PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<虹の架け橋>ブルートパーズの月影に

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ブルートパーズの長い髪。
 月光に輝き花咲く薔薇の如く色香で揺れる。
 嫋やかに流れる美しい色彩は、夜空を散りばめたラピスラズリのマントによく映えた。
 月を讃えた瞳が傍らの黒毛を愛おしげに眺める。

「ねえ、ザックちゃん。何か面白いことはなぁい?」
 よく透る声は美しい旋律で耳朶を擽る。けれど音域は確かに男性のもの。
「ああ? アンタが面白いもんが見れるからっつって呼び出したんだろうがよ」
 気の強そうな青年は隣に立つ『相方』へと悪態を吐く。
「いやん。怒らないでよぉ」
「別に怒ってねえよ。これが俺の普通だっつーの」
 こんなやり取りだって、いつも通り。もう何年の付き合いになるだろうか。
『魔術師』ネィサン=エヴァーコールと『叛逆の砲弾』アイザック・バッサーニは目の前に広がる光景に興味を失ってしまったかのように言葉を交す。

 足下にエンバー・ラストの赤が広がっていた。
 石畳の上に夥しい数の人だったものが積み上がっている。
 綺麗な原型を留めている者は一人も居らず、かみ砕かれて散りばめられて分解されていた。
 ぐちゃりと『夜の獣』――否、黒い怪物が肉の塊を踏み潰す。
 食いちぎり食い荒らし吐き捨てて。蹂躙していた。

「……それ、いつもの犬と違うヤツか?」
「あら、分かっちゃった? これはね純粋な『夜の獣』じゃあないのよ」
 魔術師たるネィサンが組み上げ生み出した純度の高い獣ではない。混ざり物の気配をアイザックは感じ取っていた。
「この前言ってたタータリクス君の話に乗ろうと思うのよぉ」
「はぁ? あの胡散臭い野郎に付くのかよ?」
 錬金術を生業としたタータリクスが妖精郷への執着を語ったのはつい先日のこと。
 それに加担するということは、面倒事に首を突っ込むということだ。
「そうなの。この子達を使ってね。ちょっと協力してあげようかなって」
「ああ、だから。それは混ざってんのか」
 夜の獣よりも劣悪で。下等な紛い物。純然な魔術師であるネィサンが錬金術を真似て作った黒い獣。
 食い散らかし暴れる事しか能が無い、只の化物。
「それに、面白そうじゃない? 妖精郷アルヴィオンを救う為に迷宮へと繰り出すイレギュラーズ。何て、勇敢なのっ! 強い魂の輝きを組み敷いて蹂躙するのって、アタシだーいすき!」
 己の身体を抱きしめて、身悶えるネィサン。
 そんな相方を横目にアイザックは肩をすくめる。
「ま、面白けりゃ何でもいい」
「ふふ。そう来なくっちゃ! だったら、善は急げってね」
 月光にブルートパーズの余韻を残し、二人は宵闇の中に消えていった。


 ローレットのテーブルの前には無表情の『Vanity』ラビ(p3n000027)が立っている。
「この遺跡の中にあるアーカンシェルから、大迷宮ヘイムダリオンへと下ってほしい、です」
 地図の上には深緑の名前と、星が冠された聖域の名が刻まれていた。

「皆さんの中には……」
 妖精郷アルヴィオンと深緑を繋ぐ妖精門(アーカンシェル)が機能を停止し、第一陣が大迷宮へと進軍した話を聞き及んでいるイレギュラーズもいるかもしれない。
 今回の星が冠された聖域は、虹の宝珠が開いた新たな道なのだろう。
 こうしていくつもの宝珠を集める事が妖精郷アルヴィオンへの路となる。

「調査したですが、詳しい事はあまり分からなかった、です」
 ラビが申し訳なさそうに眉を下げた。
 迷宮の中は複雑怪奇で、幻術や魔法が掛けられていることも多いという。
 けれど、目的はただ一つ。ダンジョンの奥にある『虹の宝珠』を手に入れることだけ。
 それが分かっていれば問題は無い。

 何かしらの思惑を持って妖精郷アルヴィオンへ侵入した魔種タータリクスに追いつくため、早急に大迷宮ヘイムダリオンを攻略せねばならないのだ。
 迷っている時間は無い。
 イレギュラーズはラビの頭をわしわしと撫でた後、テーブルを立った。
 愛らしい妖精たちを助ける為に。


 妖精門(アーカンシェル)を抜け。目を瞬けば。
 アプリコット・オレンジが視界を覆う。
 夕暮れ時の空は何処までも広く、頬を撫でる風は冷たい。

 イレギュラーズは馬車の中に揺られていた。
 馬車の荷台から見渡す景色は、雪がちらつくのどかな山道。
 丁度、日の入りの具合から、年の初め頃の気候だろうか。
 大迷宮ヘイムダリオンの中は気候や地形まで様々なものが在るのだろう。
 前方に見えてきた村に視線を上げる。

 小さな村だ。
 村の端には見張り台があって。人々が慎ましくも幸せそうに暮らしている様子が覗えた。
 のどかで。箱庭のような小さな村だけど。きっと、笑顔が溢れているのだろう。
 何処か懐かしく郷愁に胸が揺れる。

 何処からともなく狼の遠吠えが聞こえた。
 深く、不快に。
 黒く、獰猛な。
 獣の、におい。

「――――」

 怒号と悲鳴の只中に、イレギュラーズは駆け込む。
 カーマインの赤は空に軌跡を描いて花を咲かせる。

 イレギュラーズは村人に駆け寄り、助け起こそうと手を伸ばした。
 けれど。
 それは夢幻のようにすり抜けて触ることさえ出来はしない。
 幻影か。それとも誰かの夢の中か。

 きっと、これは悪意だ。
 誰かの悪夢を繰り返し反芻することに愉悦を感じる、絶対零度の悪意だ。

『ねぇ、あなた。楽しんでいってちょうだいね』

 原罪の呼び声に似た幻聴があなたの耳朶に響いた気がした。


GMコメント

 もみじです。悪夢の黄昏時。メルヒェンダークな感じです。

●目的
 黒い怪物を撃退して、虹の宝珠を入手する

●ロケーション
 とある山中の小さな村の形をしています。
 季節は冬。一月頃です。寒風が吹いています。
 村は後述の黒い怪物に襲われています。
 村人に触れることは出来ません。すり抜けてしまいます。こちらの声も聞こえません。

●敵
○『黒泥』ラバス
 ネィサン=エヴァーコールが錬金術で作った『夜の獣』の紛い物。
 本物の夜の獣より幾分か弱体化していますが、油断は禁物です。

・突き飛ばし(A):物至単、飛、ダメージ大
・黒毒(A):神遠域、猛毒、流血、崩れ、必中、ダメージ中
・雄叫び(A):神中扇、麻痺、ダメージ中
・ドラヴクライ(A)物至範、HA吸収、ブレイク、必殺、ダメージ中
・穿牙(A):物至単、ダメージ特大、
・黒泥(P):光を吸い込むような暗黒の身体。毒耐性。精神耐性。

○屍人
 死んだ村人が1ターン毎に数名ずつ屍人となり襲って来ます。
 屍人となった村人は触れることが出来ます。
 殴る蹴る、かばうなどの行動を行ってきます。
 生前の記憶がある個体も居るようですが、次第に正気を失い完全な怪物となります。

○『魔術師』ネィサン=エヴァーコール、『叛逆の砲弾』アイザック・バッサーニ
 何処かで高みの見物をしているのか、戦闘には参加しません。
 ノースポール(p3p004381)さん、ルチアーノ・グレコ(p3p004260)さんの関係者です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●備考
 このシナリオではイレギュラーズの『血』『毛髪』『細胞』等が、敵に採取される可能性があります。

  • <虹の架け橋>ブルートパーズの月影に完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月09日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
銀城 黒羽(p3p000505)
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 アプリコット・オレンジの夕陽が馬車の中に差し込む。
 道の小石に車輪が乗り上げて、ガタリと台車が揺れた。

 遠くに見える小さな村。私の故郷。
 懐かしいなんて。そんな簡単な感情じゃない。
 胸が掻きむしられる。涙が溢れそうになる。
 何で。どうして。この場所なんだろう。

 あの時と同じように。黒い獣の声が聞こえた――

 蒼い瞳を上げた『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、風に乗って嗅ぎ慣れた匂いがするのに気がついた。
 戦いの予感。鉄と脂の湿ったにおい。
 それを感じ取れるようになったのは何時の頃だっただろうか。
 もう随分と昔の話だ。戦いに戦いを重ね。本能でそれが分かるようになった。
 折れた槍を手にベネディクト達は村へと急ぐ。

「っ……!」
 村の入り口で、死にかかった老人が地面に横たわっていた。
 絶対に助からない致命傷。食いちぎられた胴と夥しい血溜まり。
「大丈夫ですか!」
 咄嗟に駆け寄る『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、老人に触れた瞬間、その手がすり抜ける感覚に指先を引いた。
 これは幻影なのだ。
 触れることは叶わぬまぼろし。
「命を弄ぶなど、なんと悪趣味な……」
 目の前で苦しんで死んでいくのを只見ている事しか出来ない。
「……ロドレスお爺ちゃん」
 小さな声がヴァレーリヤの耳に届く。
 振り返れば蒼白な顔をした『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)が口元を押さえていた。
 この場で横たわる老人の名前を知っているという事は。

 きっと誰かの悪夢なのだろうな――

 金の瞳を伏せた『探究者』ロゼット=テイ(p3p004150)は毛並みを浚う冷たい風に、白い息を乗せた。
 無力だった夢。防ぎたかった夢。そして、届かなかった夢。
 誰かの『始まりの夢』なのだろうとロゼットは視線を老人に移す。
 助けを求めるように伸ばされた指先は。沈みかけた太陽に照らされて橙に染まっていた。
 命尽きる瞬間まで、待ちの外へ行こうとするこの老人の気概。
 きっと。村の外へ助けを求めに行きたいのだ。
 自分の為ではない。村の者達のために。

 他人の内面を踏みにじる手合いに。少しだけ耳を下げるコゼット。それは怒りの表れだ。
 自分には関係の無い夢。それでも。腹の底からつらつらと怒りが湧いてくる。
「本当に気に入らない。皆でぶち壊してしまおう」
 コゼットは自分の中に膨れる怒りを自覚して、ふぅと息を吐いた。
「ああいや、この者はお金が目的だよ、うん」
 手の肉球で頬を触って冷静さを取り戻すコゼット。

『ねぇ、――楽しんでいってちょうだいね』

 ぞわりと。絡みつく声が聞こえて。
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)はそのアメジストの瞳で辺りを見渡す。
 霊的な類いのものではない。
 この目の前で起る幻は特定の人物に由来しているものだ。
 ノースポールと迷宮自体に直接因果関係が無いのならば、これを『設定』した先客がいるのだろう。
 先ほど聞こえた粘つく声が、おそらくそれなのだ。
 この先、挟み込まれる事もあるだろう。相手の陣地に入り込むようなものだ。
「さて……」
 アリシスの耳は村の奥から聞こえる微かな悲鳴を感じ取っていた。

「命を弄ぶなど、なんと悪趣味な……」
 拳を握りしめるヴァレーリヤはパロット・グリーンの瞳を上げる。
「その行い、決して許してはおけません! 私達でこの悪夢を終わらせましょう!」
 耳を澄ませ音を追い。黒い怪物の元への最短ルートを探るヴァレーリヤ。
「こっちです!」
 丁度村の広場に差し掛かった所で見えてきた巨大な黒い塊。

 大きくて黒い化け物が村人を喰らっていた。
 叫び声を上げながらかみ砕かれ、目の前で命を落としていく。
 傍若無人極まりない惨状。

「惨い……」
 余りにも無体な光景に『始末剣』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は眉を顰めた。
 大迷宮ヘイムダリオンが見せる幻影にしては、趣味が悪すぎる。誰かの『手』が入ったのだろう、この悪夢に反吐が出る。
 さりとて、やるべき事は理解しているつもりである。
 死んでしまった屍人がゆっくりとこちらに向かってくる。
 始末斬九郎を手に握りしめた咲耶は仲間へ合図を送った。
 その視線を捉えるは『不屈の』銀城 黒羽(p3p000505)の黒い眼差し。
「死者を無理矢理動かして、人形みたいに扱って……胸糞悪い」
 こんな風に人間を扱うのは、人を人とも思わぬ外道の仕業だ。何故こんな事をするのか、という疑問を思うことさえ虫唾が走る。
 楽しんでいるのだ。自分たちが。村人が。ノースポールが苦しむ様をどこかで見ている。
 死んだ人間をこれ以上侮辱するのは許さないと黒羽は屍人に向かっていく。
「もう一度、安らかに眠らせてやるからな……」
 村人だったモノが、黒羽の顔を殴りつけた。

「えげつねーもん見せるですね……」
 事切れた村人を見たあと『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)は視線を流す。
 人の死などありふれて。それ自体気に病む事は無いけれど。
 それでも、この光景を他人が見れば嫌な気持ちになることぐらいルリにだって分かった。
「そーいうことする人は流石のボクでも大嫌いなのです……」
 感情表現が乏しいが故に、誤解されることもあるが。ルリは何も感じない訳ではない。
 人並みに嫌悪を抱くのだ。

 ――悪趣味どころじゃない。これは悪意だ。
 目の前の惨状を見つめる『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は隣に居るノースポールの指にそっと触れる。
 ゆっくりと握り替えされた温もり。掛け替えのない大切な人。
 そんな彼女を傷つける『誰か』が居るということ。許されざる所業。
 いつもの温和なルチアーノの顔ではない。冷徹な瞳の色を覗かせる。
 この悪夢を作り出した諸悪の根源を見つけ出し、潰してやらねばなるまい。
 ノースポールには悲しい涙など似合わないのだから。
 傍らの彼女の手をぎゅっと握る。

 ルチアーノの温もりはあたたかくて。
 立ち向かう勇気をくれる。
「ルーク、ありがとう」
 
 あの日も止められなかった。助けられなかった。
 悲しくて、苦しくて。
 絶望の中で、己を生かすために本能が選び取った道は――記憶を手放すこと。
 でも。もう忘れたりなんかしない。
 乗り越えるための成長を得。全てを受入れる覚悟を得たから。

「皆さん……よろしくお願いします!」

 この村で産まれ育った『ポラリス』の声が仲間の耳に届く。
 それは、ルチアーノという光が導いた奇跡の名前だった。

 赤い瞳を細めて『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は微笑む。
 なんて。なんて――すごいのだろう。
 過去に起きた物語を体験出来るなんて。
 溜息が出るほどに美しく精密に再現された幻影は四音を魅了する。
「ふふ、素敵」
 誰にも聞こえない声で四音は紡いだ。
 この術を何とか使う事はできないだろうか。
 誰かのトラウマを引き出して一緒に体験することができたなら。どんなに楽しいだろうか。
 想像するだけでも心がはち切れそうだ。
 四音は頬を染め、慈愛に満ちた表情で微笑んだ。


 黒い獣蹂躙す――
 多くはない村人の。顔も名前も声さえも。全て覚えている。
 小さな村は一つの家族みたいなものだったから。

「しかし、楽しんでいけとは──笑えない冗談だ」
 直ぐに終わらせねばとベネディクトは思った。
 これは仲間の記憶の反芻。本来であれば自分たちが見る事が無かった光景なのだ。
 人の心を覗くのは忍びない。
 双槍を構え黒い獣へ切っ先を突き入れた。
 手応えはある。しかし皮膚や筋肉といった生物のそれではない。
 おおよそ粘度に針を刺したような感覚に近いだろうか。
 気持ち悪さを感じてベネディクトは地を蹴り間合いを取る。
「みんな気を付けろ。普通の生物ではない」
 ベネディクトの言葉に咲耶が頷いた。
「なる程。ならばこの忍術ならどうでござるか」
 刀を構え印を切る。咲耶の練り上げられた気は無数の鴉羽となり空を舞った。羽は寄り集まり嵐となる。
 毒と燃え盛る赤い炎を纏った竜巻は戦場を駆け、黒き獣を巻き込んでいく。
「――――」
 獣の咆哮。
「毒は効いていないようでござるが」
 巨体に燻る炎は表皮に存在する体毛をジリジリと焼いていた。
「炎は効くとみた。……紅牙忍術の恐ろしさ、しっかり味わっていくでござる!」

 ベネディクトの所感と咲耶の忍術。
「作られた魔法生物の類に見えますが、強いだけとは醜悪な物です」
 アメジストの瞳でアリシスは言葉を紡ぐ。
 恐らくは、直接干渉可能な黒い魔獣が先客の放った敵ということなのだろう。
 アリシスの指に光る銀の円環が光帯を纏う。
 それに呼応するように彼女の傍を浮遊するクレスケンスが浮かび上がり月の魔法陣を展開した。
 月の魔法陣から生まれるのは悪夢の弾丸。
「黒き月影は悪夢を引き連れて」
 光は収束し放たれる。
「穿て弾丸。黒のミスティリオンが名を持て――」

 怒りでグルグルと喉を鳴らすラバスを挟み込むようにルチアーノとノースポールは位置取った。
 まずはこの厄介な獣の息の根を止めなければとルチアーノは気合いを入れる。
 この状況。彼女にとって辛いという他無い光景だろう。
 けれど、挫けている場合じゃない。
「君にはどんな闇でも跳ね除ける心の強さが、光があるはずだ」
「ルーク」
 眩いばかりの星の名前。どんな事にも負けない笑顔とあたたかさ。
「ね、ポラリス!」
 大丈夫。君なら乗り越えていける。
 ルチアーノは信頼しているとノースポールに向けて大きく頷いた。

 目の前の敵は強靱で強大。
 巨大な腕で突き飛ばされてノースポールは空中を舞う。
「ポー!」
 地面を転がるノースポールにルチアーノは心配そうな声を上げた。
 けれど、目の前の黒い獣からは意識を離さない。
「はぁ、はぁ。大丈夫!」
 心に残った恐怖は身を竦ませるけれど。
 それでも、ノースポールは立ち上がる。
「厄介そうな相手ではありますね」
 ノースポールを支える四音。
 影から出てくるダークヴァイオレットの癒手で優しくノースポールの細い身体を包み込んだ。
 傷だらけの膝がふわりと色を取り戻す。
 端から見るとノースポールに魔の手が及んでいる様に見えるが。歴とした回復魔法である。
「油断せずに回復に徹しましょう」
「ありがと。四音さん」
 走って行くノースポールを見つめ、微笑む四音。
 主人公然として、物語に映えるその姿勢。なんて尊く美しいのだろう。
 それを彩る屍人の存在。
 触れられない村人が死んだ後、干渉出来るように作り替えられるのだろうか。
 なんて悪趣味で面白い。
「くふふ」
 物語の登場人物たちが、元気に動き回れるように自分は回復を施さねばならない。
 それにあたっては四音自身が狙われるわけには行かないのだ。
 だから、そっと気配を殺し。的確なタイミングで癒やしを入れていく。
 それが四音の在り方だった。

 ロゼットの腰から光り輝く翼がゆっくりと開かれる。
 光は羽の輪郭を反射してその中を魔術回路が薄く走っているのが分かった。
 それは万象より真素を吸い取る疑似器官。ロゼットを魔法使いたらしめる根源。
 美しい毛並みが光を内包し波打つ。
 ロゼットは地を爪で噛み、ラバスへと一気に間合いを詰めた。
 軽い音で空へと飛躍したロゼットは重力へと引かれるよりも早く蝕翼をラバスへと突き刺した。
「なんて美味しくない理力なんだろう。この者は呆れてしまうよ」
 翼より吸い取った真素はドロリとして、まるでタールを噛んでいるようだった。
 それでも、無いよりはマシなのだろう。
 ロゼットに意識を向けたラバスの爪が大きく振るわれる。
 だが。
「は……、遅いよ。この者にそんな攻撃は当たらない」
 軽々と翻り。シャラリとロゼットの胸飾りが鳴った。

「はぁああああ!」
 戦場にヴァレーリヤの声が響く。
 闘志を炎に。ヴァーミリオンの赤を纏ったメイスが唸りを上げた。
 パロット・グリーンの瞳は眼前の巨体を捉える。
 一つ一つは単純な術なのだろう。炎の魔法にメイスを振りかざすだけ。
 だが。その初歩を積み重ねる事は何れだけ大変な事だろうか。
 研ぎ澄まされた一振りはどんな大技よりも強大な威力を持つ。

「どっせえーーい!!!」

 ラバスの横腹へ叩き込まれた一撃。
 振動は巨体の全身に広がり、痛みにラバスは咆哮を上げた。
 確実な痛打。よろめいた黒い獣へ。重なるは。ヴァレーリヤの追撃。
「まだ、まだぁ!!!」
 鈍い音が戦場に響き渡る。黒い血を吹き上げのたうち回る獣。
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ。
 見た目は儚く美しい聖職者だが。その実。苛烈なる闘志を宿しているのだ。

 ――――
 ――

 ルリは戦場を円らな瞳で見据える。
 戦場が加速するにつれて増えていく屍人。
 一人、また一人と親しい人達が化け物へと変わって行くのは、どのような気持ちになるのだろうか。
 冷たい風にルリの長い髪が揺れる。
 白い息が霧散した。
 黒い霧が戦場に一瞬にして広がる。
「ああ、厄介ですね」
 ルリは表情を変えずに霧から降る細かい雨に手をかざした。
 掌をジリジリと焼かれる感覚がする。
 避けることが出来ない必中の毒霧。少女の白い肌が割けて血が流れ出した。
「う、あ、あぁ」
 声のする方にルリが視線を向けると、屍人が苦しげに藻掻いている。
 この黒い獣は仲間であるはずの屍人諸共、攻撃対象とするのだ。
 そこに理性も矜持もありはしない。
「嫌な気分ですね」
 在るのはただ、確たる目的もなく暴れ回るだけの泥人形。
 月の加護を受けた弓をルリが構える。
 ペールブルーの光輝が溢れ弓の照準に円環を作り出した。
 緩く放たれる指先。空を走る光の矢は弾け戦場へ降り注ぐ。
 それは状態異常を打ち消す輝きの調べ。
「ルリ殿感謝するでござる!」
「いえ。ボクが出来ることをするだけなのです」
 咲耶の言葉にほんの少しだけ微笑みを見せるルリ。

「さぁ、やるか」
 黒い瞳が屍人を向いた。
 拳を打ち鳴らした黒羽の身体が光に包まれる。
 煌びやかな虹の光輝が黒羽の足先で弾ければ、黄金のブーツが現れた。
 続くガントレット。帷子。腰と肩のガード。
 最後に現れる黄金の兜に赤い瞳が閃光する。
 光の中から現れた黄金の戦士に咲耶は驚きを隠せない。
「なんと。金ぴかでござる!」
 咲耶の声に頷いた黒羽は戦場を駆け、屍人を多く巻き込める位置で足を止めた。
 全身から溢れる闘気を上手く操り、狙った獲物を鎖のように絡め取る戦術だ。
 可視化された光の鎖は黒羽の手を離れ複数の屍人を捉える。
「よし。こっちへ来るんだ」
 怒りに身を任せ、黒羽の元へ集まってくる人々。
 こんな化け物みたいな姿にされてしまっても。たとえ幻影であったとしても。
 黒羽は彼らを傷つけたくはなかった。それが彼の矜持。殺さずの手。
 殴られながらも目の前の少女に視線を合わせる黒羽。
「完全な屍人には効かねぇかもしれねぇが、まだ意識のある村人には効果があるかもしれねぇ」
 無理矢理起こされてこんな風に化け物にされて。
「……それでまた殺されるなんてあんまりじゃねえか」
 ならば、黒羽に出来ることは何か。二度目の死には苦痛を与えないこと。安らかに逝かせてやりたい。
 目の前の少女が描く『幸せな日常』はどんなものだろうか。
 朝日と共に目覚め、家族とあたたかな朝食を囲み、編み物をして。暗くなれば眠りにつく。
 そんな変哲も無い日常を。黒羽が贈れる最後の手向け。
「安らかに……」
 黒羽の祈りと共に。
 少女の首が仲間の手で撥ねられ、吹き出したアガットの赤が黒羽の頬を濡らした。

 戦場に群がる屍人をアメジストの瞳で見つめるアリシス。
 幻の死体が屍人化して干渉可能になるということは。
「この地の特性を利用した先客の術の類いでしょうか」
「なるほど。両方を重ねているというわけか」
 アリシスの声にベネディクトが応える。
「記憶が僅かに残る屍人は死霊術でも稀にある事ですが」
「或いはそれ自体過去にあった事の再現か……」
 ラバスと屍人両方を巻き込む形で黒狼爪は化け物へ一閃する。
 重なるアリシスの黒月光は周辺の色を奪い闇夜へ誘った。
「場面の設定といい内容といい、術者の趣味嗜好が伺えますね」
「直ぐに終わらせよう、長い間この幻を見るのは忍びない」
「ええ」
 黒き月と狼が戦場を駆ける――

 弱っている屍人目がけて繰るは青白い妖気を纏った妙法鴉羽・黒天。
 咲耶の紫紺の瞳は闇を逃さない。幾度、この手で人を切っただろう。
 金の為主のため振るった刃は数知れず。
「忍びに搦め手を用いるとは笑止!」
 切っ先に触れる肉を切る感触。吹き上がる蘇芳の赤。
 濡れ羽色の髪が空気を噛む。埃が舞い上がり、口の中に冷たい空気が流れ込んだ。
 目の前の屍人が泣いて居る。
 助けてくれと泣いて居る。
 ――ああ、だけど。この手は感情とは裏腹に。命を奪う事に慣れていた。
「如何に情けを乞われようと死人の言葉には決して惑わされぬ」
 一瞬で痛み無く命を奪う事が、せめてもの優しさだと信じているから。
 咲耶は刃を振るう。

 戦場に転がった――動かなくなった屍人を見つめ四音は僅かに瞼を伏せる。
 それはまるで祈りにも似た儚さがあった。
「……失われたものはもう取り戻せません」
 黒き獣に割かれた傷。仲間の刃に砕かれた骨。
 生きとし生ける物に等しく訪れる、命の終わり。
「何て。儚いんでしょう。皆さんが物語の道半ばでこうならないよう。癒し助ける」
 ラバスと対峙しているノースポールに向けて癒やしの腕が絡みつく。
「それが私の使命だと。改めて思いました」
 何故なら。物語の主人公には輝いて貰わないとならないのだから。
 強く美しく華やかに、その身を軽やかに活かすため。
「ええ、必ず守って見せます」
 カーマインの瞳が薄らと細められた。


 戦場は苛烈に咲く。
 アプリコット・オレンジの夕陽がゆっくりと地平線に沈んでいった。

「でえええい、これでも喰らいなさい!!」
 大音量のヴァレーリヤの声が戦場に響き渡る。
 メイスを振り回しラバスの急所へクリティカルシュマッシュをぶちこむヴァレーリヤ。
 ゼィゼィと肩で息をしながら凶器を振り回す彼女は正しく小さな獣であった。
 大きな力は。それ故に反動も大きい。
 重傷の身を引きずって、それでも輝きを失わないヴァレーリヤの瞳。
 赤い髪は夕陽に色を増して、燃える様に揺れた。
 ラバスの巨体が傾いで、一瞬のうちにヴァレーリヤの眼前に牙が現れる。
 物理法則を無視したような奇怪な跳躍。
 ヴァレーリヤの肩に牙が食い込んだ。
「は、ぐっ……!」
 痛みに視界が揺らぐ。
 けれど、これは好機だ。
 仲間へと繋ぐ襷だ。

「今ですわ!」
「任せるでござる!」

 ヴァレーリヤの影から咲耶が走り出す。
 土を蹴り、風に揺れ、刃に夕陽の残滓が走った。

 左に一閃。引いて一閃――

 返す手に黒い胴へ刀を突き刺す。
 右に引き裂いて。飛び上がった。

 上からの斬撃。
 一転二転。

 空中を舞う蘇芳の赤は、氷雨の如く冷たかった。
「ああ、獣でも何でも無い。ただの泥人形でござるな」
 咲耶の宵闇の瞳が冷酷な色で囁く。

 転がるヴァレーリヤの肩を支えるルリ。
「しっかりするのです。今、癒やすのです」
 ルリが小さく呟けばパールホワイトの光が周りに集まり弾けた。
 魔術回路による身体強化の範囲を自分の境界より外側、つまり他者の中へと広げていく。
 痺れるような僅かな感触と共に、ヴァレーリヤの内部に熱が伝わった。
 温かな抱擁の中で微睡む感覚に似ているだろうか。
 命の息吹がルリからヴァレーリヤへと流れているのが分かる。
 肩を貫通していた傷はゆっくりと閉じて行き、光の泡と共に元の白い肌へと戻った。
「すごい」
「これぐらい、朝飯前なのです。……もう夕方ですが」
 言いながらルリはヴァレーリヤを立ち上がらせる。
 二人の視線の先には、荒い息をさせながら唸る黒い化け物の姿。
「さあ、行ってくるのです」
「ええ!」

 仲間が繋いだ隙をロゼットは逃さない。
「好きな様にはさせないから」
 広がる光翼。黄昏時はその光故に影も又深くなる。
 その中に輝く翼は神秘的な香りを放っていた。
 理力を吸い上げ光を増す光の翼。
 羽が黒き獣の血を啜る。
 白き美しい羽が鼓動に合わせて脈打っていた。
「悪い夢はおしまいにしよう」
 グルグルとうなり声を上げ、ロゼットの羽を払いのけようとするラバス。
 しかし、その腕をロゼットはひらりと躱す。
 東の空に薄らと見える月をロゼットの黄金の瞳が見つめていた。
「明日はいい日になりますように」

 既に終わった事実を変える事は出来はしないのだとベネディクトは眉を寄せる。
 それでも、強敵を前に前へ進むと言うのならば力が必要だろう。
「高みの見物をしている者達にとっては、どう転がろうとも良い見世物なのだろう」
 けれど。ここで倒れる訳にはいかないのだ。
「俺達が彼らにとって、その喉元に届き得る刃である事を教えてやる必要がある。
 それがかつての村人達と、今此処に生きている者へ俺が唯一出来る事だ」
 左手に硬い槍の表面を感じる。
 一度は終わった結末を。有り得なかった物語を。終わらせる願いが宿っているならば。

「――力を貸せ、我が槍よ!」

 栄光の成れの果て。渇望した光。転じるは呪いの矛先。
 けれど。その身に刻んだ願いの数は計り知れず。
 この身と共にあるのならば。再び己が光を指し示せ。

「穿て――アロガンス・レフト!!!」

 閃光と共にラバスの右目に突き刺さったグロリアスペイン。
 ベネディクトの瞳はアリシスへと向けられる。
 自分に続けとその目が語ったのをアリシスは受けとった。
「告死天使は告げる。天空から堕ちて尚、その魂は使命を忘れてはいない」
 アリシスの周りを浮遊する三日月は、銀の光を帯びて彼女の背後に魔法陣を作り上げる。
 陣の周りを光り輝く天使の羽根が舞い落ちた。地面に落ちる度に黒く変色していく光。

「刻め――告死天使の刃」

 アリシスの言葉と共に地に落ちた黒い羽根が低空を走りラバスを穿つ。

 ――――
 ――

 ルークという名前には「光を運ぶもの」という意味があると知ったのは何時だっただろうか。
 不釣り合いだと『アイツ』が笑って、ルチアーノも確かにと頷いたのだ。
 そんなものは自分には似合わないと苦笑したのを覚えている。
 けれど。
「今の僕は、ポラリスという光を見つけた」
 船乗りが真っ暗な海の上で。旅人が真っ白な雪の上で。見上げる空に浮かぶ導きの星。
 そんな彼女を。光り輝くポラリスを。
「希望の未来に運ぶ為に、僕はこの世界に呼ばれたんだろうね」
「ルーク。私ね、初めて夜の獣と対峙した時、すごく怖かったんだ」
 剣檄が聞こえる。屍人のうめき声が聞こえる。黒き獣の咆哮が聞こえる。
 たった一人で、とても弱かった。
 自分の無力に打ちひしがれた。
「でも……! 今は違う」
 共に戦ってくれる仲間が居る。どんなに辛くても挫けそうになっても、支えてくれるルークが居る。
「そうだね。皆に強くなった君の姿を見せて、安心してもらおう」
 ルチアーノは手にした武器を拳銃に変え、死弾を撃ち込む。
 汚らしく咆哮を上げるラバスを見遣り冷酷な瞳を向けるルチアーノ。
「こんな夜の獣なんかに、ポーは負けはしない!」
「うん……うん!」
 ノースポールは胸のポラリスをぎゅっと握りしめる。
 この場所、この時間。黄昏のオレンジが染める色彩。
 ノースポールの花のブローチの真ん中に配されたスペサルティンガーネットの色。
 この場所、この時間。黄昏のオレンジが染める色彩を思えば。いかなる困難にも負けないと。奮い立たせてくれる。忘れる事など出来はしない。祈りの場。
 全てが詰まった。痛みと思い出の大切な色。ポラリスの瞳の色。

「私はもう、負けない――!!!!」

 ノースポールの声に。ルチアーノは目を細める。
 挫けそうになっても。どんなに悲惨な目にあっても。それを乗り越えていける芯の強さ。
 何もかもを諦めて悟ったように優しく振る舞っていた過去の自分。
 そんな自分とは全然違う。その名が表す通りしなやかな花の如く正しき強さで。
 仮面を着けていたルチアーノの心を剥がし、本当の優しさで向き合ってくれたのは彼女だから。
 たとえこの身に変えても。命を掛けて。

「僕が君を守るから! いくよポー!」
「ありがとう、ルーク!」

 二人の力は合わさり、重なっていく。
 光を運ぶルチアーノと。光り輝くノースポールの弾丸は。
 黒き獣の命を粉々に砕いたのだ。


 ノースポールが視線を上げる。
 屍人たちの顔は全員知っている。
 だって、家族だ。村人全員が家族なのだ。
 ごめん。という言葉を飲み込んで、ノースポールは言葉を紡ぐ。
 助けられなかった後悔はもう沢山したから。
 誓いを胸に。

「敵は絶対に取るから……」

 皆、おやすみ。とノースポールは祈りを捧げた。

『――あーん、やられちゃったぁ』

 脳髄に響く声に後ろを振り返るノースポール。
 そのただならぬ表情にルチアーノが駆け寄る。
「どうし……、っ!」
 悪意の気配を感じ取ったルチアーノは本能が告げるまま、その方向へマスケット銃を撃ち込んだ。
 それは牽制だ。こそこそ見物していられるのも、今のうちだということを示すため。
『あぁん! 頼もしい!』
 脳髄に響くネィサンの声に怒りを露わにするノースポール。
 人の命を弄んだ罪を償わせ、悪行を止めてみせると。鋭く、強く睨みつける。

 その様子をアリシスは冷静な瞳で見つめていた。
 ラバスを作った先客が姿を見せないのは、離れた所から非戦等の魔術か何かで、こちらを視ているという所なのだろう。千里眼の類いなのかも知れない。
「何れにせよ。厄介な相手とみていいでしょう」
「そうでござるな。幻とはいえ少々堪える戦闘でござった。次見るなら旨い大福がぽこぽこ出て来る幻にでもして欲しいでござるな」

 アリシスと咲耶の会話の傍ら。
 黒羽とヴァレーリヤは村人に祈りを捧げていた。
「ゆっくりと休んでくれ」
「主よ、どうか貴方の元へと旅立つ魂にどうか慈悲を……」
 たとえ幻だったとしても、かつて何処かで死んでいった魂があったのだ。
 ここで死んだ者達が居たのだ。

 薄れゆく悪意の中にアイザックの視線を感じたルチアーノ。
 紺を孕んだ東の空に。決着の足音が微かに聞こえた気がした。

 四音はカーマインの瞳で微笑む。
 屍人に祈るのと同時に。自分の指先を噛んで、血を使い。
 こっそりと誰にも見つからない様に言葉を記す。
 暗くなって来た村に。小さく嗤う声が木霊した。
「くふ、くふふふ」

 ――とても楽しかったです。また遊びましょう。


成否

成功

MVP

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 思い出の色彩を添えられていたら嬉しいです。
 また、お会いしましょう。

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