PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神逐>怨嗟が求める赤子の声

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●全ては一人から始まった
 男には女が二人居た。
 一人は正妻。一人は愛人。
 妻も愛人も互いの存在を知っていた。なのに危害を加えなかったのは、女としての矜持だ。手を出せば自分の中の女としての位置が消える。それだけは避けたかった。
 二人は等しく男を愛していたから。
 ある日、妻は夫の間に子を成した。その際に妻が得たのは優越感である。これで愛人よりも立場が上だと思い知らせてやれるのだと。
 だが、同時に愛人にも子が成されていた事を知り、妻は激しく夫を罵倒した。これでもかと言葉をぶつける妻に対し、男はひたすらに謝罪したが、ついぞ愛人と別れるとは言い出さなかった。それが妻には殊更腹立たしかった。
 しかし、妻は子供が好きであったし、生まれる命を失わせるのは忍びない気持ちも僅かにあった。だからこそ、見逃す選択肢をとったのだ。
 取り上げはしない。願わくばせめて死産であってくれと。
 その願いを神は聞き届けず、結果として二人とも無事に出産した。元気な産声を上げた子は、奇しくも同日に生まれ、同じ性別をしていた。
 やがて三ヶ月ほど経った頃、事件は起きた。
 妻の子が息をしていなかった。変わらぬ毎日を過ごし、子に細心の注意を払っていたのに。いつも通りに過ごしていたはずなのに、気付けば息をしていなかった。
 気が狂いそうであった。いや、既に狂っていたのか。半狂乱になった妻が子を持って向かったのは、夫の愛人の所であった。
 辿り着いた家には愛人が赤子と共に暮らしていた。家の中に立ち入れば、驚いた女が妻に向けて警戒の言葉を発する。彼女の腕の中には安らかな顔で寝息を立てている赤子が居た。
 我が子と赤子の生死の違いを目の当たりにして、妻の中で何かが弾けた。
 包丁を手にして、妻は女に向き直る。
 その際の記憶を、彼女は殆ど覚えていない。
 気付けば、腕の中に赤子を抱いていた。
 女の腕に赤子を置いていた。女が倒れるその床には、赤い水たまりが広がっている。
 妻と子が家に居ない事に気付いた男が辿り着いた時、その現場をどう思ったのだろう。
 泣く赤子ごと妻を追い出し、我が家に先に帰るよう促した。
 男は愛人に向けて謝罪と共に祈りを捧げると、その骸を川へと投げ込んだ。
 彼は気付いていなかった。
 女の腕に抱いている赤子が自分と正妻の子である事にも、正妻が赤子を取り替えた事にも。
 投げ込まれた女が向ける情念にも。
 全て、全て、気付いていなかった。
 あるいは、気付いていながら目を背けたのか。
 妻を追いかけるべく踵を返した男の足首を、さっき投げ飛ばしたばかりの女の腕が掴んだ。
 その後は、水音だけが知っている。

●愛した想いの果ては怨嗟の産声を上げる
 ああ、何故、何故。
 愛する人が居た。彼との子を成した。
 正妻である女は自分を見逃してくれた。その温情に甘えきってしまったのがいけなかったのか。
 だって、やっと掴んだ幸せだと思ったのよ。
 見捨てられてばかりであった人生の中で自分を見つけてくれた彼。
 愛してくれた彼だからこそ、幸せになりたいと思った。
 ならば奪うべきだったのかもしれない。でも、それは彼が望む事では無かったからしなかったのに。
 だから、子を産んで、自分だけで動けるようになったら彼の下を去って、この子と二人、ひっそりと生きようと思った。この子が居るという幸せが自分を包んでくれるから。
 そろそろ決行の時を迎えようとしていたのに、どうして正妻の女がやってきたのか。
 どうして自分に凶刃を向けたのか。
 わからないわからないわからないわからない……。
 分かるのは、自分から幸せを奪ったあの女が憎い事。愛する彼が自分と添い遂げる事をしてくれなった事。もう我が子を腕に抱く事が出来なくなった事。
 ああ、憎らしや……憎らしや!
 この世の全てを呪いたいほどに、憎らしい!!
 そう思うと、どうだろう。
 沈んでいたはずの体が浮き上がるではないか。
 嗚呼、ああ、アア……!!
 歓喜の声が上がる。怨嗟の声を上げながら、男を引きずり落とし、女は陸に上がった。
 女は気付いていなかった。
 自分の体は水底に沈んでいる事に。
 浮かんだのは霊体であった事に。
 何より、女の体はもはや禍々しい雰囲気を持つ怨霊と化していた事に、女は気付かないまま正妻を追いかけた。

●事情は知らねど、此処であったが運の尽き
 御所に向かっていたイレギュラーズが遭遇したのは、偶然という他なく。
 混乱と悲鳴。それらが入り交じったいくつもの声を聞いて、彼らは駆けつけた。
 見ると、禍々しい雰囲気を纏った女が浮かんでいた。その姿は透けており、霊体である事が窺える。
 両腕は長く伸びており、それが人に触れるやいなや、触れられた者は悲鳴を上げた。そして気味の悪い笑い声を上げて女の霊について行く。周りの人に襲いかかっていく様子がイレギュラーズの目に映った。
「返して……返して……」
 女の口から零れる声はこの世のものとは思えぬものであった。恨み節にも聞こえるそれは、怨嗟の声。女は怨霊であると判別出来た。
 逃げる人だかりの中から、一人飛び出た。泣く赤子を抱えて走る女であった。だが、彼女が身に纏う衣類からは濃い匂いが漂う。それはまるで血のような……。彼女の衣類が暗めのものであったから実際にどう汚れているのかは分からない。
 怨霊が顔を向けた。赤子の声を聞いて、怨霊の女は手を伸ばす。
「返して……」
「ひっ……! た、助けて! 私の子を取り上げないで!」
 女の叫びを聞いたイレギュラーズは、彼女を助けるべく駆け寄った。怨霊と向き合う事になったが、このまま放ってはおけない。
 怨霊を前に、武器を構える。
 その怨嗟を晴らす為に。
「返してええええええええええ!!!!」
 怨霊が叫ぶ。
 怨嗟の声は、どこか悲しげでもあった。

GMコメント

 全体シナリオになります。
 「●全ては一人から始まった」と「●愛した想いの果ては怨嗟の産声を上げる」はPL情報になります。お気を付けください。
 とはいえ、逃げている赤子を連れた女に話を聞けば、ある程度は事情を知る事は出来るでしょう。
 何はともあれ、まずは怨霊を討伐する事が優先となります。
 周りには人もおり、怨霊の影響を受けている者も複数人存在しています。お気を付けください。
 以下は今回についての情報となります。

●達成条件
・「女の怨霊」の撃破
・一般人の三名以上の生存による戦闘終了
・(オプション)一般人全員の生存による戦闘終了


●敵情報
・女の怨霊
 常時低空飛行。神攻とEXFが非常に高いです。幽霊だから死ににくいんだね。
 常時【レンジ3】の腕で攻撃をしてきます。
 【厄災】を伴い、【狂気】【致命】【懊悩】【呪殺】が伴います。

・一般人×五名
 怨霊の狂気に影響され、他者を襲うようになっています。
 殆どが素手の為、攻撃力はそこまで高くはありません。
 無力化をする必要がありますが、怨霊の両腕の範囲内に位置している為、かなり努力しないといけません

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <神逐>怨嗟が求める赤子の声完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月18日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
シラス(p3p004421)
竜剣
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ

リプレイ

●悲痛な叫びの轟く中で、腕は人を操りし
 女の怨霊を前にして、多くの一般人は逃げ惑っている。恐怖の対象から逃げるのはごく自然な感情だ。
「これが怨霊……おぞましいけどどこか悲痛な感じがするよ……」
 怨霊と相対し、呟いたのは『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)。
 その怨霊の腕に、運悪く触れられた者達が居る。彼らは気味の悪い「ひひひ……」という笑い声を上げながら、女の怨霊に付き従い、無事な一般人に向けて襲いかかった。その範囲は怨霊の手が届く範囲内でだが。
 彼らに何も指示を出さない怨霊は、ただ一言、「返して」と繰り返すのみであった。
 その様を見ながら、『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)がポツリと呟く。
「『返して』。……どういうことでしょう?」
 彼女の言葉をそばで聞き、『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)も疑問を口にする。
「返して……か、あの人はいったい何を奪われたんだ?」
 無差別級に襲っているようにも見える怨霊。その動きから何が狙いなのか、悟る事は難しい。
 けれど、彼女は一つだけ反応した。それは赤子の泣き声。近づいていく怨霊から咄嗟に守りに入ったその相手は、赤子を連れた母親らしき女。
 『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)は、頭部の画面に文字を表示させる。
「返して、とは。赤子に関係があるのでしょうか?」
 母親が抱く赤子を見やったのは一瞬。すぐに視線は怨霊達へと向けられた。
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)やシラス(p3p004421)は赤子ではなく母親らしき女を注視する。
 女は胸に赤子を抱きかかえているが、その衣類からは血の匂いが漂うように思えたから。しかし、見たところ凶器を持っている様子は無い。
 しかし、今はそれを彼女に問うよりも、女の怨霊と、それに操られている一般人達への対応だ。
 もう一度「返してえええええ!」と叫ぶ女の怨霊の声に、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は同情するような表情を浮かべた。
「悲しげな叫び声……悲鳴、ですわねー。でも、申し訳ございません。せめて、その悲鳴を止めることを供養とさせていただきたく思いますー」
 彼女の言葉に同意と頷くイレギュラーズ。

●戦いは紡ぐ。悲しき真実を知るために向けて
 倒すべき敵は怨霊。保護すべきは怨霊に操られている様子の一般人。それからこの赤子を抱いた女。
 優先順位を仲間内で確認すると、囮として数名が前に進み出る。
 チャロロが、大きく息を吸い、小さな体のどこから出しているのかと思うほどの声量で怨霊達に向けて声を放つ。
「オイラはチャロロ・コレシピ・アシタ! 怨霊に操られたきみ達を助けるよ!」
 彼の口上を聞いて、意識をそちらへ向け始める怨霊達。一般人達のみを誘導する予定であったが、範囲内に怨霊も居れば、彼女もチャロロに向かってくるというもの。
 女の怨霊の動きを阻害すべく、シラスの一撃が遠くから怨霊を撃つ。その電撃は、耐えがたい攻撃衝動を与える一撃。
 怨霊が動きを止める。時間にして数秒。だが、少しでも一般人達が怨霊から離れるには十分な時間。
 女と一般人達の間にスティアが割り込む。彼女の周りには花弁が舞い踊っている。
 攻撃衝動を伴った怨霊の手が、彼女に向けて振り下ろす。散らそうとするも、一撃で破れるようなものではない。何度も手を叩きつけてくる怨霊。その間にも、一般人達と怨霊の間に距離が開いていく。
 スティアが引きつけてくれている間に、修也、リディア、ボディ、メリルナート、リンディスが待ち構える。操られている者達の視界には彼らの姿が入り、目論見通り向かってきた。四人の後ろで、チャロロが「こっちだぞ!」ともう一声叫んで注意を引きつけてくれている。おかげで、他の逃げ惑っている一般人達ではなくこちらへ、全員が来てくれる。
 自分達が誘い込まれている事にも気付かない一般人達五名。割合は男が四人、女が一人、だ。
「ひひひひひ……」
「気味の悪い声だな」
 近付く声に眉を顰める修也。「はい」とリディアが頷く。
「止めないとですわー」
 メリルナートの言葉に対し、ボディは箱を縦に揺らした。同意、という事らしい。
 操られている者達が近付いてくる。相対する五人の内、修也が一番に動いた。
 向かってくる一人の男へ狙いを定めると、構えをとる。それは自分から攻めるような形をしていない。見た印象を言うならば、今から踊るような構えに見えた。
 喧嘩の要領で拳を振りかぶる男。構えを解く事の無い修也。振り下ろされた拳に対し、くるりと踊ってその場をずれる。避けた事に対処しきれずよろめいた男の背中を、修也の手の平にて力強く上から押す。そのまま意識ごと落ちた男の背中に、ボディが座る。頭部は電子な箱で身体はマッチョな男のそれに乗られては、意識を取り戻しても動けないだろう。
 もう一人に対処する修也の近くでは、メリルナートもその手に氷の突剣を握り、構えていた。
 素手の男に対し、氷の剣をきらめかせて横に薙ぐ。その鋭さは死の痛みを思わせるほど。しかし、死ぬ事は決して無い一撃。
 その二人目はメリルナートの誘導によってボディのそばに落ちる。同じように意識を失ったその男をどうするか考えて、ボディは脇に抱える事にした。意識を取り戻した後に噛みつかれる事のない適切な距離の抱え方をしており、何とも器用だ。ボディの記憶では無く男の肉体の記憶によるものなのかもしれないが。
 そのままメリルナートと修也の活躍により、残りの三人も意識を落とされる。リンディスが人を運んでいくが、意識を失った人の体は重い。助けが必要になり、修也が手伝った。
 被害をこれ以上増やさぬ為、リディアの癒やしの術が発動する。恐怖を打ち払う為のものだが、特に何も無い一般人達であれば十分だったようで、その目に正気の色が宿る。赤子を抱いた女にもそれは効いた様子だが、怨霊を見るとまた恐怖を覚えたような顔になった。
 狂気のような雰囲気を失った人達の人数を確認し、リンディスが避難を促す。
 「誘導します」と、ボディが画面に文字を表示させ、スピーカーから文字に沿った声を出す。
 赤子を抱いた女には話を聞かねばならないから、誰かがそばに居なければならない。全員である程度離れ、女には自分達と行動を共にしてもらう、という事になった。
 いざ離れん、とした時、怨霊の攻撃対象が移り変わった。長い両手を修也達に向けて伸ばし、包み込むように左右から迫ってくる。
 チャロロが彼らを守る為、かばいに出る。二人までなら守れる彼の心意気が盾に反映されて、攻撃を防いだ。そのまま反撃として盾を振るが、大きなダメージを与えるには至らず。
 もう反対に対してはメリルナートが対応した。先に氷水晶のついた騎兵槍を振るい、怨霊の片手に対して応戦する。
 その間に、リンディスが、修也やリディア、ボディと共に移動を試みた。出来るだけ遠くへ避難するのだ。ボディが両脇に二人抱えた事で、移動はいくぶんか楽にはなった。
 攻撃対象が移り変わった事で、シラスやスティアがこちらへもう一度移り変えようと試みる。
 怨霊の意識をこちらに向けさせるべく、シラスが魔力を込めた弾を遠くから撃ち、スティアが足下より光を放つ。
 邪魔と感じたか、女の黒く淀んだ目が眼下のスティアへと移る。
 しばらくは二人が役割を分担しつつ怨霊と相対する事となり、その時間が終わったのは、ボディ達が戻ってきた時だ。彼らの傍らには、なんとか説き伏せてきたらしい赤子連れの女を連れている。
「お待たせしました!」
 画面の文字と共にスピーカーから流れる音声。
 多かれ少なかれ傷ついている二人に対し、リディアの力が癒やしとなって二人を回復させる。
 赤子を見た女の怨霊が、「返して……返して……!」と呻く。
「返せって何をだよ!」
 シラスの叫びはもっともだ。しかし、女は答えない。ただ一言を呟き、繰り返す。
 リディアが先程から考えていた推測で女性に問いかける。
「あの女の怨霊はあなたが抱いている赤ちゃんを『返して』と言っているようですが、事情をご存知なら詳しい話を訊かせていただけますか?」
 その問いに、女は激しく首を振った。
「知らない! あの女も赤子も死んだのよ! この子は私のよ! 私の子のはずなのよ!」
 目を開き、女はその場に立ったまま赤子を抱く。嫌よ嫌よと首を振る女は、半狂乱になっているようにも見えた。
 だが、女の様子ぶりからして、怨霊は彼女達を狙っている様子なのは確実だし、女の言葉の対象は赤子で間違いないように思えた。
 怨霊はなおも言い続ける。「返して」の言葉を。
 スティアは首を振って、落ち着いた声色で語りかける。残酷な真実を言の葉にして、怨霊へ向けた。
「残念だけど貴女はもう死んでいるの。だから赤ちゃんを渡すわけにいかないの」
 だが、その言葉は、凶と出た。
「あああああああああああああああああ!!!!」
 初めて女の声から「返して」以外の言葉が発された。
 無差別に振り回される腕。範囲内にあれば、建物だろうと構わずにその腕で破壊していく。まるで子供の癇癪のようだった。
「返して返して返して返して返してええええええええ!!!!! わたしのぉぉぉぉぉ赤ちゃああああぁぁぁぁん!!!!」
 ようやく得られた答え。だが、今は動きの激しくなった怨霊を討伐する事が大事。
 懐に飛び込んだチャロロが、まずは一発、その足に叩き入れる。盾にもなり得る程の大きさの剣が足を切り、怨霊の口から悲鳴が上がる。
 その体躯に、今度は氷の槍が突き刺さる。メリルナートが自身の血を使用して形成した槍だ。
 痛みに耐えかねて両手を交互にイレギュラーズへと振り下ろす怨霊。
 範囲の広いその両腕による攻撃に対し、防ぎきれなかった者が一、二名程現れる。それをリディアが癒やす事で打ち消していく。
 修也が全ての力を込めた一撃を放つ。それは怨霊の体を貫き、ダメージを与えた。
 チャロロと同じく、その足下にやってきたのはシラスだ。彼は拳に魔術を乗せて、一撃を与えるに至る。反撃としての腕の攻撃を防げず、リディアに癒やしてもらう事になったが。
 ツインストライクの光が空を走る。ボディによる攻撃は怨霊へと当たり、呻き声を上げさせた。
 スティアが周囲の気を浄化する。それは仲間に活力を与えるものへと変化していった。
 リンディスもまた癒やす力を仲間に与えていき、それは怨霊への一撃を増やすのに一役買った。
 怨霊が呻く度にダメージを与えていくのが分かる。
 赤子を抱いた女はその様子をただ立ち尽くして見ているしか出来なくて。
 腕の中の赤子は既に泣き疲れたか、眠っていた。
 この喧噪を知らないままにしたかったように。

●非情の現実、受容しがたき想いと罪
 怨霊が消えた後、後に残ったのはイレギュラーズと女と赤子であった。一般人の姿は見えず、遠くに避難しているようだ。
 未だに泣き止まぬ赤子の声は、何かを喪ったような泣き声にも聞こえた。
 修也が女に近付くと、彼女は赤子を胸に強く抱き寄せた。
「その子は……」
「私の子の筈なのよ!」
 最後まで言わせぬとばかりに言葉をかぶせる女。認めないと言わんばかりの言葉。
 チャロロが進み出て、女に進言する。
「あなたは罪を背負い続けることになるけど、その子を育てるために生きていかなきゃならないと思うよ。それがせめてもの償いかも……」
「罪って何よ! 私は何もしてないわ! 償いする事なんて何も無いわ!」
 喚く女の声は、自分を無理矢理納得させようとしているような、そんな風に聞こえた。
「違う、違うのよ……思い出せない……私の赤ちゃん……」
 ブツブツ呟く女は片手を頭にやって首を振る。混乱している様子の女へかける言葉を持ち合わせていたのはスティアで、彼女は落ち着いた声で話しかけた。
「責任を持って大事に育て……」
「いいえ」
 彼女の言葉を遮ったのは、リディア。
 ハーモニアの少女は、スティアに向けて首を横に振って見せる。
 彼女は考えていた。先の二人のように、赤子を育てる事は償いの一つかもしれないけれど、この場合、その選択肢は女にとって良いとはいえないのではないか、と。
 リディアが彼女に進言したのは、全く別のものであった。
「自首する事をお勧めします。ご自分がなさった事を理解できていれば、ですけど。それから、赤ちゃんは施設とかに入れる事をお勧めします」
 ざわつく中で、女の目は彼女を真っ直ぐに捉えていた。瞳孔が開き、唇がわなわなと震えている。
「なん……」
「あなたの想いはいつかこの子も殺すかもしれない」
 目を逸らさず、自分の考えを彼女に伝える。
 あの発狂ぶりの様子からして、彼女がこの先まともに赤子と向き合えるかどうか怪しい。ならば、離した方がお互いの為なのではないかと考えた。
 だからこその先の発言なのだが、唇を震わせた女はそれ以上反論をせず。
 急に立ち上がり、声の限りに叫んだ。
「あああああ、あああああああああ!! 赤ちゃん!! 赤ちゃん!! あの子は私のものよ!! 私の子よ!! この子は私のものじゃないのよ!!」
 意味不明な言葉を並べ立て、女は赤子を振りかぶった。
 咄嗟に反応したシラスは功労者と言って良い。女が放り投げた赤子をキャッチし、怪我をさせぬように赤子の頭と体を抱えて転がった。ボディが痛む体に鞭打って、彼と赤子を受け止めた。
 イレギュラーズ二人に襲いかかろうとした女を、修也が後ろから羽交い締めにする。女は力一杯抵抗しようとするが、男の力には敵わない。
 リンディスが彼女に近付き、自分が考え得る言葉を並べて語りかけた。
「生きている貴女は、……きちんと旦那様へ伝えて罪と向き合ってください」
 旦那、という言葉に反応したようで、女が少しだけ大人しくなった。
 とりあえず、自警団に引き渡そうという事になり、探そうとしたところ、向こうからやってきてくれた。避難していた人達から聞いたのだろう。
 女の状態と赤子の事、それから自分達の憶測を話し、出来れば引き離した方がいいという話も伝えた所で、慌てた様子で自警団へ声をかけてくる男が居た。
 男が言うには、この先にある川べりに見覚えのある靴と服の切れ端が見つかった。おそらくは今捕らえているこの女の夫では無いかという事。それから、夫はおそらく川に沈んでいるだろうという事だった。
 女の体から力が抜けた。膝をつく女からは現実を否定したい言葉が繰り返される。
 泣き叫ぶ女。
 赤子の声はまだ泣き続けていた。

 その後の処遇は自警団に任せる事にして場を離れる事になったイレギュラーズには、どこか後ろ髪を引かれる思いを残す事になったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆さんお疲れ様でした。
個人的に、こういうシリアス系はたまに書いてみたいものですね。

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