PandoraPartyProject

シナリオ詳細

キャンプ・ローレット

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シティ・ボーイじゃなかったの?
「キャンプしたい」
 特に夏場は外に出る事を嫌う『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)がそんな事を言い出したのは文字通り蒼天の霹靂の如く、突然の出来事だった。
「……インドア派じゃなかったっけ?」
 訝しくイレギュラーズが問うのも無理からぬ事だった。このレオンは筋金入りの怠け者なのである。少なくともイレギュラーズの知る近年の彼は積極的に外を出歩くようなタイプではなく、公私の分け隔てなく怠惰なのだからこの反応は当然の事である。
「いやー、何となくやりたくなって。最近割と涼しくなってきたし」
「確かに。びっくりする位秋の気配はハッキリしてきましたけどね」
「森とか湖とかいけばもっと涼しいかなって。
 練達製のエアコンにどっぷりだったもんだから、最近体力落ちてるしさぁ」
「……一応、伝説的な冒険者としての体面を保っていただきたいんですけどね」
 身も蓋も無い現実を告げるレオンにイレギュラーズは苦笑した。その辺りは何処まで本気か分からないが、レオンが珍しくアウトドア活動をしたいのは本気であるらしい。
「そんな訳で――めんどくせーからあんまり遠くはいかないけど。
 幻想近隣の森? なんか適当な所でキャンプをしようと思いまして。
 諸君等もそれに付き合いませんか、というお話です」
「……なんで俺達が?」
「交流を深め、明日の戦いに一致団結して挑む為かな」
 心にもなさそうな発言ではあるが、愉快そうなレオンは続ける。
「いいじゃん、たまには。非日常を愉しみ、綺麗所と一杯飲んで。
 嬉し恥ずかし何かイベントもあるかも知れないし――何より」
「何より」
「オマエ等、そう断らんでしょ」
「なんでそう思う」
「俺、今日が誕生日だしね――」

 ……成る程、大した自信家だ。

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 そういう訳でレオンの誕生日シナリオ。
 今年は何故かゆるキャンです。
 以下詳細。

●任務達成条件
・何となくいい感じに終わる事

●森
 幻想近郊の風光明媚な森。
 かなり開けた場所がありそこにキャンプを張ります。
 近くには湖と川のせせらぎがあり、夏は終わりましたがちょっとした水遊びも。
 大雑把にキャンプするには問題の無いロケーションです。

●パート
 朝、昼、晩の三パートを予定しています。
 最初のパートは朝です。出発、道中到着から設営、準備なんかに触れていきます。
 アウトドアに強い人はちょっと差をつけたり、弱い人は困ったりしましょう。
 その辺で現地調達を考えてもいいし、おひるごはんの支度をしてもよい。
 お友達同士で協力したり、その辺を散歩したり下見したりなんかいい感じに遊んで下さい。水遊びは昼のパート、夜のパートは何かお楽しみをやったりすると思います。
 別に複数のパートに参加しても構いません。

●レオン・ドナーツ・バルトロメイ
 ローレットのギルドマスター。
 不良中年。39歳になったそうな。
 お祝いしてもよいし、普通に遊んでいても良い。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 そんな訳で宜しければご参加下さいませませ。

  • キャンプ・ローレット完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年11月21日 18時03分
  • 章数3章
  • 総採用数84人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

●夜の時間
 赤々と燃えるキャンプファイヤーは子供染みた冒険心を刺激する特別製である。
 炎を囲み、ゆっくりとした時間を過ごす――
 満天の星を見上げ、何かを語らい、明日への活力を得る――
 炎を前に手を取って、冗談みたいに踊ってみても構わない。
 或いは特別な誰かと密かに集まりを抜け出して、夜のデートをしてみるのもいいだろう。
 ヤバ目なえうふが炎を見つめて涎を垂らしているけれど、そんな事はもうどうでもよくて。
 この章はほんのちょっとイイ感じに書いてサクっと物語を締めようかなあとか思うのだ。
「本当に煮詰まってますでしょう?」
 まあな。
「誰の誕生日だって話だもんねぇ」


 GMコメント

 キャンプにおける夜の時間です。
 キャンプファイヤー眺めたり、手持ち花火をしたり、夜の森をデートしてみたり、後なんか適当にいろいろしてみたりして下さい。
 出来そうな事はしても良いですが、書きにくい場合スルーしちゃうかも。

 宜しければご参加くださいませ。


第3章 第2節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
古木・文(p3p001262)
文具屋
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
ラトナ(p3p009163)
戦闘人形

●れおん
「ふっ、このアカツキ・アマギに点火から維持まで任せておくがよい!!
 ふへへ、焚火もよいがきちんと組んだキャンプファイヤーは最高じゃのう……
 大きく炎が揺らめく瞬間とか最高なのじゃ。燃えろ、燃えろ、燃え盛れ!
 こう、炎の艶めきが最高じゃ……うへへ、うへへへへへへ……!」
 炎の前で両腕を開き、妖しく瞳を輝かせるアカツキは「自分の事は置物とでも思うがいい」と告げていた。
 だが、世の中にこんな不穏な火の番は決して、決して多くない――
「オマエの親戚本当に難儀だよなあ」
「再会してから、何処と無く雰囲気が変わっていた気はしていたのですが……」
 しみじみ言ったレオンに伏し目がちのドラマは沈痛な顔をした。
 幻想種は炎を司るような種族ではない。あれはあくまでアカツキちゃんの問題である――
(……のは、実はどうでも良くて。
 はしゃいでいるのはあの子だけじゃありませんね。
 私もきっと――存外にうかれているのでしょう)
 興味深くアカツキを眺めるレオンの横顔にドラマはそっと視線を送った。
 野営の経験は幾度と無くあったけれど、キャンプを楽しむと言うのは始めてで、隣には間違いなく彼が居る。
 騒がしいのは決して嫌いではなくなっていて、それでも二人きりで言いたい言葉はあって。
「レオン君、後で少し時間――」
「――これは最高じゃ! 題して炎を見つめながらニヤニヤする会、じゃな!
 ほれほれ、あのパチっと弾ける瞬間が最高なのじゃ!
 夜の自然にそのまま溶け込んでいくような音……えへへ!!
 やはり炎は自然の中が一番じゃな……!!!」
 勇気を出した誘いの声はアカツキの面白いリアクションに阻まれていた。
 レオンはアカツキを面白おかしく煽っていて、ドラマは間違いなく面白く――まさにへの字の顔をした。
(う、うう。き、決めた事なのだけど、ちょっとやきもち……なのだわ!
 勿論キャンプファイヤーの間もレオンさんと……って、思ったけど!
 あまりにもずっと居ると、流石に迷惑ではないか心配で……
 レオンさんはそんなこと口には出さないとは思うけれど、心臓ももたないっていうか、ここは戦略的撤退なのだわというべきか……でも何か楽しそう!)
 ドラマはドラマで面白い顔をしているが、華蓮は華蓮で少し離れて彼を見て、やっぱり面白い顔をしている。
 赤くなったり青くなったり忙しいのはきっと乙女の特権で、愛らしい彼女に気付いたレオンは「楽しんでる?」とひらひら手を振ってアイコンタクト等を入れてくる。
「――――!」
 ふいうちは、しんぞうに、わるいのだわ。
 乙女達の『その後』がどうなったかはここでは語らない事として――
「……さて。不良中年さん、相変わらずモテモテみたいだけど。
 珍しく一日外に出て健康的な生活をしてみた気持ちはどう?」
「懐かしい、って所かもね」
「そういえば、レオン君は『昔は』冒険者だったものねぇ」
 揺らめく炎に照らされたアーリアの美貌はほろ酔いを帯びていた。
「キャンプファイヤーと言えばこれじゃない?」と微笑んだ彼女の手渡した銅のマグには強めのウィスキーが注がれていた。
「疲れてたら膝枕でもしてあげましょうか?」
「サービスいいね」
「――この膝は先約がいるから――だぁめ!」
 伸びたレオンの手をすげなくかわしてアーリアは笑った。
『お仕置き』の事は思い出したくないから、その代わりに何となく思い出を口にした。
「お誕生日祝いに、イイ女の秘密を一つだけ教えてあげましょ。
 ……私のね。叶わなかった初恋の人、今のレオンくんと同い年くらいだったのよねぇ。
 お酒が好きで、私にはまだ早いって言いながら楽しそうで……
 いつか大人の女になって、一緒に飲んでみたかった人。
 だからかしらねぇ、こうして貴方と下らないこと話して飲むの、結構好きなのよ――」
「ギルド、えらい、人、誕生、日、知った。祝う。
 誕生、日、おめで、とう。大人、誕生、日、お酒、飲む、知ってる、から、どうぞ」
 付かず離れず何とも言えない『距離』を見事に演出する『火遊び』の一方で、レオンに一杯を差し出したのはラトナの方も同じだった。何とも鈍い情緒だが、勉強がてらに今日を学習したラトナはじっと彼を見つめていた。
「……ん?」
 ラトナが一緒に手渡したのは白紙の地図だ。今年の抱負を問い、この先を問う。
 ギルドの目標や指針を与えられるのは命令を欲しがるラトナにとってとても嬉しい事だ。
「ん~……はぁー……良く寝た……
 さて、夜は私の時間……元からこのために来たわけだし……」
 希の口にした『目的』は野営の番である。
 成る程、炎を車座で囲うこのワン・シーンは冒険小説めいてもいる。
 ……赤々と燃えるキャンプファイヤーはまさに子供染みた浪漫を刺激する特別製であった。
「おかしいわね、がっつりキャンプ料理したはずなのに。
 妙にお腹が減ってるわね……」
 セリアのそりゃあ夢の中の出来事だから、と言うなかれ。
 実際問題、今夜に参加する者の多くは既に大人で――儀礼めいたキャンプファイヤーはまさに冒険の真似事に過ぎなくはあるのだが。それはそれとして紆余曲折にバラエティーこそあれど、気心の知れた連中と一日を遊び倒せば、最後位はゆっくりとした時間に身を浸すのも悪いものではないだろう。
(私、だってね……)
 エルはじっと焚火を見つめて今日の事を、これまでの事を、これからの事を考えていた。
 一人で空回りをしてる感じがしなかったかとか。
 過ぎた事も含めその時どうすれば良かったのかとか。
 レオンや情報屋の方と仕事の事以外で話せる様になれたらいいな、とか。
「何だい、ボーっとして」
「ボーっとしたい時もあるものなのです」
「そう?」と肩を竦めたレオンにエルは一つ頷いた。
 少なくとも一言を話せたが、功夫というものは一朝一夕にはいかないものだ――
「……こういう景色、ボクの世界にもよくあったかも。レオンは違う世界に行ったりしたい?」
 ジャムを一匙入れた甘い紅茶をふうふうと吹きながらハルアが問うた。
「いいや」と応えて夜の時間を過ごすレオンの表情は何時もと何も変わらなかった。
「『混沌の夢も、人生の目標も叶っちゃいないのに。他所まで背負い込む余裕はねぇよ』」
 小首を傾げたハルアはやや自嘲気味にも感じられたその言葉に納得がいなかった。
 彼は自分自身を『バグ』と呼ぶ。特異運命座標は違うと笑う。でも、彼女はそれをそうと思わない。
「……レオンってやっぱりすごいよ。
 神様や悪魔、なんでもござれのイレギュラーズをまとめてる。
 ボク達が特異な運命座標ならレオンはこの世界に絶対いて欲しい座ひょ……
 ……あいた、かんじゃった。えへへ、座標なんだよ。
 だからレオンもしっかりレオンのお祝いして、何時も自分を好きでいてね」
「結構な自信家の心算だけどね」とレオンは一つウィンクをした。
 まぁ、自分で言う通り――『自分を余程いい男だと思っていなければ出ないような行動』である。
 ハルアの柔らかい髪の毛を実に無作為かつ無遠慮にふわふわと弄る彼は通常営業の風であった。
「レオン様、誕生日おめでとうございます。
 これからのレオン様に、多くの幸があらんことを――いや、あるみたいですね。失礼しました!」
「いつも裏で支えてくれるのは有難いが、余り無理はしないでくれ。それから――体を動かすの大事だぞ」
『可愛い女の子を弄ること』をこよなく愛するレオン、「ほえ?」と目を丸くするハルア、変な方向で物分かりのいいリゲル、ほのぼのとしたポテトの組み合わせは冗談のように牧歌的である。
「っと、疲れてはいないかい?」
「ん、有難う。夜になると冷えるけど、炎と、リゲルのお陰であったかい……」
「今年もあと僅かとは早いものだ、色々あったと思うけど――」
「――何があっても、これからもずっと。私はリゲルと一緒に居たいぞ」
 生真面目に折り目正しく。
 彼に似合いのシャトー・ラトゥールを片手に改めて祝意を告げにきたリゲル、林檎のケーキを焼いたポテト。
 即ちこのアークライト夫妻は冷たさを増してきた夜気にも実にお熱い次第である。
「レオン・ドナーツ・バルトロメイ! クソ男、よーやく見つけた! 散々! 一日中探したのよ!」
「あ、性躰降臨だ」
「おかしな名で呼ぶんじゃない!」
 そんな一方で新たに現れたリアはどうもレオンを一日探していたらしかった。
「ホントに、もう。いきなりどうして森に居る訳!
 あんたの性格からして予想外過ぎて『無い』でしょ、こんなの!
 あんたって旋律追って探しても、元々全然捕まらないし――」
 ぶつくさと文句を言うリアは「俺と踊りたかったの?」という返しを「ある訳ねぇわ」と一蹴する。
「今日あたしが来たのは何時も逃げてばかりのあんたにこの間のリベンジをしたかったのと――その」
 その。
「……ええと、何だ。その、何て言うか、ええと! ほら、これあげる!
 クッキー、子供達と焼いたのよ。誕生日だっていうし、一応世話になってなくもないし……
 お誕生日、おめでとうございます! いえーいどんどんぱふぱふ! 完! 終わり!」
 好き放題に自己完結したリアにレオンは一言。
「ツンデレか」
 アーリアはくすくすと笑う「可愛いわねえ」。

●おぜうさま
「へくちっ!」
 キャンプ場に可愛らしいくしゃみの音が響いていた。
「あら、お可愛らしいこと」
「……う、うう……この季節に川は流石にはしゃぎ過ぎたでしょうか。
 お嬢様、お体等冷えておりませんか?」
 本当は二人きりで夜の森のデートにでも誘いたいのは山々だったが、どうせ放ってはおかれない。
 口惜しくもせめてずっと隣に居ようと。何とも健気な顔を見せるレジーナがコロコロと笑ったリーゼロッテを少しだけ恨めしく見つめていた。
 昼は気温が高かったが、夜の森はぐっと冷える。
 レジーナの可愛らしいくしゃみはさて置いて、炎にあたって『丁度いい』。
「ああ、では。こちらをどうぞ。キャンプ場の夜は冷えますので」
「あら、気が利きますのね。昼間とどめをさしたと思ったのに」
「はっはっは、地獄の沙汰も何とやら。世の中には交渉で三途の川を戻してくれるビジネスライクな鬼もいるものです」
 リーゼロッテは憎まれ口を叩きながら、自身の肩にブランケットをかけた寛治に微笑んでいる。
 一方のレジーナは「この眼鏡!?」みたいな面白い顔を見せていた。
 気心の知れた連中と過ごす夜の時間はリーゼロッテにとっても上機嫌なものである。
「温かい飲み物もご用意しましたよ。
 ワインにラムとスパイスを混ぜて煮立てた、グリューワインというヤツです。
 シャイネンナハトにはまだ早いですが、暖を取るにはもってこいでしょう?」
「節操がありませんのね」
「いいんですよ、キャンプですから。
 初心者のお嬢様にお教えするなら、各々持ち寄ったモノで生まれるカオスを楽しむ。そういうものです」
「生意気」と唇を尖らせたリーゼロッテはしかしながら、
「焚火には焼きマシュマロがいいと聞きました! それにこの星空の下、折角来たキャンプです。
 今年の夏はそう言えば花火見てないのではないじゃないですか?」
 頑張って対抗して可愛らしい誘いを見せるレジーナにも満足そうだった。
「レジーナさん」
「……?」
 呼びかけに耳を寄せれば、
「『レナさん』。花火は後でふたりでやりましょうね」
「――――」
 擽るのは甘い薔薇の毒香。
 炎を中心にめいめいの時間を過ごす時間は素晴らしい。
 ついでで誕生日を処理された感は否めないが、これは決して彼女にとっても悪い話ではないのだから――
「ふぇ……っくち! えへへ、夜だから流石に身体が冷えてきたみたい!」
 少し肌寒くなった時間にぶるっと震えたタイムだが、こちらも炎の雰囲気と特別感は十分に楽しんでいるようだ。
「野外特有 風を直に感じるとか――心地よい暖かさと肌寒さもキャンプって感じ。
 ……で、マシュマロ貰ったよ 焚き火で焼くと美味しいらしい」
「わぁ、マシュマロ? うん、たべるたべる!」
 屈託なく笑顔を見せたタイムに夏子は「うーん」と自問した。
(焚き火明かりに美少女。
 やっぱ今日一日ずっと不思議なんだけど 俺に何が起こっているんでしょう!?)
「夏子さんは寒くない? 良かったら入る?」
「――――」
 肩にかけたブランケットをめくってタイムが手招きすれば夏子は更に何が何だか分からない。
 世の中ってこんなに自分に都合が良かったっけ?
「いやはや今日一日如何なることかと思ったけれど、何だかんだと楽しめて。
 良い感じに一日が終われば、それで十分と。まったく面白い話には事欠かない訳だしね――」
 あちらこちらで花咲く『愉快』を小耳に挟めば文の表情も自然と緩んだ。
「……グルルルッ!」
「おや、そちらも同じ意見のようだ」
 炎の明かりを跳ね返す闇に浮かんだ巨体は唸りを上げるアルペストゥスのものだった。
 頂点捕食者たる彼に正確に人の機微が分かっているかは果たして知れぬ。されど彼は夜を見上げて、じわりと伝わる熱を感じながら――仲間達が和やかに過ごすのを見るのは嫌いではなかった。
 見知った人の声を聴き、うとうとと微睡むのはどうしてこんなに心地良いのか――
(火の側でぬくぬく……
 ああ、たくさん食べてお腹いっぱい、眠たい。ここは強いやつばっかだし、野ドラゴンが出ない限り大丈夫だだし。あ、でもあそこにドラゴンいるようなこれは大丈夫なのか?
 か弱い鳥さんは別に焼いても旨くないぞ――)
 微睡むカイトは閑話休題。
『愉快』な一幕はまだ終わらない。
「キャンプファイアーだー!
 火を囲って歌って踊るのとか楽しそう!
 せっかくだから一緒に踊る人……リーゼロッテとかめちゃめちゃダンス上手そう!
 ねーねー、一緒に踊らない? きっと楽しいよ!」
 寛治をあしらっていたリーゼロッテがセララの呼びかけに目を丸くした。
 当然ながら社交界の(壁の)花である彼女が嗜むのは完璧なる社交ダンスの類である。炎を中心に輪になって踊るような姿が似合う筈は無いのだが、セララの大きな瞳は期待で星のように輝いている。
「いいではありませんか、たまには。私も付き合いますよ」
「……っ、く。この眼鏡、こういう時だけ!」
 リーゼロッテは悪態を吐いたが実は満更でもないのか、セララの呼びかけに応じる心算のようだった。
 宴のような時間が過ぎていく。
 強い感情は踊り、悲喜さえもやはりこもごもで。
「ごきげんようリーゼロッテ嬢。
 最愛のユーリエが豊穣の地にて捕まってしまって――気が気じゃない日々からやっと戻ってこれたのです」
 リーゼロッテの柳眉が歪んだのはエリザベートがそれを口にした時だった。
「間に合ってよかったです! 豊穣から急いで駆けつけました!」。
 そう言ったルル家を首に抱き着かせたまま、リーゼロッテの空気が一瞬でぐっと冷えていた。
「……………」
「あ、あの!? エリザベート殿!!!」
「……あ」
「やっちまった」とばかりに諸々口を滑らせたエリザベートはルル家が『どうしても隠しておきたかった豊穣事件での粗相』をリーゼロッテに告げていた。以前海洋王国大号令で無理をした時、「次やったら剥製にする」と通告されていたルル家は押し黙ったリーゼロッテに恐怖する。
「あ、あの、リズ、ちゃん……」
 誕生日プレゼントを用意できなかったのも、バタバタしていたのも全部、そのせい。

 ――えぇ、豊穣では全く何もなく平和なものでして拙者もちょっと一身上の都合によりこっちに来るのが遅くなったので全然全く危険な事は何一つなくてパラダイス銀河って感じでしたよ! はい!

 先程の白々しい弁明もすべてうそ。
「……」
「……………」
「……あの……」
 ルル家を抱き着かせたまま、リーゼロッテは不意に小さく呼気を零した。
「ばか。心配ばかりさせて」
 小さな身体と薔薇の香りがやんわりとルル家を包み込む。
「リズちゃん……その、ごめんなさい」
 ごく自然に零れた謝罪の言葉はルル家の心からの本音だった。
 あと。
「リズちゃん! 痛いです! 締め付けてます! それは暗殺令嬢的なアイアンメイデンです!」
「……」
「た、たすけて!!! 遮那君!!!」
「ギリギリギリ!」
 馬鹿力で締め上げられた悲鳴の方も本物だった!

●流星
 ――折角だから一緒に空中散歩なんて如何ですこと?

 その言葉はマリアにとって最高の誘いになった。
 冷たい十一月の夜気を切り裂いて、マリアとヴァレーリヤ二人は空の散歩を洒落込む。
「ふふー、持ってきた甲斐がありましたわね!」
「……うん! 流石ヴァリューシャだ! とっても綺麗だよ!」
 澄み切った星の瞬く空を手を繋いで行く。
「あ! 見て! 星があんなに綺麗!」
 その手に届きそうな程の――零れ落ちそうな星の代わりに小さなその手を、体温をぎゅっと握る。
「まるで宝石みたいだね……君の翡翠も星に負けないくらい綺麗だと思うけれど!」
「そんな風に言われたの初めてですわ」と少しはにかむ顔をしたヴァレーリヤにマリアは微笑む。
 手の中の温もりは何と愛しい事だろう。
 共に過ごす時間はどれだけ価値があると言えるだろうか――
 マリアは知っている。ヴァレーリヤがどれ程面白おかしい行動をとったとて、彼女の『本当』を知っている。
 些か盲目的で見るべきもん見てねぇ気もするが、確かに『たいせつなこと』を知っていた。
「ゼシュテルの空も嫌いではないけれど、こういうのも新鮮で良いですわね――って、きゃあ!」
 吹き付けた風に目を細めたヴァレーリヤが不意にバランスを崩しかけた。
 やたらな程に女の子らしい悲鳴を上げた彼女の腰をマリアの片手が抱いていた。
「そそっかしいな、ヴァリューシャは」
「……あら、それなら」
 間近に近付いたマリアの顔にヴァレーリヤは最高の笑顔を見せた。
「それなら、エスコートして頂けますこと?
 ……なんて。こうしていると、物語のお姫様にでもなった気分ですけれど――」

 星空の一ページ、今夜の彼女はきっと虹とも縁遠い――

成否

成功

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