PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<アアルの野>砂の手

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●目には目を
「ち、ちくしょう……あいつらめ……絶対ェ、ぶっ殺してやる……」
 ラサ首都周辺で行われた大規模迎撃戦。そのほとんどは盗賊達が敗北する結果となり、生き残ったこの名も無き盗賊はファルベライズ遺跡にいるであろう仲間との合流しようとしていた。
 内部には魔物もチラホラと見かけられるが、隠れ潜み進行ルートを探すのは野盗得意分野だ。
「バジリスク、カトブレパスに……うへぇ、マンティコアまでいやがる。こっちはダメだな……」
 魔物達を目の前に、盗賊は仲間の痕跡があるルートを仕方なしに道を変える。
 せめて安全に休める場所はないものか。そう思いながらしばらく別方向に歩いて、目を走らせると石レンガの壁からパラパラと砂がこぼれ落ちる。
 ……隙間? なんでこんな魔法陣みたいな壁画が描かれてるんだ?
 ともかく、その石レンガは引き抜けそうだ。よくよく窺ってみると、隠し部屋の構造になっている事に気付いた。
「これぞ天の助けか。俺って日頃の行いがいいからな」
 そんな冗談を言いながら、一本二本と次々に石レンガを引き抜き、放り投げた。
 ニヤニヤしていた盗賊の表情が、驚きに変わり、次に恍惚とした表情に切り替わる。
 彼はその部屋中に敷き詰められた金銀財宝を見つけたのだ。
「お、おれのもんだ! ぜーんぶ、おれのもん!」
 この時ばかりは盗賊団の仲間だとか、ローレットへの恨みだとかそういうものがどうでもよくなったに違いない。目の前に広がるのは一生かかってでも使い切れるかどうか怪しい財宝の山々。盗賊はその宝箱に罠があるかどうかなど考え無しに、宝箱を次々と開けた。
「やはりニンゲンはこの金ぴか色が好きなんだねー!」
 何処からか、女性とも少年ともつかぬ声が耳に届いた。思わず盗賊は剣を抜き、その声のする方に振り向く。
 ――するとどうだ。やや褐色の肌を持った(非常に彼好みな)三人の美少女が、一糸まとわぬ姿で佇んでいる。しかも局所を隠そうともしない。これには盗賊も萎縮した。目の前に自分好みの女が素っ裸でいるというのも一因だが……それ以上に、状況があきらかに変だ。
「ニンゲンさんニンゲンさん。よくきたねー、ボク達が願い事を一つ……いや、三つ? まぁ、なんでもいいや。願い事をかなえたげる!」
 精を貪るラミアの擬態か、ひょんな拍子で紛れ込んだ夢魔の一種かと思い込んだ盗賊は後ずさる。
「――なーんも言わないなら、こっちで勝手に決めちゃうよ~♪」
 盗賊はその美少女達の蠱惑的な笑みを見て、ぞくりとした。『絶対よからぬ事が起きる』と直感的に悟り、思わず大声で叫んだ。
「お、“オレの目の前からきえやがれ”!!!!」
 うわべは強気な言葉だが、声は懇願するように泣き震えている。美少女達はそれを聞き届けると、その小さなてのひらをそっと盗賊の前に差し出した。
「いいよ、それじゃあ、貴方の願いをかなえてあげる……♪」

 その近くで、目をえぐりとられて半狂乱に陥った盗賊が見つかったのは少し後の事だ。

●刃には刃を
「猿の手って知ってま「リカ、聞いて。ローレット皆で探索予定の遺跡から、途方もない量の金銀財宝が見つかったって!」
 『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)の言葉を遮る形で、アキ=インキュバスという女性がイレギュラーズに事の次第を伝え始めた。
 話を向けられた雨宮 利香 (p3p001254)は疑わしいものを見るような眼差しをアキに向ける。
 なんでも、盗賊を追討していた傭兵達が『目をくりぬかれた盗賊』を見つけたらしい。残虐な嗜好を持った魔物がいるのだろうと警戒し、その盗賊を捕縛して撤退した。
 奇妙なのがここからだ。その盗賊は情緒不安定になりながらも、傭兵達に宝部屋があったやら全裸の女に目をくりぬかれたやらを事細かに語ってくれた。
 そんな感じのエネミーが宝物を守っているらしい。
「龍之介くん、どういうタイプの生き物だと思う?」
 アキを宥めながら、利香は情報屋に意見を求める。情報屋、龍之介少年は大真面目に腕を組んだ。
「サンドマン……いや、この呼び方だとなんかアレですね。『サンドエレメンタル』だとか呼び方の方がいいでしょうか。それもある程度は高位の」
 盗賊の話から砂の体を美女にまで見栄えを取り繕えるというのは、ある意味では実力の誇示だ。それに盗賊の好みを把握していたようなやり取りも些か気になる。心情や思考を軽く読み取るくらいは出来るのではなかろうか。
「ま、ボクから言わせてもらえば男なんて素っ裸な美少女ならばなんでも『好みの女』なんて言っちゃうものなんですがね」
 自信ありげにジョークを言ってのけた龍之介に、周囲の女性陣から乾いた笑い声が漏れた。
「それで、そのサンドエレメンタルは願い事を聞いてくれるって話だけど」
「あぁ、それこそ先言おうとしていた『猿の手』です」
 龍之介は掻い摘まんだ説明を始めた。
 猿の手。持ち主の願い事を三つ叶えてくれる一種の魔具。それを使った願い事は、大きな代償と共に願い事を叶えていったというお話。
 先ほどの盗賊の話を思い返す。
『“目玉を返してくれ”って……いったんだ……何度もいったのに……あいつは、ちっちゃくてまるいものを一つずつぶん投げてきやがって……』
「悪魔や精霊っていうのは、たまに契約とか約束事とか、そういう【制約】を逆手にとって利用するヤツもいます。その時だけ普段以上の力を引き出したりね」
 つまりは、願い事すれば相手にそれを実現する形で痛めつけるわけか。それを踏まえた上で、龍之介はイレギュラーズ一同を見据えた。
「傭兵達が便宜上でつけたあだ名は『砂手の三姉妹』。今後の探索において、この精霊が邪魔になる可能性はおおいにある。そういうわけで傭兵達から懸賞金が出ているのですが……やってくれます?」
「もちろん。それに丁度アイツの顔が見たいと思ってたし、ね? リカ」
「勘弁して頂戴……」

GMコメント

●目標
・『砂手の三姉妹(高位のサンドエレメンタル)』を三体倒す

●ロケーション
 ファルベライズ遺跡群の一つ。その道半にあった隠し部屋。
 道中までは傭兵の援護があるので、他の魔物や盗賊が参戦する心配はなし。

●エネミー
『砂手の三姉妹』
種族:サンドエレメンタル
人数:三体
攻撃:
「砂塵による目潰し攻撃」(範囲小ダメージとBS【暗闇】)
「砂を鋭利に固めて投げ飛ばす攻撃」(低命中、大ダメージに注意)
「とろんと眠たくなる砂をかけてくる」(BS【恍惚】)
補遺;
 願い事を叶えるやり取りを行う場合は特に注意。
 加えて、心情や思考を読み取れそうな相手である事は留意すべし。
 
●NPC
『アキ=インキュバス』
 世界各国を駆け巡る謎の行商人。時々闇市に現れて変な物を売っては利香を揶揄う夢魔。
 話術と(女性のみを)魅了する事を得意とする事からインキュバスを自称している。
(※今回このNPCは非戦スキル《話術》を有してるとして扱います)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <アアルの野>砂の手完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年01月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談11日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢

リプレイ


「遺跡から金銀財宝ですって? それ絶対色宝とやらが生んだ幻影でしょ。アンタはいつもそうよ!」
 目的地までの道筋を進軍中、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が、アキ=インキュバスに対して言い合いを繰り広げていた。
 話に聞けば、アキは他人を厄介事に巻き込む気質だという。抜け目がない人物かと思えば、途端に間の抜けた事をやらかす。今回の件もきっとそうに違いないと、利香に詰められていた。
 アキは指で頬を掻きながら、助けを求めるようにイレギュラーズや護衛の傭兵達へ目をやった。
 彼らに関しても、被害に遭った盗賊からの又聞きに過ぎないから確たることは言えない。とはいえ、このまま姉妹喧嘩を続けさせるのも野暮だ。いくらかの者が「まぁまぁ」と利香を宥めた。
「アンタはいつもそうよ! しょうもない物を買ってきて私の貴重なゴールドをゴミにして……相棒とやらを見習いなさい。この淫乱闇市商人……全く、こんなのが私の妹だなんて……」
 利香はぶつくさと不満を漏らしながらも、致し方なしに引き下がる。
 そのさなか、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)がピコンと獣の耳を可愛らしく揺らして、利香の発言に関心を抱いた。
「……あれ、リカの妹? いちおう私の義妹ってことになるのでしょうか?」
「確かに。そういう事になるのでしょうか」
 クーアの発言に肯定を打つ『木漏れ日の先』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)。アキが露骨に色めきだったのは気のせいではないだろう。
「あはは。そう、じゃあ、私が“姉妹として”クーアちゃんと仲良くしても問題は――」
 アキが妖しい色香を醸し出しながらクーアに擦り寄ろうとしたところで、それを遮るようにアキの顔面に流砂が浴びせられた。
「ぶわぁ!!? リカ!! いくらなんでも可愛い妹に対してそんな――」
「私じゃないわよ!?」
 アキや利香を含めた皆が一斉に身構え、流砂が飛んできた方向にたいまつを照らす。
「あぁ……ざんねん。サキュバスさんマトモに吸い込まなかったみたい。」
 流砂をアキに投げつけてきたのは――イヤに妖艶な色気を持ったやや褐色肌の、眠たげな顔の少女。護衛にきた傭兵は反射的に目を背けた。
「残念、多少の心得くらいはあってね。あと私はサキュバスじゃなくて『インキュバス』よ」
「そう。ところで願いご――」
 相手の発言を察知したアキは、構えていた槍をぶん回してその言葉を遮るように相手を部屋に無理矢理押し飛ばした。砂埃を吸い込んで呆けていた傭兵達も、ようやくハッとして正気を取り戻す。
 アキが先手を打ったのに呼応して、他のイレギュラーズも部屋へ攻め入る。ヴァイレオットは傭兵達に言い残していく。
「殿方達には相手のし辛い手合いでしょう。どうか、砂手の三姉妹は我々に任せて。討伐する間は他の魔物から邪魔が来ないようにお願いします」
「は、はい! お任せを!」
 そうして部屋の外は傭兵達に任せる事になり、砂手の三姉妹とイレギュラーズの開戦と相成るのであった。


 部屋に踏み入ると、目に入ったのは不自然なまでに体の整った女の子が三人と、イヤらしいまでにその輝きを主張する金ピカの財宝。
 アキは大量の宝と容姿に優れた裸の女の子を目の前に一瞬よだれを垂らしかけたが、利香に睨まれてすぐにキリッとした表情で槍を構え直した。
 アキと同じ事情ではないが、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤと『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)も目の前の少女達に目を見張る。
「あれが今回の敵……ですのね……」
 相手の身体的特徴を観察した。サラサラと乾いた砂を思わせるやや褐色の肌。出来の良い彫刻か人形か、そのように整った均整的な肉体。そして極めつけはアキや利香にも負けず劣らず、中々どうして……。
「うーわ、精霊と良い淫魔と良い、姉妹揃って悪ふざけみたいな体形してるでありますな。……ケッ! でかけりゃいいってもんじゃねーでありますよ! ねーヴィーシャ」
 ……話を振られたヴァレーリヤは、「あーあー聞こえない」という素振りで耳を塞いでいた。
「……おい逃げるんじゃないでありますよ。現実を受け入れろよ」
「うるっさいですわよエッダ、黙ってなさいな! 育たなかったものは育たなかったのだから、仕方がないでしょう! というか、利香達がデカすぎるだけでわたくしは別に――」
 ぎゃあ。ぎゃあ。なんか先の利香達と似たようなノリで喧嘩が繰り広げられようとしている気がする。
 話題の的である利香はとりあえず咳払いをし、気を取り直すように目の前の砂手の三姉妹を威圧した。
「アンタ達が歪んだ形で願い事を叶えるモンスターね。」
「あら、酷い言い草。前に来た男の人のお願いだってちゃんと叶えてあげたのに……」
「目の前から消えろっていわれたから、消してあげたり。目を返して欲しいっていうから、ちゃんと返してあげたり」
 ――くす。くすくすくす。
 始めこそ純粋無垢な少女や悪戯好きな精霊を取り繕っていた彼女達だが、もはや邪悪な笑みを隠そうともしない。
 そんな彼女らに『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)が、侮蔑するような目を向けた。
「外見はともあれ中身はある意味ザントマンよりひでえな、サンドマンだけに」



「いや、忘れてくれ」
 アレンツァーが苦い顔をしながら「忘れるように」と皆へ繰り返した。
「……それが願い事?」
 改めて、眠たげな顔をした褐色肌の少女がそう問いかけてきた。話がこじれる前に一人のイレギュラーズが前に歩み出た。
「私の名はヴァイスドラッヘ。人の夢を歪めし者よ倒しに来た。この私の願い事は――それは自分の手の届く範囲の者を死なせない、護り切るということ“私が倒れるまで”仲間に攻撃は届かせない!」
 彼女達にそう宣言したのは、『ショッケンが倒せなかった女』レイリ―=シュタイン(p3p007270)。その高らかな声は先までの流れをうやむやにし、砂手の三姉妹は彼女の『願い事』に邪悪な笑みを浮かべて、食いついた。
「そう、じゃあ――それを叶えてやる!」
 三姉妹の内、快活そうな態度の一人が動き出すと他の二人が一糸乱れぬ動きで追従する。連鎖行動。しかも狙いがイヤに的確である
 一番手に動いたサンドエレメンタルの少女は床に散らばっていた流砂を勢い良く巻き上げ、レイリーの感覚器官を潰そうとした。
「成る程、制約を力に変えるというのは本当らしい」
 防御の技術の自信のあるレイリー、一撃目となる砂塵の嵐を防いだ。続いて顔面に砂を投げつけられたが、息を止めながら盾を前に出してこれも防ぎきった。
「手心はいりません。かかってきなさい。醜悪なる者よ」
「おぉ、お姉さん凄いねぇ……」
 砂を投げてきた眠たげな少女から、レイリーに対して賞賛の声が投げかけられる。だが三人目のサンドエレメンタルが高飛車な笑い声をあげながら砂の塊を構築する。
「なら自慢の盾ごとぶっ潰れなさいな!!!」
 凄まじい勢いで投げつけられてくる、レイリーの盾を構えた腕は追いつけずに弾き飛ばされ、そのまま彼女の脇腹を鋭い槍が抉り抜けた。
「ぐっ……!」
 その一撃でレイリーの体勢が大きく崩れる。流砂の上にボタボタと鮮血がこぼれたが――まだレイリーは倒れきっていない。ヴァイオレットが急ぎ回復に移る。
「あぁ、二人がちゃんと骨抜きにして下さったなら一瞬で倒して差し上げましたのに」
「いやぁー、姉さんアレちょっとキツいって」
 そう口々に言い合う砂手の三姉妹。次の攻撃に移ろうとするが、その隙を見逃さず真っ先に動いたのが、ポールトゥウィンの『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)である。
「実際のとこ叶え方にいろいろと問題あるみたいだけど、ま、あたしには関係ないかな!」
 目にもとまらぬ速さとはまさにこの事か。原始刃を凄まじい速さで滑らして、砂手の一人の綺麗な肌をズタズタに引き裂いた。
「うわっと、あ、アンタも願い事を叶えて欲しいなら……」
 快活そうなサンドエレメンタルは砂の体が容易く崩れされた事に思わずうろたえ、彼女の願いを聞き出そうとした。だがそんな暇は与えないとばかりに、朋子の連撃は続く。核を見抜いたとばかりに剣の柄で相手の胸部を殴り付けて、快活そうな少女は意識が浮いたように白眼を向いた。
「あら、骨抜きにされたのは貴方のほーだったみたいね。みんなも盛り上げてくれるみたいだし……クーア、エスコートして差し上げて?」
「ええ、任せてください」
 朋子が作ってくれた機会を最大限活かす為に、利香はクーアに先手を譲る。
 事実上失神状態にあるにサンドエレメンタルの一人に向けて、クーアは持ち歩いていた薬瓶を相手に投げつけた。パリンと割れた液体が砂の肉体に染み渡ると、炎と雷の魔力を辺り一面にまき散らした。
「あああああ!!!」
 砂手の少女はその魔力の嵐の中で美貌に優れた肉体を維持出来ず、ガラス化してドロドロに溶け始める。
「クーアの手練手管、激しすぎてイっちゃった? でも、私が楽しんでいないわよ」
「下等生物の夢魔如きが、俺に近づくんじゃねぇッッ!!」
 今まで保ってきた態度も容姿も崩れた砂手の少女は、死に物狂いでガラス混じりの砂塵を巻き上げて近距離にいる朋子や利香を巻き込んで感覚器官を潰そうとする。
 一瞬の時間稼ぎにはなったものの、『願い事』の恩恵もないそれは打開策に成り得なかった。
「あれだけ自信満々だったのに、それでオシマイ? 全然物足りないわ。舞いの如きサキュバスの鞭捌きで逝かせてアゲル♪」
 サンドエレメンタルは、その場から退いて仲間達を盾にしようとした。だが間に合わぬ。
 嵐の中を射貫くように放たれた一突きの雷光。そのまま続く天衣無縫の剣閃に、砂塵ごとその核をバラバラに切り払われ、サンドエレメンタルの一体はものいわぬ砂くずとして果てるのであった。


 こうしてサンドエレメンタルの一人を倒した。連携を取っていた砂手の姉妹達の戦力を大きく削いだと思っていたが。
「あぁ、夢魔如きにやられるなんて。情けない」
「……最後までヒトの好みを演じきれないなんて、精霊の恥さらしー…」
 そんな蔑んだ事をいわれていた。彼女らの言葉に、アキやクーア、利香達は微妙に思うところあったのか、言い返した。
「コイツや私達より、ヒトを小馬鹿にした態度を取るアンタらの方がよっぽど恥晒しよ」
「あら、貴方達の方はよほど姉妹仲が良いのね」
 いや、あんまり。
 利香はアキの顔を見ながらそんな事を言いかけたが、クーアとは良好ではある事を思い出して以下の事を頭の中で思い浮かべた。
『出来る事なら、クーア・ミューゼルを夢魔として永遠に傍に置いておきたい』
 その途端、眠たげな表情を浮かべていた砂手の少女がニヤニヤとした顔を浮かべる。何も思い浮かべないようにしていたアキとクーアが、思わず「まずい」と言葉を漏らした。
「じゃあ、今思い浮かべた通りの事をしてあげるねぇ……」
「は」
 何事か把握する前に、前線にいた利香の体がクーアの方向へ衝撃で吹き飛ばされた。
 利香は自分に突っ込んできた物体を確認すると、それは水を吸ってどろどろとした重たい砂。それが吹き飛ばされた先のクーアを巻き込む形で、二人の足に纏わり付く。
「う……これでは離れられません……」
 その『願い事』はクーアと利香の機動力を著しく削いだ。これでは回避の難しい遠距離戦を強いられる事に…………。
「いや、そんなどうでもいい事よりリカ! 私とも一緒にいたいって思わなかったの!!?」
「んな事言ってるバアイじゃないでしょーがッ!!」
「アハハッ! 姉妹仲が良くないのは貴方達も同じではないですか」
 高飛車な砂手の少女が夢魔達を嘲った。そして満足し終えた彼女は、他のイレギュラーズの方へ振り返る。
「貴方達も願い事はありまして?」
 レイリーは傷も癒えぬまま再度「自分を狙え」と宣言しようとするが、エッダがそれを遮るように話し始めた。
「そんなもの決まっているでありましょう。世界平和でありますよハッハッハ」
「私の願い? さて、何だったかしら…こう見えて無欲な性分だから、特に無かったかも知れませんわね?」
 エッダとヴァレーリヤの二人はサンドエレメンタルの問いかけをのらりくらりとかわすように振る舞う。
「そう、じゃあ――そこの方なぞはいかがでしょう」
 サンドエレメンタルはアレンツァーを指さした。
「何処ぞに執着しているものがあるように思えますが……」
「……オレにも『因縁といい加減決着つけたい』という願いがあるんだが、それは自分の手で叶える。アイツを生み出してしまったのは世界を渡り歩きすぎたオレの責任でもあるから」
 アレンツァーは砂手の姉妹の言葉へ話半分に答えて更なる追求をかわそうとしたが、眠たげな顔をした少女が悪趣味な行動を取り始めた。アレンツァーが思い浮かべた人物へ形だけでもなりすまそうと。
「わたくし達ならそれを叶える事も可――」
 その直後、エッダが高飛車な少女目掛けて殴り掛かった。
「もう囀るな。貴様は惨たらしく殺す」
仲間をバカにされて我慢の限界に来たのであろう。憤怒の表情を隠そうとしない。
 受けた側は砂手を硬化させてそれを防ぐが、破損した腕のかけらがポロポロと地面に落ちる。そしてヴァイオレットから治癒を受けて、万全の状態でエッダに追従する朋子。
「今更願い事を誰かに叶えてもらうような歳でもないし、自力で成し遂げてなんぼよやっぱ!」
「私達は私達の力で願いを叶えます。今はアナタ達が、己が欲望を満たした因果の報いを受けなさい」
「っっ、人間如きが!!」
 先に致命打を与えた朋子の攻撃は、相手側にとっても脅威である。だから全力で防御に回って朋子の攻撃を防いだが、エッダの後ろに隠れていたヴァレーリヤが連撃の合間を縫って仕掛けた。
「胸! 胸の辺りに核があるんですわよね!? ……遠慮なく、どっせえーーい!!!」
 致命者に捧ぐ讃歌を唱えながら、ヴァレーリヤは砂手の少女の……豊満な胸ごと核をさらけ出した。
「例え想い人やライバルの形をとったとしても、ただの模倣に揺らぐオレじゃねえよクソ精霊」
 アレンツァーは苦々しい顔をしながら、鞘に収めていた太刀を引き抜いた。まさに星を落とす隼の如し。それはさらけ出された核を的確に貫く。
「あ……私、まだ、叶えてな……」
 死に際に、誰かの願いを無理矢理叶えようとする彼女に対し、ヴァイオレットが前に歩み出る。
「この罪を抱えて地獄へ落ちる前に『一人でも多くの“悪”を道連れにする事』こそ、ワタクシの願い。ゆえにこそ、アナタ達は未来のワタクシです。ここで消え果てなさい」
 それを言い聞かされた途端、サンドエレメンタルはサラサラと形を失っていく。ヴァイオレットから伸びた影が、そのひとかけらも残さずに呑み込んだ。

 眠たげな顔のサンドエレメンタルは、姉妹達が命を失うのを冷静に眺めていた。
「どうだ。降参するなら、せめて苦しまずに」
 決着がついた。そう思ったアレンツァーや他のイレギュラーズ達はそちらの方に振り返り――ゾッとさせられた。
「……こういう役割じゃないんだけどなー……でも、『願い事』だから仕方ないよね……」
 前線が猛攻を繰り広げる傍らで眠たげなサンドエレメンタルはクーア、利香、そしてそれを庇うレイリーと【恍惚】に陥る攻撃の撃ち合いをして、お互いに意識が飛ぶ寸前の状態まで追い詰め合っていた。
「……全部叶えてあげられる事は出来ないけど、せめて一つだけでも……」
 瀕死のサンドエレメンタルは、けだるげに砂の槍を形成する。そのままクーアか、利香を射貫こうとした。
 ――殺して、永遠に一緒に。
 レイリーは歯を食いしばり、自身の状態も省みず再び宣言した。
「……願いは自分の手で掴むもの、創るもの。奪うことも歪めさせることも、私がいる限りさせない。【私が倒れるまで】仲間に攻撃は届かせない!」
「……うん。じゃあ……その願い通り……」
 サンドエレメンタルが他の仲間達に討ち取られる寸前、彼女の放った砂の槍はレイリーの体を突き貫いた……。


「大丈夫よね、みんな」
 ヴァイオレットに治療されながら、仲間達が無事である事に微笑むレイリー。
「無茶をなさいますね」
 アレは『博士』が作った錬金生物だろうか。元々の迷宮の護り手だったのか。さて。
 ともかくとして、依頼は十全に――

「ああああぁぁぁーッッ!!」
 突然、アキの叫び声が聞こえた。
 何事かと思えば、周囲にあった金色の財宝がその輝きを失い、砂埃として風に吹き消されていっていた。
「こんなオチだと思ったわ」
 やはり砂手の三姉妹が用意した撒き餌に過ぎなかったのだろう。利香は予想しきっていたが、アキは滝の如く涙を流していた。
「かわいそうなのです……」
 さすがに同情するクーア。利香は、溜息をつきながら頭を掻いた。
「……代わりにそこのくだらない駄洒落言ってたエロ刀(アレンツァー)は好きにしていいから」
「マテ、オレはエロ刀じゃねえぞサキュバス宿屋。妹を押し付けるな。そして掘り返すな」
 誰がアキを『慰めた』ものか。そんな事を言い合いながら、イレギュラーズ達は街へ報酬を受け取りに戻るのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

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