PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<希譚>去夢鉄道石神駅

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 希望ヶ浜地区には去夢鉄道と呼ばれる鉄道会社が存在し、希望ヶ浜での生活をより豊かにしている。希望ヶ浜独自の『企業』や文化は多数存在し、練達でも有数の富豪である『澄原』家が中心となって作成した医療分野――澄原病院は希望ヶ浜の住民ならば誰しもがその看板を見た事があり、訪れる機会もあるだろう――やどこの地域にでも存在する新興宗教、静羅川立神教。冠婚葬祭は任せて呉れと看板を堂々と掲げる阿僧祇霊園に地域の夏祭りや神道分野を司る音呂木神社――その名前で判別はつくだろうが、音呂木ひよのの生家である――や通信分野を担った佐伯操率いる佐伯製作所等々……希望ヶ浜では今は良くも悪くも欠かせぬ存在だ。

 さて、希望ヶ浜を縦横無尽に結ぶ『ネットワーク』のように存在する去夢鉄道には郊外へ繋がる路線もいくつか存在している。
 去夢鉄道にもいくつかの噂話が存在する。その一つ――希望ヶ浜学園のオリエンテーションの際に『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)が音呂木ひよのに調査を依頼したという『最終電車。寝過ごした生徒が辿り着いたのは――』という内容だ。旅人達の中では乗り過ごした電車がどこか見知らぬ駅に到着し、異界に連れ去られるという都市伝説は耳に胼胝が出来るほどに聞いた事があるだろう。勿論、音呂木ひよのとて「あるあるですね」と言った。
 無数に存在する都市伝説は生まれては死んでいく。例えば昨日出会った口裂け女は今日の口裂け女とは違うかもしれない。言葉の通り『噂は人の数だけ』存在している。同じ内容でも別の存在であり、危険度だって大きく異なる事がある。
 つまり――
「オリエンテーションの後は何かがあるってことだね? 分かる、分かるよ!
 伊達に『死に続け』てきてないしさっ! 今回は電車関連の都市伝説に実践訓練って事?」
『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)の予測に対してひよのはにんまりと微笑んで後方、椅子にゆったりと腰掛けている無名偲・無意式に視線を送った。
「俺に説明を求めるな」
「あら、校長の仕事くらいなさっては?」
「……『去夢鉄道』ってのがある。まあ、学園前駅からその辺の都市部に出かけるなら便利だろう。
 それに一つの噂が存在していてな。最終電車も終わった後の深夜1時23分に去夢鉄道中央駅に来るはずのない電車が停車する。其れに乗ったら異世界……ってな」
 去夢鉄道の『希望ヶ浜中央ターミナル駅』
 最終電車が終わった後、ホームに到着した電車に乗り込むと異世界へと連れて行かれるという噂話。
 ……通常で考えれば電車の整備のための回送電車なのだが。
 ここに話の尾ひれがついた。去夢鉄道石神(しゃくじ)線。利用者が少なく廃線となったその路線に向かっての電車が深夜1時23分に到着するらしい。
「まず、廃線になっている以上、そんな電車が深夜に発着する事自体があり得ない」
「ええ。あり得ない電車に乗れば異世界――というのもありがちです。
 終点として表示されている『石神駅』へと無事にその電車が辿りつくのかさえ疑問ですが……」
 ひよのの言葉に花丸もリンディスも首を振った。そもそも、安全無事に終点へと辿り付ける訳もない。
「質問をしてよいですか? 石神線は利用者が少なかったという話ですが……石神駅はどのような場所なのですか?」
「ああ。石神地区は再現性東京希望ヶ浜と練達のハザマ。
 詰まりは『この夢のような世界』と『現実』との中間地点って奴だな」
 再現性東京<アデプト・トーキョー>の希望ヶ浜は『異世界への召喚』という現実を受け入れられなかった者たちが日々を謳歌する為の仮初の場所だ。いつかはその夢から覚めなくてはならなくなる。……この世界から『去る』人々を送り続けるための鉄道。
 そういえば聞こえは良いが、その名前にはもう一つ『ある都市伝説』が絡んでいるという。

「サルユメって言うから『猿夢』かと思ったよ」

 花丸が冗談めかして笑えばひよのはため息をついた。正解、なのだろう。
「まあ、つまる所、表向きには『去る夢』ですが、そうした夜妖が絡んでいる事は否定できませんね。
 そいつが出てくる可能性がある。それはしっかりと認識したほうが良いでしょうし……。
 まあ、後は……1時23分の石神駅行き急行なんてもの、普通ではあり得ないのですから『その電車に乗ったら異界に連れ去られる』と思ったほうがよいでしょうね」
「肝試しだなんだって他の奴らが乗るのも困るからな。とりあえず、お前らで調査に行って来い」
「生徒遣いの荒い事!」

●『ここからはあらすじである』
 ――深夜1時10分を集合時間とした。
 23分にホームへ滑り込んでくる石神駅往きの電車に乗り込んだ。
 電車内部はいたってシンプルだ。淡いワインレッドのクロスシートが幾つも並んでいる。
 どうやら先客が居る様で幾人かが座席に座っているのが見て取れた。
 一先ずは開いた客席に腰掛けたほうが良いだろうかと5両編成の4両目に乗り込み席へとつく。4両目のチョイスは校長がしたものだった。

『この度はサルユメ鉄道をご利用いただきありがとうございます。
 当列車は1時23分発 シャクジジジジジジジジジジジジ――――』

 音声が乱れた。

「気をつけてください」とaPhoneを通してひよのの声がしたが、その音声もすぐに途切れた――否、途切れたのではないのかもしれない。ざあ、というノイズが走った後、aPhoneの『通話音声』さえ電車内のアナウンスに変更される。

『次は――活け造り~ 活け造りでございます~』

 ……ああ、やはり噂の通りの『猿夢』か。けたけたと笑い声がする。ちいさな猿の夜妖の姿が見えた。
 そうしているうちに電車は進み始める。最早降りる事も出来ぬとでも言う様な速さで駆け抜け始める。
 電車の中でのアナウンスは聞こえ続けるが5両目の乗客の命が脅かされているだけなのだろう。此れが現実か、はたまた夢であるかは分からない。
『4両目へと乗れ』と校長が指示してきたのは5両目がこうなるのが分かっていたからだろうか。
 5両目の最前列が『アナウンスの通りの処理』を行われたとき、電車は停止した。

『石神駅、石神駅でございます~』

 ……降りろというように扉が開かれる。

『此れよりこの列車は“虐殺”に入らせていただきます。
 お乗りのお客様は、皆様死んでいただけますよう――』
 電車を降りれば、列車のアナウンスと駅のアナウンスは連動していた。
 猿や獣を思わせる夜妖が飛び出してくる。石神駅の奥からは祭囃子が聞こえていた。
 無人駅、その端に存在する電話ボックスは耐えず鳴り響き、その存在を誇張している。

 ――良いですか。倒せぬ悪性怪異はこの希望ヶ浜には存在しません。
 逆に言えば希望ヶ浜の怪異は『倒せる存在』であるということ。
 ならば……その怪異の大本を叩かねばなりません。猿夢も異世界の駅も『何かに使われた』だけだとすれば――

 ……倒すべきは。

「しょーーーーーごーーーーーーー」

 駅の外でゆらりゆらりと揺れている。

「さーーーーごーーーーーみーーーしゃーーーーくーーーーー」

 あの、祭囃子の中で持て囃されている。

「しょーーーーごーーーーーー」

 ……あの『土地神』であろうか。

GMコメント

 夏あかねです。<希譚>は『希望ヶ浜関係』のシナリオより無差別に蒐集した『皆さんのアフターアクション』で派生していく長編シリーズです。
 そのはじまり。つまりは『駅』と『オリエンテーションの後といえば?』からの派生です。

●成功条件
 ・異世界から抜け出す。
 ・ある程度の情報収集

●去夢鉄道
 さるゆめ鉄道。希望ヶ浜に存在する鉄道会社。学園前駅などでは皆さんもお世話になったかもしれません。
 利用者が減少した廃線であります石神(しゃくじ)線。その終点の石神駅の山を越えれば通常の混沌世界の風景が広がっているそうです。
 つまり、『夢を見ているかのようなあり得ない都市から去る者たちを送り届ける電車』……ですが、あまり利用されないまま廃線となっています。

●石神駅
 しゃくじ駅。しんと静まり返った無人駅です。駅の向こう側からは祭囃子が聞こえます。
 夜妖が作り出した異界のように思われます。この異界を形成するのは夜妖の祭囃子の中央にいる『土地神』です。
 駅には列車が停車しており、都市伝説の一つ猿夢のようにアナウンスどおりに乗客を虐殺し続けます。
 虐殺のアナウンスが駅の中にも響き渡り、特異運命座標(乗客)めがけて襲い掛かってきます。
 また、アナウンスで『殺害方法』を予測してくれるため、ある意味で回避が行いやすい相手かもしれません。

 石神は周囲を山が存在する田舎の村です。近くにはダムが存在し、嘗ては其処に村があっただとか……。
 その地方では土葬が主に行われており、神様の下に体を還すという考えが存在したそうです。
 また、この文化については旅人が持ち込んだものですが、これこそが『特異的な怪異』となっている事は否定できません。

●土地神様
「しょーーーごーーー」や何か叫んでいるようです。それは分離体なのか大木を思わせます。大木には蛇がぐるりと絡み付いているようにも思われます。
 非常に強力な夜妖ですが本領を発揮できるわけではなさそうです。石剣を用いてのダメージの大きな攻撃を行ってきます。
 単純にいえばサルユメによる怪異を退けつつ、土地神を倒せばこの異空間から抜け出せます。……が、ある程度この地についての情報を集めておいたほうが良いかもしれませんね。

●サルユメ
 夢でアナウンスどおりに人が殺されていき――次はお前の番だ……という怪異です。
 どうしたことか倒すことは出来ません。アナウンスの通りに夜妖が発生しその方法での殺害を行おうとしてきます。
 この怪異は『土地神』が倒された時点でその姿を消すようです。

●公衆電話
 駅の端で鳴り響いてます。電話に出ると――誰かに繋がるかもしれませんね。
 ……ひょっとすると怪異かもしれません。何でも答えてくれる誰か、とか。

●aPhone
 繋がりません。使用して電話をかけても電車のアナウンスが聞こえるだけです。

●音呂木ひよの
 巫女服で『本当の石神駅』で待機しているそうですが姿は見えません。
 やはり、ここは異界なのでしょう……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 それでは。希望ヶ浜の『うわさ』に切り込みましょう。

  • <希譚>去夢鉄道石神駅完了
  • GM名夏あかね
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月29日 22時20分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長
銀城 黒羽(p3p000505)
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
古木・文(p3p001262)
結切
七鳥・天十里(p3p001668)
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
リア・クォーツ(p3p004937)
玲瓏の旋律
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
三上 華(p3p006388)
半人半鬼の神隠し
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
水底にて
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
黒影 鬼灯(p3p007949)
頼れる守護忍
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ローズ=ク=サレ(p3p008145)
腐女子(種族)
楊枝 茄子子(p3p008356)
羽衣教会会長
ロト(p3p008480)
精霊教師
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
笹木 花丸(p3p008689)
竜交
鏡(p3p008705)
日野森 沙耶(p3p008801)
火ノ守

リプレイ

●件名:No title
 希望ヶ浜県石神地区では土着信仰と思わしき形跡が多数発見された。■■■廃村に定着していた人口の大部分が『地球』及び『日本』と呼ばれる地域からの召喚された旅人であることが判明している。
 彼等が求めた暮らしは想像に易く文明的発展を拒絶する傾向も見られる。我々は悪性怪異及び『異世界幻想』に関して寛容でなくてはならないが、彼等は其れ等を全て神による行いであると認識しているそうだ。それが例えば悪性怪異と呼ばれる存在であれど、彼等の信仰心は強く強固な結界を形成する可能性がある。
 佐伯製作所調べでは昨今の石神地区での電波状況は非常に不安定である。その地がごっそりと抜け落ちたかの様に応答が消え失せることがある。応答履歴を調査した結果、1時23分より数時間のみ通信が謝絶、その後何事もなかったように復旧するそうだ。
 現場調査の結果、石神駅まで到着することは出来るが■■■廃村周辺には辿り着かず、石神駅の周辺に直ぐに戻ってくることがある。此れは、この時刻、■■廃村だけではなく石神地区に対して何らかの悪性怪異による影響がある事を留意したい。
 同様の石神地区の噂である『去夢鉄道石神線に乗り込むと異界に繋がっている』についても調査を行う。その調査結果に関しては随時aPhoneよりの送信を行う為、送信日時のラグ及び変化の観察を願いたい。

(aPhoneから送信されました。 2020/08/08)


 祭り囃子が響く。人工的な明りの少ない無人駅に唯一の光源のように存在しているのは駅に備え付けられた蛍光灯であった。灯へとぶつかる蛾が奇妙な音だけを立てている。30人のイレギュラーズを乗せた電車は停車したまま微動だにせず、車内と駅構内のアナウンスが連動しハウリングし続ける。ブゥーーーンと耳を劈くような音が静かになったのはアナウンスが終了したからであろうか。

『此れよりこの列車は“虐殺”に入らせていただきます。
 お乗りのお客様は、皆様死んでいただけますよう――』

 ジリリリリリリリ―――
 主張する公衆電話の音が周囲に響く祭り囃子に重なり合う。駅の外、ゆらりゆらりと揺らぐ影。大木にぐるりと蛇が絡み付き如何にもと存在を誇張するソレをその双眸に映し『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)はぱちりと瞬いた。
「妖怪だ……! これは妖怪だよね、初めて見た!」
 肌撫でる空気は生温く、喧しい程の祭り囃子と公衆電話の音と僅かに聞こえるハウリングの音、背後には自分自身をこの地へと運んできた心霊列車が存在する状況下で平常で居られるのは特異運命座標であるからか――ソレとも相手が『倒せないはずのない悪性怪異』と知っているからなのかは分からない。
「なんかよくわかんない空間作れるあたり、なんかすごい妖怪なのかな。
 ま、放っておくわけにはいかないタイプだし、ぱぱぱーっと片付けちゃお」
 うん、と伸びをした天十里に『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は大きく頷いた。傾いだ看板には『石神(しゃくじ)』と掻かれ、鉄道路線図には去夢鉄道の名が刻まれる。去夢鉄道が希望ヶ浜を縦横無尽に走り、無くてはならない交通ライフラインの一つであることを教師として希望ヶ浜で働く鬼灯はよく知っていた。しかし――
「サルユメ――猿夢、か。電車でアナウンスを流しその通りに虐殺する怪異。全く持って恐ろしい世界だなここは」
 先程、去夢鉄道の希望ヶ浜中央ターミナル駅よりこの『来るはずのない深夜列車』に乗り込んだ鬼灯は車内に響く音声アナウンスを思い出す。

 次は――活け造り――

 それはAnet等でも噂となっている現代怪談の一つだろう。アナウンス通りに乗客を虐殺していく怪異。後ろから二両目である五列編成、四両目に乗り込むように指示をした校長もこの噂の尾鰭を僅かに掴んでいたという事か。
「章殿、大丈夫か?」
「ええ、ええ……けれど、なんだかその子達だけじゃないみたい、神様? がいるのかしら」
 腕に抱いた章姫が気にするのは祭り囃子の音色か。迫り来るその音を聞きながらポケットの中にaPhoneを滑り込ませた鬼灯は「土地神との事だが……」とそれを視認した。
 蛇が蜷局を巻いている。鬼灯は静かな声音で「卯月」と呼び掛けた。影が如く同行してきた自身の忍び。護衛たる卯月はおっとりとしているが芯が強い。
「分かっているか? 俺が発狂……いや、恐怖で足が竦んだならば迷わずその大盾で俺を殴れ」
 大切な女性を喪うわけには行かないのだと告げる鬼灯に「はーい」とのんびりとした返事がひとつ。
「猿夢か……聞いたことはあるな。これは倒せないみたいだが……当たり前か。猿夢自体は殺害方法を告げているだけにすぎないからな」
 現状ではやり過ごすほかにはないのかと銀城 黒羽(p3p000505)はまじまじと猿夢を見た。ネガティブな感情は封印し、平常心で平静を保つ。精神を侵す存在に対する耐性も出来うる限り発揮しておきたいという狙いだ。
「けっ……サルユメだか土地神だか何だかしらねえが、こんなチンケなモンでおれさまをどうにかしようたあ、笑わせてくれるねェ。まさしく、サル以下の脳ミソしかねえらしいなあ、ええ?」
 武器を手に、じいと列車を眺める『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は調査のために駅を出て行く仲間達の被害を極限まで抑えるためにその身を晴と決定していた。猿夢が現時点で列車内の蹂躙を行っているならばと周辺情報をインプットする。駅構内存在する路線図は中央駅で見たものと違わなかった――只、石神線が鮮明に記載されている以外は、だ。
「いやいやいや無理無理無理こわ……っくはないが!! 我が一体何をしたと言うのじゃ……」
 足が震えて仕方が無いというように。『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は息を飲んだ。駅に止まって探索をすると決定していた彼女をは迫り来る『土地神』を相手取る物、駅構内を探索後、その他の地へと探索へ行う物を見送ると宣言していた。人口灯の少ないその空間の中でクレマァダは列車から怪異が飛び出すことにも留意しているのだと凍り付いた笑顔でそう言った。
「……怖くて進めないからなどではなく、しんがりをじゃな」
「うんうん、お任せするよ、クレマァダさん! 花丸ちゃんたちはまず……あそこでなってる電話の相手をしなくっちゃならないみたいだから」
『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)が指し示す先にはその存在を誇張するように鳴り響き続ける公衆電話が鎮座していた。その必要以上に鳴り続ける公衆電話の存在を無視することも出来ないが着信を受けた者が無事で居られる保証もないのは確かだ。
 駅構内に鎮座する公衆電話を調査する以上、列車――悪性怪異の一つと思わしき『猿夢』からの襲撃にも備えねばならない。寧ろそちら側は比較的対処のしやすいものであると『火ノ守』日野森 沙耶(p3p008801)は考えていた。駅構内に事前にアナウンスが流れるのだ。それに対する対処を行えば一先ずは畏れることはないだろう。
「はあ……」
 溜息を混じらせたのは鏡(p3p008705)であった。くるりと振り返る。先程の『放送』は虐殺と告げていた。早々と列車を降りた特異運命座標達の殿に立っていたクレマァダと鏡の双眸には列車内を蹂躙するように最後尾から順々に子猿たちが巨大な獲物を振りかざしながら歩き回っている。
「はあ……ああやって適当に蹂躙していくだけなんですねぇ。
 斬ってもあまり気持ちよくなれなさそうだからとっとと帰りたいです」
 肩を竦める。aPhoneをスピーカー状態にして放置して入れば奇妙なノイズが響くだけだ。それが駅構内のスピーカーと同様に列車のアナウンスを流すだけの機会になっていることを鏡は気付いていた。
「凄いね……ええと、電話が鳴り響いてるって事は取って欲しいって事?」
 まじまじと電話を見遣ったのは『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)。公衆電話と、そして――不気味な雰囲気に思わず身震いをした乙女は「うーん」と首を捻る。
「うぅ、不気味な所……。
『しょーご』とか『さごみしゃく』ってどういう意味?
 うーん、二つからごを抜いたら『さみしい』って解釈できなくもないケド数字っぽい? ううーん」
 ファミリアーを使用して俯瞰する鳥に自身のサポートを頼んだミルヴィに『精霊教師』ロト(p3p008480)は「彼は自分自身のことを告げている可能性があるね。なら、そのヒントを得られる可能性があるのも――これだ」と公衆電話を指し示す。
「一先ず僕らは電話を相手にして情報を集めてから村へ向かおうと思う。
 ……それに、此処は異界だ。オリエンテーションの時のような『死に戻り』がないとなると常に警戒はしておかないといけない。気を抜かないようにね」
 教師として、そう告げたロトは『しょーご』と叫ぶ彼の存在に心当たりがあるという様に公衆電話と向き直った。

●『公衆電話』
 鳴り響き続ける電話の前で護衛役として立ち回るのは『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)を始めとした駅構内の探索後、『石神地区』にあったという村の探索を行うと決定した面々だ。
 各自がチームを分けた中で『猿夢』に類似した都市伝説を召喚前の世界で聞いたことがある『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は「猿夢ですか……」とまじまじと駅構内を見た。電車の行く先が異界に繋がっているという都市伝説に、荒ぶる都市伝説。其れ等を全て合わせれば都市伝説のごった煮状態なのだ。
「はてさて、この場所は夜妖にとって、とても『条件の良い』場所のようで……」
「条件が良い、と思いますか?」
「ええ。廃線が決定し、蛻の殻となった無人駅。古来よりの土着信仰に石神と言う名前……。
 まさしく怪異の根城となるにはお誂え向きの場所ではありませんか。『日本』――再現性東京の元となった場所です――にこうした場所がいくつか点在することは知っていますが……そこまで再現したのか、或いは」
『そうなるように誰かが仕立てたのか』そこまでは分からないとヴァイオレットが首を振れば迅は成程、と呟く。
「謎だらけの怪異ですが、頼りになる皆さんと一緒ならきっと何とかなるでしょう!
 一先ずは公衆電話からの情報収集ですが……何が起るか分かりませんし警戒致します!」
 ぴしりと背を伸ばした迅にヴァイオレットは頷く。公衆電話の前に立ち、苛立たしい程に鳴り響くその音を聞きながら『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は笑っていた。
「かはは! 祭囃子に神がいる。猿共が騒いで俺らは神への人身御供ってか? あーやだやだ。さっさと終わらせようぜ」
「人身御供……」
 ぞう、と背筋に嫌な気配が走った気がして花丸は首を振る。沙耶は「何か考察とか、先にすりあわせておく?」と未だ列車内を虐殺進行中の猿夢に視線を送ってから仲間達へと囁いた。
「考察……といっても情報が足りねぇ。
 一つ、あの土地神について。あいつは何だ? ミシャクジと塞の神。
 そこらだとは思うんだが本当に倒しちまっていいのか。塞の神は悪神、悪霊を聚落に入らねぇよう防ぐ神。なら倒しちまったら悪しきものが塞いでいた先から入り込んできやしねぇか?」
「神様を倒して良いか……そうですね、先ずはそこからです。ですが、抜け出すには彼方を倒さねばなりませんから……『倒し方』でしょうか?」
 ヴァイオレットにニコラスは大きく頷いた。沙耶は「木の柱、蛇に石の剣」と口にして祭り囃子と共に駅に向かってのんびりと進む異形を見遣る。
「……私が知るのは祟りこそすれ、邪悪な類ではないのですけど。。
 なんて言ったかな。ええと……そう。『ミシャクジさま』 なんだか、それにそっくりで」
 呟く沙耶にニコラスは「俺も同意だ」と頷いた。石神と言う地名のこともある。
「次に、この異界は何のために作られた。あの神が作ったのならその目的はなんだ。
 俺らを殺すためか。それとも本当は怪異を倒すために貼ったものの可能性はねぇか?
 最後だ。なぜサルユメ使って俺らを誘き寄せたとしたら神とこの猿どもの関連性はなんだ。……それにこの土地には一体何がある?」
 考えれば栓はなく。情報が無い以上はこれでもかと言わんばかりにアピールを行い続ける電話を取る他にない。
『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)は駅構内を観察しながら和仁估ヲシテとの会話を思い出す。
(……そういや、希望ヶ浜の新しい知り合いがちょっと前に言ってたな。土地神が叫ぶ言葉と似たことを……)

『……ので、呪術的に名前は重要なんです。
 名前といえば、名前も実態もハッキリしない神様がいます。
 ミシャクジ、ミサグチ、サングウジ、なんて呼ばれて、これまたそれに当てる漢字の組み合わせも多い。御赤蛇、御尺神、石神、参宮神、射軍神……神仏習合も絡むと……幾らでも拡げて、繋げられる。信仰も、噂話も、つまりは情報。ハッキリしないものほど上手く弄れば便利に使えちゃう、かも』

 ふ、と思うのはこの迫り来る神様が『何かの混ざり物』で有る可能性だ。そもそも此処は土着信仰が人工的に作られた場所ではないか。そうした場所を望んだ旅人達の作った楽園。
(そりゃ……奴さんが誰かなんてはっきりしないな)
 此処がどうやって成り立ったのか。練達という国が混沌世界の一部だというならば、この地区も人工的に作られたものに違いは無い。そもそも、怪異が怪異を利用している状況だって不可解だ。あの土地神と思わしき存在も何かに便利に使われている可能性だって――と其処まで考えたキドーはロトが受話器に手を掛けたことに気付く。
「それじゃ、電話に出るよ」
 ゆっくりとその手が公衆電話の受話器を握りしめる。音が止んだ受話器の向こう側――無音が其処には広がっていた。
「もしもし」
 確かめ、話す。その電話が誰に繋がるか――ロトはある意味で賭けに出た。きっと、彼ならば『他の怪異よりも電話で呼び出せる可能性』が有るはずだ。
「やあ、知りたいのならば『真実』を教えてやろう。勿論、代価は頂くが」
 やはり、出たのは『怪人アンサー』。その低い声音は楽しげに笑い続けるだけだ。
「『この異界で最も恐怖を感じる場所は何処か』」
『そりゃあ、ダムだろう』
「なら『この異界で最も調査した方が良い場所は何処か』」
『それも、ダムだろう』
 ロトは怪人アンサーの返答を幾度も復唱する。怪人アンサーに回答が複数あることを聞いてはならない。『最も』という言葉を使ったのは彼の操縦方法としては正解だ。
「この異界の土地神の名前は?」
「ミシャクジ様」
 ロトは電話を切らないまま――怪人アンサーに渡さねばならぬ対価の前に自身の推理を口にする。受話器をまだ離してはならない。
「僕の推測だと土地神様の真名は『ミシャクジサマ』だ。『君』がそうだ、というならば彼を形作る一部分はそうなんだろう。しょーご。なんて叫びやその見た目から、ほぼ間違いないかな?
 ただ、練達で伝承がどう変化したか分からない。それに推測だから……確信を得る為に情報を集めないとね。
 後の懸念はミシャクジサマは塞の神でもある。
 異界を作るよりも異界と現世が交わるのを防ぐ方の神だ。倒した場合、脱出出来るけど惨事が起きる場合が……1番怖いね」
 そう告げた後、受話器の奥から笑い声が聞こえた。「ここまで答えたのだから分かっているだろう」という言葉と共にロトの目の前がぐるりと回る。視界が歪んだことに気付き、花丸は「ロト先生」と慌てたように手を伸ばし――

「……代価で意識を失った?」
 ヴァイオレットがそう、とロトを覗き込む。その目は見開かれたまま時間をストップしたかのようにロトは倒れている。

 ――次は~~ギロチン、ギロチンでございます~。

 アナウンスが聞こえたことに顔を上げたのは花丸、迅、そしてクレマァダと鏡であった。
「サルユメが列車内の蹂躙を終えたみたいだぜ? あっちの土地神も祭り囃子とやんややんやしながら電話中に1mも進んでないが……」
 aPhoneの時間の流れが通常であるか分からないが、3時間経てば全員が集合するように促すための監視、観察係を担っていたキドーは「猿夢をどうにか『やり過ごさないとな』」と小さく呟いた。
「やり過ごすだぁ? ぶっ壊してやれねぇか試すとこからだ! オラオラッ! 何が猿夢だ!」
 地面をしっかりと踏み締めたグドルフは背後で倒れたロトを護るように立ちはだかる黒羽に「そいつを護ってやれ」と小さく告げる。頷いた黒羽は宙より巨大な刃が駅に向かって降ってくることに気付いた。

●『民間信仰 ■■■村』62ページ
 希望ヶ浜県石神地区に存在する■■■村について調査を行った。
 再現性東京と練達の間には山が存在し、外部と行き来するためにはトンネルを通らなくてはならない。しかし、旧道として使用されていたのがこの■■■村山道である。
 この村は希望ヶ浜の中でも特に田舎や土着信仰にスポットを当て作られた物である。しかし、その地には本来は有り得ざる神が住む場所として認識され長らくの信仰で成り立ち始めた。
 外界を隔てるこの山を岐の神とし神域であると定義される。■■■村で死者が出た場合は土葬にて神に命を返す事が通例となったらしい。
 石神地区では其れ等の信仰により新たな悪性怪異が生み出されることを防ぐために、■■■村にダム建設を決定。石神市街への村人の移住を決定した。
 今現在、■■■村はダムに沈んだ今は地図に掲載されない村である。

●駅構内
 筆記具に発煙筒、懐中時計を手にした『守護者の盾』エト・ケトラ(p3p000814)は無人の駅員室の中からひょこりと顔を出す。猿夢と相対しを続けるグドルフ、キドー、鏡、クレマァダ、黒羽の様子を確認しながら情報収集を行うべく猿夢との積極的交戦の段階を確認していた。
 鏡が一度攻撃を、と考えたのは猿夢が倒せない存在であるかという確認であった。倒すことは出来ないが効果はあるのか迫る刃や猿は霧散していく。
(アナウンスの内容はメモに取っているけれど……この内容を参考に攻撃を『退ける』だけになるのかしらね)
 駅構内の中で探索を行う上でエトが注意したのは三点であった。怪異が特別の気遣いをし介入を厭うポイントはないか、挙動にパターンや顕著な変化がないか、そして深追いをして窮地に立たされないか、である。
「猿夢――夢ね。温かな夢から覚める事は誰しも難しいもの。
 幸福に溺れたいと願う弱さは、わたくしも知っているわ。けれど、恐ろしい夢からは皆、醒めたいというもの。そもそも夢であると気づけるのかしらね。
 これが『現実』でないとしたならば……サルユメも土地神も夢に引き留めたいのかしら――それは何故?」
 呟きに「さあ、何故だろう」と声を降らせたのは『希望ヶ浜学園高等部理科教師』伏見 行人(p3p000858)であった。
 探索を行う者が探索に注力できるように。そう気を配った行人はエトが駅員室を探索するのをサポートしていたのだろう。
「俺が前に出会ったのはトンネルからヨルの住処へ、という感じだったが……ここまで広く作る事が出来るとはなあ」
「凄く大きな異界、と言えると思うわ」
「だな。気になることは無数有る。神は神話に縛られる。
 調査の如何に依ってはこの神を暴力で退散させる以外の手法もあるかもしれない、というのは常に考えておきたい。
 それに、祭り囃子が土地神にとっては良い物ではないかもしれない、という可能性も考えておいたほうが良いだろう?」
「祭り囃子が?」
「ああ。制御できないモノを祀り上げるのは、再現性東京の元になった日本では良く使う手法だからだ。出来れば納得してご退去願いたいが……土地神をどうにかした後は、土地神を縛っていた痕跡が残っていないかを探した方が良いだろう――が……その場合は元の世界か?」
 その可能性は大いにあるだろうとエトは頷いた。土地神へと攻撃を加え、この世界から『はじき出された』場合――それが本来の神であるならば滅するのではなく神の作り出した異界から爪弾きに合うという表現が正しいはずだ――神の周辺の痕跡を探ることは難しいだろう。
「わざわざアナウンスを流してコッチに対処して下さいって言う手法はどうなんだろう?
 そもそも、このアナウンスを流してる本体は? 『怪異』だから殴れません、対処できませんってこと?」
 天十里の問い掛けに「『攻撃』だけを『攻撃』で打ち消すか耐えるしかねぇな」とグドルフは呻いた。
 アナウンスが流れてくるスピーカーは駅構内に元から設置されていたものなのだろう。それがこの異界の影響か奇妙な音声として響き渡る。
「そもそも、猿夢と土地神って繋がってるの? 全く別の怪異なんじゃない?」
「あー、ありゃ、別だろうな。どちらかと言えば『引き込まれた』方だろう。
 この駅も、あの猿夢も。ひょっとすれば『あの神様』だってそうだ」
 キドーの言葉にグドルフも大きく頷いた。神がこの地を作ったのではなく、この地に神が呼び寄せられた――ひょっとすれば、ひょっとするのかもしれない。

●石神市街
「調査に来て即異界に致死性の都市伝説とは。
 罠か先手を打たれたか……物語に入り役を振られたなら、末路の回避には物語を深く知る必要があるのです」
 この地がどのような場所であるか。aPhoneの時間は正確に進んでいる様に見えるが、現実世界と差があるのかどうかは分からない。『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は祭り囃子とは別の方向にある石神市街――村へと足を向けた。
「まあ、元より調査に来たのですよ」
 月明りの雫でぼやりと夜闇を照らすヘイゼルがゆっくりと歩む。漏尽通――悟りの境地に至った平常心は怪異の情報を必要部分以外を受け流すだろう。悟りでも魔境でも、恐慌を流し平静を保てたならば此処では何の大差もない。
 ファミリアーの俯瞰を利用して、ミルヴィはaPhoneをそっと握りしめる。
「電話……亡くなった人と話せるなら。アタシは話したい人が沢山いるんだもん……っ
 アル兄さん……おとうさん……お願いだよ……声が、聞きたいよ……」
 呟く。仲間達が広がり行動する石神地区はなかなかの広さが存在している。ダムが有る方向へ足を進めれば進めるほどに山が深まり、村とも呼べぬ雰囲気にもなっていく。
 aPhoneからは猿夢のアナウンスが流れるだけだ。そう思いながらも電話が何処かに繋がっている気がしてミルヴィはそっと耳に当ててみる。ダイヤルは時報を知らせるもの――の『筈』だった。
『ミルヴィ』
 呼ぶ声にミルヴィの掌にじとりと汗が滲んだ。アル兄さん――アルフレッド・ベイダー。
 命の潰えた兄の声音に似ていて。然し、然しだ。彼等が『怪異』になるはずがない。ならば、これはこの地に自身を留めるための行動か。唇が戦慄く。
「兄さん……?」
『クソガキ、何泣いてんだよ』
 ああ、と喉奥から声が漏れた。のんびりとひなたぼっこをして穏やかな世界を過ごしたい。そう願った人たちは皆、目の前からその姿を消してしまうのだ。この地に留めようとするその重力を押し返すようにミルヴィは足に力を籠めてふらりと立ち上がった。遠くに見えたのは仲間達が探索する光であろうか。
 しかし、その脚は何かに縫い留められた様に動けなかった。まるで、この異界に自身を留めようとするかのように。
「ミルヴィ殿?」
 aPhoneの表示時間を確認しながら『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は猿夢の襲撃情報を聞き続ける。本来の電話は猿夢についての音声が流れるはずだった。しかし、心が向く方向を間違えればミルヴィのような事例もあるのだろう。
「鳴き声と言い何とも不気味な怪物でござるな。さてあの巨大な夜妖をどうやって斬り倒したものか……」
 呟く咲耶は自身の精神を護るように息を吐く。周辺の透視を行う自身の心がぐらりと不安定に偏らぬようにと注意した。特に、見てはいけないものと言えば箱やその類いであろうとも想像している。
「ここはいつもの道理が通らぬ所、中で何があってもおかしくないでござるからな。
 サルユメ、鳴りつづける公衆電話に土地神。元々繋がりのない異世界の怪談が複数同じ場所にいる辺り歪な繋がりを感じるでござる。
 土地神も噂の姿を借りているだけかもしれぬし先入観に囚われずに気を付けて調べてゆこうぞ」
「ええ」
 頷いたのは『未来綴りの編纂者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)。ヘイゼルが隈無く周囲の調査を行うその地図作成を手伝うリンディスは仲間達の情報をチェックして地図を複製する。猿夢対策に得ておきたいのはいくつかのセーフポイントだ。
「都市伝説としては本当にありきたりな、ありきたりな寓話の筈なのですけれど。
 非日常を受け入れ、去る者への妬み……そんなものなのかも知れませんね」
 この地が『間』というならば、とリンディスは村を見回す。人が居た形跡がある様に見えるが、それが現在の物であるのかは分からない。石神地区は寂れてはいるが少なくとも人が此処で生活を続けていなければこうも田畑が整うはずがないと周囲を見回す。
「……人が居た、営みがあった、いえ……『今もある』はずですが、此処が異界故にその姿が見えないのか――或いは。……何らかの形にせよ『記録』を見ることは出来るでしょう」
 寧ろ、記録を見てくれ、とでも言いたげな村の様子なのだ。きょろりと見回すリンディスの言葉に「箱や建物ならば透視をし安全を確認しよう」と咲耶が名乗り出る。
「ここが石神……肌で感じられるくらい、不気味な場所だねぇ。
『見てはいけないもの』を見る可能性はあるけど、それを理由に怯んではいられないねぇ」
 ふるりと震えた『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)はファミリアーの黒猫をすいすいと前へと進める。自身と猫の二人分での探索で出来る限りの情報を得るが為に進む彼女はは「怖い想いさせて申し訳ないけど、力を貸してねぇ……!」とファミリあーん声を掛ける。
「土地に基づいた神。つまり、何らか信仰があったのでしょう。『何の』神なのか―それを見通すと致しましょう」
「うん、そうだねぇ……お地蔵さんに石碑……『石の神』の地区だから、石絡みの調査をしたいって文さんは言ってた。わたし達は石造りの物を中心に捜索、調査を行うねぇ」
 aPhoneで写真を撮ってみれば何らかの情報を得られるはずだと手元だけを照らしたライトをぎゅうと握りしめる。
「石か。石に由来があるからかな? お地蔵さん、石碑、道祖神。要石、石塚、人為的に移動した石。……不自然なものは無いかな?」
 見回る『文具屋』古木・文(p3p001262)の言葉に「道祖神?」と首を傾いだのは『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)。
「土地神だか何だかしらないけど、羽衣教会以外は邪教だから!
 いつもなら寝てる時間だけど、会長は仕事のためなら頑張るよ!」
 探索は特異じゃないと言う茄子子。石を探すという仲間達から離れて茄子子はその手にスコップを握りしめていた。
「会長は取り敢えず掘ってみようと思う!」
「ほ、掘るでござるか?」
 ぎょっとした咲耶に茄子子は大きく頷く。周辺探索と石神地区の簡易地図の作成を行うヘイゼルが「以前のものようですが地図を見つけました」とリンディスと現状調査の内容と照らし合わせていたが――茄子子の言葉に二人共がぱちりと瞬く。
「掘る、かあ。うんうん、成程ね」
 茄子子の言葉に頷いたのは『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)であった。夢から去るから『去夢』――そんな皮肉なネーミングであるこの鉄道は『本来の意味とは違った旅人』になれなかった者の悲哀であるのかもしれない。目を背け続けられなかった末路か。
「悪夢のような怪異のごった煮は誰が見た夢なのだろうね」
「夢……そうですね、誰のもの、なのでしょう」
「神様の夢? ふふ、そうかも、ね。うんうん、否定はしないよ。
 山に遺体を埋めて体を返す。山こそ神奈備で神域そのものだって言うなら――」
 無論掘り返してヒントがないとは限らない。バスティスは土地神が何かという事を調べようと考えた。神は神だ。只、ソレが混ざり物であり一筋縄でいかぬ存在であるのは確かだ。
「さっき、ここに来るまでに見た『土地神』は混ざり物だって思ったんだ。
 意図的に厄を溜め抱える必要までは無いよね。まず調べるべきは墓所、もしくは社……だね。『神域』を――土地神のねぐらを探しだそうと思う」
「なら、その『神域』を掘るのがいいかな?」
 首を傾いだ茄子子。この際、神への罰当たりだなんだと考えては居られない。そもそも、彼女が信ずるのは羽衣教会だ。羽衣教会には『墓を掘り起こしたら罰当たり』というルールはない。
「――と言うか、羽衣教会は鳥葬が主流! つまり墓とかない!
 大丈夫大丈夫、羽衣教会はそういうのとか全然許すから!ㅤ気楽にいこう!」
 にんまりと微笑んだ彼女はふと何かを思いついたように本音をひた隠しにしたようににまりと微笑んだ。
「うん、翼を手に入れ天へと至る手助けだと思うことにしよう!ㅤ……ごめんね!」
「神域、と言うだけでも十分に危険域にあたるのでせう? ……注意をするのですよ」
 致死性が高い異界と言うだけで、普通の人間ならばしめやかに発狂しているだろうとヘイゼルが肩を竦める。勿論、神域を探すという事は神による影響が大きい可能性がある。
 石神地区の中にある神域を探す二人はゆっくりと進んでいく。見てはいけないものとは何か――考える茄子子に対し「透視が必要とあらば」と咲耶もそう告げた。
「そもそも死者を神様に還すという考え方から歪さがあるよね。
 まず、『東京』では有り得ない葬儀の方法だというし……『何か』があるとは思うんだ」
「何かですか?」
 空中歩行にて地図作成を終え、バスティス達の許へとやって来たヘイゼルは「この空間は四方に見えない壁があるようでせうね」と告げた。
「恐らくは石神地区と呼ばれる部分に似せて作られた異界なのでせう。
 近くに見えた土地神ですが、祭囃子はそれはそれは長く『此方側へと』繋がっていたようです。
 電話での情報収集をしていた面々も村への探索へ来るようですが……」
 自身らが神域に踏み込む方が先ではないかとヘイゼルは悩まし気にダムと程近い位置にある山を見遣った。
「この山自体が土葬をされた地で、墓地だというのでせうか……」
「うんうん。ああ、けど深入りしない程度の探索がいいよね。
 ぱっと見ただけで分かるけれど祭具や装飾、神を祀る場所として礼を尽くしてはいなさそう」
 霊魂疎通を用いての情報を、と考えていたがヘイゼルとバスティスの前にはそうした霊は姿を現さないか――寧ろ、異界のせいで悪鬼として祭囃子に加わっているかは定かではない。
「土地神がいる理由、石の種類、この史跡を建てたのは誰か、何者かの名前や家紋は描かれていないか……駅向こうで行われている祭りは何を祝ってる?
 土地神が本調子でない理由、夜妖が人を殺すことと関係あるのか、知りたいことは色々あるけれど、相手の本拠地に堂々と答えがあるとも思えないからね。ヒントが見つけられたら御の字かな」
 そう、と神域とバスティスが読んだ山の入り口に立っていた石碑を指した文は「集落ではこの石から先を『神域』として禁足地にしていたんだろうか」と呟く。
「石神という地名がミシャクジやそれに類する神の名でつけられたのならこの地域自体が神域とも考えられるね」
 文の言葉に頷くのは咲耶。あまり孤立したくはないからと、仲間たちと同じく神域と思わしき方角を調査に赴くリンディスはふむ、と小さく呟く。
「法則性、関連性。『つながる』ものを見つけましょう。しょご。さごしみゃく。
 ……土地神とは、なんなのか。サルユメと、電話ボックスと。
 正体がわかれば対処のしようもあるはずです。特に言い伝えなどが村にあったとしたら尚更に」
「無差別に怪異が引き込まれているでござるな。共通項があれば尚見つけやすいが……」
 むう、と唇を尖らせる。ミシャクジ様、であろうという推理はある。しかし、それだけではないような気がして何とも居心地が悪いのだ。

●https://dohatter.com/■■■/
 肝試しに来た -01:22

 普通に石神駅に着くじゃんwつか、朝までここで待ちぼうけ? -01:45

 @■■■
 石神線って廃線になるって言ってなかった? 帰れる? 大丈夫? -01:45

 何か聞こえる -01:46

 てか、なんか電話凄い鳴ってる -01:47

 @■■■
 電話でない方がいいんじゃない? とりあえず動かない方がいいかも -01:49

 あ、人がいる。民宿連れてってくれるって -01:55

 石神地区って滅びててダムしかないって嘘じゃんw
 普通にお祭りしてるし、ダムとか全然ないし、今日山開きの祭りらしい -02:10

●■■■ダム
「うーん、うーん、色々気になる事でいっぱいだよー。
 1時23分に4両ということは1234って並んでていて、あの土地神様? も『ごー』って結構言っているから、5が次に関係しているのは間違いないと思うんだけどなー。
 それより何よりも謎なのは、私の擬態が溶けてることだよ! どういうこと?! 完璧な擬態のはずなのに……。どうして……! なんで……! もう、こんな場所から絶対抜け出してやるんだから!」
 その日、『腐女子(種族)』ローズ=ク=サレ(p3p008145)は夜妖の如きゾンビ姿になって居た。壁サーの女王と呼ばれし彼女はエモい事柄には事欠かなかった。勿論、再現性東京などは彼女のお好みの本なども多かっただろうが――「ホラー世界はないよー!?」と言ったありさまだ。
「あたしの受け持っているガキ共が巻き込まれることもあるかもしれないですしね。そうなる前に、ここは早めに潰さなきゃ」
 九尾・理愛、こと、『壊れる器』リア・クォーツ(p3p004937)はそう呟いた。現在、ローズやリアが向かっているのは石神地区でも最も外れに存在するダムだ。正式名称は『石神山上ダム』と言うその場所は石神市外の山周辺に存在した村を廃村にして作られたらしい。
「ふぅ……。それにしても気味が悪いところだ……。
 しかし土地神か……。神殺しの私が異界に来てまで戦うことになるのはなんともね……」
 肩を竦めたのは『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)。殺害方法アナウンスから逃れる様に進む彼女達を補佐した『駅』担当の仲間たちは困ったものだという様に猿夢の牽制を行い調査を優先する様にとマリア達を送り出した。
「こんな真夜中に遠足だなんてー私、夜に弱いんだぞー。
 って言っててもラチが開かないし、いっちょ可愛いところ見せつけてやりますか!」
 それに外では巫女服姿の『先輩』が待って居るんだからと言わんばかりの『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。先輩――こと、音呂木・ひよのは実家が所有する小さな自家用車で石神駅に向かい、待機を行うと先に宣言していたのだ。
『先輩、私はダムチーーーム! として、ダムに行こうと思うんだけど、どう思う?』
『良いですか、秋奈さん。倒せぬ悪性怪異は居ません。あと、気を確かに。
 帰ってきたら美味しいスイーツ巡りを私としてくれるのでしょう?』
 ――発狂なんてしないよ、とふふんと笑みを零す。駅側では土地神の様子を確認しながら集合時間を知らせる準備もしてくれているだろう。人工灯がないうえで、最初に役に立ったのがヘイゼルの地図とリンディスの複製であった。それを見れば石神地区の中心となる村を調査に言った仲間たちとは少し離れた山方面に向かわねばダムに辿り着かないのだ。
「なーんか、見事に散開させられた感じするよねー。時間も限られてるし、ダムの底に何が有るか探しますかっ」
「ああ、そうだね。土地神は置いておいて……この訳の分からない世界の調査はしておくべきだろうね」
 土地神が本来の土地神であるかすらさだかではないのだから、とマリアは静かにそう呟いた。
(参るね……あんまりこういうのは得意じゃない……早く帰ってあの子と一杯やりたい……)
 内心は怪異が怖いか、それとも心配事があるか。マリアは静かにぼやく。大好きな酒好き司祭に話せば「それって何かの演劇ですの?」と笑い飛ばしてくれるだろうとさえ感じる。
 苦い笑いを浮かべてから、古い村があったというダムの縁に立って静かに息を吐いた。
 ダムの底に沈んだ村を確認する者が多い事を『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)は把握していた。華はふと、明かりの漏れ出る石神駅方面を振り返る。祭囃子の明かりも華々しく、それがダム方面に繋がってきていることはダムのある山に登れば一目瞭然だ。
「サルユメ、なあ……。噂では、夢の中に出るんだったか……。
 オレたちは今起きてると思うが……カタカナなこともあるし、なにか別のものに変わっているのか、それともオレたち全員が眠らされてるのか……」
「それともホンモノじゃないとかね」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はぺろりと舌を見せた。
「異世界にカンタンに入り込んじゃうなんて希望ヶ浜ってかなり不安定だよね。ナンデまたこんなことになってるんだろう? 未知とのソウグウはちょっとドキドキするね!」
 けれど、それも不謹慎かなと小さく笑う。ダムの周辺を捜索し土地神のルーツを探したいと願うイグナートの言葉に華はぱちりと瞬く。
「本物じゃない、異世界……。なら、オレたちは夢を見ていて、この異世界こそ明晰夢か何かか?
 しかし、本当に色んな怪異が混ざってるな……土地神を倒したら戻れる、サルユメが消える、なら何かしら関連性はあるんだろうか。
 ああ、不謹慎だとは思うが、もしこのまま帰らぬ人が出たらそれは1種の神隠しになるんだろうか?」
「神隠し、なあ」
『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)はそうぼやいた。神隠しという言葉は正解だろう。本来は土地を護るはずの神が堕ちているのだ。其れには何かしらの原因があり――それが都市開発の一端であるダムであったとするならば。
「水没している村を調べる必要は十二分に或る。神社か祠か――分離体という話なら本体である巨木の可能性もあるか」
 あの祭囃子と共に液に進んで往く神。それの本体がそこに存在するか、もしくは碑文などがある可能性だってあった。
「おっと、いろいろ触る前にお祈りぐらいはしてくか。
 一応呪いへの対策はしてあるが勝手に何かしたら罰が当たりそうだ」
「ハハ、確かにね。探すのはオモに神社や寺、この異世界であり得るのかワカラナイけれど隠れ信仰の神様だったバアイは目立たない祠や偽装してある社を見つけたいところだね。
 土地神が大木の様な姿にイシの剣を持ってるから、神木や神石が祀られてる可能性もあるのかな?」
 そう告げたイグナートとエイヴァンはどぷり、と暗い水底へとその体を沈めていく。
 秋奈は「これ、本当に潜るの?」とまじまじとダムを見遣る。
「潜るしかないよね!」
「ぎゃあ!? あ、違う」
 ひょこりと顔を出したゾンビ――否、ローズに秋奈が驚いたように仰け反った。其れもそのはずだろ。擬態の溶けた彼女はどちらかと言えば夜妖サイドなのだ。
「石神地区の村も気になるけどさ、こっちの村の方が古いもんな!
 流石に水中におさるさんたちは居ないかもだけど一応予感がしたら、隠れる場所を決めやり過ごす方がいいかな?」
「溺死とかアナウンスされるかもよ」
 そう顔を出したイグナートに「ぎゃあ」と秋奈が驚いたように仰け反った。水面から顔を出したのはエイヴァンもだ。
「予想以上に中は暗いぜ」とエイヴァンは水中を指さす。
「そうだろうね。けど……いかなきゃ」
 そう告げてから、ローズは暗い水底へと進んだ。
 ざりざりとダムの底を掘り進めるのはローズ。潜る前に彼女は一つの仮説を立てていた。
「そもそも土地神って、道祖神だと思うんだよね。今はその道が線路だと思うんだよね。
 理由は土地神、駅の近くにいて、尚且つ、大木に蛇が巻きついているんだよね? 私聞いたことあるんだよねー。蛇に見立てて、縄を飾る行事があって、それには道祖神が影響しているって。その道の下に死体があったら、道祖神に影響するよねー」
 そう告げて、穴を掘る。穴を、可笑しなことに、ダムの下には『墓場』と思わしきものは存在しなかった。この界隈では土葬が主流であったそうだが、埋っているのはもっとほかの場所という事なのだろうか……。
「うーん……独自の宗教とかないかなあって思ったんだけどっ、集会所とかー……」
 むむ、と唇を尖らせる秋奈の傍らでは、ダムの底を掘りながら出てきたという看板や石を一先ず陸に遺そうとするローズの姿がある。
「何かあった?」
「んー……死体とかはある訳じゃなさそうだけど、そもそも、こんなに普通に『村』って残るのかな?」
 彼女の疑問に頷いたのはマリア。敵性対象が居ないか確認をしたが存在せず、ダムの底に村が沈んでいてもこれ程原型が残る訳がない。そもそも、立ち退きをさせてからしっかりと整地を行って準備をする筈だ。
「これだと村の上に其の儘水を流し込んだみたいに思えるくらいに精巧に残っているんだ。
 ……異界だから、という事なのだろけれど、そのおかげで漂流物を手に入れられたということかな」
 ふ、と息を吐いたマリアはふと、上を歩む華へと視線を送る。ダムの管理所を調べていた彼女は設計図やこの周辺の情報がないかとハリガネを使って解錠し中身を確認していたそうだ。
「ダムの名前として『石神山上ダム』というのは見つけたけれど、その下の村についての情報はあまりなかったな……」
「水の底にあったってのに『書物はしっかり現存して見れます』ってそんな都合のいい事ある?」
 ないだろ、と呟いたリアは精霊たちが嫌がる素振りを見せていると華へと告げた。ダム周辺の探索を行う上で、得た成果物はどれもが中身を見てくださいと言わんばかりのものである。
「サルユメの方は相変わらず駅で攻撃中みたいね」
「まあ、そっちの方が嬉しいよね。キタナイ水でもガマン! と思って潜水して来たけど……。
 普通の村がとっぷり沈んでた方がビックリしちゃったよ」
 頬を掻いたイグナートにエイヴァンもそうだな、と低く呻いた。
「引き上げられるものはとりあえず引き上げたが、他に何か見つかったものがあるか? 一度、すり合わせた方がいい」
「そうだね。石碑や看板類をみんなで集めたけど……文字は掠れてるね。元からかな?」
 エイヴァン、イグナート、マリア、リア、華、ローズが成果物を覗き込む中で秋奈は「あれ?」と首を傾ぐ。
「どうかしたか?」
「え? 何か見えなかった?」
「見えてない」
 エイヴァンは首を振った。譬え何か見えたとしても「見えて居ない」と此処で言うのは正解だろう。
「この異界は何かを封じるための者であれば不味い。
 だとすれば『何か良からぬものを見ない方が』いいだろう」
 エイヴァンに秋奈は「そうだね……」と小さく呟いた。この空間が何であるか――それは気になる。
「そもそも、サルユメ自体が本来的な意味のサルユメか、どうか、だ」
「それって、都市伝説サルユメじゃないってことかい?」
 華にエイヴァンは頷く。リアも生徒たちから聞いていた都市伝説ならば土地神とセットで出て来るわけはないだろうと告げた。
「異界の無人駅に猿夢、それから土地神と選り取り見取り。
 ってなれば、まあ、妖しいには怪しいけれど……それが別物であるかどうかの保証もないわ」
「あ、そういえば」
 ローズがごそりと取り出したのは小さな猿を象った石であった。
「猿」
「……猿」
 まじまじと見たのは華だ。エイヴァンは「確かに猿だな」と呟く。
「そう言った信仰があったとかそういうものかな。例えば――そうだ……本来の神様は『混ざりもの』であるあの土地神で、それに仕えているのが猿だとか」
「それで人身御供になるべき存在をあの列車に乗せて異界に連れてくる?」
 マリアの説に有り得ない事ではないとイグナートは頷いた。まじまじと猿の石を眺めていたイグナートは「ワカイシュって書いてる」と呟いた。
「それから、こっちの看板は? ……来名戸村」

●『土の下』
 石から見の調査を続けていたシルキィは「文さん、これって」と割れた地蔵を指さした。手入れが為されていないこの地域でも人為的に割られた様にしか思えない地蔵がいくつも転がっている。
「どう思うかなぁ。うーん……怪異の知識があんまりないからちょっと想像つかないんだよねぇ……」
 呟く。aPhoneで撮影してみようと写真を撮るが余りの暗さに何も映り込まないとシルキィは小さく唸る。
「地蔵が六体か……」と呟いた文にリンディスは「六地蔵ですね」と頷いた。
「資料検索をしてみましたが……それらは仏教の六道輪廻の思想に基づくのでしょうね。どうして、壊れているかは分かりませんが……」
「うーん、壊れているから神様が暴れているのかなぁ……」
 む、と唇を尖らしたシルキィに文とリンディスは頷いた。リンディスが気にしているのは「お祭り」「人柱」「神様」という文字列と「ダム」だ。様々な伝説が存在し、それらに基づいてフィールドが設置されているのならば――やはり、危険なのはダムに沈んだあの場所であっただろうか。
「……何もないと良いんですが」
 簡易飛行を用いて電話を終えた面々が集合する。空を用いての調査でニコラスは遠くに見えたダムで仲間たちが灯りを使用して動き回るのを確認した。……そして、そちらから祭囃子が駅に進んでくる様子も中々に悍ましい。
「何か見つかりましたか?」と問いかけた迅は倒れたロトを駅員室に寝かせてエト達に任せてきたと告げる。
「お地蔵さんが壊れて居まして……」
「成程。神様が出るためにわざと壊していて、現実に戻ったら元通りとか、ありますかね?」
 首を傾いだ迅に文は「ありそう」と呟いた。
「ええ。確かに。この不可解な状況は神の為の異界であるからこそ、なのかもしれません」
 ヴァイオレットは周囲を見回した。石神駅のあるこの地区には土葬という文化があり、それが根源であるとも思われるが――占いを行ってみる。手繰り寄せたタロットは死神の逆位置。
「……ふむ」
 そろそろ集合事案も近いだろう。それに駅を出る際に見た土地神との距離も随分と迫っていたように思える。
「そろそろ、戻る手はずを整えましょうか……?」
 ヴァイオレットへと茄子子が「もうちょっと待ってー」と声を掛けた。シルキィが心配する様に「大丈夫?」と声を掛ける。
「うんうん、もう少しで何か――あっ、あった。サルボトケってかいてる。会長何か掘り起こし――」

●集合
 そろそろ時間か、と呟いたのは鬼灯であった。長らく時間が経ったが猿夢との戦いは未だ継続している最中だ。
「ただの猿にしては頭がいいじゃないか。が、不吉の道化には愉快な娯楽にしかならぬよ」
「酷いことやめて本当の電車のアナウンスをした方がよっぽどいいのだわ! ね? そうしましょう?」
 章姫の言葉に頷く鬼灯。調査を進める仲間たちの集合時間を告げるキドーは仲間たちが集まれば土地神との戦闘が必須になると仲間たちを確認する。
 猿夢との相対の中で必要以上の消耗はない。平常心を維持し続ける黒羽は「……そういえば、途中落ちていた定期入れを拾ったが……嫌な感じだな」と呟いた。
「定期入れ、だと?」
 どれ、と覗き込んだグドルフに追従して覗いた行人はそこに描かれた文字を読み上げる。
 石神と希望ヶ浜中央を繋ぐその定期は学生定期と書いてあり、記載された名前は木偶と書いてある。
「木偶……デク、か?」
「そりゃ、また奇妙な名前だな」
 呟いたグドルフが顔を上げれば天十里が「そろそろタイムアップみたいだよ?」と獲物を手に土地神へと向き直る。
「ええ、まったく。困ったものだわ……倒してしまいましょう。こんな夢、もう覚めたいもの」
 黒羽に『意識を失った』として駅に戻ってきた仲間たちの安全を頼み、エトは歌い仲間たちを支援し続ける。
「気色悪ィバケモンが、くたばりやがれッ!!」
 幾度も攻撃を重ね続ける。斬りつけても倒せないのならばと時間稼ぎで逃げ回っていた鏡はへらりと笑みを浮かべた。あんまり連発すれば疲れてしまうとキープしていた攻撃も今から発揮するべきだ。
 行人が前線進む中、その背後からぐんと飛び出した鏡は「少し気になることがあるのでさっさと倒れてくれません?」と土地神へと声を掛けた。
「さぞ名のある神とお見受けする。何故斯様な土地へと参られたのかをお聞かせ願いたい…!この土地は些少な幻想すら否定する場、俺で良ければ事態の解決のお力添えをさせていただきたく思うが、如何に!」

 ――コイヨウ

 そう、告げた。

●『電話の音』
 電話が――

 電話が気になるとそろそろとクレマァダは公衆電話へと近づいた。
 鳴り響いている。ベルの音が酷く喧しく頭を掻き回す。気になって仕方がない。

『一緒に歌おう、僕(クレマァダ)』
 自分の声か。違う。自分はこんなにも鈴転がる様な可愛い声など出さない。
 今、何をするべきかが朧気に分かる気がした。列車の向こう側――線路を跨いだ向こうに明かりがあっただろうか。
 頭の上でぢぢ、ぢぢと音がした。焦げた匂いと共に蛾の死骸が転がり落ちてきた。捥がれた羽根など気にせずにゆっくりと歩を進めた。
 綺麗だ。死して焦げた死骸が、堪らなく綺麗で仕方がない。光に誘われるようにぐらりぐらりと歩き出すクレマァダの耳にはやけに煩い公衆電話の音しか聞こえなかった。
 声がする。

 声が。

 懐かしい。貴方は「――母上?」

 ぱつん、と何かが弾けた。

●『来名戸の歴史』 132ページ
 来名戸村は希望ヶ浜県石神地区に存在する小さな村である。この村には旅人たちが持ち込んだ旧い風習が存在している。ベースとなって居るのは民間信仰ではあるが混沌世界による召喚の影響で様々な神が融合したものと思われる歪な信仰が存在した。
 まず、注目するのは来名戸神社の中央に鎮座する招霊木である。周辺に広がる山間部の一部を鎮守の森として認識している。この根元には神の化身なる蛇が住まうとされている。
 石神という地区の地名は来名戸に祀られし神の名を頂いたという見方が強い。こちらも、様々な塞の神・道祖神信仰が混じりあっている事が否定できない。
 この地は再現性東京地区の『外』に繋がる場所に存在するという事から、そちらの縁を切ると面も大きい事が推測される。塞の神としての認識も強く希望ヶ浜の発展に対する願いが込められているものだとも考えられる。歪に神が習合した結果、その奉り方も特異な発展を遂げている。
 死者は来名戸の神域なる山麓に全てお返しする事と決定され、その御霊が神の許へと辿り着く様にと祈りが捧げられる。例年の秋祭りの頃になれば来名戸神社より石神中央市街へと神の遣いとして猿の仮装をして練り歩く風習がある。何故、猿か。この界隈では猿を神の遣いとして好む傾向があるらしい。庚申信仰との習合が理由であるとされるが――

●現実世界
「――ますか」
 声がする。そう、と瞼を押し上げたその先には音呂木・ひよのが立っていた。
「聞こえますか?」
 頭を起こしたのは何も一人だけではない。全員が無人駅である石神駅の構内に倒れていたとひよのはそう言った。
「驚きました。公衆電話がいきなり鳴り響いたかと思えば、誰も居なかった筈の構内に皆さんがばったばった。ええ、秋に鮭が川を上るかのような勢いで倒れているのですから……無事のお帰り、安堵しました」
 ほう、と胸を撫で下ろすひよのは巫女服姿である。由緒正しく、希望ヶ浜に『設置』された音呂木神社。この地区についてはあまり造詣が深くないと言った彼女は何かがあった時のためにと夜更けよりずっと此処で待機していたのだろう。
 意識を失ったままのロトを「先生」と揺さぶるひよのは「何かありましたか」と静かに問いかける。
「電話に出た」
「……はあ、なら暫くすれば戻ってくるでしょうからロト先生は一先ず我が神社に」
 頭の中で怪異と鬼ごっこでもなさっているのではと次に見遣るはこちらも同じく意識を喪ったクレマァダだ。
「彼女は?」
「分からないな。『何かを見た』のかもしれない」
 ニコラスにひよのはまた「はあ」と言った。呆然自失と座り込んでいる茄子子に「何か見ましたか」と告げれば「何も見てない、何も見てない」と何度も繰り返すだけだ。
「茄子子さんは?」
「バスティスさんが神域であろうと認識した場所を『掘り返し』土葬に関して確認していたのです。
 其処に何が有ったのか――教えてもらうこともしていないのですが」
 突如として何かを見た様に座り込み首をふるふると振る茄子子を否応なしに引き剥がして、撤退して来たのだという。
「それにしても、夜妖って言うのは不思議ですねぇ。都市伝説どころか、神様のような姿までとるなんて……それともまさか、本当に神さまだったりして?」
 沙耶の呟きに、誰もが口を噤んだ。揺らぐ頭を押さえていた鏡は「ううん」と小さく唸る。
「なんか聞いた気がしますけどぉ『神様の下に身体を還す』でしたっけぇ?
 じゃあ土地神様の下には誰がいたんでしょうかねぇ。どなたかスコップ持ってますかぁ? え、ない? じゃあこれでいいか」
 刀を道具としてざくりざくりと土を掘るがそこには何も埋っては居ない。可笑しいな、と呟く鏡へと花丸は「もしかしたら、土地神様の本体の下に埋まってるとか……?」とそうと呟く。
「痕跡があれば嬉しいが……現実世界にはなにもなさそうだな。
 そりゃ、ひよのが普通に立って待ってられたってんだから……だろ?」
「ええ。伏見先生。私は皆さんが電車に乗ってから直ぐに自家用車でここまで駆けつける手筈を取りました。無論、校長と連携して皆さんの迎えも頼んであります」
 それは有難いと頷いた行人は土地神の痕跡が残ってないのも困ったものだと呟いた――が、痕跡らしい痕跡としては『意識を取り戻さない』者達が該当するのだろうか。
「一つ、仮説をいいか?」
「どうぞ」
「制御できずに祀り上げられた神の作った異界。それが『こうして俺達を呼び寄せた』とする」
「ええ」
「その異界を抜け出すために土地神へと物理的手段を用いて攻撃し、抜け出した。
 此処までが今回だ……なら? 『ダムの下の村の名前が分かった』からといってこの怪異が全て解決したわけじゃないだろう」
 行人の言葉に天十里は「どういうこと?」と首を傾いだ。祭囃子を攻撃し、『ぱぱぱー』と片付ける段階ではハック&スラッシュの常の特異運命座標の仕事と大差はなかったはずだ。
「解決した訳じゃな。でも、あの異界ではこれ以上やる事が無かった」
「ええ、……そう、でしょうね」
「なら? 次は俺達は何をすればいい?」
 問いかける行人に天十里は土地神を撃退したその瞬間を思い出す。ぐにゃりと弾きだされたとに何か――何か、言っていたような。

 ―――コイヨウ

「コイ、ヨウ……?」
「『コイヨウ』?」
 問い返したシルキィに天十里は頷いた。それはエトも、黒羽も、キドーも、鬼灯さえ聞いたという。
「確かに言ってた気がしたな。いや、寧ろあの木偶から『最初に聞いた日本語』だとさえ思えた。
 意思疎通もできねぇぜ何かを告げ続ける奴が『コイヨウ』……来いよう? と呼んでるんだぜ。
 何か意味があるのかと思えるだろ」
 そう告げるグドルフに黒羽は頷いた。それがどのような意味であるかは――分からないけれど。
「こんだけ命掛けで大掛かりな仕事なんだ、カネはたっぷりと頂かなきゃなあ」
 そう笑ったグドルフに「まだ、終わりじゃないみたいですけれどね……」と沙耶はぞうと背筋が凍る気配をさせながら呟く。沙耶自身も『コイヨウ』という言葉に引っ掛かりを感じているのだ。それがこちらを呼び寄せるものか、それとも――
「それでひよのさん。あの村は――誰の夢ですか?」
 リンディスの問いかけにひよのは「村、ですか」と目を見開いた。
 石神地区の村々を指示したのではない、その村は――来名戸村か。
「誰の夢か、ひよのさんじゃ分からないかもしれないよね。うん、……そう、例えば、葬儀を主導したという『旅人』がいたとか、混沌の歴史、練達の歴史、再現性東京の歴史、希望ヶ浜の歴史……それぞれの流れの中にこの村はどのような立ち位置でいたのか。
 それこそ、この『村』こそが何かの夢のなれ果てだったのかもしれない。
 案外、希望ヶ浜もこの去夢鉄道と似たような感じなのかもしれないね」
 希望ヶ浜だって――『旅人たちの夢』なのだから。淡く、いつ見たくない現実に引き戻されるかもわからぬ、夢。
 バスティスは静かに静かにそう言った。夢の欠片の如き異界は――確かに現実に侵食し始めていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加ありがとうございました。
 様々な考察を目にすることが出来てとても楽しかったです。

 石神地区、これで終わりではないのです――さて、次は……。

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