PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ゲラッセンハイトへの侵入

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●酒場にて
「よお、サンディ」
 その声にサンディ・カルタ(p3p000438)カラン、とグラスの氷を鳴らしながら振り返る。そこに立っていたのは軽薄そうな酒場の名物男──ベンタバール・バルベラルだ。
「久しぶりじゃねぇか」
「ああ……そういえば、そうだな」
 寂しかったぜ、なんて言葉のどこまでが本当か。けれどベンタバールが隣のカウンター席に座り、酒を頼むいつもの様子を見て「そうかい」とサンディは肩を竦めるに留めた。余計な詮索は墓穴を掘るのだ。
 久しぶり、も割と頻繁に聞く言葉。ここで酒を飲んでは遺跡の情報を得意げに話し、1ヶ月ほど姿を消す──謎のルーティーンを持つベンタバールだからこその頻度ではあるのだが、今回ばかりはちょいと事情が違ったりする。
「遺跡のガーディアンを撃破したって聞いたぜ。いやぁ、情報を教えた甲斐があるってもんよ」
 なぜか自身が得意げなベンタバール。彼は『2回目にして撃破に至った』ということまでは知らないのかもしれない。
 ──が、そこまで教える義理もなく。そして教えても格好がつかないので教えない。男という生き物は格好つけたがりが多いのだ。
「なあサンディ」
 ベンタバールがグラスを傾けていたサンディへ声をかける。視線を向け、グラスをカウンターへ置いたサンディは「なんだ?」と問うて。
「一緒にあの遺跡を攻略しねぇか?」
 虚を突かれたサンディへ畳み掛けるように言葉をかけるベンタバール。しかし周りに聞こえてはマズイとでも思ったのか、一段声量を落とした。
「あのな、……普段は水ん中だろ? あの遺跡」
「そう、だな」
「もちろん水が引く周期はラサの奴らの方が知ってる。だが……たまに、それ以外のタイミングで水が引くんだよ」
 サンディが目を丸くすれば、ベンタバールは面白そうに瞳へ光を湛えている。まるで『俺はそのタイミングを知ってるぜ』とでも言いたげに。
 いや、実際知っているのだろう。その不規則な水引きのタイミングを。
「……その情報と引き換えに同行させろってか」
「もちろん抜け駆けはナシだ。俺だってイレギュラーズ数人に勝てるたぁ思ってねぇ」
 どれだけ腕が立とうともベンタバールは一般人。イレギュラーズ複数人を1人で相手するなど無謀の極みである。しかし逆に取ればイレギュラーズは心強い味方にもなり得るのだ。
「まあ……うーん……いい、か?」
 持ち逃げや裏切りは許されざるが、相手はベンタバールである。仲間たちも共に入るのだから何があっても対処できるだろう。
 それに彼との付き合いは短いとも言えなくなってきて──その上でベンタバールという男がそのような行為をするかと言えば、しないだろうと思っている。
(調子の良い所とかはどうにかした方が良いとは思うが)
 この場にいないヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)の言葉が脳裏をよぎる。
『サンディ、付き合う友達は選んだ方が良いのではなくて?』
 やれやれと言わんばかりにため息をついて、それでも共に戦ってくれた彼女は此度も来るのだろう。そう、他の仲間たちも。
 彼らは、何と言うだろうか。
 ちらりと視線を向ければ、ベンタバールが期待に満ちた眼差しを向けている。謎の深い男ではあるが、そのナイフ捌きが素人のそれでないことくらいはサンディも知っている。イレギュラーズ複数人には勝てないと言うだけで、戦力にはなるだろう。
「……突っ走って行くなよ?」
 この言葉が、彼に対する返答だった。


●ゲラッセンハイト
 黄昏時、例の遺跡前へ集まったイレギュラーズたちはベンタバールの姿を探した。
「ここで待ち合わせしたのよね」
「ああ。もう来ていてもおかしくないんだが」
 イーリン・ジョーンズ (p3p000854)の言葉に頷くサンディ。待ち合わせの時間には少し早いが、あの男の事だ。すでに来ていたっておかしくはない。
 エマ (p3p000257)とキドー (p3p000244)は早く入りたそうにソワソワしている──いや。皆が落ち着いていない。
「やっとこの中に入れるんだねっ」
 炎堂 焔 (p3p004727)は目を輝かせて遺跡を見ているし、Erstine・Winstein (p3p007325)も周囲に異変がないことを確認すると熱のこもった眼差しで遺跡の入り口を見る。
「イーリン。遺跡は、逃げない」
 そっと声をかけるエクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)とて、髪先がフヨフヨうろうろと落ち着かなげに漂っている。
 そして待ち合わせの時間になろうかという時刻──しっかりと準備を整えてきたベンタバールがやってきた。
「先に行く所だったぜ」
 呆れ声のサンディにすまんと声をかけ、ベンタバールは湖へ視線を向ける。イレギュラーズもつられて見れば、だんだん暗くなる中で遺跡が浮かび上がっていた。
 そう、見えている。水が引いているのである。
「日が沈んで、おおよそ2時間ってとこか。探索の時間はいくらあっても足りないが、時間内に引き返さなきゃあの世行きだぜ」
 ぴっ、と天を指差すベンタバール。頷くイレギュラーズへ時計を見せ、彼は時間の管理ができることを示す。
 限られた時間になにを見つけるのか。イレギュラーズたちとベンタバールは遺跡の入り口を開き、中へと入っていった。

GMコメント

●すること
 遺跡『ゲラッセンハイト』の探索

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 不測の事態に気を付けてください。併せて、何か気づくものがないかしっかり探していきましょう。

●ゲラッセンハイト
第1弾『ゲラッセンハイトの遺骸』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2806
第2弾『ゲラッセンハイトの守護』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2976

 これまでの活躍により遺跡に入ることが可能です。入り口近くの足元より、取手を引き上げることで入口が開きます。これは押し込まない限り閉ざされません。
 水は2時間引き続けています。その後、緩やかに水位が上昇し始めます。

●前回判明している・入ったらすぐ判明すること
・上空から入ることはできない。
・中から空が見えるらしい。
・入り口を入るとすぐに登り階段があり、途中で下る。その先には広い空間があり行き止まり。この空間は柱の中央部にあたるようだ。上は広く開放感がある。
・上記よりもさらに空間が広がっていることは確かである。道は見つからない。
・壁には何かの物語が描かれているようだ。
・全体的に暗い。灯りが必要。
・耳を澄ませると(特殊なスキルがなくとも)機械音が微かに聞こえる。仕掛けの類か、守護者の類か。

●エネミー
・ガーディアン=キャット
 機械仕掛けの猫。雑魚敵その1です。瞳が光っているので、注意して見れば逆にわかりやすいでしょう。
 反応に長け回避は低く、出血系BSの攻撃をします。

・ガーディアン=バット
 機械仕掛けの蝙蝠。雑魚敵その2です。飛びます。この遺跡の中で唯一神秘攻撃を行う的です。
 回避に長け防御技術は低く、混乱・麻痺系BSの攻撃を放ってきます。

・ガーディアン=ヒューマン
 機械仕掛けの人形。表で戦ったガーディアンよりスリムで、しかし鈍重な武器を持っています。
 この遺跡のボスとも呼べる敵です。今宵も遺跡のどこかで、守るべきものを守っているでしょう。
 反応は鈍いですが、その分攻撃は鈍重です。防無攻撃も行います。
 また、このガーディアンが倒された時は【周りの異変に殊更気をつけてください】。

●NPC
・ベンタバール・バルベラル
 サンディ・カルタさんの関係者。(https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1100295#bbs-1100295)
 ナイフ使いの遺跡荒らし。技術はありますが、本人のいい加減さや調子の良さが災いして実力を発揮しきれていない……のか、わざとそうしているのか。掴み所のない人物です。
 本依頼においては皆様に同行します。ランタンを所持しており、懐中時計で時間の管理もしてくれます。同行中は基本真面目に行動してくれます。戦闘は近~中距離のアタッカーです。

●ご挨拶
 お待たせ致しました、リクエストありがとうございます。愁です。
 時間は視界の悪くなりがちな黄昏時から夜中まで。こっそり行ってひっそり帰ってくるのでしょうね。
 こういった依頼は何でも楽しんで欲しくて要素てんこ盛りにしがちです。遺跡でできることもしたいことも多いと思います。しかし制限時間もございますので『探索重視』か『踏破重視』で意見を揃えておくことをお勧め致します。
 それでは、プレイングをお待ちしています。

  • ゲラッセンハイトへの侵入完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月01日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
エマ(p3p000257)
こそどろ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ


 『こそどろ』エマ(p3p000257)は入り口を潜りながらその中を見渡す。前人未踏の、用途もわからぬ遺跡──ゲラッセンハイト。その意味はどこぞの言葉で『静けさ』だと言うが、果たしてどのような意図でその名を付けたのだろうか。
「えっひひひひひ、腕がなるってもんですよ」
「おうとも! 今! この時の為にデカブツと戦ったんだよ俺ぁ! げははは!」
 『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)の笑い声が反響し、遺跡の奥へ吸い込まれていく。どれほど続いているのだろうか。
 閉じられ封じられた遺跡を荒らすのは、例えいかなる理由や思惑があろうとも立派な『盗み』。これから遺跡を暴くのだと思えば2人の盗賊としての腕も鳴る。そう、本領発揮というやつだ。
(でもまー、俺も金銀財宝だけじゃなく過去を紐解くロマンも理解できるナイスガイよ)
 依頼は常にチームだ。ならば仲間が落ち着いて調査できるよう、相棒と共に気張って仕事をしようじゃないか。
 暗視ゴーグルを装備したキドーに、気配を遮断するマントを纏ったエマ。2人は一同の斥候役として抜き足差し足忍び足で階段を上っていく。その後ろでランプを片手に続くのは『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)だ。その灯りが歩調に合わせて小さく揺れ、石の壁を照らす。登り切ったあたりから壁画が描かれ始めているようだった。
(どんな文字が書かれているのかしら……)
 解読しようと歩調を緩めるヴァレーリヤ。その隣を『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は通り過ぎていく。肩には使役した鳥も一緒だ。ぽんと懐を叩けば、そこには石や砂の感触。遺跡へ入る前のものを拾って袋に入れたのだ。
「見える? ボクの炎をつけとくね」
「助かりますわ。あ、ここにもお願いできるかしら」
 神の燃えぬ炎が壁へ灯され、ヴァレーリヤが読むのに苦労していた箇所も炎の明るさに照らされる。『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)はそれらを観察しながら気になる点はないか、慎重に進んでいた。
(3度目の現場になるけれど今回はダンジョン。あのガーディアンが守っていたんだもの)
 あれだけの強さを持つガーディアンが守っていた場所が、一体どのような場所だったのか。好奇心が擽られないわけがない。2時間と限られた時間ではあるが、最大限の成果を持ち帰ることができるように色々調べなければ。
 今回は踏破と探索のどちらかに重きを置いて進むこととなっている。二兎を追う者は一兎をも得ず、ということだ。この遺跡の成り立ちを知り、宝まで手に入るのならそれに越したことはないが、必ずしもそうなるとは限らない。
 イレギュラーズたちはこの選択において探索重視──もちろん踏破できればそれに越したことはないが──で動く予定だった。
「いやぁ、苦節2回の挑戦の上でこうして潜るダンジョンというのはひとしおだわ。ねぇマリア!」
「ああ、イーリン。苦労した甲斐のあるものが、得られるといい、な」
 にこにこ満面の笑みを浮かべる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に『燕返し』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が頷いた。苦労はまだこれからかもしれないが、これまでも十分苦労はしている。多少は報われなければ困るだろう。
 イーリンの指先に灯った小さく明るい火を元に、エクスマリアは罠が仕掛けられていないか注意深く観察して進む。しかしまだ手前の方だからなのか、これといった罠は仕掛けられていなさそうだ。
(油断は、禁物。それに、仕掛けられた罠で、わかることもある、だろう)
 1つも逃さぬように。エクスマリアの青い瞳がきらりと煌めいた。
 そんなしんがりを進む『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)は小さく苦笑いを浮かべる。仲間の背中ばかりが見えるから、そうとは言い切れないが。
(すっげーみんな目が輝いてる気がする……)
 浮き立つようなオーラ、とでも言うのだろうか。それらから彼らが遺跡探索をとても楽しみにしていたことが伺える。
「ま、期待はずれな訳ねーよなーベンタバール!」
 にっと笑って視線を向ければ、ベンタバール・バルベラルも同じようにサンディを見返した。
「ああ、勿論だぜサンディ! 俺らで金銀財宝をゲットだ!」
 とはいえ探索できるのも水が迫ってくるまで。タイムリミットは既に少しずつ近づき始めている。
「──さてっと、時間制限付きだし、マジでやるわよ」
 コツン、カツンと音が響く。指輪とヒールで響かせた音を聞くイーリンの耳には、ここへ入ってから常に小さく鳴る機械音も入ってくる。徐々に大きくなって──それでもまだ小さいが──いるようだ。やがて響かせる音が、遺跡の材質が変わり、後方から猫の鳴き声がした。
 さあ、始めましょう。

「神がそれを望まれる」


 一同を迎え入れたそこは──いや、そこだけは、少しの明るさを残していた。
「空……」
 誰かが呟く。見上げたそこに広がるのは藍色を増した日暮れの空。外で見たそれと同じ、いやそれよりは夜へ近づいているだろうか。
「鳥さん、いけるところまで行ってもらえるかな?」
 焔の言葉に使役していた鳥がひと鳴きし、バサリと翼を広げて飛び立っていく。その姿を見上げながら、ヴァレーリヤはポツリと呟いた。
「聖地、だったりしたのかしら」
 視線を滑らせ、壁を見る。薄暗くなっていくそこに、階段のあった通路に描かれていたのは祈りを捧げる人々だった。
 何かを信仰し、救いを求めて祈りを捧げる。ヴァレーリヤも身に覚えがあるだろう。だからこそ。
(だとしたらごめんなさいね、祈りの場を荒らしてしまって……)
 目を伏せ、謝罪をせずにはいられない。遺跡である以上、探索し暴いていかないわけにもいかないのだ。
「それにしても音が絶えませんね」
 暗がりからエマはぐるりと辺りを見回す。微かな機械音。音の出るようなものは見当たらないが、もっと注意して聞き続ければ何を表す音が判明するだろうか。
 その擬音をメモへ記すイーリンの隣でエクスマリアも壁画のスケッチを始める。その腕前はといえば──うん。非常に前衛的だ。
 ふとイーリンが顔を上げ、隠れるように暗がりへ佇むエマへ口を開く。
「エマ、明らかに通路が隠されているということは、破壊や侵入を想定されてるということよね?」
「えひひ、そうなりますねぇ」
 その心配がないのなら、或いはそうされても良いのなら。わざわざ何かの仕掛けを使って隠す必要もないのだから。
「──何かある?」
 不意に注目を集めたのは焔の声だった。振り返れば空へ向かったはずの鳥が彼女の腕へ留まっており、どうやら上空の結果を伝えていたらしい。
「どうだった? 何かある、っていうのは……」
「あ、なんかね。途中で透明な何かに邪魔されちゃったんだって。それより上には行けなかったみたい」
 Erstineの言葉に視線を向ける焔。外からも入らず、中からも出られない場所。何かをすれば出入りできるのかもしれないが、今のところその鍵は掴めない。
(来た場所の影にもそれらしいスイッチはなかったし……)
 視線を元来た通路へ。そこには両開きの扉があったが、Erstineがその裏を覗いてみても隠し扉はおろか、スイッチの類ですら存在しなかった。加えてあの扉は閉まらない。錆びついてということではなく、そもそも装飾としての存在らしい。あとは中心の床に埋め込まれた小さな球が気になるところだが、これも装飾の1つだろうか。
「あら、ここ。キドー」
「ん? ……いいモン見つけてんじゃねぇか」
 イーリンの言葉に駆け寄ったキドーは示されたものを見てニヤリと笑った。
 そこは苔ばかり、焔によって火のついた砂が散らされた場所。そこには1箇所だけ何かをズラしたような跡が残っていた。嗚呼、怪しいにもほどがある!
「罠の類は──」
「──なさそう、だ」
 頷くキドーとエクスマリア。エマが「えひひひっ」と笑いながら皆の元へ合流する。
「ワイズキーの出番ですね? おまかせを」
 ひょいと顔を覗かせたエマは、壁の一部に空いた穴──見ようによっては鍵穴にも見える──に目をつける。これならば朝飯前と解錠すると、ゆっくり壁の一角が突き出た。
「引き出しみたいですね。えひひっ」
「見ろ! なんかあるぜ」
 エマとキドーは視線を交わし、笑う。イーリンは目を輝かせてそこは指先の炎を近づけた。
「……天球儀、か?」
「ええきっと。まだ誰も入っていないから、こうしたものが見つけやすいのかしら」
 スケッチを始めるイーリンを視界の端に、エクスマリアは引き出しの中身を目で調べる。同じように視線で天球儀等々出てきたものを観察しながら、Erstineはベンタバールへ時間を問うた。
「何度か猫の鳴き声が聞こえてたな……っと、もうすぐ半分だ」
「半分……ありがとう」
 思っているより時間の流れが早いだろうか。遺跡に残されたものを見つけた時点で成果としては上々だが、ここが最奥でないと知っているからこそ未だ消化不良気味だ。
 ヒールで床を蹴り、下の空間を感じているイーリンも同様で。全体像のスケッチやここまでの構造図を見比べながら、どこかにヒントがないかと探す。
「……水の中に沈めて、あんなに多くの兵隊を集めて。貴方の守りたいものってなぁに?」
 問うても遺跡は答えない。静かに、沈黙を満たしたまま、そこにあるだけだ。
「きっとどこかに何かヒントが……あの空が見える場所が怪しいと思うのだけれど。ううん」
 ヴァレーリヤが壁の文字を読み解く間、サンディはとん、と地面を蹴ると靴の力で浮いた。見えぬ壁があると言う空へ向けて──。
「へぶっっ」
 ──ぶつかった。
 一旦離れて手を伸ばしてみると、そこには確かに何かある。硬い材質だ。つるつるしていて透明だが、よく見るとイレギュラーズたちの持ってきた光源を反射しているようにも見える。
「…………ガラス板?」
 思わずサンディは呟いた。これは特殊な魔法や古代の秘術といった類ではない。いや、古代の民からすればこれも奇跡のような物であったかもしれないが。
 ただのガラス板。柱のような遺跡の上から蓋をするような構造のお陰で、砂が落ちてきてもすぐ風に吹かれていくらしい。
「──サンディ!」
 下からヴァレーリヤの声がする。サンディはひとつ返事をすると下降し、秘宝の力で勢いを緩和して着地した。
「どうした?」
「解読が終わりましたわよ! それに見て!」
 先程エマたちが見つけた天球儀などを見せるとサンディの目が輝く。ベンタバールも先程から非常に興味深げだ。
「それでね、この場所なのだけれど」
 ヴァレーリヤが語ったのは壁画に残されていた儀式。元々ここは星を見る天文台としての機能を持っていたという言葉に一同は空を見上げる。
「それで空が見えるのね」
「あんなところによく運んだもんだぜ」
 Erstineに続いたサンディが肩を竦める。エマとキドーは目配せして。
『もしかしたら貴重な材質かもしれませんね』
『かもしれねぇな』
 とガラス板の原料に想いを馳せる。イーリンとエクスマリアは最も大きな壁画に視線を向けると、焔が「照らすね!」と神炎で壁に火を灯した。
 祈る人々と──その先にあるのは数多の星か。間にあるのは天球儀だろう。その間には何か球体があるようだが、これは絵だけで理解できない。

「それ、『未来を映す』らしいんですの」

 ヴァレーリヤの言葉にある者は目を丸くし、ある者はごくりと息を呑み、大体のものは目を輝かせた。
「未来! マジックアイテムの類でしょうかね、えひひひっ」
「いいねぇ楽しくなってきたじゃねぇか!」
「ここにはなかったのよね、だとしたら……」
「この先、だな」
 ワイワイと賑やかになる一同をヴァレーリヤが落ち着かせ、さらに続きを話す。
「今日は時間が少なくなってきたでしょう。ですわよね?」
「ベンタバールさん、時間は」
 Erstineに促され、時計を見るベンタバール。遠くで何度目かの猫の鳴き声が聞こえる。階段の方でイーリンの命令に従っているのだ。
「あと40分程度、ってところか。戻る時間も考えるなら、あまり先に行き過ぎない方がいい」
 俺も命は惜しいんでね、と肩を竦めるベンタバール。最も彼の瞳だってイレギュラーズと同じくらい輝いているが、命あってこその宝だ。
 ヴァレーリヤの解読には隠し通路を示唆するような文脈もあり、いくつかの方法を順に試してみる。
「……あら、これ何かしら」
 ふとErstineは壁の文様を見た。やや分かりにくいが、壁を少し擦ってみるとより鮮明に見えるようになる。この辺り一帯は──もしや、意図的に汚され読みづらくしてあるのだろうか?
「皆、ちょっと来てみてくれる?」
 煮詰まっていた一同へ声をかけ、何人かが壁の文様や周囲の文章を解読に回る。スケッチを眺めていたイーリンはふと首を傾げた。
「これ、遺跡の外側?」
「え?」
 ほらと示されたスケッチには遺跡の横部分しか描かれていないが、根元の造形は確かに上から見た図と似ているかもしれない。
(上から……なら『何かが足りない』?)
 はっと顔を上げたイーリンは中心へと振り返る。床に埋め込まれた小さな球へ駆け寄り、手を伸ばせば──取れた。
 イーリンの持ってきたそれに一同も感づいたらしい。道を開けられ、文様の場所まで進んだイーリンはそっと中心に球を当てて──にゅるりと、押し込まれた。
 途端、部屋が振動する。イレギュラーズたちは辺りを警戒するように睨みつけた。
「見て、扉が……!」
 装飾だと思っていたそれが閉まり、機械音が大きくなる。
「部屋が……動いてるのか!」
 サンディの視線は空へ。星々がゆっくりと回転し、やがて止まる。ゆっくり開かれた扉の先には新たな道が連結していた。
「こりゃすげぇ」
「ンでもって、早速罠ときた」
 近寄るエクスマリアに頷くキドー。解除された罠の先を、斥候役2名に続いて一同は慎重に進んだ。
「しっかし、何の為の遺跡なんだろうなココは。随分と厳重に守られてるが……オイ、お前らいつからこの辺りにいるんだ? 知ってるかよ?」
 奥には精霊が隠れていたらしい。キドーが声をかけるとずっといるよ、と返答がある。焔が目を瞬かせて精霊を見た。
「お話しできる精霊さんがいるんだね。でも普通の精霊さんみたいかな?」
 この場所特有の、というわけではなさそうだ。
 いくつかの罠を解き、忍び足で先行していたキドーとエマは不意に足を止めた。いるぜ、という言葉とともに一同へより緊張が走る。視線で示し合わせた一同は一斉に光る猫の目へ向かって飛び出した!
「鈍くて重い攻撃も、当たらなければなんとかなるでしょうっと!」
 掠めるように短剣が猫を襲い、ついでに淡い燐光が軌跡を描く。奇襲攻撃にあった猫と、その奥にいた猫たちは1匹目へつられるようにエマへ雪崩れ込んだ。そこへErstineの鎌が迫り、ベンタバールもそこへ追撃する。サンディは彼に次いでナイフ捌きを見せながらも、エマの様子を見て庇いに行く体制だ。
 キドーの起こした衝撃波が猫を1匹転がす。追い討ちをかけるように焔の闘志が敵を叩き、まず1匹。
「一気になぎ払いますわよ!」
 ヴァレーリヤのメイスが火を噴き、エクスマリアの破壊的魔術が敵を潰しにかかる。圧倒的な攻勢だ。
 途中で一旦サンディが引きつけを変わるような場面があったものの、彼の身のこなしはピカイチだ。風に揺れる柳のごとく攻撃を受け流すうち、機械仕掛けの猫たちは壊され動かなくなる。もう襲いかかってこないことを確認すると、一同はその先を見た。
 まだまだ続く1本道。深さで言えば湖のさらに下だろう。この先にマジックアイテムの気配を感じるが──。

 ──タイムリミットだ。



 走る、走る。
「ひいぃ、水がもうそこまで迫ってきていますわーー!?」
 ヴァレーリヤは足元へ出来始めた水たまりに悲鳴を上げながら外へ飛び出す。続いて1人2人、3人と。出たら終わりではなく、入り口を閉じて湖を上がらなければならないのだ。
「よし、最後だ!」
「サンディ手伝って! 急いで閉めないと中が水浸しになりますわ!」
 全員で飛び出していた突起を押し込み、重い音を立てて扉を閉めていく。完全に閉まった頃には膝上まで水位が上がっていた。
 急げ急げと湖の外へ向かいながら、Erstineは小さく笑みを漏らす。エクスマリアは青い瞳をちらりと向けた。
「……どうした?」
「え? あ、ううん。これとかの対応も考えなきゃね……って」
 彼女が抱えるのは収められていた天球儀。その他の小道具は仲間が手分けして持っている。濡らさないように早く持ち帰らねば。
(……金銀財宝の類ならば、面白みはないが、成果としては、上々。歴史的価値もあるなら、尚良)
 そう思っていたエクスマリアだが、ほんの少しだけ進んだあの場所を見て1つの懸念がある。
 宝が兵器関連だとしたら。例えばゴーレムを大量生産する機構でもあり、どこかの国が所有権を得てしまえば面倒なことになる。
(マリア達には、関係のない事情にもなる、が)
 実際、そのような結果が出たわけでもない。まずは帰還し──持ち帰るものがあったことを喜ぼう。

成否

成功

MVP

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星

状態異常

なし

あとがき

 立ちはだかるモンスター、ジスーノカベ。
 ご参加ありがとうございました。この先がまだあるようですが、探索重視ということで踏破前に撤退です。
 またのご縁をお待ちしております。

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