いマジカル♡サリーとは対照的に、『魔法少女トートリート・クシィ』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)は割と興味津々でノリノリである。
「あらあら、これが噂のなりきりグッズ」
 噂になっていたのかはわからないがここには大量にある。
 その中から赤と黒の石がはまったブレスレットを取り、クシュリオーネは身に着ける。
「ヘーレンガルテン・アインラードゥン♪」
 その言葉と共にクシュリオーネは赤黒い光に包まれる。それに気付いた子供達が瞬きもせずその光を見つめる中、その中から彼女の声がした。
「歌いませ苦悶のコンツェート、踊りませ末期のヴァルツァー」
 こつり、とブーツのかかとを鳴らしながら、
「悲鳴、慟哭、断末魔。悪しき者へのリークィエム。私の指揮で、その命にピリオドを打ちましょう」
 赤と黒で身を包みし少女が現れる。
「魔法少女トートリート・クシィ。只今推参です♪」
 タクトを持ったゴシック魔法少女が此処に爆誕。血生臭いとか言っちゃいけない。これは中二ってやつなんだ。
(なるほど、あのような感じか)
 ロロンはこれまでの魔法少女変身姿から学習(できたのだろうか)し、自らも変身を始める。さあ、やるだけやってみようか。
「模倣人格改変、エミュレート開始」
 水まんじゅうのような体に乗っていた氷にも似た水晶玉が淡く輝き、メカニカルな機構を見せながら杖へ変形を遂げる。同時に水まんじゅうが渦を巻き、少女の体を作り出していく。体の構造は変わらないが故に皮膚も髪も人間らしくはならないが、魔法少女とは少女でありながら少女に非ず。問題ない。
 少女型ボディの表面が波打ち、フリルへと変わっていく。ドレスを身にまとった彼女は杖となったマジカル☆ミラージュを手にした。
「水星少女(スライム)ロジカルロロン。エミュレート完了」
 演算領域の大部分は人型の形成と衣装に割かれてしまっているが、これも全てはこの場を滞りなく収めるためである。
「バッチリなのな! この『魔法少女プリティープリン』がほしょーするのな!」
 ぐっ! と魔法少女プリティープリンこと『魔法少女』エシャメル・コッコ(p3p008572)がサムズアップする。その頭の上で「ぴ!」と小さく丸く可愛らしい――マスコットのひよこっこが翼を広げた。
「ボンヤリしているひまはないのな! コッコ軍団、いくのなー!」
 魔法少女プリティープリンの掛け声に何処からともなく可愛らしいニワトリたちが集まり、徐々に近づいてきているヨミーたちへ突っ込んでいく。今、この場の平和は自分たちが守るのだ!
 そんな彼女らを見ながら『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は迷っていた。そうロボットではあるが疑問を抱いていた。
 魔法少女に変身して市民を守る。ならば元から魔法少女たるオニキスはそのままで何ら問題ないと思っていた――のは少し前の話。
(みんな機銃も、ミサイルも、主砲も、履帯や装甲もつけてない)
 むしろどういうことなんだと聞きたい。だがその差にオニキスはようやく、ようやく気付いたのだ。
(もしかして私たち機動魔法少女は……普通の魔法少女ではない……?)
 これは由々しき事態であった。自分たちの普通は普通ではなかったのだ。ならばこの機会に『普通』を目指すべきではないか。オニキスはネックレス型のマジカル☆ミラージュを手にしながらそう結論付ける。
 マジカル☆ミラージュを天に掲げたオニキスの体から腕部、脚部の硬いアーマーが外れ柔らかなアームカバーとロングブーツへ。物騒なシロモノ(背部バックパックと主砲)はステッキへ機能を集約させる。これで見た目は立派な魔法少女。最後に必要なのは応援してもらうための名乗り口上。
「極大火力で、一撃粉砕。重火砲魔法少女オニキス☆ハート。起動――完了(ライズ・アップ)」
 ステッキ――ビームが出そうな形状だ――を構えたオニキス。うん、初めてにしては上々である。あとは『普通らしい』戦い方をするだけだ。

『さあ、目を閉じるのだわ』
『さあ、夢を始めるのだわ』
『『あなたは誰より魔法少女なのだわ!』』

 きゃらきゃらきゃら。双子姫の声が『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)へ暗示をかける。同時に彼の両手首へ嵌められた華奢な腕輪が煌めいた。
 今のグリジオは女の子。可愛くてキラキラした乙女。子供達の夢を護るための――魔法少女なのだ!
「――ツインズフェアリーとまじかる☆グレイ、これ以上は通さないのだわ!」
 そこに立つのは聖職者にも似た純白の衣装を纏いしグリジオ。めちゃくちゃ野太い声でその台詞はやばいと思う。ほら、まだ変身していない『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が可哀想に固まってしまっているじゃないか。
「僕も……魔法少女に……???」
 驚きというよりもはや困惑である。『魔法騎士』セララ(p3p000273)たちのような強さを得るのだろうかと思っていた矢先の『アレ』である。え、マジですか? もしかしてあんな風に? なるんですか??
 けれどもそんな困惑も払拭する勢いで登場するのが――。
「愛と正義の使者、魔法騎士セララ&魔法銃士マリー参上!」
 もはや阿吽の呼吸でバッチリ決めポーズを決める2人。そう、セララと『光の使者マリーホワイト』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)である。
「この世界の平和はボク達が守ってみせる!」
「覚悟するであります」
 魔法騎士、そして魔法銃士の姿をとった2人はハートフルに攻撃を繰り出す。どこからかシャララ~ンとSEが鳴るのも子供達は気にしない。だってここに居るのは魔法少女たちなんだ!
(鉄帝と友好国しか護る気はしないのでありますが……まぁいいでしょう)
 魔法銃士マリーはその実、鉄帝の軍人である。故に誰しもへ平等にというわけにはいかないのだが――まぁいっかとなるのはきっと、隣に立つセララのせい。
 2人の姿にベークはペンダントを握る。そうだ、自分がなるのはああいう姿なんだ!
 尚、ベークは【性別不明】である。彼は果たしてどうなってしまうのか。
『さぁ、変身ワードを! 私に続いて!』
「食レポ以外もできたんですか???」
 いつの間にか現れていたマスコットこと食レポオペレーターの言葉に続く。最早どうなっても構うものか!
「――『レリーズ』!!」
 その言葉を高らかに――誰だ自棄って言った奴――告げると同時、ベークの体が光に包まれる。それはやがて服の形を取り、春告げるような桜色へ変化した。同じタイミングで握っていた鍵のペンダントも杖へ変化していく。
「マジカルドリーム☆スイートベーク! 此処から先は通させない!!」
 ババーンと華麗に登場した彼女――彼か?――は子供達の前へ立つ。その体からは魔法少女になっても変わらない甘く香ばしい香りがするわけなので。
「ママぁ、おなかすいた」
 などという雰囲気台無しな子供の声が聞こえても仕方がないのである。食べないでください。
 どこか吹っ切れた、というかもはや2回目のマカライトもまた「変身」と短い掛け声で魔法少女へ変わっていく。不透明な球体となった星と三日月、鎖が弾けた勢いでロングスカートの裾とポニーテールがふわりと浮いた。
「月光狩人(ルナライトハンター)チェインムーン、狩猟を開始する」
 玲瓏な姿となり駆け出していくチェインムーン。その姿を『へべれけ☆あーりあ』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は「わぁ、すごいわぁ~」なんてどこか他人事のように見た。そう見ざるを得なかった。
(嫌……嫌だわ……これじゃ続編みたいじゃない――)

 ~~ここでアーリア脳内謎のテロップ~~

 私、アーリア・スピリッツ27歳! 希望ヶ浜学園の古文教師をやってるんだけど、ある日練達で新型装備のテストを手伝ったらなんと私に魔法少女適性が!?
 街の平和を護る為、今日もカップ酒片手にやけくそ魔法少女生活☆
「魔法少女へべれけ☆あーりあ おかわり(二期)!」見てね!

 ~~ここまで~~

「……はぁ」
 めちゃ深いため息が出る。しかしその間にも彼女の手は動き、マジカル☆ミラージュを方々へ押し付k――渡している。渡しているのだ、断じて押し付けてなどいない。
 大人が子供の夢を護るのは大事である。今だって既に魔法少女になってくれた面々のおかげで子供達、そしてその保護者もまだ異常事態だと気づいてはいない。ならばこのままショーとして押し通すべきである。
「こうなったらやけくそよぉ!」
 懐から出したのはカップ酒。どこから入手したとか聞かないで欲しい。頼むから。
 一気に飲み干したアーリアは栓抜き型のマジカル☆ミラージュを振り、その姿を変える。もこもこと溢れるのはシャンパンのような泡。それがだんだん小さくなって――。
「弾けるシャンパンの香り、へべれけ☆あーりあ!
 ――悪い子はおねーさんがアルコール消毒しちゃうわよぉ?」
 ふわっふわの魔法少女衣装を身にまとったへべれけ☆あーりあがぱちりとウィンクする。魔法少女(27歳)の誘惑に子供達だけでなく――ヨミーも負けた。

「チェインジ・コスモパワー・ビートアップ!」
 ぱるすの声にマジカル☆ミラージュ(無線型)がピカリと光る。空から降った光に包まれたぱるすは煌めく星のコスチュームで現れた。肩に小さなリトルグレイ――皆が良く言う宇宙人というやつである――っぽい妖精を乗せた彼女は男の子のロマンでもあるマシンガン『マジカル(真剣狩る)・マグナム』を構えて決める!
「宇宙の電波は奇跡の印! 受けたてフレッシュ、魔法電波☆ぱるすちゃん!」
 両手持ちの重火器に男の子たちが盛り上がる。が、故にそのマシンガンから魔法少女らしいリリカルスターが飛んでいくなどとは誰も予想していない。
 ――不意に消えていたステージのスポットライトが灯る。どこからか時代劇にも似たファンタジックなBGMが流れ始め、スポットライトの影からこつり、とブーツの音が聞こえた。

「ひとつ、秘密の正義の味方」
 こつり。光を浴びて影になった少女の、その開いた手の指1本が折られる。
「ふたつ、不思議な魔法の力で」
 もう1本。
「みっつ、皆のピンチを聞きつけて」
 もう1本。
「よっつ、世のため人のため」
 もう1本。
「いつつ、いつでも悪即断」
 握りこぶしが作られて。
「むっつ、無敵に素敵な魔法少女――」

 ひらりと着物の袖が翻る。スポットライトの真下で豊かな金のツインテールが煌めいた。
「金色幻想(アウルム・パンタシア)エクス✧マリア、只今参上。愛と希望は、今此処に」
 『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)、いや金色幻想エクス✧マリアは腰に刺さった刀の柄へ手をかける。深い青の瞳が煌めいた。
 そう、彼女――めちゃくちゃノリノリである。
(どうして……)
 『愛聖天姫ピュアラブ☆テミア』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はそんな仲間たちを見て、それから手元のソレを見てぐっと握りしめた。まさか『また』これを手にすることになろうとは。けれどもこの状況で自分1人だけ逃れ、マトモな戦闘が出来ない故に子供達と同じように守られる――そんなの言語道断である!
「心のひとつやふたつ傷つくくらいなんだっていうのッ! もう一度なってやりますよ魔法少女にッ!!!」
 演じろアルテミア! 今の君は魔法少女適性を持つ女の子だ!
「これ以上好きにはさせないわ! ピュアラブ リンカーネーション!!」
 ステージの裏手から屋根へ上り、高らかに上げた宣言でファンシーなブレスレットが反応する。幾重にも広がった光はアルテミアを魔法少女へ変化させた。
「愛聖天姫ピュアラブ☆テミア、降臨です☆ミ 私の愛で、あなたのハートを焼き上げます♪」
 魔法の剣を携えた彼女はスポットライト下で決めポーズを取るなり、魔法少女仲間たちが応戦しながらも未だ向かっているヨミーの1体へ向かっていく。さあ、魔法少女の時間だ!
 そんな彼女を見て『彼』もまた覚悟を決めた。すでに魔法少女契約を果たしている『魔法少女(?)マジカル★カルマ』カルマ・モンクスフード(p3p009282)である。
『さあいくでち! 勝った方が正義でち!』
 これは悪への復讐なのだと言い張るマスコット精霊アザミの言葉に頷き、カルマはまじかる★クローバーを掲げる。その頭でマジカル☆ミラージュことうさ耳がひょんと揺れた。
「マジカル★クローバーパワー――メイクアーップ!」
 魔法の言葉を唱え、いざゆかん復讐者こと魔法少女マジカル★カルマ。正義の名のもとに執行せよ!

「逃げるのは許さねぇぞこの駄肉天使!」
「離して!!!」
 仲間たちが戦う中で悪役と被害者みたいなやりとりをしている2人組は、やがてリアが押し切る形でマジカル☆ミラージュを握ることになる。
「今回だけです……今回だけですよ……」
「あたしだってやりたくないわ!!」
 死なば諸共。リアのSAN値はとうにゼロだがここでヴァイオレットだけ逃してなるものか。
(ワタクシ、夢だの希望だのを謳えるような存在ではないのですが……)
 これには内なる邪神も困惑すること間違いなし。だが今ばかりは――覚悟を決めた。
「……いきましょう、リア☆ロック! 子どもの夢を守るために!!!」
「早速その名で呼ぶんじゃねえバレるだろ!!」
 身バレを恐れたリアが悲鳴にも似た怒声をあげる。こうなればさっさと変身してやるしかない。
「た、助けを呼ぶ声が聞こえたならば、ワタクシは影より現れる!」
「救いを呼ぶ声が……ぼしょぼしょ」
「罪と悲しみ払う為、闇を束ねて悪を討つ! ……ちょっとリア様」
 頑張ってくださいと小声で告げるヴァイオレット。近くでソウルボイス☆ハルカもギフトによるメッセージウィンドウで口上を表示している。
「腹から声を出してください! そんなに声が小さいと有る事無い事メッセージウィンドウに出しますよ!」
「うう、ううううう……! や、やるわよぉ!」
 そうだ覚悟をキメろ!

「魔法少女マジカル☆ヴィオラ! アナタを照らす光はない!」
「魔法少女☆リアロック! キュートにポップにデスロック☆」

 ババーンと登場を決めたマジカル☆ヴィオラとリア☆ロックの耳に下品な笑い声が届いた。
「魔法wwww少女wwwww」
「てめぇはすっこんでろ!!」
 リアが吠えた先のぷかぷか浮かぶ小さなテレビ――いつぞや果ての迷宮で見た気もする――はですいーえっくす君は懲りない。どこまでもリア☆ロックを苛めて弄り倒すのが愉しい故に。リア☆ロックは笑顔を張り付けたまま武器であるギターを握りしめた。
「はーーーーーーーーみんなぶっころそ☆」

 ――お分かりだろう。これが旋律少女こと戦慄少女リア☆ロックである。



「誰も傷つけさせない、護るのがわたしの使命なのだわ!」(野太い声)
 きっとこの中で誰よりも魔法少女たる心を持ったまじかる☆グレイがヨミーたちを引き付ける。ここで負けるわけにはいかない、だって魔法少女だから!
 その目に光がないとか言っちゃいけない。心の目で見たなら立派に可憐で素敵なレディ(魔法少女)なのだ。まじかる☆グレイは魔法少女、いいね?
「皆、魔法少女たちを応援してあげてください!」
「がんばれー!」
「負けないでー!」
 子供達を庇うようにしながら『ショーのお姉さん』を演じるソウルボイス☆ハルカによって一般人たちは上手くショーだと思い込んでいるらしい。頑張れ負けるなという声援に押されてオニキス☆ハートは杖を掲げる。
「光弾(エネルギー)、収縮――」
 放たれるはピンクでハートマークな光の弾。拡散していくそれにヨミーがグワーッと呻き声を上げながら倒れていく。その様を見ながらオニキス☆ハートはあれ? と小さく首を傾げた。
 視覚的には違和感があるものの、この戦い方――いつも通りでは?
「トートリート・シュラフテン♪」
 魔法少女トートリート・クシィのタクトから放たれた赤黒い斬撃が逃げ遅れそうになっていた親子を護る。ヨミーと親子の間に立った彼女は守ってくれる仲間たちの元へ行くよう促した。
「こちらへどうぞ!」
 ソウルボイス☆ハルカの誘導に従う彼らを見送り、魔法少女トートリート・クシィは再びヨミーたちへ視線を向ける。それなりに倒されているはずだがまだまだ発生するらしい。
「ふふ、ならいなくなるまで斬り刻みましょう♪」
 この程度の相手であればもはやストレス解消の手段である。もちろんそれなりに戦ってはいるけれども、支援型にもなれる魔法少女の存在が心強い。
「皆、がんばるのな! このハートを受け取るのな!」
 魔法少女プリティープリンのほわほわキュアハートが仲間を癒し、前を向かせる力を与える。1人でだって戦えるけれど、支え合ってこそ魔法少女!
 そちらへ攻撃しようとするヨミーをへべれけ☆アーリアの放ったリボンのような魔力がからめとる。「だぁめ」の言葉はまるでじゃれつく子猫のようだけれど、そう簡単には離れない。
「さぁ、いっぱいおねーさんと遊びましょお?」
 とん、と地を蹴る体には薄らと精霊の力がこもった香りを纏う。軽やかな動きと共に薄紫の花弁を散らせる魔法少女へべれけ☆あーりあだが、心の内で願うことはただひとつ。

 ――どうか、どうか、生徒にバレませんように!

 月光狩人チェインムーンと愛聖天使ピュアラブ☆テミアもまた羽のように軽く、そして機敏な動きでヨミーを倒していく。夜闇のような黒の軌跡と蒼炎の軌跡が辺りに散った。
「さぁ、これで月に還してやる」
「何体出てこようと負けないわ……!」
 そんな2人の活躍を見ていた水星少女ロジカルロロンは成程、と思考した。魔法少女というものあのようにも戦うのか。他にもサンプルになる者はいるが、実に多彩である。
(スキル発動の媒体をこれ(杖)にすればいいわけだね)
 ひゅん、と手にした杖を振るロロン。標的は新たに湧いたヨミーの一軍だ。彼女の頭上に形成された美しい氷の槍は、しかし魔法少女改変が入ってキラキラとファンタジーめいたエフェクトを放ちながら飛んでいく。まあ、攻撃できるならいいか?
「遅くなって申し訳ない」
 ここですね毛チェックヨシ! になった魔法中年☆キュアシャチクが参戦する。面布で顔を覆い、ロングスカートを纏った見た目も相まってハスキーボイスな女性に見えなくも……ない! ヨシ!
 彼女(キュアシャチク)はハートのビームをヨミーへ放ちながら魔法少女の戦場へと駆けこんでいった。
(これ、我要らない子じゃない? 要る??)
 20人もの魔法少女が集結したとなれば内1人はそんなことも考える。マジカルにーと☆ミラージュごーるどもそんな1人である。ふぁいおー、と気の抜けた言葉と共にキラキラ光る弾がヨミーへ向かう。しっかしどれだけ倒しても湧いてくるもんだな。
「今だけは僕も――魔法少女の血の宿命に準じるよ」
 ごめんね宇宙人さん、と心の中で詫びながら魔法電波☆ぱるすちゃんはマシンガンを構え、リリカルに相手を撃ち抜く。背後から少女たちの歓声と少年たちの戸惑いが上がった。ゴツいマシンガンと可愛らしいリリカルスターのギャップによる。
 そこへ追い討ちをかけるようにマジカル♡サリーのステッキが淡く光り、振ると同時にオーロラを顕現させた。
「おやすみなさいの時間です」
「こちらは任せて、くれ」
 後方に陣取った金色幻想エクス✧マリアが背から光の翼を生やし、歌を歌って仲間を鼓舞すると共に一般人へ愛と希望を与える。
「グッズが出たら、ぜひ、買ってくれ」
 この言葉を幸か不幸か、リア☆ロックは聞いていなかった。なぜなら――。
「マジカル☆サンダー!」
 近づいてくる敵を片っ端から痺れさせ、切り刻んでいたからである。ギターを鈍器にするんじゃない。
 ちなみに魔法少女力でいずれもキュートにポップなことになっていた。たとえ後ろではですいーえっくす君がリア☆ロックを煽っていたとしても瑣末な問題である。……当人以外にとっては。
(皆さんすごいですね……僕は何かを失った気がするけど……)
 マジカルドリーム☆スイートベークは一体なんだろうと胸を押さえる。わからない、けれどもすべきことは決まっている。
『さぁ、このカードを!』
「ええ!」
 出されたカードを杖で突き、呪文を唱えるマジカルドリーム☆スイートベーク。その力は周囲にいる仲間を強くする。
「此処は絶対に通しません。そのために……僕は負けない!」
「ええ、ええ……罪なき子には指1本も触れさせませんよ」
 手を伸ばしていたヨミーが漆黒の球に包まれる。すぐさま別のヨミーが近づいてくることを察知したマジカル☆ヴィオラは掌を突き出した。
「ルナティック☆シールド!」
 キュイン、という音と共に乳白色のシールドが前方へ張られる。
(耐えて、耐えてくださいワタクシ! この恥ずかしさももう少し……!)
 そう、ヨミーの数は確実に減ってきているのだ。ここでもう一押しすれば魔法少女の自分ともおさらばである。
 ――彼に関しては無理だけれども。
「マジカル★アックスボンバー!!」
 文字通りに敵を薙ぎ倒していく魔法少女(男)。マジカル★カルマはその実、泣きそうだった。滅茶苦茶心折れそうである。周囲に魔法少女がいるから大丈夫? いやいや可愛らしい魔法少女に混じってこの自分が魔法少女をしている事実もメンタルにクリティカルヒット。
『なーに言ってるでちか! ここで知名度あげなきゃどこであげるでち!』
「い、いやしかし……」
『それとも〜? いたいけな子供達を見捨てるでちか?』
 アザミの言葉がこれはこれで刺さる。復讐を誓った男だが、無関係な者たちが不幸になることは望んでいないのだ。
 つまり――見逃せるわけがない。
「うおおおお!」
 カルマ★アイで敵を見据えたマジカル★カルマは愛と希望と平和のため、ステッキを携えて突っ込んだ。
「皆、ボク達を応援してね! それが魔法少女の力になるんだ!」
 魔法騎士セララの言葉へ素直に応える子供達。その力に押されながら魔法銃士マリーと共にフォームを変えながら残っているヨミーたちと応戦する。
「マリー!」
「あれですね」
 淡い光と共に天使フォームへ変わった彼女たち。セララはヨミーへ肉薄し、その後方からマリーが援護する。
「セララ、今です」
 並列思考しながら敵の隙を見つけたマリーの声。セララはそれを信じて武器を振りかぶる!
「神の救済を――セララスペシャル!」
 十字架のような斬撃。それに倒れるヨミーの背後から、側面から新たなヨミーが立ちはだかってくる。しかしセララが剣を握りしめると同時、多量の光弾がそれらを撃ち抜いた。
「マリー! 流石っ!」
「子供達にも、セララにも指一本触れさせないであります。……まだ来ますよ」
「うん!」
 魔法騎士セララ&魔法銃士マリー。2人は息のあった動きで確実にヨミーを倒して行っていた。

 ――だが。



 小さな悲鳴を耳にしたのは不意のことだった。
「―― ソウルボイス☆ハルカ!」
 人々を庇っていた彼女を取り囲むようにヨミーが立ちはだかり、その後方から新たな影が出現する。それはヨミーたちの親玉である怪人『ダスク』。
「ダ、ダスク……!? ウッ」
 へべれけ☆あーりあが目元を押さえ、ふらふらとダスクたちの元へ自ら寄っていく。そして振り返るとにぃと笑い、マジカル☆ヴィオラとリア☆ロックを攻撃し始めた。
「ど、どうして……! 正気に戻って下さい!」
「うふふふ……貴女たちが悪いのよぉ」
 ぐうの音も出ない。が、それはそれこれはこれ。一同は仲間であるアーリアではなく、元凶たるダスクへロングスカートを靡かせた月光狩人チェインムーンや水星少女マジカルロロンたちが度重なる攻撃を仕掛けていく。
 だが。
「くっ……なんてやつなのな」
 魔法少女プリティープリンが歯噛みする。召喚されしコッコ軍団――かわいいニワトリの群れだ――をものともしないとは。ヨミーなど比べ物にならない強さに、他の魔法少女たちも打つ手がなくなってきている。愛聖天姫ピュアラブ☆テミアはホロリと美しい雫をこぼした。
「こんなに強いなんて……私では、私たちでは力不足だと言うの……っ」
「フハハハハ! 魔法少女たちよ、子供達の前で散って貰おうか!」
 勝ち誇ったダスクが笑い声を上げる。挫けそうになる魔法少女たち――しかし未だ挫けぬ心がある。

「負けるなー!」
「がんばってー!」

 そう、素直で正直な心。皆が守ろうとした子供達だ。その存在に気づいた愛聖天姫ピュアラブ☆テミアは瞑目する。そうだ、ここに立ったのは皆を守るためじゃないか。
「もう……誰も失いたくないんだからっ!!」
 立ち上がる愛聖天姫ピュアラブ☆テミア。その想いにマジカル☆ミラージュが煌めき、その姿を進化させる。
 開いた左目は金色に、髪の毛先は紅色に。赤と青の衣装と炎翼は双子の心が傍らにあるのだと信じて。
「どんな強大な敵だって……私たちは、負けたりしません!」
 マジカル♡サリーもまた立ち上がる、そして振り返ると子供達へ両手を広げた。
「みんなの応援をください!」
「そうなのな! 言葉が力になるのな! 操られてる魔法少女だって元に戻せるのな!」
 魔法少女プリティープリンも子供たちへ語りかける。応援の声は魔法少女の力。へべれけ☆あーりあの精神を縛る鎖だって打ち砕くのだ!
「はっ……私、何をしていたのかしらぁ」
 目を瞬かせたアーリアはダスクが近くにいることに気づいて素早く距離をとる。そして声援をくれる子供達へぱちりとウィンクを飛ばした。
「皆ありがとねぇ。そのまま応援、よろしくお願いするわぁ!」
「もっと大きな声でいくのな! せーのっ」

「「「「がんばれー!!」」」」

 真っ直ぐで熱すぎるほどの応援。金色幻想エクス✧マリアは視線でヨミーたちを射止めダウンさせ、ソウルボイス☆ハルカを救出する。
「今です皆さん!」
「今な! ねーちゃん、マリア! 必殺技なー!」
 ソウルボイス☆ハルカと魔法少女プリティープリンの声に押され、金色幻想エクス✧マリアは希望の力を一手に集めた。
「マリア達の愛と希望は、ちょっと痛いぞ」
「ちゃぁんと受けてちょうだいねぇ?」
 放たれる眩い光。他の魔法少女達も合わせて技をダスクへ放つ。
「終わりだ月の獣」
「ええ、ここで燃え尽きてもらうわ!」
「トートリート・ダス・エンデ!」
 愛聖天姫ピュアラブ☆テミアの双炎が、カルマの放つ嫉妬砲が、そしてぱるすの撃ったリリカルショットがダスクへ飛んでいく。遅れをとるわけにはいかないとマジカル☆ヴィオラ、リア☆ロックも動き出す。
「行くわよ! マジカル☆ヴィオラ!」
「ええ、リア☆ロック!」
 マジカル☆ヴィオラの作り出した幻影と共にリア☆ロックが勇気を奮い立たせる旋律を奏で、光り輝く魔法の五線譜が周囲を取り巻く。
「ボク達も行こう、マリー!」
「ええ」
 ダスクたちの目論見を潰えさせるべく、子供達の笑顔を守るべく、セララとマリーの必殺技が――合体する。

「「ギガセララ・ゴルトレーヴェ!」」

 こうして、世界は目も眩むほどの光に包まれた。



 敵の影が消え、空が青く晴れ渡る。澄み渡った綺麗な青に子供たちが歓声をあげる中――イレギュラーズの様子は二分化されていた。
「あ、誰か……手伝ってもらえませんか? 墓穴を……その、私の墓穴を……掘りたいんです……」
 人気のない片隅にて佐里がザクザクとシャベルで掘り始める。先程までのことを思い出したのかその目には光がない。
「ワタクシも……ワタクシも掘らせて下さいませ……」
 隅っこで体育座りしていたヴァイオレットがフラフラとそちらへ引き寄せられていき、リアも誘蛾灯のように引き寄せられようとした――が。
「はいっ、皆が大活躍する漫画ができたよ!」
 ニコニコしながらセララが複数冊の冊子を持ってきて一同へ配っていく。思わず受け取ってパラリと中身を見ると、

「な、な、なんじゃこりゃーーー!!!」

 確かに皆の活躍が載っていた。……キラッキラの魔法少女姿で。
「皆にあげちゃうね。あと、この場にいる一般の人たちにも――」
「ちょおっと待ったァ!」
 今にも飛び出していきそうなセララを引き止めるリア。その傍らで同じ冊子を受け取ったハイデマリーがスン……としながら視線をリアへ向ける。
「諦めも大事ですよ」
「嫌だ! あたしはまだ諦めたくない!」
「ダメ?」
 上目遣いに問うセララ。詰まるリア。しかし負けるわけにはいかない。今後の平穏な練達生活が揺らぐ。そしてリアが気づいているか定かでないが、これが芸術品と認められた場合――伯爵の手に渡る可能性は、大いにある。
 しかし彼女の受難はまだまだ続く。
「よし、できた、ぞ。皆の壁紙、だ」
「壁紙ぃ!?」
 ばっと振り返るとエクスマリアがどこか満足そうにaPhone10を眺めている。そんな、電子媒体なんて末代まで残るだろうが!
 そんな魔法少女たちの――というか主にリアVS他の魔法少女たちの――戦いを他所に、カルマやアルテミアたちは実に魔法少女らしく振る舞っていた。
「もう大丈夫だ」
「ありがとー!」
「写真撮ってー!」
 嬉しそうに手を伸ばしてくる子供たちにカルマは小さく微笑みを浮かべる。弟妹たちもこんな時があったっけ、なんて思いながら。
 アルテミアもサインや写真撮影に快く応じ、子供たちの夢を守らんとサービス精神を見せる。……その心は瀕死を通り越して燃え尽きているが。
(……難しいな、普通の魔法少女)
 そんな一同を眺めながら、ふとオニキスは自らの姿を見下ろす。マジカル☆ミラージュで姿は変われども、それ以外はそんなに変わらなかった気がする。いやはや普通って難しい。邁進していかなければ。
「――ハッ」
 ここでようやくグリジオが正気付く。夜妖が出てきたところまでは記憶にあるが、気がつけば今。そして何故かこの真っ白な衣装になっている。なんだこれ。
『楽しいのだわ』
『可笑しいのだわ』
 きゃらきゃらと双子姫が笑う。さて、彼女たちは真実を知っているようだが――その肩へポン、と手が乗せられた。
「ヤケ酒、行きましょうか」
「は?」
「行きましょうか」
「お、俺も」
「ボクはジュースでいいですか?」
 知らぬはグリジオのみ。黒子やマカライト、ベークといった男性陣が集まり始める。この際男性じゃなくてもいいのだ。一緒にヤケになれるなら。
(これが一番の収穫だね)
 ロロンは様々な感情の揺れ動く彼らを観察する。まさか自分が巻き込まれるとは思っていなかったけれど――この場に集う感情は、羞恥という表現だけでは表せないものだろうから。

 しかし一件落着と思うなかれ。マジカル☆ミラージュは皆の手に渡っている。再び使われるか否かは――あなたたち次第でもあるだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 207名から選ばれし20名の魔法少女たち、お疲れさまでした。
 希望ヶ浜の平穏は君たちによって守られました!
 また魔法少女出動依頼があれば是非よろしくお願い致します。

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