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シナリオ詳細

<傾月の京>ひずみのその

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 耿々たる正圓の月が雲へと隠れ。
 こほろぎ共の喧しい唄陰に、きりきりと弦引く音色は聞こえたか。

 流れた刻は、瞬き一つ分。
 再び姿を見せた満月はひとすじの糸を煌めかせ――釣り上げられた祝部の男が己が首をかきむしる。
 声も出せぬまま、顔はみるみるどす黒く染まり、男はそのまま目を剥いてうな垂れた。
「なにごとか!? 不届き者よ! ここを何と心得る! つづり様どうか、危――」
 己が身を盾とするように両腕を広げた狩衣の獄人は、言葉を終えることが出来なかった。
 目を見開き、幾度か咳き込む。
 黒い液体を胸元に飛び散らせ、どうと倒れた大きな背には幾本もの苦無が咲いているではないか。

 ――襲撃である。
 仕掛けたのは七扇直轄部隊『冥』と見える。
 この国(神威神楽)が統治機構『七扇』の隠密であった。
「な、ぜ……」
 獄人が零した今際の疑問に、答える声はない。
 つづりは震えながら胸元で拳を握りしめ、数歩だけ後ずさった。
「……ミナカタ、サイトウ……どうして。へんじを、して。目を、あけて」

 この『此岸の辺』は、黄泉津に存在する穢れの地とされている。
 かつてこの地の神使(イレギュラーズ)が召喚される場所でもあり、滅海竜が眠りローレットのイレギュラーズが到達してからは混沌大地との縁が紡がれ、彼等の転送拠点としても活用されてきた。
 この社は此岸の辺中心部を守る地であり、また『穢れの巫女』つづりの寝泊まりする場所でもある。
 ともかく神域を襲撃するとは、尋常の沙汰ではない。
 そして襲撃者は、人だけではなかった。
「このままでは妖避けの結界が持ちませぬ!」
 紫電弾ける結界は神域を守護するために張り巡らされたものだ。
 矮小な魑魅魍魎程度ならば触れるだけで焼き尽くすほどの力がある筈だが、燃えさかる牛の化物は両手でこじ開けようとしているではないか。
 結界の隙間から、怪物が唾液塗れの牙を剥き出して頭を捻じ込む。
 二人の陰陽師は直ちに九字を切った。
 衝術を受けた牛頭の怪物が跳ね飛ばされる。
 結界の亀裂が徐々に修復されかけた、その時。視界を横切る黒い影に陰陽師達の首が滑り落ちた。
「神は鬼を殺し、鬼は死して神を弑す」

 ――あな、懐かしきや此の社。

 それは不吉の権化であった。
「転輪が生ける者すべてを轢き潰したとき、そのときは……ふふ」
 鼓膜を嬲る声音は、漆黒の淀みであった。
 それは不浄、汚泥、穢れを纏う、妖であった。
 狩衣雑面に身を隠した、怪物そのものであった。
「この程度の結界に、何をまごついているでありますか」
 手をかけた刹那、社を守護していた結界が砕け散る。
「あまねく万物を塗りつぶす。
 神も鬼も相互いに殺し合い、全てを平らとして進ぜよう。
 生者は必衰にして必滅。なればそれこそが森羅万象の法理――『平等』にありましょう」
 虎のような魔物が駆け抜け、陰陽師の喉笛を噛みちぎる。
 狐のような魔物が鳥居に火を放つ。

 尻餅をついたつづりの眼前を小さな影が覆い――


「もー! どうすんのよこれ!」
 魔物を斬り捨てた『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)ことリーヌシュカが不機嫌な猫のように唸りを上げた。
「なにぼさっとしてんのよ!」
 リーヌシュカはすぐさまつづりの手をひき、己が背の後ろへと庇う。
 飛びかかってきた妖に蹴りを見舞い、軍刀を突き込んだ。
 一行は、社を背につづりを守っている。
 徐々に燃え広がりつつある火の手が、一行の頬を赤々と染めていた。
「これは神使殿、お初に。己は忌拿家・卑踏と申します。よろしくお願い申し上げる」
 奥に立つ雑面狩衣の化物――卑踏が腰を折る。斯様な狼藉がご挨拶とは、慇懃無礼にも程がある!

 ――新天地『カムイグラ』は、絶望を静寂へ塗り替えた海の果てにある、神と鬼の国だ。
 その国家中枢には魔種が潜んでいると知れている。
 都に蔓延する呪詛事件を解決する中で『けがれの巫女』つづりは、一際強大な呪詛の発生を感知した。
「悍ましい魔の気配」と彼女が告げるその場所は高天宮の内裏、巫女姫が御座すその場所だ。
 大呪詛の発動を許したならば――予想される被害は考えたくもない。
 震える声で告げたつづりの言葉に従い、イレギュラーズ達は宮中へ進撃の準備を整え――
 そしてこの襲撃があったと云う訳だった。

 襲撃された理由は、ここが『此岸ノ辺』――より正確には付随するいくつかの社のうちの一つ――だからであろう。
 此岸ノ辺はローレットと空中神殿を繋ぐ、イレギュラーズの重要な拠点である。
 不幸中の幸いは、だからこそイレギュラーズが居たことだ。
 居合わせたリーヌシュカの立場は、あくまで鉄帝国から派遣された海洋王国所属船舶の護衛である。
 そも彼女自身はイレギュラーズではないが、訓練に遊びにと何かとイレギュラーズにまとわりついているから、これも良かっただろう。彼女はとてつもなく協力的であり、戦力が多いに越したことはない。
 襲撃者は『冥』と呼ばれる特殊部隊と妖(ばけもの)。そして結界を破壊した雑面の者である。
 冥はこの国で太政大臣を務める天香長胤の手先であり、妖と行動を共にするとはおかしな話ではある。だがイレギュラーズにとって長胤が魔種であろうことは分かっており、ならば頷ける話でもあった。
 いずれにせよ天香長胤が魔種である以上、決裂と全面対決は時間の問題であったのだ。
 雑面の者の正体は知れぬが、漂う気配から人ならざる邪悪だと断言出来よう。
 それに先程、あの者は何と云ったか。
 ――世の全てを挽きつぶすことこそ、平等であると聞こえたか。

 だが何はともあれ、イレギュラーズは目の前の事態を解決せねばならない。
 相手の目的はおそらく、此岸ノ辺の制圧か、つづりの身柄を確保すること。あるいはその両方であろう。
 此岸ノ辺の制圧を許せば、イレギュラーズが移動する為に、あの大海を越えねばならなくなる。
 そんなことをさせる訳にはいかない。
 イレギュラーズ一行は得物を抜き放ち、じりじりと包囲を狭めつつある敵陣を睨み付けている。

 ――そんな時だった。

「つづり、こっちへ来て」
 闇に乗った少女がくすくすと嗤う。
「……そそぎ、どうして」
 纏う気配は――魔。
「私達に穢れを押しつけるこの国を……私は赦さない。ね、つづり」
「……だめ、そそぎ。それは、魔だから」
「私達が一緒にめちゃくちゃにしてやるの、其れを見て嗤ってやるの、私が、私達が」
「……そそぎ、だめ」
「だめじゃない。そうされてきた私達には、その権利がある」

 そそぎの笑みは憎悪に歪んでいる。
 彼女はきっと、この国も、イレギュラーズも、好いてはいない。
 つづり以外の全てが気に入らない。ただの純粋に憎む。そんな笑みだ。

 この国は獄人を虐げ、支配して安寧を保ってきたと云う。
 そんな事情を。
「――私は赦さない」
 乾いた音がする。
 そそぎの宣言に、雑面の男が両の手のひらを打ち鳴らしている。
「それでこそ『当代の』巫女殿。
 世に平を。生きとし生ける総ゆるに不変の理を。
 公正な、正当な、厳粛なる平等を――己は其れを導く者であります」
 その言葉の欠片だけならば、或いは正しい事を述べているのかもしれない。
 しかし強烈な違和感は何であるのか。
 そもあの邪悪と。あんな濃密な魔の気配と、なぜそそぎは行動を共にしているのか。
「獄人として生を受けるだけで決められる定めなんて。
 穢れを、この苦しみを私達に押しつけて得た安寧なんて。
 頭が痛い。すごく痛い。苦しい。苦しいの! もう、嫌! 嫌なの!!」

 そそぎの身体から禍々しい力があふれ出す。
 それはこの国が纏う大いなる穢れそのものであるかのようで――
「――!?」
 つづりは、はたと気付いた。
 何時の日からか穢れが、己が身を苛む苦痛がなかったと。
 心の奥底で、その理由は神使(イレギュラーズ)を受け入れ、共にありはじめたからだと考えていたけれど。それは一面の正しさを示していたのだろうけれど。
 きっとそれだけではないのだと、たったいま気付いてしまった。
「……そそぎ」
 おそらく穢れを一身に背負っていたのだ。
 そそぎが、つづりのために。
 身を苛む痛みから、苦しみから、つづりを救わんとする為だけに。
 二人で分け合っていると思っていたものを、その実すべて、根こそぎを。
 そそぎは一人で背負ってしまったのか。
 つづりは思う。己はいつしか、双子であるそそぎ一人を犠牲にして、安穏としていたのかと。
 無論そんな自身など許せようはずがない。
「なんで、そそぎ!」
 普段のつづりからは想像出来ないほどの声音で叫んだ。
 つづりは、頭の考えをそのまま口に出すことが出来ぬ性分である。
 控えめと云えば聞こえが良いが、どうしても舌を滑ってくれないのである。
 言葉の始めを述べる度につっかえ、恥じ、緊張し、生唾を飲み込み、ゆっくりと深呼吸し、静かに言葉を選び、出来うる限り簡単に話してきたのだ。
 だが、しかしそれでも。
 つづりは目一杯、不躾に、無作法に、無遠慮に叫んだ。
「どうして、そそぎ! そそぎ!!」

 共にこの国の穢れを背負い。
 共にヤオヨロズ達から蔑まれ。
 共に心と身体を蝕む苦痛から耐え。
 共に双子の巫女というだけで忌まれ。
 寒くても暑くても一緒に寝た、そそぎ。
 拗ねていてもほっぺが柔らかい、そそぎ。
 たまに風邪を引いては一緒に寝込んだ、そそぎ。
 落ち込んでいると、お饅頭をはんぶんくれる、そそぎ。
 夕膳の果物を後で食べようとこっそり残しておくと、時々勝手に食べてしまう、そそぎ。
 温かくて、いじっぱりで、人見知りで、お寝坊さんで、好き嫌いが多くて、寂しがりの、そそぎ。

 いつでもずっと一緒にいられた、唯一無二の――妹(そそぎ)。

 なのになぜ、そそぎは魔の気配を――肉腫のような気配を纏っているのか。
 誰にそそのかされて、誰にその外法を授かり、誰がために己が身を蝕んだのか。

 ――滅べ、滅べ、滅べ滅べ滅べ滅べ!
   神も、鬼も、帝も、晴明も、神使も、天香も!

   みんな滅べ!!

「だめ、そそぎ! それは、その道は、堕ちたら引き返せない――魔道!」
 喉が切れそうなほど叫び、とびだそうとしたつづりを、リーヌシュカが押さえつける。
「やめなさいよ! お姫様は後ろで温和しくしてなさいったら!」
 一行の眼前で宙に浮かぶそそぎは、漂う闇に腰掛けたまま、幾度か咳き込みつづりを指さした。
「つづり。いま、連れて行くから。ぜったいに、そんなところから――」
 ――救い出す。
 秋風に溶け消えた最後の呟きは、皮肉に過ぎる。
 救われねばならないのは、救って欲しそうなのは、そそぎではないのか。

 数匹の妖が円を描くように、じりじりと迫っている。
 社務所に火が回り込み始めた。
 つづりとそそぎ、二人の背丈を刻んでいった柱を、炎がちろちろと舐めている。
 その上には二人が暮らしていた部屋がある筈で、このままでは夜明けを待たずに全焼は免れない。
 火風に煽られ、百人一首の札が舞った。
 部屋には字の練習をした書もあるのだろう。
 ままごとの道具も、歌を読み合った文も、お揃いのお守りもあるに違いない。
 色違いの着物も、時に奪い合った髪留めも、互いに選び合った腕飾りが入った小箱も。
 押し花も、おはじきも、折り鶴も、歪な焼き物も、煤けたお手玉も、人形も、羽子板も。
 ついこの間、夏の終わりにそそぎが姿を消す前の晩まで、一緒に寝ていた布団だってある。
 二人の過去も想い出も、今正に妖が全て焼き尽くさんとして尚――

「つづりだけが、いればいい。
 私にはつづりが、つづりだけが側に居てくれればいい。
 サイトウなんて知らない。ミナカタなんてどうでもいい。
 セイメイだっていらない。帝も神使もみんな死んじゃえばいい。
 つづりの他になにもいらない。全部滅べばいい。全部、全部、全部――!」

 ――忌むべき穢れの巫女なんて、私だけでいい。
   つづりが好き。
   つづりは幸せで居て。苦しまないで。
   痛いのも、苦しいのも、全部もらうから。
   だから、ずっとそばにいて。金輪際。未来永劫。撫でて、慰めて、抱きしめて。
   ずっと、ずっと、ずーっと……私を愛して。そうしてくれたら、ずっと頑張れるから。

「そんなのは、だめ、そそぎ!」

 ――そそぎが好き。
   ずっと一緒にいたい。一緒だから頑張れるから。
   痛いのなんてどうでもいい。苦しいのなんてへっちゃら。
   痛いのも苦しいのも、そそぎが嫌なら、つらいなら、私だけにして。
   だってそそぎが居るから。だってそそぎがずっと一緒に居てくれたから。
   だからそれは、駄目。それだけは駄目。そそぎだけが背負うなんて赦さない。絶対に。

 敵は多いが、どうにか撃退しなければ。
 リーヌシュカと目配せし、頷き合う。
「みんなと私が、全部なんとかするんだから! そうでしょ? イレギュラーズ!」
 云われずとも是非は無し!

GMコメント

 pipiです。
 長いOPの確認を、お疲れ様です……。
 必要な情報はこっちに書きましたので、許して下さい。
 カムイグラも大変なことになってきました。
 いっちょ気合い入れて頑張ってみましょう。

●目的
 拠点防衛です。
 つづりを守り、敵を撃退しましょう。
 これが依頼成功の必須条件であり、難易度は見ての通り『HARD』です。
 
 努力目標として、神社の生存者を助けたいものです。
 そして敵は、あわよくば捕えましょう。
 あとは結界の修繕と、火の消し止めです。
 戦闘終了時にモブ生存者がいれば、そこはどうにかなるかもしれません。
 その上で、そそぎまで捕まえるのは……最善でしょうが相当に難しいかもしれません。

●ロケーション
 此岸の辺に付随する神社のような所です。
 神社にありそうなものが大体あります。
 あたりは広く、また満月が明るいので、足場や視界は心配いりません。

 プレイングに特に何も記載しない場合は、皆さんは本殿を背にして敵に包囲されています。
 つづりやリーヌシュカも一緒です。
 まずはこのまま戦うことになるでしょう。
 神社内の別の場所に居ても構いません。その場合はプレイングに明記して下さい。

 徐々に火が燃え広がりつつあります。
 1Tが10秒である戦闘中に全焼するとは思えませんが、社務所は保って数刻。時間の問題です。

●敵
『《転輪穢奴》忌拿家・卑踏』×1
 能力は謎に包まれていますが、少なくとも低レベルの陰陽師二名を瞬殺しています。
 こんなん名前や見た目からしてボス敵じゃん。
 纏う気配は不浄、汚泥、穢れ。
 最奥に控えており、遠距離戦闘能力を保有しているのは確かそうです。
 妖を指揮しているようです。

 以前どこかで見たり聞いたりしたことがある方もいるかも……。
 https://rev1.reversion.jp/page/kamuigura_11

『そそぎ』
 此岸ノ辺の巫女さんです。つづりの双子の妹。
 なんか邪悪なエネルギーを纏って浮遊しています。
 能力は謎に包まれていますが、少なくとも弱くはない筈です。
 つづりを浚おうとしているようです。
 元々あまり素直な態度ではありませんが、かなり様子がおかしく正気とは思えません。
 もしかしたら(複製か純正かは不明ですが)肉腫では?
 おそらく卑踏の旗下にあるのでしょう。

『冥』
 精霊種(ヤオヨロズ)の精強でバランスの良い部隊です。
 それなりに精鋭であるため、割とそこそこ強いです。
 卑踏と連携する意図が垣間見えます。連中は間違いなく仲間同士です。

・近接型×8
 刀を持っており、積極的に近接戦闘を挑んで来ます。
 中~遠距離では鋼糸や投擲型の暗器も使用するようです。
 バランスの良いトータルファイターです。
 保有BSは致命、流血、猛毒、足止め、必殺

・遠距離型×4
 投擲型の暗器を多数もっており、遠距離から集中攻撃を仕掛けてきます。
 高命中、高威力のアタッカーです。
 接近した場合には、暗器を駆使した格闘戦も行います。
 保有BSは必殺

・支援型×4
 呪符や巻物などを使用し、遠距離から攻撃と支援を行います。
 接近した場合には、体術を駆使した格闘戦も行います。
 保有BSは業炎、痺れ、ショック、呪殺

『あやかし』×15
 獰猛な獣のような姿のあやかしです。
 強くはありませんが、中々にタフで俊敏なようです。
 また攻撃力も侮れないでしょう。
 保有BSは毒、出血、火炎

●味方
『つづり』
 此岸ノ辺の巫女さんです。そそぎの双子の姉。
 イレギュラーズと幾度か交流し、好感を持っています。
 戦う力はありませんが、みなさんの言う事は良く聞きます。
 かなり言葉足らずな性格ですが、皆さんは書かれている諸々の事情などを察してOKです。

『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ
 愛称はリーヌシュカ(p3n000124)
 皆さんと一緒に行動します。
 勝手に皆さんと連携して戦闘しますが、やらせたいことがあれば聞いてくれます。
 必要分の他は、プレイングで触れられた程度にしか描写しません。
 ステータスは満遍なく高め。若干のファンブルが玉に瑕。
・格闘、ノーギルティー、リーガルブレイド
・セイバーストーム(A):物近域、識、流血

『社の人達』×数名
 4~5人ほど居ると思われます。
 いくらかの神秘スキルを保有していますが、戦闘能力は低いです。
 皆さんを強く信頼しており、非常に協力的です。
 残念ながら皆さんと一緒ではなく、神社のあちこちにぽつぽつと居ます……。

●ミナカタとサイトウと陰陽師達
 過去一度も登場していませんが、いいやつだったよな!

●結界の修繕と、火の消し止め
 なんやかんやあれこれすれば、どうにかできるかも。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●諸注意
 当シナリオでは依頼の成否、もしくは此岸ノ辺へのダメージによって、此岸ノ辺に様々な影響が出る場合があります。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>ひずみのそのLv:15以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時25分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
スピリトへの言葉
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒狼の勇者
散々・未散(p3p008200)
L'Oiseau bleu
ハンス・キングスレー(p3p008418)
Can'dy✗ho'use

リプレイ


 正圓の月下。
 鍮石門の瓦を炎が舐める。

 鋭い牙を剥きだしにした炎、狐の妖が夜空に舞い――
 しかし直後、万物流転の理、強烈な波濤を浴びて地へ叩き付けられる。
 誰よりも疾く物語を紡いだ者の名は、『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)と云った。
「……いかほどでしょうね、敵の数は。少なくとも二十以上かな」
 いつもは柔和な面持ちのハンスだが、真剣そのものといった視線で辺りを見渡す。
「そうね、おおよそ三十と少しじゃないかしら。多いわね、些か」
 月夜に羽ばたく梟の視界が捉えた敵影は、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が見た限りおおよそそんな所であった。
 ハンスは生まれつき、その背に戦場を一望出来る権利を有するが、調査はひとまずイナリに任せて、自身は化生共に第一撃を加える方を選んだ。
 それほどまでに、事態は逼迫している。

 この国の暗部を司る隠密『冥』が境内へと次々に切り込んでくる。
「なるほど、統率が取れている。くれぐれも油断はするなよ」
 槍を構えた『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の目配せに、イレギュラーズが応じた。
 敵の動きには微塵も無駄がない。
 一行は素早く半円の陣を組み、社を背に襲撃を迎え撃つ構えをとった。

 ここは此岸の辺と呼ばれる一角で、神威神楽における要の一つであり、イレギュラーズが空中神殿を通じて移動するための拠点である。
 対する『冥』は神威神楽の太政大臣を務める天香長胤の手先であり、謂わば体制側だ。
 こうまで拗れた原因は長胤が魔種であることによる。
 そうであることは以前より知れており、両者の決定的な決裂は時間の問題ではあった。
「……そそぎ、そんなことはやめて。こっちへ、来て!」
「――嫌。あなたが来るの。つづり」
 蠢く闇に腰掛けた獄人の少女そそぎと、悲痛な表情で叫んだつづりは、この社の巫女である。
 ごく普通の少女達であるが、この地では神託の少女ざんげの代役のような仕事を担っていた。
 だが巫女達にはそれ以外の役目もある。神威神楽には『穢れ』が満ちているとされ、それを一身に背負うという定めを義務づけられているのだ。
 初めは眉唾とも思えた『穢れ』という存在ではあるが、少女達が実際に苦しむ姿を見たならば、信じない訳にも行かない。
「そこまでさせる理由(わけ)は、何なんだよ!」
 愛槍烙地彗天を構え、『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)の視線が敵陣を射抜く。
「それこそ大地に巣くう八百万が欺瞞――己は其れを暴き、白日に晒し、挽き潰す者であります」
 答えたのは、闇であった。
 言葉そのものは、耳障りさえ良いはずだ。
 男とも女ともつかぬ声音は流麗ですらあった。
 だが一行の鼓膜をヤスリがけするような不快の正体は、何物であるのか。
「アンタがどうしてそこにいるかなんて、聞く必要もねえよな」
「無論、己はただの理でありますゆえに」
「だいたい、それだけじゃねえんだろ」
「当代の巫女殿は、お二人が共に居るべきでありましょうから」
 吐き捨てた風牙に、闇は――《転輪穢奴》忌拿家・卑踏は喉の奥でくつくつと嗤った。
 風牙が卑踏と邂逅したのは、今から少し前のことになる。獄人の賊を討伐した夜の事だ。
 纏う穢れそのものは、或いはいまのそそぎより小さいかもしれない。
 だが、これは、それ以上の何かを秘めている。
 風牙はその直感と、そしてその授かり物『エモーショナル・カラー』のギフトによって理解したが、これが纏う感情の色彩は、正に漆黒の汚泥そのものであった。
 風牙の――否、この地に住む全ての人々にとって、不倶戴天の敵であろう。
 卑踏の言と行動に、矛盾はある。
 仮に卑踏が述べた通り、卑踏の行動が本当に獄人や巫女達の為であるとするならば。なぜ卑踏は天香――即ち既得権益を持ち獄人を迫害する八百万側に立っているのか。
 第一に、どうしてそそぎは、ああも苦しそうなのか。
 とは云え考えている時間はない。
 この地を敵の手へ渡す訳にはいかないのである。

「為すべき事は見えましたね」
「ええ。二人は救ってみせるわ」
 宣言した『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)に『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が頷いた。
「……そそぎ」
 言葉をつかえさせたつづりを、未散は諭す。
「つづりさま。『言葉足らず』だと自責の念に駆られる事もあるでしょう。けれどぼくはそうは思わない。
 駄目なことを『駄目』だと言える姉は格好良い!」
 顔をあげたつづりに、未散は言葉を続けた。
「オーダーを! そんな存在だからこその望みを! 最善を! さあ!」

「……そそぎを、連れ戻して! おねがい!」

「……――OK、今のあなたさまは最高にイケてますよ」

 襲撃者達を撃退し、つづりを守り抜き、そそぎを連れ戻す。
 全てを取るならば、ミッションは極めて難しいだろう。
 だが、やるほかない。
「……全軍、進め」
 未散が指揮棒、嘩乱緋唱で宙を切る。
「仲のいい姉妹がこんなことで引き裂かれるなんてこと、あっていいわけねえ。
 そんなの……もう二度とごめんだ!」
 駆けだした風牙と合わせるように、一同は行動を開始した。


 迫る刃に、風牙は槍を突き出す。
 火花と共に、冥の一撃は必殺の間合いを僅かに外した。
 腕から舞う赤い霧に構うことなく、風牙は更に一歩踏み込む。
「多少は出来るか、小童」
「アンタよりは、ちょびっとな!」
 槍の柄が大気を切り裂き、鋭い一撃を、しかし冥は後方へ半歩跳んでかわした。
 だが風牙の狙いは、そこではない。
 穂先に集中させた気が冥の眼前で爆ぜ――奪塞・其先。
 弾けたエネルギーが敵陣を駆け抜け、衝撃と共に体内の気をかき乱す。
 同時に、衝撃を腕で受け止めた冥の一人へ、二刀を携えたイナリが斬り込んだ。
 初撃。袈裟懸けの一刀に、返す刃は間に合わない。
 咲いた血花諸共に切り裂いて。イナリは舞うように立て続けの斬撃を見舞う。
 爆炎に包まれながら地を転げた冥は、強靱な腕で石畳を殴りつけ、跳ね起きた。
「手練れね。多少はやるじゃない」
 十字を切った二刀を払い、イナリが嘯く。
 手応えはあったが、三度に内の二度は浅いか。
 布都御魂剣。天叢雲剣。いずれも贋作とは名乗るが異界の神剣を模倣した二振りである。
 常人なら既に命はあるまいに、よもや立っているとは。
 だが風牙と歩調を合わせたイレギュラーズの猛攻は止まらない。
「やりましょう、必ず。この夜が明ける前に」
 艶やかに微笑んだ『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が、その魔性を解き放つ。
 胸元からそっと手を伸ばし、嫋やかな指をひらく。
 花びらのように舞い散る暗黒の血液が敵陣をかき乱した。
「それでは始めましょうか、取り戻すための戦いを」
 尚も踏み込んだ冥の胸先に触れた『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)へ、大上段に刀を構えた冥は、その瞬間に跳ね飛ばされた。
「俺達の邪魔をすると言うのなら、加減は不要。押し通る!」
 敵陣を駆け巡る無数の紅い雷光と共に、ベネディクトの視界が僅か一瞬静止する。
 それは、或いは扱いきれぬ戦技やもしれぬ。だからといって、やれぬ道理もない。
 光を放つアミュレット――ゼピュロスの息吹が燃え尽きると共に、二匹の妖が雲散霧消し、冥の一人が早くも倒れた。

「一気に行くわよ! このままたたみ込んでやるんだから!」
「頼りになる子だ。リーヌシュカ君。君と戦えて嬉しく思う。さ、邪魔者を蹴散らすとしよう」

 ――愛は惜しみなく奪う物ゆえに。

 らぶあんどぴーすを勝ち取れ。
「あなたこそ、気が利くじゃない! 愛無!」
 社の延焼を防ぐため、保護結界を展開した『餌付け師』恋屍・愛無(p3p007296)に、『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)ことリーヌシュカが声を張る。
 口腔から放たれた愛無の咆哮に脳髄を揺さぶられた敵陣へ、リーヌシュカが一気に切り込んだ。
「私の友達たち、いるかしら?」
 オデットの言葉に応えたのは、風だった。
 澱んだ大気に抗うように、清涼な風が首元をくすぐる。
「お願い、助けてほしいの」
 オデットが望んだのは、生存者の救出と誘導である。
 社務所のほうには『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が居るはずだ。
 意図は汲み取ってくれるだろう。
 とはいえ危険な戦場である。精霊達に無理強いなど絶対にしたくない。
 だが少なくとも、この場に揺蕩っているよりは、安全とも思える。
「絶対に無理はしないでね。約束よ」
 オデットの頼みを聞いた風精は、微かに土を巻き上げ戦場から離れていった。

 ――イレギュラーズの初撃が炸裂した、戦場の前方彼方。
(こっちもやらせてもらうぜ)
 シュバルツが社務所側に居たのは、全くの偶然ではあった。
 戦域から離れていることは、合流までのタイムラグを生じる。
 長くとも精々数十秒であろうが、戦闘では大きな影響がある。
 すぐにあちらへ行くべきか、行かざるべきか。
 シュバルツは迷うことなく、行かざることを選んだ。こちら側に居るからこそ、出来る事もあるからだ。
 オデットから届いた『風の便り』に頷いたシュバルツは、風精達と共に社の人達を探し始めた。
「おい、大丈夫か。立てるか?」
 シュバルツの言葉に神職の男が立ち上がる。
 座り込んでいたようだが、腰を抜かしていただけか。
「すみませぬ、神使様、このような身にもったいない事で」
「ごちゃごちゃ抜かしてねえで手伝ってくれ。いいか、あそこの奴等に伝えるんだ」
 まずは危険な状態にある社の人々を救助し、戦禍から遠ざける。
 火災へ対処し、結界の修繕を急いで貰う。
 何よりも、それらの情報を早期に拡散して行くのだ。
「え、ええ。かしこまりました。神使様、どうかご武運を!」
「ああ、俺達に任せとけ」
 シュバルツの説明に頷いた男が走り出す。
 社の人々を救う。無論そそぎも。
 つづりにとっても、そそぎにとっても、社の人々にとっても。
 誰にとっても誰もが欠かせない相手であるに違いないのだから。
 大切な人が居なくなる辛さは――シュバルツは身を以て知っている。
 あの日喪われた聖女が、彼の胸にぽっかりと空けた穴の事を。
 可能性の奇跡さえ、己が命を賭して、雨だれで石を穿つかの如き挑戦さえ望んだ日の事を。
 同じ事が目の前で起ころうとしているなら、シュバルツは全力で抗うまで。
 視界の隅に見える戦場の様相は、極めて逼迫している。
 初撃を成功させたイレギュラーズであるが、相手もかなりの手練れと見えた。
 優勢ではあるが、押し切れていないのだ。
 それに卑踏も未だ動いていない。
 あれは誰の目にも、とてつもない怪物と見える。
 そそぎも同様。小さな身体に蓄えられた膨大な穢れの他に、何か邪しき気をまとわりつかせている。
 おそらく複製肉腫とされているのか。
 卑踏とそそぎが何か行動を起こせば、戦況はどうひっくり返るか分からないだろう。
 全員が挑んで尚、勝ちきるだけでも難しい戦場であろう。
 シュバルツは強力なイレギュラーズであり、戦列に加わっていないというのは痛手でもある。
 しかし彼が行動を起こさねば、既にいくらかの人命が喪われていた筈だ。
 誰もが最善を掴むと決めた以上は、やりきるほかない。
 だからこそ一行は、針穴に糸を通すような完全の勝機を、追い続けることが出来ているのだから。


 それから、僅かばかりの時が流れた。
「まだ行けるだろう、リーヌシュカ君」
「当たり前じゃない、愛無。わたしを誰だと思ってるわけ?」
「君はいつも嬉しい答えをくれる」
 背を合わせたフリークスと軽騎兵は目配せ一つ、襲い来る妖を迎え撃つ。

 妖は半数程を撃破出来ているが、恐らく卑踏から何か力の供与を受けているのだろう。
 思ったよりも随分としぶとい相手だ。
 何より問題なのは精強かつ統制のとれた冥であった。
 個人の実力はイレギュラーズに及ばないが、大きく差がある訳ではない。
 未だ多勢であることを武器に、抗い続けている。予断を許さない状況だ。
 だが既にいくらかの人々が戦場から離脱出来ており、社に燻る炎も保護結界によって押えられている。
 一行は傷つきながらも、勝機を未だ手放さずにいた。

 無論、冥の面々とて深い傷を受けつつある。
 ユーリエと未散により、一行の継続戦闘能力は底上げされている。
 また未散の指揮は一行の連係力を高め、多くの災厄を打ち払っている。
 一方でイレギュラーズ達による数々の行動阻害は、冥の真価を封じつつあった。
 戦況は緩やかに、イレギュラーズの側が優勢となりつつある。
 ――その筈だった。

「天秤の傾きは正されねばなりません。それこそが、平等というものでありましょう」

 闇が揺らめいた。
 戦場後方から、卑踏が突如掻き消えると共に、暗い風が戦場に吹き荒れる。
 全身を引き裂かれるほどの痛覚と、脳髄を揺さぶる程の戦慄が一行を襲った。
 幾人かが巻き込まれたが、愛無、ユーリエ、イナリは各々それを打ち払い、ベネディクトは歯を食いしばり耐え凌ぐ。
 戦場の中央に現れた卑踏は指先を真っ直ぐに伸ばすと、影の刃が踊り狂う。
 つい先程、陰陽師二名の命を僅か一撃で奪ったものだ。
 駆け抜ける刃へ追従するように、冥の一名が突進してくる。
「させるものですか! つづりさまには、指一本触れさせません!」
 冥の鍛え抜かれた腕がつづりへ伸びた瞬間に、未散はその身を滑り込ませた。
 殴り飛ばされる形になった未散へ、冥の一人が更に刃を振るう。
 燃え上がる可能性の炎が、意識を鮮明に灯し続ける。
「――無事ですか!?」
「ありがとうございます、助かりました。こんな所で倒れてなんていられませんから」
「ですね。私も気合いいれていきます!」
 ユーリエが即座に放った薬液の小瓶を受け取り、未散は礼を返す。
 ここまでの戦いでイレギュラーズの数名が可能性の箱をこじ開けている。
 だがまだだ。こんな所で止まってなどいられない。

 戦況に業を煮やしたであろう冥の突出は、着実なチャンスを伺ったものではあったのだろう。
 恐らく統制が崩れた訳ではなく、指揮系統に個々の自主判断を含む高度な部隊の在り方には違いない。
 だがそれは、命取りとなった。
 沙月の踏み込みに、予備動作はない。
 その型は無拍子である。
「グッ……長胤様、ご武運を……」
 つづりの奪取と未散の始末にしくじった冥は、僅か刹那に邪剣の極意を宿した沙月の連撃に沈んだ。
「どうして邪魔をするの!」
 激昂したそそぎが、穢れを解き放つ。
「やめて、そそぎ!」
 叫ぶつづりを一瞥したそそぎは嗤う。
「まっていて、つづり、すぐに終わらせるから」
 澱んだ大気に顕現した幾本もの鋭い杭が戦場へ降り注いだ。
「これは、これは。可哀想に当代の巫女殿。しかし自ずと然るべき理ではある」
 そそぎが放った力は、イレギュラーズ諸共に、妖と冥をも襲った。
 幾度か手を叩いて喜んだのは、卑踏である。
「何があなたの狙いでしょう?」
 厳しい表情で問うた未散に流れ込む卑踏の思念は酷く混沌としており、それが人ならざる何かであることを告げている。
 怖気を催すほどの憎悪だけが、確かに感じられた。
 はっきりとしているのは、あれはこの地に存在する全ての者を挽き潰すことを目的としている。
 憎悪は、全ての人々に向けられているのだ。
 何よりも、あれはその感情のような何かを、隠そうともしていない。
 なるほど風牙の云う通り、これは人ではない。まごう事なき妖――怪物だ。
「己は世に巡る憎悪の連鎖を、断ち切る者であります。
 貴殿等と、なにより当代の巫女殿等と、そこに些かの違いもありはしないのでは」
 酷薄とさえ感じる美辞麗句だが、あるいは歪みきった本心ですらあるのか。
「……ひふみは、誰」
 問うたのはつづりだ。
「聞いてやる必要なんてねえ、あれは敵だぜ!」
「……あれは魔。魔に、手なんて貸さない」
 肩で息をする風牙の言葉に、つづりが頷く。
「……あなたは『よ』をなくす、昔話の大妖。でも……本当は誰!」
 らしくもなく詰問したつづりに、それは答えた。

「当代の巫女殿。己は貴殿の、遠縁でありました」

「……やっぱり、そう」
 回答は過去形であった。
 つづりの言葉は素っ気なく、微かな無念を孕んでいる。
「どうしたいか、なんて。聞く必要はないわよね」
 オデットの言葉につづりは力強く頷いた。
「……あれにそそぎは、渡さない」
「良く言えたわ。――砂嵐を吹かせて! オアシスから奴らを遠ざけましょう!」
 無限の紋章を宿すオデットが光翼を翻し、その言葉と共に敵陣を灼熱の砂嵐が駆け抜ける。
 つづりの覚悟が決まっているならば、手伝い甲斐があるというものだ。
 それにオデットは、そそぎの方の気持ちとて、痛いほどよく分かる。
(私だって、同じこと思ったことがあるもの)
 だからこそ『堕ち』てはいけないことも、よく分かる。
 自身がどうなろうと、絶対に二人を救うのだと決意している。

 戦場では余談を許さぬ攻防が続いている。
 そんな時、待ちに待った声がした。
「悪いな。遅くなっちまったぜ」
 現れたのはシュバルツだ。


 世界法則を自動演算させ、シュバルツの影が妖の一匹を撃ち貫く。
「ありがとう。ここは危ないから離れていて」
 律儀にも戻ってきた風精へ、オデットは優しく伝えると、再び術式を解き放つ。
 幾重にも展開した術陣から顕現した魔槍が、シュバルツの一撃に転げた妖へ終焉を打ち付けた。
「近づけさせません。それ以上は一歩も」
 未散の放つ聖なる閃光に、更なる妖の一匹が溶け、闇夜へと還った。
「さあどうでしょう。そろそろ後がないんじゃない?」
 立て続けに魔術を放ち続けたハンスが、眼前の冥へと首を傾げる。
「……」
「答えないんだね」
 何もいたずらに命を奪いに来た訳ではない。
 引いてくれればそれで良いのだ。だが冥の忠義はどうにも篤い。
「斬られれば斬る。斬らば斬られる。それこそが道理と呼ぶべきもの」
 答えたのは卑踏だ。
 戦いの中で、イナリと未散には気付いたことがある。
 卑踏が戦場の中央で数々の権能を振るい始めてから、妖共の動きが如実に鈍ったのである。
「こっちから片付けたほうがいいんじゃない」
 妖の一体を焼き払ったイナリが提案した。
「恐らく卑踏は、どちらかしか選べないのでしょうね」
 同意した未散が、一行に認識を共有させる。
「ならば今一度切り拓こう。魔物共の好きになど、させてなるものか!」
「私は悲劇など望みません。仲良き姉妹が道を違えるなど」
 ベネディクトと沙月が妖を打ち払う。
「合わせてくれるか」
「いいわよ! どーんと行きなさい!」
 愛無とリーヌシュカが妖を引き裂く。
「あとどれだけいやがる?」
「これで最後ね」
 妖の一体を仕留めたシュバルツが吐き捨て、最後の一体を焼き尽くしたイナリが答えた。

「良き哉、良き哉――この死闘は己が望みに叶うものであります」
「いい加減に、その口を閉じやがれ!」
 風牙の一撃、奪塞・其先が妖諸共に卑踏を貫く。
「……ふふ。己が貴殿等を傷つけた以上、貴殿がそうすることも、また平等、公平」
 手応えは感じる。
 だがやはり、あれは人ではない。
 ぼやけ、滲み、再び鮮明に浮かび上がり。
 あの身体からは、赤い血の一滴すらも流れないではないか。

「私が確保します」
 あくまで優美に、沙月が歩む。視線の先に居るのはそそぎだ。
 祈るような所作で冥の放つ斬撃を止めた沙月は、それを即座に打ち払って突き進む。
「つづりさま、叫んでくださいませ」
「……未散」
「喉が切れたって、血反吐が出たって。たったひとりの。唯一の其の名前を、呼んであげて下さいませ」
「……ありがとう」
「聞き飽きたって位たっぷりと!」
 このまま冥を打ち払い、卑踏をしのぎ、そそぎをあそこからたたき落とすのだ。
 きっとこんなことをすれば、未散達はそそぎに一層嫌われてしまうかもしれない。
 けれど、心さえ折れなければ、どうとでも出来るのだ。
 未散は信じている。強さとは心技体、振り翳す拳の力だけに非ず!

「かかってきたまえ。叩きのめしてやる」
 愛無が手招きする。
「――上等」
 そそぎが放つ穢れの矢雨が戦場を貫き、卑踏の影刃が一行を切り裂いて尚。
 愛無の咆哮に冥が倒れ、そそぎが呻き両手で頭を押えた。
「憎ければ殺せ。欲しければ奪え。それが人間という物だろう?」
「……そうよ。けど、それだけじゃない」
「君は優しい子だ。だが、君が抑える必要など何もない。
 巫女だ。穢れだと鬱陶しい。君は我儘を言えばいい」
「意味がわからない!」
「分からなくてもいい。だがそれを受け止めるのが『大人』の役目なのだ。
 世界は自分だけの物じゃない。クソがクソがと吐き捨てながら生きていかざるを得ない」
「嫌よ。わたしはつづりだけが居ればいい。神使も卑踏も、消えてしまえばいい!」
「それでも。言っただろう」
「なんで」
「僕は君が好きになったよ」
 そそぎが呻く。それは何かに抗っているようにも見える。
「時に栗羊羹を買ってきた。つづり君は羊羹が好きと聞いてね。
 一緒に食べるといい。本当は君の好きな物が知りたかったがね。次にするよ」
「どうして、そこまで……違う! 次なんて、あるわけない!」
 愛無が観察するに、そそぎは、ひどく不安定な精神状態と思える。
 おそらく彼女を『あちら側』に押しとどめているのは、穢れによる憎悪と、複製ガイアキャンサー。
 それから卑踏が操る『何か』だ。
「貴女は助けて欲しいのですよね?」
 改めて沙月が問うた。
「……めて」
「ずっと苦しい思いをしてそれでもなんともならなくて……」
「……めなさい」
「そして期待するのを諦めてしまったようにも思えます。でもそれは今日まで……」
「やめなさいったら!」
 穢れの槍が沙月へと降り注ぐ。
 流れるような動作でかわし、肩に、腕に、脚に、血霧が舞う。
 それでも沙月はあくまで歩みを止めない。
「貴女のしがらみ、その全てを壊して差し上げましょう」
 助けて欲しいと友人が頼んだのです。ならば全力を尽くすまで。
 後悔など、決してしたくない。
「臆する段階はとうに過ぎている――」
 ベネディクトの槍が冥を貫いた。
「そそぎ、これからだ」
 苦無がベネディクトの肩を深々と穿つ。
「この土地に俺達がやって来て、この国を変える事が出来る兆しがあるんだ。これからじゃないか!」
 卑踏の影刃がベネディクトを切り刻む。
「……そう、かも、しれない……」
「どうして君だけで背負う! これから考えよう、皆で考えれば良い!」
 ベネディクトの一撃に、冥の一人が沈む。
「君とつづりが少しでも安らげる方法を!」
 そそぎが泣いている。
「少女の涙も拭えぬ不甲斐無い様で、何が騎士か……!」
 口元から血を零し、それでもベネディクトは突き進む。
「困るのです。そうまでされては。当代巫女殿はこの世に平らを導く尊き者」
 卑踏の影は、その闇は、深淵にように横たわり続けている。
「姉妹は、大切な繋がりです。
 切り離されそうになっても。それがあと少しで手の届く所にあるなら……全力で繋げにいくだけです!」
 オデットの放つ聖光と、ユーリエの殺さずの闇血が冥の一人を打ち倒す。
 更にそそぎが纏う穢れの一部を打ち払った。
「小難しい言葉は必要ねえ! 我慢もいらねえ! お前の想いを一言ずつでいい、正直に伝えてやれ!」
 風牙が叫ぶ。
「そそぎ……今までよく頑張ったな。
 けど、もう大丈夫だ。お前一人が、お前ら二人だけが背負う必要はねえ。
 オレたちが来た。オレたちが絶対に変えてみせる!」
「何、なんなの……どうして」
「一言で良い、お前の気持ちをそそぎに伝えてやれ。
 悩まなくて良いんだ。そそぎと過ごした日々を、姉妹の絆を信じろ。
 大丈夫だ、俺らが付いてる」
 シュバルツが続ける。
 そそぎはまだ、誰も殺してはいない。戻れる。
「つづりさん、貴方の想いの全てを妹さんに叩き込みなさい!
 言葉だけでも、想いだけでも、人は戦える!
 貴女のその言葉で、大切な妹さんをこの場所に繋ぎ止めてみせなさい!
 そして、思いっきり妹さんを抱き締め、叱ってあげなさい、それが姉というものよ!」
 二重の結界を纏ったイナリの足元から、白い冷気が立ち上る。
 済んだ音と共に冥をなぎ払ったイナリは、卑踏の眼前へと現れた。
「私がこれを、止めている間に。早くなさい!」
 つづりが一歩前へ出た。
「言葉を贈ります」
 駆けてくる冥へ波濤を叩き付けたハンスが、その翼でつづりの背を包み込む。
「今日という日の花を摘め、です。今という時間を何より大事にしてください」
 それから小さな背を、両手でそっと押した。
「つづりちゃん。
 後悔しているなら君は戦わなくちゃいけない。
 伝えなきゃならない。
 あの子の事を救うのは君なんだ。
 君の想いにしか救えない。
 言えなかった事、言いたかった事。
 好きも不満も、全部全部伝えてさ。
 姉妹なんだもの。
 ……がんばれっ!」
 この双子に己を重ねた心とてある。けれどハンスは、ひしと繋いでいた手が離れる事が、どうしようもなく惜しくてたまらないのだ。
 だから――言わせなければならない。伝えさせなければならない。
「……だめ、そそぎ。それは、だめ」
「だめ、だけじゃ伝わらないんじゃない?
 そそぎはあなたを愛してる、じゃあつづりは? そそぎのこと好き?」
「……わたしは、そそぎが好き」
「ちゃんと言わなきゃ双子だって伝わらないわよ」
 イナリとオデットの言葉に、つづりが頷いた。
「そそぎ! わたしは、そそぎが、好き! だから、帰ってきて!」
「……つづり、わた、し、も、わたし、だって、すき……かえり、たい、よ、でも」
 そそぎが纏う憎悪が、穢れが、はがれおち、膨れ上がり、抵抗を繰り返す。

 イレギュラーズにも冥にも、戦う力など殆ど残されてはいない。
 決着は目前に迫っている。
「きっと長く持たないわ」
 冥の集中攻撃を受けながら、卑踏の攻撃を二度までも、無傷で耐え凌いだイナリは確信していた。
 ぎりぎりの戦場でイナリが無効化した攻撃が、今この場を繋いでいる。
 だがそれに気付かぬ卑踏ではない筈だ。
 ここまで出来たことこそが、僥倖というもの。
 次の攻撃は、絶対にイナリを無視するはずだ。

「当代の巫女殿。貴殿は霊長蠱毒の依代でありますゆえ」
 卑踏が放つ闇がそそぎを覆った。
「戻られよ。巫女殿。ここは危のうございますゆえ」
「嫌、いや、わたしは、つづりと、居る。神使が、たすけ、て……くれ、る」
「戻られよ」
 手を伸ばすそそぎを、闇が徐々に押し返して行く。
「黙れよ妖! つづり、そそぎ! お前ら、思ってることは一緒なんだよ! この仲良し姉妹!!」
「……た、す、けて」
 風牙が卑踏へ踏み込んだ。
 光条は彗星の如く汚泥を貫き、卑踏の腹部に風穴を穿つ。
「まだそのような力があろうとは、これだから神使は侮れません」
 卑踏が風牙の腕を掴み上げる。
「なにしやがる! 離しやがれ!」
 風牙が卑踏を蹴りつけた。こんなものは人の感触ではない。タイヤか何かのようにも思え――
 闇が風牙の身を包み始めた。
「そそぎ! 風牙!」
 飛び出したつづりと、イレギュラーズの眼前に無数の闇槍が顕現し――
「させません」
 つづりさえ狙う穢れの刃を、未散はその小さな身体で受けた。
 ひとひらの想い出が、その意識を辛うじてつなぎ止めている。

 イレギュラーズとの絆が、イレギュラーズ達が紡いだつづりとの想いが、そそぎの精神を支えている。
 だが状況は、彼女の確保を許してはくれそうにない。
「動けるヤツは何人だ」
 シュバルツの言葉に全員が頷き、数名が崩れ落ち、幾人かが駆けた。
 そそぎには、追いつくことが出来そうにない。
 ただ一縷の望みは、そそぎの心に絆という名の楔を打ち込むことが出来たという事実のみであった。

「実に、実に実に実に! 厄介なことをしてくれたものでありますな!」

 続く刹那の攻防。幾人かは、もう立てない。
 けれどこれまで余裕綽々だった卑踏の声音に、初めて別の色彩が乗った。
 そそぎの意思をさらけ出させたという一時が、余程癪に障ったに違いない。
 それは卑踏が抱く何か邪な計画に、ひびを穿ち毀損する事なのだろう。
「……霊長蠱毒と言いましたね」
 愛らしいユーリエの表情は、けれどひどく厳しい。
 蠱毒が意味するのは、毒虫を互いに食わせ合う邪法を指している。
 霊長とは、猿か、人か。その依代とは。
「姉君はお預けする。いずれまたまみえる日まで」
 イレギュラーズの猛攻に、汚泥が弾けた。
 境内を覆った闇は地中へと溶け消え――

 しゃくりあげるつづりを、未散がそっと抱きしめた。つづりを奪わせはしなかった。
 敵の撃退には成功した。それはまごう事なき勝利ではあった。
 人々の命は守られた。それはより大きな戦果ではあった。
 社は無事である。火はすぐに消し止められるだろう。損害とて軽微なはずだ。
 しかし、ここに居る者達は、きっとそれだけでは喜ばないのだろう。
「風牙は、どうした」
 槍を支えに立ち上がったベネディクトの言葉に、一行は息をのみ戦慄した。

 決定的に述べられることがある。
 あれを――《転輪穢奴》忌拿家・卑踏を赦す理由なんて、もうどこにもありはしないと。

成否

成功

MVP

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
スピリトへの言葉

状態異常

新道 風牙(p3p005012)[不明]
よをつむぐもの
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
黒狼の勇者
散々・未散(p3p008200)[重傷]
L'Oiseau bleu
ハンス・キングスレー(p3p008418)[重傷]
Can'dy✗ho'use

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 ビターな雰囲気ではありますが、良い戦果を勝ち得ています。
 それ自体がHARDである勝利条件を満たし、更には人命への被害を最小限にとどめ、社も無事です。
 何より、そそぎに一筋の希望を繋いだのですから。

 MVPは状況に対して全てが刺さっていた方へ。

 それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

=====
捕虜:新道 風牙(p3p005012)

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