PandoraPartyProject

シナリオ詳細

シロと四郎

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●覚醒
 ここは、何処だろうか? 気が付いたときには、我はここにいた。
 それ以前のことは、とんと覚えて居らぬ。
 振り返れば、古く朽ちた小さな社があった。社を目にした我の胸に、得も言われぬ懐かしさが込み上げる。何か、我の過去に関係があるのだろうか。

 不思議と、腹も減らねば眠くなることもない。
 ただ無為に時を過ごす退屈に耐えかね、辺りを散策することにした。
 社のある竹林を出たところで、必死に何かを探す獄人の子が目に留まる。
 我には関係なきことと行き過ぎようもするも、如何にも胸が疼いて止まぬ。
 逡巡の末に捜し物を手伝ってやり、見つけた派手な巾着袋を咥えて示してやる。
「ありがとう! これでオイラ、怒られずに済むよ」
 獄人の子は嬉しそうに礼を述べると、巾着袋を持って去っていった。

●追憶
 シロと初めに出会ったのは、ご主人の奥様が落とした巾着袋を捜していた時だったっけ。白い柴犬が巾着袋を咥えて来たのには、びっくりしたなぁ。
 それでも、見つけるまで帰ってくるなと言われて途方に暮れてたから、嬉しかったもんさ。
 それからオイラは、暇が出来ればシロの所に遊びに行った。最初は何処かぎこちなかったけど、オイラ達はすぐに慣れた。
 シロは、撫でてやれば気持ちよさそうにして、ペロペロと甘えるようにオイラを舐めてくる。そんなシロに、オイラはどれだけ救われたかわからない。

 ――でも、シロとの幸せな時間は長く続かなかった。あの時も、シロはオイラを救ってくれたんだ。それなのに、それなのに――!

●暴走
「ほら、あの河原に行ってこいよ。オレの命令が聞けないのか?
 オヤジに言って、追い出してもいいんだぞ」
「……うう、わかったよ。行くよ」
 夜の散歩に出た我は、八百万の子らが囃し立てながら、彼の獄人の子を河原へと追い立てるのを目の当たりにした。獄人の子は怯えながら、恐る恐る河原へと歩いて行く。
 ――全く、人とは下らぬことをするものだ。そう呆れ、獄人の子を励ますべく駆け寄ろうとしたその時だった。
「――嗚呼。その温もりをよこせ、我らの仲間となれ!」
 獄人の子を取り囲むように、首のない――いや、首を片手に抱えた盗賊達の怨霊が現れたのだ。その瞬間、我は全てを思い出した。
「――貴様ら、我と我が家族を殺めただけでは飽き足らず、またしても我の大切な人を奪わんとするか! 許せぬ! 許せぬぞ!」
 その瞬間、どす黒い奔流が我の心に流れ込み――我の意識は、そこで途絶えた。

●依頼
「お集まり頂き、ありがとうございます。さて、皆さんは荒魂(あらみたま)と言うのをご存じですか?」
「何かの本で読んだことがあります。確か、魂の側面の一つで、荒々しい性質を持つんですよね」
 鬼人種の子供を連れてイレギュラーズ達の前に姿を現した『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)の問いに、リンディス=クァドラータ (p3p007979)はかつて読んだ本の記憶を頼りに答えた。
「ご存じでしたら話は早い。今回の依頼は、暴走してしまった荒魂を鎮めて欲しいのです」
「それはいいのだが……その依頼と、その子供と、何の関係が?」
「……オイラを、シロの所に連れて行っておくれよ! シロに会って、あの時のことを謝りたいんだ!」
 怪訝そうに、ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)が尋ねる。すると鬼人種の子供はイレギュラーズ達に向かって、叫ぶように懇願した。
「シロと言うのがその荒魂のことなのは察しが付いた。だが……」
「もう少し、詳しい説明が欲しいのです」
「もちろんです。ただ、話すと長くなってしまうので、こちらをお読み下さい」
 得心しつつも、まだ何か言いたげなグレイシア=オルトバーン (p3p000111)。夢見 ルル家 (p3p000016)も同様だったのだろう。さらなる説明を勘蔵に求めた。
 勘蔵は事の経緯や依頼の詳細をプリントした紙を一同に配る。一同がその内容に目を通す間、沈黙と静寂が場を支配した。
「鎮めるとは、必ずしも調伏――消滅させる必要は無いのですね?」
「ええ。とにかく周囲に害を及ぼさないようにすればOKです。そういうことに、してもらいました。
 殺めることなく戦闘不能にして大人しくさせれば、話のしようもあるかも知れません。
 ただ、それまでは誰彼の見境はないと思われます。それを踏まえて、この子――四郎を連れて行くかどうかは皆さんの判断にお任せします」
 静寂を破ったのは、依頼の達成条件を確認するように尋ねた彼岸会 無量 (p3p007169)だ。その問いに勘蔵は答えて、さらに四郎について触れた。
「その子か……気持ちとしては、連れて行ってやりたいところじゃが……」
「……巻き添えになる可能性は、あるんだよね?」
 アカツキ・アマギ (p3p008034)がポツリと漏らし、ルアナ・テルフォード (p3p000291)が続けた。
「……仮にこの子を連れて行って死なせてしまった場合、依頼はどうなるのでしょう?」
「うーん……必要も無いのに子供をわざわざ連れて行って死なせたとなれば、やはりこちらの瑕疵にはなってしまうんですよね……。
 それを踏まえて、如何するか決めてもらえればと思います」
 リュティス・ベルンシュタイン (p3p007926)の問いに、勘蔵は悩ましそうに答える。それを受けて、四郎の扱いについて、一同は頭を悩ませ始めた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 この度はリクエストシナリオのご用命を頂き、どうもありがとうございます。
 頂いた内容からはいろいろとアレンジさせて頂きましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

●成功条件
 シロを鎮める(残留/消滅は問わない)

●失敗条件
 四郎の死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●事件の経緯(勘蔵の調査による)
 昔々、鬼人種の一家が飼っていた犬もろとも盗賊達に皆殺しにされました。事件を悼んだ周囲の人々は、小さな社を建てて一家の霊を慰めました。また、盗賊達は別の罪状により捕縛され、河原で処刑されました。
 時を経て、犬の荒魂が覚醒しました。覚醒した犬の荒魂は鬼人種の少年四郎と出会い、シロと名付けられ交流を持ちます。奇しくも、四郎は皆殺しにされた鬼人種の一家の血縁でした。
 ある日、四郎は主人の子供達に河原で肝試しを強いられます。しかしその河原は盗賊達が処刑された場所で、盗賊達の怨霊が彷徨っていました。
 盗賊達の怨霊に襲われる四郎を目の当たりにしたシロは、人語を発しながら黒く巨大な犬へとその姿を変え、盗賊達の怨霊を全滅させました。しかし四郎は変容したシロの姿に恐れを成し、その場から逃げてしまいます。
 暴走したシロは、社のある竹林に近付く者に無差別に襲いかかるようになってしまったため、近隣の住民達によって討伐依頼が出されることになりました。

●ロケーション
 竹林の前。そこまで来るとシロが襲いかかってきます。
 竹林自体ではないため、移動等にペナルティーはありません。
 逆に言えば、竹林の中に入ってしまうと移動や攻撃に苦労することになります。

●シロ
 盗賊達に虐殺された犬の荒魂です。元は白い柴犬の姿でしたが、今は黒く巨大な犬の化け物に変容しました。
 命中、回避が高く、防御技術は低めです。その他の能力に関しては不明。
 消滅させずに戦闘不能に追い込むには、【不殺】が必要となります。

・攻撃手段
 噛みつき(通常攻撃) 神単至 【弱点】【失血】
 爪(通常攻撃) 神単至 【多重影】【追撃】
 遠吠え(アクティブスキル) 神遠域 【ブレイク】【停滞】
 落雷(アクティブスキル) 神超域 【万能】【災厄】【感電】
 物理半減(霊体ベースであるため、物理属性の攻撃はダメージが減少します)

●四郎
 シロと交流を持った鬼人種の子供です。
 盗賊達の怨霊からシロに助けられた際に、変容したシロに恐怖を抱いてその場から逃げ出してしまいました。
 客観的に見ればその判断は間違いではなかったのですが、自分を助けてくれたシロから逃げ出した、と言う悔恨を抱き続けてきました。
 シロの討伐が依頼されるにあたって、せめてあの時のことを謝りたいとイレギュラーズ達に同道を願い出ています。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。

  • シロと四郎完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月11日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
彼岸会 空観(p3p007169)
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ

●出立前
(盗賊に飼い主の家族諸共殺された犬が荒魂となり、飼い主の血縁である少年と交流を持ち、怨霊となった怨敵の盗賊から少年を救う。話が此処で終わるのであれば、よく出来た美談で済んだのだろうが……)
 情報屋からの説明を受けた『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は、事の経緯に奇妙な因縁もあったものだと感じ、少年を救ったが故に暴走した事実に現実のままならなさを感じていた。
(近隣住民にも被害が出ているだろうに、討伐が成功条件で無いのは意外だったが……「そう言う事に、して貰いました」という辺り、事件の背景を近隣住民にも説明したのだろうか。
 人は美談に弱いものだが……)
 グレイシアの推察は、完全にではないが概ね当たっていた。ただ、情報屋が事情を説明した対象はより狭く、依頼主達だけであったと言うところが異なる。
 ともあれ、皆が納得出来るように事態を収拾するまでと、グレイシアは四郎に目を向けた。
 ――そう。イレギュラーズ達はこの依頼に、四郎を伴うことにしたのだ。
(このまま物別れとなっては、あまりに悲しい結末です)
 『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は、もちろんそんな結末は回避したいと願う。
 それにはシロが正気に戻ることが絶対条件であり、その決め手が四郎の声であることは疑いなかった。
 もっとも、見境なく襲いかかってくるであろうシロの前に四郎を連れて行くのは当然危険が伴うし、わざわざ四郎を連れて行って死なせたとなればイレギュラーズ達の瑕疵となる。だが、ルル家は自分の身を盾にしてでも四郎を守り抜く覚悟を固めた。そうしてシロを正気に戻して――。
(ハッピーエンドといきましょう!)
 最高の結末を迎えるべく、ルル家は気合いを入れた。

「なあに、四郎とやら。君の判断は間違っておらぬし、過ちにもさせぬ。
 一旦引いて妾達が間に合ったなら、それが正解じゃ。
 シロとは友達だったんじゃろう?
 ならばシロも、きっと君を傷つけることは本意ではない。
 君が正しい選択をし、その上で後悔しておると言うのなら一緒に謝りに行くのじゃ。
 逃げ出したりしてごめん、許してくれるならまた一緒に遊ぼう! とな。
 その為の手伝いを妾達は全力でするし、シロの魂もきっと鎮めてみせるのじゃ!」
 『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は、満面の笑顔を四郎に向けてそう説いた。アカツキの笑顔と言葉は、罪悪感に苛まれていた四郎の心を解きほぐしていった。
「シロさんには、ごめんなさいも大事だけど……あなたがどれだけシロさんを好きなのかとか、
楽しかった事とか嬉しかった事とか。沢山伝えて欲しいの」
 四郎と同じくらいの少女の姿をした『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が、アカツキに続いて四郎に語りかける。
 ルアナは、豊穣が発見されてから魂には荒ぶる側面と穏やかな側面、その他に二つの側面があることを学んでいた。シロは、きっと生前は柔和な犬だったのだろうとルアナは思う。しかし、荒ぶる側面の魂であったシロは、四郎を助けるために暴走してしまった。であれば、このままシロを退治して消滅させてしまうのは悲しすぎるではないか。
 謝罪だけではなく、シロへの好意や幸せだった時のことを語るのは、きっとシロが正気を取り戻すのに有効である。ルアナは、そう信じていた。
「四郎、シロとの会話をする機会は俺達が作る──信じてくれるか」
 跪いて目線を合わせ、じっとその瞳を見据えてから、『Black wolf = Acting Baron』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は四郎と話し始めた。
「君は俺達が守る。だから、君もシロに呼びかけてやって欲しい。君とシロの思い出を話しかけてやって欲しい。
 今、シロは怒りに支配されているが…それだけが君から彼に与えられた物では無い筈だ」
 実直さを感じさせる、騎士然としたベネディクトの「守る」と言う言葉は四郎に安心感を与えた。
「うん。オイラ、頑張ってシロに呼びかけるよ!」
 こくりと力強く頷いて、四郎はベネディクトに応えた。

(己の過ちを悔い、改められる四郎と言う子は優しく、真面目なのでしょう。
 その心は、現在の神威神楽では尊い)
 彼岸会 無量(p3p007169)は、四郎の有り様に好感を抱いていた。それだけに、その願いは何としても叶えようと意を固く決した。例え、己が身を四郎の盾にすることになろうとも――。
 そんな決意を秘めた瞳で、無量はアカツキやルアナ、ベネディクトに語りかけられる四郎の様子をじっと見つめていた。
 『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)も、無量同様に四郎の様子をじっと見つめている。
(最後まで連れていく後悔。伝えられなかった言の葉。
 ――物語ではとても、とてもありふれているお話。
 それは、その物語の数だけどこかで誰か作った人の後悔があるのかもしれません。
 まだ取り返しが付くのならばせめて、私たちはその力添えを。声を、届けましょう)
 今までリンディスが見てきた物語と違って、目前の物語はまだ終わっておらず、その結末は変えうるのだ。
(未来綴りは、二人のすれ違いの無い終わりの為に――)
 為しうる限りの尽力を為さん。リンディスはそう心に誓った。

●竹林到達
 四郎を伴ったイレギュラーズ達が、もうすぐ問題の竹林に到達しようという頃。
 四郎の表情は硬くなり、歩みも何処かぎこちなくなっていた。無理もない話である。いくらシロに謝罪したいとは言っても、そして周囲の大人達が守ると言っても、まだ子供である四郎にとって怖いものは怖いのだ。
 メイド故の観察眼からか、それを見逃さなかったのは、『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)だ。
「怖いですか、四郎様? 大丈夫ですよ。
 ご主人様も、皆様も、――そして私も、四郎様がシロ様とお話し出来るよう全力を尽くします。
 ですから、四郎様は安心して、四郎様の伝えたい言葉を全て伝えるようにして下さい。
 想いがすれ違ったままですと、寂しいですからね」
 リュティスはしゃがみ込むと、両手で四郎の手を取って、微笑みかけた。リュティスの掌と微笑み、そして言葉は、恐怖に飲まれかけていた四郎の心を落ち着かせる。
「怖――かった。でもオイラ、もう大丈夫だよ」
「その意気です。四郎様」
 四郎がまだ無理をしていると、リュティスにはわかった。しかし、四郎は勇気を振り絞って恐怖に打ち克とうとしているのだ。であれば、今はこれ以上の助けは不要とばかりにリュティスは四郎を励ましてから、その手を離した。
(怖いようなら手を握っていてやろうと思うておったが、先を越されたか。
 しかし、やはり男の子じゃの)
 アカツキは機を逸したのを残念に思いながらも、そんな四郎を好ましそうに見やっていた。

 一行が竹林の前に到着すると、そこには黒く巨大な犬がいた。シロだ。グルル……、とシロが低く唸ると、空を暗雲が覆い始めた。不穏な空気が、辺りを支配する。

●開戦
「シロさんシロさん。わたしはルアナだよ。私の声、届く?」
 最初に動いたのは、ルアナだった。絶対に四郎を守るという信念を鎧と化しながら、シロに声をかける。シロの意識を自身に引き付けたルアナは、さらにシロとの距離を詰めると、壁のように立ちはだかってその動きを封じた。
 リンディスは己に、未来綴りの章・継と未来綴りの章・鏡を用いて、幾度傷ついても倒れぬ勇者もの物語の加護と、自身を写し負担を軽減する「鏡」の様な力を付与していく。
「貴方は大切な者の為に憤ったのでしょう! 二度と奪われぬ様にと怒ったのでしょう!」
 その想いは尊い。故に、自ら潰させてはならない。無量はシロを叱るように叫びながら、その心を取り戻しやすくなるよう錫を鳴らしつつ魔性の剣筋で斬りつける。刃の手応えは薄いとは言え、無量にとってはそれで十分だった。
 元より、自身の刃がシロに通じにくいのはわかっている。この剣筋は、味方の攻撃に繋げるためのものなのだ。
「シロ、オイラだよ! 四郎だよ! あの時から、ずっとシロに謝りたかったんだ!
 シロはオイラを守ってくれたのに、オイラはシロを怖がって逃げちゃって……ごめん、ごめんよ!」
 四郎はシロの方へと駆け出して、呼びかけを始める。ベネディクトはその後を追って四郎の側へと至ると、四郎を護る体勢を整えた。
 シロの爪は、ルアナを襲う。一撃目を受け止めたルアナだったが、続けて放たれた二撃目がその隙を衝いて、ルアナの身体をザックリと抉った。
「ぬう……図体の割に素早い!」
 シロを逃がさないよう後方に回り込んだグレイシアが、敵を塵に変えんとする魔術を仕掛けるものの、シロは素早く回避する。だが、それが続くルル家に対しての隙となった。
「少々短気が過ぎますよ! 見境がなくなって守りたいものまで害せば後悔するのは貴方です!
 さっさと正気に……戻りなさい!!」
 二条の閃光が立て続けに放たれ、どちらもシロに命中する。爆発に次ぐ爆発は、霊体であるシロには通じにくいとは言え、痛手を与えた。
 アカツキは圧倒的な威力を持つ魔の光をシロに放つ。爆発の衝撃から立ち直っていないシロはその光を避けきれず、さらに深い傷を負った。同時に、アカツキはシロとの距離を詰めていく。
 そこに追い打ちをかけるようにリュティスは敵を死へと誘う黒い蝶を放ち、まとわりつかせることでシロの運気を悪化させた。さらに、シロが黒い蝶を追い払おうとしている間に穿たれた者を拘束する矢を放ち、命中させる。矢に宿った魔力は、シロの身体に雁字搦めに絡み付いた。

●激闘
(まだ余力はあるようだな。では、今度こそ)
 再度、グレイシアは敵を塵と化すほどの威力を持つ魔術を仕掛けた。グレイシアの放った術は今度は命中し、シロの背部に大きな穴を穿つ。
「シロさん、護りたかったものを間違えないで!
 その爪に、二度の後悔という悲しい物語を刻まないように……!
 前脚は、傷つけるだけじゃなく誰かに「触れる」ことも出来る手なんですから!」
 シロに向かって必死になって呼びかけつつ、リンディスは癒やし手達の記録を励起し、その「前脚」で傷つけられたルアナを回復していく。ルアナの受けた傷は完全にではないものの、ほぼ塞がった。
 ルル家の放った光条は紙一重でシロに回避されたが、その隙を衝いてリュティスは再びシロに向けて射撃を行い、その身体に矢を突き立てた。
「シロ、もうやめてくれよ! オイラ、シロが傷つくのもこの人達が傷つくのも見たくないんだ!
 なぁ、シロはオイラの捜し物を見つけてくれて、撫でてやったら甘えるようにペロペロとオイラの顔を舐めてきて……そして、オイラを護ってくれるぐらい、優しかったじゃないか!
 あの時のシロに、戻ってきてくれよ!」
 激しい戦闘にたまりかねた四郎が、涙ながらに訴えかける。
 側で四郎の訴えを聞いていたベネディクトは、ぎゅう、と魔槍『グロリアスペイン』の柄を握りしめる。
(魂とは、強い感情に染まり易い。まして、動物の魂ならばなおさらだ。
 純粋な存在であればあるほど、怒りや悲しみに支配されてしまうのだろう)
 しかし、そのままであって良いはずがない。四郎もシロも、こんなことは望んでいないのだ。
(だが──だからこそ、此処で悲劇の連鎖を断つ!)
 そのためにも、一度シロの戦闘力を奪い、大人しくさせねばならない。ベネディクトは四郎への護りを崩すことなく、一方で決然とした表情を以て、審判の一撃を繰り出した。渾身の力を込めて繰り出された魔槍の一撃は、シロの左足の付け根に深々と突き刺さる。
 シャラシャラシャランと、錫の音が立て続けに響く。同時に、無量が一瞬して無限とも思える突きを放ったのだ。
「動き回り捉えられぬと言うのであれば、捉えられるまで打ち込めば良い」
 そうして放たれた都合九発の突きは、リュティスの放った黒い蝶の働きもあり、シロの頭に二発、喉に三発、胴に二発が突き刺さった。一発の威力は分散しているものの、それでもこれだけの攻撃を受けてはそのダメージは大きいものとなる。
 だが、シロも負けてはいない。次の仲間に続けるべく無量が放った変幻の邪剣を素早く躱すと、ルアナの肩口に深々とその牙を突き立てた。
「ぐっ、う――!」
 回避するも受けるもままならず、その顎にかかったルアナは苦しげに呻き、傷口からはどくどくと血が流れ落ちる。牙はシロが引き抜くまでの間、ルアナの肉を深く抉っていった。
「ねぇ……シロさん。わたしのこえ、まだ届かない? ううん……私の声じゃなくてもいいや。
貴方を心配する声……聞こえない、かな?」
 負傷に息を荒くしながらシロに問いかけつつ、ルアナは意志力を破壊力に換えて、『霊樹の大剣』を大きく振り下ろす。斬撃はシロを捕え、黒く巨大な身体をざっくりと斬り裂いた。
(そろそろ、危ないかのう。間違っても、殺めぬようにせねば)
 イレギュラーズ達の目的は、あくまでシロを鎮めることであって殺すことではない。アカツキはこれ以上の攻撃はシロの命を奪いかねないと見て、攻撃手段をシロを殺めることのない威嚇術に切り替えた。
「シロ! 話を聞くのじゃ!! 己の荒ぶる魂に負けるでない!
 お主、また大切な者を失うつもりか? それも今度は、自分の手で!
 四郎のあの心配そうな姿が見えぬのか。今なら間に合うのじゃ、戻ってこい!
 お主の大切な者は、友達は此度はまだ失われておらぬぞ!」
 呼びかけつつの攻撃は、シロに回避されてしまった。だが――。
 
●無明
 ……どす黒い奔流が我の心に流れ込んでから、我には何も感じることが出来なかった。だが、如何したことか我の意識に呼びかけてくるような声が響き始めた。最初は何を言っているのか全く理解出来なかったが、次第に少しずつ言葉を拾えるようになり、男女の区別も付くようになっていった。
「シロ、もうやめて……あの時のシロに……くれよ!」
 この瞬間、我はこの声が泣き声混じりの四郎の声と認識した。おお、四郎。如何して泣いておる。泣くでない。しかし、止めてとは何だ。一体、何がどうなって……?
「貴方を心配する……聞こえ……かな?」
「負けるでない……大切な者……自分の手……。四郎の姿……戻って……」
 我を心配するとは何だ? 四郎は、そこにいるのか? 四郎の姿を見たい。四郎に会いたい。そして、涙を舌で拭ってやりたい!
 だが、目も見えねば身体の自由も効かぬ。ああ、声はこれに負けるなと言うのか。しかし――。

●帰還
 シロは完全にではないが意識を取り戻した。だが、憤怒の呪縛は未だシロの肉体を縛り付け、自由を許さない。意識をルアナから四郎に向けたシロは、事もあろうに四郎めがけて雷を放たんとする。
 あわやと思われた瞬間、別の呪縛がシロの肉体を縛り付けた。シロに絡みつく束縛の魔力が、シロの動きを封じたのだ。
「シロ、お前の怒りは最もだ。お前は大切な人を傷つけられ、奪われてしまったのだから。
 だが、お前はもう新たな縁を既に結んでいる。帰りを待つ人が居るんだ、シロ!」
 四郎の護衛をルル家と交代したベネディクトが、前に進み出て蹴りで昏倒させようとする。
「だから、帰って来い──! お前は、一人じゃない! 大切な人がいるのだろう!」
 ベネディクトの脚が、シロの頭に直撃する。だが、まだシロは倒れない。しかし――。
「四……郎……」
 呻くように、シロは四郎の名を呼んだ。だが、まだ暴走は止まらない。
「やはり、一度昏倒させねばならんか……」
「痛い思いさせてごめんだけど、もうすぐ終わるからね……!」
 グレイシアの威嚇術とルアナのレジストクラッシュが次々と決まり、シロの活力を奪っていく。
 リュティスとリンディスは、二人がかりでルアナの傷を癒やしにかかる。ルアナの傷は深かったためにまだ傷は残るものの、明らかに楽になったようだった。
(怒り、絶望――そういった負の感情に心を塗り潰される事はとても苦しい。
 だからこそ、私は貴方を救いたい――)
 無量は己の過去をシロに重ね合わせると、刀を納め、その左前脚を手に取った。
「四郎、ぬしの声を届けてやれ、全力で! 言いたいことがあるんじゃろう!」
「貴方がすべきことはシロ殿を連れ戻す事です。それはきっと、誰よりも貴方がなすべきことです。
 大丈夫ですよ。拙者達が四郎殿を守ります。勇気を出して、手を伸ばしてください!」
「うん! ――シロ、あの時は助けてくれて有難う! それなのに、怖がって逃げちゃってごめん!
 前みたいに一緒に、原っぱで追いかけっこしよう! お日様の下で、お昼寝しよう!
 だから、戻ってきてくれよ!」
 アカツキとルル家の呼びかけに、四郎はシロの元へと駆け出すと、右前脚を手に取って呼びかけた。同時に、アカツキの威嚇術がシロの頭に決まり、シロの身体を昏倒させる。
 すると、シロの身体からもやもやとした黒いオーラが抜け出していき、白い柴犬の姿へと戻っていった。
「シロ、シロ……!」
「……ああ、ああ。泣くでない、四郎」
 自身を抱きしめる四郎に、シロは意識を取り戻すと頭をゆっくりと動かし、流れている涙を舌でペロリと拭ったのだった――。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、どうもありがとうございました。依頼は成功し、シロと四郎は無事に再会と言うハッピーエンドを迎えました。きっとこの後は、仲良く過ごしていくことでしょう。
 これも、皆さんの熱の篭もったプレイングのお陰です。

PAGETOPPAGEBOTTOM