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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>変わらぬ心

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 永遠など存在しない。
 それは限りなく無限に近い有限に過ぎず、いつかは本当に終わりが来る。
 けれど──その終わりを待つには『永遠』という時間が長すぎた。

「──」
 クオン=フユツキは愛した、いや今も愛する彼女の名を呟く。瞼の裏にはいつだって鮮やかに蘇る彼女の姿。しかし目を開けばそこに彼女はいない。

 彼女に『永遠』はなかった。
 彼女と2人で生きるには『永遠』が邪魔だった。

 真理に触れたことで手にしてしまったソレは望んで手放せるものではない。ある者はそれを祝福だと言うかもしれないし、ある者はそれを呪いだと言うかもしれない。
 クオンに残された道は、永遠を超えるための分厚い壁に阻まれていた。
 その壁を、一体どこまで削っただろうか。
 もうここまでと言うべきか。それとも、まだここまでと言うべきか。
 クオンが視線を向けた先には白く褪せた息子──クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)のアルベドが立っていた。決して本物らしくはないが、命として妖精を押し込めるという技には非常に興味が湧く。
 どれだけ本物らしいのか、と言えばその点ではまだまだだ。タータリクスの『本物でなければ』は本人か否か、つまりクオンで言う"彼女"か否かに通ずるものなのだろうが。それを抜きにしたとしても、アルベドは本物らしからぬモノだった。
 核(フェアリーシード)として込められた妖精の性格や性質。加えてアルベド自身に芽生え始める自我なども加味すれば、それは瓜二つの別人である。
 しかしその細胞は本人のもの。そこに残留する何か──例えば記憶だとか──をフラッシュバックさせることもあるようだった。

 己のものではない記憶。
 己の"本物"が経験したソレ。

 作られたモノに当然それまでの記憶はなく、けれど脳裏に浮かんだのは確かに『記憶』と呼べるものだったのだ。
 クロバのアルベドからすれば、その引き金は他でもない目の前の男──クオン=フユツキ。アルベドからの殺意にも似た敵意を受け、クオンは片眉をあげる。
「ほう。クロバの記憶を掘り返したか」
 興味深い現象だ、とクオンは目を眇める。
 けれど記憶をいくら思い起こそうとも、そこにどんな感情を抱こうとも。アルベドに逆らう選択肢は用意されていない。月光人形の時と同じで、彼らは例え自我らしいものを宿したとしても『操られる側』なのだ。
「キミのすべきは私と戦うことではない。これから来るクロバたち……イレギュラーズとの戦いだ」
 そう告げるとアルベドが小さく眉を潜める。否やの言葉は出なくとも、不服であるのだと示すには十分で。
 ふとクオンは無意識に腹を押さえる自らの手に気づく。大迷宮ヘイムダリオンで与えられた傷はとうに癒えているが、イレギュラーズという言葉であの時のことを思い出した。
 怒りに、憎しみに燃えた息子。今の彼なら自身を殺せるだろうか。そう考えてかけてクオンは頭を振る。
 彼を使わずとも、この世界ごと壊してしまえば何も問題ないのだ。修正した計画通りに、確実に。彼女と会うための道を整えていけば良い──。



 大迷宮ヘイムダリオンを踏破したという情報はローレットへ瞬く間に広がった。同時に『おとぎ話の門(アーカンシェル)』の機能が回復し、気づいた妖精たちが向こう側から深緑へと逃げ出してきている。
 妖精女王は魔種の手に落ち、妖精郷はモンスターたちに蹂躙されるばかり。救いの手を求めた先は当然のこと、これまで助力を請われてきたイレギュラーズであった。
 これらの一報にクロバは来たか、と呟く。その様子をブラウ(p3n000090)と『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は見て、それから顔を見合わせた。
 大迷宮ヘイムダリオンにて何があったか、報告書を読めば把握はできる。けれども彼自身へ何か声をかけられるかと言われると──否、であった。少なくとも2人より適任なイレギュラーズがいるだろう。
 だからこそ、告げるのは私情を挟まない事実のみだ。
「クロバさん、現状はすでにお聞きかと思いますが」
「ああ」
「アンタの偽物が出てるってさ。……他のイレギュラーズも、だけれど」
 シャルルの言葉に目を瞬かせたクロバは、しかし思い当たる点があったのだろう。彼も一時期ローレットで報告の上がっていた『血や細胞などを奪われた者』の1人であったか。
「それと、……クオン=フユツキも妖精郷で確認されてるよ」
 告げたシャルルはそっと彼から視線を逸らした。あの男の名を口にした途端、彼の殺意が溢れんばかりに膨らんだのである。八つ当たりとしか言いようがないのだが、それだけのことが彼とクオンの間であったのだろう。
「あ、ええと、優先はアルベド……偽物のクロバさんでお願いします。最優先は妖精と、その女王様ですが」
 イレギュラーズと瓜二つの人型。色味を失った白き怪物を一同は『アルベド』と呼称している。妖精郷から逃げてきた妖精曰く、アルベドは妖精を『核(フェアリーシード)』として体内のどこかに収めているらしい。それは怪物の名に相応しく、イレギュラーズと同じ形をしていながら強さは比較にならないほどだろう。
 もちろんイレギュラーズの力不足という話ではない。錬金術と魔種の力が──その他の力も働いているかもしれないが──ここまで疑似生命体の力を引き延ばしたのである。
 しかしフェアリーシードのエネルギー、つまり妖精の命は有限だ。彼らは妖精を捕まえてその命を使わなければ生きられないのである。
 まずは妖精たちの保護。そしてアルベドたちを排除しながら囚われの妖精女王を救わなければ。
「行くさ。俺の偽物も、あのクソ野郎も……殺してやる」
 全て殺してしまえば良いのだろう?
 クロバは立ち上がり、ローレットの外へと向かう。空中庭園を介して深緑の首都へ──そして妖精郷アルヴィオンへ向かうのだ。



 妖精郷へたどり着いたイレギュラーズは『エウィン』という町を目指していた。町の中心にある大きな湖の中には、妖精女王が囚われている塔があるのだと言う。
 妖精のための町はどこもかしこも妖精サイズで、とてもではないがヒトの姿では通れない。しかし何のためだろうか、ヒトも通れるサイズの古代遺跡がエウィンには存在している。それこそが妖精女王の囚われた『月夜の塔』であった。
 その1階フロアへ足を踏み入れ、手近な部屋へと飛び込む。
 そこにいたのは──嗚呼、何の因果だろうか。
「来るだろうと思っていたよ」
 クロバがすぐにでも殺したかったあの『クソ野郎』と。
 白く色褪せたクロバのアルベドと。
 何ともわからぬ、黒いドロドロの人型モンスターが待ち受けていた。

「さあ、実験といこう。実に興味深いデータが取れそうだ」

GMコメント

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●成功条件
 アルベド(クロバ)を倒す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけて下さい。

●エネミー
・アルベド
 クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)さんの姿を模したアルベドです。どこかに妖精が核(フェアリーシード)として埋め込まれています。核を破壊すればアルベドは機能停止しますが、核となった妖精も死亡します。
 簡単な会話などは行えるようですが、そこまで高度ではありません。
 とても強く、全体的なステータスも高めです。特にクリティカルとファンブル、命中に秀でています。タイミングが悪ければ必殺の一手を食らわされることになるでしょう。

無想刃・吹斑雪【偽】:物至範:斬ると決めたモノのみを斬る一閃。【流血】【識別】
無想刃・重白魔【爆】【偽】:フェアリーシードから命を吸い取り、その力を斬撃と共に叩きこむ。【必殺】【反動100】

・ニグレド×4
 黒いドロドロとした物体。人型を保っているようです。アルベドほどの強さではありませんが、それでも強いです。
 HPと命中、EXAが高めですが、防御技術は低めです。
 体を用いての打撃や格闘を仕掛けてきます。また、自らの体液のようなものを撒いて【足止】【体勢不利】などのBSをかけてきます。

・クオン=フユツキ
 クソ野郎ことクロバの父親代わり。錬金術師でもあり、"剣聖"という異名を持つものでもあり、また不老不死でもあります。
 アルベドの性能を確かめるため、イレギュラーズへニグレドと共にけしかけてきます。自らは積極的に動く様子はありませんが、仕掛けてみれば『遊んでくれる』でしょう。また気が乗れば多少のお喋りには付き合ってくれるかもしれません。
 全体的なステータスは高めです。また【必殺】のほかBSも仕掛けてくるでしょう。

●フィールド
 月夜の塔1階の1空間。とても広く、戦うのには十分な広さでしょう。

●ご挨拶
 愁と申します。
 クオンも倒さねばならない相手ではありますが……まずは立ちはだかってくるアルベドたちを倒さねばならないようです。
 どれも強敵です。敵を倒すことに注力して下さい。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <月蝕アグノシア>変わらぬ心Lv:18以上完了
  • GM名
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年07月17日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
終翼幻想
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
夜明けの秘劔
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
号令者
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
プロメテウスの恋焔
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
暁の剣姫
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
暗鬼夜行
フォークロワ=バロン(p3p008405)
死に寄り添う者

リプレイ

●瓜二つの顔
 仲間たちと共に部屋へ飛び込んだ『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は息を呑んだ。傍らには愛する人である『讐焔宿す死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)がいるが、向かいには同じ姿をした──けれど色はなく、どこか色素の薄い──クロバがこちらへ敵意を向けている。
(あれがクロバさんのアルベド……そしてその後ろにいる、あの人が)
 その視線はクロバアルベドから逸れ、今しがた「実験だ」と告げた男へ向けられる。片目を隠してこそいるが、その容姿はクロバと瓜二つ。同じ格好をすれば見分けなどつかなくなってしまうかもしれない。
「左眼と腕が熱くなったから、いるとは思ってたよ」
「ほう? だが今回はさして戦う気もなくてね。クロバ、そしてイレギュラーズ。君たちが戦うのは彼らだよ」
 クオンとイレギュラーズたちの射線を塞ぐようにクロバアルベドと、人型をした黒い物体──ニグレドが立ちはだかる。静謐なる剣舞からとんと足音を立てて前線へと駆け抜けた『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の刃がクロバアルベドへ迫った。
 ガキィン!
 アルベドの持つガンブレードとミルヴィのファル・カマルがぶつかり合い、硬質な音を立てる。離れては近づき、音を立てては滑らせて。舞うように戦うミルヴィは、その視界の端に小さく余裕の笑みを浮かべたクオンを収めた。
(……また会っちゃったか)
 以前、大迷宮ヘイムダリオンの踏破を試みる途中。偶然ともいえる再開をクロバは果たしてしまった。あの時の様子からしてただならぬ事が過去にあったことは想像するに難くない。ミルヴィにとっても『錬金術師の父親』という存在は他人事に思えなかった。
 絶望の青で力尽きた父。彼とミルヴィの関係性は、クオンとクロバの関係性とは大きく異なることだろう。それでも──放っておけない。
「クロバ、大丈夫!?」
「ああ」
 膨れ上がる殺意をクオンへ向けながら、しかしクロバはガンブレードを自らのアルベドへ向ける。まず倒すべき邪魔者は、あちらだ。
「待ってろ、お前はお前はここで殺す!」
 吠える息子にクオンは小さく肩を竦めた。『やれるものならやってみろ』とでも言いたげに。その真意は未だ掴むことができない。
(お前は何を考えている、何故こんな事をしている……昔からそうだ!)
 へらへら笑って、女をとっかえひっかえして、問題ごとにクロバを巻き込んで。そんな日常を──自らぶち壊して。
「お前の相手は、俺だ」
 クロバアルベドが自らと同じ武器を翻す。的確に急所へ打ち込もうとする敵のなんとやりづらい事か。常日頃クロバがそう思わせているというころだろうが、敵である今は只々面倒臭くて仕方がない。
「チッ」
 皮膚を赤が流れていく。しかし攻守一体の構えはクロバの意識外でも体を動かし、アルベドへいくらかのカウンターを許した。
 そんなクロバの様子に『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はいくらかホッとしながらも、表情を引き締めて剣を構える。前回より相当の因縁があることは察しているが、また暴走しないとも限らない。クロバのアルベド、そしてクオンという存在。彼らを前にして暴走すればクロバだけでなくここにいる全員の命が危ぶまれるだろう。
 思考処理を上げながら肉薄したアルテミアは、ニグレドと呼ばれるうちの1体へ切りかかる。その剣が纏うのはアルテミアの瞳のような青い炎。どろどろとした表皮の奥まで届く一撃だ。息つく暇もなくニグレドを鴉羽が取り巻き、幻術の嵐を魅せる。
「罪も無き妖精達を傷付けた挙句、仲間の似姿を斬らせようとは……此度の首魁は随分と悪趣味な御仁でござるな?」
「全くですね。よくもまぁこのようなものを作り出せるものです」
 『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)の言葉に頷いた『嘘に誠に』フォークロワ=バロン(p3p008405)の仮面から黒い雫が零れ落ち──それは敵を穿ち蝕む弾丸となる。シフォリィに動きを阻まれていたアルベドは咄嗟にガンブレードで弾き飛ばした。
「邪魔を……っ」
 シフォリィを睨みつけるアルベドの言葉がふと途切れる。その視線は目の前に立ちはだかる彼女に向けられたままで、さしものシフォリィも思わず眉根を寄せた。けれどそんな一瞬は本物のクロバによって動き出す。
 眼力の底上げをし、破壊的魔術をニグレドへ放った『共にあれ』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)はクオンへと視線を向ける。
「のう、随分と精巧なおもちゃを作ったようじゃが……クロバとそっくりにしたのはなんぞ、理由でもあるのかの?」
 デイジーの問いかけに片眉を上げたクオン。そうだな、と呟いたその唇は理由などないと続けた。元より自らが放ち、観察していた人口精霊たちは別のイレギュラーズから髪を採取したのだ。クオンの預かり知らぬところでクロバの一部が持ち帰られていたのだから、こればかりは偶然と言う他ない。
「こちらも別に1つの目的で集まっているわけではないのでね」
「ふむ? ならばこれは、ただの悪趣味な嫌がらせかの」
 そういうことになるな、と返したクオンは今──少なくとも今ばかりは──動き出し、敵として参戦する様子は見せない。いつまでもそうあってくれと願うばかりである。
 イレギュラーズの攻勢に押されながらも辛抱強く立ち上がり、その手を伸ばすニグレド。その腕ごと『儚花姫』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の操る茨がからめとる。しかしぶちぶちと茨を切り、前へ進むニグレドの力はすさまじい。
(一体こんなものを作って、何をしようとしているのかしら)
 そんなニグレドの様子を見ながらヴァイスは思わずにいられない。
 イレギュラーズの模倣。アルベド。ニグレド。そして錬金術と揃えば、ヴァイスが思い浮かぶのは『賢者の石』──不可能を可能とする石だ。人を不老不死にしたり、ただの石ころを貴金属へ変えることもできると言う。
 そんなものを作るつもりなのか、作って一体どうするつもりなのか。ヴァイスは深みにはまりそうになって頭を振った。今はそんなことを考えている場合ではない。
 ちらりとクロバアルベドへ視線を向けてみるが、あれはどう見ても白くなったクロバ、としか言いようがない。戦い方までそっくりだ。しかしニグレドはと言えば人の形こそしている物の、それが誰とまで判別をつけることはできない。戦い方も誰かを真似ているのか──それとも、クオンたちが設計しているのか。
 そんなニグレドはナーゲルリングによる射撃で応戦する『マム』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)へと接近し、その腕を振り上げる。ハイデマリーもまた自らの適正射程へ逃れつつ精密な射撃で応戦していくが、ニグレドの体力はまだ底が見えない状態だ。
 引き撃ちするハイデマリーの背後から、鮮やかな青の羽が過ぎていく。『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)はステッキをかざすと奇術で以てニグレドの足を止めた。
(このニグレド、という存在も……アルベドと似たようなものなのでしょうか)
 体はヒトの細胞を使い、命にはフェアリーシードを使った疑似生物アルベド。他人の命を弄ぶなど嫌悪しかないが、奇術師──舞台に上がる者としてそのような本心を見せるなどあってはならない。怒りも悲しみも何もかもをひた隠しにして、ただ粛々と妖精を救うために幻はここにいるのだから。

(……彼の、クロバの憎しみは共感できない)
 敵の攻撃を躱し、後退し、応戦するハイデマリーは多重に思考を巡らせる。頭のあちらでは戦闘の事を。頭のこちらではクロバとクオンのことを。
 クロバの様子からしてクオンを憎んでいることは確実だろう。けれどハイデマリーの父と呼べる存在は尊敬に値する者であり、とてもじゃないが同じように憎むようなことは起こり得ない。けれど仮にクオンの立場となって考えれば、嫌な結論に辿り着いた。
(憎まれるような愛し方をしているのなら……クロバにもっと憎まれるには、)
 視線の向いた先はクロバアルベドの方向。アルベドを抑え込み、立ちはだかる銀髪の乙女。クロバの恋人であるシフォリィだ。
 クオンの様子であれば、まだ気づいた様子はなさそうだが……それも交戦していればいずれは気づく。仕掛けてくる前に、出来れば気づく前には重い一撃を食らわせたいところである。
「その前に、ニグレドをどうにかしないといけませんね」
 放つ弾丸は空気の壁を蹴り、軌跡を歪めながらニグレドへ勢いよく飛び込んでいく。どろりとした体液を飛び散らせながら、ニグレドは勢いよくその腕を振った。
 白銀の片刃剣が突き抜ける程真っすぐに閃く。時にひらりと躱し、時に体で受けるアルベドはこれまでシフォリィが傍らで戦ってきた愛する人とよく似ていた。
(いいえ、それでも騙されることなどありません)
 アルベドの動きを阻害するシフォリィのそばでは本物のクロバが共に戦っている。些か前のめりにも見える事が心配ではあったが、シフォリィまでそちらに──クロバの気にする相手に引きずられるわけにはいかない。
 しかしクロバも理性では『目の前のアルベドを倒さなければ』と理解している。そのガンブレードはクロバの魔力を最大限まで込め、偽物を排除するべく爆炎と共にクロバを押し出す。目まぐるしく変化する型は例えクロバの写し身であっても──いや、クロバの写し身だからこそ躱しきれない。そこへミルヴィの容赦ない剣の花吹雪が乱れていく。
(もっと疾く! 鋭く!)
 一挙一動が洗練されていくミルヴィ。舞いながらもその瞳が気にするのはいつ動くかと気が気でないクオン、そして勢いよく攻めていくクロバ。その髪からすぅ、と色素が抜けかけている姿にミルヴィははっとして声を上げる。
 ここで暴走したってどうにもならない。そんな力に頼らなければならないほどクロバは独りじゃない!
「アンタが本当に守らなきゃいけない人は今隣にいるだろ! 仲間もいる!」
「ああ、わかってるさ……!」
 わかっていて、だからこそやらなきゃいけない。姿こそ自制の利かない自身のそれだが狙うべきが何者であるかは理解している。
 攻勢を維持するクロバを援護するのはフォークロワの漆黒。黒の雫が、黒の苦痛がアルベドを捕らえんと執拗に飛来する。
(それにしても、フェアリーシードは見つかる気配がありませんね)
 フォークロワはアルベドの体を一瞥し、それから仲間へ一瞬視線を向ける。彼らがフェアリーシードを探してくれているはずだが、その声が上がらないという事はまだ見つからないのだろう。庇うような様子も見られないが、アルベドとしてもそう易々と見つけられては困るはずだ。
(しかしあのアルベドが倒れた時……その余裕ぶった顔にどのような感情を見せてくれるのでしょうね?)
 その仮面を剥がしてやりたい──そんな思いに駆られながらフォークロワは味方を巻き込まぬよう、仮面より黒の雫を流した。
 そんなフェアリーシードを探す仲間である幻は、ニグレドへ奇術を魅せてすぐさま後退する。その際にアルベドを観察はするのだが、やはり一向に判明しない。
(ホロウメア様の特徴的なところにあると予測しているのですが)
 例えば、その左腕。
 例えば、その左眼。
 抉り出すのだと思えば後味も少々悪いが、他ならぬ妖精の命がかかっているのだ。同じイレギュラーズの姿をした仲間と殺し合い続けるという思惑にも乗りたくない。
「しつこいですね……!」
 ハイデマリーは自らの運命を切り開かんとニグレドの腕を潜り抜け、その脳天に弾丸をくれてやる。時間がかかったが、まずは1体。
「次じゃの」
 すぐさま別のニグレドへ標的を変えるデイジー。けれどもあの黒いドロドロは厄介だ。近くにいる味方の動きを鈍くさせる。それでも近づかなければならないのは近距離アタッカーだ。
「早く倒してしまいたいけれど、難しいわね」
「ええ。けれど……やらないわけにはいかないわ!」
 ヴァイスの執念深く悪質な近接武装がニグレドの力を削いでいき、アルテミアの青き炎を纏った剣がニグレドの耐久力を削いでいく。
「その道を開けよ、怪物共!」
 咲耶の鴉羽が、その羽音が敵を惑わす。それは死神の近付く音。考えられないほど強くなったなら──死神の鎌は、すぐ傍に。


●此の舞台の真実は
 恐るべしニグレドの耐久力も、半数となればイレギュラーズが押していく。
「あと2体よ、確実に仕留めていきましょう!」
 アルテミアが細剣を向け、デイジーの眼前に月を象る魔力の塊が生まれる。とっくに短期決戦とは言い難い、早くアルベド側へ加勢に行かなければあちらももう持たなくなってくる頃合いだ。
 デイジーの魔光閃熱波がニグレドを貫通し、その体の原型を失くす。あと1体。クオンがその様を眺める様子にデイジーは再び声をかけた。
「クオン。性能実験にデータ収集……それはどっちのことを言っておるのかの」
 どちら。明言を避けたデイジーに、クオンもまた濁した答えを返す。彼は未だ動く様子を見せないが、釘を差しておくべきか。彼が動いてしまえばその実験結果も大きく変わってしまうだろう、と。
「ああ、言われずとも。君たちが刃を向けてこないのならば、私が危害を加えることはない」
 今回はね、と告げるクオン。本当か? と視線をくれる幾人か。さもありなん、彼が動けば対処は大きく変わる。けれど、たとえ刃を向けられようが向けられまいが関係ない。
(貴方の目的だけで他の方に迷惑をかけるような人……いえ、人であるかも定かではありませんね)
 幻は青い蝶の群れでニグレドを包みながらクオンを一瞥する。まるで、彼は──。
「──魔種のようだ、と思うかね」
 その言葉に幻は表へ出さないもののギクリとした。心を読んだのか? いいや、カマをかけられただけだ。クオンは別に幻へ告げたわけではなく、この場にいるイレギュラーズ全てに告げているようだった。
「ああ、いっそ魔種になった方が私の目的は達成し易かっただろう。この世界はこれまでの力一切を否定する」
 魔王のように強くとも、子供のように非力でも、召喚されれば一律同じだけの力しか出せない混沌肯定『レベル1』。その呪いとも言うべき力は例外なくクオンにも作用していた。以前と比べて完全ではないのだろうが、今の通過点まで来るにも多大な努力があったことは想像つく。何故ならば、今のイレギュラーズたちも同様だから。
 けれど魔種となればその力は飛躍的に上がる。そして何より滅びのアーク──全世界を滅ぼすための、パンドラと対を為す存在の蓄積ができる。旅人であり、イレギュラーズでもあるクオンはどうあがいても魔種という存在にはなれないのだ。
「だから『代わり』を作るしかないのだよ、私は。いかに魔種のようであっても、この身は君たちと同じイレギュラーズだ」
「代わり……まさか」
 ハイデマリーが息を呑む。その思考は最後のニグレドを倒す戦法を描きながら、同時にクオンの示唆する存在を導き出した。
 そうだ、とクオンはこともなげに頷いて見せる。
「タータリクス……あの男を魔種へ導いたのは、私だ」
「おい待てよ、あいつはこの事件の首謀者なんだろ? だったら、」
 クロバはクオンの言葉を遮って、そして自らの言いかけた言葉を呑み込む。言の葉に載せなかったそれこそが、まさに真実。

 ──この事件の黒幕は、この男なのだ。

 言われれば納得もする、と咲耶は妖刀をアルベドへ向ける。常にあそこで観察をしているだけだと言うのに、フユツキなるあの男から漏れ出る剣気は並のものではない。彼の言う通りに魔種となったからこそタータリクスは規格外の力を得ているのだ。彼のような『魔種でもないのに規格外』ではないのである。
「だが……黒幕が判明したからとて拙者等のすべきことは変わらぬ」
 鴉羽を舞わせ、その死角から変幻自在の暗殺術でアルベドへ攻め入る咲耶。自らの居場所を知らせる声も、発するより先に動いてしまえば捉えられることなどない。
「お主が拙者等の知る彼と同じ想いを受け継ぐ者ならば! お主の中で苦しむ妖精に何も感じぬのか!」
 一瞬あったアルベドの視線は実に冷ややかで、そこには何の感情も乗っていないように見える。そんな姿はフォークロワの放った黒い闇に阻まれた。
「感じないのであれば、感じるように何度でも仮初の体を蝕んで差し上げましょう」
 黒いキューブに込められたのはあらゆる苦痛。しかしそこから抜け出したアルベドは自らを邪魔するシフォリィとミルヴィへ一閃を放つ。
 その一撃を躱し、運命を切り開くように真っすぐな剣筋を見せたシフォリィ。目を見開いたアルベドの右腕が綺麗に斬られてごろりと落ちる。その断面は白く、とてもではないが人とは言えない。
 外見がいくらクロバに似ていようとも、人ならざる化け物だ。
「化け物なら、心を奪われることもないのかの?」
 ものは試しとでも言うようにデイジーは小さな魔力の塊を放出する。それをひらりと躱すアルベドには──いいや。咲耶は小さく微かに、その表情が動くのを見た。
 それが妖精の自我であるのか、はたまたアルベド自身の自我であるのか定かではないけれど。少なくとも『彼』に心がないわけではない。
「その身にあるのは仮初の記憶か……されどそこに刻まれた絆は変わらぬ。お主の「友」である拙者等がお主の凶行を止めてみせよう!」
 咲耶の妖刀がより力を帯びる。あの者を始末するのだと、そう言わんばかりに。暗殺術で攻められるアルベドの足を、這ってきた茨が巻き取った。
「起きて、妖精さん……貴方のしたいこと、そうじゃないでしょう?」
 薔薇道化の存在証明。人ならざるモノとも意思疎通を行うことができるヴァイスの声に、しかし妖精からの明確な反応はない。反応できないほどに意識が奥底へ追いやられているのか、それとも応えを返すことができぬほどの衰弱してしまっているのか。
(いずれにせよ危ないわ)
 フェアリーシードはアルベドの電池。その命を使い切ってしまえば当然死んでしまう。イレギュラーズと交戦している時間は短くなく、そしてそれより前から動いていたことも考えれば──残された時は少ないだろう。
 けれども同時に、あとどれだけこちらが戦えるか。これもシビアなところであった。
 クロバのアルベドはイレギュラーズからの猛攻にあい、そしてその写し身としたクロバの戦闘スタイルもあって損傷は激しい方だろう。けれどもここまで傷を負わせるために消耗した味方の力を考えれば決して楽観視できるものではなく。
 偽物とはいえ、クロバを敵に回させるような行為にアルテミアはきっとクオンを睨んだ。
「クオン=フユツキ、貴方はクロバさんの父親なら一体なにが目的でこんな事を!」
 彼が黒幕であるとは知っても、何故このようなことをしたかという『目的』は定かでない。そもそも何故魔種になりたいのかも、また。
 以前ヘイムダリオンにて『彼女とひとつになる』『本物の永遠を得る』などという言葉もあったが、それも要領を得ないものだった。
「何故? 理解されないことを説明する気はない」
 目的とは一体何なのか、クオンは話す素振りを見せない。話してやる義理もないということだろう。けれど訳も分からず敵対するされるなど──クロバの立場になればどう思うか。
「──仮にも父親なら子供が幸せになるようにしろ大馬鹿野郎!!」
 広い部屋に反響するほどの声量。ミルヴィの言葉にぴくりと眉を動かしたクオンは──嗤った。その反応にミルヴィはますます眦を吊り上げる。
「何が可笑しいの! 子供は生まれる場所を選べないんだよ!?」
 そう、子供は庇護される生き物だ。その環境が例え酷いものだったとしても、抜け出すことは難しいだろう。だからこそ親には幸せにさせる義務があって然るべきだ。
 けれども、クオンは。
「幸せとは、幸せでない者が与えられるものではないだろう?」
「……何? 自分が不幸だって言うの?」
「幸せでない者全てをそう呼ぶのであれば、そうだろうな」
 尚も言葉を続けようとしたミルヴィを、同じように動きを阻むシフォリィをアルベドの吹斑雪が切り裂いていく。見えない──見えなければ回避のしようもない。手数多くアルベドはクロバへ攻撃を仕掛けていく。一瞬クオンへ気をとられていたクロバは咄嗟にガンブレードで受け止めようとするが、一瞬ばかり遅い。
「……か、はっ……!」
 下から斬りあげられた衝撃。次いで走るのは灼熱。ごぼ、と気道が塞がって吐き出したそれはびしゃりと部屋の床を赤く濡らした。
 クロバさん、と聞こえた声に応える余裕なく、ドサッと重いものが倒れる音が聞こえる。いいや、これは自身の倒れた音。鼻をつく鉄錆の匂いは自らから流れ出る血の香り。

「──こんなものか」

 その言葉は、終わりの合図だった。力を振り絞ってクロバが顔を上げれば憎き男は──クオンは既に身を翻し、部屋の奥へと駆けていく。負傷したクロバアルベドも一緒だ。
「あとはタータリクスと……ああ、アレも確認せねばな」
「待て……っ!」
 クオンの中では既に終わったことにされている。けれどもイレギュラーズにとって、クロバにとっては終わっていない。
 そう手を伸ばすも、追いかけるまでの力は既になかった。クロバを無力感と疑念が襲う。
(追いかけられなくて良かったんじゃないのか?)
 クロバにもっと力があったとしたら、自らの偽物(アルベド)を追いかけて倒して、クロバにも止めを刺していただろう。けれど本当にそれで良いのか。本当に殺して全てが終わるのか。

 ──本当に、こんな道しかないのか?

 頬が濡れる。嗚呼、そんなつもりはないのに。己の意志に因らない涙が左眼から零れていく。
 クロバのその姿を見てシフォリィは唇を噛み締めた。すぐさま命が吹き飛んでしまうことはなさそうだが、それも時間の問題。早く帰還しなければならないだろう。しかしそんな大事になっているクロバ自身は、今も尚去ろうとしているクオンへ視線を注いでいた。
 その心が迷っても、苦しんでも──そうしなければと彼の心が突き動かす。
(私は……こんな、不完全燃焼な復讐なんてさせたくない)
 そのためならばこの身を差し出すつもりでさえあった。だというのにこれでは身を差し出したとて
「そこの君。クロバの大事なお嬢さん」
 その言葉が自身を示すものであると気づいて、シフォリィはぱっと顔を上げた。クロバと瓜二つの顔が、クオンが明らかに自身を『見ている』。
「シフォリィさん……!」
 アルテミアがボロボロの体でシフォリィの前へ立ち、クロバの殺意が増す。クロバが怒り、仲間が庇い立てする行為は彼女がクロバの大切な人である何よりの証拠となったが、クロバアルベドが破壊されなかったことを思えば発覚するのは時間の問題だっただろう。
(憎まれるような愛し方をしているのなら……)
 思い至っていたその考えにハイデマリーはぞっとしながら手を伸ばそうとするが、その指先ひとつ動かない。
 仲間が、害される。
 悪寒が全員を襲った。それほどにクオンの放つ威圧は強かった。
 けれど。
「『今回は』何もしないさ。その時ではない。けれど──」
 その顔、しかと覚えた。そう告げたクオンは止めていた足を動かし奥の部屋へ飛び込む。動けるイレギュラーズが追いかけ、その部屋へと飛び込んだが室内には何もない。誰もいない。
「アルベドとクオンは……」
「逃げたようじゃの」
 ヴァイスとデイジーは辺りを見回すが、何の痕跡も残されていなかった。魔種の手助けか、或いは錬金術による抜け道か。

 何にせよ、仲間たちの傷を癒すため──そしてクオンの漏らした情報をローレットで共有するため。深追いせず、1度帰還する必要がありそうだった。

成否

失敗

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
プロメテウスの恋焔

状態異常

クロバ・フユツキ(p3p000145) [重傷]
終翼幻想
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174) [重傷]
夜明けの秘劔
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497) [重傷]
号令者
ミルヴィ=カーソン(p3p005047) [重傷]
暁の剣姫

あとがき

 お疲れ様です、イレギュラーズ。
 まずは傷を癒し、持ち帰った情報を整理しましょう。

 MVPは自らの役割を全うし、友を守るため立ちはだかった貴女へ。

 またのご縁をお待ちしております。

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