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シナリオ詳細

<アアルの野>進軍を鎮魂に変えて

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼の名前を呼んでくれ
 大鴉盗賊団は、ファルベライズ中核への進軍とネフェルストへの進軍の二面作戦で多大な犠牲を払い、結果として大損害を以て敗走を余儀なくされた。それでも、上層部や強力な幹部をいくらか残し、下部構成員もそれなりに確保している辺りが首領であるコルボの手腕を感じさせるところである。
「俺は弱い。それは分かってんだろ、旦那」
『ヨワイ! ヨワイ! ダーエル、ヨワイ!』
 そして、そんな彼等の潜伏先の1つで。オウムを肩に載せたひょろ長い男が、がっちりした体格の盗賊と顔を合わせていた。……ダーエルと呼ばれた前者は盗賊ではない。本来なら。
 だが、目の前の盗賊にかつて命を救われた経緯があり、此度の侵攻に合わせて後者の男、ヴィヒトに呼び出されれていたのだ。
「なに、お前を矢面に立たせようなんざ思っちゃいねえよ。そもそもお前に荒事は無理だ。コソコソ隠れてそのオウムを使って小細工カマすしか能がねえ。それで芸をやって身を立ててきた、そんなお前に戦えってのが無理な話だ」
「じゃあ、何をさせる気だよ旦那」
「その芸で、死んだ俺の部下達を『起こして』くれ」
 ヴィヒトの言葉を聞いたダーエルは言葉を失う。死んだものは戻ってこない。それはすべての原則だ。天義で起きたと風のうわさに聞いた事件も、結局は魔種のつくったまがいものだった。
「……もう少しわかりやすく言うとな、ちょっとそのオウムを飛ばしてな、コレを使ってオウムの口からお前の言葉で呼びかけてくれりゃいい。それでお前の仕事は終わりだ」
「コイツは死なないんだろうな?」
「ヘタをしなきゃ、な」
 オウムを撫でながら問いかけたダーエルに、ヴィヒトはにたりと笑い返した。
 ヴィヒトの考えがどうあれ、まともな仕事ではない。だが、ダーエルはこの仕事を受ける必要があった。
 全ては生きるために、そして愛する家族のために。その手を血に染めることも、或いは必要だったのだ。

●溢れ出る死と泥の試練
 ファルベライズ中核には、『ホルスの子供達』と呼ばれる色宝を宿した土人形が存在する。そしてそれは、故人の名前を鍵としてその姿を取り、行動する。
 イレギュラーズ達が『イヴ』なる個体から聞き出した情報の一部だが、それだけでどれだけ悪辣な存在なのかは理解できようというものだ。
 死んだはずの相手が蘇る。そして記憶を持たぬまま、人形であることを自認してそれらしく振る舞う。相手に思い入れがあればあるほど、地獄の様相を呈していく。
「だから、地底湖を巡回かゆ。妥当な判断ゆ」
 『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)は他のローレット・イレギュラーズと共に地底湖に赴き、『ホルスの子供達』や錬金術の産物たるモンスターが出現しないかを警戒していた。それなりの戦力である彼女を与太事で遊ばせておくことはない、というならたしかに妥当な判断だ。
 だが、彼女らは「内側からの漏出」に気を留めていたばかりに、「外部からの人ならざるものの潜入」は完全に考慮の外だった。
『シシャノナ! シシャノナ!』
 唐突に迷い込んだように現れたのは、一羽のオウム。首元になにか荒削りの石を巻かれ、宙を舞う。
『エーリヒ、クント、ベルハイル……』
 そして、その石から男の声でなにごとか単語の羅列が続く……それに気づいたパパスは、即座に「内部警戒! 迎撃体制に移るゆ!」と切迫した声を上げた。
 彼女の警句が早いか、中核から『ホルスの子供達』が……盗賊姿のそれらが現れる。手練れを思わせる動きで襲いかかってきた敵の数は半端なものではなく、今なおオウムからは声が響く。
 パパスが咄嗟に投石を試みたが、胸元の石は守りの護符(タリスマン)の意味もあるのか攻撃が通じない。
 今はまず、溢れ出す敵を倒さねば。

GMコメント

 そうだね、こういう新しいソースはラリーで一枚噛んでおこうね!

●達成条件(1章)
 『ホルスの子供達(盗賊)』の殲滅

●ホルスの子供達(盗賊)×推定30以上
 ファルベライズ中核から溢れ出てきます。素体の状態で現れますが、オウムの呼びかけで即座に形を変えてきます。
 ナイフ、単発銃、なかには軽易な魔術を使う個体も現れますが、回復は無し。
 BSは多少使えるようですが個体の攻撃性能は言うほど高くありません。ただし、そこそこ打たれ強いです。
 推定数は一気には現れず随時増加という感じ。破壊時、色宝を回収しないと再構築される恐れがあります。

●オウム
 撃破不可。胸に何か荒削りな石を備えたオウムです。
 恐らく石から流れる声の主が今回の敵のようですが……?
(『●彼の名前を呼んでくれ』は第一章ではPL情報です。ご注意ください)

●戦場
 ファルベライズ地底湖。それなりの広さがありますが、乱戦向きのフィールドとは言い難いので注意と工夫が必要です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アアルの野>進軍を鎮魂に変えて完了
  • GM名ふみの
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月06日 17時50分
  • 章数2章
  • 総採用数50人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節


 湿った匂い。鉄錆の匂いに生臭さを混ぜたそれは、人が嗅げば死を直感させるものだった。だが、それは今死んだ、先程死んだという類ではないことが直感でわかるだろう。……まるで、腐りかけの死体を操っているような臭気。
「……おまえ、悪趣味って言われたことねえかゆ」
『お言葉だねぇイレギュラーズ。こいつらを殺したのはお前達だろ? 殺してねえとは言わせねえぜ、誰かは、どこかで! 俺達「大鴉盗賊団」の誰かを殺してそのまま遺跡の外に、もしくは中に捨ててった記憶があるはずだぜ!』
 パパスの苛立たしげな声に応じたのは、先程オウムにつけられていた石から響いたものとはまた違う声だ。
 先程の声は陰湿なものだったが、今聞こえるものは陽気な……何処かネジのハズレた男の声だ。
『まあ俺もその1人だったさ。お前達が誰っひとり知らねえで殺しかけて遺跡の奥に遺してったつまらねえ盗賊だよ。でもまぁなんだ? 俺には「才能」があったらしくてよ。コルボの旦那の下でせこせこやるのも悪くねえが、もう少し面白おかしく――イレギュラーズ(おまえたち)に害になることをやりてェなぁって思っただけなんだよ!』
 狂笑。果たしてその声は、それを発す魔道具はどこにあるのかといえば……イレギュラーズの前に、すでに存在している。
 死体。否、腐りかけのそれは立ち、動いている。
 そして特異な点は、幾つもの人体を縫い合わせて「人の形」に整形しているところだ。
 ざっと四肢に2人ずつ、胴に3人(頭部含む)の11人の死体が「それ」を構成していた。その首に、石がある。
 それとは別に、単体としてそこそこ新鮮な死体であろうものが手に手に武器をもって歩いてくる……否、駆けてくる。
 それだけならまだいい。 
 さきの戦闘で多量の色宝を奪われた影響だろうか、その奥から這いずる音が聞こえる。
 現れたのは蛇だ。尾の先に蠍の尾のような棘を持ち、いびつに生えた体毛は鋭い。数は多いが、頑丈そうにはみえない。
『ああ、自己紹介がまだだったなイレギュラーズ。俺はヴィヒト。「傲慢」だ』
「――ブッ殺してやゆ」
 コレがすべて彼の手引だとするなら、悪趣味なことこの上ない。
 パパスは心の底から、彼の声に殺意を吐いた。

 というわけで『ホルスの子供達』に形を与えて色宝を引っ張り出すのが第一段階。 
 イレギュラーズに回収させることで防衛機構として錬金モンスターを引っ張り出して外からも攻撃を仕掛ける挟撃が2段階目でした。そんな感じで頑張っていきましょう。

●達成条件(2章・完結予定)
 『屍兵』(大・小)、『ペルーダ』の殲滅

●屍兵
 傲慢の魔種・ヴィヒト(大鴉盗賊団幹部)が死体を操っている状態です。
 大は都合11人の死体を継ぎ接ぎにしたもので、拳や足に当たる部分が人2人分の頭部です。
 小は普通にゾンビみたいなものとお思いください。
 大はHPと抵抗が高いですが防技はそれほどでもありません。マーク・ブロックは2人以上必要。攻撃は大振りですが威力が大きく、距離感が掴みづらい(変幻(小))です。取り立ててBSは持っていません。
 小は反応と回避がそれなりにあり、武器は様々。遠近どちらも使え、連携もとってきます。
 主に「出血」を付与してきます。
 当然ですが「大」は少数、「小」はそれなりにおります。

●ペルーダ
 尾に蠍の毒針のようなものと、毒のある体毛を持つ蛇の群れ。
 近接状態にある、または近接攻撃をしかけた場合、「火炎」BS付与判定が発生します。
 レンジ1までの攻撃主体、尾は「毒」、体毛は「火炎」のBS付与。
 HPはそこまで多くありません。防技はそこそこなので注意は必要です。

●ヴィヒト 
 傲慢の魔種。今回は屍兵・大の1体に拡声効果のある石をつけることで遠隔で煽ってきています。
 今回は戦闘になりません。


第2章 第2節

古木・文(p3p001262)
文具屋
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者


「……。素体、倒したと思ったら復活させるし。色宝の回収を邪魔したかと思えば次はあの死体損壊だし。嫌がらせとしては大成功だね。なかなかに堂に入ってるよ」
「……これは、酷いねぇ。仲間の亡骸なのに、こんなにも惨い使い方をするなんて……」
 魔種・ヴィヒトの『嫌がらせ』は物理的にも、精神的にも十分な効果を伴っていた。少なくとも、文に対しては殊更に。死者の模造品が寸暇をおかず増え続けるというのは、非常に精神的にクるものだ。
 シルキィにとっても同様。大地を踏みしめるのがいびつに潰れた人の頭、足首が文字通り『首』というのは……尊厳もクソもない。
「魔種絡みか。事が大きくなれば、狂気に飲まれる者も現れる……弱ければ狙われる、それだけの話だ」
 愛無は現状を冷静に把握しつつ、淡々と述べる。ともすれば非情の誹りを受けそうなその言葉は、しかし盗賊達にも同じ道理が跳ね返ることを如実に表している。つまりは、彼等は弱いから死んだのだ、と。
「戦ってきた以上、弔ってやれとか丁重に扱えとは言えない。それでも、ここまでされる謂れはないはずだよぉ……!」
「でも、言いたいことはパパスさんが代弁してくれた。あの蛇を倒そう」
「精々頑張れゆ。傷は治してやゆ」
 3人はパパスの声を背景にペルーダの群れへと向き直り、散開する。中遠距離主体の攻撃を特異とする一同は、固まって戦ったほうが不利なのだ。
「吹き荒れろ熱砂の嵐……!」
「叩きのめせ、砂嵐!」
 似通いながらも異なる熱砂の魔術。シルキィと文の放ったそれは、互いの狙えぬ位置をカバーしつつペルーダに肉体的不利を与え、傷を着実に増やしていく。当然、2人にそれぞれ敵が向かうのは必然。すわ大打撃か、と思われたシルキィの前に立ちはだかった愛無は、口腔からあらん限りの咆哮を吐き出し、それらの足を止めた。
「僕に毒も炎傷も通じない。突出してきたのは僕が止める、2人はできるだけ多くを巻き込んで暴れる……で、いいね?」
「わかったよぉ、それじゃあ前は任せたねぇ……!」
「……僕は食らっておかないといけない……?」
「そっちはわたちが治してやゆ、レディファーストだから我慢すゆ」
 愛無に指示され、信頼を向けたシルキィの頭に、文は急激に危機感を覚えていた。砂嵐を叩きつけた相手はともかく、後から増える相手はそうは行かぬ。が、そこはパパスの治療で帳尻合わせということらしい。痛いことには代わりはないが……!

成否

成功


第2章 第3節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬
袋小路・窮鼠(p3p009397)
座右の銘は下克上
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う


「カッカッカッ、悪辣邪悪大変結構じゃねぇか。パパスの姉ちゃんもそんなに怒るなって。テメェで害だと言ってくれてるんだ」
「怒ってねぇゆ! そっちはわたち抜きでよろしくやってろゆ!」
 窮鼠のフォローするような――一種煽りのような言葉に、パパスは苛立たしげに返す。彼女はペルーダ相当に手を割いているため、屍兵に手を出せないゆえに。
「死体のパッチワークを弄ぶとは、なんとも悪趣味ですねえ。楽器を嗜まれたり素敵な和歌を詠まれたりする方でしたら、わたしの旦那様候補だったのですが」
「キャヒヒッ、そんな風情がわかるヤツが反転するワケ無いデスヨ!」
 『およめさん』澄恋(p3p009412)の残念そうな声に、わんこは茶化すでもなく返答する。笑い事で済ませるには、ヴィヒトの行いは悪辣にすぎる。わんことて、腸煮えくり返っている……の、かもしれない。
「元より盗賊と商人・傭兵は殺し殺されの関係でもある。それを殊更に言うのは今更だろうよ。もう一度、引導を渡すだけだ」
「生者ですらないわんこが、死者への冒涜にどうこう言うつもりはアリマセン。……デスガ。その物言いは気に入らねぇなぁ、"傲慢"。いずれそのツラぶん殴ってやりマス、首洗って待ってろ!!」
「おう、その時は俺も一発殴らせろ、こんな風によ!」
 ラダとわんこの挑戦的な声に合わせ、窮鼠が拳を握って踏み込み、屍兵の頭部目掛け殴りつける。治癒能力の巻き戻しによる一撃は相手の動きを一瞬止め、彼の背後から飛び込んだ澄恋の蹴りを心臓近くに受け大きく吹き飛んだ。
『ここで立てなくなる連中が吠えるねえ、子犬の鳴き真似かい?』
「言ってろデスヨ……お前の手駒なんてこうダッ!」
 ヴィヒトの声が響くが、わんこは気にしたふうもなく澄恋と窮鼠の傍らへと飛び込んでいく。一瞬の溜めから、2人を巻き込まぬよう空間を認識し、当たるを幸いに乱雑に殴り飛ばす。腐った血が飛び散り、あたりを濡らすが彼女には関係のないことだ。それに……僅かに首を傾いだ横を、ラダの魔砲が貫き過る。血は、その余波で蒸発した。
「今度こそ、二度と起き上がるな」
「先手必勝! 殺られる前に殺りゃこちらのもんよ! ……けど、数が多い! ヤバくなったら無理せず逃げるぜ、俺は!」
「あら、いいのですか? わたしは寝なくても大丈夫なので夜通しお相手いたしますが……♪」
「魅力的に聞こえるけど怖ぇよ!?」
 ラダが次弾の準備に入る傍ら、窮鼠と澄恋は弱っている個体を次々と処理していく。軽口を叩きはすれど状況は決して楽ではない。窮鼠の言う通り無理はすべきではない……のだが。
「啖呵切ったからにゃあ覚悟を決めマセントネ……! 来い、死体共! 相手になってやりマス!」
「やれやれ、気迫は十分のようだな……」
 わんこに殴りかかった個体が自らの拳に覚えた違和感、その正体に気づく前にラダの魔砲の餌食となる。運良く生き延びても、わんこの追撃の前に崩れていく。
 イレギュラーズの猛攻止まらず、されど敵の猛攻も止まらず……大型の屍兵が、迫る。

成否

成功


第2章 第4節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
冷泉・紗夜(p3p007754)
剣閃連歌
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)
貴族の儀礼


「如何様に為されても、成したが故には物語と在り得るものか。綺麗に終えた――綺麗でなくとも――者を扱うとは不可解の極み不快の所業。枝分かれの曖昧どもよ」
「あの死体……の足の部分、いつかの遺跡依頼で見た覚えがありますね~。まぁ私が手を下した訳ではないですけど」
 仲間に迫った大型の屍兵に対し、真っ先に立ちはだかったのはオラボナとカイロだ。オラボナはその堅牢な身で初撃を受け止めると、混沌による首刈りの一撃を放つ。それに合わせるようにして、カイロの蛇行撃が屍兵に襲いかかる。数度の乱打は確実に相手の――個体ごとの急所を打ち抜いた。
「供養し、魂を葬るにもひとつ、ひとつと墓がいるならば……連ねられた、あなた達を解放せねばならぬのですね」
 『風韻流月』冷泉・紗夜(p3p007754)は、頌義颰渦爪により巨体の中核を成す屍目掛け、鋭い連撃を突きこんでいく。返ってきたのは確かな手応え。されど、肉体の各所の屍に意志があるかのように拳は振り上げられ、カイロとオラボナ目掛け振り下ろされる。中核の屍も未だ、健在。一見すれば圧倒的不利の体現。それでも、動きのキレが減じたことは紛れもない事実だ。……その裏で。
「あああああ、樽ぅぅぅぅぅぅぅ?! わたしの樽ぅぅぅぅぅぅ!?」
 セリアは己の樽(ねどこ)がパパスにぶち壊された事実に絶望の悲鳴を上げていた。
 ゆっくり眠れる環境があればそれでよかったし、樽があればそれで十分だった。だが樽は破砕され、地底湖は今や魑魅魍魎が跋扈する最悪の戦場と化した。ここで眠れる訳がない。樽があったとしても、全滅させるまでは。
「ヴィヒトと、あとコルボね。覚えたわ。修理費は3倍返しで請求するから、後で耳をそろえて返してもらうね。覚えてなさい」
(イレギュラーズが勝っても、ホルスの子供たちが勝っても、どちらに転んでも色宝は自らの手に……か。腐っている割に存外頭が回る)
 ユリウスはそんなセリアには目もくれず、屍兵に向けて前進する。それは、オラボナ達が押さえていた相手とは別の個体……群体と呼ぶのが適切だろうか?
「図体だけの輩に押し負けるような温い鍛え方はしていないのでな……だから、押し切る」
 屍兵の前に立ち塞がったユリウスが一切撃滅を振り上げ、振り下ろすより一瞬早く。セリアの放った魔術がその胴を強かに打ち、動きを乱す。
「生前にあなたたちがどんな人だったか分からないけど。せめて眠らせてあげるわ……斬って。今なら通りがいいはずよ」
「恩に着る」
 やり取りは短く。ユリウスはセリアの魔術の着弾点目掛けて一切撃滅を振り下ろし、そのまま圧し切るように歩を進めた。縫い合わされたとて人の肉体。圧倒的な戦力との鬩ぎ合いは、一瞬の間を置いてユリウスに軍配が上がった。それで粉砕されないのは、死霊操術あってこその強化か。
「あちらの……蛇ですか。あれも相手したほうが良かったでしょうかねえ」
「何、これがあちらを庇っていないのならここからでも狙えようさ。……さあ、貴様等の肉を加工して魅せよう。食せぬ存在も工夫で芸術の種と化すのだ」
 カイロは、ペルーダと交戦する仲間にちらりと目配せし、いささかばかり残念そうに呟いた。死者の冒涜という点で言えばさきの『ホルスの子供達』もこれも大差はなく、人型の敵は飽きてきた感がある。
 そんな言葉にも気にした様子もなく魔砲を叩き込んだオラボナは、屍兵の背後にたむろしていたペルーダを撃ち抜いた手応えに満足げだ。なんか、ちょっと悔しい。カイロは顔をしかめた。
「斬りて祓うが役目と思うが故に……最早死んだ身なれど、これ以上穢れることは赦されません」
 紗夜は2人の猛攻で動きを鈍らせた巨体に、三連の突きを放つ。今度は中核の個体ではなく、全てに散らすように、三度。三突き目を引いた頌義颰渦爪は、そのまま翻り外道の斬撃三連へと紡がれた。乱れた綿から一筋の糸を紡ぐような流麗な動きは、彼女の意志を反映するかのように……11の遺骸を個別にばらけさせ、地に這わせた。
「この事件が片付いたら、今度はちゃんとみんなで弔ってあげよっか?」
「物語の終わりは既に成された。土の下に還すのは当然の行いだろうよ」

成否

成功


第2章 第5節

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
エシャメル・コッコ(p3p008572)
魔法少女
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy


「――本当に悪趣味な人だね。当人はこそこそしておきながら、痛いトコや嫌な事をぺちゃくちゃ言ってくるしっ!」
「なんかちょー大変ってきいたからあわててやってきたな! コッコもお助けするな! おっきいのとちっちゃいのは地球でも何度かみたことあるな、どろどろでクサイやつな!」
 『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)と『魔法少女』エシャメル・コッコ(p3p008572)はヴィヒトの身勝手な言動に苛立ちを覚えつつも、優先すべき相手というのを理解していた。今ここで優先して叩くべきは、面倒さが突出しているペルーダだ、と。……コッコの経験則がどうにもヤバ目なのは目を瞑ろう。
「ああ、おかしい。とてもおかしいですね。遺跡の内に投げ捨てたのは獣のエサにならんようにとのわたしの心遣い。そもそもの話をすればご自宅のベッド以外の場所で死ぬ方が悪いのです……そちらの作り物は輪をかけて興味がありませんが」
「であれば引き続き、生まれた遺跡で眠ってもらうとしよう。外に出られても面倒だ」
 牧と愛無も、地底湖での戦いに伴う理不尽具合で敵が如何に趣味が悪いかを理解し始めていた。それゆえに、反応は冷ややかだ。ソウソウに倒し、終わらせようとするのは道理というもの。
「そーいん、我に続け、な! あいつらの能力はコッコが封じるのな!」
「花丸ちゃんが一気に引きつけるよっ! その後一気に倒しちゃうから!」
「ふむ、では僕の方でも敵を受け持とう」
 コッコの号令一下、花丸と愛無はペルーダの群れを自らへと引き寄せ、牧とコッコは距離をおいて確実に1体ずつを集中攻撃で落としていこう、と判断した。
 守りの技巧と回避能力に特化した2人なら、群がられても『そうそうは』落ちないだろう。だが、確実というわけではない。想定には何事も例外を孕み、敵の勢力は決して少なくはなかった。……だが、『想定外』とはイレギュラーズにのみ起きることではない。
「皆さんの痛みは私が引き受けましょう。……痛みを感じるほどやわではありませんが」
 愛無と花丸、2人を庇う格好で現れたのはグリーフ。上下左右前後、各所から襲いかかるそれらに身を晒し、熱毒を持った棘を受け止め、打ち払い、しかし自らは攻めることなく受け止め続ける。
「ごめんなさい。貴方が守る色宝を奪うつもりはないんです。私には確約することはできませんが、いずれお還しできると思います」
 ですから今は……その先に続く不確定要素に、グリーフは口を噤んだ。
「ありがとう、グリーフさん。今のうちに花丸ちゃん達が倒しちゃうからね!」
「魔種の手引きで番人を殲滅するのは興が乗りませんが、進むためには仕方がないでしょう」
「敵の戦闘力を無効化できるなら万々歳だ。数が多いのだから無理は正義ではない……手堅くいこう。壁になって貰っているなら、横並びになった個体は好都合だ」
 花丸はグリーフに短く礼を述べると、願いとともに両拳を突き出す。彼女の願いはペルーダを纏めて貫き、襲いかかろうとする動きを一瞬、止めた。そこに叩き込まれた牧の魔術、そして『本来の姿』の愛無の口腔から響き渡る咆哮は、花丸が縫い止めた個体を次々と弾き飛ばす。卓越した防御を底上げされた打撃力で制圧する所業は、或いは外道のそれではある。が、即興で戦いに挑む彼等にとっては正解でもある。
「変なことしよーってんならコッコがふーいんするのな!」
 更に、殊更技能が要る攻撃手段はコッコにより封じられ、そもそも少ない戦闘の選択肢がさらに減らされる結果と相成った。ペルーダ撃滅数は、この戦場の趨勢に大きく影響を与えたことが目に見えてわかるだろう。
「今は此処に居ない相手を気にするより目の前の事を何とかしないとだよねっ! 数は減ったけど、まだまだ頑張ろうっ!」
「魔種が邪魔をよこすなら、この先に進むことは正しいということです。……進む理由が増えましたね」

成否

成功


第2章 第6節

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと


「まったく、死体だらけとは景気が悪いわね。あと、罪悪感を煽るなら少なくとも知ってる顔のほうが良いと思うんだけどどう?」
「……こう考えると、ベアトリーチェは知った顔を当てる時点で格が違ったんだな? 」
 イーリンとマニエラの2人に――というか【紫苑分隊】の4人にとって、盗賊の顔などいちいち覚えている余裕もない。偶発的にそれらを『ホルスの子供達』に仕立て上げたのだろうが、死体を使うという仕掛けを考えれば赤の他人が出てきても動揺に値しない。
「生きてる人は攻撃しにくいけど、別に死んでますしね」
「死者を生者がいいように使うなんて義理が通らないと思わない……?」
 ココロとフラーゴラも、死者を己の手にかけることに躊躇を持たない。尤も、フラーゴラはヴィヒトの『傲慢』さに殊更嫌悪感を持っていることは聞くまでもなさそうだが……ともあれ、彼女がいの一番に小屍兵に吶喊したのは必然だろう。
「マギサ、相手の足を止めて!」
「足止めって私のメインじゃない気がするんだがなぁ?」
 イーリンの指示に首をひねりながらも、マニエラは忠実に事を為す。フラーゴラへ群がろうとした個体は雷撃に縫い留められ、その隙を速度に乗った一撃で打ち抜かれる。辛うじて彼女に取り付いた個体も、ナイフで突き込んだ瞬間に身に返ってくる衝撃にたじろぎ、露骨な隙を見せることとなった。
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に……」
 フラーゴラは頭部へ放たれた銃弾をスウェーで躱すと、傍らを貫き過ぎる師の魔術に目配せする。
「背中は任せるよ……。これぐらい皆なら平気だよね……?」
「そうそう、背後はわたしに任せてね~!」
「緊張感無いなぁ……この程度の相手なら当たり前なんだけど……」
 ココロはフラーゴラの言葉を受け、彼女の調子を確認しつつ術式を展開する。治療はまだ要るまい。なれば攻めに回るだけ。放たれた浄化の光は、屍兵達を着実に足止めし、体力を容赦なく奪っていく。
 マニエラはあまりの緊張感の薄さに呆れつつ、しかし仲間達が淀みなく戦えるよう術式を操る。少なくとも、彼女らが敵の実力を見誤ったりはすまい。
「ココロ、貴方も好きなだけ撃っていいわよ」
「はい! ではお気に召すまま撃たせていただきますね!」
 イーリンの号令の下、ココロはさらに攻勢を強めていく。イーリン自身も次々と屍兵へ魔術を叩き込み、動きを止めた個体をラムレイで踏み散らして、更に前進。
「悪いわねフラーゴラ、このまま押し込むわよ」
「うん……この程度じゃ飢えたワタシたちは満たせないよ……!」
 2人は足を止めない。接近する個体はフラーゴラが抑え込み、封殺。射撃武器で距離を取る個体はイーリンとココロの火力で押し込み、マニエラは指揮と治療でカバーする。多少の危機は、ココロが治療に回ることで容易に挽回しうる。
 対集団戦というフィールドに於いて、彼女達は想定以上に赫々たる戦果を上げたと言えよう。
「敵はまだまだいるが、私達で倒せない数じゃない! このまま退路を拓くぞ!」 
 屍兵が塞ぐは退路、ペルーダが這い出るは迷宮の奥。群がる敵の屍を散らし、彼女達はただ前を向いた。

成否

成功


第2章 第7節

冷泉・紗夜(p3p007754)
剣閃連歌
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬


「"傲慢"……アンタの手勢は残らず倒す。こういうやり方は気に食わねぇんデスヨ!!」
「煽り声など無視しましょう。今は刃にて奏でていきましょう、鎮魂の剣奏を……今、亡者となった者達に出来るのはただ、それのみならば」
 わんこと紗夜は仲間達が排除した影から現れた大型の屍兵と対峙し、各々の得物を構えた。間合いはそう遠くない。小型は仲間が掃滅した。ならば、距離を詰めるまでの数秒こそが戦いの趨勢を決めるだろう。
「先ず一手。その守りが如何に『足りぬ』ものかをご理解頂きましょうか」
 一足で屍兵の足元に飛び込んだ紗夜は、そのまま中心の個体の首目掛け横にひと薙ぎの剣閃を振るう。落下の勢いに乗せて二太刀、三太刀を振るって着地すると、素早く左に退く。
「キャヒヒッ、“傲慢”の手札も蓋を開ければこんなものデスカ! 役者不足デスネ!」
 避けた先から飛んできたのはわんこの指先から射出された弾丸だ。紗夜の連撃もものともせず突っ込んでくるそれは、弾丸の前に蹈鞴を踏んだ。重ねた傷は確かに効果が出ている……が、体制を崩すにはやや浅いか。
 振り上げられた拳を身を捻って躱したわんこは左手を振るい、屍兵を殴り飛ばす。“傲慢”の忌み子を“傲慢な左”で弾くと、背後から紗夜が幽玄刀「鈴鹿」を振り上げた。屍兵の左腕を断つように振り下ろし、動きに精彩を欠いた一瞬をわんこが殴り飛ばす。
 屍兵の内側から膨れ上がる殺気は猛攻の体を為して2人を襲うが……膝を屈した紗夜の背を支え、わんこは崩れ落ちる屍兵へ向けて親指を振り下ろした。

成否

成功

状態異常
冷泉・紗夜(p3p007754)[重傷]
剣閃連歌

第2章 第8節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
古木・文(p3p001262)
文具屋


「盗賊殺しなんざ飽き飽きしてんだよこちとら。今更顔も覚えてねえ。お前らだってそうだろ、なあ?」
「まあね。こんなに攻撃に偏った戦闘は久しぶり過ぎて。段々と、アドレナリンめいた何かが出はじめた気がする……」
「いいじゃねえか。その調子で殺していこうぜ」
 『ザ・ゴブリン』キドー(p3p000244)はククリと時に燻されし祈とを構えてペルーダ達に不敵な笑みを浮かべた。話を振られた文は、一見すれば平生を装っているものの、複数の敵との戦闘や積み重なった痛覚がその神経を研ぎ澄ませ始めていた。残る敵はそれら『遺跡の産物』のみ。オウムを操っていた男は、ヴィヒトとどんな取引をし、果たして――無事なのだろうか?
「僕が先にあいつらを叩くよ。キドーさん、合わせてもらっても……?」
「ヤル気十分じゃねえか。俺は好きだぜそういうの。任せな、そっちのが好都合だ」
 文がおずおずと提案すると、キドーは嬉しそうに笑みを返す。負い目なく蹂躙できる相手だ。この上なく望ましい――そう思えた筈だ。
 文が鵲刻の銃弾を媒介に砂嵐を巻き起こす。守りを崩すためではなく、当てるための暴威は蛇達の動きを僅かながらに鈍らせる。
「仲間同士で潰し合っちまいな!」
 続けざまにキドーが放った呪歌は、文の砂嵐を受けて威力を増し、より強烈な形でペルーダ達を叩く。
 意識をかき乱され、同士討ちの体をなしたそれらは徐々に数を減らし、ダメ押しとばかりにキドーの精神波と文の呪いが頭部、そして残された尾を叩き潰した。
「頭や尾だけが残っても厄介だからな、ああいう連中は」
「体毛まで毒があるとか、本当に……誰がこんなものを作ったんだか」

成否

成功


第2章 第9節

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女


「さて……死者に怪物、これらを振り回して大した目的もなし。ねぇココロ、貴方が敵ならこれを隠れ蓑に何をする?」
「そうですね、敵は時間稼ぎ? これだけでイレギュラーズが止まるとは考えていないでしょうね」
 イーリンとココロの2人は、ヴィヒトの挑発も屍兵の物量作戦も、目的ありきの行動と踏んでいた。ここまで手札を切って嫌がらせだけで済ませるとは思えない。進行の妨害? それこそペルーダを掃討しつつある彼等の実力を思えば足止めにもなっていない。
 無造作に歩いていくイーリンに先駆けてココロは聖なる光でペルーダを打ち据え、弱った個体はイーリンの放った紫耀が薙ぎ払う。度重なる魔術の行使の反動は決して小さくないが、逐次治療してくれる仲間があればこそ。何より、追いすがる蛇達の猛攻など術式で無力化したイーリンにはものの数にも上がらない。
「貴方が私の横に並び立つなんて、最初に会った時は思いもしなかったけど――背中以外も預けられるのは、悪くな――」
 残った個体のひとつに魔術の刃を突き立てながら、イーリンはココロに語りかけようとし……一瞬、言葉を止めた。
 凛々しい横顔から、相好を崩し自分に向き直る少女の顔は、成程、最初に会った頃の頼りなさを微塵も感じさせない。『女子三日育てれば見直すくらい成長する』……そう思わせる程度には。
「いや、『良い』わね。さあ、残りも片付けるわよ!」
「いずれ全てを預けられるくらいになってみせますね!」
 イーリンの魔術の反動をココロが癒やし、先に掃討に回った仲間の影響で同士討ちする個体は纏めて吹き飛ばす。
 ここで倒し切るという意志は、鋭い視覚とともに――死体の群れから這い出す『それ』を見出した。


(ナメてたつもりはねえが、それにしたってやられるの早すぎだぜクズ共……!)
 ヴィヒト――否、彼が大型の屍兵に持たせた石は地面で砕けた。オウムにもたせていたものより大ぶりなそれは『殻』でしかなく、内側に隠していた鼠こそが本命だった。
 そう、戦力を割いての敵勢力の漸減など彼は最初から考えていない。それが出来たなら、部下はもう少し生者のまま自分の横にいた。自分だって、死んじゃいなかった。
 だから今は遺跡の奥に鼠を放ち、新たな策の標と――。

「逃しませんよ」
 ココロの放った思念波が鼠を弾き、宙に飛ばす。
 次いで、わんこが人差し指をそれに向け、一発だけ弾丸を放つ。頭部を打ち抜かれた鼠はべちゃりと地面に転がり、何度か痙攣して動かなくなった。

成否

成功

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