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シナリオ詳細

その強さに近づきたくて

完了

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●でも、性癖をブチ壊してくるシスターに普通、頼む?
 その日、ギルドローレットの門を叩いた少年がいるのだと『月天』月原・亮 (p3n000006)がその場に居たイレギュラーズに声を掛けたのは偶然であり、更に云えばその『訪れた少年』がクォーツ修道院のドーレ・クォーツだったことも偶然だ。
「誰かの知り合い?」と問いかけた時、仕事を終えたばかりであったリア・クォーツ (p3p004937)が「あっ」と指さしたタイミングも最高だ。
「ドーレ? こんな所で何してるの」
「げえ、リア」
「げえって何だ、げえって」
 嫌悪では無い。頬を赤く染めてふい、と視線を逸らしたドーレを見て亮は「ははーん」と云った。
「はー、ふんふん、暴力シスター派か。友達(と書いて雪風と読む)に伝えとくよ」
「は!?」
「で、ちち、しり、ふとも――」
 ぽん、と亮の肩を掴んだ黒くて靄の出たムキャムキャするあの存在はなんだったのだろう。
「……で?」
 気を取り直したリアに咳払いを一つしてドーレは真剣さを溢れさせる表情で云った。
「俺に稽古を付けて欲しい」と。

 ちなみに、この時の事をドーレはローレットって怖いところだと実感したと語ったという。


 ――さておいて、特異運命座標の活躍と実績は各地に英雄譚として轟いていた。
 鉄帝国との共同戦線を張り『あの』ビッツ・ビネガーとも共闘したのだという。
 其れを耳にすれば『強くなりたい』と願うドーレが黙っていられるわけが無い。
 前述の通り、姉(大好きだが、素直になれない年頃だよ)に性癖を悉く破壊され、周囲に心配されていようとも――ローレットの、そして、その一員である姉を頼ることが『強者』への近道なのだ。

「――と、云う訳らしく」
 リアはドーレの講師になって欲しいと幾人も特異運命座標に声を掛けていた。
 その内容というのも簡単だ。

 原っぱに集まって、小型のモンスターとの実戦訓練や特異運命座標の鍛錬方法のレクチャーである。
 それだけでもドーレにとっては貴重な体験であり、今後に生かしていくことが出来る筈だ。
 自身がマンツーマンで教えるのも良いが、其れよりも多数の特異運命座標に稽古を付けて貰った方が良いとも考えた。ちなみに、これに関しては周囲の者達は口を揃えて『その方が良いよ」と言ったそうだ。

「皆にお願いしても良い?」
「勿論」と誰もが答えただろう。

 そう……これは稽古だ。リアの可愛い弟分の自主的な稽古である。
 例え、素直じゃ無いドーレがリアの変質したギフトのことを心配して会いに来た事実があったとしても!
 大の大人程度ならば返り討ちできる実力を持っており、自分に出来ないことは出来ないと判断する事の出来る知的な一面を持っていたとしても!
 性癖を悉く破壊していく姉と一緒に活動することになるのは……仕方ないのだ。

GMコメント

 リクエスト有難うございます。夏あかねです。友情出演リリファルゴン。

●ドーレ君に稽古を付けよう
 1日かけてドーレ君に稽古を付けてあげましょう。場所はクォーツ修道院近くの原っぱです。クォーツ修道院にも立ち寄ることは出来ます。
 ドーレ君は朝から鍛錬を始め、昼食をピクニックで楽しみ、夕刻にはクォーツ修道院に戻るというスケジュールだそうです。
 比較的に自由に鍛錬して頂けると思います。

 突然、原っぱなので小型のモンスターとかバルツァーレク家で管理されている馬とか飛び込んでくるかも知れませんね。それなりに対処してあげてください!
 ピクニックも沢山楽しんで一日を訓練と休息かねて過ごしてくださいね。

 ちなみに、「自分の強みは此処だよ」と自分のスキル構成やコンセプトをドーレ君に教えてあげる等がとても参考になるかも知れませんね。
 こんな風に鍛錬すると良いだとか、モンスターを一緒に倒してみよう!とか。
 何なら冒険の想い出を聞かせてあげるのも良いかもしれません。冒険譚は参考になりますから。

 彼は現状は魔法の才能はてんで在りませんが憧れているようです。何だって出来るようになりたいですよね。
 拳の方は大の大人をはっ倒せる位には実力があります。うん。結構物理型って顔してますよね……。

●ドーレ・クォーツ
 元ラド・バウファイター候補生。ビッツ・ビネガーに多少の勘違いがあろうとも、憧れています。
 強くなりたいという意志は強く、自身に出来ないことは出来ないと割り切ることが出来ます。それ故に、他人に教えを請う素直さもあります……が、姉であるリアにはツンツンとしており素直になれないお年頃。
 本当はリアさんの事を心配しており支えたいとも考えていますが言えないのでした。
 それ故に、最近の姉の様子を皆さんに聞きたい見たいですよ。言えないけど……。
 ちなみに彼もオトシゴロなので性癖が捻じ曲がってます。何でって、其処に居る姉の所為だよ!
 この訓練で彼の性癖が捻じ曲がったら……どう、しましょうね……。

それでは、少年の力になってあげてください!

  • その強さに近づきたくて完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月24日 22時30分
  • 参加人数12/12人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(12人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘

リプレイ


 クォーツ修道院。『壊れる器』リア・クォーツ(p3p004937)の『実家』であるこの場所で此度、イレギュラーズを待っていたのはドーレ・クォーツと言う少年であった。
「成程成程、ドーレさんについてローレットの資料庫でもチェックして来たんですけど『元・ラドバウ闘士』ですか! リア殿の院は人材豊富ですね!」
 多忙な『姉』が不在の中、自身が『家族』を護らなくて張らないと気丈に頑張る少年を『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は「素晴らしい志です!」と褒めちぎる。その様子を聞きながら小さく笑みを零したのは『ただひたすらに前へ』クロバ・フユツキ(p3p000145)であった。彼自身もクォーツ院で寝泊まりをした経験からドーレとの面識がある。あの『素直になれないお年頃』の少年はルル家の言葉を聞けばそっぽを向いてしまうのだろうか。
「『強くなりたい』ですか。良い心がけだと思います。
 ……年頃としてらしい願い、というのは簡単ですが……その心は、何処でしょう?」
 自己紹介もそこそこに、そう切り出したのは『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)。その言葉に大きく頷いたのは『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)であった。
『強くなりたい』という気持ちは自身にも通じる物だと雪之丞は認識している。そして、リアの弟分とあらばその一助となりたいと願う物。
「どこ、って?」
「分かり易く言うと、ですね。――何の為に、強くなりたいのか……です」
 戦う力は千差万別。兵士、騎士、傭兵、ラド・バウの闘士なら闘士の――それぞれの強さがあり、それは必ずしも同じではない。最初に聞いておきたいとそう言ったリースリットとドーレの様子を伺い見る『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)は彼がどう答える物かを楽しみにしていた。
「家族のため、だ。勿論、ラド・バウの……それに、ビッツ・ビネガーの事は諦められない。
 けど、リア――……リア姉が居ないときに家族を護るのは俺の役目だろ?」
「ふふ。家族のために強くなりたい、か」
 良き心がけだと頷いたのは『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)。それでもドーレが一人で相手に出来る人数は限られる。応援する気持ちを『裏方』として生かそうとポテトは大きく頷いた。
「ふふ。いつも頑張り屋さんって聞いているわ。とってもとっても良い子なのだわ!」
 微笑ましそうに見詰める『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は続く言葉をそうっと秘める。
(ちょっと背伸びをしている所や、少しだけ素直じゃない所も、とってもとっても可愛い子なのだわぁ……)
 強さを手にしたいと願うのは悪いことではない。それは自身達も追い求める物だと『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)はドーレの様子を見た。歴戦のイレギュラーズに囲まれて緊張した彼の様子を見れば、きっと此処の全員から教えを請いたいと云う事だろう。それだけ――その鍛錬だけでは破綻してしまう。適度な息抜きも大事であることを教えてやりたいとリウィルディアが告げれば『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)は大きく頷いた。
「ドーレの稽古なあ……座学……いや俺あんまし教えるの得意じゃねえし……基礎訓練……いや俺下手したらドーレより先にバテそうだな……そうだな……取り敢えず実践あるのみか?」
 どうした物かと悩ましげなアオイ。例えば『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)であれば動きやすい様にと体操服(ブルマだ!)に着替えて父から教わった鍛錬をレクチャーすると宣言していた。戦場で武器をなくしたりしても生き残れるようにと徹底的に無手での戦いを叩き込まれていた。
 そして、一番危険なのは――
「まだまだ人に物を教える程じゃあないんでね、今日は一緒に頑張ろうか
 なるほど、ビッツ・ビネガーに憧れているんだ。俺も随分と世話になったよ……ん、気になる?」
 そう――『鬼教官』シラス(p3p004421)だった。路地裏で軽くあしらわれ、船上ではボロ雑巾にされた話の数々。あの優雅にして鋭い毒棘ばかりの『S級門番』を思い返しシラスは「頑張ろう」とドーレへ言った。
(……ドーレ、あんたシラスにボコボコにされたとしても、あたしは手出しはしないからな)
『姉』のスパルタさは――最早言うまでもないだろう。


 丸一日の訓練となれば食事も必要だろうと皆が稽古を付ける間の家事や孤児院の『家族』の世話をと名乗り出たのはポテトであった。
「今日は大勢で押しかけてすみません。良かったらこれ、皆さんでどうぞ」
 挨拶にとクッキーを差し出すポテトにシスターは「ドーレがお世話をおかけして」と頭を下げる。ドーレもリアも『頭の上がらない』シスターは穏やかに微笑みキッチンを貸し出してくれる。
「クッキーも皆で食べてくれ.形は歪かも知れないが、味は保証しよう」
 にこりと微笑むポテトに修道院に住まう『弟』『妹』はわあ、と華やいだ。ピクニックに持って行くお弁当も作らないといけないかとエプロンを着けたポテトの背後からひょこりと顔を出した華蓮は自身の『座学』までには少し時間があるとポテトへと告げる。
「……あ、華蓮。お弁当作るの手伝ってくれないか? 一人で作るより、二人のほうが早いし色々作れるからな」
「ええ、勿論。此れから頑張るドーレ君にはご褒美が必要なのだわよ!」
 にんまりと微笑んだ華蓮にポテトは大きく頷いた。ピクニックの準備は彼に任せて、リアのいない間にばっちり家事を済ませようと忙しなく動くポテトを手伝うのは女の子達。
 ドーレの訓練を見学しに行こうかと男の子を連れて歩き出したのはリウィルディアだ。
「危ないから近づきすぎないようにしてね」
 はあいと微笑んだ男の子達と共に罪深いかな、男女何方も魅了する桃色蜂蜜の香水の気配を振り撒くリウィルディアは蠱惑的に笑み浮かべる。
「そうだ、みんな、ドーレが何のために強くなろうとしてるか知っているか?」
 首振る子供達にポテトはにんまりと微笑む。
「みんなを守るためなんだって。頑張っているドーレのために、今日はドーレの好きな物いっぱい作って有難うを伝えないか?」
「作りたい」と手を上げたのは何時も仲裁役に入るミファーであった。ドーレの好む食事をファラと共にあれじゃないこれじゃないと悩んでいる様子にポテトは笑みを浮かべた。

 さあ、此方はドーレの稽古開始である。先ずはよく知るアオイが相手だ。
「わりぃが教えるのは正直得意じゃなくてな、実践形式でやらせてもらうぞ……さぁ、かかってこい! 俺の得意は速攻戦法だ、その強みを体で覚えてもらうとしよう」
 地を踏み締めたドーレが『がむしゃら』に拳を突き立てる。練り上げた治癒の魔力を工具の形に修復し自身を『修理』しながらもアオイは適切に見極める。
 ドーレへと『踏み込める』隙を選び、自身のその身に可能性を顕現させた。ギアスタッフより顕現したレンチをドーレの胸元へと投げつけた。「わ」と慌てたように腕を上げたその刹那、アオイの周囲には召喚された歯車が勢いよく回転し続けた。
 回転のエネルギーにより幾重もドーレへと放たれ続けるギアドライブに「あっ」と慌てたようにアオイが手をぴたりと止める。魔力を失った歯車が消失し、地面へと叩き付けられた形のドーレをまじまじと見下ろす。
「……やべ、大丈夫か? ドーレ……?」
 すまん、とアオイは呟いた。ついついやり過ぎてしまった。反応がない。
 アオイに『やられた』ドーレの傍に座ったリウィルディアは「ほら、ドーレ」と膝を叩いた。
「僕の膝だと不満かもしれないけれど、そこは少しだけ我慢してもらおうか」
「い、いや……」
 そっぽを向いて休息をとるドーレに「悩みなんかはないのかい?」と優しく優しく問いかける。知らない仲ではないからこそ、多少の理解が有るつもりだと柔らかに微笑む。
「ほら、ドーレ。言ってみてよ」
 頬を両手で包んでぐい、と上から覗き込む。ほんの少しの悪戯心に、ドーレの頬がかあと赤らんだ。
「……気を張りすぎるのもいけないよ。頑張りすぎは、良いことではないからさ」
 微笑むリウィルディア。肉体と心を休めて彼が起き上がるまでの暫くの休憩時間だ。
「元気はでたかい? ならあとは、ちょっとだけ勇気を分けようか」
 その言葉に『何かを想像した』のか、その香りが悪いのかドーレはむぐ、と息を飲んだのだった。


「ドーレ君、戦いで強くある為には体の強さだけじゃない……お勉強もいっぱい必要なのだわよ!」
 眼鏡をくい、とした華蓮は堂々とそう言った。『華蓮教導』はチーム戦などの『戦い方』をレクチャーしてくれる。ソレも基礎の基礎からしっかりと、だ。
 色々な戦い方を理解し、ドーレの此れからの道を示したいのだと微笑む華蓮は先程のアオイの様な連撃は嵌まると強いのよ、と教え続ける。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず…相手がどういう戦い方なのかを理解する事も強くなる為に必要だしね」
「と言うわけで、ボクだよ!」
 選手交代と焔は武器を持った相手への対処方法をレクチャー開始。
「時間はあんまりないから基本的なことだけになっちゃうけど優しく丁寧に教えてあげなきゃ! まずは基本の構えから……此れは大事だからね、えっと」
 ぴたりと背にひっついて少しずつ『型』に嵌め続ける。耳元で声を出すことになるからびっくりさせないようにと優しく囁く焔の声にドーレがぞわりと背筋に走る気配を拭うことが出来ない。
「……耳」
「え?」
「耳!」
 耳元で囁かれる事に緊張をし中々上手くこなせないドーレなのだった。
 無事にこなせた頃、焔へとドーレは最近の姉について問いかける。
「んー、ちょっと前に練達で一緒に魔法少女になるお仕事とかしたよ!
 ふりふりひらひらの可愛い服を着て戦ったりしたんだ! 頼んだら撮ってた映像見せてもらえないかなぁ――ってリアちゃん!? 待って、お耳はダメいたたたたっ!」
 強制退場を喰らった焔はそのぴょこりと生えた耳をぎゅうぎゅうと捕まれて消えていったのだった……。

「拙は、主に刀を使いますが、格闘技も嗜み程度には。拙の戦法は、皮を切らせて肉を断つ。守りを重視した物でしょうか」
 様付けを遠慮したいというドーレに配慮して呼び捨てで彼を呼ぶ雪之丞は防御の基本を教えると『格闘技』の防御を彼へとたたき込む。
「防御の基本は、衝撃・威力と言ったものを殺すことにあります」
 拳や体の動きで打点をずらし、体感させることを目的に手を取って動きを教え続ける。ふと、ドーレの鼻腔を擽ったのは黒猫のようにしなやかで艶っぽい香だ。
「匂いが、気になりますか? 今日は、香水を少々、付けていますので。それでしょう」
 集中力が途切れているという注意と共に姉に送るならば差し上げましょうかと揶揄う雪之丞にドーレはぷい、とそっぽを向いた。
 小型のモンスター相手に防御力を破壊力に変える無双の防御姿勢を見せた雪之丞は其の儘に致命の呪いを帯びた一撃を放つ。
「こういった物も、この世にはあります故。相手の得物や、風体だけで判断してはいけませんよ」
 頷いたドーレに雪之丞はそっと手招いた。その耳元で小さく小さく言葉を重ねる。
「心に秘めた言葉は、声にせねば伝わりませんよ」
 気を逃せば秘めたまま。必要なのは一歩の勇気――だ。
「もしも、もしもですが、伝えられなかったことを悔いることがないように…・・その言葉がいつか、支えになるかもしれませんから」


 単純な武力だけではない。適切な強さを得ていくために――リースリットは穏やかに微笑んだ。
「リースリット、と申します。宜しくお願いしますね、ドーレ君」
 魔法の敵勢がない彼と、筋力のないリースリット。対照的な自分自身のことを例に挙げる。精霊や魔法との相性の良い自分は魔法剣を得手としている。
「ドーレ君なら、不足を補う意味でも使い手の魔力を消費しない魔道具の類も選択肢ですね。
 私は、家族の――父の役に立ちたくて、武術魔術に限らず必要な物を求めました。未だ未熟ですが……」
 この様な、と示すのは魔晶核。魔力を増す水晶である。リースリットはドーレにとっての『強くなる道』を気にし続けた。
「ドーレ君は……その想いを忘れなければ、貴方ならきっと至れると思います。頑張ってくださいね」
 頷いたドーレの前で翼を広げて空を飛ぶのはクリムであった。黒衣のドレスに身を包んだ彼女は『下』から下着が見えようとも構うことはない。「今日は黒に赤いフリルの下着だ。見られてもどうってことはない」と堂々と宣言するが、ソレを聞いたドーレが「言わなくて良い!」と叫んだ。
 幾重も攻撃を重ねる様子を眺めながらリースリットは完全に物理的なドーレにとって飛行するクリムは相手取るに難しい対象なのかと研究を重ねていた。
 後ほど、彼の弱点などを教えてやれば良いだろう。
「ふははは、ドラゴンだぞ! 格好良かろう! 所望するなら訓練後に空中散歩も体験させてやろう! 何なら尻尾の鱗の何枚かを土産に渡してもいい!」
「そっちの姿の方が戦い易い!」
 脇が見えるわ下着が見えるわ。ドキドキして仕方が無いと言った調子であったドーレは姿を変化させたクリムに叫んだ。
 そっとリースリットは目を伏せる。彼も、お年頃――と言うことだろう。
「強くなりたいならとにかく止まっていたらダメだよ。今日の自分は昨日の自分よりも必ず強い、そうあるように誓って」
 実践に一肌脱ごうかとシラスはその拳をぐ、と構える。まさしく『ラド・バウ』闘士のように。
「おっと、話が長くなった。何をしてもいいぜ、かかって来な」
 一歩踏み込んだドーレにシラスは暫くは手を出さず組み手の形式をとり続ける。様々なファイターから学びはしたが――強い。ある程度の加減をして居るつもりのシラスだが加減の基準が壊れているのは言うまでも無い。
「悪くはないけど、加減してるんじゃない? もっとこう!」
 受けた攻撃をトレースして、殺意を持った技で反撃を始める。拳を突き立て、ドーレへと『自分ならこうする』と組み合わせた格闘魔術がドーレを攻め続ける。
 勿論のことだがシラスに『ボコボコ』にされ続けるドーレ。その傷が増えていく様子を眺めながらリースリットは「その辺りで……」とそっとストップを掛けたのだった。


「なぁドーレ。色々教えてもらったんだ。一つ実戦で試してみたくないか?」
「クロバ兄が相手になってくれるのかよ」とドーレは泥だらけの頬を乱暴にぐい、と拭って笑った。
 地を踏み締め、真っ直ぐに拳を突き立てたドーレ。「本気で来い」と言ったからにはクロバとて己の剣術を出し惜しむことはしない。
 クロバのオリジナルたる強烈な一閃、そして続く納刀の間に構えを取ってドーレの動きを読み続ける。それでも『朝』と比べれば攻撃動作そのものの変化を感じさせるか。
「良い拳だな、やっぱり凄いよお前!」
 ドーレはきっと、まだ、満足していない。家族を、そして頑張り屋で無茶をする姉を護りたいと、そう願うからこそ求める強さ。手合わせの中でクロバは彼の信念を感じ取る。
「ドーレ、俺も何かを守りたくて求めた力なんだ」
 そう、小さく小さく。彼にだけ聞こえるようにクロバは言った。自身は決して教える立場ではない。護りたい物を護れなかった存在として――そして、兄貴分として。真っ正面からぶつかることしか出来なくとも自身とて『妹分』の様子が変だという事は知っていたからこそ。
「……いつでも迷えよ。その時は俺も一緒に悩むからよ。家族の為だからな」
「クロバ兄……」
「――で、それはそれとして気になる女性でもいたか? ん?」
 小さく笑ったクロバにドーレは「ばっ、違ッ! 馬鹿兄!」と叫んだのだった。

 湖で汚れを落としましょうとルル家はドーレを手招いた。
「怪我とかしてると綺麗な水で洗わないとですからね。さぁさぁ、いきますよー!」
「ちょっ!?」
 ほらほら、と服を引っ剥がすルル家に少年の悲痛なる叫び声が響く――が、誰も助けない。
 あれよあれよと服を脱がせるルル家(クリティカル58)。服を脱がされ湖に放り込まれたドーレが慌てて湖から顔を上げ――潜った。
「どうして脱いでんだよ!」
「ええ? 服を脱がないと濡れてしまいますから、脱ぐのは当然でしょう?」
 きょとんとしたルル家も衣服を脱ぎ捨てドーレの体を水で洗い流す。怪我がないかどうかと体をほぐし、揉んでさすって……少年の心は虚無であった。
「うん、かすり傷ばかりですね。さすが歴戦のイレギュラーズ。加減も心得たものです。
 良い筋肉の付き方をしてますね。真面目に訓練してることが伝わります。ただもうちょっとストレッチもしたほうが良いですね」
 うんともすんとも言わないドーレにルル家はぱちりと瞬いて、手をわきわきとさせながら微笑んだ。
「さ、じゃあ前を見せてくださいね。背中側だけ見てもわからない事もありますから!」
 抵抗なんて歴戦のイレギュラーズの前では所詮は無駄。合気道の要領で引っくり返されたドーレの「助けてリア姉!」という叫び声が響き渡ったのだった。


「お疲れ様。ドーレも今日一日頑張ったな。
 今日はドーレの好きな物みんなでいっぱい作ったんだ。いっぱい食べてしっかり休んで、明日も頑張ってくれ」
 微笑んで頭を撫でるポテトの掌にドーレは「ども」とそっぽを向く。
「頑張ったね! 偉いね! さあ、食事にするのだわ。大丈夫かしら? 疲れているわよね」
 華蓮ちゃんぬいぐるみを差し出してぎゅっとして頭を撫でる華蓮に恥ずかしがりながらも拒否ることが出来ないままのドーレ。神秘の使い手として癒しを受けながらドーレはドキマギしたように視線をあちらこちら。
 食事を楽しみごろりと転がったドーレは眠っていたことに気付きはっと瞼を押し上げた。聞き慣れた音色に、レプ=レギアの旋律が心地よく現実へと引き戻す。
「……起きた?」
「リ――」
「ならとっととどきなさい。いい加減足が痺れたの」
 ごん、と音を立てて頭が落ちる。いてえと非難の声を聞きながらリアは大きく伸びをする。
「今日、あんたがボコボコにされたり、ちやほやされて慌ててる姿見てて面白かった……じゃない、思ったことあるのよ」
「……何だよ」
「大切な人を……いえ、家族を守る為に、あんたはどんな事にも決して挫けない。
 どんなに地面にぶっ倒れても、お前の旋律は力強く鳴り響いている……ドーレ、お前は強いわ」
 リアの言葉にドーレは口を開き掛けて、言葉を飲み込んだ。ただ、姉の言葉を待つように唇を引き結んで――
「そして、これからもっと強くなる。あんたがもっと強くなるまでは、あたしがあんたを守ってあげる。……だけど、いつかあたしよりも強くなることがあったら……その時は、役割交代。ちゃんとあたしの事も守れよ~うりうり~」
「バッ、お前のこと位適当にしてても護れる! クソリア!」
「だーれがクソリアだ! ……ふっ、あはは、元気じゃない! 顔赤くして、怒ったの?」
 ふん、とそっぽを向いた弟にリアは「ふふ」と笑みを零し――勢いよく顔をしかめ頭を抑えた。
「……リア?」
「いてて……あぁ? 何でもないわ、いつもの頭痛。最近セキエイの運営とかでも忙しいし、疲れてんのよねぇ」
 心配すんな、と頭をがしがしと撫でる姉にドーレは夕方のクロバを思い出す。

 ――リアの様子が少しおかしい。

 彼も、そう気付いていると言っていた。「俺には言えないのかよ」と言葉を飲み込んで、『弟』は知らない振りをした。
「さ、みんなにお礼を言いに行くわよ」
 早く立ちなさいよ、と手を差し出す姉に「分かってるよ」といつもの通りにそっぽを向いて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 少年の性癖がとっても歪んだ気がします!
 リクエスト有難うございました!

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