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シナリオ詳細

<果ての迷宮>モフモフ天国、寝落ち地獄

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●果ての迷宮
 『果ての迷宮』。それは、幻想王都メフ・メフィートの中心に存在する地下迷宮だ。
 未だ底の見えぬ、広大な地下迷宮の踏破――それが幻想を建国した勇者王の悲願であり、幻想王侯貴族の義務となっている、という訳である。
 何故未だ踏破者がいないのか――それは、迷宮が、あまりにも異質なる構成をしているが故だ。
 階層によって、さまざまな姿を見せるこの迷宮。直近であれば、突如として王の首を獲ってこいと言われたり、後悔を覚える瞬間を見せつけられたり……おおよそ、既存の常識では計り知れぬ階層ばかり。これでは、一般人の踏破は困難であろう。
 ――だが。此処には今、ローレットのイレギュラーズ達がいる。『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)率いるイレギュラーズ達。パトロンである幻想貴族たちの支援を受けた彼らによって、迷宮は少しずつ、確実に踏破されつつあった。
 しかし迷宮は、未だその全容を見せない。
 果たして此度の階層は、如何な姿を見せるのか――。

●そして23層へ。
「ここは……?」
 レイリ―=シュタイン(p3p007270)が思わず声をあげたのは、目の前に広がる迷宮の光景のせいだ。
 一目で見れば、そこは草原であった。緑のじゅうたんがどこまでも広がる、広大な草原。その草原のど真ん中に一つの扉が浮いていて、そのさらに後方には、五つの扉が浮いている。
 さて、その真ん中の扉の前には、一匹の大きな羊が足を折りたたんで鎮座していて、さらにその背中に、「大当たり」という看板を持った、一匹のアライグマがいた。
「おめでとうございます。大当たりです」
「しゃべったわさ!」
 ペリカが声をあげた。茶色の体毛をしたアライグマは、どうも獣化した獣種(ブルーブラッド)には見えない。となると、こいつは本当にアライグマで、本当にアライグマのくせに喋っているわけだ。相手がある程度の知能を持っているなら、崩れないバベルで会話が通じてしまうのが混沌世界のいい所である――いや、相手はその常識にすらとらわれない、なんか超常の存在なのかもしれないけれど。
「果ての迷宮、ここまで攻略してきた皆さん。お疲れさまでした。此処は、そんな皆さんを心から癒すための、モフモフ・リラクゼーション・ルームになっています」
 『大当たり』の立て札をぴょこぴょこ振りながら、アライグマは続ける。
「モフモフ……? モフモフって言うと、動物やぬいぐるみなどを想像するけれど……」
 レイリ―の言葉に、アライグマは頷く。
「その通りです。ここでは、動物たちによる癒しを体験できるでしょう。まずは、こちらの扉をご覧ください」
 そう言って、アライグマが指示したのは自身の背中。中央に位置する扉だ。
「ここが、次の階層への扉となっています。とはいえ、今は鍵がかかっているので開きません。そこで、皆様には五つの癒しスポットに入り、最低……そうですね、三つくらいがバランスでいいでしょう。三つの鍵の欠片を見つけてきてください。そうすれば、この扉は開くでしょう」
「鍵の欠片?」
 レイリ―がそう尋ねるのへ、アライグマは懐(のあたりの毛皮をモフモフして)から何がを取り出した。それは、まるで宝石箱か何かの為のような、小さな鍵だった。
「これが鍵の欠片です。これを見つけましょう。では、皆さんを癒すリラクゼーションプランをご紹介します」
 ぺし、とアライグマが羊を軽くたたくと、羊は立ち上がり、ぴょこぴょこと歩き出した。イレギュラーズ達は、それについて進む。中央の扉――次の階層への扉だ――を越えて、奥にある五つの扉の前へ。
「まず、ルールを説明します。皆さんは、一人一人、好きな扉に入ってくださって構いません。ただし、一度どこかの扉に入った人は、出てきても、別の扉に入る事は出来ないものとします」
 つまり、一人が体験できるシチュエーションは、どれか一つだけ……という事になる。イレギュラーズ達は頷いた。アライグマもまた頷くと、
「では、左から順に。一番目の扉。此方は、にゃんにゃん天国となっております。まぁ、猫カフェですね」
 がちゃり、と扉を開けば、そこは確かに、沢山の猫がいる。カフェのような場所に通じていた。カフェと言ったが、中は相当の広さのようだ。借りにイレギュラーズ達が全力戦闘をしても、それに足りる位の広さはあるだろう。
 中には、様々な種類の猫から、なにかサーバルキャット、虎のような大型のネコ科動物もいて、それぞれがのんびりと過ごしている。
「この中の内一匹が、カギの欠片を持っています。探しましょう。次です」
 次の扉を開く。そこは、広大なドッグランの光景が広がっている。様々な種類の犬が、のんびりと遊びまわっていた。
「わんわん天国です。ここで犬たちと遊びつつ、鍵を探してください」
 次――三つ目の扉の先には、温泉の光景が広がっていた。中には、大きなモフモフのサルや、モフモフのカピバラたちが、暖かそうに温泉につかっている。
「カピバラと猿の温泉天国です。此処の住人たちが隠し持つ、鍵の欠片を探しましょう。なお、ここに入ると強制的に水着になります。裸にはなりません。コンプライアンスと言うものがありますので。次はこちら」
 四つ目の扉は、大量のもふもふの羊たちがひしめき合う、羊牧場だ。羊たちのどれもが、温かな陽光に照らされて、眠たげに過ごしている。
「羊のじゅうたん天国。この羊の上を這いまわり、鍵を探してください」
 そして最後の扉――そこには、大量の竹生い茂る竹林となっていて、沢山のパンダたちが、のそのそと思い思いに過ごしている。
「パンダの竹やぶ天国。竹藪のどこかに、鍵が隠されています。パンダのもふもふの誘惑を振り切り、その妨害を避けながら、鍵を探してください」
「今妨害っていったわさ?」
「以上です」
 ペリカの問いを、アライグマは無視した。
「ここで皆さんは……『寝落ち』と戦いながら、鍵を探すのです」
「寝落ち……とは?」
 レイリ―の問いに、アライグマは答える。
「特殊状態です。皆さんのような人間には、我々のもふもふ感は劇薬のようなもの……長く触れていては、確実に心地よい眠りに落とされます。でも大丈夫。皆さん全員が眠ってしまっても、迷宮の外に送り届けますので、存分に眠ってしまってください」
「ちょっとまつわさ。眠っちゃったら、ここは踏破できないわいね?」
「そうなりますね」
 ペリカの言葉に、アライグマが頷く。
「という事は、眠らないように、障害である動物たちを何とかしながら、鍵を探す、って事よね?」
「そうなりますね」
 今度はレイリ―の言葉に、アライグマが頷く。
「それって、『障害を突破して階層を踏破するいつも通りの迷宮』と何が違うの?」
「………………」
 アライグマは、ふと遠い目をした。それから、ふと頷くと、
「では皆様、アデュー。心行くまで寝落ちしていってください」
 そう言って、羊のお尻をぺしん、と叩いた。羊はめぇ、と声をあげると、そのまますさまじいスピードで何処かへと走り去っていったのだ!
「ああっ、逃げた!」
 慌て追おうとするレイリ―を、ペリカは止めた。
「今は時間が惜しいわさ……捕まえても何かなるとも思えないし。何にしても」
 そう言うペリカ……イレギュラーズ達の目の前には、五つのリラクゼーションルームへの扉がある。
「いつも通り。障害を突破して、この階層を踏破するわいよ!」
 かくして、イレギュラーズ達のモフモフ攻略作戦が始まる!

GMコメント

 どうも。アライグマです。
 此方の階層は、レイリ―=シュタイン(p3p007270)さんのアフターアクションの結果、たどり着いた階層となります。

●成功条件
 最低三つの『鍵の欠片』を回収する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 もたらされた情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●このシナリオについての捕捉
※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

●状況
 ついに到達した果ての迷宮23層。そこには謎のアライグマによる、モフモフ天国フルコースが待ち受けていました。
 皆さんは、以下の扉から好きなモフモフリラクゼーションに突入し、鍵を回収してきてください。
 ただし、ルールは以下の通り。
  1.動物たちへの攻撃を禁止。
  2.一度どこかの扉に入った人物は、別の扉に入る事は出来ない。
  3.扉の中にいる限り、寝落ちポイントがたまり、MAXになると寝落ち(戦闘不能)になる。
 つまり要約すると、『寝落ち(戦闘不能)にならないように、扉の中を探索して鍵の欠片を見つけ出す』と言うシナリオです。いつもの果ての迷宮ですね。

●寝落ちについて
 扉の中に入ると、規定時間ごとに、皆さんには『寝落ちポイント』が加算されていきます。
 この寝落ちポイントは、モフモフの動物に触れたり、温泉につかったりすることで特に上昇していきます。鋼の精神で、動物をモフモフすることを耐えてください。しかし耐え切れず、モフモフしてしまう事もあるでしょう。そういうモノです。
 寝落ちポイントがMAXになったキャラは、『寝落ち』して、戦闘不能になります。
 この『寝落ち』はBSではないため、『BS無効』や『睡眠無効』などでは防げません。なお、睡眠不要のスキルをお持ちの方で、『解釈が違う……!』というプレイヤーさんは、なんか気絶した、くらいの感覚でいてくださると幸いです。
 寝落ちポイントは、パートナーに起こしてもらったり、何か眠気を紛らわせるような行動やアイテムを利用することで、上昇値を抑えることができます。
 パーティ全員が寝落ちしてしまえば、当然のごとく攻略は失敗です。パンドラを減らされ、お外へ放り出されてしまいます。

●モフモフアクティビティ紹介
 1の扉
  にゃんにゃん天国。いわゆる猫カフェのような空間です。注文すると、食べ物やコーヒーなども突然出てきます。
  中には大小種類様々な猫がいて、その内の一匹が鍵を持っているようです。
  猫の誘惑に負けずに、鍵を探しましょう。
  猫の速度に負けないよう、命中・反応が高いと、探索に有利になるかもしれません。

 2の扉
  わんわん天国。いわゆるドッグランのような空間です。
  たくさんの犬型の動物がいて、皆さんに遊んでくれとせがんできます。
  わんわんのモフモフの誘惑に屈することなく、耐え抜いて鍵を探しましょう。
  わんわんの体力に負けないよう、HPとEXF高ければ、探索が有利になるかもしれません。

 3の扉
  カピバラと猿の温泉天国。温泉です。サルたちと、カピバラたちがいます。
  ここでは強制的に水着に着替えさせらえます。裸にはなりません。コンプライアンス。
  温泉とモフモフの動物たちの誘惑に耐えながら、鍵を探しましょう。
  誘惑に耐え切る防御技術と特殊抵抗が高いと、あるいはハプニングを避けるためにファンブル値が低ければ、探索が有利になるかもしれません。

 4の扉
  羊のじゅうたん天国。羊たちがひしめき合う牧場です。
  羊たちの背中の上を移動し、鍵を探しましょう。
  常にモフモフの羊に触れなければならないため、少し難易度は高いです。
  機動力とEXAが高ければ、素早く移動できるため、探索が有利になるかもしれません。

 5の扉
  パンダの竹やぶ天国。竹の生い茂る山の奥のようなフィールド。
  竹藪のどこか隠された鍵を探しましょう。しかし、モフモフのパンダが追いかけてきて、あなたを優しく抱き留めてくるでしょう……。
  モフモフのパンダを振り払う物理・神秘攻撃力、そしてクリティカル値が高ければ、探索が有利になるかもしれません。

●味方NPC
 『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)
  タフな物理系トータルファイター。
  今回は、リラクゼーションルームの中には入らず、周囲の探索と警戒を行ってくれるそうです。

 以上となります。
 それでは、皆様が癒される様を、ここで観測させていただきます。
 アライグマでした。

  • <果ての迷宮>モフモフ天国、寝落ち地獄完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月28日 22時30分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
シラス(p3p004421)
竜剣
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
シエル(p3p009306)
しろにゃんこ

リプレイ

●いざ、モフモフ天国へ
 果ての迷宮、新たなる階層――。
 そこは、自称『大当たり階層』であり、モフモフの動物たちと触れ合える癒しの天国であった――!
「モフモフして楽しめる迷宮だと思ったのに……耐えなくちゃいけないなんて悲しいなぁ……」
 『ヴァイスドラッヘ』レイリ―=シュタイン(p3p007270)が声をあげる。モフモフな迷宮、と言う予測は確かに当たったが、出来ればずーっとモフモフをモフモフしてモフモフできる階層が良かった。此処はモフモフできる階層ではあったけれど、モフモフに耐えなければ、攻略できぬ階層でもあった。つまりいつもの果ての迷宮なわけで、大当たり階層と言うのも胡散臭い――そもそも、大当たりだ、と言ったのも、先ほどまでここで階層の説明をしていた胡散臭いアライグマの言であるのだから。
「とは言え、モフモフな動物たちがいるのは間違いありません――神よ、ここが楽園なのですか」
 どこか楽しげな様子で言うのは、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)だ。やはりモフモフの動物たちと言うのは、ある種憧れでもあるのだろう――分かる。犬とか猫とか羊とかカピバラとかパンダとか、可愛い。皆可愛い。アライグマもよろしくね。
「先ほどもアライグマ氏に案内されましたが。此処には五つの扉が御座います。そのどれも、モフモフな動物たちと戯れることができる――失礼、試練が待ち受けております」
 ふむ、と幻が言った。その通りに、この階層の中には五つの扉が『浮いている』。魔術か何かの類か、その先にはさらに広大な空間につながっていて、それぞれ特徴のある景色が広がっていた。例えば、一つ目の扉の先には広い猫カフェのような空間が広がっていたし、二つ目は広大なドッグラン。三つめは温泉……と言った具合だ。
「ここはスタンダードに……二人一組で、それぞれの扉の先を探索する……と言うのはどうだろう?」
 『散らぬ桃花』節樹 トウカ(p3p008730)が提案する。この階層の攻略条件は、五つの扉の先に隠されている、『鍵の欠片』を三つ以上見つける事――そして、『一人が入れる扉は、五つの中から一つだけ』と言う制限がある以上、全員で総当たり、という訳にもいかない。
「モフモフに騙されそうになるけど、ここは果ての迷宮であることに変わりはないんだ。だったら――俺は本気で取り組みたい」
 トウカは、かつて果ての迷宮の攻略の結果に解放されたという、境界図書館の事を思い浮かべていた。その図書館から広がる無数の世界、その先で冒険を繰り広げてきた思い出。その先で出会ってきたいくつもの笑顔。
 果ての迷宮を攻略することで、そう言った新たな出会いがあるとしたら――そこで、また自分が誰かの笑顔を守るための力になれるなら。
 ここが『大当たり』だとしても、その力を抜くことはできない。
「そうだな。何にしても、ここを踏破するためには、気を抜くことなんてできないな」
 シラス(p3p004421)は「よーし」と気合を入れつつ、頷いた。
「まずは、各自、どこの扉に向いたいか、宣言してくれ。それで決まればそれでいいし、被っちゃったら、ちょっと話し合おうか」
 シラスの言葉に、仲間達は頷いた。しばしの相談の末、メンバーはそれぞれ割り振られる。内訳は、以下の通りだ。
 第一の扉は、『しろにゃんこ』シエル(p3p009306)と、シラスが担当する。
 第二の扉は、レイリ―と、『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)の担当だ。
 第三の扉の担当は、『優しい夢』メーコ・メープル(p3p008206)と、トウカ。
 第四の扉を、『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)と幻が担当。
 そして第五の扉は、『砂漠に燈る智恵』ロゼット=テイ(p3p004150)と、『ミルキィマジック』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)が担当することとなった。
「この者はロゼット=テイだよ、ミルキィ、宜しくね」
 ニコリと微笑んで、ロゼットが挨拶するのへ、ミルキィは元気よく、ぺこり、と頭を下げた。
「ロゼットちゃん、お互い寝落ちしたら起こしあっていこうね!」
 柔らかく握手を交わし、挨拶を交わし合う。
「じゃあ、早速行きましょうか。此処は安全らしいですけど、ここでも『寝落ち』してしまったら元も子もありませんし」
 アルヴァがそう言った。ちなみに『寝落ち』とは、人間が絶えらえられぬほどのモフモフを摂取した際に、脳が強制的にシャットダウンする機能の事である。多分。アライグマがそう言ってた。まぁ、原理はともかく、ここで全員が『寝落ち』してしまったら、その時点で階層攻略は失敗となってしまうわけだ。
「うう、ドキドキしますね……モフモフが楽しみ……でも、あまり触っていてもダメですし! うぅ、なんてひどい階層なんでしょう!」
 シエルがそう言った。想いを同じくする者もいただろう。出来ればずっとモフモフしていたい。モフモフ。モフモフ。モフモフ天国なのに、モフモフできない。本当にここはモフモフ天国なんだろうか。さておき。
「では、行こうか。皆、気を付けるように……いや、気を付けるにしても、何に気を付けるのか……」
 ミーナはむぅ、と唸った。気を付けるもの、モフモフ天国で気を付けるものとは……?
「ええと、モフりすぎに、とかかしら?」
 レイリ―が笑うのへ、ミーナはふむ、と頷いた。
「では、モフりすぎに気を付けて」
 ミーナの言葉に、仲間達は頷いた。かくして、一行はそれぞれの目の前に広がる世界へと、足を踏み入れるのだった――。

●猫カフェの空間
 さて、第一の扉。『猫カフェ』へと足を踏み入れたのは、前述したとおりにシラスとシエルだ。
「うーん、不思議だ……広いけど、確かに喫茶店みたいだな……」
 シラスがううん、と唸った。扉を開いて入ってみれば、ちりんとベルが鳴る。その音に反応したみたいに、様々な猫たちが一瞬、ちらりとこちらを見て、すぐに思い思いの過ごし方を再開した。
「にゃふー……もふもふ、もふもふがいっぱい……!」
 思わず目を輝かせてしまう、シエルである。その言葉通り、この部屋には様々な種類の猫がいて、よく見れば、部屋の奥には虎のような生き物も見える。およそ様々な『猫』が集まって、のんびり過ごしているようだ。
 ふと、とことこと、シエルの足元に一匹の日本猫がやってきた。シエルのブーツに鼻先と額をこすりつけて、こてん、と横になる。
「にゃあ」
 撫でてもよいぞ、と言うように、一鳴きした。
「ふわぁ、ふわぁああ……」
 思わず手を伸ばした。日本猫の、短い毛――それが滑らかに手に触る感触。撫でるたびに、くすぐったそうに目を細める日本猫。感じるのは、至福……至福の時――!
「あぁ……こ、ここが天国ですか!?」
 ゆっくりと抱き上げようとすると、猫は脱力して、シエルのされるがままに任せた。抱き上げて、胸元へ。生命の持つ温かさが、胸いっぱいに広がった。もふ、と沈む感触が、極上のぬいぐるみのような――否、ぬいぐるみでは表せぬ、生命の感覚を覚えさせる。
「とりあえず、喫茶店って言うなら……コーヒーに、季節のケーキを二つ……なんてな」
 シラスが声をあげる――そしてふと、目を放した瞬間には、テーブルの上にケーキとコーヒーが用意されていた。果たしてどういうカラクリか。いや、ここはもう、あまり気にしない方がいいのかもしれない。
 二人は、恐る恐る近づいて、席へと座った。湯気を立てている、コーヒーと紅茶。毒は入ってはいないだろうという直感は、確かにあった。
 驚きつつも、コーヒーに手を伸ばす。
「……美味い」
 シラスは思わず、呟いた。さわやかな苦みと、ほのかな甘み。極上のコーヒーだろう、それ。季節のケーキに手を出してみれば、キウイフルーツの心地のいい酸味とクリームの甘さが調和した、これまた極上のものだと感じた。
「美味しいですねぇ……」
 思わず、シエルも声をあげた。手にしたのは、温かな紅茶。その膝の上には、先ほどの猫が丸まっていて、ほんのりとした温かさを提供する。
 気づけば、シラスの足元にも、一匹の黒猫がやってきていて、静かにその身体を寄り添わせた。それが心地よく、なんだか温かだ。
 窓の外に覗く、見知らぬ景色。見知らぬ人が、忙しなく歩いている。外の景色に比べて、中はとても穏やかだ。午後の陽光が、優しく席を照らしていて、なんだか……眠くなってくる。
 少し寝るのもいいだろう……自然と瞼が重くなってきた。今度は、とシラスは思う。あの子と来よう。そして、午後を一緒に過ごそう。そう思いながら、ゆっくりと、その身体を椅子にもたらせた。
 了。

「って、ちがう!」
「ちがいます!」
 ばっ、と二人は同時に立ち上がった。にゃあ、と声をあげて、猫が逃げていく。
「あ、あやうく午後の気だるげな空気に身を任せて寝落ちするところだったッ! 寛ぐと眠気がくる、そういう場所ってことか!」
「ね、猫さんの温かさに身を任せて、一緒にお昼寝するところでした!」
 マズい、と二人は思った。この空間の寝落ちパワーは、想像以上だ。このままではそう遠くないうちに、二人とも幸せに寝落ちするに違いない! しかも、まだ敵は――猫たちは、本気のモフモフすら見せていないのだ!
 そう思えば、此方に視線をやる猫たちが、すべて歴戦の狩人に見えてくるというものだ。此方をモフらせて寝落ちさせることを狙う、狩人だ。
「速く行動しないと、間違いなく寝落ちする! ど、どうする!?」
「え、ええと……シラスさんは、猫さんをおびき寄せてください! それに反応しないような、重鎮の猫さんを、私が調べます!」
「よし来た!」
 そうと決まれば善は急げだ。シラスは素早く視線を巡らせると――すぐに目当てのものを見つけ出した。それは、猫用のおもちゃ箱で、中には様々な猫と遊ぶためのグッズが詰め込まれている。
 シラスはそこから、『猫じゃらし』を取り出した。棒の先端にひもがつながっていて、そこから羽やボールのようなものがつるされた、定番の奴だ。
「よし、よーし、皆、遊ぼうか……!」
 大道芸は得意とするところだ。なるべく多くの猫を引き付けるように、シラスは猫じゃらしを振るう。右にボールが動くたびに、猫たちが視線を右に向ける。左に羽が動くたびに、猫たちは視線を左に向け――。
「にゃーっ!」
 一斉に、シラスに向けて飛び掛かってきた!
「うわ、うわっ!」
 それは、まさに大量の猫に捕食されかけた小魚のごとしか。一斉に飛び掛かってくる、無数の猫――いや、モフモフトラップ! 猫が洪水のごとくシラスを飲み込み、その体温と体毛でモフモフと撫でまわす!
「う、うわぁ……うわぁ……」
「し、シラスさーん!」
 次第にとろんとしたものが混じっていくシラスの悲鳴。しかし、シラスは気丈にも、眠そうに頭を振った。今のうちに、他の猫を探れ。シラスはそう言っているように見えた。
「わ、分かりました! シラスさんの犠牲は無駄にはしません!」
 シラスの奮闘に、店中の猫たちが走り回っている。その中から、目当ての猫を探さなければならない。シエルは一生懸命に目を凝らして、部屋中の猫へと視線を移す。あの子じゃない。この子じゃない。その子じゃない……じゃあ、どの子? 重鎮、落ち着いている子……あえて、騒動から離れている子……! あまり余裕はない。このままではシラスがモフ寝落ちしてしまう。そうなっては、此方も沈むのは目に見えている……!
 ふと、そんなシエルの視線に一匹の大きな猫の姿がうつった。ノルウェージャンフォレストキャットのそれは、些か、不細工な……不細工可愛いという奴か、ふてぶてしい顔をしている。
 直感的に、この子だ、とシエルは思った。騒乱のカフェ内に置いて、その猫だけが、平然としているように見えた。
「あの……鍵をお持ちじゃないですか? どうしても必要で、今探してるんですが……」
 おずおずと声をかける。猫は、ぶにゃあ、と一鳴き。そうして上を向く……違う、首元を見せたのだ。その猫は首輪をしていて、その首輪には、小さな鍵のような飾りが取り付けらえていた。飾り? 違う、これこそ――。
「か、鍵の欠片です……!」
 ぱっ、と手を伸ばすシエル。それを手にした瞬間、部屋中の猫が、また一斉に動き出した。バタバタと部屋中を駆け回り、そして列を組んで並びだす。
 にゃあ、と猫たちは声をあげて、きらきらとした光の粒子に包まれて消えていった。後に残ったのは、床に座り込んだシラスと、鍵の欠片を手にしたシエルのみ。
 クリアしたのか、と気づいたときに、二人は安どのため息をついた。
「……ああ、俺は今……すごく猫を飼いたい」
 シラスの呟きに、シエルは頷いた。
「……終わってみると……名残惜しくなっちゃいましたね……」
 今はもう、猫の居なくなったカフェの一室に、二人の声が響いた。

●ドッグランの空間
 わんわん! わんわん! わんわん! あちこちから、元気な鳴き声が聞こえる。
 どたどた! どたどた! どたどた! あちこちから、走り回る音が聞こえる。
「……凄いな……ここは……」
 思わずミーナが声をあげる。二人が飛び込んだのはドッグランが果てしなく広がる空間だ。広く開放された、ちょっとした運動場のような広さの広場に、無数の犬たちが放たれていて、自由気ままに遊びまわっている。
「この中から探すのか……いや、忙しくて、寝落ちなどしている暇などなさそうだが」
 むぅ、と唸るミーナ。レイリ―は口元に指などやりつつ、ううん、と唸ると、
「疲れて寝落ち……なんてタイプなのかしら。でも、油断は禁物よ。たっぷりミーナで……いいえ、ミーナと楽しみましょうか。ミーナ、頑張ってね! 私も頑張るから」
「ああ、よろしく頼……え? 今不穏なこと言わなかった?」
 二人が準備万端、と用意をした瞬間、走り回る犬たちが、一斉にこちらを向いた! その眼はどれも楽し気に輝いていて、尻尾をもはちきれんばかりにブルンブルン振るっている。
「さぁ、来なさいワンちゃん達、私、レイリーがお相手してあげるわ」
 レイリ―が微笑んだ瞬間、犬たちは一気に解き放たれた! それは、久方ぶりに主人と再会できた犬のような勢いで、それはもう、弾丸かロケットのごとくつっこんでくるのである。
「こ、これはまずいぞ!」
 ミーナが思わず、空へと飛びあがる――それを逃がさんとばかりに、セントバーナードが飛びあがり、ミーナへと抱き着くようにダイブ!
「うわっ、危ないっ!」
 墜落しないように、ゆっくりと、地上へと降りていく。着地した瞬間、別のハスキー犬がミーナへと飛びついてきて、思わずミーナは倒れ込んでしまった。
「わ、わ! やめろ、こら! はなれろ!」
 犬がその巨体を生かして、ミーナの身体の上に乗っかる。服の上からでも分かる、犬の毛の手触り。しっかりと手入れしてされているのだろう、ごわごわとした感じも、極端な獣臭も感じられない。
 ミーナが起き上がるより前に、ハスキー犬はミーナの脇のあたりに移動すると、そのまま丸くなるように身体を横たえた。
「疲れた? 一緒に寝よ?」
 そのように、訴えている。
「うっ」
 ミーナは思わずうなった。暖かい。暖かい。ハスキー犬の体温。そして、滑らかな触り心地の体毛。いつしかその身体に、身をゆだねるように抱き着いた。ほう、と思わずため息が漏れる。このまま眠ってもいいかもしれない。そう思えてしまうほどに。本来は、飼い主と犬が同じ場所で眠るというのは躾によろしくないらしいが、そんなことは知ったことか。今ここで、わんわんと一緒に眠るのだ……モフモフしながら……ぐぅ。すぅ。
「フッ~」
 つ、と、ミーナの後ろから、冷たい吐息が、耳をくすぐった。
「ひゃあ!?」
 思わず悲鳴を上げて、飛びあがるミーナ。慌てて後ろを振り向いてみれば、くすくすと笑うレイリ―の姿が目に映った。
「どう、目が覚めた? ミーナ」
 どうやら、寝落ちしかけていたミーナを、レイリ―が起こしてくれたようだ……だが。
「ほ、他に起こし方はなかったのか!」
 思わず頬を赤らめて、攻撃するミーナ。レイリ―は楽しげに笑った。
「だって、私を放っておいてワンちゃんと楽しんで。ひどいじゃない?」
 うう、とミーナは唸った。その様子を充分に楽しんでから、レイリ―はぽん、と手を叩く。
「さ、誘惑に負けず、鍵を探しましょ? ここからは体力勝負よ、ミーナ?」
「くぅ、負けないからな! 砂駆! お前も気合を入れろ!」
 パカダクラの『砂駆』が鳴いた。さてさて、ここにモフモフ耐久勝負の幕が上がったのである。

 次々と飛び掛かってくる犬たちを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。鍵は、犬たちの体毛の中に隠されていると推理した――実のところ、その予測は正しかったのだが、今はさておき――二人は、とにかく迫りくる大量の犬と遊び、抱きしめ、モフり、モフり、モフり続けた。
 犬の種類は様々で、短毛種から長毛種、大型犬から小型犬まで、とにかく犬と言う犬が走り回っている。
「砂駆! ほら、次の犬だ! 頼む!」
 探索し終えた犬を、ミーナは砂駆へと押し付ける……砂駆は困ったような瞳で、ミーナを見つめた。
「え、こんな数無理? 弱音吐くな! 普段のお前はもっとこう勇敢で……戦場じゃないからやる気出ない? お前……」
 ミーナが肩を落とす。その瞬間に、ちょうど砂駆の背中に乗っていたチワワがきゃんきゃん、と勝ち誇ったように鳴いた。
 一方、レイリ―はコモンドールと対峙していた。モップみたいな体毛のアレである。
「よしよし、お前は鍵持ってないかな~?」
 にこにこ笑顔で、コモンドールを抱きしめる。独特の毛の手触りが、レイリ―の胸をきゅんと締め付ける。
 ああ、抱きしめたい。抱きしめたい。抱きしめてそのままぱたん、って倒れて、全身で抱き着いてそのまま寝落ちしたい……それは思考の片隅に浮かんだ欲望であったが、気づいたらぱたん、とたおれて、コモンドールに抱き着いていた。あ、ヤバい。そう思った瞬間には、瞼が少しずつ重くなる。
 寝てはいけない。そう思いつつも、しかしコモンドールの瞳はうるうると、レイリ―を見据える。いいんだよ。いいんだよ。このまま一緒に寝ようね……コモンドールの訴えに、レイリ―の心は折れた。
 ぎゅーっ、とコモンドールを抱きしめる。モフモフの毛並みが、レイリ―の頬をくすぐる。天国であった。間違いなく天国であった。このまま、レイリ―が瞳を閉じ――。
 かぷ、と。
 レイリ―の右耳に、あまがみされる感覚が走った。
「っ!?」
 思わず顔を赤らめて、上半身を起こす。その先には、にやにやと笑うミーナの顔があった。
「これで目が冴えただろ?」
「な、な、なんでこんなっ!」
 起こし方を、とレイリ―が言葉を詰まらせるのへ、ミーナは、ふん、と鼻を鳴らして見せた。
「さっきのお返しだ……ん?」
 と、ミーナが小首をかしげる。
「レイリ―、その手に持っているのは……?」
 と、指をさす。気づけば、レイリ―の手の中に、小さく輝くカギのようなものが握られていた。
「鍵の欠片……! この子が持っていたのね」
 どうやら、コモンドールが正解の犬だったようだ。無意識のうちに鍵を手にして、そのまま寝落ちしかけていたらしい。危ない所だった。このままでは、正解を手にしたままリタイア、という事になりかねなかったようだ。
 コモンドールは、わん、と元気よく鳴いた。ふと、その身体が光に包まれて、消えていった。あたりを見回せば、他の犬たちも、次々と消えていく。障害をクリアした、という事なのだろう。二人は、ふぅ、と安どのため息をついた。
「あはは、危なかった……けど、楽しかった。……んー、でも、もっと触れ合いたかったなぁ」
 レイリ―が言うのへ、ミーナは目を丸くした。
「え、まだもふり足りないのレイリー?」
 ――……そんな足りないなら私をもふればいいだろうに 。
 小さく……ミーナが呟く。その呟きが、届いたのか否か――レイリ―は、優しくミーナの頭を撫でて、
「ミーナ、今度は動物と触れ合える場所に遊びに行ってみる?」
 そう言って、微笑んだ。

●温泉の空間
 さて、温泉空間に足を踏み入れたのは、メーコとトウカだ。
「おっと……此処に入ると、本当に水着になるんだな……」
 足を踏み入れた瞬間、気づけば先ほどまでの服装が、シンプルな水着へと変化している。これも、魔術的なものなのだろうか?
「さて、さっそく探したい所だけど……まずは、周囲の確認からだな」
 トウカは、辺りを見回した。大小幾つかの温泉があって、中には大きな猿や、カピバラたちが湯につかっている。どれも暖かそうで、心地よさそうだ。見ているだけで、こっちもなんだかほっこりとしてくる。
「温泉の種類もたくさんあるんだな……ううん」
 思わずうなった。仕事じゃなければなぁ。障害じゃなければなぁ。此処でのんびり、休息をとるのも悪くない場所なのだけれど。
 とはいえ、トウカの胸に浮かぶのは、果ての迷宮を踏破するという使命感だ。それをしっかりともやし、辺りを確認した。
「あった。水風呂だ」
 温泉に手を浸すと、そこは低温の水が張ってある、水風呂だった。水を救い、ばしゃ、と顔を洗う。
「うん、目が覚めるぞ……此処を起点にして、探索を進めよう」
 つまり、水風呂の水を、眠気覚ましに使うのだ。温泉に入らなけばならない以上、その温度によって眠気の上昇リスクは常に高まっていく。そこで、しゃっきりと頭を切り替えられる水風呂は、気分転換に最適だ。
 トウカは最初の湯船に足を踏み入れた。暖かい。トウカがちょうどよく感じる温度だ。もしかしたら、入るものの感覚に最適な温度が、感じられるようになっているのかもしれない。つくづく、不思議な空間である。
「さて……失礼するぞ」
 トウカはまず、目の前にいたカピバラに触れた。水を吸いながら、モフモフとした肌触りが、トウカに眠気を誘う。これはいけない、と頭を振りながら、トウカはカピバラをモフモフする。
「……あとは……口を開けてくれるか?」
 トウカの言葉に、カピバラは素直に頷いて、かぱ、と口を開けた。
「うん、口の中に鍵はない……ありがとう、ゆっくり温泉に浸かってくれ。のぼせないようにな」
 カピバラは静かに頷くと、温泉に身を委ねた。ふぅ、と息を吐く。これは大変な作業になりそうだ。
「一歩ずつ……確実に、探していこう……」
 トウカはあたりを見回した。怪しいのは、例えば、頭にタオルを乗せていたりとか、変な体勢で湯船につかっている奴とか……そう言うのだ。むむ、と注意深く周囲を見回す――そこへ。
 ぽん、と、頭に冷たい何かがのせられた。それが、濡れたタオルだという事に気づいたトウカは、後ろを振り返る。
 そこにいたのは、一匹のゴリラであった。ゴリラは澄んだ瞳で、トウカを見つめている。
 考えすぎは良くない。そう言っているようであった。
 頭に熱がたまる。よくない。そう言っているようであった。
「あ、ああ……ありがとう……」
 トウカがそうつげるのへ、ゴリラは頷いた。そしてゆっくりと、湯船につかる。ゴリラは、ふと、自分の膝の上を指さした。此処に座れ、と言うのか。あやしい。しかし、こう、良いゴリラっぽい。その行為を無碍にするのも、なんか申し訳ない……。
 トウカは頭を下げながら、ゴリラの膝の上に座った。ごわごわしていると思っていたゴリラの毛は、ふさふさでモフモフだった。
 疲れているのだろう、とゴリラは言った。ような気がした。
 いいのだ。肩の力を抜き給え。と、ゴリラは言ったような気がした。
 言われたとおりに肩の力を抜くと、同時に体中からの力も抜けていくようだった。ゴリラに全身を預ける。心地よい感覚が、そこにあった。
 いいのだ。ねむりたまえ。
 ゴリラが言った。ような気がした。なんだかだんだんと、眠くなっていく。眠くなっていく。
 トウカは気づけば、うとうととしていた。だめだ。いけない。理性が声をあげるが、眠気がそれを塗りつぶしていく。
 やがてトウカは、ゴリラにその身を委ねながら、ゆっくりと、心地の良い眠りへと落ちて行ったのだった……。

●羊牧場の空間
「すごい……!」
 思わず幻が声をあげる。此処は羊牧場の空間。牧場特有の獣臭は存在せず、さわやかな草木の香りだけが、鼻孔をくすぐる。
 広い広い、牧場のような空間には、所狭しと羊たちが歩いていて、思い思いに牧草を齧っている。めぇ、めぇ、とあちこちから声が聞こえ、響いている。さながら、羊のじゅうたん、と言った様相を呈しているわけだ。
「こんなにモフモフな……やはり、ここは地下に存在する楽園で御座いますね……」
 努めて冷静に、しかしどこか喜びを隠しきれぬようすで、幻が言った。
「貴女は、帰還したら好きなだけモフモフできる相手がいらっしゃるのでは?」
 アルヴァが言う。その言葉に、一瞬、幻の頬が紅潮した。照れているようだ。しかし、こほん、と咳払い一つ、いつもの様子を取り戻す。
「何をおっしゃいますやら。しかし、こほん。油断はせずにまいりましょう」
 幻の言葉に、アルヴァは頷いた。前方を見やる。前述したとおり、所狭しと羊たちが存在するので、羊たちの間をかき分けながら探索を行う必要があるだろう。
「触れたらだめなら極力触れなければいい、簡単な話だ」
 アルヴァはそう言って、魔法を用いて宙へと飛びあがる。羊のじゅうたんに触れるか触れないかの高度を飛びながら、牧場を軽くひとっとび。
「広大とは言え、限界はある。粘り強く探していこう」
「では、僕は地上から参りましょう」
 幻はゆっくりと歩き出す――そして二人は、ここが難易度高めなモフモフ天国であることを、すぐに理解することになった。
「こ、これは……!」
 幻が思わず声をあげた。四方八方を、温かな毛布で優しくおしくらまんじゅうされているかのような感覚。羊の毛は、ふかふかで、モフモフで、暖かく、逃れようにも、そう簡単には逃れられない!
 それが、探索を続ける限り常に接触し続けるのだ! これは、これは……!
「なんという……モフモフ感で御座いましょうか! さながら極上の布団に包まれ眠るかのよう……!」
 幻の身体から、力がゆっくりと抜けていく。瞼が重くなり、眠気が体中を支配する――まずい! 刹那、幻は唐辛子を思い浮かべた。ギフトに寄り具現化したそれを、力強く齧りぬく。
 辛さ、いや、もはや痛みが口中を駆け抜けた。一気に脳が覚醒する。しかし、周囲を取り巻くモフモフから逃れることはできない。となれば、再び時間がたてば、このモフモフに捕らわれ、眠ってしまうかもしれない……。
「アルヴァ様、上空からは如何でしょうか? 鍵は発見できましたか?」
 その問いに、アルヴァは頭を振った。
「いえ、未だ……やはり、鍵は『羊のじゅうたん』、その中にあるのかもしれません……!」
 となると、やはりこのモフモフ天国から容易に逃れる手段は無いという事のようだ。上空から探すには、些か距離がありすぎる――どうしても、深く接触しなければならず、確かに空を飛べば不要な接触は避けられたが、探索には少し、手間取ってしまう。
「引き続き、空からの探索を。僕は少しでも、素早く行動し続けましょう……!」
「了解です! それから、少しでも気がまぎれるように……」
 アルヴァは指揮棒を取り出すと、静かに振るった。
「過去に謡った英霊よ、素敵な騒音を聴かせてくれ」
 現れるのは、ギフトによる恩恵、英霊による英霊楽団。それが奏でるテンポの速く、大音量の曲に合わせて、二人は空から、地上から、羊のじゅうたんを縫って走る。
 抱き着く。モフモフの感触に、意識を持っていかれそうになる――耐えて、耐えて、モフモフをまさぐる。鍵はない。次の羊目がけて走り、またモフる。
 羊が一匹。羊をモフる。
 羊が二匹。羊をモフる。
 羊が三匹。羊をモフる。
 羊が四匹。羊をモフる。
 羊が五匹。六匹。七匹。八匹……古典的な、睡眠導入の言葉遊びだ。英語で、スリープ(眠)る、とシープ(羊)が、発音が似ていることから始まった……らしい……。
 なんにしても、単調な作業とは眠気を催すものである。ましてや、相手は極上の布団……極上のモフモフ羊。接触ごとに体力を削り、眠気を誘っていく。
 やがて、二人の脳裏に――徐々に、徐々に、睡魔が浮かび、悪魔の誘いを囁くのだ。
 寝ちゃってもいいんじゃないかな?
 気持ちいいし。
 寝ちゃっても、良いんじゃないかな……?
「黙りなさい、睡魔よ……!」
 幻は再び、唐辛子を口中に発生させる。噛みついた……味がない。辛くない……違う、辛いのだ。痛いのだ。しかし、それを感じさせぬほどに、眠気が上回っていた。
 ぼとん、と何かが落ちてきた。それが、アルヴァが上空から落ちてきた音で、羊のじゅうたん、いや、ベッドの上に落下してきたのだ、という事に、数秒かけて、幻は気づいた。
 ぽよん、と、弾むベッドの上に、落ちてくる――全身を脱力させて。それが、どれだけ心地のいい事だろうか、と幻は思った。今すぐすべてを投げ出して、羊のベッドの上で眠ってしまいたい。それは、幻が、アルヴァが弱いから、等と言う理由から生じた誘惑ではない。すべて人は、モフモフの前では無力なのだ(熱弁)!
「くっ……すみません、皆様……僕は……僕は、もう……」
 ゆっくりと、力が抜けていった。思わず倒れ込む幻を、ぽよん、と、羊のモフモフが包み込んだ。それは間違いなく、至福の瞬間だった。その極上の幸福のまま、幻とアルヴァは、静かに寝落ちしていた――。

●パンダと竹の空間
「へー、これが竹なんだねえ」
 ぺちぺちと、竹を叩くロゼット。どうやら、初めて見たらしく、興味深げな視線を竹へと向けていた。
 ここはパンダと竹のエリア。その名の通り竹藪が生い茂っており、中には何匹ものパンダが笹を食べたりゴロゴロしたりしていた。
「これ硬いし、中が空洞になってるんだなあ」
 パンダが食べ残したのであろう竹を見てみれば、節ごとに空洞になっているのがみてとれる……となると。
「中に入っていたり、かもだねぇ」
 ロゼットがふむ、と頷くのへ、ミルキィが頷いた。
「あとは、高い所に引っ掛かってたり、かな? ううん、注意深く探さないとだね♪」
 持ち込んできた水筒から、コーヒーを注いで、味わう。濃い目の風味になかに、確かに感じる深いコク。気持ちを落ち着けて、眠気を覚ましてくれるだろう。
 できれば、ゆっくり、周囲を探索しておきたい……しかし、そうはできない理由が、確かにあった。
 二人が探索を開始したのを察したのか、ゆっくりと、巨体がその身を揺らした。あちこちから、次々と、立ち上がる――その影。白と黒の体毛を持ち、どこか愛嬌のある顔をした――。
「あのでっかいもふもふがパンダか」
 ロゼットが頷いた。二人を囲むように、じりじりと、じりじりと、迫る影。それは、パンダと呼ばれる動物たちである。巨大な体。しかしモフモフの体毛。笹を砕く強靭なあご。しかして(ここのパンダは)人畜無害。
 パンダたちは一斉に丸まった。多分クラウチングスタートの態勢だろう。そののちに、一気に走り始める! だばだばと四足で走る姿は、なるほど、中々――。
「こわい」
 ロゼットの言う通り。何せ相手はクマの仲間である。となれば、その巨体が迫るのはちょっと、正直、怖い。
「大丈夫!? ここ、ちゃんとモフモフ天国だよね!?」
 ミルキィが悲鳴を上げつつ、走り出した。ロゼットが後を追う。
 逃げながらも、しかしそこはイレギュラーズ、周囲を探る視線には無駄はない。あたりを注意深く観察しながら、竹林を走る!
 走る緊張感と疲労感は、通常ならば眠気とは縁遠い存在であったが、ここでは違った。走れば走るほど、疲れれば疲れるほど、ダイレクトに『眠気』として身体に現れる。それは『寝落ち』の兆候だ。
 その僅かな疲労の、パフォーマンスの低下を見のがさず、パンダは跳んだ。ぴょん、と跳躍し、狙うのはロゼットの姿。
「タッチダウン!?」
 後ろから、がしっ、と捕まえられる。そのまま、大切なもののようにぎゅっと抱きしめられた。
 それはもう、見ての通り、極上の心地である。モフモフの毛皮が織りなす、絶妙な触り心地。絶妙な力加減で抱いてくる、その大きくて温かな腕。まるで子供に戻り、大好きな大人に抱きしめられているかのような――そのような多幸感。思わず力をすべて預け、パンダに抱かれたまま眠りたいと思うような、至福の時間。
「うう、はーなーしーてー!」
 いやいや、浸っていてはまずい、とロゼットはじたばたと身体を揺らした。パンダは名残惜し気に、ロゼットを放してくれる。
「意外に扱いが優しいんだね、君」
 意外と扱いが優しい。パンダは、じたばたされてちょっとしょんぼりしたような視線を、ロゼットに向けた。なんか罪悪感がわいてくる。
「ロゼットちゃん! 羨まし大丈夫!?」
 ちょっと本音を出しながら、ミルキィが声をあげた。ウズウズと動く両手は、正直今すぐパンダに抱き着いてしまいたいその本音がギリギリにじみ出ているサインである。
「この者は大丈夫だよ」
 ぺちぺちと自分の頬を叩きながら――そうしないと眠気がきそうだったので――ロゼットが言う。二人が周囲を警戒するような視線を向けると、あちこちから次々とパンダが姿を現し、此方をタッチダウンする(抱きしめる)べく様子を窺っている。なんと恐ろしい攻撃か。次、パンダの手に捉えられては、間違いくそのまま一緒に記念撮影してお昼寝コースに陥る事は免れまい。
「それより、鍵がありそうな場所を見つけたの☆」
 ミルキィが言って、指をさすのは、はるか前方。そこには、なぜか金色に輝く節を持つ竹が生えている。
「ううん、まるで昔話のようだ」
 ロゼットがむにむにと頬をこする。ミルキィが言った。
「多分、ボクたちの眠気的にも、あそこを狙うのが限界だと思うよ! 一か八か、あそこに全てをかけてみようよ!」
 ミルキィは、ロゼットのほっぺたを、ぺちぺちする(これは、眠気覚ましのためにお互いがお互いに行るルーティーンである)。ロゼットはミルキィのほっぺをぺちぺちしながら、うなづいた。
「この者も賛成するよ。行こう」
 二人は頷き合うと、一気に走り出した! 途端、狙っていたかのように、パンダたちが一斉に走り出す! 走る二人! 追うパンダ! パンダ! パンダ! どたどたと言うより、ぽとぽとと言う音を立てて、走るパンダ!
「このままじゃ追い付かれちゃう……!」
 ミルキィは、ロゼットを見た。そのまま、うん、と頷く。その目には、決意の色があった。
「ロゼットちゃん、後は……お願いっ!」
 ミルキィは、足を止めた。そうして追跡者たちを足止めすべく、大きく手を広げる! そこに、殺到するパンダたち!
「もっふぅ! ここはボクが受け止めるからロゼットちゃんは鍵をさがしてー……うう、あらがえないもふもふ……寝落ち注意ぃ……!」
 おお、なんと世にも恐ろしい光景だろう! モフモフの毛皮が、ミルキィに迫った! ぷにぷにのパンダの肉球が、ミルキィのほっぺをぷにぷにする! あまりの極上の手触りに、ミルキィの表情が歪んだ――幸せそうに。
 そのまま、ミルキィを抱きかかえる、一匹のパンダ。パンダはミルキィを抱きかかえたまま、ごろん、とあおむけになった。ミルキィがそのお腹の上に、全身の力を抜いて委ねた。
「ごめんね、ロゼットちゃん……ボクは、ボクは……ここまでだぁ……ああ、最高……なにこれ、すごいモフモフ……あぁ、依頼受けてよかったぁ」
 もふ、とその頭をパンダの胸に沈める。まるで毛の長いじゅうたんに沈むみたいに、ミルキィの全身が体毛に包まれた。暖かい。そしてお腹を優しく、パンダの両手が抑えてくれる。もう後は、寝落ちするだけだった。お休み、ミルキィ。
「ミルキィ……君の犠牲は無駄にしないよ……!」
 ロゼットは涙ながらに走った。追跡者たちは迫りくる。しかし、ミルキィの尊い犠牲は、ロゼットに光る竹を斬るだけの時間を、与えてくれた。手にした霊刀が、一閃する。切り裂かれる、竹!
「これで――!」
 呟いた刹那、ロゼットは手を伸ばした。光る竹――正確にいえば、竹の節の中で光っていた物。其れこそが、鍵の欠片であったのだ。ロゼットは、鍵の欠片に手を伸ばす。そして、それに触れた瞬間――。

●そして、次の階層へ
 気づけば、皆が最初の部屋の中にいた。意識を保っていた者、眠っていた者、すべてが完全に意識をはっきりさせて、最初の部屋、そこに設置されていた『次の階層への扉』の前に立っていた。
「おめでとうございます。クリアです」
 ぱちぱちぱち、と、手を叩く音が聞こえた。そこには羊の背に乗ったアライグマがいて、手には大きなカギを持っていた。
「皆さんは、見事鍵の欠片を三つ手にしました。ついでに、心行くまで、モフモフを堪能できたと思います」
 言いながら、アライグマがかちり、と鍵を扉に差し込んだ。すると、扉が勝手に開いて、眩い光が、イレギュラーズ達に降り注いだ。
「ここからまた、いつもの果ての迷宮が始まります。そこにはきっと、厳しい試練が待ち受けているはず。しかし忘れないでください。皆さんの心には、今日のモフモフがあり続けるという事を。そして皆さんが心れそうになった時、今日のモフモフがその支えとなってくれるはずです――」
 なんかいい話っぽいそれっぽい中身のない話を言いながら、アライグマは目を細めた。
「では行ってらっしゃい」
 そう言うと、アライグマは、ぱちん、と羊のお尻を叩いた。めぇ、と声をあげて、羊がアライグマと共に、どこかへ走り去っていく。
 イレギュラーズ達の前には、次なる階層への扉が開いていて、新たなる試練へ、彼らを導いているのだった――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 モフモフはご堪能いただけたでしょうか。
 モフモフの摂取は用法容量を守って正しくモフモフしてください。
 以上、アライグマがお送りしました。

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