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シナリオ詳細

<傾月の京>鶴様門の朝霧

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●月下の惨劇
 満月が、白の門を照らした。
 ここは、高天御苑に在る鶴様(かくよう)門である。翼を広げた鶴のごとく、美しく白い様が、その門の名の由来である。
(……こんな重要拠点の警護を任されるなんて、大抜擢! ……なのですが……)
 古賀朝霧(こが・あさぎり)は、胸中でぼやきつつ、注意深く辺りを見回した。刑部省の新人である朝霧が、こういった拠点の警護を任されるのは、確かに異例の大抜擢である。しかし、それ故に違和感はあった。なぜ自分なのか――それに、周囲に普段の同僚の姿は見受けられず、代わりに立つのは、些か剣呑な雰囲気を纏った黒い男たちだ。
(なんだか……嫌な予感がしますね。それに、今回城に攻めてくるのは、神使の皆様だというではないですか……)
 情報は、伝わっていた。此度城に乗り込んでくるのは、神使――ローレットのイレギュラーズ達であるという。
 朝霧には、イレギュラーズに知人がいる。その知人は――そしてその仲間達は、決して悪しき人々という訳ではないようだ。
 で、あるならば――此度の討ち入りも、何らかの理由があるのではないだろうか?
(例えば――城に何かがあった、とか)
 昨今、城下や村々を騒がす『呪詛』の事件。その影響が、高天御所にも発生したのだとしたら……。
 これは朝霧は知らぬことではあったが、事実その通りである。イレギュラーズ達は、『けがれの巫女』つづりにより、高天御所内部にて、強大な呪詛が執り行われることを感知したと知らされたのだ。
 イレギュラーズ達の目的は、その呪詛の阻止――実際、そのような理由があった。
「どうした? 顔色が優れぬようであるが」
 ふと、声が響いた。朝霧が顔をあげれば、そこにいたのは民部省の長、『二階堂 尚忠』の姿があった。朝霧は、尚忠が苦手であった。街の警護の際に幾度か顔を合わせた程度であるが、その人を見下したような、人ではなく、数として物を見るような目が、どうしても好きにはなれなかったのだ。
「いえ……すこし、考え事を!」
「で、あるか」
 尚忠は首をかしげ、笑った。ふと、迷いが生まれた。あるいは――話を聞いてくれるかもしれない、と言う、そう言った迷い。
「その……無礼を承知で、お話が御座います!」
 朝霧が頭を下げる。「よい。申せ」と、尚忠が言うのへ、朝霧は言葉を紡いだ。
「その、今宵、攻め入って来るのは神使と聞いております! で、ですが、彼女たちが……神使殿たちが、何の正当な理由なくやって来るとは思えません!」
「そうか」
「ですから、ここはその、話し合いの場を持たれては――私も、神使殿に知人がおります! 彼女なら、話しに応じてくれると――」
「そうか」
 尚忠は笑んだ。その笑みに、朝霧も、少しだけ笑った。話が受け入れられた、とそう思った。
「そうか、そうか。やはりつくづく、獄人とは愚かであるなぁ」
 がん、と。
 後ろから、朝霧は殴りつけられて、地に打ち倒された。
 何が――と理解する間もなく、背中を踏みつけられる。朝霧と同様、鶴様門を警護していた男たちである。黒い衣装に身を包んだ、剣呑な男たちであった。
「人が暮らす世には秩序が必要であると思わんか」
 しゃがみ込み、尚忠は朝霧へと視線を合わせる。朝霧が、這いつくばったまま、顔をあげた。
「それがしが担当する、徴税もそうであるな。人が安定した秩序のもと生活するには、規範と、それを生み出すものを維持する必要がある――まぁ、それは良い。ただ、な」
 尚忠は立ち上がり。
 ごり、と。
 朝霧の頭を踏みつけた。
「お前がすり寄る神使とやらは、明らかに――京の秩序を乱すものであるぞ。そのようなものと話し合いの場を持てと。馬鹿か貴様は」
 ごり、ごり、ごり、と朝霧の頭を何度も踏みつける。その都度、朝霧は痛みに呻き声をあげた。
「厚遇に舞い上がったか? ならば少し教えてやるがな、ここの防衛など、誰でも良かったのだ――ある日消え失せても問題のない、貴様のような愚かな獄人であれば」
 尚忠が目くばせをする――男たちは、朝霧を仰向けにすると、その口に手を突っ込んで、無理矢理開かせた。
 尚忠が、懐から何かを取り出した。
 醜く脈動する、肉片のようなものであった。
「うう……ああ!」
 その悍ましさに、朝霧は呻きを気をあげて、身体をよじらせる。周囲の男たちの力は強く、逃れることは叶わない。
「肉腫の破片である。食らえば、くだらん考えも失せよう」
 ポトリ、と、その肉片を、朝霧の口の中に落とした。
 悍ましい感触が、口中を駆け抜けた。肉片は意志を持っているように、うごめきながら喉を這いまわり、食道へと落ちていく。
「ん!!! んーっ!!!」
 その余りの悍ましい感触に、朝霧は喘いだ。目の端に涙が浮かぶ――途端! 内部から、爆発するような熱が、冷たい熱が、体中をかけ回った! まるで、その肉片が内部に侵食し、四肢の、身体の、頭の自由を奪っていく。
「さ……く……さん……」
 かすれる声で、よく知る神使の名を呼びながら。
 朝霧の思考は、肉に飲み込まれていった。

 イレギュラーズ達は、鶴様門へと侵攻する。目的は、高天御所であるが、そのルート上、この門を突破する必要があった。
 イレギュラーズ達が門へと到着すると、そこには数名の黒服の男たち――七扇直轄部隊『冥』のメンバーである。
 その中心に、一人の少女の姿があった。勝ち気そうな青の瞳は、しかし今は焦点の定まらず、虚ろのそれである。
「だ、だめ、だめです」
 震える声で、少女――朝霧は言った。
「にげて、神使、さん、おねがい、にげて、にげ……ああ、あああああああ」
 ぐわ、と、その右腕を振るった。鶴様門の門扉を握り、引きはがす――その巨大な木片が、巨大な刀へと変貌した。肉腫としての力により強化された、朝霧のギフトによる効果であった。
「まさか、この感覚……複製肉腫に……!?」
 イレギュラーズの一人が、声をあげた。朝霧の皮膚を、みみずばれの様に走り回る異形の肉片が、それが彼女に異常なる事態を引き起こしていることを知覚させた。
「あああ、ああああああ!」
 朝霧が吠える――ここを突破するにせよ、彼女を助けるにせよ。
 まずは戦わなければならない。
 イレギュラーズ達は意を決すると、その武器を構えた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 高天御所へと続く道、鶴様(かくよう)門を突破しましょう。

●成功条件
 すべての敵を倒す。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

●状況
 高天御所へと続く道、鶴様(かくよう)門を突破するべく侵攻を開始した皆様イレギュラーズ達。
 そこに立ちはだかるのは、七扇直轄部隊『冥』の暗殺者たちと、複製肉腫とされ意に反して暴れまわる存在となってしまった、古賀朝霧と言う少女でした。
 朝霧は、意識が残っている今倒せれば、あるいは肉腫の影響を払い、救うことができるかもしれません。
 いずれにせよ、この場を守護する敵を全滅させることが、皆さんの任務です。
 作戦決行時刻は夜。空には大きな満月が浮かんでおり、辺りにはかがり火もあるため、特別な工夫はなくとも、戦闘ペナルティなどは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 古賀朝霧 ×1
 複製肉腫にされてしまった少女です。反応や回避値などは低いですが、肉腫化による耐久力と、高い攻撃力がウリです。その攻撃の重さは、『体制不利』などを発生させる可能性があります。
 近接に特化していますが、回りの『冥』の暗殺者より強力なエネミーとなっています。
 肉腫の肉片は、今は朝霧の右肩辺りに、巨大な目玉のようになって寄生しています。

 『冥』の暗殺者 ×10
  七扇直轄部隊『冥』に所属する暗殺者たちです。ひとりひとりの戦闘能力は低めですが、数がやや多め。
  回避、反応系に秀でたファイターたちで、オールレンジ対応で様々な攻撃をしてきます。『出血』や『毒』系統のBSの付与にも警戒してい下さい。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <傾月の京>鶴様門の朝霧完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月05日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
氷室 沙月(p3p006113)
鳴巫神楽
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
三國・誠司(p3p008563)
一般人
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ

●鶴様門の朝霧
「逃げて……! 神使様方……! 咲耶……さん……!」
 苦し気に、古賀朝霧は呻く。その視線の先には、『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)をはじめとする、イレギュラーズたちの姿があった。
「これは……!? こは、何事……!?」
 友人たる朝霧の変わり果てた姿に、流石の咲耶も動揺の声をあげる。朝霧の様子を一目見た『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は、忌々し気に目を細めると、ちい、と舌打ち一つ。
「間違いない……こいつは肉腫だ!」
 レイチェルの叫びに、一同は驚愕の声をあげた。その言葉を嘲るように、朝霧の右肩の肉がボコリ、と浮かび上がり、巨大な目玉がぎょろりと此方を見渡す。
「肉腫……!? では、朝霧殿は……」
 刹那の絶望が、咲耶の表情を彩る。
「ああ、複製にされちまったんだろうなァ……クソ、やってくれるぜ」
 ぎり、とレイチェルが怒りの表情を浮かべる。源種たる肉腫を、一般の人物や生物に寄生させたものが、複製肉腫だ。生命の正気を失わせ、世に害をなす存在へと買えてしまうのが複製肉腫の恐ろしく、嫌らしいところである。
「成程、こういう手を使ってくるってわけねぇ。なるほど、なるほど!」
 ぎぃ、と『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の口の端が皮肉気に歪んだ。確かな怒りを、抑えている様子だった。
「複製って……マジかよ、そんなホラーゲームみたいな設定持ち出しちゃってまぁ……!」
 『砲使い』三國・誠司(p3p008563)が呻く。
「助けられるのですか……?」
 『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)がたずねる。重要なのは、そこだ。一同の間に緊張が走る――。
「前例は、ないわけではないはず」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が言う。複製肉腫であれば、何らかの手立てがあれば、救出は可能であるはずだった。
「多分、腕のいいお医者さんの力が必要だろうけれどね」
 イーリンが言うのへ、レイチェルは鼻を鳴らした。
「言ってくれるねぇ、司書殿。まぁ、その通り。ガン細胞は切除してやればいい……かけらも残さずな」
「あの目玉……みたいな奴ね?」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が言う。不気味な目玉。それが恐らく、取り付いた肉腫であるはずだ。
「もうしばらく見極めが必要だし、切除するにしても、弱らせることは必須……戦いは避けられないわよ」
 イーリンが言う。イナリが頷いた。
「やる事は変わらないわけね……いいわ」
「かならず、助けましょう……咲耶さん、行けますか?」
 綾姫が尋ねるのへ、咲耶が頷いた。
「うむ……大丈夫。救いの目があるならば、それにかけるでござるよ……!」
 そう言って、武器を構える。左手で妖刀を逆手に、右手に印を組む。戦闘態勢。
「よし……じゃあ、行きましょう、皆さん」
 『元々は普通の女の子』氷室 沙月(p3p006113)の言葉に、仲間達は頷いた。合わせて、武器を構える――驚いたのは朝霧だ。
「そんな……ダメです! 私、もう、抑えきれない……!」
「大丈夫だぜ、お嬢ちゃん!」
 ゴリョウが言った。
「俺達は頑丈でなぁ、お嬢ちゃんが暴れたくらいじゃビクともしねぇさ。それに、こっちには腕のいい医者がいるんでな。すぐ治してやるよ!」
「だから――もう少し、もう少しの辛抱でござる。暴れても構わない、拙者たちが止める! ただ、決してあきらめずに――最後まで、拙者っちを信じて呉れ!」
 咲耶が叫んだ。朝霧は、その言葉に苦しげな表情を見せながら、しかし強く、頷いた。
「うう……わあああああああっ!!」
 だが、肉腫を押さえるのも、ここまでが限界だったのだろう。門扉を引っぺがし、その木片を巨大な刀へと変える。これは、朝霧のギフトが、肉腫の影響で以上に変容したものである。
「さて、啖呵を切った以上、助けないとね」
 イーリンが笑う。
「あの子を助けて……黒幕をぶん殴る。オーケー、それをやれるのが、僕たちだけだって言うのなら!」
 誠司の言葉に、仲間達は頷いた。
「さぁ、斬るわよ……『神がそれを望まれる』……っ」
 その言葉を合図に、イレギュラーズ達は鶴様門へと突撃した。

●門の戦い
「さぁて、始めるか!」
 ゴリョウが声をあげる。同時に、イーリン、咲耶そして沙月は朝霧へと向けて駆けだす。
「道を……開けなさいっ!」
 その道をこじ開けるように、綾姫は刃を振るった。刃より発せられる、爆発する魔力の奔流が冥の暗殺者たちを狙い、吹き飛ばす。
「行ってください!」
「承知!」
「感謝するわ」
 忍び装束と、赤い袴とを翻し、咲耶とイーリンは、朝霧へと向けて駆けだす。
「こちらは任せて――すぐに戻るわ」
 沙月の言葉に、仲間が頷く。それを確認してから、沙月もまた、朝霧の下へ。
 ――それを阻止すべく、態勢を整えた冥の暗殺者たちが迫るが、
「ぶははははっ! 通さねぇよ!」
 ゴリョウの巨体が、それを遮った。ぐわり! その両手を強く掲げ、通せんぼの態勢を取り、にぃ、と笑う。
「ぶはははッ、『京の安寧を乱す』ドブネズミ共ッ!
 この『京を守護る』俺らが相手してやっからかかってきなぁッ!」
 挑発の言葉。そして、その圧倒的な存在感が、敵の注意を一挙に引き付けた。
「シィィィィィッ」
 冥の暗殺者が、深く息を吐く。感情こそ出さなかったものの、その胸に、先ほどの言葉に対する怒りと反論の念が浮かんでいるのは確かだ。冥の人間からしてみれば、京の安寧を乱すのはイレギュラーズ達であろうからだ。
「三途の川の渡し賃の用意は出来ているかしら、彼岸逝きクルージングの開始よ!」
 イナリは叫び、足を止めた冥の暗殺者へと斬りかかる。雷の力を秘めた、斬撃! 白の門を雷がてら仕上げ、があ、と悲鳴を上げた暗殺者が昏倒。
 これに対し、暗殺者たちは、先ほど抜けた3人を完全に朝霧に任せることに決めたらしい。そしてそれは、此方の作戦通りだ。
「うまく乗ってくれたな……じゃあ、まずはお前たちをやっつける!」
 誠司は飛行能力で宙を飛び、空中から弾丸の雨を降らせる。次々と降り注ぐ銃弾が、暗殺者たちの身体を傷つけ――しかし、反撃の小刀が宙を飛び、空中の誠司を狙った。
「おっと……っ!」
 きわどい所であったが、ぎりぎりで回避する誠司。
「なるほど、流石オールレンジ対応ってね。空中でよけ続けるのは厳しいか……!」
「空には私のファミリアーを飛ばしてあるわ! 降りてきても大丈夫よ!」
 イナリの言葉通りに、空には夜目の効く鳥(ファミリアー)が翼を広げている。
「OK、じゃあお言葉に甘えて地上で戦わせてもらうよ」
 危なげなく着地する誠司。地上に降りてからも、再び銃弾をばらまく。
 一方、綾姫は、最前線に斬り込むべく地をかけた。最前線まで真っすぐ、ゴリョウの背中をめがけて、
「申し訳ありません、踏みます!」
「おう、行け!」
 がっしりとしたゴリョウの肩を足場に、跳躍。月光を受けた黄金の儀礼剣が輝き、暗殺者を斬り捨てた。
「さぁて、これから俺は手術をしなくちゃならないんでな。邪魔なギャラリーには退場願うとするか」
 ぶちり、と指先を噛み、傷を作るレイチェル――その傷口から漏れ出る血液で、空中に陣を描きあげる。途端、右半身に描かれた紋様が激しい緋色の光を漏らし、同時に血液の陣から、灼熱の焔が巻き起こる!
 放たれた炎が、暗殺者の身体を包み込んだ。ぎ、と小さく悲鳴を上げた瞬間には、もはやその身体は燃え尽きている。恐ろしいほどの灼熱、憤怒の炎のなせる業である。
 残る暗殺者たちは、じりじりとこちらへと詰め寄る――手に様々な獲物をぎらつかせ。
「やれやれ、往生際が悪いよ」
 誠司が構えて、距離をとる。
「おっと、まだまだ前座だぜ? へばってくれるなよ?」
 ゴリョウが言うのへ、
「なぁに、まだまだだよ」
 誠司は答える。
「さっさとやっつけるわよ、皆!」
 イナリの言葉に、仲間達は頷いた。
「来ますよ!」
 綾姫の警戒を促す声をあげる。同時に、無数の暗殺者たちが、イレギュラーズ達へと襲い掛かった――。

「ぐう、うああああああっ!!」
 ぶおん、と巨大な大剣が振るわれるのを、咲耶は寸での所で回避した。そのまま、けん制射撃に放った手裏剣は、その大剣の影に隠れた朝霧によって回避される。
 朝霧は大剣を乱雑に振り回す。それだけで、地が、周囲の壁が、無残に抉れていく。
「くっ……朝霧殿、お主は、このような粗雑な戦い方をするような流派ではなかった……でござるよ!」
 懸命に抑え込む咲耶。
「ほら、こっちよ、朝霧!」
 同時に抑えを担当するのは、イーリンだ。イーリンもまた、戦旗を構え、朝霧の大剣と切り結ぶ。
「細い腕で、ゼシュテルの人間みたいなパワーだすのね……!」
 皮肉気に笑ってみせる――とはいえ、イーリンも余裕綽々という訳でもない。朝霧の実力は充分だ。元々その地金はしっかりしていたようで、それが複製肉腫と化したせいで、さらに強化されたのだろう。
「貴方が朝霧さん? 凛としてて素敵ね」
 沙月が声をあげる――同時に、その手を掲げる。指輪が黄色いおぼろげな光を放つと同時に、流れ星がその指輪より放たれ、朝霧を狙う!
「そんな貴方に大切な話があるって人が居るから、いつまでも腑抜けてないでとっととツラ貸しな!」
 放たれた流れ星が直撃する。それは沙月に注意を引くこととなる。朝霧は、沙月を攻撃すべく駆けだし――イーリンに止められた。
「行かせないわよ、お嬢さん!」
 鬱陶し気に振るわれた大剣、を戦旗にて受け止める――ぐ、と身体が大地に沈められるような感覚。重い一撃が、受け止めてなおその身体に衝撃となって走る。
(二人だけじゃ、そう何度も耐えられない……ううん、今は弱気を見せている場合じゃない……!)
 胸中で呟きつつ、しかし余裕の笑みは消さないイーリン。これは、咲耶の提案でもあったが、とにかく相手が不安になってしまうようなそぶりを見せたくないというものであった。もしも、此方が劣勢に立たされるなどして、朝霧が不安に……肉腫に負けてしまったら、助けることができないかもしれない。
 だから、あくまでも余裕の表情を崩さずに、イレギュラーズ達は戦い続ける必要があるのだ。
「朝霧、後少しの間だけ堪えるがよい! 安心せよ、拙者達が付いている。百戦錬磨の神使達はそうやわではござらん故な!」
 振るわれる大剣、その一撃を幾度か受け、体力をすり減らしながらも、咲耶はしかし、ヒーローのように笑ってみせるのだ。
「だから気をしっかり持て! 肉腫なぞに呑まれてはならぬ!」
(そうやって笑われたら、私も頑張らないわけにはいかないのよね……!)
 朝霧の振るった大剣が、咲耶を振り払う。その隙を縫うように、イーリンは戦旗を翻して朝霧に斬りかかった。
 戦旗が、朝霧の大剣と交差する。がぎり、と鈍い音が鳴り、しかし戦旗は折れることは無い。
「さぁ、いらっしゃい! あなたが疲れて眠るまで相手してあげるわよ?」
「もちろん、私もですよ!」
 沙月の放つ、幾度目かの流れ星が、再びこの場所に朝霧を縫い付ける。
(でも……そろそろ、あちらに合流する時かもしれませんね)
 ちらり、と視線を暗殺者たちとの闘いが続く仲間達へと移す。戦いはまだ続いており、一進一退の攻防を見せているようだ。
(いいわ、行って)
 イーリンが、視線で離脱を促す。
「悪いけど、朝霧さん? 私も急用ができましたので。此処で失礼いたしますね」
 最後に一度、流れ星を叩きつけ。沙月は後ろの仲間達の下へと駆け付けた。

「どうなってますか!?」
 合流してから開口一番、沙月が声をあげる。
「優勢だ! 何とかなってる! そっちは!?」
 ゴリョウが声をあげるのへ、沙月は頷いた。
「此方も……でも、長くはもたないかもしれません!」
「沙月君、君は大丈夫か?」
 誠司の言葉に、誠司は頷いた。
「私は守ってもらっていましたから……でも、此方では戦います。やりましょう!」
 そう答えた瞬間、戦場を稲光が走り、次の瞬間には黒焦げになった暗殺者の身体が、地面に転がっていた。イナリの一撃だ。
「いいけど、早く来ないと全部やっつけちゃうわよ!」
「だ、そうだ。頼もしいねぇ、まったく」
 レイチェルがにぃ、と笑う。此方は優勢に事を進めていたようで、実際危なげなく敵の数を減らしていっている。
「速く片付けて、本命に取り掛かりましょう!」
 綾姫の言葉に、仲間達は頷く。そして、最後の仕上げが始まろうとしていた。

●救出
「くう……!」
 大剣の一撃を受けたイーリンが呻く。何とか抑えてきたが、流石に限界が違い。
(最悪、救出のキーになりそうな咲耶には下がってもらうか……でも……)
 己が身を盾にすべきか、そんな考えが浮かんだ瞬間。巨大な影が背後より迫り、朝霧の大剣を、その両の手で受け止めて見せたのだ。
「おう、待たせたな!」
 それは、ゴリョウの姿だ。暗殺者たちを全滅させた仲間たちが、此方への支援に向ってきたのである!
「イーリンさん、咲耶さん! いったん下がって!」
 沙月が叫び、
「おっしゃ嬢ちゃん、存分にかかってきな! この身はちったぁ頑丈なんでな!」
 その身を以て朝霧の攻撃を受け止めるゴリョウ。それをしり目に、イーリンは後方へと退避。
「おう、二人ともやられてねぇな? 手術には優秀な目とメスが必要だからな」
 レイチェルが言うのへ、イーリンは笑った。
「まだこき使う気?」
「朝霧殿を助けるためなら、まだやれるでござるよ!」
 レイチェルはにぃ、と笑ってみせる。
「よし、タイミングはこっちで指示する! それまでは思いっきりやってくれ!」
「了解よ! さっさと正気に戻んなさいっ!」
 イナリが叫び、放つ焔の一撃が、その足を止める。その場で振るいあげた大剣を、しかし誠司の大筒が大剣に直撃し、その姿勢を大きくずらせた。
「続いてっ!」
「了解ですっ!」
 綾姫が攻撃を続行する。体勢を崩し、デッドウェイトとなった大剣に、さらなる強烈な一撃を喰らわせる。ばぎ、と音を立てて、大剣が粉砕。残された柄も、衝撃に耐え切れず、朝霧の手から零れ落ちた。
「ネタはあがってるのよ……!」
 イーリンが叫ぶ。その目が、真相を捉える目が、肉腫との癒着具合を、完璧に見切ってみせた。
「今!」
「了解だッ!」
 レイチェルは、吸血鬼としての力を一時解放、指先の傷から血のナイフを作り出し、朝霧の方へと投げつけた。回転する刃が、その肩の肉を傷つける――だが、肉腫の破片は残ったままだ。
 斬り損ねたのか?
 違う。導いたのだ。
「その線の通りだ! 斬れ! 咲耶!」
「承知――!」
 朝霧に肉薄したのは、咲耶だ。記された切り取り線、その通りに、咲耶は妖刀で切り裂く。
 果たしてそこには、綺麗な傷跡が残っていた。癒着していた肉腫の破片、それだけを綺麗に切り取った、そんな痕であった。
「消えよ、肉腫ッ!」
 斬り捨てられた肉腫の破片に、咲耶は刃を突きつけた、ぷぎぃ、と小さな悲鳴を上げ、肉腫がぐずぐずと崩れていく。
 それを合図にしたように、朝霧は意識を失い、糸が切れた人形のようにその身を投げ出した。
「おっと、患者は大事にしなきゃな?」
 近くにいた、ゴリョウがそれを受け止める。
 ここに、手術は成功したのだった。

(やれやれ……今回は、見捨てないで済んだなぁ……)
 胸中で呟いて、レイチェルは人知れず胸をなでおろす。
 幸いにも、朝霧に大きなケガはない。多少の傷跡は残るかもしれないが、五体満足なのは事実だ。
 月光が照らす、戦闘後の鶴様門。今は、静かに眠る朝霧と、イレギュラーズ達だけが残るのみである。
「良かった……皆のおかげでござるよ……かたじけない……!」
 咲耶が深く、頭を下げた。
「いいのよ。皆が助けたかったから、こうなったわけだしね」
 イーリンが手をひらひらと振るう。
「ま、そう言うこったな! ハッピーエンドが一番よ!」
 ぶははははっ! ゴリョウが豪快に笑ってみせた。
 一方。
「……ダメだ。霊魂になっても、此方の質問に答えてくれない……」
 悔し気に、誠司が呟いた。霊魂になれば、世俗のくびきからは解き放たれて、冥の暗殺者たちもこちらの事を分かってくれるかと思ったが……。
「忠誠心はよっぽど、って事なのね。馬鹿は死んでも治らない、か」
 イナリも悔し気に、そう言った。
「イーリンさんにお願いされて調べましたが、証拠になりそうなものは何も残っていませんでした」
 沙月の言葉に、他の仲間達も頷いた。
 腐っても暗部という事だろう。死して敵の情報源になるつもりは微塵もないらしい。となると、此方が得た情報源は朝霧となるが、使い捨て同様に扱われた朝霧が何かを知っているとは考えにくいし、今はそれよりも、傷の療養に専念してもらった方がいいだろう。
「……巨悪は、あそこに、ですか」
 門から臨む、高天御所。そこには、此度の大呪を目論む者たちが居るはずだった。
「――その尻尾、必ず」
 綾姫は、ぐ、と手を握った。
 月は未だ欠けることなく、イレギュラーズ達を覗いている。

成否

成功

MVP

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、鶴様門は制圧され、
 複製肉腫とされてしまった少女、朝霧も、無事に救出されました。
 朝霧は、今は街の医院で、休養中であるとの事です。

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