シナリオ詳細
<TWURSE>兇夢伝染アプリオリ
オープニング
●いまいましいとみんなが言うから
穢れは祓うべし、と。何かを忌む事によって、穢れを除く習慣がある。
では、忌まれたモノは。払われた穢れは、一体何処へ行くのだろう?
「殺せ、殺せ、忌み児を殺せ!!」
小さな村の狭い土牢に、年端も行かぬ少女がふたり。同じ背丈に同じ顔。薄汚れた着物を着て、互いに身を寄せ合っている。
「あいつらが悪いんだ! 殺してしまえば、皆が助かるんだ!」
外から怒号が聞こえるたびに、少女はびくりと身を震わせて。傍らの、同じ顔をしたもうひとりにしがみついた。
「イヅハ、怖いよう」
「大丈夫、大丈夫だから……」
ことカムイグラの地では、双子は忌み子とされている。その理由には諸説あれど、この閉鎖的な村全体に長く染みついたこの習慣について、意味を問うても今更のこと。
この少女たちは外を知らず、生まれてこのかた、薄暗く色の無い土牢の中から出た事は無く。外と言えば、手の届かない格子窓から微かに見える、あざやかな遠いモノでしかなかった。
この村はもう、幼子を忌む事に慣れきっていた。何故なら双子は『忌み児』で『穢れ』、つまりは『禁忌』。禁忌は避けるべし。そうである事が正しいのだと、村人たちは信じ切っていた。
イヅハは袖に隠していた、桃色の、炒り豆のようなものを二粒取り出した。
「イヅハ、これはなあに?」
「これを飲めば、助かるの」
そう言うと、イルハは目を輝かせた。
「すごい、すごい! どうしてこんなものを持っているの?」
「それは……」
どうだったか。いまいち思い出すことが出来ない。どうしてイヅハはこれを持っていて、これを飲めばいいと知っているのだろう。
本人もわからない、と言った。イヅハでも分からないのなら、私にわかるわけもなかった。
「さあ。もう時間がないわ」
互いの目を見合って、せぇの、と。桃色の粒をふたり同時に飲み込んだ。
●因果応報、或いは身から出た錆
(どうしよう……)
変わり果てた姉が怖くなり、イルハは思わず土牢を転がり出た。外はすでに夜遅く、降りやまぬ雨で外気は冷え切っている。あれほど頑丈だった錠前があっけなく開いた事への疑問はあるが、今はとにかく逃げ出したい。
ここはまだ村のなか。ぐずぐずしていたら、見つかってしまう。あの土牢からも、村のおとな達からも。できるだけ遠くへ行かなければ。
ぱきり、ばきり。林の中は、巡る木の根で足場が悪い。裸足に石や木が刺さる。踏みつけたり、ぶつかったりすれば枝は折れ、地面はえぐれ、雨にぬかるむ泥の感触がぐにゃりと気持ち悪い。
「忌み児が居たぞ!」
後ろからおとなの声がする。イルハが振り返ると、村の衆が農具やらを持って集まっていて――
「ひっ!?」
イルハの顔を見るなり、彼らの顔が引き攣った。どうしたのだろうと、イルハは首を傾げると。傍らの木に頭をぶつけ、太い枝がぼきりと折れて地に落ちる。
「えっ――」
イルハから見たあの木の枝は、どう考えても頭や手が届く位置には無い。何かの偶然だろう。それよりも逃げねば。
イルハが村の衆に背を向けると同時、村の衆が地を転がった。まるで、大きな何かに薙ぎ払われたかのように。
「どうしたこった、オババ、大丈―――!?」
転げて蹲ったまま動かない老婆の顔を覗き込んだ者は、すぐさまそれを後悔した。
老婆の顔は捻じくれて、鼻と口と目が突起状に伸びて螺旋状に絡み合い、奇怪なキツツキのように変わっていた。
――丁度、自分たちの目の前に居る少女のように。
「いみっ、いみっ、いぎあらばおぼれっ」
老婆だったものが村人に襲いかかり、その顔の突起で男の腹を貫く。
「ぐげぇっ、なんだよ。何が起こってるんだよ! くそっ気持ぢばるれいいいでえええ」
刺し貫かれた男も同様に、捻じれ歪んで変質する。
口の端が裂け、首を、胴を超えてなおも裂け、八の字の穴が開く。それを扉のように押し下げて、中から小さな指が、赤ん坊のような指がわらわらとわらわらと溢れ始めた。
「なんだよ、何が起きているんだよ!?」
「いやだ、あんなものになりたくない! 助けて、たすげぎれいいびぶびれっ」
「嗚呼、神様、助けて! だずげれるいえっ」
これは豊穣の地の流行り病、感染する悪意。ヒトの営みに寄生する癌。忌まれた双子が肉腫と呼ばれるモノに変じての事だが、それと知る者も、呆然と立ち尽くす化け物――イルハを気に掛ける者も、この場にはもう居ない。
変わってしまったモノ。変わってしまう恐れ。変えられてしまったものに襲われる恐れ。それに支配され、誰も彼もが右往左往と逃げ回る。
(こわいよう、寒いよう……わからないよう……)
何かを忌み穢れを除いて、自分たちの身はすっかり綺麗。めでたしめでたし。
ところで、祓われたものは何処へ行くのか? 双子とは本当に不吉なのか? それは何故? そこまでを考える者は、村の中には居なかった。
狂うにせよ狂わないにせよ、考えたところで結局は同じ。何しろそう、穢れは禁忌なのだから。
- <TWURSE>兇夢伝染アプリオリ完了
- GM名白夜ゆう
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月27日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
狂気をそれと断じるは正気。
では、その正気を証明するものは誰、或いは何であろうか?
●巡る因果に蜘蛛糸を
「穢れを祓う、大いに結構。それ自体は良い行いですが――」
『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)が、村人の狂騒を冷めた目で見つめる。
「嫌な習慣ね、本当に」
見るに堪えないと『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)がひと時だけ目を伏せる。彼らには必要な習慣なのだと、理解してはいるけれど。
「……やり切れぬ、が」
不幸に遭えば、何処かに原因を求めたがるのが人であると『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は言う。
「まだ救える可能性があるのなら、泣く童を捨ててはおけぬ」
「ええ。複製肉腫は、無力化すれば助かる可能性があると聞きます。試さずして切って捨てる訳には参りません」
『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)が木々と村人の向こう、冷たい雨と暗闇の奥にうっすらとイルハの姿を見る。その腕は獄相の範囲を逸脱して長く、どす黒く変色したその表皮は皹割れささくれ、もう一対、異相の腕が小さな背中を突き破って生え、ゆらゆらと揺れている。
「やめ、やめれくれれるぇ」
背中の腕が、逃げ惑う村人の頭を乱暴に掴んで投げ捨てる。周囲の木に打ち付けられた村人の片目からは、もぞもぞと不定形の何かが這い出してきた。それを見た村人たちとイルハは、再び三たびの悲鳴を上げる。
「人間は、己を納得させ安心が得られれば、理由などはいらないのだ」
普通(じぶんたち)との違いが穢れとなるのだろうと、『餌付け師』恋屍・愛無(p3p007296)が異形の目線で見立てる。
「まさにそれこそ、呪いではないか」
「その通りです。穢れた双子が生まれたが故に、村は災禍に見舞われる。それさえ除けばと、目を瞑り思考を止める。それこそが、原初の穢れでありましょう」
専門外の無量には捉えきれない部分もあるが、随分と都合よく設えたものと見る。これで正しく祓えようか。
「誰かを……何かを悪として排斥してしまうような風習は悲しいよね……」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は『助けたい』、ただその一心でこの場に立つ。
「それじゃあ、打ち合わせ通りに! 咲耶君たちは、イルハ君の方お願いね!」
「うむ! その悪い夢、拙者達で晴らそうぞ!」
古き因習をひと絶ちにするのは難しくとも、今出来る精一杯を。
アレクシアは真っ直ぐに、狂騒(あくむ)の渦中へ飛び込んだ。
●ぬかるむ闇に清らかな雨を
「彼女の境遇……腹が立ちます」
「連中の自業自得と切って捨てたいところだが、放置しておく訳にもいかねえよな」
『星域の観測者』小金井・正純(p3p008000)の怒りはまだ胸の裡に。『特異運命座標』ドミニクス・マルタン(p3p008632)も、放っておけぬと駆け付けた。自身の生い立ち故か、忌み児と聞けば動かずにはいられなかった。
錯乱した村人がドミニクスに農具を投げつけるが、再生能力ですぐ癒える程度。それが集中攻撃へと変わる前に、アレクシアが叫ぶ。
「あなた達の相手は私だよ! さあ来なさい!」
闇夜にあってなお鮮やかに、テロペアが紅く咲いて爆ぜる。開いた魔術書からは煌々と光る花が溢れ、それらが誘蛾灯となって狂える村人の目を強く引きつけた。
「イルハさん。今から貴女の中の悪い物を取り除きます」
花の灯りを頼りとして、我先にと無量が踏み込み太刀を振るう。一振りで数箇所を打つ刃の軌跡は、宿儺迸るが如し。突然の痛みに混乱したイルハは、痛い痛いとただ泣きじゃくった。
「……すみません。けれど、痛み無くしては救えない」
これもまた巡る業か。心を研ぎ澄まし太刀筋を見極めれば――ああ、またの悪い夢。
そんなものは、疾うの昔に見飽きた。ヒトから『堕ちた』この身なれば、変化を怖れる道理は無い。姿など、ただのカタチに過ぎぬのだ。
瞬時に放つもう一閃。どうあっても私は私、我が意は常に此処に在り。思うが故に我は在り。
恐れる道理は一切無し、今ひとたびの『鬼』と成ろう。
「今、貴女を救います。だから、待っててくだい」
「すぐに終わらせてやるからな。それまでジッとして、目と耳を塞いでてくれよ」
まだイルハへの射線は通る。その隙を逃さず正純は流星の如き矢の雨を、ドミニクスはリボルバーでの抜き打ちを放つ。
竜胆も隙間を縫ってイルハに迫るが、邪魔な村人はまだ少し居る。ならばと素早く、軌道を少し横に反らす。
「こっちは私が引き受けるわ!」
手の鳴る方へと村人を誘い、イルハへの導線をしっかりと通す。実際の感染はまだ浅く三人ほどで、あとは普通の村人のようだ。アレクシアと竜胆の二人で、すべての村人を引き付ける事が出来た。
間髪入れず、冬佳が少女の肉腫(やまい)を切除せんと水の刃を放つ。
「……これは……」
清らかな水が爆ぜた瞬間、ぬめるような重い空気が一帯を包んだ。
まるで瘴気のよう。冬佳が軽く咳き込む。口元を抑えていた掌の上で、鮮血と黒く濁った水が混ざりぶくぶくと泡立つ。体内に残る穢れた水が、一斉に沸き立ち――
「……いえ、これは当然只の夢」
水天の加護と意志をもってすれば苛まれる事は無いが、悪夢が苛むのは当然、冬佳だけではない。
「――急がなくては」
迫るイルハの腕は鈍く、寸での所で竜胆へ至らない。竜胆は素早く距離を取り、返し様の斬撃でイルハを崩す。
「竜胆君。横からも臭うぞ」
愛無が草葉に隠れた村人に気づく。飛び出した村人の包丁が肉腫の力をもって竜胆を斬り裂いた。
「……この程度なら、問題ない!」
このまま狙うと、意に介さず真っ直ぐにイルハを見据える。二振りの業物から、再びの飛翔する斬撃を放った。
そんな大立ち回りを披露する中、じわりと悪夢の侵食は進む。
右腕が痛い。それはびきびきと木の枝のように割れて分かれて、もう一本、異形の腕が生えてくる。三本目の腕は勝手に動いて、周囲の仲間を切り裂いてしまう。枝に付着する肉片。
(――これが今、彼等を蝕んでいる悪夢なのね)
そう、これは夢。この腕は実在せず、飲まれてしまえば救える命も救えない。それだけは『死んでも嫌だ』。
「……っ!!」
幻の腕(あくむ)を斬り落とす。感じる筈のない激痛に一瞬だけ意識を手放し、竜胆は現実へと舞い戻った。
ひらりと靡く真紅のマフラーが、イルハの目前に迫る。
「紅牙流の暗技がひとつ――」
一撃で三か所の急所を突く暗器と、大量の鴉羽が同時にイルハに迫る。その物量に圧倒されて、肉腫の動きが大いに鈍る。
「悪いが暫く大人しくして貰うでござるよ。安心せよ、命までは取らぬゆえ!」
「すまぬ。恐ろしいだろうが」
愛無の腕の黒い被膜が大きく膨れ上がり、巨大な鋏の形を取る。その変化は怪異そのもの。村人もイルハも、恐怖に怯え後ずさる。
「これは僕の本来の姿……の、一部だ。悪い夢のような物か」
返答を待たず、肉腫の腕を素早く挟んで握り潰す。悲鳴を上げるイルハ。一帯の木々が揺れ、聞いた者が力を失う。肉腫の蝕みが、只の悲鳴を凶器へと変えたのだ
元々が異形の愛無にとっては、イルハの悪夢は恐るるに足らず。
どうか、早く眠れるように。それが愛なのだろうと彼は思い、その怪異を大いに振るった。
●星に願いを
いたい、イタイ。もうやめテ、ワカラナイ。
私たち、何か悪いことした? どうして私たちを虐めるの? 毎日がそれの繰り返しで、今も、きっと明日も。
――ワカラナクナッテシマエバ、イタイノモ、ワカラナクナル?
正純の曲射にドミニクスの早打ち、冬佳の水刃が次々とイルハを襲う。凄まじいばかりの集中攻撃は肉腫を大いに削り、ただ動く事さえも許さない。
「……皆、来そうだぞ。もう少しか」
愛無の嗅覚が、狂気の高まりを正確に捕える。恐怖といったものは『よく分からない』が、イルハの悪夢は現実にも及び、愛無の身体を確実に苛む。
一気に強まった悪夢の浸食が、大勢の生者の動きを止めた。強靭な意志力で跳ねのけた冬佳が悪夢を祓わんと力を振るうが、一度に祓えるのは一人まで。一手での立て直しは叶わない。
ぷつり。ぼこり。
咲耶の体内を好き勝手に這い回っていた何かが、ついに背中を破って生まれ出たか。
(意識してはならぬ。まだ、見てはならぬ)
今、背中が大きく膨らんだ。幻術と判っていても、そう長くは耐えられまい。優れた忍たる咲耶とて、正気には限りがある。
(だからまだ、見てはならぬ。仲間達を不安にさせてはならぬ――!)
狂気にあって威力を増した異形の腕が、前衛を抉らんと迫る。それでも無量は微動だにせず、イルハに声をかけ続ける。
「……お姉さんの事もきっと、私達の仲間が救って下さる。だから、もう少しだけ」
自身の胸を貫いたその手を、優しく包むように。変わり果てた『手を繋ぐ』。
「――私達と、頑張りましょう」
「そうだ。諦めるには少し早いぞ」
巻き込まれ、横腹を大きく抉られた愛無も立ち上がり。
「その通り! まだ、恐怖に心が折れるのは早いでござろう! ……拙者も、イルハ殿も!」
悪夢を振り払った咲耶が、変幻自在の悪刀をもって迫る。
イルハの硬くなった手に温もりが伝わる。無量はそのまま、小指同士を絡ませて。
「これが最後の痛みになると、約束します」
「ああ。俺からも約束する」
イルハの悲鳴や悪夢、村人たちの流れ弾で、ドミニクスの身体は軋み始めていた。しかし、ここで止まっては居られない。深呼吸で体勢を整え、放つ弾丸がイルハを穿つ。
立て続けに無量が放つ変幻の太刀が、肉腫をも惑わし。
あと一歩。
「く……星が、出ていないのに……」
正純の身体に巻き付く呪いが、ぎりぎりと彼女を締め上げる。
右肩から身体にかけて伸びた鎖状の痣がざりざりと増え続け、ジャリジャリと伸び続け。
繋がれているのは、本当に自分か? いや、違う。
戒めているのは、己(くさり)の方――
アレクシアは仲間の被害を抑えるべく、終始村人の多数を引き受けていた。
ヒトからの攻撃は掠り傷だが、肉腫の爪は相応に痛い。でも、まだだ。どう傷ついても経ち続ける。あの人ならきっとそうする。
そうして赤い花を咲かせ続ける彼女の背筋に、ぞわりと生ぬるいものが走る。
(……これは……!)
イルハの悪夢の侵入か。身体、思考、あらゆる自分の表裏が『裏返りそうになる』。魔種の呼び声を受けた時と少し似て、強い眩暈を覚える。
この悪夢で狂うには至らないが、もし、悪夢を見る前に狂っていたら? とうに狂っていた自分が、自分の正気を見ているとしたら――?
「……間に合って……!」
真っ赤な花の傍らにもうひとつ、透き通る水の華が咲く。水天の秘儀であるその花はアレクシアの苦痛を和らげ清め去り、大いに力を賦活する。
「水佳君、ありがとう! 頭がすっとした!」
もう大丈夫だ。こういった狂気の類は少なくとも一度、跳ねのけた事だってある。
も真っ暗な悪夢の中にあっても、その花は決して枯れない。
思い切り、深呼吸をして。
「――イルハ君! 『みんな』! しっかり自分を持って!」
飲み込まれてはだめと、アレクシアは声を振り絞って叫ぶ。狂乱にある村人の動きも、一瞬だけぴたりと止まった。
こんな中でも、救えるものはきっとある。彼女の救いは、幼子を虐げた村人たちにさえも差し出されたのだ。
「ええ、そうですね。この程度。星々からの祝福に比べれば……!」
アレクシアの声は、離れた正純にも届く。悪夢を打ち破った正純が少しの間だけ瞑目し、荒れた気持ちを落ち着ける。
「……これで、大丈夫」
もう少しなのだ。ここで負けたら、イルハを救えない。
――諸々の禍事罪穢れ、祓へ給ひ清め給へと、日月星辰に恐み白す――
今一度、雨雲向こうの星辰に祈る。弓を引き絞り放つは、全天で最も明るい一つ星の加護。
「おほし……さま……?」
イルハ達に降り注いだ地上からの流れ星は、眩い希望となって罪穢れを燃やし尽くした。
その一方で、愛無が闇に潜み、残った村人の背後に回り込む。
光ある所に影はあり。暗闇の中から己を打ち出し、その禍ごと命を呑み込む。
「おめでとう。これで君達も、晴れて『穢れ』の仲間入りだな」
怨霊はすなわち御霊。穢れとただ忌み嫌い、排除した末路がこの様だ。愚鈍な彼らもまさに今、異形の粘膜の中でそれと知る。
かろうじて逃れた村人が竜胆に迫るが、繰り出す後の先――には更なる先があった。縫い留められた村人は、そのまま動けなくなる。
「まだ助かる可能性があるなら、私はソレに賭けるだけよ」
「同感だ。いたちごっこは止めねぇと」
殺さぬように、慎重に。ドミニクスは意識して急所を外し狙い撃つ。
咲耶の手刀と冬佳の水が村人の意識を奪い切り、とうとうこの場を清めきった。
●無辺に遍く救いを
「終わった……か」
ドミニクスが辺りを確認する。狂った村人もこれで全部。変異した村人の姿も、すっかり元に戻っていた。
「大丈夫そうね。それじゃあ、イルハとは離しておきましょう」
竜胆の提案に、正純とドミニクスも頷く。この惨劇があった上でもう一度あの姿を見たら、村人達は果たして、何をするか。
竜胆と正純でイルハをそっと隠し、ドミニクスは息がある村人を離れた場所へ運び込む。
「勿論、拙者も手伝わせて貰おう」
咲耶の手も加わって、引き離しは無事に終わる。軽傷で済んだ村人たちが、ゆっくりと目を覚ました。
「忌み児……あれ、俺らは一体……?」
「イルハ、いえ……穢れは私達が祓いました」
「忌……イルハの死体はこちらで処理する。近づかないように」
正純とドミニクスが先んじて村人を『言いくるめ』る。多くの者は気圧され頷くが、確認させろと言う者も居る。
「言った筈です。貴方達はそれぞれ自分の生活に戻りなさい、と」
正純が思い切り語気を強め、一喝。巫女様の言う事ならと、村人はしぶしぶながらも納得をした。
「おはよう」
別の村人たちが目覚めると、目の前には愛無――彼らを呑みこんだ怪異の姿があり、村人たちの顔が恐怖に引き攣る。
「ひ……!」
「穢れとは祀り鎮める物だ。闇雲に害するなど、もっての外。今後は忘れてはならぬ。忘れれば、また祟りは免れまい」
「……は、い」
少しばかり話を盛ったが、あながち嘘でもない。因習を簡単に変えられぬなら、せめて次の双子が暴力に飲まれぬようにと、かの鉄帝軍人の手腕に倣い揺さぶってみた。
「何れは考えを改めて貰うが、今はその命を救うまで」
咲耶もしっかりと釘を刺す。彼らもまた、古き因習の被害者の様なものならば。
「それと……」
アレクシアが今しがたの出来事について簡単に話す。本当の原因は双子ではなく、また別の悪意であると。
どうか、少しずつでも変わっていきますようにと。アレクシアは願ってやまない。
「ねえ、イルハさん。今後はどうしたいですか?」
冬香の看病が功を奏し、目を覚ましたイルハに正純が問う。
「神威神楽に居るより大陸に連れ出して、ローレットで保護する方が安全でしょうか……」
冬佳は村人に何も言う事は無く、黙々と被害者を案じ、その穢れを除き続けていた。
「うちの社に来てくれるなら私は貴女達を歓迎します。良ければいらっしゃいませんか?」
「私も、最近足を運んでいる村があるのですが……獄人も多くいらっしゃるので、例え双子であろうとも差別する事はしないでしょう」
正純と無量を始め、外の大人が向ける眼差しはどれもあたたかい。
「え、ええと……お姉ちゃんが、なんて言うかな……」
「引く手あまたか、良いこったな。移住の手伝いはさせて貰うぜ」
表情が分かり難いドミニクスも、イルハには好意的だ。
イルハの病は変異の肉腫。ならば当然大本がある。
変異の原因は恐らく姉、イヅハと共に飲み込んだ桃色の粒。そしてイヅハは、何故かそれを知っていたという。何某かの悪意が、それをイヅハに授けたのだろうか。
イヅハの方には別動隊が当たっており、そろそろ対処を終える頃。あとは、彼女自身が何を選ぶか。
「出来れば、ここよりも幸せに暮らせればよいのでござるが」
夜明けまではまだ刻がある。ひとまずはこれ以上、雨で濡れないように。民家までイルハや村人たちを移動させつつ、別動隊の報告を待つ事にした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加、誠にありがとうございました!
見事な連携と立ち回りでイルハちゃんは無事に救出、痛い目を見た村人たちの心にも
残るものがあった事でしょう。痛く無ければ覚えないのです。
ホラー部分の描写はyakigoteさんのパk……見よう見まねで書いてみました。
改めまして、貴重な機会をいただけましたyakigoteさんと、ご参加くださった皆様に多大な感謝を!
またどこかでお会いできましたら幸いです。
GMコメント
なんと! yakigoteGMとの連動です!
●目標
【複製】肉腫『イルハ』、及び感染者(村人)の対処
●情報精度:B
情報屋が急いで調べたところ、イルハは複製の肉腫である事が分かりました。
それ以外の出ている情報は正しいものですが、村人の細かい状況など、
不明点もあります。
●ロケーション
『ウバタメ村』という、小さな村の林部分です。時刻は夜、雨が降っており、
視界や足場への影響が考えられます。場所そのものは基本的にひらけています。
●エネミー
〇イルハ
忌まれていた双子の片割れだったもの。正気を残してはいますが、
その身体や性質は大きく変質し、生ける者たちを蝕みます。
自分が変わったことにまだあまり気づいておらず、最初のうちは「何もしない」事も多いです。
・どうしよう:何もせず呆然としています。正気を失うにつれ攻撃行動が増えます
・手をつなごうよ:物近列/中ダメージ【ショック・泥沼】
・わからないよ:神中扇/中ダメージ【攻勢BS回復50・虚無1】
・正気喪失【P】:ターン経過や、残りHPの減少に従って攻撃力が上がっていきます
・わるいゆめ【P】
イルハを中心として、 この一帯に蔓延する悪夢です。
毎ターン開始時に1回、PCさん全員に【苦鳴】【流血】【麻痺】【恍惚】を付与します
(命中判定は各BSごと、回避や無効・回復は有効です)
PCの皆さんが肉腫に変じる事はありませんが、かなり強い狂気と
自我、感覚の喪失に苛まれ、『変化してしまう』錯覚に囚われてしまいます。
※抵抗や怯えなど、プレイングで変化具合の調整がある程度可能です。
変異描写はフレーバー的な要素ですので、お好みにあわせてどうぞ。
〇村人だったもの×15人前後?
変質して肉種になっているか、なりかけている者たちです。
イルハの感染力がそれほどではないため、強力な個体は居ません
(が、強い狂気には苛まれています)。
攻撃は農具を使ったものなど、単純な物理系になります。
・忌まれるカラダ【P】:攻撃してきた者に確率で【毒】を付与します
・わるいゆめ(弱)【P】:すべての攻撃に【不吉】【Mアタック10】が付きます。
・正気喪失(弱)【P】:ターン経過や、残りHPの減少に従って攻撃力が微増します
【注意事項】
yakigoteGMのシナリオ『<TWURSE>異形災厄アポステリオリ』との
同時参加はできませんので、ご注意ください。
・・・・・・・・・
それでは、今回もよろしくお願いします!
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