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シナリオ詳細

<アアルの野>進軍を鎮魂に変えて

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼の名前を呼んでくれ
 大鴉盗賊団は、ファルベライズ中核への進軍とネフェルストへの進軍の二面作戦で多大な犠牲を払い、結果として大損害を以て敗走を余儀なくされた。それでも、上層部や強力な幹部をいくらか残し、下部構成員もそれなりに確保している辺りが首領であるコルボの手腕を感じさせるところである。
「俺は弱い。それは分かってんだろ、旦那」
『ヨワイ! ヨワイ! ダーエル、ヨワイ!』
 そして、そんな彼等の潜伏先の1つで。オウムを肩に載せたひょろ長い男が、がっちりした体格の盗賊と顔を合わせていた。……ダーエルと呼ばれた前者は盗賊ではない。本来なら。
 だが、目の前の盗賊にかつて命を救われた経緯があり、此度の侵攻に合わせて後者の男、ヴィヒトに呼び出されれていたのだ。
「なに、お前を矢面に立たせようなんざ思っちゃいねえよ。そもそもお前に荒事は無理だ。コソコソ隠れてそのオウムを使って小細工カマすしか能がねえ。それで芸をやって身を立ててきた、そんなお前に戦えってのが無理な話だ」
「じゃあ、何をさせる気だよ旦那」
「その芸で、死んだ俺の部下達を『起こして』くれ」
 ヴィヒトの言葉を聞いたダーエルは言葉を失う。死んだものは戻ってこない。それはすべての原則だ。天義で起きたと風のうわさに聞いた事件も、結局は魔種のつくったまがいものだった。
「……もう少しわかりやすく言うとな、ちょっとそのオウムを飛ばしてな、コレを使ってオウムの口からお前の言葉で呼びかけてくれりゃいい。それでお前の仕事は終わりだ」
「コイツは死なないんだろうな?」
「ヘタをしなきゃ、な」
 オウムを撫でながら問いかけたダーエルに、ヴィヒトはにたりと笑い返した。
 ヴィヒトの考えがどうあれ、まともな仕事ではない。だが、ダーエルはこの仕事を受ける必要があった。
 全ては生きるために、そして愛する家族のために。その手を血に染めることも、或いは必要だったのだ。

●溢れ出る死と泥の試練
 ファルベライズ中核には、『ホルスの子供達』と呼ばれる色宝を宿した土人形が存在する。そしてそれは、故人の名前を鍵としてその姿を取り、行動する。
 イレギュラーズ達が『イヴ』なる個体から聞き出した情報の一部だが、それだけでどれだけ悪辣な存在なのかは理解できようというものだ。
 死んだはずの相手が蘇る。そして記憶を持たぬまま、人形であることを自認してそれらしく振る舞う。相手に思い入れがあればあるほど、地獄の様相を呈していく。
「だから、地底湖を巡回かゆ。妥当な判断ゆ」
 『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)は他のローレット・イレギュラーズと共に地底湖に赴き、『ホルスの子供達』や錬金術の産物たるモンスターが出現しないかを警戒していた。それなりの戦力である彼女を与太事で遊ばせておくことはない、というならたしかに妥当な判断だ。
 だが、彼女らは「内側からの漏出」に気を留めていたばかりに、「外部からの人ならざるものの潜入」は完全に考慮の外だった。
『シシャノナ! シシャノナ!』
 唐突に迷い込んだように現れたのは、一羽のオウム。首元になにか荒削りの石を巻かれ、宙を舞う。
『エーリヒ、クント、ベルハイル……』
 そして、その石から男の声でなにごとか単語の羅列が続く……それに気づいたパパスは、即座に「内部警戒! 迎撃体制に移るゆ!」と切迫した声を上げた。
 彼女の警句が早いか、中核から『ホルスの子供達』が……盗賊姿のそれらが現れる。手練れを思わせる動きで襲いかかってきた敵の数は半端なものではなく、今なおオウムからは声が響く。
 パパスが咄嗟に投石を試みたが、胸元の石は守りの護符(タリスマン)の意味もあるのか攻撃が通じない。
 今はまず、溢れ出す敵を倒さねば。

GMコメント

 そうだね、こういう新しいソースはラリーで一枚噛んでおこうね!

●達成条件(1章)
 『ホルスの子供達(盗賊)』の殲滅

●ホルスの子供達(盗賊)×推定30以上
 ファルベライズ中核から溢れ出てきます。素体の状態で現れますが、オウムの呼びかけで即座に形を変えてきます。
 ナイフ、単発銃、なかには軽易な魔術を使う個体も現れますが、回復は無し。
 BSは多少使えるようですが個体の攻撃性能は言うほど高くありません。ただし、そこそこ打たれ強いです。
 推定数は一気には現れず随時増加という感じ。破壊時、色宝を回収しないと再構築される恐れがあります。

●オウム
 撃破不可。胸に何か荒削りな石を備えたオウムです。
 恐らく石から流れる声の主が今回の敵のようですが……?
(『●彼の名前を呼んでくれ』は第一章ではPL情報です。ご注意ください)

●戦場
 ファルベライズ地底湖。それなりの広さがありますが、乱戦向きのフィールドとは言い難いので注意と工夫が必要です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アアルの野>進軍を鎮魂に変えて完了
  • GM名ふみの
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月06日 17時50分
  • 章数2章
  • 総採用数50人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女


「この寒いのにご苦労なことだわ……」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は中核の奥から溢れ出した盗賊の紛い物目掛け、最短距離でその中心へと突っ込んでいく。後方には式神に手綱を握らせたラムレイが控え、彼女の撤退を待ち構える。
「今の私は機嫌が悪いのよ。八つ当たりに付き合ってもらうわよ」
 人語ですらない言葉の羅列を撒き散らしながら、盗賊達は彼女へと手に手に武器を叩き込んでくる。……が、それがイーリンの肌を、そして戦乙女の舞踏服を傷つけることはない。
 群がってきたことこそが彼女の狙い。遺跡の奥へと向けられた彼女の紫瞳は、光の尾を引いて突出したそれらを貫き蹴散らしていく。一撃必殺には届かぬまでも、痛撃であることに変わりない。
「本当、こいつら何も……盗賊の流儀も知らないのね」
 彼女の知っている『賊』は揃いも揃って、ゲスでどうしようもなくて、しかし流儀にもとることはしないはずだ。それもできない紛い物に用はない。平行励起させた魔力が跳んできたスリングストーンを弾く。突き出されたその手は手近な個体の色宝を握り込んだまま、その頭部を紫光で吹き飛ばした。
 頭を振ったイーリンの先で、遺跡の奥に光が灯った。

成否

成功


第1章 第2節

セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
袋小路・窮鼠(p3p009397)
座右の銘は下克上


「居心地良さそうな樽に引きこもって寝てたいんだけど」
「許せるワケねえゆ。危ねえから出来ることやったら増援呼んでこいゆ」
 『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)が寝るために入っていた樽を口惜しげにチラ見すると、パパスは素早く樽をぶち壊した。
「詳しいこたァよく分からねぇが、とりあえずあの湧く連中をぶちのめせばいいんだろう? 単純作業は散々クソッタレな職場でやらされたんだ」
 『座右の銘は下克上』袋小路・窮鼠(p3p009397)はそう言って雪月花を構え、式符を構える。スグにでも動き出そうとした彼に、セリアとパパスは「ちょっとまって」と手で制した。
「何だァ? あいつらの手足を――」
「私の攻撃に合わせて。悪いようにはしないから」
「仕方ねーから合わせてやるゆ。一撃で部位欠損なんて、紫の司書に任せとけゆ」
 抗議する窮鼠にそう告げると、まずパパスが先行してポテサラ魔法を行使、手近な盗賊の姿勢を崩す。そこに襲いかかるのはセリアの術式だ。遠距離から頭部に食いついた一撃は強烈な勢いのまま左腕に跳ねて霧散した。
「「左腕!!」」
「はッ、成程……これなら俺でもブチ抜けそうだ!」
 お膳立ては十分、素早く編まれた術符はその個体の左腕に食らいつき、驚くほど脆くなったそれを突いて砕く。窮鼠のガッツポーズに、セリアは眠たげに目をこすり、パパスはため息交じりに首を振った。
「『アルベド』に、かつて話にだけきく『月光人形』。人は何故こうまで、『誰か』を作らなければならないのでしょうか」
 『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)はそんな面々の猛攻で倒れていく盗賊の紛い物へと淡々と踏み込むと、僅かに土混じりの色宝を握り込み、泥を払う。その行動は危険だ、と『ホルスの子供達』は理解するだろう。すかさず群がって殴りかかり、魔術を振るってその身を引き剥がそうとするが微動だにしない。毒を施された刃も、頭部へのスリングショットの一撃も、グリーフの動きを鈍らせはしない。
「あなたたちはその名を持つ誰かにはなれません。どうか、まだ自我の乏しい今のうちに、再び眠りについて下さい」
 他者の名前を思い浮かべず、口に出さず、色宝を握ってグリーフは淡々と歩みをすすめる。紛い物である彼等に、似て非なる自分が引導を渡すために。
 その、『戦い』とは凡そ程遠い振る舞いはしかし、戦闘にすべて賭けた一同にとって……少し、羨ましいとも感じてしまったのは間違いない。

成否

成功


第1章 第3節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)
貴族の儀礼


「あのオウム、名前みたいなのを叫んでた……。そして、目の前には盗賊姿の人形……」
「……人は己の見たいものを見ると聞く。土塊に意味を見出すとはそういうことなのだろう」
 『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)が眼前で起きた出来事を1つずつ列挙して整理する。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)ならずとも、それらの情報が意味することは理解できた。死んだ盗賊(なかま)を利用する大鴉盗賊団の悪辣。その意味を。だからこそ、両者は距離を取り、互いの技術を叩きつけることで前進する足を止めることに重きをおいた。こうなると、前衛が薄いが――。
「……随分と基準が緩い……この様子ではうっかり呟いただけでもダメだな。2人は固まって後ろに。私達が前に出て足止めする」
「泥如きでワシを倒せると思ってるのか? ガハハハ!」
 『貴族の儀礼』ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)とオウェード=ランドマスター(p3p009184)が前進することで狭い道のカバーに回り、後方の2人への侵攻を止めんとする。同時に手近な個体に張り付いた両者は、あらん限りの力で盗賊達を押し込んでいく。
「色宝は綺麗じゃのう……リーゼロッテ様は喜ぶの……」
「持ち帰って『赤犬』に制裁を受けたいなら止めないけどねぇ」
 とはいえ、オウェードは切迫した状況でも冷静というか……気もそぞろだ。すでに仲間が手にした色宝に興味深げに視線を向けた彼に、シルキィは鋭く釘を刺す。鋭く巻き上がった砂嵐の魔術は、オウェードの鼻先を掠めてから盗賊の紛い物を蹴散らそうと迫り、荒れ狂った。
 そこに現れた魔術師タイプの個体は、砂嵐の中を貫く魔力弾でシルキィを狙った。オウェードが間に入っていなければ、彼女は連続する魔弾と銃弾の餌食になっていただろう。
「しかしまた数が多い……この銃声でオウムから響く声を遮れればよかったんだが」
「……一理あるな。私も声を上げればなんとかならないだろうか」
「成程声か。出すだけタダじゃ、やってみようかのう」
 迫りくる盗賊の数は、仲間の奮戦があったとてやはり多い。次々と銃弾をバラ撒き、オウムから響く声に干渉できないか試すラダに、ユリウスとオウェードは「妙案では?」という顔をし、両者ともに敵へと猛然と打ち掛かる。……猿叫もかくやという勢いをつけて叩きつけた一撃は成程、上辺をなぞるだけの『ホルスの子供達』の攻撃を打ち払い、そのまま何体かを破壊せしめた。
「吹き荒れろ熱砂の嵐……! そこで足を止めたヤツの所に転がった色宝を回収すればなんとかなると思うよぉ!」
 シルキィはその隙を見逃さない。僅かに色宝に残った土塊を砂嵐で剥ぎ取り、同時に群がっていた盗賊もどきの動きを鈍らせることに成功する。
 オウェードとユリウスも足元に転がった色宝を回収して仲間に投げ渡すと、更に迫る増援を睥睨する……背後からの潜入者や急襲の気配は、まだない。『彼等が察知できる範囲では』。

成否

成功

状態異常
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護

第1章 第4節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
古木・文(p3p001262)
文具屋
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬
イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)
ローゼニアの騎士
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy


「趣味が悪い。……乗り気じゃないけどやることはやらなきゃ駄目だよね」
「どうやら色宝は、願いを叶えるというおとぎ話の類以上の物であるようですね」
 『ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)の心からの嫌悪の声に対し、『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)はやけに冷静に現状を理解することに努めていた。
 盗賊の紛い物は30を超える――とは聞いていたが、仲間達が倒した述べ10体以上の個体を乗り越え現れる相手はその比ではないように思えた。視認情報というのは信用できない。
「ホルスの子供達…本来『子供達』は私にとって守るべき存在なのだけれど……そうね、あなた方はただの盗賊にしか過ぎない」
「贋作極まって仕舞えば『元』よりも強大なのは物語の自然体だ。成程、忌々しくも言葉を繰り返し、故に綺麗に纏めると謂うならば相応に『殴り』抜けても構わないと解く。久々に魔王の登場だ。貴様等に體壁を魅せてやる。Nyahaha!!!」
 『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)にとって、『ホルスの子供達』は歯噛みしたいほど口惜しい敗北を叩きつけてきた張本人だ。『宝石竜』は姿を消し、雪辱の機会は奪われた。『希望ヶ浜学園美術部顧問』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は嘗て己の紛い物――アルベドを生み出された過去がある。アレは酷い詐欺だった。ベースである自分を軽く凌駕する能力を持ち、そして魔種の捨て駒にされたそれ。納得行くはずもない。
「オウムはどこから来たんだろう。これ、故人の姿を取るんだったね。と言うことは此処にいる人たちは既に……あまり気分の良いものでは無いな」
「オウムが死者の名前を呼んでいるという事は、『特性』を知っているという事だろう。盗賊団にしても、奴らの群れをみるに、相応に中核に位置する者の可能性は高そうではある」
「わんこにゃその是非は判断出来そうにないデスネ、生き物を模したモノって点ではわんこも同じデスシ……使い方一つ、なのかもしれないデスネ」
 『文具屋』古木・文(p3p001262)と『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)は苛立ちをぶつける前に推論を立て、「この先」を制すことを考えた。この事態を引き起こしたオウムの実情を知らねば、同じ事を起こされかねない……色宝は順当に回収できているが、オウムの喉元から響く声は止まず、回収漏れがあればそこから再生させている。ともあれ、『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)にとっては相手がなんだろうと関係ないようでは、あるのだが。
「Nyahaha,出来の悪い紛い物で撹乱できると思われるのは魔王(わたし)は喜劇扱いか! 生温い!!」
「決意を、恐怖を弄ばれた私の気持ちがわかる? ……本当にこれは八つ当たりね」
 オラボナが先頭の個体、その首へ混沌を叩きつける。ぐらりとバランスを崩したそれを、エルスは一撃のもとに両断した。双方ともに、この個体を一撃で絶命させうる力はない。が、連携すれば話は別だ。
「この数が誰かに集まるのは看過できない。此方に集まってもらおうか」
 愛無は名乗りを上げて敵をひきつけ、守りを捨てた前衛達を極力守るべく立ち回る。数ゆえの撃ち漏らし、距離による不利がここでは大きいが……。
「キャヒヒッッ、近付かれる前にどんどん蹴散らしていきマスヨ!」
「僕も近付かれたらたまらないからね。愛無さんに近づく前に数は削っておくよ」
 遠巻きに銃と杖とを構えた個体群に、わんこの指鉄砲と文の魔術が襲いかかる。牽制とは名ばかりの制圧射撃で動きを乱されたそれは、文の魔術を上手く避ける手段を持ち得ない。
「引き寄せてから戦おうと思ってたけど――」
「相手から群がってくれるのなら好都合、ですね」
 愛無がひきつけた個体群に、イルリカと牧が左右から襲いかかる。振り抜かれた破秀滅吉による暴風は炎扇の生んだ火種をより強く輝かせ、互いの動きは紙一枚の際で傷つけることがない……即興の連携にしては上出来な部類だ。
「今のうちに回収――」
『プファイ、ウェーブル、ミストハイト』
『オキロ! オキロ! マダイキロ!』
 文が転がった色宝に手を伸ばそうとした瞬間、狙ったかのようにオウムから声が響く。何者かの声による感情のこもった名前呼び、オウムによる「感情の補強」……これを行っている主は、恐らくそれなりに特性を理解しているのか、もしくは状況から知ったのか。
「随分と反応が早い。この様子だとオウムと感覚を共有しているのだろうが、それにしても愚かだ」
「単語を繰り返すだけの相手に私達を打倒しうるとは思えぬ」
 愛無は雪崩を打って殺到する敵を受け止めながら、それでも不敵に笑う。『仲間』の名を羅列するなら、それは自分達に情報を与えているようなもの。愚策でしかなく。
 名前だけの紛い物に、オラボナを始めとするイレギュラーズが負ける道理も見つからない。
「近づいてくるなら蹴散らすだけデス!」
「もう少し賢ければ困っていたけど……突っ込んでくるなら、怖くはないわ」
「あとで追悼に踊ってあげる――だから、ゆっくり眠ってね?」
 わんことエルスによる猛攻が更に1体を蹴散らすと、イルリカの魔力撃もまた至近の個体を怯ませる。
 敵の即時復帰を含めれば、未だ状況に余裕があるとは言えない……が、イレギュラーズは確実に『ホルスの子供達』を足止めすることに成功していた。

成否

成功


第1章 第5節

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと


「さっきので情報は分かったわ。それじゃあ次は……相手の『大事なもの』を引きずり出しに行くわよ」
(お師匠先生と姉弟子の前だし、いいとこ見せなきゃ……)
イーリンは『弟子』達と共に【紫苑分隊】を編成し、状況の打開を図る動き出す。『恋の炎に身を焦がし』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)と轡を並べて一気に前進すると、フラーゴラは乗馬から降り、イーリンはそのまま突撃する形で攻めに回る。フラーゴラの表情に僅かな緊張の色が浮かぶのは、責任感と緊張ゆえか。
「じゃあ、後ろは私が警戒しておこうか……さ、師匠。後は任せた」
 『策士』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は先行する2人を魔術により賦活し、より円滑な戦闘を促す。若干の距離を取りつつも遅れることなく続く『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は、味方の動きをつぶさに観察しつつ、特にフラーゴラの傷の具合を重点的に気遣っていた。
「食い破りに行くわよフラーゴラ!」
「この間手伝えなかった鬱憤……ここで晴らすよ!」
 イーリンの気合いとともに放出された魔力を追うようにして前に出たフラーゴラは、降り注ぐ集中攻撃に身を曝しつつ着実に、速度野載った一撃を叩き込む。陣形を乱された盗賊もどきは痛みを訴えることもなく前衛2人に掴みかかり、後衛の射線上に引っ張り出す。
「要らない世話だろうけど、露払いくらいはさせてくれよ?」
「無駄なもんですか。弟子の成長を見られるのは嬉しいものよ」
 したり顔で攻撃準備に入った射手達を打ったのはマニエラの魔力の雷だ。前に出るだけの実力と理由を備えた2人に『気遣い』が必要とは思えぬ。だが、同じ戦場に立つ以上は自分がどれだけ『できる』のかを示したいという意志は当然、ある。
「前にですぎず、落ち着いて前を確認していきましょう」
「……うん。無理はしない」
 ココロの治癒、そして気遣いの言葉はフラーゴラの心を満たす。傷を癒やすというよりは、足りないものを補うような、そんな感触。前に出ながら、敵と相対し、只管相手を倒す。身を斬る傷以上に、敵を倒すことに何も感じなくなりそうな彼女の心を、姉弟子が支えてくれる。それはただ癒し手がともにいるという事実以上に心強い。
「ココロ、余力は把握してるわね?」
「はい、戦闘継続に問題なし。わたし達を相手するにはこの程度の数では無理だとあの鳥に教えてあげましょう」
「前方、後方問題なし。まだまだ師匠の機嫌取りくらいは幾らでも出来るよ」
 イーリンの状況確認に応じたココロは、マニエラに近づいた個体を魔力の斧鎚で叩き潰す。マニエラも四周に視線を絶やさず、後退の機を奪われぬように場年を尽くす――色宝を回収する一瞬の隙に割って入るオウムの『声』は厄介ながらも、多少の差が彼女らに窮地をもたらすことは、先ずあるまい。
「しかし――弟子に戦場で機嫌を取ってもらうのも悪くないわ」
「お師匠先生が気持ちよく戦えるなら、ワタシは幾らでも頑張るよ」
 フラーゴラはラムレイにとりつこうとした個体を引き剥がしながら、冗談めかして口にする。
 イーリンはそんな彼女を微笑ましく見ながら……いつの間にか、オウムが姿を消していたことに気づく。
 ……つまり、こちらがヘタを打たなければ内側からの増援は、これ以上発生しない!

成否

成功


第1章 第6節

パーシャ・トラフキン(p3p006384)
召剣士
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
世界の合言葉はいわし
久留見 みるく(p3p007631)
月輪
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇


「アンジュはさあ、今まで食べられてきたたくさんのいわしを生き返らせたいとか、小さい頃はそんな事も思ったことあるけどさあ……でもそんなの意味ないんだよね」
「……亡くなった人との思い出を汚すような真似。あたしはそんなの認めないから」
「亡くなってしまった人達は、静かに眠らせてあげるべきなんです」
 『月輪』久留見 みるく(p3p007631)、『いわしを食べるな』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)、『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)。【MAP】の3名はこの戦場にいる多くの面々と同様、死者を弄ぶかのような『ホルスの子供達』――もっと言えば姿を見せずに仲間達の姿を弄ぶ『何者か』にひどく嫌悪感を持っている。
 オウムの姿が消えた以上増援はない。残すは――凡そ10体。
「召剣、ウルサ・マヨル──お願い、二人を守って!」
「どうせ死んだ盗賊もいわしを食べて育ってきたんでしょ? 許せるわけ無いじゃん」
「そうね、1体ずつ確実に倒していきましょう」
 みるくとアンジュは手近な対象を1体ずつ、全霊を傾けた攻撃で仕留めていくことを選択。アンジュのいわしジャッジメントを受けて蹌踉めいた個体は、みるくの放った閃光でさらにその傷を増す。だが、その個体は最後の一歩で踏みとどまり、即座にみるくへ銃弾を叩き込む。度重なる『仲間』の撃破は残された個体群に僅かながらも人形としての学びを与えていた。ただ群がり、各個撃破を狙うだけでは無駄だと理解したそれらは、アンジュとみるくに攻撃を集中させ、治療役のパーシャを疲弊させることを思いつく……悪辣極まりない。
 アンジュも治療には回れるが、攻め手が削れれば被害が増える。どちらに転んでもジリ貧になる……と、思われた。
「さあ早く此方に来なさい。実験できないでしょう。土塊の持つ価値など、私の実験台でしかないというのに」
 が、距離をとって射撃戦に徹していた3体ほどが突如として声の主――『ひねくれ神官』カイロ・コールド(p3p008306)へと駆け出す。腰に差していたナイフを抜いて突きかかる個体群を見る彼は、MAPの3人など視界に入っていない。つまらなげな表情で襲い来るナイフを流れるようにいなすと、更に2人に敵意を植え付ける。見る者が見れば、その手に薄暗いオーラが纏わり付いているのがわかるだろう。
「土蛇戦闘術の実験、付き合っていただきますよ」
「今のうちに……ウルサ・マヨル!」
「いわしの歌を聞いている内に、あなたもいわしが好きになる……」
「それはならないけど。でも、今のうちに減らすわよ!」
 カイロの思わぬ加勢は、3人の呼吸を整えるのに絶好の機会を与えた。
 彼の引き受けた分を除いても残すは2体。アンジュとパーシャとで復調に全霊を傾け、みるくの渾身の一撃に賭ければ十分対応可能な数だ。……そして。
「ははははっ! やはり使えますねぇ、この力は! 地獄の様な訓練でしたが、間違いなく成果はあった! 感謝します、我が師よっ!!」
 闇を両手に収束させたカイロの暴風のような打撃は、一撃の威力というより『精度』が凄まじいように見えた。普段より数センチ打点がずれただけで、それらすべてが急所に向かい得る。それを瞬時に二撃。怒りに意識を割かれた土塊が、正気に戻る前に逃れうるとは思えない。
 崩れ落ちた土塊からつまらなげな表情で色宝を回収するカイロとMAPの3名は、オウムの声の代わりに遺跡の入口側からにわかに湿った風が吹いてきたことに気付く。
 ……湿ったような、死臭のようなそれを。

成否

成功

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